灼熱ろっく!   作:フェンネル

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ノープラン

今日は朝からすごく気分がいい。

歩に会えるからだ。

滅多に取れない休みを私のために使ってくれるからだ。

私が強要したのもあるけど。

 

「よし……もしもし歩?」

 

『どうした?』

 

支度を済ませて、歩と連絡を取る。

休日の朝6時なのに歩は起きてる。

さすがだと思う。

 

「今日私ノープランなんだけど、どうしよ」

 

電話の奥で歩の少し驚いた声が聞こえた。

 

『うーむ、困ったな……俺もだ』

 

私達は笑い合う。

こんな会話の時間もとても楽しい。

歩となら、一緒にいれば無言も苦じゃない。

結束バンドもそうだけど。

 

「ならさ、今日1日一緒にいようよ。一緒にいる内に何か目的できるかも」

 

『なるほど、一緒にいれば意見も交わせる。今から計画を練る手間も省けるな。そうしよう』

 

「何時集合にする?」

 

『リョウに任───』

 

「分かった。私が決める」

 

凄く早く反応できたと思う。

任せるなんて言われたら、答えは1つしかない。

 

「今からで」

 

結構無茶振りをしてる自覚はある。

虹夏とか郁代だったら「休日の朝6時から会おう」なんて絶対言わない。

 

『……ふはは!分かった。駅で待っていてくれ』

 

そんな無茶振りに笑って返してくれるのは、歩の心が広いんだと思う。

私がそれに甘えてるのもあるけど、結果として歩が良いって言うなら気にしない。

 

「……行こう」

 

ドアを開けるだけなのに、とてもワクワクした。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

こんにちは、喜多です。

今日は伊地知先輩と一緒に後藤さんの家でライブで着るTシャツのデザインを考えに来ました。

 

「リョウ先輩も来ればよかったのに」

 

「誘ったんだけどね……おばあちゃん、今夜が峠なんだって」

 

「えっ!?大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫大丈夫。おばあちゃんの峠、今回で10回目だから」

 

10回目……?

 

「それって……」

 

「おばあちゃんはまだ実在してるからまだいいよ。いやよくないけど」

 

リョウ先輩は他にも、犬なんて1度も飼ったことがないのに「愛犬のペスが手術することになった」だとか、「生き別れの双子の妹から連絡がきた」とか、「お父さんが事故で記憶喪失になった」とか、色々な嘘をついてるそうです。

 

「そんなすらすらとバラエティ豊富な嘘が思いつくなんて……さすが先輩!悪女で素敵!」

 

「リョウ狂いもここまで来ると……」

 

伊地知先輩は呆れていた。

どうしたのかしら?

 

「着きました!ここです!」

 

そんなこんなで後藤さんの家に到着しました。

そこは、「歓迎!結束バンド御一行様 癒しのひと時を皆様に……」と書かれた横断幕の吊るされた一軒家でした。

 

「後藤さんの家って旅館でしたっけ?」

 

「知らないけど……どっからどう見ても普通の一軒家だよね……」

 

とりあえずインターホンを押して後藤さんに来たことを伝えました。

 

「ぼっちちゃん来たよー!」

 

「こんにちはー」

 

お家に入らせてもらって1番最初に目に入ったのは、星型のサングラスと一日巡査部長と書かれた襷をかけ、お髭を付けて手にクラッカーを持った後藤さんでした。

 

「イエーイ!ウェッ、ウェルカーム!!」

 

パン、とクラッカーを鳴らした後藤さんは、数秒して倒れ込んじゃった。

そしてヨロヨロと立ち上がりました。

 

「ど、どうぞ……」

 

「はーい」

 

「お邪魔しまーす!後藤さん、映画持ってきたよ!」

 

「こら、遊びに来たんじゃないんだからね!」

 

伊地知先輩の言葉を聞いて、後藤さんは妙な反応を見せました。

どうしたのかしら?

気になっても特に触れず、私達は後藤さんに連れられて2階の部屋の前まで来ました。

そして扉が開けられた時、変な光が見えて思わず目を瞑ってしまいました。

 

「こ、これって……」

 

目を開けて後藤さんの部屋を見ると、ナイトプールの写真やミラーボールだったり、風船が飾り付けられていました。

 

「す、すみません……全部片付けますね……」

 

一つ一つ風船を割っていく後藤さんを見て、私と伊地知先輩は少し遊んでいくことを決めました。

私としてもとても嬉しいです!

 

「じゃ、じゃあ飲み物取ってきます……楽にしててください」

 

「は、はーい」

 

後藤さんがいなくなり、部屋の中は私と伊地知先輩の2人だけになりました。

 

「それにしても、すごい飾りつけだね」

 

「はい……」

 

私は部屋を見回して、少し疑問を感じました。

 

「でも、ギターとかエフェクターとか、何もありませんね」

 

「だね」

 

「私勝手にもう少しロックな感じの部屋してるのかと思……」

 

言葉の途中で部屋の壁際に置かれた盛り塩を見て、思わず止まっちゃいました。

 

「これは……ロック?」

 

「う、うん、ロックしてるね〜……」

 

伊地知先輩は誤魔化すように他のロックなところを探し始めました。

すると大量のアー写が。

 

「!?」

 

「あれ?なんでこんなにアー写がたくさん?」

 

その時、押し入れから物音が。

 

「「えっ!?」」

 

その直後に壁のポスターが剥がれて大量のお札が出てきました。

よく見ると封印と書かれていました。

 

「「ええっ!?」」

 

私達は思わずお互いに寄り合って怖さを紛らわせました。

もしかしたらとんでもない所に足を踏み入れてしまったのかも……なんて思っていると、後ろから人の声が。

 

「「うわっ!?」」

 

いよいよ本物が出てきたかと思い、咄嗟に振り向くと、そこには小さい後藤さんとワンちゃんがいました。

 

「この写真部屋にい~っぱい貼ってたんだよ。すっごく気に入った写真なんだって」

 

「え?」

 

「でもお母さんに目がチカチカするから剥がしなさいって止められたの。あとそっちのお札とかはお姉ちゃんがこの前お化けに取り憑かれたから貼ってあるんだ~。以上!説明おしまい」

 

「ワンワン!」

 

ひょっとしてこの子は……。

 

「もしかして……後藤さんの妹?」

 

「はい!はじめまして。後藤ふたりです。犬はジミヘン」

 

後藤さんをショートカットにしたような見た目のその子は、ワンちゃんと一緒に元気よく自己紹介しました。

 

「可愛い〜!」

 

「おいでおいで!」

 

「わーい!」

 

飛び込んできたふたりちゃんはとても可愛くて、ギターでムニヨンズの曲を弾いてと言われました。

今はまだできないから今度来る時までに練習しとくねと言うと、

 

「絶対だよ!次いつ来る?」

 

と言ってきました。

とっても可愛いです!

 

「あはは、ジミヘンは人懐っこいね〜!」

 

伊地知先輩も楽しそうに遊んでいて、微笑ましいです。

戻ってきた後藤さんはふたりちゃんがいないとはっちゃけられないらしく、ふたりちゃんに何か耳打ちした事で私達はお別れしました。

 

「姉妹仲良しなのね!」

 

「えっ今のやり取りのどこでそれ感じた?」

 

仕切り直してTシャツのデザインを始めた私達は、各々結束感のあるTシャツを考えていきます。

伊地知先輩は物販で稼ぎたいそうで、気合を入れるよう言ってきました。

 

「できました!」

 

私は「友情・努力・勝利」がコンセプトのTシャツを。

 

「お”あ”っ!」

 

後藤さんはそれを見るや否や、ぼっちタイム(伊地知先輩命名)に入っちゃいました。

私達がどうしようか迷っていると、後藤さんの親御さんのご厚意でご飯を食べさせてもらうことになりました。

 

「たくさん食べてね」

 

「ありがとうございます!」

 

ぼっちタイム中の後藤さんも一緒にソファに座らせて、私達はとても美味しいご飯を楽しんでいました。

 

「2人はひとりと同じ学校なのかしら?」

 

「えっと、私は同じで、伊地知先輩は下北沢高校の2年生です」

 

「あらそうなの。学校が違うのにバンドを組めるなんて凄いわね。もしかしてあの子が1人でいる所に偶然……とか?」

 

伊地知先輩はちらっと私を見て、後藤さんのお母さんに結束バンドの始まりを話しました。

 

「実は……ライブ当日にギターの子が逃げちゃって……」

 

「あうっ!」

 

こ、これはまさか……。

 

「その時に偶然ギターを背負った娘さんを見つけて、半ば無理やりお願いして……」

 

「ご、ごめんなさい……逃げたギターです……」

 

「喜多ちゃん逃げたんだー!」

 

はうっ!

ふたりちゃんの悪気がないからこそ刺さる言葉が……!

 

「ふ、ふたりちゃん、でもすぐ戻ってきてくれたんだよ」

 

「すみません伊地知先輩……ドタキャンなんてしてしまうダメ人間で……」

 

「き、喜多ちゃん!もう気にしてないって!ほら、今はちゃんといてくれてるから!」

 

伊地知先輩の優しさが沁みる……。

やだ、ちょっと涙出てきちゃった。

 

「うぅ……」

 

「そ、それにさ!それがあったから六弦さんに会えたんでしょ!?」

 

ハッ!

そ、そうだった!

 

「いつも嬉しそうに話すじゃん!だからそんな落ち込まないで!」

 

「すみません伊地知先輩!立ち直りました!」

 

元に戻った私を見て、伊地知先輩は涙を拭っていました。

 

「よかった……ほんとよかった……!あのままだったら手に負えなかった……!」

 

「六弦さんってだれー?」

 

「六弦さん……歩さんはね、凄い人なの。私を結束バンドに戻してくれた人だから」

 

「……よければ聞かせてくれない?その六弦さんって人のこと」

 

後藤さんの親御さんは結束バンドの事をとても興味深く思ってくれているようでした。

私は結束バンドの皆しか知らないこと、つまり歩さんと私の出会いを話すことにしました。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「おはよ、歩」

 

「あぁ、おはよう」

 

駅に着いた歩を見つけて、私の方から駆け寄る。

今日1日一緒。

ふふ、嬉しい。

 

「ありがとう。1日くれて」

 

「気にするな。休日を目的なく1人で過ごすのは少し退屈だからな」

 

「そっか」

 

「それに、リョウといると面白くなる」

 

歩の言葉を聞いて、ちょっと心が安らぐ。

 

「私も歩といれて嬉しい」

 

「ふっ、光栄だ」

 

私達がしばらくその場で話していると、私のお腹が鳴った。

 

「まずは飯にしようか」

 

まずはご飯を食べに行くことにした。

 

「む……できれば飲食店が良いものだが……この時間だ。コンビニ位しかないな」

 

人が少ないから辺りが見回せる。

道路にはほぼ私と歩だけ。

自転車漕いでる人はいたりするけど、すぐ視界から消えるから、私達しかいないように感じる。

 

「私はいいよ?コンビニでも」

 

「……俺の事情だが、コンビニ飯では足りないんだ」

 

「あー……」

 

しょうがないか。

体大きいし、運動部だし。

 

「なら……待つしかないかな」

 

「先にコンビニで飯食っとくか?」

 

「ううん、折角2人でいるんだし、一緒に食べたい」

 

その為なら全然待てる。

歩はそれを聞いて少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「あ、牛丼屋とかならやってるんじゃない?」

 

「牛丼屋か……いいな」

 

決まりだね。

 

「じゃあ、行こっか。この辺は私の方が詳しいから、エスコートしてあげるよ」

 

ちょっとふざけて手を差し伸べると、歩は首を傾げた。

 

「これはあれか。イケメン女子というやつか」

 

イケメン女子……たまに聞くような聞かないような。

曖昧な記憶を探っていると、歩は私の手を握った。

 

「これでいいのか?」

 

「うん、これがいい」

 

「よろしく頼む」

 

簡単に言うと、手を繋いだ。

郁代が見たらびっくりすると思うけど、今は郁代どころか誰もいない。

だから気兼ねなく繋げる。

朝に集合してよかった。

 

「ふふ、我ながら名案」

 

仲良く手を繋ぎながら、私達は近くの牛丼屋を探した。

チェーン店なだけにすぐ見つかったからよかった。

店に入ると空いていて、やっぱり私達しかいないみたいだった。

 

「何頼む?今日はお金あるから奢ってあげられるよ?」

 

「だ、大丈夫だ」

 

メニュー表を開くと、ひとえに牛丼なんて言ってもさすがチェーン店。

色んな種類がある。

全部大きいからお腹いっぱいになれそう。

注文した牛丼は、すぐに私と歩の胃の中に消えちゃった。

 

「美味しかった」

 

「俺も満足だ」

 

「じゃあ、何するか決めよう。食後の運動も兼ねて」

 

店を出た後、私達は当てもなく歩いた。

何をするか話し合いながら。

散歩みたいな感じだけど、話していると楽しいから時間は結構早く経つ。

 

「目的なく歩くというのも、中々いいものだな。……まぁ案が出ないだけなんだが」

 

「……うん」

 

「無言が苦じゃない」って言うのに通ずるものがあるのかも。

いるだけで楽しい気分になれるから、特に何かしようなんて強く思うこともない。

 

「今日はさ、このままブラブラしとく?」

 

「む……それもありだな。腹が減ったら、近くの飯屋に行こう」

 

「そうだね」

 

しばらく歩いていると、ガードレールのないタイプの歩道に出た。

歩に助けられた場所もこんな感じの道路だったから、トラウマになってる。

思わず目を瞑っちゃうし、足も止まっちゃった。

多分今の私は、歩の手も強く握っちゃってると思う。

1人じゃないからマシだろうけど、それでも震えてる。

汗だって少し出てる。

 

「リョウ、歩けないなら道を変えるか?」

 

私が怖がり過ぎてるからだと思うけど、歩は優しい声で言ってくれた。そんなに気を遣わせたいわけじゃないのに。

 

「……大丈夫。ここでいいよ」

 

少し歩の近くに寄ると、安心する。

深呼吸して心を落ち着かせる。

強くなってた手を握る力も、少し抜けた。

 

「……ごめん、止まって。行こう」

 

返答がなくて顔を上げると、歩は「すまん」って言った後、私の肩を抱き寄せて歩道側に寄せた。

元々歩道側に寄せてくれてるのに、なんでだろ?

 

「リョウが来ずとも、俺の方から行く。こっちは車道だ。少しでも車道……車を遠ざけた方がいい」

 

「!」

 

これだ。

私はこの優しさに救われたんだ。

歩は説明下手くそだし鈍感なところもあるけど、私はこの優しさが好き。

 

「……ありがとう」

 

「当然のことだ」

 

結局、この道路はちゃんと歩けた。

少しは怖くなくなったと思う。

めちゃくちゃ歩にくっついたけど。

 

「ごめんね、腕引っ張っちゃって」

 

「気にするな。むしろよく歩けたと褒めるべきところだ」

 

そう言って軽く笑う歩は、凄く年上の人みたいに見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、なんで「すまん」って言ったの?」

 

「急に女性の肩を触るのは良くないだろ?」

 

「あー……」

 

別に良いのに。

 

 

 

 

 

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