俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】   作:秋月月日

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女子の好意は怖ろしい、本当に

 凰鈴音(ファン・リンイン)

 それが、IS学園一年二組に転校してきた中国人少女の名前だった。

 貧乳発言による超高速蹴り飛ばし事件があった日の夜、俺は部屋で一夏と共に彼女の話をしていた。その理由はただ一つ。―――鈴音の情報を得るためだ。

 

「そんで、凰はお前のセカンド幼馴染みって訳、か……幼馴染みにセカンドとかファーストとか、よく考えるよなお前も……」

 

「だってそうだろ? 俺にとってのファースト幼馴染みは箒で、セカンド幼馴染みは鈴なんだ。こればっかりは変えるつもりはないよ」

 

「いや、別に変えろって強要してるわけじゃねえんだけど……」

 

 そのファーストやらセカンドやらという枕詞のせいで、篠ノ之と凰が争ってるのを見たばっかりだからなぁ。一夏は気にしてねえのかもしれんけど、アイツラ本人たちが気にしてるみてえだし……まぁ、俺が口を出すような事じゃねえのかもしれんけどさ。

 って、そんな事よりも凰の情報を得ねえとな。―――今後の俺の平穏の為に。

 

「凰は中国の代表候補生だーって聞いたけど、勿論お前は知らなかったんだよな?」

 

「まぁ、な。鈴とは一年近く会ってなかったし、そもそも俺はIS関係の情報に疎い所があったからな。というか、代表候補生なんて存在もこの学園に入ってから知ったし」

 

「それは常識知らず過ぎだボケ」

 

 っつー事は、ドイツの代表候補生がラウラ・ボーデヴィッヒだっていう事も知らなかったわけか。……いや、それは俺も知らんかったけど、流石に代表候補生っつー存在ぐれえは知ってたぞ? この世界の常識っつっても過言じゃねえぐれえの存在だしな、代表候補生って。

 そんな代表候補生と幼馴染みであるこのバカは、どうやらその重要性を認識していねえらしい。国の宝と呼ぶべき存在である代表候補生と知り合うという事は、その代表候補生によって発生するトラブルに巻き込まれる可能性が出てしまうという事。無論、自分が代表候補生に危害を加える事なんて御法度だ。下手すりゃ国際問題に発展しかねない。

 しかも、俺や一夏は世界でもたった二人しかいねえ男性IS操縦者だ。俺たち二人が行ったことは瞬く間に世界に発信され、最悪の場合、俺たちの立場自体が危ういものとなってしまうおそれがある。

 交友関係も自分自身の立場も曖昧で不明瞭な俺たちは、もう少し周囲への対応に気を遣わなきゃなんねえんだ。

 ―――――だが、そんな事は抜きにして、

 

「あの中国女、流石に突然回し蹴りはヤバすぎんだろ……マジで頭が消し飛んだかと思ったぞ」

 

「あ、あはは……鈴は昔から手が早い所があるからなぁ。特に胸の話で弄るのはご法度だ。俺も昔はアイツに『貧乳』とか『チンチク鈴』とか言って、近くの川に投げ捨てられてたっけ……」

 

「いやいや、そこは懐かしむところじゃねえから。普通にトラウマものだから」

 

 川に投げ捨てられるって……一体どんな怪力をしたらそんな事が可能になるんだよ。相手は同年代の男子だろ? 普通に考えて、自分よりもデカくて重い相手を投げ飛ばしたって事になるんだが……ゴリラか、アイツは新手のゴリラ女か。

 よし、今度からあの中国女は俺の中では怪力女とイコールで結んでおこう。下手な事をしたら即、打ん殴られたりブン投げられたりする、生粋のパワーファイターだ、とな。

 

「ま、鈴はこっちが気を付ければそこまで危険じゃないし、大丈夫だろ」

 

「お前の大丈夫って言葉ほど信用ならねえもんはねえんだけどな」

 

 そんな他愛無い感じで、俺たちの夜は更けていった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 凰鈴音が二組に転入してきてから、一夏が凰を怒らせたり、クラス対抗戦でその喧嘩の延長戦を行ったり、何故か襲来してきたインフィニット・ストラトスと一夏・凰・オルコットが戦ったり――と様々なトラブルが発生したが、俺はなんやかんやで平穏を取り戻していた。え、IS襲撃の時に俺は何をしてたのかって? シャッターのせいで外に出れずに傍観者を気取ってましたよ? だって俺の『シュバルツェア・フォート』って機動性がねえから、連携戦闘には向いてねえんだもんよ…………今、役立たずだと思った奴、表ェ出ろ!

 ……まぁ、そんなコトは置いといて、だ。

 いろいろと騒がしかった一学期も中盤に差し掛かり、遂に暦は六月となった。六月と言えば梅雨が始まる最悪な時期で、度重なる雨によって発生する湿気が徐々に高くなっていく気温と合わさって最悪な蒸し暑さを現実のものとしてしまう――なんとも恐ろしい時期である。そういう俺も、梅雨はかなーり苦手だったりする。

 そして、梅雨時の俺は起床時間がやけに早くなる。これは昔からの俺の特性で、湿気が凄い日は必ずと言っていいほど、通常よりも一時間は早く起きてしまうんだ。貴重な睡眠時間が削れちまうから何とかしたいとは思ってるんだが、この癖だけは一向に治る気配を見せちゃいねえ。……まぁ、もうそろそろ諦めるべきなんかもしれんけどさ。

 そういう訳で、六月某日の朝。

 早起きは三文の得、という昔ながらのことわざに従うように早起きをした俺は未だに寝ている一夏を置いて行き、早めの朝食を摂る為に食堂へと移動していた。

 

「おお、まさかの一番じゃんか」

 

 いつも生徒達が朝食を摂る時間よりも三十分以上も早いせいか、食堂には誰の姿も確認できない。せっせと料理の準備をしている食堂のおばちゃんたちの姿が見えるだけだった。

 俺は券売機で朝食セットの食券を買い、おばちゃんたちに食券を提示する。

 

「あ、おはよう、颯太くん。今日はまた一段と早いんだねぇ」

 

「梅雨時はいつもこうなんスよ。っつーか、おばちゃんたちの方が早ェじゃねえッスか」

 

「あはは。私たちは早起きするのが仕事だからねぇ。――ほら、一番客の颯太くんには、私が腕によりをかけて作った料理をあげるよ」

 

「いや、いつも一緒の料理の癖に何言ってんスか。まぁ、おばちゃんの料理はいつも美味いから問題ねえッスけどね」

 

「お? やっぱり年頃の男の子はお世辞が上手だねぇ」

 

「お世辞じゃねえッスよ。じゃあ、美味しく戴かせてもらいます」

 

「毎度ありー」

 

 毎度あり、って言ってる時点で営業主体じゃねえかよ。なんだ、さっきのも営業スマイルってやつなんか? ……いや、あの人たちがそんな器用な事が出来るとはとても思えんね。さっきのは普通の笑顔で、この料理も普通に作られたもの。そう思っていよう。

 とりあえず窓際の席にポツンと座り、俺は静かに手を合わせる。

 ――と。

 

「む。なんだ颯太、今日はやけに早起きなのだな」

 

「あ、篠ノ之じゃん。おはよー」

 

 制服姿のポニーテール女子――篠ノ之箒がお盆を持って俺の元まで歩いてきていた。お盆の上に載っているのは、俺が注文したものと全く同じ朝食セットだ。この学園の朝食セットは和風と洋食を選べるんだが、俺と篠ノ之は断然和食派だった。

 篠ノ之は迷う事無く俺の向かいの席に座り、「ふぅ」と小さく息を吐く。

 

「先ほど確認してきたが、一夏の寝顔はやはり格別だった。あの寝顔を毎日のように楽しめるお前の境遇が羨ましいぞ」

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って? 俺、別にアイツの寝顔なんて楽しんでねえんだけど。っつーか篠ノ之、また勝手に俺たちの部屋に侵入したんかよ。いい加減にしとかねえと、千冬先生に見つかっちまうぞ?」

 

「大丈夫だ。一夏の寝顔と引き換えならば、居残りや出席簿チョップなど痛くも痒くもない!」

 

 なにこの子、すっげぇ男らしいんだけど。

 やっぱり俺が説教をした時から、篠ノ之はどこか壊れちまったよなぁ。自分の好意を隠さないようになったし、一夏が喜ぶことを研究するようになったし…………あれ、なんか罪悪感がががががが。

 ま、まぁ、篠ノ之が今の状況で満足しているんなら、結果オーライという事で俺も納得しておこう。俺としては一夏と篠ノ之のカップルが一番似合ってると思ってるから、篠ノ之にはこれからもぜひ頑張ってもらいたい。オルコットと凰も一夏に惚れてるみてえだけど、俺は断然【一夏×箒】派です。

 

「そういえば、気になったのだが」

 

「ん? どーした?」

 

 ズズズ、と味噌汁を飲む。

 

「お前と一夏が初夜を終了させた、という噂は本当なのか?」

 

「ぶヴぉア」

 

 IS学園の食堂に、綺麗な虹のアーチが描き出された。

 

「ゲホッ、ゲホゲホゴホゴホッ! い、いいいいいきなり何を言ってるのかねお前さんッ!?」

 

「いや、この間クラスの女子たちが話しているのを耳にしてな。なんでも、お前と一夏がやけに仲が良過ぎるという事から、もしかしたらもう既に最初のハードルを越えてしまっているのではないか―――という噂が出回っているらしい」

 

「この学園の女子の思考回路ってどうなってんのッ!? 何で仲が良過ぎるだけで俺と一夏が付き合ってることになるんだよ! しかも既に経験済みだとか、全く持って意味分からん!」

 

「しかし、お前と一夏の仲が良過ぎるというのは、私も常々思っていた事なんだ。もう少し分かり易く言うならば―――え、ちょっとあの二人怪しくね? と懐疑心を抱いてしまう程、だな」

 

「ただ同性同士だから仲良くしてるだけですからぁっ! それでホモに繋げられるとか、やっぱりこの学園はどうかしてるぜッ!?」

 

「ま、まぁ落ち着け、颯太。周りが何と言おうとも、私はお前が無実だと信じている」

 

「し、篠ノ之……ッ!」

 

 コイツはいつもの様子からは想像もつかねえだろうが、この間の件からなんやかんやで俺に優しくしてくれている。唯一の恋愛相談役として任命されてるからだと思うが、やっぱりこう言った優しい言葉をかけてくれるのは素直に嬉しい。ああ、やっぱり篠ノ之っていい子だよなぁ。

 嬉しさを噛み締めている俺に篠ノ之はニコッと笑いかけ、

 

「だって、一夏は私以外の人間には見向きもしないはずだからなっ」

 

 あ、やっぱりこの子は重症でした。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 篠ノ之のヤンデレ性を目の当たりにしてしまった朝食を終え、朝のHRの時間となった。

 相変わらず一夏の後ろの席に座っている俺は机に頬杖を突きながら先生の話を聞き流し――

 

「(じ――――――――――っ)」

 

「…………はぁぁ」

 

 ―――窓際からワンサマーに熱い視線を向けているモッピーさんに溜め息を吐いていた。

 この篠ノ之という少女、あのキャラ崩壊の翌日から毎日四六時中二十四時間、一夏の事ばかりを見つめている。授業中にまで見つめているから千冬先生の出席簿アタックを喰らわされているんだが、最近はそのアタックを受け止められるほどにまで成長してしまっている始末。恋は人を変えるとはよく言ったものだが、まさか反射神経を底上げさせる事が出来るとは…………俺もラウラに恋をしてっから、なんか性能でも上がんねえかな。

 そんな事をぽけーっと考えていると、脳天に激しい痛みが発生した。

 

「教師が話をしているときに無駄な事を考えるな」

 

「りょ、りょーかいッス……」

 

 千冬先生が構えている出席簿はもはや凶器だと思うんですよね。

 何故か煙が上がっている出席簿を降ろし、千冬先生は眼鏡巨乳の教師・山田麻耶先生へと顔を向ける。

 

「山田先生。ホームルームの続きを」

 

「あ、はいっ!」

 

 ああ、やっぱり山田先生は癒されるなぁ。

 

「ええとですね、今日は何と転校生を紹介します!」

 

 ああ、やっぱり山田先生は突然だなぁ。

 

「しかも二人ですよ、二人! これは大事件です!」

 

 ああ、やっぱり山田先生は面白いなぁ―――って、二人?

 普通、一つのクラスに転校生は一人って相場が決まってんじゃねえのか? しかもこんな時期に同じタイミングで二人の転校生、って……なんか、策謀の裏がありそうで怖いな。

 

「それでは、二人とも入ってきてください!」

 

「失礼します」

 

「…………」

 

 山田先生の嬉しそうな声の直後、教室のドアが開き、二人の生徒が入ってきた。

 そう、二人の女子(・・)生徒ではない。入ってきたのは二人だが、それは男と女が一人ずつ、という形態だった。

 最初に入ってきたのは、金髪と中性的な顔立ちが特徴の少年。男子にしては小柄で、体つきも普通に比べれば若干華奢なように思える。っつーか、コイツ本当に男子か? どこからどう見ても女子にしか……ああ、最近噂の『美少年』ってヤツか。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 その自己紹介を受けて、クラスの女子が黄色い悲鳴を上げ始める。俺の時はそこまで黄色い悲鳴はなかったよな、確か。…………既に入学式からホモ疑惑を植え付けられてっからな、俺。――なんか死にたくなってきた。

 だが、まぁ、俺にとってはこの男子生徒の自己紹介なんて、結構どうでも良いモノだったりする。

 俺にとっての本命は、シャルル・デュノアの次に入ってきた転校生なんだから。

 

「騒ぐな、バカ共。実力行使で静かにさせられたいか?」

 

「み、みなさん、まだ自己紹介は終わっていませんからね~!」

 

 教師コンビによってクラスメートたちが黙らされ、教室が静寂に包まれた。

 

「………………」

 

 そして、二人目の転校生も静寂に包まれていた。……いや、流石に何か喋れよ、お前。

 動揺しているクラスメートたちと呆れている俺の視線を一身に浴びている転校生は、傍にいた千冬先生の視線に気づき、仕方がないといった様子で自己紹介を始めた。

 

「ドイツから来た、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。因みに、このクラスにいる柏木颯太は私の嫁だ。手を出したら殺す、話し掛けたら殺す、触れたら殺す。――――以上だ」

 

『『『……………………はい?』』』

 

 二人目の転校生――ラウラの衝撃的な言葉に、クラスが疑問に包まれる。そういう俺も驚きを隠せてねえ訳で……って、驚きしかねえわこんなもん。

 え? え? なんで、ラウラが俺のことを嫁って呼んでんの? 俺って男だから嫁じゃなくて婿だし、そもそもラウラは俺と仲が良いぐれえの関係じゃなかったの? え、なに、これは一体どういう事?

 予想外すぎる事態に混乱を隠せない俺に気づいたのか、ラウラは相変わらずの凛々しい笑顔を浮かべながら俺に歩み寄り―――

 

「会いたかったぞ、颯太」

 

「んぐぅっ!?」

 

 ―――流れるように俺の唇を奪い去った。

 

 




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 次回もお楽しみに!
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