灼熱ろっく!   作:フェンネル

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江ノ島

結束バンドのライブを見た後、高谷と六弦は4人に感想を言うのを忘れていた。

言わなければならないという訳でもなかったが、高谷の中では妙に引っかかっていた。

 

「(やっぱえげつない音だったな……)」

 

思い出す度、脳内に鮮明に映るSTARRYでの光景。

ギターを弾いて客の視線を一身に引き寄せていた時のひとりは、正しく「ヒーロー」だった。

 

「(性格ってのは直すの難しいのかな?」

 

高谷はあんなに凄い存在でありながら、どうもネガティブな様子になっているひとりを思い出した。

同時に、何故ああなっているのかという途方もない疑問も浮かんでいた。

 

「(まぁ……ごっちゃんはあれでいいか)」

 

そんな時、高谷の元に1本の電話が。

高谷は画面をよく見ず応答した。

 

「はい?」

 

『た、高谷さん、江ノ島行きませんか?』

 

「へ?」

 

珍しくひとりの方から電話してきたと思いきや、あまりにも急なことを言われ、思考停止した高谷は言葉を選んだ。

その理由はひとりの思考回路にあった。

 

「ちょーっと、急過ぎない?」

 

それを聞いたひとりはこれから断られるのだと思ってしまっていた。

 

『……あ、私なんかとお出かけなんて嫌ですよねごめんなさい』

 

「いやいや!全然嫌じゃないよ!ただなんで江ノ島?」

 

『え、えっと、結束バンドの皆が誘ってくれて……』

 

高谷は察した。

夏休みの思い出作りのために行くこと、恐らく今日までひとりが遊びに誘われていなかったであろうことを。

 

「ごっちゃん。俺はごっちゃんのこと嫌いじゃないから、落ち着いて聞いてね?」

 

『な、なんですか?』

 

「それは結束バンドの皆と行った方が良い」

 

そう言った後、電話の奥でひとりの動揺した声が聞こえたので、高谷はひとりが早とちりしてしまう前に続けて話した。

 

「誘ってくれたのは嬉しいけど、4人でいる時間も大事にしてほしいから」

 

『4人でいる時間を……』

 

「うん。4人でいるから感じることだってあると思うよ」

 

その言葉でひとりの何かが決まったのだろう。

 

『……わ、わかりました。4人で行ってきます』

 

「行ってらっしゃい」

 

ひとりは数少ない友人だからこそすぐに誘っていたが、友達間ではなくバンド間で過ごす事も大切なのだと、自分の心に言い聞かせた。

 

『お、お土産買ってきますね』

 

「……うん。楽しみにしてる」

 

電話を終えた後、高谷は自主練のため学校へ向かった。

道中ひとりと話した内容を思い出し、何となく携帯で江ノ島について検索していた。

 

「展望台……たこせんねぇ……お、塩ソフト……へぇ」

 

この時高谷は妙に江ノ島が頭から離れなくなっていた。

そして偶然にも校門前に到着すると、先に来ていた且つ今から帰ろうとする六弦とばったり会った。

 

「あ、六弦さん」

 

「高谷。自主練か?」

 

自主練ならば付き合おうとでも言いたげな六弦を見て、高谷は目的を変えることにした。

 

「六弦さん、江ノ島行きません?」

 

「江ノ島?何だ急に」

 

「俺1人じゃ面白くないっすよ。せっかく行くんだから誰かといなきゃ」

 

「俺は構わんが……他の奴は誘わなかったのか?」

 

「だって六弦さんが一番面白いっすもん。それに、皆付き合ってくれないでしょ?」

 

六弦の顔が引きつる。

事実であるだけに何も言えなかったのだ。

 

「い、一概にはそうとも言い切れんぞ?」

 

「いいっすよ変なフォローしなくて」

 

高谷の性格上、反感を買うことも少なくない。

もっともそれは六弦もなのだが、この状況においては関係なかった。

 

「(うーむ、これは先輩として付き合わねばなるまい)」

 

「六弦さん?」

 

「高谷よ、江ノ島に行くのは何時だ?」

 

「今からですけど」

 

「……よし、行くか」

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「次たこせん買いに行きましょ!」

 

そして高谷と共に江ノ島に来た六弦だったが、高谷の方が楽しんでおり、振り回されてしまっていた。

 

「(楽しんでるならばいい……のか?)」

 

「六弦さん、塩ソフト買います?」

 

「よく食うな」

 

「食う量なら六弦さんの方がおかしいっすよ」

 

その体躯から想像できる通り、特定の時以外、六弦はよく食べる。

 

「で、どうします?」

 

「今は摂る食事を決めてる。大会も近いしな」

 

「ほんとストイックすね」

 

周りから「人間らしくない」と言われる程自分に厳しくしている六弦だが、高谷にしてみれば慣れたものなのでそれ以上は何も言わなかった。

 

「ところで、何故江ノ島を選んだ?」

 

「あー、実は今日ごっちゃんに誘われて」

 

「後藤に?なら俺と来ているのはおかしいぞ」

 

高谷はひとりと話したことをそのまま六弦に伝えた。

 

「4人でいるから……か。それもそうだな」

 

「ごっちゃんにはあっちの方を大事にして欲しいんで」

 

そう言う高谷の顔は、これからの結束バンドに期待している表情だった。

 

「だから会わないようにしましょう」

 

「…………」

 

「ま、俺もなんだかんだ江ノ島が気になったから───」

 

「……ふ」

 

ひとり、ひいては結束バンドへの思いやりを見て、六弦は少し笑った。

 

「六弦さん?」

 

「なんでもない。次はどうする?今日はお前に一日付き合ってやる。好きにしろ」

 

「んじゃ展望台行きましょ」

 

階段の段数が多く、エスカレーターで行く者が多い中、部活で培った体力により、2人は特に疲れる様子もなく展望台に入った。

夏なので多少の汗はかいている。

 

「うぉ、景色すげぇ!」

 

「さすがは名物と言ったところか。壮観だな」

 

2人は景色を目に焼きつける。

高所というのも理由の1つではあったが、階段を上った故の感動もまたあった。

 

「涼しいし最高っすね!」

 

「あぁ。滅多に見れるものでは無い。写真に残すのも良いやもしれんな」

 

携帯を取り出してカメラで写真撮影をする高谷。

六弦もせっかくの機会だと自らの携帯を取り出し、カメラを開こうとした時。

 

「……充電が無い」

 

「えぇ……?充電してなかったんですか?……確か六弦さん、しばらく携帯触ってなかったような」

 

「……まぁ、体育館に行くことができれば問題は無いからな」

 

先程六弦が言っていた通り、今の時期は大会が近い。

故に練習にも熱が入っていたことから、六弦は携帯を見るとがなかった。

そもそも携帯を見る時間を練習に費やしていたのだ。

 

「(この人変なところでギャグみたいなポカかますな……)現代人で携帯何日も触らないって相当っすよ?」

 

「ぬぅ、夏休みだからと油断していた」

 

「どうします?俺モバイルバッテリーないんですけど」

 

「……すまんが後で景色の写真を送ってくれ」

 

「うーす」

 

あくまで高谷としか来ていないため、携帯が使えなくとも特に問題は無かった。

展望台を一通り満喫した後、高谷はまたアイスクリームを買っていた。

 

「さっき偶然耳にしたが、この辺はトンビが来るらしいから気をつけろよ」

 

そう言ったそばからトンビが高谷のアイスをひったくろうと飛んできたが、高谷は容易に回避した。

 

「音が聞こえてるんで当たらないっすよ。あ、六弦さんちょっと持っててください。俺トイレ行ってきます」

 

高谷から渡されたアイスを持ち、帰ってくるまで待つ六弦。

その最中またもやトンビがかかってきたことがあった。

 

「ん?」

 

六弦と目が合った途端、トンビは一気に空高くへ飛んでいった。

 

「なんだ?」

 

芸術点の高めな鳥の動きを見れたことで新手の観光名物かなどと思う六弦を、高谷はトイレから戻った後隠れてみ見ていた。

 

「(あの鳥思いっきり六弦さんから逃げてたな。ま、そりゃそうか)」

 

高谷にしてみれば、六弦からひったくろうと考える方が無謀だった。

何故なら高谷は音を聞いて回避するが、六弦は素手でトンビを捕まえそうな雰囲気があったからだった。

 

「あざっす。次どうします?」

 

「うーむ、粗方行くところは行ったからな。飯でも食いに行くか?」

 

「……あれ?大丈夫なんすか?」

 

先程摂る食事を決めてると言っていたのに、何故か外食に誘う六弦。

高谷は少し引っかかったので質問した。

 

「制限してるんじゃ」

 

すると六弦は、思い出したようにそっぽを向いた。

 

「……熱に浮かされたかもな」

 

「……はは」

 

なんだ。

あまり顔に出さないだけでこの人も楽しんでたのか。

そう思えば自然と笑ってしまう高谷だったが、喜んで承諾した。

 

「でもさっき色々食ったんで時間潰しません?もっかい展望台とかどうですか?」

 

「そうするか」

 

2人は時間潰し、そして高谷の食後の運動がてら、もう一度展望台への階段を上ることにした。

 

 

 

 

 

○○○○○

 

 

 

 

 

「ふぃー、2回目となるとちょっと楽っすね」

 

「慣れだな」

 

周りがゆっくり上る中2人は平然と上っていた為結構浮いていたが、カバディで頂点を目指しているため基礎体力は常人のそれではなかった。

 

「エレベーターエレベーター……っと」

 

比較的空いていたのですぐに展望台へ上がることができた。

2人は2度目でも反応を薄くすることなく景色を楽しんでいた。

 

「やっぱ写真も良いっすけど自分で見たいっすよね」

 

「ついさっき来たとは思えん感動だ」

 

「いやー、さすが江ノ島……ん?」

 

景色を楽しむ中で、少し離れた所から聞こえる声を高谷の耳が拾った。

 

「……六弦さん、とりあえず下りましょ」

 

「なんだ、もういいのか?」

 

「横見てください」

 

「横?なん───」

 

六弦がちらりと目を横にやると、2人を凝視する赤髪とアホ毛とピンク色のジャージが。

めちゃくちゃ目が合ったことに加え、互いに同じタイミングで横を見たため、一瞬時が止まった。

 

「そういえば元々は後藤に誘われていたんだったな」

 

「……まぁ、俺が江ノ島行こうって言ったのが悪いっすね、これは」

 

4人の時間を大事にしろと言っておきながら結果として合流してしまっていた。

高谷は現状を心の中で嘆いた。

 

「歩さん!」

 

見つかるや否や、六弦は喜多に迫られていた。

 

「何日もロインの返信なくて心配したんですよ!」

 

喜多はご立腹の様子だった。

六弦はロインと聞いて「携帯が関わっている=自分は何日か携帯に触れていない=詰み」であることに気づいてしまった。

 

「喜多ちゃん、六弦さんの話聞いてあげてくれない?色々あったんだ」

 

「すまん高谷。郁代、聞いてくれるか?」

 

「……はい」

 

六弦の話を聞いて、すぐにモバイルバッテリーを出した喜多。

 

「……ありがたく貸してもらう」

 

数分待って充電がある程度回復したので携帯を見ると、喜多からの連絡件数が他でも群を抜いてとんでもない事になっており、思わず六弦は冷や汗を垂らした。

 

「(どれどれ……え、マジ?ま、前と比べもんになんねー……)」

 

六弦の携帯の画面を見て、高谷は口に出さずとも少し喜多に恐れを抱いていた。

 

「電話も出てくれないし!すっごく寂しかったんですから!」

 

喜多は若干涙目になっており、六弦は柄にもなく大きく狼狽えていた。

 

「(ま、まさかこんなことになるとは……)す、すまん郁代、以後気をつける」

 

「……もうしないでくださいね?」

 

「あ、あぁ……ところでリョウは?結束バンド全員で来ていると聞いたが……」

 

そう言うと、六弦の背中に重さがかかった。

 

「ん? 」

 

振り向くと、顔を押し付けてコアラのように抱きつくリョウの姿が。

 

「歩、なんでロイン無視したの?」

 

「リ、リョウ……」

 

リョウの目は、光を失っていた。

いわゆるハイライトがオフになっている。

 

「……見てなかったんだ。だから───」

 

瞬きすることなく問うリョウと焦る六弦の姿は、どう見ても修羅場だった。

 

「なんで?」

 

六弦は弱った。

大会が近いから見ていなかっただけという理由ではリョウは納得してくれなさそうな雰囲気を醸し出している。

 

「ごめんねリョウちゃん喜多ちゃん。俺が六弦さんとずっと話してたからさー、君らの時間取っちゃったみたいなんだよね」

 

「……高谷さん?どういうことですか?」

 

「最近部活忙しいのもあってさ、校内外問わず会話すること多かったんだ」

 

「……なら許す。でも」

 

高谷の救いの手が入ったことで事なきを得たものの、喜多とリョウは六弦から離れようとしなかった。

 

「罰として歩には今日一緒にいてもらう」

 

「私も!」

 

「……すまん」

 

六弦は本当に申し訳なさから出たような声で呟いた。

それを聞き、喜多とリョウは六弦の背中をさすった。

 

「歩、私もう怒ってないよ」

 

「わ、私もです。寂しかったから、ちょっと意地悪したくなって……」

 

何故か慰められる羽目になっている六弦は、次から携帯を大事にしようと心に誓った。

 

「そういえばごっちゃん。言うの忘れてたんだけど」

 

「はい?」

 

「ライブ、超楽しかったよ。また見に行くから」

 

「……ふぇ!?」

 

高谷の不意打ちの褒め言葉はひとりにクリティカルヒットした。

 

「あう……」

 

ひとりはジャージをぎゅっと押さえ、貰った言葉を頭の中で反響させながら謙遜していた。

 

「え、えへへ……そ、そんなぁ……私なんてまだまだですよぉ……」

 

「(うーん、承認欲求の音がすげー)」

 

ひとりの体から溢れる褒めて欲しい気持ちは、高谷に筒抜けだった。

 

「(でも、褒めるべきだもんな)ほんと、一推しになったよ」

 

「いちっ……!?」

 

高谷の言葉は本心から来るもので、そこに世辞など微塵もなかった。

今のひとりの頭の中では、「一推し」という言葉が駆け巡っていた。

 

「かっこよくてめちゃくちゃ上手いし、あん時のヒーローは間違いなくごっちゃんだったよ」

 

「うへ、へへ……」

 

「そんで期待してた以上にいい音出してた。最高だったよ」

 

もっと褒めてとも言わんばかりに高谷にすり寄るひとり。

傍から見れば完全に奇行である。

高谷はそんなひとりを猫みたいだなと思いつつ、ライブについて褒め続けていた。

 

 

 

 

 

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