俺の日常に平穏が無いのはどう考えてもワンサマが悪い!【完結】 作:秋月月日
セシリア・オルコットとの決闘を終えた翌日、俺は織斑ワンサマーのせいで新たなトラブルに巻き込まれていた。ああ、そうさ。これは俺が原因なんじゃない。俺はただの巻き添えで、ただの被害者だとここに宣言しておく。
生涯二回目のIS戦闘を終えた俺はいつも通りに食堂で朝食を摂り、いつも通りに一夏の後ろの席に座った。朝のHRが始まるまでまだ少しの時間があったんで一夏と何気ない会話をしていたのだが、そこにオルコットと篠ノ之が入ってきたことにより―――俺の平穏は瓦解した。
まぁ、つまり、何があったのかというと―――
「ISランクCの篠ノ之さんが一夏さんを教えるだなんて間違っていますわ。ここはISランクAのわたくし、セシリア・オルコットの出番なのですわ!」
「ら、ランクは関係ない! そもそも、お前だってISランクは“颯太”と変わらないらしいではないか! というか、一夏にISの特訓を頼まれたのは私だ。一夏の世話は私が見る、そう決めたのだ。朝から昼から夜までのオールタイム、私が一夏の面倒を見る、とな!」
「そ、そんなのは間違っていますわ! せめて半日は私に任せていただけないかしら!?」
「私以外に一夏の世話をする奴など必要ない!」
「よーっし、分かりましたわ。それでは第三者の意見として、“颯太さん”の意見を聞きましょう!」
「そうだな、“颯太”の意見を参考にしよう!」
「「そういう訳で、颯太(さん)はどう思う(思いますの)ッ!?」」
―――完全なとばっちりでしたね、本当。
何故か俺のことを名前で呼んでいる二人の事はあえてスルーするとして、とりあえずこの現況を作った一夏をこの手で―――いや、パイルバンカーでぶん殴りたい。何で朝からこんな事に巻き込まれにゃならんのだ……はぁぁ。
ずいっと詰め寄ってくる恋する女子二人に狼狽しつつも、俺は前の席で俺たちのやり取りを見守っていた馬鹿野郎に話を振る。
「つ、つーか、一夏はどう思ってんの?」
「は、何が?」
何が? じゃねえよぶっ飛ばすぞ。
「だから、一夏はオルコットと篠ノ之、どっちに世話してもらいてえんだ?」
「「ッ!?」」
凄い形相で一夏の凝視する女子コンビが般若よりも恐ろしい件。
「うーん、そうだなぁ……別に世話なんかしてもらわなくてもいい、かな」
「空気読めやこのバカ鈍感野郎!」
「ぐぺっ!?」
思わず右手がゴッドフィンガーしてしまった。詳しく言うならば、俺の右手が一夏の顔面を机の表面に叩き付けてしまった。あーくそ、なんでコイツはこんなに鈍感なんだろうか……こりゃあ流石に篠ノ之とオルコットに同情するなぁ。ご愁傷様です。
白目を剥いて口から魂を吐き出してしまっている一夏を捨て置き、俺は篠ノ之に向き直る。
「っつーかお前、一夏に夜這いを仕掛けたんじゃなかったんか? 何でまだそんな位置で頑張ってんだよ、流石に奥手すぎんだろ」
「いや、夜這いを仕掛けたのは仕掛けたのだ。だが、その途中で織斑先生がやって来て…………すまない、これ以上は話したくない」
「マジで何をされたんだよ、お前……」
現代の斬り裂き魔・篠ノ之箒が青褪めた顔でブルブルと震えるって相当だと思うんですが? やっぱり斬り裂き魔じゃブリュンヒルデには勝てなかったって訳か。……マジで人外なんかもしれんね、あの教師。
何故か戦闘不能状態になってしまった篠ノ之から視線を外し、俺は続く形でオルコットへと顔を向ける。
「それで、何でお前まで一夏に惚れちゃってんだよ。何ですか、最近流行りのチョロインってやつですか?」
「ちょろいん? 何ですの、それは……」
「すぐに惚れちまうちょろい系ヒロインってこ」
ビュオンッ! と蒼い光線が俺の頬を掠った。
「何か言いましたかしら、颯太さん?」
「お、おう。べ、別に何でもねえよ、すまんかったな」
「それならいいのですわ。うふふふふふふふふふふふふふふ」
そのニコニコ笑顔に付属されている青筋は一体何なんでしょうかね、オルコットさんや。とりあえずイギリス人のブチ切れってすっげぇ怖い。今度から口の利き方には気を付けよう―――俺の身の安全の為に。
一人が戦闘不能で一人が絶対冷怒という謎のトラブルを発生させてしまった俺は大きく溜め息を吐き、ポケットからケータイを取り出す。
そして電源を入れ、俺は待ち受け画面に登録されているとある写真に意識を集中させた。
それは、俺とラウラのツーショット写真だった。
『シュバルツェア・フォート』を貰った後の模擬戦を終えた俺は、ホテルまでの移動の間にこの写真を撮らせてもらった。絶対に断られると思っての頼みだったが、予想外にもラウラは快く了承してくれたんだ。あの時はすっげぇ嬉しかったなぁ…………ああ、ラウラ、早くIS学園に来ねえかな。
引き攣っているというか慣れない様子の笑顔を見せているラウラの写真に満足感を得ていると、いつのまにか意識を取り戻していたワンサマーが前方から俺のケータイを覗き込んできた。
「なぁ颯太。それが前に言ってたラウラって女の子なのか?」
「ああ、そうだ。すっげぇ可愛いだろ? こんなんでもドイツの代表候補生でさ、俺にISの動かし方を簡単に教えてくれたんだよ。ああそう、ラウラはドイツ軍に所属しているバリバリの軍人でさ、普通の肉体戦闘もなかなか強いんだよ。でも内面は優しくて可愛いモノ好きの普通の女の子でさぁ。それでいて常識知らずってところがまたギャップ萌えって感じで、俺は一日足らずでコイツに惚れちまったんだよ~」
ああ、やっぱりラウラの話をすると止まらなくなるな。これはいかん癖だとは自覚しているが、ラウラの素晴らしさや魅力を伝えるためには二十四時間じゃ足りねえし、これぐれえは見逃してほしい所だ。ラウラ・ボーデヴィッヒっつー天使は俺の嫁、異論は認めねえ。
そして、ようやっと通常状態を取り戻した篠ノ之とオルコットも、一夏と同じように俺のケータイを覗き込んできた。
「この方が颯太さんの想い人なのですか?」
「なんだ、お前はロリコンだったのか、颯太」
脳が震えた。
呆れた、とでも言いたげに肩を竦める篠ノ之。一夏は引き攣った笑みを彼女に向けていて、そもそも篠ノ之が何を言ったのかが理解できていないオルコットは可愛らしく首を傾げている。――というか、気のせいだろうか。クラスの雑踏が綺麗さっぱり消え去っている。
静寂に包まれた教室で、篠ノ之は俺のケータイの画面を見ながら尚も続ける。
「この外見から察するに、十代前半と言ったところか? 多く見積もっても中学生なのは間違いないだろうな。高校生であるお前が中学生ぐらいの少女に恋をするとは…………もう一度言おう、颯太。お前はロリコンだったんだな」
「ち、違う、違いますよ!? 言っとくけど、ラウラはこれでも俺と同い年でしてね!? この外見は、その……他の人よりも成長が乏しいってだけでしてね!?」
「だが、外見は中学生レベル、という事なのだろう? それではやはりロリコンではないか」
どうしよう。反論材料が脳内から消滅した。
「ろ、ロリコンじゃねえし、俺はロリコンじゃねえし! ただ好きになった奴がちょっと、いや、かなり……? い、いや、少しばかり幼さが残る外見をしていただけであって、俺がそんなロリコンなんつー特殊な性癖を持っているわけじゃねえんだよ! そうだ、俺はロリコンじゃねえ!」
「そうか。それならば、きっとお前は貧乳好きなのだな。見た感じ、このラウラという女はそこまで胸が大きくないように見えるしな」
「は? 何言ってんだよ篠ノ之。ラウラは貧乳じゃねえぞ? これは軍服がアイツの胸を圧迫しちまってるだけで、平均女性ぐれえの胸はあるんだよ、コイツは。ISスーツ状態のラウラを見た俺が保証する。――ラウラ・ボーデヴィッヒは貧乳じゃないッッ!」
どっぱーん! と漫画だったら効果音が鳴り響いている事だろう。
『うわぁ……』とクラスメート全員が唖然としている空気に心が深く傷つくが、俺のラウラへの想いを証明するために俺は話をあえて続行する。
「そもそも、貧乳というのはジャンプしても激しく動いても全く揺れる事のない、完全絶壁の胸の事を言うんだ。貧しい胸と書いて貧乳。ラウラは動く際に胸が揺れていたから、貧乳とは言わない!」
「その理論はもっともだが、私やセシリアのような巨乳からしてみれば、このラウラという女の胸は貧乳としか思えない訳なのだが?」
「くっ……これが胸囲の格差社会の上位層に位置するヤツの余裕ってヤツか……ッ!?」
わざとらしく胸を揺らしているところとか、完全な余裕の表れだ。すまんラウラ、IS学園の胸囲社会は厳しかったよ……ッ!
し、しかし、ここで俺が諦めてしまったら一体誰がラウラの胸を護るというのか。ラウラは貧乳じゃなくて美乳なんだ、というこの現実を何としてでもこの巨乳女に思い知らせてやらねば!
俺はバン! と机を叩いて立ち上がり、勝ち誇った表情の篠ノ之に反論する。
「将来垂れる恐れがある巨乳なんかより、美乳のラウラの方が何百倍も魅力があると思うがな!」
「…………ほう?」
ブッチィィッ! という音はきっと気のせいだと思いたい今日この頃。
ゆらぁっとお馴染みバンブーソードをどこからともなく抜き放った篠ノ之は青筋がビキリと浮かんだ顔をヒクヒクと引き攣らせ、その剣先を俺の眉間に素早く突きつけた。
「お前がISを起動して防御に入るのと、私がお前を斬り殺すのと―――どちらの方が早いかな?」
柏木颯太の人生終了のお知らせ。
「ちょっ、待って待って待ってッ!? これは互いにイーブンじゃね!? ちょっと俺、この状況は予想外です!」
「胸が垂れないように私が日々努力しているのを知らずして、よくもあのような事をいけしゃあしゃあと言えたな、颯太……ッ!」
「きゃぁああああああああああああああああああッ!? 現代日本の斬り裂き魔が御乱心だぁーっ!」
何で現代日本の学び舎で命の危機に瀕してるんだろう!? 俺ちょっと、この状況はよく分からない!
「あのラウラという女が貧乳ではないという事は認めてやる。だが、その後の発言は私の許容範囲を超えていた。残念だが―――お前の人生はここで幕引きだ」
「マジなトーンで言うのはやめてくれません!? まぁ、ラウラを貧乳じゃなく美乳だと認めてくれた事には感謝しよう! だけど、流石にここで殺されるのは納得がいきません!」
「…………ふん、冗談に決まっているだろう?」
「何だよ今の竹刀を降ろすまでの謎の間は。そして何でそんなに『惜しかった!』みてえな表情をしてんだよ意味分かんねえよ」
だけどまぁ、とりあえずは命の危機を脱したわけだから良しとしよう。この間から篠ノ之は意外と俺には優しくなったかんな。恋愛相談役としていつの間にか任命されていた俺を殺すわけにはいかねえんだろう。……やっぱり立場って大事なんだね。
竹刀を降ろしたのを確認し、篠ノ之に再び話を振る。
「っつーか、俺が言っといてなんだけど、完全な絶壁女なんてそうそういねえよなー」
「だな。女子というのは赤ん坊を授乳させるためにいくらかの胸のサイズを必要とする。それなのに乳房が無い絶壁状態など―――それはもはや女ではない。【自主規制】がないだけの男だ」
まったく表情を変えずに下ネタ言いやがったよ、この女。
「ま、まぁとにかく、完全な絶壁女なんかがこの世にいるなら、是非見てみてえって気がすんな」
「ああ、それには激しく同意する。貧乳だと言われて本気でキレるような奴が、近くにいれば、の話だがな」
「あははっ。まぁ確かに、この学園の奴らって意外と胸はそこそこあ―――」
それが、その一言が、今回のトラブルを引き起こした元凶だと、俺は後に後悔する。
篠ノ之と話していたはずの俺の側頭部に激しい痛みが走り、気づいた時には教室の壁まで蹴り飛ばされてしまっていた。ズガガガガッ! と椅子を巻き込んで壁まで蹴り飛ばされた俺は、何が起きたのかが全く理解できていなかった。
―――そして、俺は見た。
先ほどまで俺がいた位置に、右足を蹴り上げた状態で立っているツインテールの少女がいるのを。少女の出現は突然で、篠ノ之やオルコット、それに一夏までもが驚愕の表情を隠しきれていなかった。
―――そして、少女は言った。
額にビキリと青筋を浮かべたツインテールの少女は八重歯剥き出しで俺を真っ直ぐと睨みつけ―――
「貧乳貧乳って、あたしをバカにしてんのかこらぁーっ!」
―――その少女は、まさに完璧な絶壁少女だった。
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次回もお楽しみに!