俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
改めてそう思いました。
一夏がセシリア・オルコットに敗北した翌日、俺はIS学園のアリーナ・ステージのピットにいた。その目的はただ一つ、新しいISを千冬先生と一夏にお披露目するためだ。
漆黒の巨体を誇る『シュバルツェア・フォート』をまじまじと眺め、千冬先生は呆れたように言った。
「なんだ、この思春期男子のロマンを凝縮したようなISは……?」
「パイルバンカーに絶対的な防御力、かぁ。俺も一回は乗ってみたいな、このIS」
姉は表情をヒクつかせているが、弟はキラキラと目を輝かせている。これが性別の差というヤツだろうか? やはり一夏は俺と同類の存在らしいな。この機体の格好良さに気づくなんて、一夏とはやっぱり気が合うみたいだ。
両手のパイルバンカーを始めとした武装のチェックを終えた俺はトン、と強固な装甲に包まれた胸を叩き、
「ラウラの『シュバルツェア・レーゲン』の猛攻に一時間耐えてみせたISですからね。そう簡単にゃ負けねえっすよ?」
「どんだけ硬いんだよ、それ……」
「だがまぁ、代償として機動性を失っているようだがな。まさに『漆黒の砦』という名前が最適なのかもしれん」
そう言いながら溜め息を吐く千冬先生。やはり俺のISの欠点は戦闘に置いては大きな弱点となるらしい。――だが、その弱点を考慮したうえでの戦闘をすりゃあ、俺にだって勝ち目はある。
……さて、そろそろ行こうか。
移動が不便なので一旦『シュバルツェア・フォート』を武装解除し、徒歩でピット・ゲートへと向かっていく。普通に飛行するのも遅いからなぁ、このISは。動き出すまでのタイムラグの長さと超重量による移動速度の遅さがネックだし、そもそもこのISは一ヶ所に留まって相手を迎撃する砦だ。移動なんて端から考慮に入れられてねえんだろう。……俺、ドイツに嫌われてんのかな?
だがまぁ、このISのおかげでラウラと仲良くなれたのは事実。よって、俺はこのISに好印象しか抱いちゃいねえ。機動性の無さ? 遠距離武器の少なさ? それがどうした、奇を衒え! 予想外の攻撃で相手を翻弄する、これが俺がラウラから学んだ戦術だ!
既に開いていたピット・ゲートを潜る―――というタイミングで、「颯太!」と俺は後ろから声を掛けられた。あえて誰かなんて問うまでもねえ。俺にこんなタイミングで声をかけるバカは、この学園にゃ一人しかいねえからだ。
織斑一夏。
もう一人の男性IS乗りであり、現段階での俺の親友でもあるイケメン野郎だ。
俺は首だけを後ろに向け、一夏と目を躱す。
一夏はニカッと笑顔を浮かべ、たった一言だけ俺に言った。
「負けるなよ」
「はン。当然だっつーの」
そう言い残し、俺はアリーナ・ステージへの一歩を踏み出した。
―――さぁ、俺たちの
☆☆☆
アリーナ・ステージには、既にセシリア・オルコットの姿があった。青い装甲が特徴の機体『ブルー・ティアーズ』を身に纏った彼女はどこぞの王国騎士のような気高さを放っていて、重厚とした俺の『シュバルツェア・フォート』とは全く持って似ても似つかない外見をしていた。手には二メートルを超えるレーザーライフル―――検索、『スターライトmkⅢ』と確認―――を持っていて、周囲には既にビット型のフィン状パーツが浮いている。アレは宙を自由に動き回って俺を狙い撃ちにする装備だな、多分。νガン〇ムのフィン・ファンネルと同じような武装だと考えて問題はねえだろう。
生身で歩いてきた俺を訝しげな表情で見て、オルコットは腰に手を当てながら言う。
「何故、ISを装備していないのかしら?」
「俺のISは特別製でね。ちょっとばかし登場を出し惜しみしなきゃなんねえのさ」
「そのような冗談は聞きたくもないですから、さっさとISを展開してくださいません?」
「…………ちょっとぐれえ格好つけさせろよ」
男の夢だぞ、邪魔すんな!
……だけど、まぁ、このまま無駄な時間を消費するわけにもいかんだろう。アリーナの観客席には一組の生徒達が開戦を今か今かと待ち侘びているし、それ以前の問題としてピットから感じる千冬先生の視線が怖い。さっさと始めろ馬鹿野郎、という無言の圧力が背中にひしひしと突き刺さっている。
止まらない寒気に身震いしつつも、俺は首輪状態になっている『シュバルツェア・フォート』に触れる。
「さぁ、俺たちの籠城戦を始めよう―――『シュバルツェア・フォート』ッッ!」
一瞬。
重厚で強固な漆黒のISが俺の身体を包み込み、地面から数センチ浮かんだ位置で顕現した。その姿はまさに宙に浮かび上がる漆黒の砦。某天空の城を黒くしたような存在感と言えるだろう。あ、いや、やっぱりもうちょっと高尚な感じにした方が良いんかな? 戦艦? 戦車? それとも要塞……?
まぁ、それについては後々考えていけばいいだろう。―――まずは目の前の敵を粉砕するところからだ。
「先攻はくれてやるよ、イギリス女。だから、どっからでもかかってきな」
「フンッ。その余裕の表情、今すぐに絶望の表情に変えてみせますわ!」
――警告! 敵IS射撃体勢に移行。トリガー確認、初段エネルギー装填。
オルコットが銃を構えた瞬間に『シュバルツェア・フォート』が警告音を鳴らした。それは俺の身を護る為に必要な機能だが、このISには全く持って必要のない機能でもある。
だって、この『シュバルツェア・フォート』には―――
「な、ぁっ!?」
――常識外れの防御力が搭載されているんだから。
オルコットが放ったレーザーは俺のISの強固な装甲に阻まれ、微量にしかバリアゲージを減らせなかった。一夏のISはどうだったかは知らねえが、俺のISの防御力は世界一だ。かつてのブリュンヒルデの攻撃にも耐えられる自信がある。―――そんな防御特化のISに、レーザーライフル程度が傷をつけられると思うなよ!
驚きを隠せないまま銃を乱射し始めたオルコットをロックオンし、俺は攻撃のために腹の底から叫びを上げる。
「コイツぁ土産だ、取っときな! 『スプリットミサイル』ッッ!」
『シュバルツェア・フォート』の両脚に装備されたミサイルポッドから八発のミサイルが発射され、上空にいる『ブルー・ティアーズ』に向かっていく。このミサイルには追尾性が搭載されていて、敵に直撃もしくは破壊されるまでその動きを止めることはない。これがビットだったら自分で操作しなければならねえが、この『スプリット・ミサイル』はそこら辺の戦闘機が積んでいる追尾ミサイルと全く同じもの。ミサイルに搭載された機械が勝手に敵を追い、自分で最適なルートを選出する。――ぶっちゃけ、俺が操作するよりも百倍もマシな攻撃なんだ。
「こんな攻撃、効きませんわ!」
そう叫び、オルコットはレーザーライフルでミサイルを次々に迎撃し始めた。流石はイギリスの代表候補生といったところか、射撃の腕はぴか一の様だ。数秒と経たない内に俺のミサイルが全弾破壊されてしまった。
――だが、俺はその前に既に手を打っていた。
ミサイルが破壊される数秒前に、俺は奇を衒う作戦に出ていたんだ。
「今がチャンスだ、『シーズアンカー』ァッ!」
「ッ!? げ、迎撃なさい、『ブルー・ティアーズ』ッ!」
『シュバルツェア・フォート』のスラスターに取り付けてあった四基のアンカーが宙を舞い、オルコット目掛けて突撃を始めた。このアンカーはロープではなく推進エンジンによって行動する特別製で、よって、空中で絡んだり切り離されたりされる心配がない。俺の指示によって動く、絶対追尾の拘束器具だ。
宙を舞っていたオルコットのビット――『ブルー・ティアーズ』が俺の『シーズアンカー』を撃ち落すべく、空中を忙しなく動き回る。しかし俺のアンカーは『シュバルツェア・フォート』と同格の防御力が搭載されているため、ビット程度では破壊する事はおろか損傷させることも叶ってはいない。
よって、俺のアンカーは単純な軌道でオルコットへと迫って行き、オルコットは悔しさを噛み締めながらも空中を忙しなく飛び回る羽目となってしまっていた。
「あはははははっ! さぁ踊れ、俺と『シュバルツェア・フォート』の奏でる
「わたくしの台詞を奪わないでください!」
「じゃあ俺を踊らせて見せろよ! 言っとくが、俺のISはトロ過ぎてダンスには滅法不向きだぜッ!?」
「くっ……!? 本体は遅いくせにぃ……っ!」
それは言うな、悲しくなるから!
「しかし、所詮は素人。こんな目に見えた軌道の攻撃がわたくしに当たるはずがありませんわ!」
――確かに、それはオルコットの言う通りだ。
いくら『シュバルツェア・フォート』の性能が高かろうが、素人の俺が操縦しているという現実は変わらない。無論、俺は武装の操作にも慣れていないため、『シーズアンカー』を始めとした武器の本当の力を六割も引き出せてはいないはずだ。武器があるからただ闇雲に使う―――それが今の俺だ。
だが、そんなのは端から分かっていた事だ。俺はISを貰ってからまだ一ヶ月と経っていないペーパーパイロット。そんな奴がすぐにISの本領を発揮させられるわけがねえ。
しかも、相手は何百時間もISを操縦してきた代表候補生だ。こんなの、普通に考えなくても勝敗は予想できる。このままいけば、時間とバリアーの減少で俺が敗北するのは火を見るよりも明らか。近距離特化の機体が遠距離特化の機体に勝つなど、烏滸がましいにもほどがある。
だが、俺は負けない。
単純に負けたくねえっつー気持ちがあるから、俺は負けねえ。ラウラと再戦するまでは絶対に負けねえと決めたから、俺は負けねえ。男が女に負けるなんて恥ずかしいから、俺は負けねえ。
理由なんて単純でいい。
ただ勝ちたい、そう思ってれば絶対に勝利の星が俺を捕まえてくれる!
「貴方の攻撃の機動は全て読みましたわ! ここからは、わたくしの独壇場とさせていただきます!」
俺の攻撃が届かない位置から、『シーズアンカー』を回避しながら銃撃を開始するオルコット。それはさながら空中を舞う鳥の様で、一瞬だけだが思わず純粋に称賛しそうになっていた。それぐらいに、宙を舞う『ブルー・ティアーズ』は高尚なものだった。
だが、だからといって、勝ちまで譲る気は毛頭ないッッ!
「要は軌道が読めなけりゃいいんだ。だったら―――こんなのはどうだッ!?」
空中を飛行していたアンカーを操作。オルコットの周りを旋回させ、徐々にアンカー同士の隙間を埋めていく。オルコットはその攻撃をも回避するが、俺の狙いはそこではない。
そして、数秒後。
オルコットが最小限の動きで回避したアンカーが別のアンカーにぶち当たり、無理やり軌道を変える形で『ブルー・ティアーズ』をガッチリと挟み込んだ。
「な、何ですってぇっ!?」
お前、驚き方は一級品だな。
大きなカニの鋏のような形状であるアンカーは次々に『ブルー・ティアーズ』へと襲来していき、瞬く間に彼女の動きを完全に阻害。ギチギチと徐々に装甲を挟み潰しながら、アンカーはオルコットのバリアーゲージを徐々に減少させていく。
さぁ、ここからは俺の独壇場だ。
「分の悪い賭けは嫌いじゃねえ。――こういう展開が待っていたりするからなぁっ!」
スラスターをフルブーストさせ、俺はゆっくりと上空に向かって飛翔。推進力を得た『シュバルツェア・フォート』は徐々に速度を増していき、見る見るうちに『ブルー・ティアーズ』との距離を詰めていく。因みに、オルコットのビットは俺の突撃に巻き込まれる形で破壊された。やはり、本人がパニック状態の時には真価を発揮することは出来ねえらしい。
突撃力と推進力を身体に感じながら、俺は右腕のパイルバンカーを振り上げる。
「抉らせてもらうっ―――『シュバルツェア・バンカー』ァァァァァァッ!」
ギィィィンッ! と俺のバンカーがオルコットのバリアーに直撃する。どれぐらいの数値が減らせたのかは分からねえが、オルコットの驚愕に満ちた表情から、大分減少させられたという事が把握できた。――これは、時間の問題だな。
『シーズアンカー』によるダメージと俺の『シュバルツェア・バンカー』によるラッシュで為す術を失くしたオルコットは苦悶の表情で俺を睨みつけるが―――
『試合終了。勝者―――柏木颯太』
―――二分と経たない内に、近距離VS遠距離の勝敗は決した。
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次回もお楽しみに!