灼熱ろっく!   作:フェンネル

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STARRY

奏和高校カバディ部は、今日も練習に精を出していた。

近々控えている大会に向けて、部員の集中力も高まっている。

その中で六弦も世界組でありチームの心臓としての自覚を持ち、1年の有望株である高谷と共に高め合っていた。

 

「六弦さーん、携帯ずっと鳴ってますけど?」

 

「構わん。後でいい」

 

「ふーん……」

 

練習第一である六弦の様子を見て、高谷はそれ以上何も言わなかった。

だが、携帯をチラリと見て思った。

 

「(何でメッセージ件数がこんなに多いんだ?まさか厄介ファンとか?)」

 

結局練習終わり───部員達が帰るまで、六弦は携帯を見なかった。

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「んじゃ俺ら帰るわ」

 

「六弦は?」

 

「残ってやる」

 

「変わんねーなー」

 

いつも通りの光景に部員達は何を言うでもなく、解散した。

残っているのは珍しく六弦と高谷のみだった。

 

「片桐はどうした?」

 

「今日は家族と飯食いに行くんですって。珍しいっす」

 

「ふむ……」

 

六弦は居残り練習を始める前に、携帯を見た。

画面に表示される喜多からのメッセージ。

その件数は2桁に上り、高谷は冷や汗をかいていた。

 

「……着信?」

 

ここで、タイミングよく電話が来た。

だがそれは喜多からではなく、非通知だった。

 

「非通知ってことは不審者っすかね?」

 

「知らん。が、出ればわかる」

 

六弦は迷わず応答ボタンを押し、携帯を耳に当てた。

 

『あ、もしもし?六弦さんですか?』

 

「あぁ。そちらは?」

 

『私、喜多ちゃ……郁代ちゃんのバンド仲間の伊地知虹夏です』

 

「なるほど。俺に何の用だ?」

 

電話の奥の虹夏は少し間を空けて、頼み込むように言った。

 

『私達のバンドのライブチケット、貰ってくれませんか?』

 

それを聞いた六弦は少し考えた後、口を開いた。

 

「もちろん構わないが……良いのか?そういうのはしっかり金を───」

 

『大丈夫です!喜多ちゃんも是非って言ってます!リョウもいますよ!』

 

「あぁ、リョウのバンドだったのか。ありがたく貰おう」

 

『じゃあ、今から渡しに行っても大丈夫ですか?』

 

「うん?」

 

『実はリョウと喜多ちゃんが逸って、もう奏和高校の校門前にいるんですけど……』

 

「……校門前で待っていてくれ」

 

『分かりました!』

 

六弦はため息を吐き、校門前に向かう準備を始めた。

それを見た高谷は自分もついて行くと言い、六弦もそれを了承した。

 

「いつの間に女の子の知り合いなんていたんすか?」

 

「色々あってな。というか、女の知り合いならお前の方が多かろう?高谷FCとかいう……」

 

「まー確かに」

 

2人は雑談をしながら校門前に向かった。

到着した時には結束バンドの4人全員が揃って待っていた。

 

「あ!六弦さんだ!」

 

「確か……伊地知、だったか?」

 

「虹夏でいいですよ!……そちらの方は?」

 

「後輩の高谷だ」

 

「ヨロシクー♪」

 

高谷は虹夏に挨拶した後、後ろに隠れているピンクのジャージを着た少女、後藤ひとりに対してとても興味を抱いた。

 

「君凄い音するね。何者?」

 

「えっ……あ、その……」

 

初対面な事に加え、コミュ障であるひとりでは社交性のある高谷の相手は厳しい。

 

「すみません高谷さん、この子人見知りなんです」

 

「あーごめんね。君は……」

 

「喜多郁代です。よろしくお願いします!」

 

キターンと後光が差す彼女の笑顔の眩しさに、高谷は少し目を瞑った。

 

「(なるほどね。この子こういうタイプか)」

 

「後藤さんに聞きたい事があるなら聞きましょうか?」

 

「うーん、やっぱいいや。また聞くよ」

 

高谷は目を閉じ、耳を澄ませた。

 

「ねぇ君、連絡先交換しない?」

 

そして、喜多の後ろにいるひとりに声をかけた。

ひとりはビクッとしつつも、友達が増えるチャンスを逃すまいと、震えながら携帯を差し出した。

 

「ん、ヨロシクね。喜多ちゃんもどう?」

 

「はい、是非!」

 

誰かに声をかけて貰えた事、連絡先まで交換した事、新たな友人ができた事へのあまりの喜びから、ひとりはうねうねしながら喜多にくっついていた。

 

「うへへ、うへへ……」

 

「良かったわね、後藤さん!」

 

高谷は陽の気を放つ喜多ではなく、ひとりをじっと見ていた。

 

「(振る舞いと音が違いすぎるんだよな……)」

 

そんな言い様のない違和感を感じながらも、面白そうに笑みを浮かべていた。

その時六弦の方は、ライブについて詳しく聞いていた。

 

「なるほどな。大方理解した。リョウのベースか……思えば聞いた事がなかったな」

 

「魅せてあげるよ」

 

「ほう、頼もしいな。虹夏の方はドラムだったか?」

 

「はい!ドラムが1番カッコイイんで見ててください!カバディ、応援してます!」

 

「あぁ、ありがとう」

 

ここで、リョウが六弦の肩を叩いた。

 

「歩、どう?」

 

そこには、ベースを持つリョウの姿が。

その姿は正しくベーシストだった。

 

「ほう、ベーシストそのものだな」

 

「カッコイイでしょ」

 

「あぁ」

 

リョウはドヤ顔で胸を張る。

虹夏は、だからあんなに張り切ってたのかと苦笑いしていた。

 

「バンドの演奏、楽しみにしている」

 

苦笑いしていた割に、六弦から期待を込めた言葉を送られると、リョウのように胸を張って自信満々に言った。

 

「任せてください!最高の演奏見せちゃいますよ!」

 

「歩、私は?」

 

リョウは六弦の袖を引いた。

先程虹夏に言った言葉を自分にもかけて欲しいと、瞳が告げている。

 

「ふ、魅せてくれるんだろ?」

 

「……!」

 

リョウは「やはり歩は自分のことをわかっている」とでも言いたげに虹夏の方を見た。

 

「(何かムカつくー!)六弦さん!私のドラムちゃんと見ててくださいね!」

 

「ん?あぁ、勿論だ」

 

リョウのドヤ顔を見て無性に腹が立った虹夏は、ライバル意識を燃やしていた。

 

「そろそろ練習に戻ろうと思う。遠くまで済まなかったな」

 

「いえいえ、全然!」

 

「歩、また来る」

 

六弦と高谷は結束バンドを最寄りの駅まで見送り、学校に戻った後、居残り練習を始めた。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

その日の夜。

六弦は喜多と電話をしていた。

 

『歩さん!なんで私と話してくれなかったんですか!声くらいかけてください!』

 

「高谷と話をしていただろう」

 

『それでもですっ!お話したくて奏和高校まで行ったのに……』

 

「今こうして話すのでは駄目なのか?」

 

『直接と電話じゃ全然違うんですよ?』

 

とは言うものの、喜多は「電話なら相手の声が耳元から聞こえるのでこれはこれで良い」などと考えていた。

 

『(歩さんに囁かれてるようでこれは……)』

 

「以後気をつける」

 

『あっ、でも別に電話が嫌だとか、そういう訳ではないですからね!?』

 

「あぁ」

 

一応釘を刺しつつ、これからの会話時間が増えると言う事で喜多の頬は緩みきっていた。

そんな中六弦は時計を見ていた。

 

「さて……もう遅いし、寝た方がいい」

 

『もう少しお話してたいんですけど……ダメですか?』

 

「駄目だな」

 

直接会っていたなら涙目+上目遣いと、SNSで培った自分を最大限可愛く見える角度でお願いしたであろう喜多だが、声のみのやり取りである以上、考えても無駄だった。

 

「「夜更かしは美容の大敵だ」と前に言っていたのは郁代の方だぞ」

 

『うっ、確かに。なら、最後に1つ良いですか?ライブの時の事なんですけど……』

 

「何だ?」

 

『私の事……ちゃんと見ててくださいね?』

 

どこか頼み込む様な言い方だったが、六弦はリョウも虹夏も似たような事を言っていたなと心の中で笑い、快諾した。

 

「勿論だ。楽しみにしている」

 

『……!はいっ!じゃあ、おやすみなさい、歩さん』

 

「あぁ、おやすみ」

 

通話を終えた六弦は、ため息を吐いた。

その理由は、喜多との通話中ずっと来ていた不在着信にあった。

 

「(郁代には急かす様な言い方をしてしまったな。だが……)」

 

件数を見て眉間に皺を寄せた後、今も着信音が鳴っている携帯を見て、嫌々ながら応答ボタンを押した。

 

「何の用だ」

 

『あっもしもし六弦さん?やっと出てくれましたね!もう何回かけたか───』

 

「まずは謝らんか馬鹿者。件数のおかしさたるや、迷惑行為になるぞ」

 

『すんません……』

 

電話の奥で正座し、縮こまっていそうな声で謝罪する着信主の高谷。

六弦は謝罪もそこそこに話を始めるよう促した。

 

「で、用件はなんだ?」

 

『あっそうっすね!ちょっと聞きたいことがあるんですけど……』

 

高谷は普段の飄々とした軽い様子や、偶に見せる真剣な様子、そのどちらとも言えないような声色で話していた。

 

「聞きたい事?」

 

六弦自身もあまり見ない様子の高谷に少し驚きながらも、そんな風になる理由である話が気になっていた。

 

『はい。今日来てた女の子達について』

 

「あぁ。結束バンドの事か」

 

『えぇ。その中に1人ピンクの頭の子いたんですけど、分かります?』

 

「……いたような気がする」

 

『(……こりゃ覚えてねーな)』

 

あまり人の事を覚えようとしない六弦に、高谷は後輩ながら少し呆れた。

ただ、そもそもあまり関わっていなかったので実際のところは仕方ないとも言える事でもあった。

 

『その子、見た感じだとめちゃくちゃ陰キャなんですよ。話してる時全然目合わなかったし、声小さかったし。自分に凄い自信なさそうだったんです』

 

「陰……なるほど。その娘がどうかしたのか?」

 

『……明らかに、ヤバい奴の音がしたんですよ』

 

急に深刻そうな声になる高谷。

六弦自身高谷の聴力に信頼を置いていたが、その本人がこの様子なので余程の事だと察した。

 

『こう、内に秘めてるっていうか……本来のあの子の姿というか』

 

「ほう?」

 

『ただ悪い意味じゃなくて、音と態度にギャップがあり過ぎるからこっちの方が混乱するんです』

 

「混乱……」

 

『見た感じは塞ぎ込んでるのに、音を聞くと……すげぇドデカいっていうか……例えると武道館ライブでギターかき鳴らしてるみたいな……』

 

訳が分からないながらも結束バンドというバンドを組んでいる以上、楽器に関わる音を持っていても不思議ではない。

 

「俺にはお前の聴力がないから分からないが……そのギャップの振り幅は余程大きいと見えるな」

 

『いやホントエグいっすよ。助っ人に来たカバディ素人が、急に神畑さん位強くなるみたいな』

 

「化け物じゃないか。ギャップどころか全くの別人だぞそれは」

 

『でしょ?だから今度行くライブで、それを確かめに行きます。実は俺もチケット貰ったんですよ』

 

思わぬ情報に目を丸くする六弦だが、高谷の話を聞いた事で自分もそのギタリストの事が気になっていた。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

某日、六弦は偶然虹夏に出会った。

 

「あっ!」

 

「偶然だな」

 

「ろ、六弦さん!いい所に!」

 

その手には、大きな袋が2つぶらさがっている。

 

「こ、これ持って欲しいんですけど……」

 

虹夏は会って間もない相手に頼むのも如何なものかと心の中で思ったが、腕が限界だったのでなりふり構っていられなかった。

 

「構わんが……何だこれは?」

 

「家の、食料です……安かったんでつい」

 

「家族思いなんだな」

 

「い、いやぁ、へへ……」

 

六弦は虹夏の持っている袋を軽々しく持ち、彼女の姉、星歌が店長を務めている下北沢のライブハウス「STARRY」へ向かった。

 

「ライブハウス兼私の家です!」

 

「俺もここに向かうところだったんだ。ライブ当日の下見も兼ねてな」

 

「ならwin-winですね!超助かりました!ゆっくりしていってください!」

 

虹夏は星歌を呼び、六弦の入店を無料で許すよう頼んだ。

星歌も荷物の件を聞いて承諾し、2人で話すことになった。

 

「で、君が六弦くん?」

 

「はい」

 

「リョウがよく話すんだ、君の事」

 

六弦は少し、口角を上げた。

 

「それは……ありがたいですね」

 

「虹夏やリョウとはいつから付き合いあんの?」

 

「虹夏さんとは先日知り合いました。結束バンドのライブに是非来てくれ、と。リョウさんは訳あって偶然……」

 

「話聞いた感じだと命助けたんだって?」

 

リョウの話を初めて聞いた時、星歌は嘘だと思いまともに聞いていなかった。

だが喜多や虹夏の話を聞いていくと、本当という線が濃くなってきた。

そんな中で嘘かどうかは本人に会えば分かるだろうと結論が出たので、六弦と会う日を待っていたのだった。

 

「ありがとな。あいつここのバイトだから、店長として礼を言うよ」

 

「……リョウさんに怪我がなくて良かったと思うばかりです」

 

六弦の事を話す時、リョウは嬉しそうに話す。

その出会いは彼女にとって大きなものだと星歌は分かっていた。

だからこそ彼女は思う。

 

「(なんでこんなマトモな奴と知り合ってあいつは全く変わらないんだ……?)」

 

星歌がそんなことを思っていると、エプロンを付けた虹夏が机に皿を置いた。

 

「はい六弦さん!さっきのお礼!虹夏特製オムライスだよー!」

 

その上には、綺麗と言うより、家庭を感じさせるオムライスが乗っていた。

 

「良いのか?」

 

「どーぞ召し上がってください!お礼ですから」

 

「いただきます」

 

虹夏のオムライスは、とても美味だった。

ケチャップの酸味が飛んでパラッとしたチキンライスに、ふわふわの卵。

六弦自身が無料で食べるのを躊躇う程に、美味かった。

 

「そういえば六弦さん、今日暇ですか?」

 

どこからか椅子を持ってきた虹夏は2人の輪に入り、問いかけた。

 

「あぁ、ここを見つけるのにどれ程かかるか分からなかったのでな。思ったより早く見つかったから、この後の予定は何も無い」

 

「ならちょっとお願いがありまして……」

 

「お願い?」

 

 

 

 

 

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