俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
展開を進める前に、言っておくッ! 俺は今、ブリュンヒルデの非常識さを、ほんのちょっぴりだが体験した。い、いや……体験したというよりは、まったく理解を越えていたんだが……。
あ、ありのまま起こったことを話すぜ!
ISを何故か動かして流れるようにIS学園に入学したと思ったら、何故かドイツの空港で立ち尽くしていた。
な……何を言っているのか分からねえと思うが、俺も何をされたのかが分からなかった……頭がどうかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……ッ!
そういう訳で、俺inドイツです。やっふぅ。
「まさかIS学園の入学式直後にドイツに来る羽目になるとはな……俺、授業が本格的に始まる日から堂々と旅行しちゃってるけど、果たして単位は大丈夫なんやろうか……」
というよりも、高校二日目から海外留学状態な訳なんだけど。どんだけハイスピードな学園ものだよ、俺の高校生活。どこをどう間違ったらドイツに強制送還されちまうわけ? っつーかこれってもはや左遷だろ、左遷。日本に男のIS乗りは二人もいらないってか!
……まぁとにかく、今はこの状況をどうにかしなければならないので、現在状況を軽く振り返る事にしよう。
千冬先生の部下と思われる黒づくめの集団によってドイツに強制連行された俺は、現在進行形でフランクフルト空港のど真ん中にいる。
なんか回想が一文で終わっちまったんだけど。
「え、嘘。俺って実はそんなにヤバくない状況だったりする……?」
い、いいいいやいや落ち着け、落ち着くんだ柏木颯太! これは立派な誘拐事件だ。普通だったら裁判で勝訴できるぐらいの大事件なんだ。形式上は『ドイツへの留学』ということになってるらしい(離陸前に千冬先生から言われました☆)が、それはあくまでも書類上での話。―――とりあえず帰国したらあの教師ぶち殺す!
と、一人で勝手に盛り上がっていた俺の腹から、雨に捨てられた子犬のような鳴き声が奏でられた。これが意味するのはただ一つ。
「空腹だ。今思ってみりゃあ、機内じゃあ爆睡してたから機内食とか食ってねえんだよなぁ……」
あぁ、そう思いだすとどんどん空腹が酷くなっていく。これはやばい、早く何とかしないと……。
っつーか俺、ドイツの金とか持ってねえんだけど。ドイツの通貨って何だっけ? EUの所属国だからユーロでいいんだったっけ? あーくそ、世界の通貨なんて習ったこともねえぞコンチクショウ。
……って、おりょ?
「何だ? 何で俺の財布がこんなに異常に膨らんでるんだ……?」
違和感を覚えた俺はズボンのポケットから財布を取り出す。――皮の長財布が球体にチェンジゲッターしていた。
「このボディは……よし、今から俺の財布をゲ〇ター3と名付けよう」
一応は防水加工もされてる財布だし、問題はないだろう。色が黒だから全然似てねえけど、そこはあれだ、イメージ力で何とかしてくれ。俺は財布としてゲ〇ター3を持っています。さぁ、イマジン、想像力を鍛える時間です。
って、こんな意味不明な遊びをしている場合じゃなかったな。とりあえずはドイツ観光と行こうじゃないか。今は場所的にフランクフルトだから、タクシーでも借りて市内のホテルにでもチェックインしよう。それぐらいの金はあるはずだ。っつーか、ホテルにも泊まれないぐらいの金しかなかったらマジであの鬼教師ぶっ殺す。
鼻歌交じりで空港を後にし、路上に停まっていたタクシーに乗り込む。
「オーニイチャン、ドコニイキタイ?」
典型的なカタコト外国人を目の当たりにした俺の心境を述べよ。
「え、えーっと……とりあえず、一番近くのホテルまで」
「ソウカイ、AHAHAHA! ニーチャンオモシロイネ! ヒーッ、ヒーッ、ハラカラボタモチ!」
「なにそのことわざの革命児!」
『腹からぼた餅』ってもはやただのホラーだから! 誤った用法の為にことわざが一人殉職しちゃてるから! なんだよもう、ドイツって怖い!
俺のツッコミを受けてさらに五分ほど爆笑した運転手は、顔を真っ赤にしてぷるぷる震えながらもようやっとタクシーを発進させた。今のこの体験からやっぱり思うけど、俺の人生ってやけに難易度高くない? ハードモードとか優に超えちゃってると思うんだけ―――ん?
「な、なぁ、ちょっと運転手さん」
「N☆A☆N☆D☆A☆I☆?」
「溢れ出る星々がウゼェえええええええええええええええええッ!」
いい歳したおっさんが全身をキラキラさせんなよ気持ち悪い! 美少女セーラー戦士と脂ギッシュなおっさんを足して割る二した新人類を想像しちまったじゃねえか! 金に従ってお仕置きよ? って決め台詞が頭からこびりついて離れないィィィィィィ!
っと、気を取り直して、俺は運転手のおっさんにもう一度質問をトライする。
「ひ、一つ聞きてえんだけど……大丈夫か?」
「ナンデモキイテヨ、シャッチョサン!」
ツッコまない、俺はツッコまないぞ……ッ!
「窓は閉めるのがお好きだったカ?」
「いや、別に窓云々はどうでもいいんだけど…………何かこの車、やけに速くね?」
「時速百三十キロは出てるからネ! オレの自慢のマシーンヨ!」
「百三十キロ!? どうりで違和感がすっげぇ訳だよふざけんな! これで事故ったら絶対に重傷or死亡確定じゃねえか!」
「ダイジョウブ、俺たちに不可能はないネ!」
「不可能より先に法律を護れやァァァァァ! ほら今の見た? 車窓から覗く風景がビュンビュン過ぎ去って行ってんだけど! これって新幹線に乗った時ぐらいしか見れない光景のはずなんだけど!」
「新幹線に、オレは勝つ!」
「こういう時だけ流暢な日本語ウッゼェえええええええええええええええええええッ!」
そして今絶対にホテル通り過ぎた! なんか凄く良さそうなホテル通り過ぎたって今! というか、このままフランクフルトを後にしそうな勢いなんですけど!? 俺のドイツ観光が開始数秒でご臨終しそうなんですけどォォォォ!?
と、とにかく今はこの暴走タクシーを何とかしなくては! まだ専用機を貰っていないからこの車を壊して止めることは出来ねえが、運転手を殴り飛ばして運転席をジャックすることは出来るはず。後で裁判沙汰にならないことを祈るばかりだが、今はそんな事を考えている場合じゃねえ! っつーかよくまだ事故らねえな!? 意外と悪運強いぞ俺!
何故か発生しているGに抵抗しつつ、俺は運転席のおっさんの肩に手を伸ばし――
「ヒャッホォォォォ! 風が気持ちいいぜェェェェェ!」
急カーブによって手から滑り落ちる長財布。
「あ」
凄い勢いで後ろに流されていく長財布。
「げ、ゲ〇ター3ィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
所持金ゼロ。
暴走タクシーなう。
常時命の危機。
流されるがままに国外追放された俺のバイオレンスと不遇さによるドイツ観光が、望んでもないのに幕を開けた。
―――と、人生を結構本気で諦めかけた、まさにその時。
ズシャァアッ! という切断音が超至近距離で鳴り響き、気づいた時には俺の身体は空中に投げ出されていた。
「――――え、ちょ……え?」
突如として発生した浮遊感に背筋にゾクゥッ! と寒気が走る。さっきまで俺が乗っていたタクシーは凄い勢いで川の中へと突っ込んでいた。お、オイあれ、あのおっさんは大丈夫なんか……? まさか死んだって訳じゃあ――
『お、俺のスピードについてこられる奴がいるとはナ!』
―――前言撤回。今から俺が殺しに行きます。
なんだよもう、何であの衝撃で墜落しといて五体満足&元気いっぱいなんだよ。ドイツ人って意外と頑丈なのかよ本当に意味分かんねえ。
って、今更気づくことじゃねえかもしれんけど、俺ってそろそろ落下しちまうんじゃね?
ちらっ、と周囲を見てみる。――アパートの六階ぐらいの窓から女性が目を丸くして俺を見ていた。
「ひゃっほぅ相変わらず命の危機だぜ誰か助けてぇええええええええええええええッ!」
なんか凄い勢いで身体が落ちてる! 恐怖心はさっきの比じゃないよ怖いよ助けて千冬先生! って、この状況のそもそもの元凶はあの教師だったやっぱり帰国後ぶっ殺すッ!
両目からボロボロと涙が零れ落ちるのを体感しながら、必死にエアウォークする俺。今ならイケる、今の俺ならこの不可能を可能にできるはずなんだ……ッ!
「――って、やっぱり無理でしたごめんなさい! 出来るだけの事はしたけどやっぱり不可能は不可能のままなんだなって改めて実感しました! 今度からは気を付けます! そして全然勢いが止まらねえよぉおおおおおおおおおおおッ!?」
ああ、そうか。俺の人生はここで終わるんだな。ISを動かしてからなんか凄いハイスピードで人生が終わりに向かっているとは思ってたが、まさか今この瞬間に終わりを迎えるとはね。あははっ、あはははっ、あーっはっはっはっはっは!
「………………恐怖のあまり、気でも触れたか?」
「ははははははは……は、はぁ?」
なんか、銀髪の美少女から凄く同情の視線を向けられてました。
どうやら俺は落下による死亡エンドを迎える事にはならなかったらしい。そして何故か空中でお姫様抱っこされてますよ俺。男なのに、男なのに!
動揺を隠しきれない俺に溜め息を吐き、銀髪の美少女は黒い装甲型機械――インフィニット・ストラトスを操作して地面へふわりと降り立った。おお、コイツは凄い。これは専用機クラスの性能を誇ってるISだな。滲み出るオーラとか格好良さとかで大体は把握できるぞ。はぁぁ、惚れ惚れす――
「ふんっ!」
「ぶべぇぇぇ!」
――初めてのキスは石畳の味がしました。
着地と同時に凄い勢いで地面に投げ捨てられた俺は激しく摩擦された顔面を両手で覆い、顔面を襲う激痛との抗戦をスタート。幸運にも鼻が折れてなくて本当に良かった。アレの治療は痛いらしいからなぁ……っとと、やっと痛みが引いてきたぞコンチクショウ。
絶対に赤く傷だらけであろう顔面を右手で抑えたまま、俺を放り捨てた少女をまじまじと見つめる。
その少女は、人並み外れた美しさを誇っていた。
物語にしか出てこないような長い銀髪は太陽の光によって美しく煌めいていて、右目で輝くルビーレッドの瞳は本物の宝石の様。左目は眼帯で隠されているせいで確認できないが、それを含めてもかなりの美少女だと言える。年齢は十代前半ぐらいだろうか? 幼さが残る顔立ちなのに対して凛々しい印象を与える。
まさに、美少女という評価が最適なほどの少女。
美しい――それ以外には褒め言葉が見つからない程に美しい少女はISを装着した右手を振りかぶり、
「じろじろ見るな。気持ち悪い」
「超理不尽ッ!?」
なんか殴り飛ばされた。
「貴様が柏木颯太か?」
「痛い顔が痛いマジで陥没する…………あ、はい。俺が柏木颯太です。ちゃんと名乗りましたこれからはちゃんとすぐに返事するように心がけるのでどうかその黒光りした腕をお納めください!」
「チッ」
コイツ、千冬先生と同じ性癖の持ち主かッ!?
俺の全力の懇願を受け入れてくれたのか、銀髪の少女は展開していたISを粒子化して仕舞い込んでくれた。よかった、話が通じる奴でよかった……すでに結構攻撃されてるけどさ。
ISに乗っていた少女はビシッと綺麗な敬礼を決め、透き通った声でこう言った。
「私はドイツ軍IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒだ! 織斑教官に頼まれて、ドイツにおける貴様の案内役を務めることになった! 短い期間だろうが、私と共に生活するのだ。弱かったら殺す、弱くなくても殺す! 出来る事なら今すぐにでも殺す! それを覚悟して、私の自己紹介を受け入れろ―――いいなッ!?」
「そう言いながらアーミーナイフ突きつけないでくださいお願いします!」
俺の命を懸けたドイツ滞在は、まだまだ始まったばかりだ。
――――ちょっと泣きそうだけど、専用機の為に俺、頑張るよ!
「ニヤニヤするな、頸動脈を標的に斬り殺すぞ? ああいや、やっぱり眼球から斬り殺そう」
「ドイツ版篠ノ之だよこの人! あ、待って、そんなナイフの切っ先を目に向けちゃ危な―――ッアーッ!」
ドイツで出会った美少女は、殺したがり屋の軍人さんでした―――。
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次回もお楽しみに!