逆行泥鼠は夢を齧る   作:ばろめつ

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お久しぶりです。
構成変えるので今までの話は一旦削除しました(Pixivに旧版残ってます)


メイド・イン・アスラ

リーリャはアスラ後宮の近衛侍女だった。

 

近衛侍女というのは普段は侍女の仕事をしているが、有事の際には剣を取って主を守る職務だ。

 

リーリャは職務には忠実であり、侍女としての仕事もそつなくこなした。

無論、剣士としての職務も非才の身ではあったが、こなしてみせた。

 

そう、あくまで職務には忠実だった。権謀術数渦巻くアスラ王国の中でも更に暗い謀略の場であるアスラ後宮に住まうアスラ貴族というものは腹黒さと同程度に歪んだ性癖の持ち主しかいない。それなりに身持ちの固いリーリャは下卑た眼差しを向けられる度に吐き気を催しながらも、相手を袖にし続け職務を全うした。

 

「おっと、汚れてしまったではないか」

「誘いを断ろうとは、侍女風情が生意気な」

 

ある日、生まれたばかりの王女に対し、暗殺者が差し向けられた。必死の思いで王女を守った末に短剣が足を貫いた。その直後に兵士が追ってきたこともあり、暗殺者は逃げ、リーリャは医者に診てもらったが足はダメになった。本来なら死ぬような毒が塗られていたのだ。生きていただけ儲け物だろう。

 

ともあれ剣士としての能力を殆ど喪失した彼女はお払い箱になった。本来後宮勤めということもあって後ろ暗いことを広められたくない貴族と彼女を気に食わない貴族によって処刑されるはずだったが、守った相手が生後間もない王女ということもあり、解雇で済まされた。

 

リーリャは多少なりとも剣術を食んだ身のため、近衛侍女として取り立てられたが、これ以上死線に立つことなど専ら御免だった。それ以前に前線に立つことなど既に厳しい身となってしまったが。

 

とはいえ人は食っていかねば立ち行かない生き物だ。リーリャは食い扶持のために侍女としての仕事を探すことになり、思い立ったようにフィットア領ブエナ村の下級駐在騎士であるパウロ・グレイラットの元に向かった。

 

彼女にとってパウロという名は幼い頃の苦い思い出として脳にも刻まれている。己の乙女は喪ったが、もし後宮勤めの最中に襲われでもしたらなど、考えたくもなかった。

 

乗合馬車で揺られる中、リーリャは考える。

 

見えない顔

 

───アスラ王国フィットア領ブエナ村に向かいなさい

 

白い影

 

───パウロ・グレイラットという男が侍女の仕事を出している

 

 

 

───彼は君に多少なりとも思い入れがあるはずだ

 

 

───きっと悪いようにはならないだろう、むしろ大きな幸せが待っているはずさ

 

 

夢のお告げを信じ、リーリャはブエナ村に向かった。

これはきっと天啓なのだろうと思いながら。

 

─────────────────────────

 

この後は特に語ることもない。パウロからは謝罪を、ゼニスからは歓迎され、そのままゼニスは出産し、子供はルーデウスと名付けられた。

 

ルーデウスは不思議な子だった。まず普通の赤子よりも数倍軽かった。ともすれば未熟児を疑うほどには軽かったが、生後間もなくそこらを這いずりまわり、泣きもせず、乳を欲しがればゼニスに抱き着き、粗相をすれば気まずそうな表情で顔を逸らすような子だった。

 

お告げの話もあってか無論目は離さなかったが、おとなしい子なのか外どころか居間から出ていくことはなかった。時たま椅子に上り、窓から外を眺めていたかと思うと目を瞑りそのまま寝転びそうになっていることもあった。

 

ルーデウスは普段ふてぶてしい表情をしているものの、リーリャやゼニスをじっと見つめ、声も出さずに泣くことがあった。当初はどこかでケガをしたのかと、注意深くルーデウスのことを見ていたが、薪で手遊びをするばかり。リーリャにとってはむしろ『らしさ』を感じるのでこちらの方がずっと安心できた。

 

半年が経った頃、とても寝づらい夜の日だった。フィットア領は丸一年涼しい気候が続く地域だ。気温ではなく、己の裡から生じる熱に悩まされ、不届きながらもパウロとゼニスの情事を眺め、己を抑えていた時に、視線を感じた。はじめ、気のせいかと思って無視していたが、随分と長いこと視線を感じたため、不届きものが入り込んだと思い視線を向けた。

 

そこにはルーデウスが居た。とてつもなくいたたまれない表情をしたルーデウスが。生後半年の幼児がそんなことを理解しているはずもないが、あのルーデウスだ。急いで抱き上げベッドに入れた。その日は眠れなかった。

 

翌日からルーデウスは居間からパウロの書斎に籠るようになった。ゼニスは本を開いて眺めるルーデウスを可愛がっていたが、つまりはそういうことなのだろう、『お告げ』の通りだ。気まずさや恥じらいを感じ取れるだけの知性が既にあったのだ。

 

 

───彼とその妻の間に子供が生まれる

 

 

───名前はルーデウス、将来はとても優秀な魔術師になる男の子だ

 

 

───その優秀さのあまり早くに頭角を現しすぎて、彼は若いうちに命を狙われるだろう

 

 

───だから『7歳』になるまでは決して外に出してはいけないよ

 

 

二か月は放置されていたはずの水に濡れた桶、知らない誰かを模した石の人形、板材に刻まれた焼き印、つまりはそういうことなのだろう。これではあまりに早く頭角を現し過ぎる。

 

故に、如何にルーデウスの望みであっても

 

「旦那様、いけません」

 

「リーリャ…?」

 

ルーデウスを、外に出してはいけないのだ

 

「ルーデウス様に、家庭教師は不要でしょう」

 

「え…?リーリャ…?」

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