ブルー・ホースマン   作:堂廻り 眞くら

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プロローグ

 

 

「「あっ」」

 

 バス停で一人、バスを待っていると、偶然同じバスに乗り込もうとしているらしい福良さんとばったり出会ってしまった。

 「出会ってしまった」などというとまるで僕が福良さんに出会いたくない、嫌っているといった風に聞こえてしまうが別にそんなことはない。彼女にはこれまで何度か助言をもらっているし、むしろ感謝しているくらいだ。

 しかし何を話せばいいのかわからなくて困る。おかしい、職場だったら普通に雑談の一つでもしているというのに。こういったプライベートな時間で彼女と接する機会があまりなかったから戸惑っているのだろうか。

 

「奇遇だね、こんなところで」

「そうだな」

「……」

 

 暫く無言が続いた。

 どうも、彼女もこの状況が気まずいと思っているらしい。いや、それとも僕が気にしすぎているだけで、実は普段からこんな感じだったかもしれない。もともと頻繁に話す間柄でもないのだから。

 

「……ラックリーター、随分活躍してるね」

 

 やがて向こうの方から話題を振ってきた。ありがたい。

 

「ん?……ああ、まあ。この調子だったらG1も夢じゃないかもな」

 

 そう。ラックリーターは現在、ジュニア及びクラシック前期までの不順を挽回するかのような快進撃を繰り出していた。正直、担当トレーナーの僕ですら信じがたい。僕以外にも、竹中さんや杉原、最初期の彼女の走りを知っている者なら、今のラックリーターの実力には目を見張るに違いない。

 

「それが、どうかしたのか?」

「不思議なの。あの娘、会うたびに別人じゃないかってくらい速くなっているから」

 

 そう言えば福良さんは過去に、ラックリーターを「才能がない」と一蹴していた。彼女を直に見ていた、そんな彼女だからこそ信じがたいのだろう。

 

「本格化が来たんじゃないのか」

「その場合は、体格に大きな変化が表れてもおかしくないと思うけど……」

「じゃあ、違うのかもな」

 

 そういいながら横目で福良さんの方を見ると、彼女が少しだけ道路に身を乗り出してバスが来ていないかどうかを確かめていた。

 僕は彼女に気づかれないように、こめかみをそっと押さえた。

 頭痛だ。また来たのだ。

 いつものより、ずっと強い頭痛がきた。

 

「……」

 

 目を開けた。すぐにそれは見つかった。

 通りの向かいに、二つの人影がポツンと立っている。ゆらゆらと揺れる陽炎のような幻影だ。

 そして、その二つの影の姿に僕は見覚えがあった。僕だけじゃない、誰もが知っているようなあの二人。

 勝負服が目立つおかげで、遠目からでもわかる。

 あの「芦毛の怪物」オグリキャップと、「白い稲妻」タマモクロスだ。

 まさかあのアイドルウマ娘たちまで幻影が現れるとは……。

 

「どうしたの?」

 

 はっとして隣を見ると、福良さんがいぶかし気にこちらを見ていた。僕は慌てて幻影から目を離して、「なんでもない」と矢継ぎ早に答える。

 

 そんな二人の元に、ようやくバスが到着した。

 

 その時にはもう、幻影の姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

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