灼熱ろっく!   作:フェンネル

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エースとヒーロー

「そういえば郁代、歩とはどうやって知り合ったの?」

 

そう聞くと、郁代は言いづらそうな顔になった。

なんか暗くなったように見える。

 

「えっと……お、お2人から逃げた日に……公園で」

 

あの日か。

 

「しばらく凹んでたんです。それで帰ろうとした時、急に地面が暗くなって……見上げたら歩さんがいました」

 

「……どういう事?」

 

郁代が何言ってるのか分からない。

 

「私、地面見ながら歩いてたんです。地面が暗くなったって言うのは、歩さんの影で……」

 

なるほど、理解した。

 

「なんでそんな近くに?」

 

「その……私の頭の上に落ちかけてた鳥の糞を受け止めてくれて……」

 

……漫画の話?

 

「それで、色々お話したんですけど、その中で私が大泣きしちゃって……」

 

「初対面で?」

 

「は、はい……」

 

初対面で泣くのは恥ずかしいな。

私でもご飯奢ってもらう位なのに。

 

「あれ?確かリョウ先輩も歩さんに助けられた時……」

 

「私は泣きそうなだけだったから。泣いてない」

 

「そ、そうですか」

 

まぁ、あのトラックは今でも夢に見るんだけど。

 

「だから、あまり思い出したくない日というか……」

 

「でも、嬉しそうに話してるけど」

 

「だって、凄く救われましたから……それと同時に、私はなんでダメなんだろって思っちゃうから……」

 

郁代はいつも明るいと思ってたけど、そうでも無いのかな?

凹むことはあると思うけど、ここまでネガティブになる事ってそう無いような。

 

「良かったね、出会えて」

 

「はいっ!」

 

あぁ、満面の笑み。

眩しいな。

そういえば歩って今何してるんだろ。

練習かな?

 

「あ、虹夏先輩から電話が……もしもし?」

 

虹夏?今STARRYに向かってるのに……何の用だろ?

 

「リョウ先輩ですか?はい、いますけど……えっ?」

 

郁代が目を輝かせて嬉しそうにしてる。

え?何?

 

「リョウ先輩!」

 

携帯を渡してくる。

虹夏と電話して話すことなんて無いような……。

 

「虹夏、どうしたの?」

 

『リョウか。少し良いか?』

 

えっ、虹夏声低っ。

っていうか……ちょっと待ってこの声って。

 

「……歩?」

 

『どうした?』

 

「何で虹夏の携帯から?」

 

『お前の連絡先を持っていないからな』

 

そうだった。

結局ロイン交換してなかった。

でも虹夏の携帯なら私にかけた方が早いと思う。

 

「じゃあ何で郁代の方にかけたの?」

 

『さっきそっちにかけたんだが、虹夏がため息を吐いていたぞ』

 

そう言われて携帯を取り出すと、充電が無かった。

……てへ。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

不意打ちで歩さんの声が聞こえたから、びっくりしちゃった。

そんな訳で、私達は歩さんに言われた通り、少し急いでSTARRYに来ました。

あら?後藤さんと店長さんもいる。

 

「いやー、さっき六弦さんと会ってさー。チャンスだと思ったんだよね」

 

「チャンス?」

 

「リョウ、ぼっちちゃんにお金返して」

 

「えっ」

 

リョウ先輩は伊地知先輩じゃなくて、歩さんを見た。

歩さんは何の話か分かってないようで、2人はしばらく見つめ合っていた。

いいなぁ……。

 

「リョウ?早く」

 

リョウ先輩は何故か汗をかいていた。

 

「ぼっち、遅くなってごめん」

 

「い、いえ……」

 

そして、凄く速い動きで後藤さんにお金を渡していた。

伊地知先輩、急にどうしたのかしら?

 

「六弦さんがいたらすんなり話を聞くと思ったら案の定だったね!」

 

「卑怯な……」

 

「卑怯なのはどっちさ!」

 

伊地知先輩とリョウ先輩が言い合いをしてる間、歩さんは後藤さんとお話していた。

 

「なんのお話してるんですか?」

 

「少しカバディについてな」

 

「後藤さん、私にも聞かせてくれない?」

 

「き、喜多さんも興味あるんですか?」

 

「うんっ!」

 

多分試合が始まると、歩さんばっかり見るんだろうな、私。

高谷さんも凄く目立つけど、やっぱり……。

 

「ろ、六弦さんのいる奏和高校は大会を控えてて、今年こそは星海に勝つと……」

 

「星海?」

 

「あっ、カバディの絶対王者です。大会発足から常に優勝してる……」

 

すっごく強いのね。

歩さんが負けるなんて、想像できないなぁ。

 

「そこにいる不破という男が俺と同期でな。紛うことなき頂点の器だ」

 

頂点……歩さんが目指してる場所……。

そこにいる人。

 

「写真とかってあるんですか?」

 

「あ、私のフォルダに……」

 

「見せて見せて?」

 

後藤さんが見せてくれたのは、頭の左の方に傷のある人だった。

ムッとした顔で、ちょっと怖い。

 

「こ、この人も世界組です」

 

「そうなの。凄く強そうね……」

 

歩さんの方を見ると、戦いたそうな顔をしていた。

燃えてるって言うのかしら?

 

「だが、俺の最も戦いたい男は別にいる」

 

「この不破さんじゃなくて……ですか?」

 

「あぁ、能京高校の───」

 

歩さんがその人の名前を言おうとした時、リョウ先輩がこっちに走ってきた。

虹夏先輩から逃げてきたみたい。

 

「歩、助けて」

 

「六弦さん、リョウを渡してください」

 

歩さんの陰に隠れるリョウ先輩と、怒った虹夏先輩。

見た感じだと、歩さんは虹夏先輩の味方みたい。

 

「歩は私の味方だよね?」

 

「何があったか分からんが、虹夏が嘘をつくとはとても思えん」

 

「相棒を裏切るの?」

 

この2人の絡みなんて……キャー!

 

「リョウ、変なこと言わない!」

 

歩さんとリョウ先輩はとても近くで話している。

リョウ先輩は疑いのない視線で。

 

「そんな関係じゃないだろ」

 

歩さんは少し呆れたように。

あんな距離、私だったら凄くドキドキして目を見れないかもしれない。

 

「っ、歩までっ……!」

 

リョウ先輩は悲劇のヒロインみたいに逃げていっちゃった。

伊地知先輩もそれを追いかけていった。

私はふと、疑問を持った。

 

「そういえば、歩さんは何でここに?」

 

歩さんがいる事自体がサプライズだったから、すっかり忘れちゃってたわ。

 

「このライブハウスの下見に来たんだが、道中荷物を抱えた虹夏と会ってな。荷物持ちがてら案内してもらったんだ」

 

「そっか。もうすぐライブですもんね」

 

気合い入れなきゃ!

頑張れ私!

 

「あぁ。しかもオムライスまでご馳走になってな。もてなされた以上、虹夏の味方をせざるを得ない」

 

あれ?伊地知先輩、いつの間に手料理を……?

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

後藤ひとりは、だらしなく頬を緩ませていた。

自分の携帯を見ては悶え、少ししてからまた見ては悶えるを繰り返していた。

 

「初めて家に友達が来る……麦茶はグラスで、ツイスターとかゲーム用意して……ゔぇへへ」

 

少し前に企画された後藤家でのライブTシャツのデザイン。

ひとりにとって無に等しかった友達との交流。

それも自分の家で。

当日を想像して楽しさに震えていたが、その直後に来たメッセージを見てビクッと震えた。

 

『今から電話かけていい?』

 

「た、たたたた高谷さん……!な、なんで電話……!?」

 

高谷はひとりの返信を待たず、すぐに電話をかけた。

 

「ひうっ!?」

 

断れる性格でない事と人との関わりを欲するが故に、着信が来た時には100%応答してしまう自らの悪癖を、ひとりは恨めしく思った。

 

「もっ、もしもし……高谷さんですか……?」

 

『あ、もしもしごっちゃん?』

 

「は、はい、ごっちゃんです……!」

 

高谷煉は、気に入った相手に妙なニックネームを付ける。

つまるところあだ名である。

 

『いやー、ごっちゃん電話出るの早いから助かるよ』

 

「い、いえ、そんな……」

 

『電話した理由なんだけど……』

 

陰キャを極めていたひとりにとってあだ名とは、リョウと虹夏から呼ばれる「ぼっち」という馬鹿にしたような名前すら、噛み締めたくなる程嬉しいものだった。

 

「(ごっちゃん……ごっちゃん……!)」

 

故に、呼ばれただけで体が高揚感に包まれるようになっていた。

 

『俺さ、この間喜多ちゃんからライブのチケットもらったじゃん?』

 

「あっ、はい」

 

『で、喜多ちゃんには言ったけどごっちゃんには言ってなかった事があるんだよね』

 

「な、なんですか……?」

 

ひとりは変に緊張していた。

もしかしたら「舐めた演奏をすれば晒し者にする」というような脅しをかけられてしまうのでは?と。

 

「い、命だけは……」

 

『えっ何が!?』

 

「あっ、な、なんでもないです……」

 

『そ、そう?』

 

「そ、それで、言いたいことって……?」

 

高谷は気を取り直し、咳払いをして口を開いた。

 

『俺さ、初めてごっちゃんに会った時、一目見てすげぇ奴だって分かったんだ』

 

「えっ?」

 

『ごっちゃんさ、ギターめちゃくちゃ上手いでしょ?』

 

「ええっ!?」

 

確かに、動画投稿してコメントが来る程にギターか上手いことをひとり自身は自覚していた。

 

「(な、なんで知ってるの!?1度も見せたことないのに……!も、もしかして「ギターヒーロー」ってバレた!?)」

 

『あ、「なんで見せたことないのに知ってんの」って思ったでしょ?』

 

心の中を言い当てられ、ひとりの動揺は加速する。

あ、これ絶対バレてる、と。

 

「お、お金はないのでご勘弁を……!」

 

『いやいや何も強請ってないけど!?』

 

「あっ、ごめんなさい、もう喋りません……」

 

ツッコミをした所で仕方ないかと考えた高谷は、構うことなく話を続けた。

 

『俺ね、耳がいいからなんとなく分かんの。で、ごっちゃんを知ってから4人の中で1番興味持ってるんだ』

 

「(わ、私に……!?)」

 

『君と会った日に近々ライブするって言われてから、その日をずっと待ってる』

 

「(そっ、それって───)」

 

『一応メッセージで送ろうかなって思ったんだけど、電話で言った方がいいと思ってさ』

 

ひとりの鼓動が早くなる。

電話越しに聞こえる高谷の声は、心から言っている事だと彼女自身もわかってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライブ、すっっっげぇ楽しみにしてるから!ごっちゃんの演奏、ずっと見とくよ』

 

だからこそ、かけられた期待の言葉に自分が応えられるのか不安になる。

だが、高谷が言った「ずっと見ている」という一言は、「後藤ひとり」を「ギターヒーロー」にするきっかけを作るには十分だった。

 

「あ、あのっ、高谷さん!」

 

『ん?』

 

「そ、その、私……!」

 

『落ち着いて、ゆっくりでいいよ』

 

つい張り切って答えようとするひとりを、高谷は柔らかく宥める。

深呼吸して気持ちを切り替え、ひとりは言葉を発した。

 

『私───』

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「……歩が足りない」

 

ライブまで何日も練習し続けてるけど、あの日から歩に会えてない。

虹夏は何もないけど、郁代は歩に会えなくても大丈夫そうに気合い入れて練習してる。

ぼっちも何故かやる気が漲ってる。

 

「もーリョウ、ライブまで我慢するって言ったじゃん!驚かせるんでしょ?」

 

「リョウ先輩、いっぱい練習した方が歩さんや他のお客さんも喜んでくれると思いますよ?」

 

「そ、それに、奏和高校の皆さんは……カ、カバディが……」

 

確かに。

でも会う時間が少ないから満足できない。

 

「この前も虹夏がお金の話したからすぐ離れた」

 

「コラ!あれはリョウが悪いんだよ!ぼっちちゃんが何も言わないのをいい事に、返す気無かったでしょ!」

 

「うぐぐ……」

 

「それに、練習で忙しいのに無理に時間作ってもらう訳にもいかないじゃん」

 

虹夏のわからず屋。

……でも歩の迷惑になるなら行かない方がいいのかな。

やっと交換できたロインも、いつも遅れて返ってくる。

 

『暇な日教えて』

 

『遅れてすまん。部活と自主練があるから滅多に取れないんだ』

 

自主練の日を私にちょうだいなんて言っても、歩はそういう性格だからしょうがない。

 

『それでもいい』

 

『何故そこまでして知りたいんだ?』

 

『会いたいからじゃダメ?』

 

『なるほどな、分かった。そこまで言うなら努力する』

 

前までは偶然会うことが多かったからよかったけど、こうも会えないと少し物足りなくなる。

実際命の恩人だし、歩なくして私の人生は無いと言ってもいい。

 

「……迷惑になっちゃうかな」

 

でも、ちょっと不安だった。

 

「嫌なのかな……」

 

虹夏はドラムから離れて、近寄ってきた。

 

「あのねリョウ、嫌なんじゃなくて、難しいんだよ。私達も練習があるし、あっちも大事な部活があるから」

 

「難しい……」

 

「そ。だからって無理して時間作って、その結果で2人とも損するなんて嫌じゃん。私達も六弦さんも、奏和の人達もさ」

 

2人とも損する……私は練習不足で上手く演奏できなくて、歩は私が無理言ったせいで試合で負けちゃう……嫌だ。

 

「だからさ、たまにしか会えないからこそ、その時間を大事にしようよ」

 

たまにしか会えないからこそ、大事に……。

 

「……わかった。我慢する」

 

それが、歩のためになるなら。

 

「おーよしよし、偉いぞ〜!」

 

虹夏の撫でに免じて今日は練習する。

その日の夜、歩と虹夏からロインが来た。

 

『今日言うの忘れてたけど、今度ぼっちちゃんの家でライブで着るTシャツのデザイン考えるから来てね!』

 

……どうしよう。

めんどくさい。

でもまた歩にチクられたらまずい……。

 

「しょうがない、行こう」

 

虹夏に『分かった』とメッセージを送ろうとした時、別の連絡先からメッセージが来た。

 

『休みが取れたんだが、どうだ?』

 

歩の休みの日と、ぼっちの家に行く日が偶然にも同じだった。

虹夏の話を聞いてから、歩は私のために無理したりしないかなってよく思うようになった。

 

『こんなこと聞くのもおかしいけど、無理して休み作ったりしてない?私が言ったから』

 

私のエゴで、歩に負担を強いてないか。

 

『オーバーワークにならない為にも休息は必要だ。無理などしていない』

 

歩が気にせずに言ってくれたこの言葉も、気遣ってのことなんじゃないかって。

 

『本当に?』

 

疑り深くなって、どうしても歩の本当の気持ちを知りたくて。

 

『俺もリョウと会う日を楽しみにしている』

 

歩が言ったら、たとえ嘘でもこの言葉だって───

 

「……嬉しいな」

 

私のことを喜ばせてくれる、大事なメッセージになる。

 

『なら1日空けといて』

 

『分かった』

 

「……ふふ」

 

しょうがない。

こっちから頼んだんだから断るのは無理。

……虹夏にはなんで送ろうかな。

 

『おばあちゃんがその日峠だから』

 

これでいいや。

3人で頑張ってもらおう。

それから、私は予定の日までの何日かを楽しみながら過ごした。

 

 

 

 

 

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