俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
今日はもうこれで終わり。あー、つっかれたぁ!
さて、今から溜まりに溜まった感想を返そう。これが俗に言う嬉しい悲鳴という奴なのですね。
ラウラ・ボーデヴィッヒと俺が正式に恋人となってから数日後の休日、正確にはその日の朝。
俺は私服姿でIS学園の門の前に立っていた。
「ああ、今日は遂にラウラとのデートの日ッ! お、おかしくねえよな、この服装……?」
半袖の上着に白のシャツ、下には黒っぽいジーンズ……という服装の俺はケータイの液晶画面で寝癖がついてないかどうかの確認をしつつ、ラウラとのデートに胸を躍らせていた。あ、首輪についてはノーコメントでお願いします。こればっかりはどうしようもねえんだよ……ッ!
学年別トーナメント中に起きた事件による怪我からラウラが復帰した後、俺は断られるのを覚悟でラウラにデートを申し込んだ。生まれてからすぐにドイツ軍で育てられてきたラウラが休日を遊びに費やすなんて、全く考えられなかったからだ。
しかし、俺の不安も虚しく、ラウラは二つ返事で了承してくれた。なんでも、「クラリッサから聞いている。デートと言うのは恋人の仲を深める大事な機会なのだ、とな」ということらしい。ラウラに間違った日本知識を植え込むことで俺の中ではかなーりの危険人物として登録されているクラリッサだが、今回ばかりはこう言わせてもらおう。―――クラリッサ、ぐっじょぶ!
今日の天気は俺とラウラの初デートを祝福するかのような快晴で、しかも気温はそこまで高くないという最高のコンディションだ。まさにデート日和、という感じだ。
「くっくっく……今日という日の為に『恋人を飽きさせない百の方法』を読み込んできた俺に死角などないッッ!」
某通販サイトで三ツ星評価だったあの本に間違いはない! 五百ページという膨大なページ数に最初は二の足を踏まずじまいだったが、勇気を振り絞って最後まで読んだんだ。これで俺も恋人を飽きさせない彼氏の仲間入りさっ。
……って、やけに遅いな、ラウラの奴。い、いや、浮足立ってしまっていた俺が集合時間の三十分前にココに来ちまったのが原因か。まだ集合時間まで五分ほどあるし、何も焦る事はない。そう、大事なのは平常心。平常心こそが正義なんだ(意味不明)。
「待てよ? こんな事で焦ってる俺が、ラウラの私服姿に耐えられんのか……?」
ああ、これは由々しき事態だ。IS学園の制服を着ているラウラ、というだけでも悩殺ものなのに、それに私服がプラスされるというこの事態。ああ、神様、貴方は何という試練を俺にお与えになったのでしょうか!
っつーか、ラウラは一体どんな私服を着てくるんだろう? いつもみたいなボーイッシュな格好か? いや、アイツのルームメイトであるシャルロット・デュノアが気を利かせて可愛い服を選んでくれてるかもしれんじゃないか。デュノアさまお願いします、ラウラに可愛い服を着せててください。
そんな事に思考を働かせていると、後方から声を掛けられた。
「ん? 随分と早いのだな、颯太。これは待たせてしまったか?」
「い、いや、別にそんなに待ってねえよ! 俺も今来たところ、だ……から……さ…………」
人生で一度は言ってみたい台詞(第二位)を言ったところで、俺の思考は停止した。
というのも、ラウラが着ているのは可愛い服でもボーイッシュな服でもなく―――
「あ、あの、ラウラ、さん? あなたはどうして制服姿なんでしょうか……?」
「颯太が前に制服姿の私が可愛いと言ってくれたからな。どうだ、可愛いだろう?」
「…………ああ、うん、可愛いよ、ラウラ。可愛いんだけど、さ……」
私服姿のラウラが見たかった。今この場にて、全俺が泣いた。おのれクラリッサぁぁぁああああああああああああああッ!
俺が言っている意味が分からないのか、ラウラは可愛らしく首を傾げてしまっている。くそぅ、どうしてこういう時に限ってクラリッサは無駄な事をアドバイスしてねえんだよ! なんだよ、デートっつったら可愛い服を着るのが常識だろ!? お前の歪んだ日本知識は何でこう、大事なところで本領が発揮されねえんだよッ!?
心の中で血涙を流す俺。――だが、ここで俺は気づいた。
そうだ、考え方を変えてみよう。ラウラは日本に来たばっかで、私服という私服を持っていない。だから制服で来ちまっただけで、彼女に悪意なんてものは一切ない。
さて、ここで発想の転換だ。
ラウラは私服を持っていないと仮定し、この後のデートプランを考える。俺はラウラに可愛い服を着て欲しい。そして、出来ればその服で一緒にデートをして欲しい。
この俺の望みが導き出す、最高のデートプランとは……
「よーっし、ラウラ。とりあえず今から服を買いに行こう。親からの仕送りが無駄に余ってるから、今日は俺がラウラに服を買ってやるよ」
「何を言っているんだ、貴様は? 自分の服ぐらい自分で買える。そこで気を遣う必要など……」
「あーいや、そういう事じゃねえんだよ、ラウラ」
??? とラウラは首を傾げる。
「俺がラウラに服をプレゼントしたい。だから俺がお前に服を買ってやる。つまりはこういう事なのさ」
「ッ!?」
なんだ、その『かるちゃーしょっく!』みてえな驚き様は。お前は鎖国後の日本人か。
何故か衝撃を受けたラウラは俯きがちにぶるぶると震え始め、
「わ、私は、颯太の優しさに気づけていなかった、というのか……? こ、これでは恋人失格ではないか。え、ええい、こうなったらジャパニーズ切腹で命を散らすしか」
「わー! わー! ストップ、お願いだからストップだラウラぁーっ!」
どこからともなく取り出したアーミーナイフを自分の腹に突き立てようとしたラウラを羽交い絞めにする。おおっ、髪から香るシャンプーの匂いは意外と女の子らしい……って、今はそういう場合じゃねえ!
ラウラから命がけでアーミーナイフを取り上げ、俺は彼女を必死に説得する。
「べ、別に俺が言いてえことに気づけなかったからって切腹しようとすることはねえだろッ!? っつーか何で切腹? またクラリッサのせいだとかは言わせねえぞッ!?」
「い、いや、その……失敗をしてしまった日本人は腹を切って詫びを入れるものだ、とクラリッサが言っていたものだから、つい……」
「またもやお前の仕業かクラリッサ! お前は本当にどんな方法で日本知識を収集してんだぁーっ!?」
マジでそろそろドイツに行ってクラリッサをぶん殴ってやらなくちゃいけねえな、冗談抜きで。このままこの暴挙を許しておくと、俺のラウラが非常識且つ間違った文化知識を持つ少女になっちまう。言うなれば、ドジッ娘兼天然少女だ。……うん? 別にそんなラウラでも可愛い、のか? い、いやいやいや、そこは冷静になれ、柏木颯太! ラウラがおかしいのは大体クラリッサのせい! これは間違いないんだ!
と、とにかく、このままここで時間を潰していたらラウラが本当に切腹をしかねない。これはさっさと街に出てラウラの服選びにデートをシフトさせねば。
そう考えた俺はラウラの右手を掴み、街の方へと歩き始めた。
「そ、颯太っ?」
「ん? どうした、ラウラ?」
「い、いや、別に、何でもない…………」
「??? 変な奴だな」
がーん! という音が聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
何故か俯きがちに「わ、私は変なのか……?」と呟いているラウラを引っ張りつつも、俺は街へと移動を始めた。
☆☆☆
颯太とラウラが街へと歩き始めたちょうどその頃、IS学園の正門の陰から彼女たちは現れた。
漆黒の髪をポニーテールにしているのと巨乳が特徴の少女――篠ノ之箒。
夕焼け色の髪とボーイッシュな印象が特徴の少女――シャルロット・デュノア。
イメージ的には似ても似つかない彼女たちは遠くなっていく颯太とラウラの背中を眺めながら、ずっと縮めていた背中をぐぐーっと伸ばした。
「ふむ。まさかラウラが制服で初デートに臨むとはな。お前は何もアドバイスしてやらなかったのか、シャルロット?」
「い、いや、ラウラが起きる前に箒と集合してたから、口出しは出来なかったんだよ。……それにしてもまさか、制服姿でデートに臨むだなんて……これは颯太が可哀想だね」
「ああ、それには同意だ。見たか、先ほどの颯太の表情。あれは、私服を着てくると思っていたラウラが制服だった事にかなりショックを受けている顔だったぞ?」
「今後は僕がちゃんとラウラをコーディネイトするよ、颯太の為にも……」
そこまで会話をしたところで、二人は「「はぁぁ」」と同時に溜め息を吐いた。今回のデートを楽しみにしていた颯太が出鼻を挫かれていた光景を目の当たりにしてしまったら、流石に同情の念も浮かんでくるというものだ。しかも、箒にとっては颯太は貴重な恋愛相談役なため、彼の恋愛はぜひ成功して欲しい所なのだ。え、それは何故かって? それは勿論、成功者からのアドバイスこそが一番信用できるからに決まっている。
「っとと、そろそろ二人の姿が見えなくなってしまうな。それではシャルロット、そろそろ尾行を再開しよう」
「うん、そうだね。ラウラの事もそうだけど、颯太がちゃんとラウラをエスコートできるかも心配だしね」
「私としては二人には是非、ホテルまでのゴールインを決めて欲しいものだな。そしてそれを私が参考にし、一夏とのデートプランに組み込むのだ!」
「あ、あのさ、箒。一夏から聞いていた話と今の君との間にあるギャップに、僕は凄く驚きを隠せない訳なんだけど……」
「ああ、それは仕方がないだろうな。なにせ、私は、颯太のおかげで本当の自分に気づけたのだ。私は一夏が好きだ。だからその恋を成就させるためには手段など厭わない。―――それが今の私、篠ノ之箒だ! もうモッピーだなんて呼ばせない!」
「…………はぁぁ」
僕、こんな強敵と一夏を取り合わないといけないのかぁ。
身近にいたいろんな意味でハイレベルすぎる恋敵に絶望を覚えつつ、シャルロットは箒と共に颯太たちの尾行を開始した。
「って、わたくしの出番はまだですのッ!? かれこれ四話ほど台詞が無いのですがッ!?」
「まぁ、柏木とセシリアってほとんど接点ないしねー」
「り、鈴さんがそれを言いますかッ!? わたくしこれでも颯太さんとバトルしたことがあるのですわよッ!?」
「そのバトルでの敗北のせいで柏木を避けてるから、必然的に出番が無くなっちゃうんじゃない?」
「う、うわぁ――――――んっ!」
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次回もお楽しみに!