灼熱ろっく!   作:フェンネル

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秀華祭

俺はこうあればいい、などと理想を考えるのが人間だと思っている。

自分の欲しいものを曖昧ではなくはっきり思い浮かべられるのは良い所だ。

その理想に向かって全てを懸けて努力するのも。

だが、それは勘違いしているだけとも言える。

その「理想」は、自分がいくら不利な状況だったとしても、全てをひっくり返すことのできるものだと。

 

「……どうだかな」

 

それでも理想に向かって足掻く姿は、あんなにも眩しい。

たまに結束バンドのライブを夢に見る。

試合で戦っている時とは違う高揚感。

魅せられる側になると、一味違ってまた面白いものだ。

 

俺達は、奏和は大会で負けた。

決勝に上がりはしたが、英峰、星海と並み居る強豪と戦う中で惜敗した。

その中で、高谷はとても楽しそうに笑っていた。

 

不破に「遊び相手になってやる」なんて、そう言えるもんじゃないぞ。

1年でありながら、しかも世界組からあれだけの点数を奪うとは、才能の塊だな。

 

王城は……能京は、1回戦で敗退した。

王城自身もそうだが、王城の友人も歯を食いしばっていた。

特に後輩は酷い顔だった。

いなくなりたいとでも言いたげな、そんな顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「高谷、今日は文化祭だが」

 

『あ、六弦さん?今日行けそうにないんですけど……』

 

「何だと?どういうことだ」

 

『ちょーっとアクシデントが……』

 

スピーカーから、高谷のファン達の声が聞こえる。

俺は何も言わず通話を切った。

うーむ、幸い結束バンドの演奏は明日だから問題は無い。

……高谷がいないのなら奏和で自主練でも───なんて考えていると、気づけば校門前にいた。

ん?見知った後ろ姿が……。

 

「あ!歩さん!」

 

「郁代。どうしてこの場所に?」

 

高谷がいない今、奏和に知り合いがいる訳でもないだろうに。

……俺か。

 

「さっき高谷くんから連絡があって。1人になった歩さんはまず奏和に行くって言われたから」

 

「なるほど……だが何故わざわざ?」

 

「歩さんが奏和に来る理由は1つしかないですよね?」

 

「あぁ、自主練を……」

 

そう言いかけて俺は気づいた。

 

「もう!いくらライブが明日だからって今日は来ないなんて嫌です!」

 

膨れっ面になる郁代だが、一応俺には行かないという選択肢を取った訳がある。

 

「……失礼なことを言うが、結束バンド以外に俺が文化祭に行く理由が無いんだ」

 

「え?文化祭って色んな出し物あるじゃないですか」

 

「そうだが、わざわざ他所の学校に出向く気には……」

 

「フランクフルトとか焼きそばとか……」

 

市販のものを買えば良かろうに。

ライブがあるならば喜んで行くが、それ以外に魅力を感じん。

が、それを口に出すのは失礼極まりない。

 

「チョコバナナとか!」

 

「何っ!?」

 

「きゃっ!あ、歩さん……?ど、どうし───」

 

「郁代」

 

「はっはい?」

 

後から聞いたが、この時の俺は見たことないほど真剣な顔をしていたらしい。

肩を掴む力が強かったという。

申し訳ないと思っている。

話している時の郁代はやけに機嫌が良かったが、それはそれだ。

 

「バナナが……あるのか?」

 

この質問に、郁代はさも当然とでも言わんばかりに答えた。

 

「は、はい……いちごバナナとか、バナナそのままでも」

 

「行かせてもらう」

 

「え?」

 

「今すぐ、文化祭に行かせてもらう」

 

郁代に学校まで案内してもらい、門をくぐった。

盛り上がりは中々のものだった。

色々な格好をした生徒がいる。

心做しか女子生徒が多いような。

まぁ、考えても仕方ない。

とりあえず、俺は俺で文化祭を楽しむとしよう。

 

「歩さん、一緒に回りたいんですけど、後藤さんがいなくなっちゃったみたいで……探してくるので歩さんは楽しんでいてください!」

 

よほど焦っているのか、郁代は走りながらそう言って去ってしまった。

俺の手に既にあるバナナ。

目的は速くも達成した。

あんなに早く店に会うとは思わなんだ。

それにしても後藤がいなくなった、か……出し物をするのが嫌になったのか?

 

「俺も後藤を探すとするか」

 

アテはある。

……場所と言うよりは人間だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

メイド服を着ながら、携帯をいじるひとり。

その場所は誰も寄り付かないので、ひとりにとってはオアシスだった。

 

「ど、動画上げてなかったから……!ネ、ネットでの居場所がぁ……!」

 

「後藤」

 

「どうあ!?」

 

まさか見つかるとは思っておらず、咄嗟に振り返って土下座でもしようかと思った時、聞き覚えのある、今いるはずのない人物の声が聞こえたのでほぼ反射で頭を上げた。

 

「ろ、六弦さん……」

 

「よう。大会ぶりか」

 

「な、なんでここに……」

 

「郁代に誘われた。そして高谷に後藤な居場所を聞いた。それだけだ。隣良いか?」

 

「あっはい」

 

ひとりの隣に座り、他の面々が来るまで話でもしようかと六弦は提案した。

それに対して、大会を見て話したいことが溜まっていたひとりは大賛成した。

 

「見ての通り、優勝まで届かなかった」

 

「あっ、はい……で、でも惜しかったと思います……点差だってそんなに開いてないし……」

 

「たしかにな。だが最終局面ではその僅かな点差が痛いほどに響くことは、よく知ってるだろう?」

 

「はい……ましてや相手は星海……英峰……奥武」

 

「率直に聞かせてくれ。試合を見てどう思った?」

 

六弦は、ひとりとカバディについて話す中で、驚いたことがあった。

カバディについて話す時やたら饒舌になるのもそうだが、それ以上に詳しかった。

何故そこまで知っているのかと以前聞いた時、ひとりは「よく見たから」と答えた。

詳しいことまではわかっていない六弦だが、ひとりの言う事は奏和の部員や他の世界組達に勝るとも劣らない程、聞きやすかった。

それは、暗にひとりのカバディへの知識量が膨大であることを示していた。

 

「奏和と他では、伸ばすべき所が違うことと、異なる武器を持っているからこそ、ああいう試合になったと思います」

 

「異なる武器……か」

 

「山田さんは山田さんだけの頭の使い方。世界組としての経験が、それを更に上手くさせてると思います。神畑さんは唯一無二のリーチからくる得意技のボーナス。英峰守備が優れているからこそ、それがより刺さると思います」

 

「ほう」

 

「不破さんに関しては……ただ、強いです」

 

「……奴は奴で、素直に強さを求めている。そう簡単には分からないのも当然だな」

 

ひとりは、カバディについて考える時、必ずと言っていい程不破のことが頭によぎる。

世界組1番。

絶対王者、星海。

 

そんな経歴を持っていながらも、彼は殆ど感情を出さなかった。

何故カバディをやってるのか、そんな質問に対して迷いなく無表情で「使命」と答えるだろう。

ひとりには、不破はただ無機質にプレーをしているように見えた。

 

「結局、俺とて奴に勝ったことはないわけだが……世界組としていた分、後藤よりは理解している」

 

「でもそんな六弦さんでも、あまり知らない……ですよね」

 

「察しの通りだ。後藤よ、不破について理解するのは、時間をかけてでも良いだろ」

 

「……そうですね」

 

「そう言った手前言うのも何だが、1ついいか?」

 

「はい?」

 

「後藤は不破が1番好きなのか?」

 

「……分かりません。でも、1番見てしまうのは、不破さんです」

 

「ほう」

 

「選手として、です……人としてはあまり知らないので、高谷さんの方が……」

 

「だろうな」

 

それから、妙に静かになった。

六弦は無言を苦と思わないタイプだが、ひとりは基本そうではなかった。

何か話そうとして失敗するタイプだが、今この時は真剣な顔で考え込んでいた。

しばらく会話しないでいると、結束バンドの3人も合流した。

 

「お、来たか。後藤、そろそろ教室に戻ろう」

 

「あ……はい」

 

カバディについて楽しそうに話していた様子から一転、見る見るうちに嫌そうな顔に戻るひとり。

これには六弦も苦笑いで、多くは言わず教室へ向かわせた。

 

「郁代、後藤を頼む。俺は俺で行くところがある」

 

「えっ?」

 

「チョコバナナ買ってくる」

 

「あ、わかりました!」

 

「(バナナは完成されている。どう食っても美味いのだ)」

 

軽い足取りで再度チョコバナナの店へ向かう六弦。

その体格から中々に視線を集めていたが、とりあえずバナナを買うという目的に頭を支配された六弦には気になるものではなかった。

 

「美味い」

 

そしてまた、速攻でバナナを買うので目標が無くなる。

どうせならひとりのクラスに行こうと足を進めると、喜多、虹夏、リョウの3人もメイド服を着ていた。

 

「あ、歩さん!どうですかこの服?」

 

六弦の目の前には完全にメイド服を着こなした喜多がいる。

そしてその手には男用の衣装が。

 

「郁代、まさかとは思うが……」

 

「絶対似合いますよ!」

 

光るような笑顔で言われると、六弦は強く断ろうとしなかった。

 

「ぬぅ、押しの強いことだ……」

 

実際ほぼ承認するしか選択肢がなかったので、六弦はとりあえず渡された服を着た。

何とか着はしたものの、ボタンが今にも吹っ飛びそうなほどギリギリだった。

 

「歩さん、素敵……!」

 

そんな六弦を見て喜多はリョウと六弦を並べて写真を撮っていた。

連写で。

 

「似合ってるよ歩」

 

「リョウもだ」

 

「(この2人の並びと絡み……尊い……!)」

 

「郁代!?鼻血が出ているぞ!」

 

すぐに他のメイドを呼び、喜多を休ませることとなった。

そして、代わりに六弦が接客を担当することに。

飲食をする場であることと子供も来ることから机はそれなりに汚れたりするので、その掃除も兼ねていた。

一方リョウはマイペースに仕事をこなしており、六弦の隣には先程まできたと仕事していた虹夏がいた。

 

「出し物によそ者が参加しても大丈夫なのか?」

 

「まぁ私もリョウも学校違うし」

 

「あぁ……そういえば郁代はともかく、何故2人はメイド服を?」

 

「えーと……ビジュアルが強いって言われて、ちょっと舞い上がっちゃったっていうか、思い出作りというか……」

 

虹夏は自分で言うだけあって、少し舞い上がっている節はあったのか少し恥ずかしそうにしていた。

 

「なるほどな。絵になっていると思うぞ」

 

「えへへ……」

 

虹夏は照れつつも接客に戻り、その明るい性格から団体の客を連れ込んできたりしていた。

教室の座席が粗方埋まったので、六弦は客集めではなく清掃に精を出していた。

 

「あ、あの」

 

そんな中、六弦の肩を叩く者が現れた。

 

「ん?」

 

六弦が振り向くと、秀華高校の生徒が緊張した面持ちで携帯を構えていた。

 

「い、一緒に写真撮ってもらえませんか?出来ればツーショットで……」

 

六弦は執事服を着ている自分が見た感じだと中々物珍しいからだろうかと考えていた。

 

「あぁ、俺でよければ」

 

メイド喫茶はそれほど忙しくはなく、基本簡単な仕事なので六弦には余裕があった。

 

「ありがとうございます!」

 

喜ぶ女子生徒は自撮りの要領で携帯の画面を自身の方へ向け、隣に六弦が来るよう位置調整をしていた。

それでも身長差はあるので六弦はしゃがんでカメラに2人共に映るようにし、女子生徒の合図と共に口角を上げた。

 

「ありがとうございました!大切にします!」

 

「喜んでもらえたなら何よりだ」

 

女子生徒が去った後、六弦は仕事に戻った。

仕事中、お冷を持ってくる時も客に二度見されたり、撮影を頼まれることがちょこちょこあった。

そんな時のひとり以外の結束バンドの3人の反応は、

 

「(歩さんが魅力的なのはわかるけど、私だって隣にいたいんだから……!)」

 

膨れる喜多。

 

「(歩が人気なのは仕方ない。マブとして誇ろう)」

 

後方腕組みマブダチのリョウ。

 

「(うわぁ、六弦さんすごいなぁ……あたしも写真頼もうかな)」

 

と密かに思う虹夏、といった風に様々だった。

 

「後藤、写真を撮りたいんだが良いか?」

 

「えっ、あ、な、なんで……」

 

ビクビクしているひとりを見て、六弦は少し気まずそうに、申し訳なさそうに頬を掻いた。

 

「高谷に送ってやりたいんだが……不味かっただろうか」

 

「あっ、なら大丈夫……です」

 

カメラ目線はどうしても出来ず、ぎこちないピースと引きつった笑みで待機するひとり。

六弦はひとりらしいなと思いつつ撮影し、高谷に写真を送信した。

すると1分もしない内に返信が。

 

『これ保存してもいいですか?』

 

「後藤、高谷はこう言ってるがどうだ?」

 

「あっどうぞ」

 

『大丈夫だそうだ』

 

『よっしゃ!』

 

「あ、へへ……」

 

高谷が自分を見て喜んでいるのを知って、ひとりも嬉しそうにしていた。

オムライスが完売したことからメイド喫茶は営業終了となり、六弦は着ていた服を返した。

結束バンドの4人はライブ会場の体育館へ下見に行くらしく、六弦はそれに付き添うことにした。

 

「広いな。容量は……マックス1000人というところか」

 

「さ、さすがにそんなに来ないと思いますけど……」

 

「大丈夫。歩が来るなら人数は気にしない」

 

「そうですけど……」

 

「もちろん高谷も来るぞ。それに、客が何人だろうと全員を楽しませるのが結束バンドだろう?」

 

「まぁね」

 

ニヤッと笑うリョウは本番を心待ちにしているようで、ベースを弾きたくてうずうずしていた。

喜多も六弦の前ではかっこいい自分でいようと気合を入れた。

 

「六弦さん、ドラム見ててね。気合い入れて演奏するから」

 

「あぁ。楽しみにしている」

 

「まっかせて!推しの力見せるよ!」

 

六弦は虹夏とグータッチを交わし、ライブ時を妄想するひとりに声をかけた。

 

「後藤も、高谷がどれだけ明日を待っているか知らないだろう?あいつはあいつでずっとそわそわしてるからな。ぶちかましてやれ」

 

「っ、はい!」

 

ひとりはいつものような沈んだ顔ではなく、キリッとした強気な顔になっていた。

それだけ彼女にとって高谷は大きな存在だった。

 

「(うーむ……とりあえず明日は1番前に行きたいところだが……俺と高谷では邪魔になるような気がするな)」

 

いい感じにひとりを激励した六弦だったが、胸の内ではその疑問が引っかかっていた。

六弦の不安や如何に。

 

そして、ライブ当日。

 

 

 

 

 

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