灼熱ろっく!   作:フェンネル

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六弦と高谷と廣井きくり

その後、リョウと色々な場所を歩く中で、六弦はリョウの好きなバンドの「SICKHACK」のことや結束バンドのライブについて聞いたり、夕食を共にしたりと楽しく過ごしていた。

その中で、

 

「そういえば歩はさ、郁代とどれぐらい仲良いの?」

 

という質問をリョウにされた時、

 

「電話する程度には」

 

と答えた。

それを聞いた時、リョウは思った。

 

「(羨ましい。私も歩の声聞きたい)」

 

確かにそう思ったものの、ここで「一日をくれるだけでもとても贅沢なのに、これ以上時間を取るわけにはいかない」と彼女の自制心が強く働いた。

 

「……そっか。楽しそうだね」

 

それ故に、リョウはその気持ちを言葉に出さなかった。

 

「あぁ。だが深夜まで電話しようとするから、そこは止めたい」

 

「郁代はすごく頑張り屋さんだから」

 

「(頑張る方向が違うような気がするが……)」

 

ここでリョウはふと、前にこんなことを言っていたなと喜多の言葉を思い出す。

 

『歩さんとは少しでも長く一緒にいたいし、話していたいんですよね』

 

他にも、

 

『通話してる時って、お互いにしか意識がいかないじゃないですか。だから、あの時だけは歩さんが私だけを見ていてくれる気がして、とても嬉しくなるんです』

 

とも言っていたなと。

 

「……愛されてるね」

 

「うん?」

 

「(……私も似たようなもの……かな?)」

 

リョウがそう考える中で、六弦は喜多について考えていた。

 

「郁代は……まぁ、初めて会った時から随分強くなったように感じるな」

 

「強くなった?」

 

「あぁ。初めて出会った時はとても凹んでいてな。何事かと思わず立ち止まったものだ」

 

六弦から喜多との出会いを詳しく聞いたリョウは、喜多と六弦、両者の話を比較した。

その結果、喜多の方が六弦を褒めつつもネガティブに話していることに気がついた。

六弦を褒めながら話しているからこそ目立つのである。

 

「(……どこかで自分の事嫌ってるのかな?)」

 

リョウはそんなことを考えながらも、本人にしか分からない問題に対して、深く考える真似をしなかった。

 

「あ。そういえば聞きたかったんだけど、虹夏とはどこで仲良くなったの?」

 

「この間STARRYの下見に行ったんだが、道中虹夏が袋を抱えて辛そうだった所を偶然な」

 

「その後オムライス食べさせてもらったんでしょ?」

 

「あぁ、とても美味かった」

 

「だから歩はあの時私の敵になったんだ」

 

そう言われ、六弦はあの日虹夏から聞いた話を思い出す。

金を返す云々の話で、リョウがひとりから金を借りているのに返すことをしなかった、という所までは虹夏から聞いていた。

 

「あの状況はリョウが悪いとしか言えんぞ」

 

「むぅ……」

 

可愛らしく頬を膨らませて六弦を睨むリョウ。

怖さが全くないせいでただの愛らしい姿になってしまっていた。

そしてすぐいつもの真顔に戻った。

 

「ぼっちは?」

 

「カバディについて詳しいからな。とても会話が弾んだ。……まぁ、後藤に関してはどちらかと言うと高谷がな」

 

「あー、確かに」

 

高谷がひとりに興味を持っていることを、奏和高校に初めて行った時からリョウは知っていた。

そして多くは言わず察しながら、少し笑った。

 

「(……そういえば、今何時だろ)」

 

「(結構暗いな。一応見ておくか)」

 

2人とも時計を見た。

その直後、リョウは寂しそうな顔になった。

理由は、現在の時間にあった。

 

「……もう帰らないと」

 

「そうだな。俺もあまり遅いと明日に響いてしまう」

 

「今日は楽しかった」

 

「そうだな。俺も楽しかった」

 

別れ時であり、六弦の翌日の予定のためにもリョウは気を遣った。

それでも、六弦の手を頑なに離そうとせずずっと握っていたのは、隠しきれない思い故だと六弦は容易に理解してしまう。

 

「リョウよ、機会はまたある。次の休みは結束バンドのライブだ」

 

諭すように六弦が説得したことで、リョウは名残惜しそうに震えながら手を離した。

 

「歩」

 

別れ際、リョウは言った。

 

「今日はありがとう」

 

「ふ、俺の方もな」

 

振り返り、駅のホームへ去っていく六弦の背中を見送り、見えなくなったところでリョウも帰宅路を歩き始めた。

 

「……言うの忘れてた」

 

六弦と別れた後、リョウは家に帰る途中でロインを送った。

 

『また行こうね』

 

『勿論だ』

 

六弦が早く既読し、返信を送ってきたのを見て、リョウは口角を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……デート」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

遂に迎えたライブ当日。

高谷と六弦は2人して、残念そうな顔をしていた。

 

「さーて六弦さん、今日はいよいよライブ当日!……ってなるはずだったんですけどね」

 

その理由は、よりによってライブ当日に台風が直撃するというアクシデントが発生していたことだった。

この天気では外を歩く者の方が少ない。

高谷と六弦はお構い無しにSTARRY前まで来たものの、道中の人通りの少なさから今日来るであろう客の人数を察してしまった。

 

「4人が心配っすね」

 

「誰もがお前のような精神構造をしている訳じゃないからな」

 

何にしても結束バンドの演奏を楽しみにしているのは紛れもない事実なので、2人は入店した。

 

「半分以下になっちゃいましたね……お客さん」

 

「しょうがないよ!切り替えてこ!」

 

店に入って1番最初に目に入ったのは、3人に明るく振る舞い、元気づける虹夏の姿だった。

 

「六弦さん、どう思います?」

 

「さぁな。あのバンドにしか分からんこともある」

 

「ま、そうっすよね。皆おはよー!」

 

「あ、高谷さん!六弦さん!」

 

高谷が明るく挨拶すると、1番に笑顔で反応したのは虹夏で、他の面々は嬉しそうにしつつも、どこか浮かない様子だった。

実際の所は、虹夏にも強がっている部分はあった。

 

「歩さん……」

 

喜多は六弦の姿を見て笑顔を浮かべるも、今日の天気から沈んだ表情に戻ってしまう。

六弦は喜多の方へ近づき、しゃがんで目線を合わせた。

 

「郁代、久しぶりだな」

 

「はい……」

 

喜多はいつもの明るさはどこへやら、俯きながら答えた。

 

「そう気を落とすな。精神面での負担は、パフォーマンスに大きな影響を及ぼす」

 

「そう、ですよね……でも、不安なんです……」

 

喜多は、何かに焦っている様子だった。

 

「お客さんをガッカリさせちゃいそうで……」

 

喜多は練習が水の泡になってしまうことに、どうしようもなく恐怖を抱いていた。

その感覚は、六弦が部活で感じるものによく似ていた。

 

「郁代。俺からお前に一言いいか?」

 

「はい……?」

 

それは、大会等で倒した敵チームの部員が持っていたもの。

全てを懸けて練習をしたとしても、圧倒的な強者の前には無力で、残酷にもねじ伏せられてしまう。

つまるところ、終わりを迎えるのだ。

 

「バンドの4人もそうだが、中でも郁代は必死に練習していただろう。そんなお前を見て、がっかりする者などいるはずがない」

 

「そんな……私なんて……」

 

その言葉を聞いても、喜多自身の自己評価の低さから、六弦の思いは伝わらずにいた。

 

「お前がいくら自分を卑下しようとも、少なくともここに1人、お前の凄さを知る人間がいることをわかってくれ」

 

六弦は喜多の肩に手を乗せ、彼女を鼓舞するように伝えた。

 

「歩、さん……」

 

それを受けて、喜多は六弦の手を掴み、自分の頬に当てた。

両手で包むように手を握りながら、安心したように笑顔を取り戻していった。

 

「……ありがとうございます」

 

「ふ、戻ったな」

 

「はい……!」

 

そんな時、高谷はひとりの方へ駆け寄っていた。

 

「よ、ごっちゃん」

 

「た、高谷さん……」

 

ひとりもまた、高谷の方へ駆け寄る。

 

「どした?そんな顔して」

 

「あ、あの、ごめんなさい……」

 

ひとりは、客の少なさに堪えているようだった。

 

「え、何が?」

 

「へっ?そ、その、お客さんが少ないから───」

 

「あのねごっちゃん」

 

ひとりがこれから言おうとしていたであろう「過度な期待をさせてごめんなさい」という台詞を言わせないために、高谷は遮るように話し始めた。

 

「初めから爆発的な人気持ってるやつなんて滅多にいないよ。積み重ねてきたことに意味があるから、ファンもついてくる。君らこれがほぼ初めてでしょ?ならいないのが普通だよ」

 

水泳で日本一に輝いた経験のある高谷だからこそ、頂点を知る者としてひとり達に話すことができる。

喜多との会話を終えた六弦も、腕を組みながら高谷の話を聞いている。

 

「結果も、ファンも、魅せた後から来るんだ」

 

その言葉はライブ界隈についてほぼ知らないながらも、高谷自身の経験が語る事実そのものだった。

 

「バンドってのは、個性を出すんでしょ?客の人数に左右される心持ってる奴がてっぺん目指すのなんて、お門違いもいいとこだよ」

 

4人の顔が苦々しいものになった。

実際、客の人数を重視している節はあり、それによって精神面が不安定になっているのも事実だった。

 

「本番なんでストレスばっかりだよ、何でもね。だからこそ、そこで魅せた奴が上に行く」

 

カバディで全国レベルの技術を持っている六弦も、強者が相手の時は集中して相手を見るが、それ以外はほぼ興味を示さない。

その点においては、高谷と似た精神構造とも言える。

 

「俺は正直、お客の人数なんかどうでもいいんだ」

 

「ど、どうでもいい……」

 

高谷と結束バンドの4人では、思うことや抱えるものが違う故の意見の食い違いも当然ある。

4人にとって客がどれ程大事であるかを、高谷自身も分かっていないわけではなかった。

 

「前聞いたチケットノルマってやつの人数分、客がいないのもわかる。でも、俺にとってのメインは君らだ」

 

「メインは……私達」

 

「そ。だから客の人数でごっちゃんや皆に失望したりなんてしないよ」

 

そして、その言葉は他ならぬひとりに大きく刺さった。

ひとり本人が人一倍客の人数を気にしている節が少なからずあったから。

 

「それに俺は、ごっちゃんのギターを1番楽しみにしてる。前言ったでしょ?」

 

「1番……!」

 

「勿論”4人の演奏”も、すげぇ楽しみだけどね」

 

高谷の言葉に、リョウ、喜多、虹夏の3人も少し胸を打たれたようだった。

 

「(私のギターを1番に……!結束バンドの演奏も楽しみに……!)」

 

以前と同じように、その言葉でひとりは少なからず落ち着きを取り戻すことができた。

 

「(高谷の方が、こういうのは適任だな)」

 

「俺からは終わり。次は六弦さんから」

 

「……俺から言えることは少ないが、高谷同様、客の人数で期待外れだなどと思うはずもない」

 

六弦は、4人が今日のライブに向けてどれだけ練習に打ち込んでいたかを、少なからず知っていた。

リョウと過ごし、喜多と話す中で。

 

「あそこまで楽しそうにしていては、本番も待ち遠しくなる」

 

部活の中で高谷から聞くひとりの話。

たまにするひとり本人との会話。

そして、結束バンド全員から聞く虹夏のこと。

 

「俺達は結束バンドを第一に応援している。そこに嘘などひとつもない。それを忘れないでくれ」

 

六弦と高谷の言葉を聞いた結束バンドの4人は、それを一縷の支えにし、少しでも良いパフォーマンスができるようにと気持ちを切り替えた。

 

「とはいえ、状況はよくない」

 

「たしかに……」

 

高谷は後から入ってきた別のバンドのファンの声に耳を傾ける。

 

「ねぇ。1番目の結束バンドって知ってる?」

 

「知らなーい。興味ない」

 

「観とくのたるいね」

 

「……ですって、六弦さん」

 

「うーむ……だが、さっきの酔っ払いのように結束バンドのファンとして来ている者もいる」

 

六弦は舞台袖からこっそり客席を覗く4人を見た。

 

「が、実際の所今の評価を変えられるのは4人だけだ」

 

「まぁそりゃあね」

 

「俺達は待つことしかできん」

 

「君らはさ、結束バンドの中で誰推しー?」

 

2人がライブを待っていると、謎の酔っ払いが絡んできた。

よく見ると、先程六弦が言った結束バンドのファンだった。

 

「おねーさんさっきの……」

 

「きくりお姉さんでーす!で、どうなの?」

 

「俺はギターの子っすね。早く見たくてしょうがないっす」

 

一瞬、きくりの目が高谷に向かって鋭く光った。

それを見た六弦は目の前の酔っ払いが只者でないことを理解する。

 

「おーぼっちちゃんに目をつけるとはやるねー!君はー?」

 

「強いて言うなら……ドラムだろうか」

 

「ありゃ」

 

きくりはこの時、六弦が推すのはボーカルである喜多若しくはベースのリョウだと思っていた。

だが予想に反して帰ってきたのはドラム。

 

「その心は?」

 

「……あの4人の中で、大黒柱なのは間違いなく虹夏だと思うからだ。俺達が入ってきた時も1番に明るく振る舞い、3人を元気づけてたしな」

 

「ふーん……」

 

「楽器は見たことがないから分からん。だが結束バンド”全体”を見るならば、俺は虹夏を推す」

 

この意見は、六弦自身が部の長になることを確信してのものだった。

主将として大事なこととして自分の考えるものとはほぼ逆に、虹夏は、とことんメンバーに寄り添う。

 

「あははっ、君ら面白いねー!名前なんてーの?」

 

「六弦歩。こっちは高谷煉だ」

 

「よろしくー!歩くんと……煉くんだね」

 

自己紹介を済ませた直後、高谷の顔つきが真剣なものへと変わる。

その変わりようにきくりがどうしたのか聞こうとするのを六弦が無言で制止し、2人は高谷の表情を見た。

目を閉じて音を聞く高谷。

そうしている間に、結束バンドが舞台に立った。

 

『は、初めまして!結束バンドです。本日はお足元の悪い中お越しいただき、誠にありがとうございます!』

 

『あははー……喜多ちゃんロックバンドなのに礼儀正しすぎー……』

 

空気が冷える。

観客で笑ってくれているのはごく一部。

客の中には見向きもしない者もいた。

 

「固くなっているな」

 

「……はい」

 

それでも関係なく進む時間と共に、結束バンド4人揃って初のライブが、遂に始まった。

 

「不味いことにならなきゃいいけど……」

 

 

 

 

 

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