俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
「織斑一夏。私は貴様を許さない!」
事件は、ある日突然起きてしまった
シャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒが転入してきてから五日後の土曜日、正確には午後の事。
俺はラウラに引っ張られる形でアリーナにやってきていた。勿論、ISスーツを着用してから、だ。アリーナに来た理由はISの特訓がメインなので、ISスーツを着ていないとISの本領を発揮させられない。まずは形から入る、という事だ。
既に『シュバルツェア・レーゲン』を換装していたラウラは大口径レールカノンを肩に担ぎ、相変わらずの軍人然とした表情で俺にこう言ってきた。
「貴様に足りないのは度胸と集中力だ。『シュバルツェア・フォート』が持つ推進力と破壊力によって自信だけは付くようになっているようだが、それ以外の行動では必ずと言っていいほどにタイムラグが発生している。『シュバルツェア・フォート』は機動性には乏しい機体だが、貴様の努力次第ではそこそこの速度を実現する事が可能となっている機体でもある。要は貴様の頑張り次第、ということだな」
「お、おう。頑張るよ」
「口だけではなくまずは行動に示せ。口八丁で実戦は乗り越えられんぞ?」
ここ最近の事で分かったが、俺にISの特訓をしてくれているときのラウラは普段よりもかなーり厳しくなる。口調も理路整然としていて、声色なんかには厳格さが付属されている始末。これが軍人か、と何度思った事だろう。いつもはあんなに可愛いのになぁ……これがギャップ萌えというヤツか。
「ほら、まずはISを換装しろ」「おう!」ラウラの指示を受け、俺は漆黒の首輪に触れる。
一秒と掛からずに『シュバルツェア・フォート』が俺の身体を包み込んだ。
「……ふむ、まだ遅いな。あと0.2秒は早く換装するようにしろ」
「い、いや、そんな無茶苦茶な……」
「全く同じ台詞を戦場で言い放って、敵がわざわざ待ってくれると思うか?」
「…………善処します」
「うん、その意気だぞ颯太。努力する事こそが何よりもの最善策なのだからな」
そう、これがラウラの上手い所だ。
特訓中の約九割は厳しさと体罰で構成されているというのに、残りの一割で見せる笑顔と優しさで俺のやる気をしっかりと出させるように調節している。本人は無自覚らしいが、正直言ってこの飴と鞭は中々に凄いと思う。こいつ、教師とか向いてそうだよなぁ。黒兎隊の隊長みてえだし、人に何かを教える事には向いてるはずだ。……まぁ、コミュニケーション能力が低いのが玉に傷だがな。
ラウラの『飴と鞭』教育によって換装時間を必死に縮めていると、アリーナの別のエリアからこんな声が聞こえてきた。
『す、凄いな。とりあえず、「速い」って印象だ』
『まぁ、ね。弾丸はサイズも小さい事もあって速度は中々のものだし、実際「瞬間加速」よりも速いんだよ? だから、素早い敵にも腕さえ上がれば当てる事が出来るんだ』
『ふぅん……あ、もう一度撃ってみてもいいか?』
『どうぞどうぞ』
俺とラウラから見て五十メートル以上離れた位置で、一夏とデュノアがISの特訓を行っていた。遠目からだから詳細的には分かんねえが、どうやら一夏がデュノアのISの装備である銃を試し撃ちしているみてえだな。ああ、銃かぁ。俺も一度でいいから撃ってみてえなぁ。
―――と、何気ない思考に頭を働かせていると。
「織斑、一夏ぁ……ッ!」
突然の呟き。
驚いた俺が声のした方を見てみると、怒りに染まったラウラが一夏の方をギンッ! と睨みつけていた。その表情はまさに憤怒の一言。どれだけの恨みを持てば、こんな表情ができるのか。少なくとも、平和な日本で暮らしている俺には真似できない表情だ。
「ら、ラウラ。一体どうしたんだよ」
「颯太はここで待っていろ。―――瞬きする間に捻り潰してやる」
「お、おい!」
なにか、ヤバい予感がする。
そう直感した俺はラウラの肩に手を伸ばすが、機動性では『シュバルツェア・フォート』の遥か上を行く『シュバルツェア・レーゲン』は俺の手が届く前に動き出し、凄まじい勢いで一夏の方へと飛んで行ってしまった。
その動きはまさに『黒い雨』。止める事など不可能な『シュバルツェア・レーゲン』は低空飛行で一夏の『白式』へと向かっていく。―――って、こんな淡々と解説してる場合じゃねえ!
「ら、ラウラを止めろ、『シーズアンカー』ッ!」
本体の動きが遅いなら、素早い動きが可能な武装に頼るまで。
俺の指示を受けた『シュバルツェア・フォート』は音声認識システムを作動させ、背部のスラスターの周囲に展開されていたハサミ型のアンカーを射出。ブースターが搭載されたアンカーはラウラの『シュバルツェア・レーゲン』に負けず劣らずの速度で彼女の後を追ってい――
「おい」
「……なんだよ」
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い。私と戦―――ぐが、ぁっ!?」
――俺の操作ミスでラウラの側頭部にアンカーが直撃した。
まさかの展開に静寂に包まれるアリーナ。絡まれた対象である一夏はぽかーんと口を間抜けに開けてしまっていて、彼と一緒にいたデュノアは目を大きく見開いてしまっている。
まぁ、一番驚いているのは俺の攻撃を諸に喰らってしまったラウラであり、俺がやっとのことで彼女の元まで辿り付くや否や、額にビキリと青筋を浮かべて涙目ながらに俺の襟首―――いや、装甲を掴んできた。
「い、いきなり何をするッ!? 死にたいのか貴様はぁっ!」
「ちょ、ちょっと待てよラウラ! ビークールだ、落ち着けって!」
「これが落ち着いていられるか! 私はこの男を殺す! どうして貴様はそれを悉く邪魔をするのだ!?」
「だから、問題を起こすとドイツに強制送還されちまうからだって、何度も言ってんだろ? そんなに一夏と決闘がしてえなら、千冬先生に申し立てをして、アリーナの使用許可を得ればイイじゃんか」
「そういうことではない!」
本当、なんでコイツはここまで一夏に執着するのか。
……なーんて他人事のように思える訳でもなく、というか、俺はラウラ当人から一夏への恨みつらみを聞かされている。なんでも、『教官が大会二連覇できなかったのは織斑一夏の存在があったから。だから私は、教官の偉業に泥を塗った織斑一夏を許さない』―――だそうだ。正直言って、一夏は全く持って悪くはないんだが……人の気持ちはそう簡単に片づけられるもんでもねえしな。
一夏を今すぐにでも殺したいが婚約者(ラウラがこの間言ってた)に止められているせいで動けない、という状態のラウラの頭に手を置き、俺は呆れたように声を出す。
「ったく……少しは頭を冷やせよ、ラウラ。そんなんじゃ『シュバルツェア・レーゲン』の本領が全く発揮できねえぜ?」
「う、うるさい! 離せ、離すのだ颯太! この男は今ここで殺してやらなけれ」
「―――いい加減にしろよ、ラウラ」
突然の、冷たい声。
その声が自分の口から飛び出したことに俺が一番驚きを隠せねえが、そんな事は些細な問題だ。今ここで俺が言ってやらなけりゃ、一体誰がラウラに言うというのだ。ダメな事はダメだと教え、ラウラに常識を学ばせる。これは――俺がやらなきゃならねえことなんだ。
「ひっ」と珍しく脅えているラウラの両肩をがっしりと掴み、俺は彼女に睨みを利かせる。昔から目付きが悪いとはよく言われてきたが、こういう時に脅しを利かせられるから、まぁ目つきが悪くても良かったと思う。……っとと、話が逸れたな。
やけにクールな思考を働かせ、俺はラウラに言う。
「お前が一夏に怒り狂ってるのは分かる。お前がコイツに抱いてる怒りについては、俺もこの前聞かされたからな。――だが、だからといって好き勝手に一夏を殺そうとして良い訳じゃねえ。ルールは守れ、校則を守れ。ドイツ軍にだって、守らなきゃなんねえルールはあるはずだ。お前は、軍とこの学園を区別するのか?」
「そ、それは!」
そう言って、ラウラは悔しそうに俯いた。俺がドイツに行った時もそうだったが、ラウラは自分の行いが間違っているという事には気づけてはいる。気付てはいるんだが、どうしてもそれに抵抗する事が出来ない。
彼女は、俺たち普通の人間とは違う、試験管ベビーだ。
詳しい説明は省くが、ある程度の能力を期待されて人工的に生み出された、人類最大の禁忌とも呼べる存在。人間を人為的に創り出すという、最低な行いによってつくられた人間―――それがラウラ・ボーデヴィッヒだ。
彼女は生まれてからずっと軍で過ごしてきたため、一般常識に欠ける節がある。それは今更後悔しても仕方がない事だから、俺はわざわざ指摘はしない。―――だが、それをこの場で許容できるほど、俺は優しくもないし甘くもない。
だから、俺はあえて心を鬼にする。
ラウラが好きだから、俺はあえて彼女に嫌われてもイイと言う覚悟でこの言葉を言う必要がある。
「少しは反省しろよ、ラウラ。お前は優秀だから、それぐらいの事は簡単にできるはずだ。……そうだ、一夏との決着は学年別トーナメントまで持ち越し、って事にしようぜ。俺も協力するし、一夏もそれなら問題ねえだろ?」
ちらっ、と一夏にアイコンタクトを送る―――戸惑いつつも首を縦に振ってくれた。
まぁ、これで一先ずは大丈夫だろう。ラウラも反省はしたみてえだし、今この場に置ける事件はこれで解決、って事で大丈夫そうだ。
俺はラウラを担いだまま踵を返し、一夏たちから離れていく。本当は『シュバルツェア・フォート』を待機状態にして移動してえんだが、それだとラウラを抑えつけとくことが不可能になっちまうからなぁ……難儀な事だ。
がっしゃがっしゃと音を鳴らしながらアリーナを進んでいく。――と、そこで、俺に担がれていたラウラが犬歯剥き出しで一夏に向かってこう叫んだ。
「織斑一夏。私は貴様を許さない!」
これは、当分の間はラウラから目を離さない方が良いかもな。
そう、この場では決心していたのだが、現実はとても非情なものだった。
この日から二日後の月曜日、正確にはその日の放課後。
先生からの用事で彼女から目を話していた短い間に、ラウラ・ボーデヴィッヒは凰鈴音とセシリア・オルコットのISをフルボッコにしてしまったのだ。
……こりゃあ、本当に四六時中目を離すわけにはいかんなぁ。
そんな悩みに頭が痛くなりつつも、俺たちは遂に学年別トーナメント当日を迎えた。
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次回もお楽しみに!