灼熱ろっく!   作:フェンネル

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ベーシストとアンティ

喜多との出会いからしばらく経った頃、六弦は部活が休みな事もあり、楽器屋にいた。

 

「これは中々……む?」

 

趣味がベースということで、楽器についての知識はそれなりにある六弦。

誰かに説明するとなれば感覚派故上手く伝えられないが、自分の中では完結しているので実際に見せる分には問題無い。

 

「腹減ったな……」

 

自身の腹の音を聞き、六弦は近くに飲食店は無いかと辺りを歩き始めた。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

歩さんとは、あの日から出会っていない。

たまにロインでやり取りをするけど、カバディ部の予定が混んでいるから、遅れて返信される事が多い。

 

「うぅ〜」

 

たまにはお話したいけど、部活の方が大事だものね。

それに、折角結束バンドの皆といるのに歩さんのことばかり考えても仕方ないわよね。

 

「喜多ちゃん最近元気ないねー」

 

「伊地知先輩……」

 

「とりあえず話してみな?」

 

幸いライブハウスには私達以外いない。

だから遠慮なく話せる。

だけどこればっかりは私個人の問題だし、バンドの皆に話していいのかな?

 

「郁代、話して」

 

「はい!」

 

ちょっと強引なリョウ先輩も素敵!

 

「この間、歩さ……ある人に会ったんです。その人はとても優しくて、またお話したいなって思ってるんですけど、予定が合わなくて……」

 

「最近会えないから凹んでたってこと?」

 

「まぁ、はい……」

 

カバディ部も応援に行きたいけど、突っ走っちゃったら嫌だしなぁ……。

 

「もしかしてその人って喜多ちゃんの彼氏?」

 

「そ、そういうのではないです」

 

「ほんと〜?」

 

伊地知先輩はニヤニヤしながら詰め寄ってくる。

実際私と歩さんは1度会っただけの仲。

そこまで深くないわ。

そうあったらいいなぁ、なんて思うけど。

 

「でも、私を結束バンドに再加入するきっかけをくれた人なんです」

 

「あー、逃げたと思ったら戻ってきて凄い熱く頼んできたやつかー。「やっぱり入れてください!!」って」

 

「そ、その説は大変申し訳ございませんでした」

 

「何がすごいってさぁ、まさかギターと六弦のベース間違えてるなんて思わなかったよ」

 

「六弦……」

 

リョウ先輩が反応した。

え、急に何でだろう?

 

「その単語を聞く日が来るとは」

 

「どしたのリョウ?前も聞いたと思うんだけど」

 

「皆に言ってなかったね。最近友達ができたんだ」

 

「ぼおっ!?」

 

後藤さんが横で気絶しちゃった。

友達って単語に弱いのかしら。

 

「ご、後藤さん?大丈夫?」

 

肩を叩いても反応がなかった。

あぁ、また1人の世界に入っちゃった。

 

「まぁぼっちちゃんはそのままでいいや。リョウ、続けて?」

 

「最近出来た友達の苗字が六弦なんだ。趣味はベース」

 

「えっ!?」

 

私は思わず立ち上がった。

リョウ先輩の言う六弦さんってまさか歩さんの事……!?

趣味がベースって……私そんなこと知らないのに!

ロインで話すのだって挨拶とちょっとした雑談なのに!

 

「リョウ先輩、お聞きしたいことが……」

 

「なんでも聞いて」

 

「そ、その六弦さんって、どんな人なんですか?」

 

もしかしたら同姓同名の人違いかもしれないし。

で、でも私よりリョウ先輩の方が歩さんと仲良かったりしたら泣いちゃう!

 

「奏和高校でカバディをやってるんだって。めちゃくちゃムキムキ」

 

ああああーーーっ!!!!

 

「カバディってあれだよね。カバディカバディってやつ」

 

「そう、マイナースポーツ」

 

い、一緒だ……歩さんだ。

まさかリョウ先輩と知り合ってたなんて……!

 

「歩は私のマブ。ベース友達」

 

も、もう下の名前で……!?

あっ、それは私もか。

で、でもベース友達……な、なんて羨ましいの!

歩さんとそんな、密に!

ベースを弾く歩さんかぁ……良い。

 

「リョウ、その六弦さんとはどんな感じで出会ったの?」

 

「ふ、長くなるよ?」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

歩は、私の命の恩人。

その日は金欠で晩飯に困ってて、凄くフラフラしてた。

 

「今日も草食わなきゃ……」

 

いつも通り野草探しに向かったんだけど、あまりの空腹に足取りが重くなってた。

歩道歩いてると、急に体がガタ、って傾いた。

 

「えっ?」

 

体は全然動かないんだけど、頭は結構働いてた。

目の前にトラックがあった。

しかも大型。

 

「(あ、死───)」

 

それを直感で理解した途端、急に泣きそうになってさ。

あぁ、もうベース弾けないんだなって思った。

 

「───え?」

 

そろそろ衝撃くるかなって思ってたら、車に轢かれたとは思えない感覚になってさ。

急に横に引っ張られるみたいな。

 

「間に合ったか」

 

「……あ」

 

誰かの低い声を聞いて、気絶した。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「ちょっと待って本気で危なくない!?」

 

「だ、大丈夫だったんですか!?」

 

「まだある。聞いて」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「……ん」

 

気づいたら知らない男の人に背負われててさ。

大きい背中だったんだ。

 

「あれ?」

 

「起きたか」

 

「誰?」

 

何が起こってるのか全く分からなかった。

だから少し警戒してた。

 

「俺は六弦歩。お前は?」

 

「……山田リョウ」

 

「山田リョウか。宜しく頼む」

 

多分あれは運命の出会いだったと思う。

自己紹介した後に背中の上で寝ちゃってさ。

結構時間経ってたと思う。

目覚ました時、私は知らない飲食店にいた。

 

「……ここどこ?」

 

「腹が減っているんだろ?寝言が凄まじくてな」

 

「……ありがとう」

 

「飯を食え。まずはそこからだ」

 

「……お金ない」

 

「なら俺が奢ろう」

 

「……六弦優しい。好き」

 

私は満腹になるまで食べた。

歩は私の食べっぷりを見て笑ってた。

あの時は本当に感謝した。

 

「ふぅ、ごちそうさま」

 

「あぁ」

 

「お礼に、私をリョウと呼ぶ事を許可する。私も下の名前で呼ぶ」

 

「フハハ!そうか。改めて宜しく頼むぞ、リョウ」

 

「宜しく、歩」

 

私達は固い握手を交わした。

歩の手はすごい大きかった。

 

「ところで、何故あんな状況になっていたんだ?」

 

「お腹減ってて……判断力が鈍ってたんだと思う」

 

「だからあんな転け方を……」

 

「歩は何してたの?」

 

「楽器屋に寄っていてな。腹が減ったから飲食店を探していたんだが、その最中にお前と会ったんだ」

 

楽器って単語につい反応した。

目がキラキラしてたと思う。

 

「楽器何やってるの?」

 

「ん?趣味程度だが、ベースを───」

 

それを聞いた瞬間、自分を止められなかった。

 

「私もベースやってる」

 

「ほう、思わぬ偶然だな」

 

「私と歩はマブ。譲らない」

 

そこから私は歩に興味津々だった。

色んなことを質問した。

その中でカバディとかを知ったんだ。

話してる時の歩はかっこよかった。

一通り話して落ち着いた時、向こうから質問してきた。

 

「ところで、傷を抉るようだが大丈夫か?」

 

「何が?」

 

「さっきの話だ。車がトラウマになっていたりしないか?」

 

「……」

 

目を閉じれば、あの光景が蘇る。

思い出すと、体が少し震える。

心臓の鼓動も早くなる。

結構トラウマだったかもしれない。

 

「っ……はぁ……はぁ……」

 

「その呼吸の荒れ方、頭の中があの時の事で一杯、と言った所か」

 

ちょっと汗も出る。

歩に助けてもらえてなかったら今頃……なんて思ったりもした。

歩といる間は少し安心する。

助けられたからかな。

 

「……ありがとう、歩」

 

「フ、助かって何よりだ」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「って感じ」

 

う、羨まし〜〜〜っ!!

リョウ先輩の事は心配だけど、一緒にご飯なんて私も行ったことないのに!

それにしても、私の他にこんな身近に歩さんと知り合った人がいるなんて……世間は意外と狭いのかしら?

 

「えーっカッコイイじゃん!」

 

伊地知先輩はリョウ先輩の話を聞いて女の子らしい反応をしている。

それでもリョウ先輩を心配しているので、時折頭を撫でたりしていた。

私もそんな話を聞いたらその人の事を王子様だなんて言って盛り上がっちゃうかもしれないけど、歩さんだからなぁ……。

 

「どや」

 

「今のどこにリョウのどや要素が?」

 

でも、同じ立場なら私もどやってするわ。

歩さんったら、いつもどこかしらで人助けしてるのかしら?

それとも偶然?

 

「でもそんな助けられかたしたら好きになっちゃうよねー」

 

「なんなら好きだよ。超好き」

 

分かります!

すごく救われましたよね!

 

「おお?熱くない?急に素直じゃん」

 

「ご飯奢ってくれたし。またごちそうになりたい」

 

「……リョウはこうだったね」

 

「でもロイン交換するの忘れた」

 

「!」

 

歩さんのロインを持っているのは私だけ……。

という事は、歩さんと離れていても連絡できるのも私だけ……!

 

「えへへ……」

 

「喜多ちゃん、なんか嬉しそうだね?」

 

「い、いえ。そんなことは……」

 

「郁代、なんか隠してる?」

 

「いえ何も!」

 

咄嗟に大声出しちゃった。

いつの間にか目を覚ました後藤さんは私の隣で携帯を弄っている。

 

「あ、あの」

 

「後藤さん、どうしたの?」

 

「さ、さっき言ってた人、奏和高校で、カバディやってるって……」

 

「何か知ってるの?」

 

「あっ、……その人、凄い……えっと、強豪の人です。全国クラスの」

 

えっ!?

 

「ぜっ、全国!?」

 

「歩さんが!?」

 

「やっぱり歩は凄い」

 

そ、そんなに凄い人だったの!?

で、でも頂点を目指してるって言ってたから、普通に考えればそうなのかしら?

というかなんで後藤さんが知ってるの?

 

「ぼっち、歩の事知ってるの?」

 

「あっ、昔ネットで色々調べてた時に、動画で少し……」

 

「試合の動画ってこと?」

 

「は、はい」

 

試合!?

 

「見せて」

 

「見せて後藤さん!」

 

歩さんの試合!

ネットで見れるって知ってたらすぐに調べてたのにー!

 

「へっ?わ、分かりました」

 

後藤さんは携帯を横画面にして、動画に映る試合を見せてくれた。

そこにいる歩さんは私にとっては一際目立つ存在で、目が離せなかった。

多分、リョウ先輩も同じだと思う。

 

「この人?うわ、筋肉すごっ。ほんとに高校生?」

 

「うん。私達と同い年」

 

「えっ2年なの!?3年じゃなくて!?」

 

そ、そういえば私も聞いてなかったな……。

1つ上かぁ。

歩先輩……ふふ。

 

「それにしてもムキムキだねぇ」

 

「どや」

 

「だからなんでリョウが?」

 

2人のやり取りを聞いても、試合の方につい無言で見入ってしまう。

カバディの事はあまり知らないけど、敵チームの1人が真ん中の線を越えた途端、奏和高校の人達が後ろに下がりつつ、隙を見て捕まえに行ってる。

 

「六弦さんだっけ?この人すごいねぇ」

 

伊地知先輩の言うすごいというのは、歩さんが1人で敵を捕まえるところだった。

基本は多対1で捕まえてたけど、歩さんの力が凄いから、簡単に止められちゃう。

 

「やっぱり歩しか勝たん。なんか別人みたいだけど」

 

「何言ってんの?」

 

リョウ先輩に完全に同意だわ。

試合中の歩さんは少し怖いけど、凄くカッコイイ。

こんな風に捕まえられるんだ……。

腕を掴んで、腰に手を回して、飛びついて……。

怖いけど寧ろ───

 

「捕まえられたい……」

 

「喜多ちゃん!?」

 

「え?……っ!?わ、私何を……!!」

 

嘘、無意識!?

ああっ、何やってるの私!

ご、誤魔化さなきゃ!

 

「後藤さんっ!カ、カバディのルール教えてくれない!?」

 

「うえっ!?」

 

急に声をかけたからか、後藤さんはびっくりしていた。

そして数拍置いて目を輝かせながら話し始めた。

 

「カ、カバディでは基本片方の陣地でプレイします。真ん中の線を基準に攻撃のレイダー(1人)と守備のアンティ(基本7人)に別れて、レイダーは真ん中の線を超えた瞬間からカバディカバディって一息で言い続けてる間だけ攻撃できて、レイダーは敵のアンティに触れた人数分点数を握ることが出来て、他にもボーナスとかあるんですけど、その状態で自陣に帰って初めて得点できます。アンティはそれを必死で止めて敵を帰さなければ点数を獲得できます。制限時間内で多く点数を取った方の勝ちです」

 

す、すごい早口!

しかも一呼吸で!

後藤さんカバディ詳しいのね。

 

「ぼっちちゃん、カバディ好きなの?」

 

「あっ、昔動画見つけた時カッコイイなぁって思って、ルール調べました。ちなみに六弦さんは中学時代国外でプレイしていて、世界組って呼ばれてます」

 

後藤さんめちゃくちゃ詳しいわ!

試合での歩さんを1番知ってるのは後藤さんね。

 

「虹夏も歩に会えば分かるよ。実物が1番良いって」

 

「まぁそうだよね。それにしても、この人の体あたしの倍くらいあるんじゃ……」

 

「カ、カバディには80kgの制限体重があるので、どの選手もほぼ同じ体重をキープしてます」

 

「80kg!?」

 

お、大きいのね……!

私なんて片手でひょいっと持ち上げられちゃうのかしら。

 

「そういえばさ、なんて呼ばれてるんだっけ?」

 

「あっ、せ、世界組です……」

 

「世界組かー。なんかカッコイイね!」

 

確かにカッコイイ響き……!

……世界組、か。

やっぱり凄いなぁ、歩さんは。

私も負けないよう頑張らないと。

 

「この人も、本気で頑張ってるんだね」

 

歩さん”も”……。

私……ううん、私達も……!

 

「うん、カッコイイ」

 

4人でしばらく試合を見てると、後藤さんが口を開いた。

 

「……何だか、練習したくなってきました」

 

「ぼっちちゃんも?実はあたしもなんだー」

 

やっぱり何かに真剣になれるって、こんなにも楽しいんだ。

 

 

 

 

 

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