俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
ラウラとの模擬戦(九割方強制)を終えた俺はドイツ軍基地での夕食を済ませ、基地近くのホテルに移動していた。
「すまないな、颯太。兵士たちの宿舎を一般人に公開するわけにはいかないんだ……」
「ああ、別に良いよ、謝んなくて。俺もこっちの方が気楽だしさ」
元からどっかのホテルに泊まる予定だったしな。ラウラの厚意でホテルを用意してもらっただけで俺は大満足なのです。やっぱりラウラは天使、はっきり分かんだね。
ラウラが用意してくれたホテルの部屋はそこそこの広さを誇っていて、素人目でも中々高級なんだろうなぁと予想できてしまう程の内装が施されていた。とりあえずベッドとソファがフカフカで気持ち良いな。窓からの景色もいいし、最高ですね。
……だけど、ちょっと気になる点もあるにはあって。
「あのさ、ラウラ。一つ聞いてもいい?」
「何だ? 何でも聞いてくれ」
「泊まるのは俺一人だけなのに、どうしてダブルベッドの部屋を選んだんだ?」
「私も泊まるからだが?」
何を当たり前の事を? という風な表情で言うラウラ。なぜそんなに男前なのかを詳しく問い質したい気分だが、とりあえずラウラが可愛いので保留しておこう。ラウラは俺の嫁、異論は認めない。
……待てよ? もし、ラウラが本当に俺の嫁になったらどうしよう? 国籍はドイツになるのか、日本になるのか。婿入りか嫁入りか、苗字はどっちをとるんだろう? ああ、待てよ、最初に式をどうするかを考えなきゃな。ラウラは和風のほうがいいのかな? それとも洋風のウェディングを挙げたいんかな? ラウラのウェディングドレス姿……やべ、すっげぇ見たい。結婚式は洋風で決まりだな。
次に――というか、まずはプロポーズから考えなければならないんじゃねえか? 結婚式だなんだっつーのは、ラウラに結婚を了承してもらわなきゃ始まらねえ問題だ。ああ、どうして俺はそんな簡単なことを失念していたんだろうか。ラウラと付き合ってプロポーズして結婚する――この流れこそが王道的で正統的なものだというのに。
だが、まだここで行動を起こすのはあまりにも早計だ。俺とラウラは知り合ってからまだ一日と経っていねえ。これでいきなり告白するとか、どこの恋愛ドラマかと。『ローマの休日』じゃねえんだから、そんな突然告白するだなんて非常識すぎる。俺が軽い男だと思われるのも癪だしな。俺は一途な男だとラウラに伝えるために、ここは一生懸命にプロポーズまでの流れを練ろうじゃねえか。くふっ、くふふっ、くふふふふふっ。
「??? どうかしたか、颯太。やけに表情が緩んでいるが……」
「大丈夫大丈夫、気にしねえでくれ」
「そう言いながら私の頭を何故撫でる……? ………………まぁ、心地よいから問題ないのだが」
「ぼそっと呟いて誤魔化そうとするラウラは可愛いなぁ」
「ッ!? こ、こういうときだけ鋭いなんて卑怯だぞ! さっきまでぼーっとしていたではないかぁーっ!」
「将来設計をしていたと言ってもらおうか!」
「どういうことだ!?」
あぁ、動揺しているラウラも可愛い。……え、キャラが変わってるって? ほら、よく言うだろ? 『恋は人を変える』って。それと同じさ。俺は、ラウラ・ボーデヴィッヒへの恋心で変わり始めたんだ!
…………というのは冗談で、ラウラのあまりの可愛さにちょっとテンションが上がっちまってたんだよ。可愛いものは正義、って言葉があるだろ? つまりはそういうことなんだ。
とりあえず頭を冷静にするために冷蔵庫からスポーツ飲料を取り出し、ごきゅごきゅごきゅと喉を潤す。冷たい液体が喉を通る感覚で、大分興奮が冷めてきた。…………さっきまでの自分を激しく殴りたくなってきた。
なんだよ、ラウラは俺の嫁、って。お前はどこぞの変態か。少しは冷静に考えてればよかった……あぁ、これは恥ずかしすぎて死ねる!
「こ、今度はどうしたんだ、颯太? 顔を真っ赤に染めてなんかして……」
「ちょっと、放っといてくれ……」
「テンション低ッ!? さっきまでの元気が行方不明にッ!?」
やめろ……さっきまでの俺をぶり返さないでくれ……ッ!
――という茶番が過ぎ去り、俺はベッドの上にごろーんと力なく寝転がった。やはりこの部屋は高級なんだろう、ベッドがちょうど良い力で俺の体を包み込んでくれていた。
「あー……これは程良く眠くなるなぁ……」
「私御用達のホテルだからな! 感謝するが良い!」
えっへん! と子供のように胸を張るラウラが天使過ぎて理性がやばい。
ベッドに手をついたまま上半身を起こし、俺は隣のベッドに腰掛けているラウラに話を振る。
「そういえばさ、ラウラ」
「なんだ?」
「今日の模擬戦で分かったけど、やっぱりラウラって強いんだな。俺の『シュバルツェア・フォート』の攻撃を慣れたようにいなしてたし、俺への攻撃だって全部防御力が一番低い関節部分を狙ってた。こんな芸当、そうそう簡単にできることじゃねえってことは、素人の俺でもよく分かる。それを当たり前のように実現するラウラは、確かにドイツの代表候補生なんだな――って改めて思わされたよ」
「なんだ? 私を褒めても何も出ないぞ?」
「純粋な賞賛だっての」
「…………ま、まぁ、褒め言葉として受け取っておこう。感謝しろ!」
そう言いつつも嬉しそうに頬が緩んでいるラウラはマジでツンデレだと思う。なんだ、こんな可愛い生物がこの世界に存在してもいいのか? 神はこんな暴挙を見逃しているのか? ありがとう、今日からちゃんと信仰させていただきます。
そんな感じで顔を赤くして照れているラウラの姿を脳内保存していると、俺のバッグの中に入っていた携帯電話が突然けたたましい着信音を響かせ始めた。俺の携帯電話は着信音をすべて統一しているので、誰からの電話なのかの判別は不可能となっている。個別に着信音を設定するのは面倒くさいんです。
「ごめん、ラウラ。電話に出ても大丈夫か?」
「当り前だろう?」
ラウラさんマジイケメン。惚れちゃいそう、いやもう惚れてます結婚して!
ラウラの了承に感謝を示しつつ、俺はケータイを通話モードにする。
「はい、颯太です」
《織斑だ。柏木、専用機はもう受け取ったか?》
「………………」
――――プツンッ。
「さ、さぁラウラ、トランプでもしようか!」
「い、いいのか、今の電話を切ってしまって……うっすらと聞こえた声が、教官に酷似していたように思えたんだが……」
「大丈夫、大丈夫だからトランプをしよう! あれは織斑千冬の名を騙った鬼だったんだよ!」
「い、いや、どう考えても本人だっただろうッ!? おい、早く電話をかけなおして謝った方が身のためだぞ? あの人は見ての通り、怒ると――――」
「「怖いッッ!」」
やっべぇ! そう考えてみればさっきの暴挙はあの人の逆鱗に触れちまう恐れがある! 何か大事な用だったんかもしれんし、ここは勇気を振り絞ってもう一度かけなおそう。
ラウラの同情の視線に心を撃ち抜かれつつも、俺は地上界最強の女教師に電話をかけなおす。
「もしもし、颯太です! さっきはいきなり切っちゃって本当に申し訳ございません!」
《謝罪は必要ないぞ、柏木。あと数分で貴様が泊まっているホテルに着く。それまでにこの世界と別れる準備でも済ましてお》
――――ブチッ!
「逃げよう、ラウラ! この場にこれ以上留まってたら世界最強に殺されちまう!」
「いや、私が言うのも何なのだが、颯太の自業自得なのではないか……?」
「はっ? 俺が悪い? なんで?」
「自覚症状なしッ!? どこまで自分に甘いんだ貴様はッ!?」
ハハッ、ワロスワロス。さっきの俺の対応に悪い点など一つもないッッ!
「――って、そんなことはいいんだよ! 謝罪が通用しねえ人類があと数分でここに来ちまうんだ、早く逃げねえとマジで殺されちまうぞッ!?」
「大丈夫だ、颯太。まだ慌てる必要はない」
「ら、ラウラ、お前まさか……」
まさか、俺のために体を張ってくれるというのか? 俺を救うために、あのバーサーカーを説得してくれるというのか? あぁっ、やっぱりラウラは天使だったんだ―――
「悪いのは貴様だけだ。私は何も悪くない」
―――前言撤回。コイツは血も涙もない女だ
「た、たすけっ、助けてくれよラウラ! 俺はまだ死にたくねえ!」
「ええい、縋り付くなみっともない! それでも貴様は日本男児かッ!?」
「かつては同盟を結んでた国同士の仲じゃねえか! 俺の身代わりになれとは言わん――せめて俺の身代わりになってくれ!」
「自分の言い分を一瞬で覆すなぁっ!」
腰にしがみ付いて離さない俺をラウラが全力で剥がしにかかる――が、俺の体は一ミリたりとも彼女から離れようとはしない。命の危機を感じている今の俺の火事場の馬鹿力に勝てるとでも思うたか!
「げっへっへ。死ぬときは一緒だぜ、ラウラぁっ!」
「うわぁあああああああああああああああッ!? これがクラリッサが言っていた《ヤンデレ》というヤツか!? こ、これは想像していた以上に恐ろしい……ッ!」
「とりあえず千冬先生からの攻撃を受け止めてください、お願いします!」
「うにゃぁあああああああああああああああっ!? ず、ズボンを持ったまま土下座をするな馬鹿者ッ!? ぬ、ぬげ、脱げてしま――――ッ!?」
その時のことは、一生頭から離れない。
彼女――ラウラ=ボーデヴィッヒのズボンを掴んでいた俺は、自分の命を守るために全力で土下座をした。それは日本男児ならだれもが通る道であり、俺もまたその内の一人だった。
しかし、その後が誤算だった。
俺が土下座したことによりラウラのズボンが下までずり落ち、彼女の可愛らしい下着が露わとなってしまった。しかも縞パン。これだけは絶対に忘れない。…………これは後に知ることになるのだが、彼女の下着はどうやら彼女の部下であるクラリッサが選んだものであるらしい。クラリッサ、ぐっじょぶ!
俺によって下着を露出させられたラウラは数秒と経たずに顔を紅蓮に染め、
「死っねぇえええええええええええええええっ!」
「待って待って流石にこの至近距離でのレールカノンは防ぎきれね――おおおおおおおおおおおお俺を護れ『シュバルツェア・フォート』ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」
―――その後のことは、あまり覚えていない。
ただ、少しだけ覚えているのは、怒り心頭の千冬先生によって日本に強制帰国させられたことと――
『すぐに日本に行くから、その時は覚悟しておけッ!』
――と嬉しそうな表情で言うラウラ・ボーデヴィッヒの姿だった。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!