俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
ラウラ・ボーデヴィッヒがIS学園に転入してきた。
しかもそれだけじゃなく、転入初日に俺のファーストキスを華麗に奪い取ってしまった。
その事実を認識するまでに数秒の時を要した俺は俺と未だにキスを続行しているラウラを引き離し、急上昇している体温に喘ぎながらも声を荒げる。
「い、いいいいいきなり何すんだよラウラッ!? こ、こんな公衆の面前で、き、ききききキスだなんて……ッ!」
自分でも乙女かと思うぐらいに動揺した声。完全に裏返ってしまっていて、心成しか若干早口になってしまっている。というか、身体が熱くて死んじゃいそうです。
あからさまに動揺する俺に、こくん? とラウラは可愛らしく首を傾げ、
「貴様が好きで、貴様を私の嫁にしたいからキスをした。これ以外に何か理由が必要か?」
「い、いや。お前が俺の事を好きだって事実に、俺は驚きを隠せてねえ訳なんだが…………」
まぁ、俺はラウラの事が心の底から大好きだけどな。愛していると言っても過言じゃねえぐれえには、ラウラの事が好きだと胸を張って言える。
だ、だけど、こんなクラスのみんなの目の前でキスをするなんて、流石に恥ずかしすぎるわぁぁぁーっ!
「ああ、貴様がこの事を知らないのも無理はない。何故なら私は、貴様が日本に帰ってしまった後に、貴様へのこの想いに気づいたのだからな」
キラキラキラ、とラウラから溢れ出るイケメンオーラが直視できない件。
何だよコレ、何で俺がときめいちまってんだよ。こういうのって普通、少女マンガで女主人公が学園の王子様に抱く気持ちなんじゃねえのかよ。何で俺がヒロインみてえな心境に陥ってんだよ、意味分かんねえ。
っつーか、何で俺が『嫁』なんだよ。そこが一番よく分からん。
そういう訳で、ラウラさんに聞いてみましょう。
「な、なぁラウラ」
「何だ? 私の嫁」
何で躊躇いねえんだよ惚れるぞバカ。
「さ、さっきから気になってたんだけど、さ。……何で俺が『嫁』なんだ? 普通に考えて、そこは『嫁』じゃなくて『婿』なんじゃねえんか?」
「………………なん、だと……ッ!?」
そのリアクションを今まさにお前に返したい気持ちだよ。
あーもう、これは一体どういう事態だ? 今のラウラのリアクションから察するに、どうやら彼女は誰かしらにこの事を吹き込まれていた可能性が極めて高い。っつーか、『私の嫁』って、それって二次元キャラに対する行為を抑えきれない奴らが言うセリフだと思うんだが。勿論、ラウラは俺の嫁だがな。
俺の指摘を受けたラウラは露骨な動揺で顔を赤くしつつ、
「わ、私の部下であるクラリッサが、『日本では好きな人を嫁にするらしいですよ?』と言っていたんだ。だから私は好きな貴様を私の嫁にするつもりなのだが……わ、私は間違っているのかッ!?」
そう言って、ラウラは涙目であたふたと慌て始めた。
……ふむ、これはあれだな、うん。俺も覚悟を決めねえと駄目な奴だろうな。
そうと決まれば何とやら。俺は慌てふためくラウラの手を優しく握り、自分でも吐き気がするぐらいのキラキラ笑顔を彼女に向け、
「いや、お前は何も間違っちゃいねえよ、ラウラ。俺はお前の『嫁』だ。俺は自分の一生をお前に捧げるとここで誓おう。さあ、ラウラ。結婚式はどこで挙げたい?」
「そ、颯太、貴様、そこまで私の事を…………ッ!」
何だこの茶番、恥ずかしくて死にたくなってきた。
だが、ここまで来たらもう止まれないしやめられない。っつーか、やめるタイミングを失っちまってるから誰か俺たちを止めてください。
「ほら、あの空を見てごらん、マイダーリン。俺たちの結婚を祝ってくれているようだZE☆」
「ああ、そうだな、私の嫁。私たちの幸せな家庭はこれからだ!」
柏木颯太の非リア人生―――完。
……などというエピローグが流れる訳もなく、
「いい加減にせんか、このバカ共!」
「「ふぐべぇっ!」」
未だに独身であるブリュンヒルデ(二十四歳)の渾身の出席簿クラッシュが、俺とラウラの脳天を激しく粉砕した。
☆☆☆
そして波乱(主に俺が主犯)のHRが終わり、俺と一夏とシャルル・デュノアは第二アリーナ更衣室へと移動していた。というか、男子は予め使われていない更衣室を把握しておいて、授業の時になるとそこを利用する、という流れになっている。これがまた面倒臭いんだが、まぁ慣れたよね、いい加減。こんな生活ばっか送ってたら、多少はね……。
朝礼が終わった事で他のクラスからシャルル・デュノア目当ての女子たちが飛び出してきて――というトラブルを何とか自力で脱した俺たち三人は第二アリーナで乱れた息を整えつつ、ISスーツへの着替えを始めた。
――始めた、のだが。
「わあっ!?」
突然のデュノアの驚愕の声。
驚いた俺と一夏は「?」と首を傾げながらもデュノアの方を見る。
「どうかしたか、シャルル? 顔が赤いぞ?」
「っつーかお前、まだ着替え始めねえんか? 授業に遅刻しても知らねえぞ?」
「う、うんっ、それはそうなんだけどねっ!? ちょ、ちょっと悪いんだけど、あんまりこっちを見ないでもらえる、かな……?」
「「???」」
なんだ、人に着替えを見られるのがそんなに恥ずかしいんか? いやまぁ、俺も昔は自分の着替えを見られるのは嫌だったから、デュノアの気持ちが分からねえ訳じゃねえ。きっと、日本に来たてでこの一緒に着替えるという行為にまだ慣れる事が出来ねえんだろう。うん、きっとそうに決まってる。
「ま、デュノアもまだ恥ずかしいんだろうし、ご要望通り、俺たちは向こうを向いてようぜ、一夏」
「あ、ああ。俺は別に構わないけど……」
「あ、ありがとうね、颯太」
「おう。別に構わんよ。これぐれえどうってことねえし」
せっかくの三人目の男子なんだし、優しくしてやらねえとな!
なんだか妙にぎこちない着替えを終えた俺たち三人は、慌てふためきながらも第二グラウンドへと向かった。
☆☆☆
「着替えるだけなのに随分と遅かったですわね、一夏さん?」
「どうしてそんなに時間がかかったのか、説明してもらえるかしら?」
第二グラウンドでまず最初に俺たちを待ち構えていたのは、静かに怒れる修羅コンビだった。というか、待ち構えられていたのは一夏だけだった。俺とデュノアは対象外。良かった、変に恋愛フラグとか立ててなくて本当に良かった……。
「遅い! さっさと列に並べ!」
ばしーん!
……いや、分かってましたよ? 一夏だけが怖い目に遭うんじゃないってことぐらい、俺は分かってましたよ? だってそんなの理不尽だもんね、一人だけ罰が与えられるだなんて。でも、流石にこれは酷いんじゃないかと思うんだ。俺は悪くない、悪いのは一夏一人だ!
「他人に責任を押し付ける暇があったらもう少し早く行動せんか、この馬鹿者」
ばしーん!(本日三度目)
そろそろ脳細胞の生存状況が危うくなってきた気がするんで、ふざけるのはここまでにしておこう。
「一夏たちが来るのが遅かった。そしてそこには颯太とシャルル・デュノアの存在が。こ、これは……禁断の三角関係という奴なのではッ!?」
そろそろ篠ノ之さんの壊れっぷりがヤバい気がする、そんな六月の昼です。
恋する乙女から大胆な恋する乙女へとランクアップし、更にはホモまで許容する恋する乙女へとクラスアップを遂げてしまったモッピーさん。一夏は私以外には惚れない、とか言っていた彼女は一体どこへ行ってしまったんだろう。お願いだから、ちょっと前の彼女に戻って欲しいなっ。
……って、きっと俺が原因なんだろうなぁ。あんな無責任な鼓舞なんてしなきゃよかったよ、マジで。こんな篠ノ之を彼女の姉に見せる訳にはいかんだろうなぁ。
―――と、いう感じでかなーりデカい罪悪感に苛まれていた俺だったが、一組と二組の生徒の列の向かいに立っていた千冬先生の一言で、無駄な思考世界から強制送還されることとなる。
「では、本日から格闘及び射撃含む実践訓練を開始する!」
なんだその凄く嫌な予感しかない授業内容は。
「初めての実戦訓練という事で緊張している者も多いだろう。だから、今日は戦闘を実演してもらう事にする。―――柏木!」
「スイマセン、腹痛の予定が入ってます!」
「そしてボーデヴィッヒ、お前は柏木とペアを組め」
「初めての共同作業という事で、間違いはありませんね?」
「スイマセン、ラウラの顔が怖いんで見学させてください!」
「それと、そうだな……対戦相手はオルコットと凰、という事にしよう。一夏に良い所を見せるいい機会だぞ?」
「「っしゃ、燃えてきたぁぁぁぁぁーっ!」」
「先生、千冬先生ッ!? 俺の助けが聞こえねえんですか、先生ッ!? こんな謎の熱血女子三人に囲まれた戦闘なんて、命がいくつあっても足りませんよッ!?」
「なに、問題はない。お前の『シュバルツェア・フォート』の防御力があれば、ケガはすれども死ぬことはないだろうしな」
え、それって単純に痛めつけられるだけって事なのでは?
「よし、それでは四人とも、ISを起動しろ! 他の生徒達は距離を取っておくように。巻き添えにされても私は一切の責任も取らんからな!」
千冬先生は最低、はっきり分かんだね。
千冬先生の脅しを受け、逃げるように俺たち四人から距離を取るクラスメート達。その中にちゃっかり一夏とデュノアと篠ノ之が混ざっているが、今はそんなことを指摘している場合じゃない。今やるべきことはこの状況からどう脱するか、その一つに尽きる。
とりあえず命を護る為に『シュバルツェア・フォート』を展開する。漆黒の分厚い鎧が俺を包み込み、一秒と経たない内にその姿を顕現させた。『黒い砦』という名を持つ俺のISは地面から数センチの所で、その圧倒的な存在感を放っていた。
そんな俺のISを懐かしむように、既に『シュバルツェア・レーゲン』を着装しているラウラは俺の目を見ながら言う。
「ああ、やっぱり美しいな、その『シュバルツェア・フォート』は。流石は『シュバルツェア・レーゲン』の夫婦機と言われるだけの事はある。まさに私の嫁の専用機にぴったりのISだ!」
何だこの可愛い生物は。あ、いや、ラウラは元から天使でしたっけ?
「ふんっ! そんな防御しかできないISなんて怖れるまでもないわ!」
「そ、そうですわね。以前は不覚を取って敗北してしまいましたが、今回はそうはいきませんわ!」
貧しい胸を張って失礼な事を言う凰と、頬を引き攣らせつつもギリギリの線で強がりを言うオルコット。まぁ、俺と戦ったことがねえ凰が俺を見下すのは分かる。俺だってこんな機体を見たら同じ反応をするだろうしな。……オルコットに関しては、まぁなんというかご愁傷様です。アイツはこの学園の中で一番、『シュバルツェア・フォート』と『ブルー・ティアーズ』の相性が最悪だって分かってるからなぁ。本心として、俺との実践訓練なんて死んでもゴメンなんだろう。まぁ確かに、また負けたら代表候補生としてのプライドがズタボロになっちまうもんなぁニヤニヤ。
―――と、一人でいろんな感想を浮かべていると。
「……貴様ら、誰に向かってそんな口を利いている?」
真横からの、突然の威圧感。
地獄の底から響いてくるようなその声は、俺の隣で浮いているラウラ=ボーデヴィッヒから放たれた。と、というか、なんかすっげぇ怖いんですけど、この子。明らかに額に青筋が浮かび上がってるように見えるんですけどッ!?
ギチギチギチ、と両手を強く握り締めるラウラは眼帯を着けていない方の目――右目で凰とオルコットをギンッッ! と睨みつけ―――
「織斑一夏を先に始末しようと思っていたが、考えが変わった。颯太を馬鹿にする者は、誰であろうとこのラウラ・ボーデヴィッヒが容赦なく殺し尽くしてやる!」
―――ラウラが、キレた。
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次回もお楽しみに!