新米C級冒険者は最善を尽くす   作:我らに幸あらんことを

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冒険者が強くなるには

 酒屋。鼻につくアルコールのにおいと人々の喧騒にうんざりすることはよくあるが、たった一つだけ気にならなくなる方法がある。それは飲み会に参加してしまうことだ。

 ワイズにある冒険者ギルドには酒屋として飲食スペースがついている。一部の賢い人間は職場と飲みの席を一緒にするなと言ったが、その他大勢の馬鹿どもの反対により今の姿を保っている。基本的に冒険者はバカしかいない。

 古ぼけた椅子に四人、同じテーブルを囲んでいる冒険者がいた。

 ハゲの大男と水色の髪のおっさんたち。それと本作の主人公である黒髪黒目のグレゴリーについては説明する必要がないだろう。もう一人についても知らないわけではないだろうが、改めて紹介させていただく。

 くせっけの赤い髪、吊り上がった眼。赤いロープに身を包み、持ち手に赤い宝石の埋まった大きい杖を持った少女。『赤き超新星』と呼ばれる天才魔術師アマリス・ノーフェスである。

 

「しけたつらしているわねっ」

 

 アマリスは元気な声で三人を激励するようにしゃべり、隣のグレゴリーに対しては背中をバンバンとたたいてさえいた。実際に明るい顔をしているのは彼女だけであり、男三人は沈んだ顔をしている。グレゴリーに至っては頬に真っ赤な紅葉跡を残していた。

 

「僕をこの顔にしたのはアマリスさんですけどね」

 

 ガウント村から帰ったグレゴリーたちは冒険者ギルドに一通りの説明をした。では解散、となる前にアマリスはギルドにやってきて、グレゴリーの頬にキツイびんたを食らわせた後、男三人を引っ張って無理やり席に座らせたのである。

 

「それはあたしを心配させた罰よ、甘んじて受け取りなさい」

 

 ふんっ、と鼻を鳴らし、どうにもご立腹の様子である。

 本気で怒った女の子に対してグレゴリーはどうしたらよいのかわからなかった。ハントは論外として、奥さんがいるジェットでさえお手上げのようだ。こういう場合はとりあえず下手に刺激をしない方がいいらしいということはわかった。

 

「つーか何で俺たちここに連れてこられたんだよ」

「私、妻と娘が待っているんですが」

「はあ?知らないわよそんなの。あんたたちが無事帰ってこれた祝宴として、せっかくあたしが誘ってあげたのに」

「一方的すぎるだろ」

 

 とはいえ、依頼終わりに酒を飲みだすのは冒険者としてよくあることである。むしろ、そのために冒険者になったものも多い。ぶつくさと言いながらも結局全員この祝宴に参加することになった。

 ここにいない冒険者、ルルシスはさすがにあのけがで飲むことはできない。病院に入って治療を受けている最中である。

 ミーミルはまだギルド職員に捕まっている。というのも、ミネシスウルフを倒した後、何の相談もなくたった一人でガウント村に向かったらしく、独断で動いたこと、連絡をしなかったこともろもろで説教を受けている。本人の「愛ゆえに仕方なく」という言い訳も、説教が長引く理由の一つだろう。

 

「グレゴリー、あんたがやりなさい」

 

 グレゴリーは最初何を言っているのかわからなかったが、アマリスがジョッキを手に高々と上げていたことからすぐに察する。

 

「えっ、ああ、はい。それでは皆様、乾杯」

「「「乾杯」」」

 

 ひとまずのどを潤すも、アマリスの目的はバカ騒ぎをすることではないようで、早々に話題を切り出してきた。

 

「で、ガウント村で何があったか話してくれる?」

 

 彼女の鋭い視線に、思わず目をそらす。誰も口を開かないことがわかると、隣にいるグレゴリーの襟をつかみ無理やりこちらを向かせる。アマリスの顔が目の前まで近づくが、彼が目を合わせることはなかった。

 

「あんたがしゃべりなさいよ、あ・ん・た・が!」

 

 圧力に耐えかねたグレゴリーはしぶしぶと事態の全容を語り始めた。その内容をここに書くのはあまりに二度手間のため、あまり事態を把握していない読者諸君はぜひ過去の話を読んでみてほしい。

 一気呵成、とまではいかないものの、途中途中飲み物を傾けながら、ギルドに話した内容とほぼ同じことをアマリスに伝えた。違う点は少しグレゴリーの感情が入っているぐらいか。

 聞き終わったアマリスはふうっとため息をつくと、頬杖をつきながら返答した。

 

「まあ、あんた割と語り手として信用できないから話半分で聞いたけど」

「じゃあ何で僕にしゃべらせたんですか」

「あんたにしか見えない景色があるからよ」

 

 幻覚かもしれないけど。そう言っていたずらっぽく笑った。

 

「それで、あんたが暗い顔をしているのはどうして?ルルシスに大けがを負わせたから?フィストの裏切りに気づけなかったから?それともミーミルに正論を言われたから?」

「全部です。だから僕にはしなけれないけないことがあります」

 

 即答であった。弱気になっている人間らしからぬ強い意志に、グレゴリーを残した三人の目が大きく開く。てっきりいつまでもうだうだと悩んでいると思ったからだ。

 

「僕は強くなります」

 

 『自分の身に余る夢は、あなたの身を焦がすだけ』。ミーミルの言葉は正しい。少なくともグレゴリーはそう思っていた。自分が弱いから、救いたい人を救えない。弱いから、『より多くの人間を救う』という夢を叶えることができない。ならば、強くなればいい。強くなるしかない。

 

「強くなるっつったってな」

 

 ハントは頭を掻きながら、無い脳みそを使って考える。

 

「簡単になれるもんではないだろう。特にお前みたいなやつは。戦士とか魔術師とか役割が決まっていれば鍛え方も受け継がれているんだが」

 

 グレゴリーの戦い方は異質である。腰に下げた鉈を使い接近戦を試みることもできれば、魔術を使用して遠くからの攻撃、また防御をするすべを持っている。すべてに対応できると言えば聞こえはいいが、何もかも中途半端であると捉えることもできる。

 

「でも。逆に十分伸びしろがあるといえるよね。グレゴリーくんがどのように強くなりたいのかによって、訓練の方法は大きく変わるだろうけど」

「どのように……ですか」

「あたしが思うに、グレゴリーに足りないのは魔術の少なさね」

 

 自信満々に胸を張り、グレゴリーの弱さを指摘したアマリスはそのまま声高々に続ける。

 

「魔術のレパートリーはそのまま切れる手札の数に変わるわ。できることが増えるのはそれだけで魅力的でしょ?」

 

 さすがは五十以上の魔術を扱うことができるらしいアマリスの意見である。グレゴリーはが使える魔術はたったの二つしかなく、単純な魔術師として考えるなら信じられないほど少ない。

 

「魔術は師匠から教えてもらうのが理想的だけど、魔術書を使っても習得できるわ。結構値は張るけど、何とかして買いなさい」

「この前の竜の分がまだ手付かずですので」

「そう。本当はあたしが教えてあげたいんだけど、属性が違う分勝手も大きく変わるから」

 

 魔術は本来師匠から教えてもらえる。裏を返せば弟子意外に自身の魔術を教えることは基本的にない。魔術学校はそれゆえに学費が高いし、学科共通の授業では基本的なことしか教えてもらえない。本格的な魔術を習うのは研究室に配属、つまり教授に弟子入りをしてからなのだ。

 魔術書はその点、読む機会さえあれば誰でも魔術を習得することができる。もちろん属性や適性があればだが。その分高価であり、また内容は難読であるものが多く、筆者と合う合わないのブレがかなり大きい。正直弟子入りした方が早い。

 

「魔術の数も大事だけど、質も大事にした方がいいね。特にグレゴリーくんは新しく魔術媒体を手に入れたばかりだろう?馴染ませることが優先だと思うけど」

 

 次に提案をしたのはジェットである。三人で竜殺しをする前に魔術媒体について語ったのを思い出した。彼は氷結石と呼ばれる魔石をペンダントにして身に着けており、魔術媒体を手に入れることが難しいと言っていた。

 

「誰だって素手よりも武器を手にした方が強い。でも、武器の特性も知らないまま扱うなら、場合によっては素手で戦った方がましだ」

 

 分かりやすい例えもあってか、グレゴリーには十分理解できた。ジェットに魔術を教えてもらえる娘は幸運であるといえよう。属性がもっと一般的であれば、彼は魔術学校で教授になることもできたのではないかとも思う。

 

「魔術について俺は何も出来ねえが、接近戦の心得ならある程度教えることができるぜ。多分、グレゴリーに必要なのは技術だろ」

 

 次は四人の中で唯一接近戦がメインであるハントの意見である。

 

「それっぽく鉈を振るえちゃいるが、俺の目からみてもまだ改善の余地があるぜ」

 

 一応、D、Cとランクに違いはあるものの、グレゴリーの技術はD級の専門よりか等しいか少し劣っている程度である。接近戦で戦えばハントに軍配が上がるだろう。魔術勝負では同様にアマリス、ジェットにも勝てない場合が多い。

 どうにも、自分に足りないものはたくさんありそうだ。グレゴリーはふむとあごに手を当て考える。幸いなことに彼に協力し味方するものはおおい。本人もまたそれを自覚していた。もっとも、協力をしてくれるような仲間を守るために強さを得るのである。

 グレゴリーは今後、より多くの人物に出会い、友好関係を築いていくだろう。経験は人を強くする。しかし、増えていく守りたい人から魔の手を追い払うには、さらなる強さが必要なのである。ならば、一体何のために強くなるのだろう?

 考え込むグレゴリーに、一つの影が忍び寄る。彼の背後にくっつくと、耳元でささやく。

 

「グレゴリーに必要なのは、腕力」

「うわっ、……ミーミルさんですか」

 

 ピースサインをしながらも無表情なミーミルは、ギルド職員からの説教が終わったのか、強さ議論に参加してきた。

 

「腕力とグレゴリーは全ての問題を解決してきた。その二つが合わされば、最強」

「あー、申し訳ねえがミーミル。そいつは無理だ」

「なぜ?」

「グレゴリーの腕力に伸びしろがねえ」

「非力だものね」

「非力だからね」

「……」

 

 尚も食らいついて腕力のすばらしさを伝えようとするミーミルであったが、説教はまだ終わっていなかったらしく、ギルドの職員が彼女を連れ戻しに来た。

 

「待ってて。すぐ終わらせてくるから」

「皆さん彼女を待たなくてもよいですよ。しばらく帰らせませんから」

 

 ギルド職員はにこっと笑って、ミーミルの首根っこをつかみ連れて行った。席についていたすべての冒険者が彼女に冷たい目線を送っていた。 

 こほん、と咳を一つ。水色のおっさんが場を仕切りなおした。

 

「さて、彼女の登場で場が少しコミカルになったけど、私が思うに、グレゴリーくんに必要なのは強さじゃなくて休憩だと思うんだ」

 

 他二人もうなずく。冒険者は金使いが荒く、一度の依頼で多くのお金を稼ぐと、三日四日で使い果たすのが常である。しかし、さすがに毎回使うというわけではない。体を休める期間がどれだけ大事か、彼らは経験的に理解していた。

 一方のグレゴリーである。彼は依頼をこなしたとしても翌日にはギルドに立ち寄っている。お金の使い方がとんでもなく荒い。ほとんどがガラクタに消え、さらには知人からも借りる始末。

 たまに長期で休むことはあるが、たいてい興味本位であちこちに走り回っているため体が休まることはない。

 

「そうですね。しばらく依頼を受けるのはやめます」

 

 依頼を受けるのはやめる、とは言ったが休むとは明言しない。心の中ではどのように訓練をしようか、と算段を立てている。

 

「それがいいわ。あたしも昇級試験に専念しないといけないし」

「私もそろそろ娘に魔術を教えたいので」

「おいおい、となると通常運転は俺だけか。一緒に依頼を受ける仲間を探さなきゃな」

「僕はいつでも行けますよ」

「うるせえ休んでろ」

 

 無駄話もそこそこに宴会はおしまいになった。グレゴリーが帰路に返ってる途中、獣人の少女を思い浮かべていた。ガウント村から一緒についてきた少女は、『私も冒険者になります』と言ってワイズに来てしまった。

 もっとも、隣にいたミーミルの『最初から彼を頼るのはよくない』という意見を真に受けたのかしばらくは一人で行動するようだ。グレゴリーは心配でならなかったが、いざという時はみんなで助けることにしていた。ミーミルであっても、さすがに危機が迫ったら助けに入るだろう。

 

「明日からどうしようかな」

 

 家に帰り、寝室の床に落ちているガラクタをどけながらベットに入る。

 強くならなければ。まだまだ守るべき対象は増えるだろう。なるべく多くの人たちを救わなくては。

 繰り返し繰り返し、頭に浮かんでいく。せっかく久しぶりの自宅なのに、グレゴリーは十分に寝ることができなかった。

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