俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
ああ、これから慣れて行かんとだな……。
不幸にも制服姿でデートに来てしまったラウラの手を引く形で俺がやってきたのは、IS学園の近くにあるショッピングモール。九割九分九厘方女子であるIS学園の近くにあるという事もあってか、このショッピングモールの中には女性向けの洋裁屋が多く出店している。今が夏直前という事で、モール内には所狭しと水着が陳列されていた。おお、これはかなーり目の毒だな。ラウラに殴られんように気を付けねば。
って、今は水着じゃなくて普通の服を見に来てんだった。水着はまた来週にでも買いに行けばいいだろうし、今はラウラの私服選びに集中しよう。
「なぁラウラ。お前ってどんな服が好みなんだ?」
「そ、そうだな……どんな状況でも戦闘に支障が出ない服がベストだな」
「いや、そういう条件を聞いてんじゃねえんだけど……」
コイツ、やっぱり思考の主体は軍人脳だよなぁ。私服の選ぶ条件にデザインじゃなくて動き易さを求めてくるあたり、特にそれを実感させられちまう。っつーか、今の条件に合う私服ってもはやジャージしかねえんだけど。何で恋人と一緒にジャージを買いに行かにゃならんのだ。
俺は苦笑を浮かべつつも、ラウラの手をぐいっと引っ張る。
「んじゃ、お前の私服は俺が選んでやるよ。女子の好みなんて分かんねえから俺の好みの服になっちまうけど……それでも大丈夫か?」
「むしろ私としてはそっちの方がありがたいな。颯太の好きな服を着ていれば、いつでも可愛いと言ってもらえるのだろう?」
何だこの開き直ったイケメンは。是非結婚して欲しい。
「ま、まぁ、そういう事になる、のかね。と、とりあえず、あの服屋にでも行ってみようぜ」
「了解した」
そう言って俺の右手にぎゅむっと抱き着くラウラにドキッとしつつも、俺は一番近くにあった服屋へと足を踏み入れた。
☆☆☆
「あ! 箒、颯太たちがお店の中に入って行ったよ? 後を追わなきゃ!」
「まぁ待て、シャルロット。今は少しばかり取り込み中だ」
「ええっ!? なんで? どうして? このタイミングで何故に水着を選んでいるの!?」
「ああ、それには私自身も驚いている。しかし、だな、シャルロット。この色気重視の水着と可愛さ重視の水着、どちらの方が一夏を悩殺できると思う? 私としては、この恵まれたボディの本領を余すところなく発揮できるこちらの色気重視の方が良いと思うのだが……」
「どっちでもいいよ! と、とにかく、今は水着選びはやめて、早く颯太たちを追いかけようよ!?」
「うむ、それはお前の言う通りだな。それではシャルロット、しばし待て。――あ、すいませーん! この水着が欲しいんですけどー!」
「ほ、箒ぃぃぃぃ~!」
☆☆☆
俺が直感で選んだ服屋はどうやら当たりの様で、店内には様々な種類の洋服が綺麗に陳列されていた。全ての服が何列にもなっていて、しかも季節ものや種類ごとに綺麗に区分けされている。おお、これは近年稀に見る大当たりっぷりだな。うむ、俺の運もまだまだ捨てたもんじゃねえ。
ラウラを引き連れたまま、とりあえずワンピースが集められている売場へと移動する。―――と。
「ちょっと、そこのあなた。男のあなた」
「あン?」
突然の呼びかけ。ここは店内なのだから客が店員を呼んだだけ、という可能性もあるが、今のはどう考えても俺に向けられた言葉だった。というか、見渡した限り、この店の中に男は俺しかいない。
声がした方を振り向いてみると、そこには俺とラウラよりも先にワンピースコーナーにいた二十代ぐらいの女性が。そしてその女性の足元には―――籠に無造作に置かれた商品の山。
これはもしや……、とある程度の予想が出来たところで、その女は冷たい表情で俺にこう言ってきた。
「この服を元の場所に戻しておいてくれない?」
「は?」
――まぁ、これが今の世の中、女尊男卑の世の中の現状だ。
女性しか扱えないISが全世界に普及したことで、女性の社会的立場は飛躍的に上昇した。それに反比例するように男性の社会的立場は地にまで落ち、こんな公衆の面前で命令をされることなど珍しくもない。まぁ別に俺は慣れてるから良いんだが、問題は……
「この売女、誰に物を言っている……ッ!?」
……俺の傍にいるこの軍人さんな訳で。
目の前の女を今にも殺さんとするような表情を浮かべているラウラにかなーり嬉しくなりながらも、俺は彼女を手で制する。
「まぁ、落ち着けよラウラ。俺は別に何ともねえからさ」
「し、しかし!」
「何をブツクサ言っているの? さっさとこれを片付けてちょうだい」
「あーはいはい。自分の事もまともにできねえから、俺に頼んでんですよね? 分かりました分かりました、今から片付けるんでちょっと遠くに行ってくださいねー」
わざわざ挑発する俺に苛立ったのか、女は少しばかり顔を歪める。
「っ…………あなた、自分の立場が分かっていないようね?」
「そりゃあアンタの方でしょう? 俺はただの客だ、店員じゃねえ。そしてアンタも客だ。客と客は同じ立場、それなのに俺に命令をする? 常識外れにも程があるね。なんだ、アンタは昔から我が儘放題が許されてきたどこぞのお嬢様なんですかー?」
俺の更なる挑発に、店内の客と店員が笑いを噛み殺した。彼女たちも俺と同じ事を思っていたんだろうか? まだこの世界も捨てたもんじゃねえらしい。
しかし、俺の挑発と店内の女性たちの笑いが癇に障ったのか、女は大きく手を振り上げ―――
「そこまでにしておいたほうが身の為ですわよ?」
―――どこからともなく現れた金髪の少女にがっしりと腕を掴まれた。
その少女は、ふわっとした金髪と青いヘアバンド、それとタレ目と豊かな胸囲が特徴の外人だった。その容姿はイギリスのお嬢様の様で、耳につけられている青いイヤーカフスが光を反射して淡く輝いている。
俺への攻撃を止めてくれたその少女は女の腕を握った手に力を込めつつ、
「この方は世界でたった二人しかいない男性IS操縦者の内の一人。このような公衆の面前で国際問題を起こさせたいんですの?」
「こ、こいつが!?」
これでも新聞とかニュースには出たことあんだけどなぁ……悲しい事だ。
「ええ。それで、どうします? その事を知っても尚、この方と争うというのなら―――このイギリス代表候補生、セシリア・オルコットが黙っておりませんわよ?」
「くっ……お、憶えておきなさい!」
「善処しますわ。それでは、ごきげんよう」
我がクラス一のお嬢様であるセシリア・オルコットの脅しに負けた女は悔しそうな表情をしつつも、そんな在り来たりな捨て台詞を吐いて店から去って行った。おお、やっぱり女同士の牽制って怖いな。
店内で不快な思いをした俺たち三人に謝りに来た店員を軽くあしらい、俺は救世主であるオルコットに声をかける。
「いやぁ、助かったよオルコット。お前がいなかったらマジでどうなってたことか」
「これぐらいお安い御用ですわ。ああいう輩は力で分からせるよりも、権力で分からせてあげた方が効果は覿面です。今後もこのような事があった時に、使ってみたらどうです?」
「い、いやぁ、それはなるたけ使いたくねえ手だな……なーんて」
権力で脅すとか、俺は何処の悪役だ。最終的には主人公に討伐されちまう未来しかねえじゃんか。主人公……っつーことは、俺は一夏に倒されんのか。いやだなぁ。
「っつーか、お前もこの店に来てたんだな。なに、ここってお前御用達の店だったりすんの?」
「いえ、別にそう言う訳ではありませんわ。何気なくウィンドウショッピングをしていたら颯太さんの争う姿が見えたので、少々お手を煩わせてもらいました」
「偶然って事か……良かった、本当に運が良くて良かった……」
もしオルコットが来てくれなかったら、「暴力行為を働かれた!」とか言われて有罪確定になっちまう所だった。バカな話だと思われちまうかもしんねえが、今の世の中はそんな事が当たり前のように行われちまう。だから男は一歩退いた位置で社会を生きているんだが……これがまた嘗められる要因な訳で。
一歩退いたら一歩進まれて、逃げれば逃げる程に弱点を突かれて追い込まれちまう。女子ばっかの学園に通ってるから口には出せねえが、女子というのは人の弱点を突くのが上手い生き物だ。しかも、その行為が意外と陰険で極悪。靴を隠されるなんてこと、男だったら誰だって経験してきているかもしれんしな。
そういう訳で、公衆の面前での女との争いはご法度。ほぼ九割の確率で男に勝率はない。……本当、ふざけた世の中だと思う。
「それで、颯太さんたちはここで何をしていらっしゃるんですの?」
「ああ、これはだな」
「デートだ」
はい、不動のイケメン、ラウラ・ボーデヴィッヒさんの登場ですありがとうございます。
何故か俺の腕にぎゅむーっと力強く抱きついているラウラはオルコットに鋭い睨みを利かせ、
「今は私と颯太の幸せな時間だ。先ほどの事は礼を言うが、用が済んだのならさっさと何処かへ行ってくれな」
「―――ラウラ」
「ッ!?」
俺の口から出た冷たい声に、ラウラがびくぅっ! と肩を震わせる。
「貴重な時間を潰して俺たちを助けてくれたオルコットにその言い方は酷いんじゃねえか? 感謝こそすれ追い返すだなんて常識的に間違ってる。俺はそう思うんだが?」
「あ……い、いや、すまない、そういう意味で言ったのではないんだ。だ、だから、その……そんなに怒らないで、欲しい……」
しゅん……と露骨に落ち込むラウラ。
そんなラウラを気遣ってか、オルコットは彼女の頭を優しく撫でる。
「颯太さんは別に怒ってなどいませんわよ、ボーデヴィッヒさん? 颯太さんは社会の一員として必要な事を貴女に教えてくれただけなのですわ。だから、そんなに落ち込む必要はないかと。――そうですわよね、颯太さん?」
「まぁ、な。ラウラはもう少しコミュニケーション能力を鍛える必要があるし、言わなくちゃなんねえことは言ってやらなきゃな。っつー訳で、ラウラ。俺は別に怒っちゃいねえよ。だから、そんなに落ち込むなって」
「うぅ……颯太ぁ……」
ああ、涙目のラウラも可愛いなぁ。今の俺、すっげぇダメな性癖を持ってる人っぽかったけど、まぁラウラが可愛いから許してほしい。この可愛さを前にしちゃ、誰だって平静を保てねえはずだしな。
「それでは、わたくしはこれで。お二人の邪魔はしてはいけないようですし」
「ま、待ってくれ、セシリア・オルコット!」
「はい?」
気を利かせて店から出て行こうとしたオルコットを、ラウラが何故か引き止めた。おお、これはまさか、あれか? ラウラがオルコットと友達になろうとしてるっていう、あの感動の瞬間か? ……カメラあったかな、カメラ…………。
俺が鞄を漁っている傍らで、ラウラはオルコットに声をかける。
「さ、先ほどは私が大人げなかった。そ、それで、だな。謝罪をしたばかりでのお願いで失礼だとは重々承知しているんだが……私の服を共に選んでくれないか? や、やはり、私と同性であるセシリア・オルコットに選んでもらった服を着る方が、颯太を喜ばせられると思ってな……」
「…………」
「だ、ダメ……か?」
ちらっ、と上目遣いをするラウラたんマジ天使。
「いえ、わたくしもボーデヴィッヒさんとは是非仲良くしたいと思っていましたわ。ええ、その頼み、このセシリア・オルコットが承りましょう!」
「ほ、本当か!?」
「はいっ。それではまずは、互いを名前で呼び合う事から始めましょうか。ラウラさんの容姿ですと、やはりこのワンピースが似合いそうですわね。さぁっ、これとこれとこれとこれとこれとこれと……とにかく一通り試着してみましょう!」
「お、おい、オルコッ――セシリア? それは流石に多すぎるのではないか……?」
「何を言っているんですの!? ラウラさんは可愛らしい容姿をしているのですから、全ての服を着てあげないと服が泣いてしまいますわ! ええ、それはもう大号泣する事でしょう!」
「服が泣くのか!? それはいかん……うむ、了解だ、セシリア。どこからでもかかってこい!」
キャーキャーと姦しく盛り上がる二人に苦笑しつつも、俺はそそくさーっと店の外へと移動した。
「あ、颯太さん! これからわたくしの事はオルコットではなくセシリアと呼んでくださいませ! そうすれば、もっと出番が増えるでしょうし!」
「え、何の話?」
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!