俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
アーミーナイフを背中に突き付けられて強制連行された先は、ドイツ軍の基地だった。え、具体的なエリアは? そんなの目隠しされてたから分かる訳ねえだろうが! ばか! あほ! 死ね!
「無駄口を叩くな。膵臓を引きずり出されたいのか?」
「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
っつーか膵臓ってマニアックすぎんだろ。引きずり出されたらどうなるのか全く予想できねえんだけど。
どこぞの国で『コマンドー』とか呼ばれてそうな強面で屈強な男軍人たちの視線を一身に浴びながら、俺はラウラに腕を引っ張られていく。
『あらやだあの子、凄くタイプ……』
『あの脅えた小鹿のような表情、溜まんねえな』
『おい、今から俺たちであの少年を賭けて勝負をしねえか?』
『上等だ。十秒で終わらせてやる!』
どうしよう。何故か悪寒が止まらない。
「な、なぁラウラ。あの人たちはなんて言ってるんだ?」
「知らない方が良い、というか、私が言いたくない」
「え、いやでも、気になるんだけど……」
「頸動脈と不利益な情報、どっちを選ぶ?」
「やっぱり不利益なのか! だったらいいよ教えてもらわなくて!」
何でドイツ軍基地でもこんな目にしか遭わねえんだよ! マジで俺の人生どうなってんのッ!?
そこはかとなく青褪めているラウラに悲しみの視線を送りつつ、引っ張られるがままに彼女の後についていく。そもそもこれは何処に向かってるんだろうか? 拷問部屋とかだったら全力を駆使して逃亡するんだが……って、あの軍人たちから逃げられるわけないからやっぱり死を覚悟しよう。
日本に残してきたお父さん、お母さん、妹へ。
ISを動かしたことで一躍有名になった俺だけど、織斑千冬という世界最悪のブリュンヒルデによって死地に送り込まれ、彼女の配下であるラウラ・ボーデヴィッヒという美少女に俺は殺されてしまいました。
とりあえず、俺の部屋にある秘蔵コレクションは一夏に全て献上しておいてく――
「おい、着いたぞ。何をぼーっとしている」
「――ハッ! 爪剥ぎだけは勘弁してッ!?」
「何を言ってるんだ貴様は……」
ラウラの冷たい視線にゾクゾクしてしまう俺は変態なのでしょうか?
憐みの視線を送ってくるラウラに苦笑を返し、俺はいつの間にか目の前にあった建物の中へと足を踏み入れる。……お、中は結構広いんだな、この建物。見たところ工場のようにも見えるけど、それ以上に研究室のようにも見えるんだよなぁ。
所狭しと置かれた精密機械の傍では多くのドイツ人たちが忙しなく動いていて、正体不明の電子音が俺の鼓膜を刺激する。屈強な白人が俺に熱い視線を送ってきているのはもちろんの事、巨大なスクリーンに映し出されているのはISのようにも見えなくもな――
「――ってなんかいる!?」
屈強な大男を見逃すところだったよクソッタレ! あんなに熱い視線を送ってきてるのにスルーしかけるだなんて俺の目はデコレーションか!? 常に命の危機に瀕してるんだから少しは働いてくれよ!
度重なる恐怖に既に精神状態がレッドゾーンだが、とりあえず家に帰りたい。ああ、結局一回もIS学園の食堂使ってねえな……俺、あそこの学生のはずなんだけどなぁ。
いきなり目の前に現れていた大男は俺とラウラを交互に見、最終的に俺に満面の笑顔を見せて――こう言った。
「や ら な い か?」
「うわっ、うわぁっ、うわぁあああああああああああああああああああああああああッ!?」
☆☆☆
意識を取り戻してから最初に感じたのは、柔らかい感触だった。
側頭部を温かく包む、やや弾力があるナニカ。軍服特有の感触もあったが、それ以上に俺の心を優しく包み込むような感触がそれを軽く凌駕してしまっていた。なんだ、病室のベッドにでも寝かされてんのか……?
いろいろと疑問を持ちながら、俺はゆっくりと目を開けてみる。
「お。やっと起きたか、颯太」
「」
死を覚悟した。
ラウラの顔が目の前にあって、俺の顔が彼女の太腿の辺りにある。この現実が一体何を証明しているか、流石に分からない俺ではない。というか、分かったからこそ死を覚悟してます。めーでーめーでー。
相変わらずの仏頂面で俺の髪を弄っているラウラには悪いが、どうしてもその綺麗な指が俺の脳髄を引きずり出すための兵器にしか見えません。だってラウラって全身凶器っぽいしな、殺したがりみたいだし。人を殺すことに何の躊躇いも見せなさそうだもんな、コイツ。
そんな感じで恐怖に震える俺だったが、ラウラは少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべ始めた。え、なんで? どうしてこのタイミングでその表情? ――ああ、そうか。ついに俺を殺すから神への祈りを捧げてくれてるのか。意外と優しいんだな、ラウラって。分かった、いいだろう。お前のその気遣い、確かに受け取った。
だから、だから――
「――痛みはないようにお願いします」
「ち、違う! 私はそういうつもりでこんな表情をしているんじゃない!」
へ? 違うの?
先ほどとはどこか様子がおかしいラウラが気になった俺は彼女の太腿から頭を上げ、寝かされていたベンチにそのまま腰かけた。うーむ、こうして横に並ぶと分かるが、やっぱりラウラって中学生初期みたいな体型だよなぁ。さっき聞いたら十五歳っつーんで驚愕したわけだが、やっぱり今も信じられねえや。
もじもじしながら顔を赤くしていた彼女は何度かの躊躇いを経て、意を決したように俺にこんな事を言ってきた。
「そ、その……さっきまでの失礼な態度を、謝罪させてもらおうと思ってな……」
「はい?」
「織斑教官から貴様が日本から来ると聞かされて、私は嫉妬してしまっていたのだ。あの教官が貴様の事を楽しそうに話してきた事に、私は嫉妬してしまっていた。私たちを置いて日本へと帰ってしまわれたあの人が、私の知らない奴を『面白い奴だ』と言っている事が悔しかった」
「まぁ確かに、あの人にしちゃあ俺は面白いんだろうなぁ」
主に人生ハードモードなところが。
「そのせいで、私は貴様に酷い事をしてしまった。本当はまだ更なる仕打ちを用意していたのだが、先ほど貴様が気絶してしまったのを見て、頭が冷えたよ。今の私は貴様に嫉妬して感情のままに暴走している、乳臭いガキと全く変わらない―――という事に気づいてな」
「だから俺にあんな嫌がらせをしていた、と?」
「……ああ」
「自己紹介で脅してきたのは?」
「あっはっは。面白い事を言うな、颯太。アレは私なりの自己紹介だよ」
殴りたい、その笑顔。
「だから、その―――本当に申し訳ない事をした。今更許してもらうのは不可能だと思うが、頼む。どうか私を許してはもらえな」
「許すッ!」
「早ッ!?」
ええッ!? と驚愕しているラウラに俺はニコッと笑顔を向ける。
「ちゃんと自分の行いを反省できてんだろ? それだけで俺は十分だよ。っつーか、今までのは今までので結構楽しめてたから、畏まった謝罪なんて必要ねえよ」
「し、しかし!」
「ああ、いいよいいよ、謝らなくていいって。今回の件はこれでオーケー。ラウラがこの件を水に流すってんなら、俺はお前の事を許そう。―――こういう手打ちの方法じゃ、不満か?」
「………………はぁぁ。私の負けだ、完敗だよ。貴様は本当に変わっているな」
心外だ。俺ほどの常識人は世界中には存在しないはずなのに。
まぁとりあえず、これでラウラとは仲直りする事が出来た。これからドイツにいる間は一緒にいることになるらしいから、険悪なムードが解消されてよかったよかった。やっぱり可愛い娘と仲良くなれるってのは素晴らしいなぁ。
ラウラのおかげでそこはかとなく幸せな気分になれた俺はそれを十分に堪能し、この建物に入った時から疑問に思っている事をラウラに問いかけることにした。
「そういえばさ、ラウラ」
「何だ? 私のバストサイズだけは教えないぞ? あれはトップシークレットだからな」
「知らねえよ」
いや、是非聞きたいんだが、俺が聞きたいことはそんな事じゃない。……バストについては後で詳しく聞かせてもらおう。
「そうじゃなくて、何で俺はここに連れて来られたんだ?」
「ああ、そういえば、まだ何も伝えていなかったな」
すまんすまん、とラウラは手刀を切る。可愛い奴め。
「貴様の専用機が予定より早く完成してな。なるべく早く最適化しておいた方が良いという事で、まず最初に貴様のISをお披露目する事にしたんだ」
「おぉっ、マジで!? もう完成してんのか……流石はドイツだなぁ」
「我が国の科学力は世界一だからな!」
ラウラの後ろに某ゲルマン兵士が見えたのは俺だけではあるまい。
「そ、それで、俺のISはどこにあるんだッ!?」
「まぁ、そう急くな。ほら、あの奥にあるIS。あれが貴様の専用機―――『シュヴァルツェア・フォート』だ」
そう言って、ラウラは部屋の一番奥を指差した。
そこには、漆黒のISが鎮座していた。
まず最初に目を引くのが、両手に取り付けられた武装だろう。ここぞとばかりに巨大なパイルバンカー(盾付属)が装備されている。一目で分かるほどに近接向きの機体だ。あのパイルバンカーはこのISのメインウェポンなのかな?
背部には巨大なスラスターが備え付けられていて、両肩と両腰には丸い楯が装備されている。って、また盾かよ。どんだけ盾が多いんだ、このISは……。
背部をよく見てみると、どうやらスラスターを覆うように四つのアンカーが取り付けられているようだ。これは……敵を拘束するための装備かな? アンカーで相手を拘束し、パイルバンカーで撃ち抜く――という戦闘方法が主流なんだろう。…………どこまで近接攻撃なんだよこのISは(二度目)。
っていうか、
「な、なぁラウラ。俺の見逃しかもしれんからあえて聞くけど……遠距離用の武器が無いように見えるんだが……」
「ああ、一応はついているぞ?」
「だよね! あー、吃驚した。まぁ流石に近接攻撃だけってことはないとは思っ」
「両脚にミサイルポッドがついているだろう? あれがこの機体『シュバルツェア・フォート』の唯一の遠距離用武器だ」
「ねえこれ後付けじゃね? 絶対に『あ、なんか遠距離用のヤツつけとかないと……まぁ、これでいいや』って感じで装備された後付け武器じゃね?」
「まぁ、『シュバルツェア・フォート』は【黒い砦】の名の通り、防御面に性能の九割を向けているらしいからな。武器が少ないのは致し方なかろう」
「防御に九割!? なにそれこれ絶対に機動性悪いじゃん!」
「確かに機動力は低いが、相手からの攻撃に一時間は余裕で耐えられるぞ?」
「その一時間は為す術ねえだろうが! 何だよコレ、相手に近づかなきゃ攻撃も出来ねえじゃねえかよ……」
「ミサイルポッドで攻撃すればいいじゃないか。運が良ければライフルぐらいはダメージを与えられるはずだ」
「攻撃力低ゥッ!?」
まぁ、なんというか、そういう訳で、俺は防御重視の近接機体『シュバルツェア・フォート』を手に入れたのだった。…………やっぱり俺の人生って難易度高すぎるよな、冗談抜きで。
「因みに、『シュバルツェア・フォート』の待機状態は首輪らしいぞ?」
「なんか奴隷みたいで嫌だァッ!」
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次回もお楽しみに!