深海棲艦のほっぽが主役です。
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ほっぽの願い | 暁の瑞雲 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18974721
「ほっぽっぽー、ほっぽっぽー、鈴がナルー」
ほっぽは、深海棲艦。
でも幼くて、何故艦娘達と戦っているのか、さっぱり分かりません。
定期的にほっぽのいる海域には、綺麗なお姉さん、可愛いお姉さん、ほっぽと同じくらいの子、あるいはもっと小さい子がやってきます。
出来れば仲良くしたいのに、いつも喧嘩になってしまいます。
「何かクレルの? 遊んでクレル?」
「行かないで! 遊ぼうヨ!」
そう言いたいのに、口から出る言葉は
「カエレッ!」
「レップウオイテケ」
など、気持ちとは裏腹な言葉。
身を守るために仕方なく飛行機や弾を撃ったりしますが、本気ではありません。
何度かやり取りはしますが、言葉は通じず、いつも泣きながら棲家に帰るのです。
今日も戦いの最中に、ほっぽが泣き出してしまったのを見て、艦娘のお姉さん達は悲しそうな顔をして、ほっぽの横を通って行きました。
「ほっぽ、本気で戦わないと、いつか沈んじゃうわヨ」
ほっぽのお姉ちゃんは身体も大きくて、頭も良いからあの人達と戦うんだよね。
でも、ほっぽは戦わなくていいでショ? ほっぽはずっとそう思っていました。
その想いが叶う日は、ある日突然訪れます。
停戦、そして和平条約の締結。
深海棲艦だけが暮らせる海域の設定、そして不可侵条約が結ばれたのです。
もう戦わなくてもいいんだ! ほっぽは、艦娘のお姉さん達、あとほっぽと同じくらいか、小さな艦娘の子達と、すぐに仲良くなれました。
もちろん条約どおり交易船に乗っていく時にしか会えないルールでしたが、嬉しくて楽しくて、ほっぽのお姉さんに内緒で鎮守府に遊びに出かけるようになるには、それほど時間はかかりませんでした。
「お! ほっぽちゃんか! また来ちゃったか。黙って来たらダメだろう。怒られてしまいまちゅよー」
大きな艦娘のお姉さんはナガトさん。
「ほらほら、こっちきて。飴ちゃん、いる?」
こっちはムツさん。
その他、色んな艦娘達が、いつもほっぽを可愛がってくれていました。
そんなある日
「ほっぽーい!」
ほっぽの名前みたいな口癖のユウダチという名前のお姉さんが、街に連れて行ってくれました。世間ではやがてクリスマスの時期だそう。
煌びやかな街を見て、興味津々なほっぽに、この国の季節行事としてのクリスマスの事をユウダチが教えてくれます。
良い子にしていたら、サンタさんがプレゼントをくれる、小さい子はそれを楽しみにしているんだと聞きました。
ほっぽは、随分と大きくなったし、色々勉強もしたから、プレゼントを贈るサンタさんの役割だなって、その時思いました。
街を歩きながら、ユウダチさんは、色々な物を食べたり飲んだりさせてくれて、帰り際にはお揃いの花の形をしたキーホルダーを買ってくれました。
「ほっぽい、キーホルダーはポシェットにつけておくから、なくしちゃダメっぽいよ」
コクコク頷くほっぽの頭をユウダチは優しく撫でてくれました。
鎮守府への道すがら、親を亡くした子らが入所していると言う施設の前を通ると、塀の向こうから叫び声が聞こえます。
「なんで、サンタさん来てくれないの?」
「光ちゃん、サンタさんはずっとプレゼント持って来てくれているでしょう」
「嘘だ! 欲しいものずっと願っているのに、くれないじゃない!」
そんなやり取りが聞こえます。
「欲しいプレゼント貰えなかったぽいねー」
ユウダチがそんな事を言っていましたが、そのときほっぽはあることを思いつきました。
「ほっぽ、また鎮守府?」
内緒で棲家を出ようとしていたら、ほっぽのお姉さんに見つかってしまいました。
「鎮守府ならいいけど、人間の街には絶対に行ってはダメよ。彼らは善にも悪にもなる。その悪は、私達を滅ぼすわ」
コクコク頷くほっぽに、「約束だからね」
そういって、他の深海棲艦たちに見つからないように見送ってくれたのです。
「提督、深海棲艦生息域から入電です」
その日の秘書艦 大淀が提督に断りを入れてから受話器を取る。
「はい、はい、提督ですか? 分かりました。少々お待ちください」
「提督、港湾棲姫さんからです」
大淀が受話器を手渡すと、吸っていたタバコをもみ消し、またかと言った表情で受話器を取る提督。
「はい、こちら提督だ」
「いつもお世話にナリマス。ほっぽがそちらに行きました」
「またかい?」そう言いながらも綻ぶ提督の顔。
「はい。あとナガトに代わってもらえますか?」
「ああ、少しだけ待っていてくれ」
提督は、保留音にして受話器を置き大淀に長門を呼ぶように指示すると、もう一度煙草に火をつけて紫煙を燻らせる。
「ふーっ……。あの戦いが、まるで嘘のようだ」
戦いで帰ってこなかった艦娘もいる。深海棲艦だってかなりの数の命が消えたはずだ。
輪廻転生というのか、艦娘に生まれ変わる者もいたが、そのまま消えた深海棲艦の数の方が多いだろう。あの時代の船、名もなき輸送艦などは顕現したくとも人々の記憶にないから、そのまま消えたのだと思うと悲しくなる。
「コンコン」
「入れ」
「戦艦長門、失礼する」
「ああ、長門、港湾からまた電話だぞ」
「うむ。大淀から聞いている。失礼する」
そう言い終わるが早いか、長門は受話器をひったくるようにして取る。
「長門だ」
「ナガト、またほっぽがお世話になります」
「ああ、姫、ほっぽは任せておけ。しかし、あれだ。ほっぽは、知識の吸収が早いぞ。君たちの中で一番頭がいいんじゃないか?」
捲し立てるように饒舌になる長門を呆れたような目で見やると、提督は席を立つ。
「長門、私の席に座ってゆっくり話せ。私は間宮で時間を潰してくる」
電話代が相手持ちとはいえ、いつものように長くなるのだろうと予想した提督は長門にそう告げると、執務室を出ていった。
「ほっぽっぽー、ほっぽっぽー、鈴がナルー」
この前、プレゼントが欲しいと言っていた子が住んでいたところは、確かこのあたりだったはず。キョロキョロしながら周りを見渡しても違いが分からないほっぽは、困っていました。
1時間くらい歩いたでしょうか?
「光ちゃん!」
光、光? あっ、もしかして!?
声のした方を見ると、女の子が泣きながらこっちへ駆けてきます。
「どうしたノ?」
声をかけようとしましたが、もの凄い勢いで駆けてくるものだから、ほっぽの足は竦んでしまいます。
「ドンッ!」
「痛ーい!」
ほっぽが避けられず、女の子と激突してしまったので、互いに転んで尻もちを突いてしまいます。
「前を見て歩かないト、アブナイ」
なるべく優しく声をかけたつもりでしたが、女の子はきつい言葉で反論します。
「あんたが避ければいいじゃない!」
「だって、ほっぽ、びっくりして動けなかっタ」
「あんた目が見えるでしょ! 私なんて何にも見えないんだから! あんたが悪い!」
よく見ると、女の子の目はほっぽを見ていません。
「はぁっ、はぁっ、ごめんなさいね。こ、この子、生まれつき目が見えなくて」
後から追いついてきた女の人は白い杖を持っていました。
「ほら、光ちゃん」
「うるさい! うるさい! 杖おいてどっか行って! 私、この子と遊んでくるから!」
「ダメよ。今日はクリスマスだから、人が多くて危険。サンタさんも来てくれるから」
「ヤダ! 帰らない。嘘つき」
女の子は必至で抵抗しますが、大人の人にはかないません。そのまま施設の中へと連れ戻されてしまいました。
「目がミエナイ……」
ほっぽが、艦娘のお姉さんたちと戦っていた時に見た色んな海の生き物たちや綺麗なオーロラ、仲良くなってから見てきた美味しいもの、綺麗なもの、色んなもの。
「生まれつき、ミエナイ」
そうか、あの子は……。あの子が欲しいものはもしかして……。
そう思ったほっぽは、施設に入れないか周囲を確認してみます。
「あっタ!」
壁の一部の板塀が剥がれて小さい子ならくぐれる位の穴が開いています。
「よいしょっポ」
穴を潜り抜けようとしたら、ポシェットが引っかかってしまいます。
「んショ!」
カシャン! 力いっぱい引っ張ると、上手く外れてくれました。
「よし!」
あの子を探そう。そう決意して施設の中をそろりそろりと慎重に探っていきます。
ひとつめ、ふたつめ、みっつめ、同じような部屋が並ぶ施設をベランダから覗いていくと……。
「いタ!」
あの子です。やっと見つけました。
ほっぽは深海棲艦なのでベランダを乗り越えるくらいへいちゃらです。
「ぽ?」
窓を軽くコンコンと叩きますが、女の子は気付きません。
「ぽっぽ!」
もう一度、今度は強めに窓を叩きます。
「誰? サンタさん役の人? 今年は凝ってるわね」
そう言いながら、女の子は窓を開けてくれました。
「ほっぽ、キタ!」
「あなた、さっきの子?」
「ウン! お前、目がミエナイ、見えるようにナリタイ?」
ポシェットから、必要な道具を探してガシャガシャしていると、
「そうだよ! でも見えるようになるわけなんてない! あんた、私をからかいに来たの? ふざけないで!」
叫びながら女の子はほっぽをバシバシと叩きます。
「全然、痛くナイ。大丈夫だかラ、ちょっとマテ」
抵抗もせず、叫びもしない冷静なほっぽに、女の子も少し落ち着いたようで、呆れたように答えます。
「まぁいいわ。大人に散々騙されてきたんだもの。少しくらい遊んであげる」
「あった!」
以前、自分たちが人と艦娘と戦っていた時に、深海棲艦が使っていた修復ゲル。
体の一部分が損傷した時、人間の死体の一部を当てがってこれを使うと、すぐに馴染んで元のように戻った薬。
その効果を信じるのなら、深海棲艦の身体を人間に繋いでも治るはず。
「ちょっと痛イ。我慢シロ」
まずは自分の右目に指を突っ込んで取り出します。
そして……。
「ひぎゃあああ!!!! 痛い! 痛いぃぃぃぃ! 何するのあんた!!」
ほっぽが女の子の右目を抜き取り、素早く自分の目と入れ替えてから、修復ゲルをかける過程で、女の子が物凄い声で叫びます。
「どうしたの? 光ちゃん!? キャアアア!? 警備員さん!」
「見つかっタ!」ほっぽの血、女の子の血、床一面の血だまりを見て、さっきの女の人が大声で叫んでいます。
もうちょっと時間があれば、左目も入れ替えることが出来たのニ!
こうなったら仕方がありません。
「きっと見えるようになル! ヒカリ、元気デ!」
窓を開けて、ベランダを乗り越え、そして板塀の穴を探す。
ええと、あっちダ。さあ早く潜り抜けないト……。
「パン!」
「あ……レ?」
「パンッ! パンッ!」
足がもつれて動けない。ほっぽ、どうなっちゃったノ?
「こいつ……。深海棲艦だぞ!? 何で人間の街にいるんだ?」
「おら! なんでこんなところにいるんだ! おい!」
その警備員、男の人はほっぽをなんども足蹴にします。
いつもなら、こんな打撃は効かないはずなのニ……。
意識が薄れていく……。
ナガト、ユウダチ……。アイタイ……。
「貴っ様―――!! ほっぽに何をした?」
「ほっぽ! ほっぽ! 目を開けて!」
薄れていく意識の中で、そんな声が聞こえていました。
「てい、とく……」
「長門……。仕方ない。仕方がない事故だ」
「しかし……」
「ほっぽが良かれと思ってやったことは、人間には理解出来ない。それは分かるだろう」
「ぽい……」
夕立は肩を震わせて、俯いている。
「今の医療技術では眼球の移植は都会ですら稀だ。ましてやあの場で眼球を入れ替えて見えるようになるなど、誰が理解出来る?」
「だが! だが、あまりにも惨い。いきなり撃つなんて」
「深海棲艦が人に危害を加えなくなったとは言っても、まだ人々には理解出来ないだろう。あれだけ長く戦ってきた相手だ。ほっぽの気持ちも行為も、到底受け入れられるものではないだろう。それに今回は艦娘の引率もない。止めようもない。せめて……。せめてほっぽが先に鎮守府に来ていてくれさえすれば、こんなことにはならなかったかもしれないがな」
「……」
提督の言葉に、長門は無言で目を伏せる。
「救いなのは、あの女の子の目が見えるようになったという事だ。それだけが救いだ」
「ぐすっぐすっ」
「夕立、そのキーホルダー、ほっぽの形見になるだろう。大切に仕舞っておけ」
それは、ほっぽが板塀の穴をくぐるときに、引っかかって外れた、夕立とお揃いのキーホルダー。それを夕立が発見しなければ、ほっぽの居場所は分からず最後を看取ることは出来なかったろう。
「ほっぽの優しさが、これからの人と艦娘と、そして深海棲艦との真の懸け橋になるといいのだがな」
「……。姫に、ほっぽの亡骸を連れていく」
「ああ、頼む。後から私も謝罪に行く。夕立も長門に随行してやってくれ」
ほっぽから、女の子へのクリスマスの贈り物。
人の身体の理など知らぬ小さな深海棲艦の優しさは、降り出した雪のように真っ白で、その白さ故に確かに叶ったのだった。
完