新米C級冒険者は最善を尽くす   作:我らに幸あらんことを

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先輩C級冒険者『生存』

 陰気臭い部屋であった。ガラクタが床に散らばり、決して狭くない面積を圧迫していた。テーブルにはうず高く積み重ねられた本があり、それらすべてが読みかけか未読本である。

 テーブルの隣には年季の入ったソファーがあり、一人の青年が横になっていた。

 グレゴリー・グレゴリオである。

 

「ぐっあぁ」

 

 体を起こして伸びをした後、読んでいたまま眠ってしまったであろう手元の『薬草百珍』を、テーブルに積まれているものの頂点に積みなおした。

 劣等緑鱗竜を倒してから二日目。昨日はギルドから依頼金とドラゴンを売った素材代を受け取り、アマリスに過去問を渡した。

 また、依頼中に使った魔力ポーションは、元となる薬草がまだ手元にあったため作り直した。グレゴリーは簡単なポーションなら自分で作ることができ、そのための器具もそろっていた。

 身支度をして外に出る。あいにくの曇り空であったが、グレゴリーはこの上なく機嫌が良かった。もちろん、昨日から懐が温かいからである。ギルドによって知人に少し返すのもよいだろう。全部は無理だ。お金がいくらあっても足りない。

 ギルドに入ると、汚い金髪をした冒険者がギルドの受付に怒鳴っている。いつものことなのでスルーして依頼が張っている掲示板に向かうグレゴリー。

 聞き耳を立てるつもりはなかったが、あまりに大きな声だったからか金髪の話が嫌でも聞こえてくる。

 

「だ・か・らッ!なんでこんなカスみてぇな依頼を受けることができねぇんだ!?こんなもん下手したらD級だけのパーティーでも攻略できんぞ」

「ですから、依頼主側に不審な点が見受けられたため、念を込めて、ということでして。C級以上の冒険者を二名以上つける必要があるんですよ」

 

 ギルドも大変である。冒険者はとにかく学がない。さらに短気なので気に食わなかったらとにかく噛みつく。計画とか立てられず、お金とかすぐ使ってしまうんだろうな、とグレゴリーは自分を棚に上げた。

 

「んでそんなクソみたいな理由で俺が割を見ないといけねぇんだよ!?C級の俺に、D級も複数人つけてる。てめぇら()()()()()()に劣等緑鱗竜の依頼出していたじゃねぇかッ。俺たちだけでも十分だろぉっ!?」

 

 ついさっきまで他人事であったが、今の一言は間違いなく自分を指していると気づいた。グレゴリーとしては無視を決め込んでもいいのだが、冒険者は体面が命である。周囲もここにグレゴリーがいることに気づいたから、口を出さざるを得なかった。

 

「愚図で申し訳ありませんが、よろしければ一緒に依頼を受けましょうか。僕もC級なので」

 

 グレゴリーが近づくと金髪は黙ったまま職員に目線を送った。職員はさすがグレゴリーの顔を覚えているのか、あからさまにほっとした。

 職員はグレゴリーと金髪を会議室に連れていき、依頼の詳細説明、後は互いの自己紹介のための機会を設けてくれた。正直、グレゴリーとしても人目のない方が気楽だった。金髪は何も言わずに従っている。

 まずは依頼の内容を、と概要を話始める。

 

「依頼の内容はガウント村周辺に生息するグレーウルフの討伐です」

「グレーウルフ、ですか」

 

 グレゴリーは少し拍子の抜けた返事をした。金髪もその反応にへん、と鼻を鳴らす。

 グレーウルフ。群れで生活する狼型の魔物であり、雑食。性格は臆病であり、戦闘力も低い。単体ならE級レベルであり、群れ全体であれば平均的なD級から最大規模でC級に届くか届かないぐらいである。

 はっきり言って、金髪の言い分はもっともである。ただでさえC級がでていて、さらにその上複数人のお供までつけているとなると、止められる要素は本来ないはずである。金髪も非が相手側にあるのをいいことに『自分はちゃんとギルドに反抗できますよ』というアピールを込めて抗議をしていたのかもしれない。こちらに火の粉がかかるのはいい迷惑だが。

 

「はっきり言って、それなら戦力は過剰ですよ」

「いいえ、まだ足りません。グレゴリー様にも念のためパーティーを組んでいただきたい。あと三人ほどお仲間を探してください」

「おいっ、いい加減にしろよてめぇ!」

 

 金髪がまたしても怒鳴り散らかす。グレゴリーからしても職員からしてもそれは虚勢を張ったポーズであるのはわかりきっていたが、金髪はなおも続けるようだ。

 

「依頼の報酬金を見たか。ただでさえすくねぇのによ、人数が増えたらその分報酬がすくなんだろうがッ。それともなんだぁ、てめぇらギルドが払ってくれんのかよ」

 

 品のない脅しに、職員はしばし思案すると、驚くことにその要求をのんだ。

 

「いいですよ。追加の報酬をギルド側からお支払いしましょう」

 

 金髪が驚く、グレゴリーもまた同様である。ギルドというのはあくまで仲介者であり、依頼人と冒険者を結び付ける以上のことは基本的にしない。

 故に、ギルド側から報酬の追加を行うのはかなり異例の子であった。

 グレゴリーはなんだか嫌な予感がしたが、金髪は金がもらえるとなると上機嫌になって、黄色い歯をむき出しにして笑った。

 

「それならいいんだよ。最初っからそういえ」

「ただし、依頼内容も追加させていただきますよ。それは()()()()()()()()()()()ことです。わかりましたか」

 

 追加された依頼もさほど難しいことのように思えなかった。金髪も同じことを思ったのかにやけっづらをやめない。

 

「それではお二人との自己紹介に移りましょうか」

「僕から始めましょう。と言ってもあなたはすでにご存じでしょうが」

「ああ、知ってるぜ。『害虫』グレゴリー・グレゴリオだろ。竜殺しおめでと。俺の名前はフィスト。天才様は知らないと思うが、二つ名は――」

「『生存(サバイブ)』、でしょう?」

「へえ」

 

 フィストの名前は知らなかったが、C級の容姿と二つ名ぐらいはグレゴリーも把握していた。

 彼の役割はシーフであり、トラップの解除や斥候(せっこう)などを担当する。チームにいるシーフの質によって生存率が大きく変わることは、どれだけ学のない冒険者であっても知っていた。

 C級になってからまだ二年しかたっていないが、冒険者歴はすでに十五年を超えている。依頼達成よりも自分自身が生き残ることを優先するスタイルは、依頼主からは評判が悪いものの、冒険者としては必要なものではあった。

 あるいは、彼のそういったところを知っていたから、ギルドは彼単体で送り出さなかったのかもしれない。

 

「天才様に覚えていただけて光栄だねぇ」

「僕なんてまだまだひよっこですよ。なんせ()()ですので」

「おぉい根に持つなよ竜殺しさまあ?あれはよお、言葉の弾みだよあんたもわかんだろぉ?冒険者には大言壮語を語らなけりゃいけねえときがあんだよ」

 

 フィストは身を乗り出すといやそうな顔をしているグレゴリーにかまうことなく、熱弁をふるった。

 彼のスタイルの先ほども述べたとおりだが、それ以外にも特筆すべき特徴というものがある。それは非常に詭弁を多用するという点である。正確に言うなら自身を正当化しやすいということだ。

 

「冒険者は体面が大事だ。あんたもそれをよおく分かってる。だから文句を言ってる俺の前に出てこざるを得なかった。それなのによお、こんなふざけた内容を言われちまったら、文句を言うしかねえ。でないと周りになめられちまう。ただでさえ、俺ァ周りの冒険者に嫌われてる。理由はわかってるぜえ、俺の生きざまのせいさ。けどよお、生き残るってのがそんなに悪いことなのかよ。誰だってそうだろ?なら、誰を犠牲にしても生き残るの不思議な話じゃねえ。犠牲にされちまう方が悪いのさ。そいつらが愚図で、考える頭を持たねえからさぁ。あんたはどう思うよ。あんたはよお、俺のことお悪く思ったりしねえよなあ。これから仲間になるんならよオォ!」

「わかったので落ち着いてください!」

 

 グレゴリーは飽き飽きしながらも、彼の大まかな性格を理解した。おそらく仲良くするのは不可能であろう。なるべくかかわらないことを決意し、とりあえず依頼の日程を決めることにした。

 

「日程はどうしましょうか。ガウント村までは結構距離があるので今日は無理ですね」

「お前のチームを探さないといけねえしな。まあ、この町からガウント村まで、一般人で二日、冒険者で一日ってところか。出発は明日だな」

「ずいぶんと急ぎますね」

 

 確かに、依頼内容からして一刻も早く村に駆け付けたくはあるが、フィストがそんなことを考えるとは思えない。

 不思議そうにするグレゴリーを見て、彼は見た人を不快にさせるような笑みで続けた。

 

「宵越しの金は持たない主義なのさ」

 

 この点に関しては、全くグレゴリーも同意であった。

 依頼の詳細を聞いたのち、二人は明日の待ち合わせをして解散した。お互い親睦を深めるつもりはなかったし、相手側は深めるための金も持ち合わせていなかった。

 グレゴリーはギルドの食堂を見渡し、知った顔がないか確認する。と、どうだろう。見たことのあるハゲと水色のおっさんがいるではないか。むろん、ハントとジェットである。

 ジェットのことは語るまでもないと思うから、ハントについて少し説明しよう。

 D級、大剣使い、ハゲ、おっさん。以上だ。

 大股で彼らに近づくと、グレゴリーは何の説明もしないままいきなり本題に入った。

 

「依頼を受けてください」

「いいぜ」

「いいよ」

 

 恐ろしいまでの友情であった。あるいは馬鹿どもであった。冒険者はたまに頭がおかしくなったりする。

 

「そういえば、ジェットさんは何でここにいるんです?劣等緑鱗竜を倒したなら当分依頼なんて受けなくていいでしょうに」

「それを君が言うのかい?いやね、まとまったお金が手に入ったから、娘の魔術媒体を買う決心がついたんだけどね。完成するまで時間がかかる上に、貯金が消えっちゃったし、最初の方は娘につきっきりで魔術教えたいしでもうちょっと稼いでおきたいなって」

「それでいうなら、グレゴリー、てめーの方が予定入れすぎだろ。お姫さん届けて、竜殺して、次は何だ?最後に休んだのいつだよ」

「昨日休みました」

「一日じゃねえか」

 

 突っ込みはするものの、受付の騒動をすでに知っているらしく、グレゴリーが依頼を受けること自体は納得しているらしい。

 とりあえずは、グレゴリー、ハント、ジェットといういつも通りの面子ができてしまったが、ギルドからの指示ではあともう一人必要である。

 

「アマリスさんは昇格試験に向けて勉強に励むそうですし、あともう一人どうしましょう」

「バランス的にはどれでもいいな。新人でも入れるか」

「ならルルシスとか」

「いいですね」

「るるしす?」

 

 ジェットの提案にすぐ反応したグレゴリーと違い、ハントはまだ人物を把握できていないようだ。頭をひねって思い出そうとしている。

 すかさずジェットが特徴を述べる。

 

「ほら、黒髪で、目元まで隠れてて、大楯使いで」

「んー」

「胸が大きくて」

「ああ!」

「最低ですね」

 

 最低だった。

 ともあれ、たまたま近くにいたルルシスの声をかけてみることになった。

 ルルシスとの関係は深いわけではない。何度か依頼が一緒になったことがあり、トラブルもなく解散をするのを繰り返しただけである。しかし、回数を重ねることでしか信頼というものは築き上げることはできない。その点でいえば、すでに彼らの間では一定の評価をお互いに与えていた。

 まずはグレゴリーが会話をしに行く。ハントは交渉事が苦手だし、ジェットはハントが無駄なことを言わないか注意する係で忙しい。

 

「こんにちは、ルルシスさん。調子はどうですか」

「っス」

「そうですか。ところで一つ依頼を一緒に受けていただきたいのですが」

「っス」

「内容はですね、ガウント村にいるグレーウルフの討伐です」

「っス?」

「ええ、そこにいるおじさんたちと僕です。あと、フィストさん達ですかね」

「っス」

「ありがとうございます」

 

 ルルシスは基本言葉を発することはない。グレゴリーたちは理由を尋ねたことはないし、たずねる必要もないと思われた。発音や声の高さを聞けば何を言っているのかはわかる。

 彼女を連れておじさんズに向かう、ハントは首をかしげているが、これは三人の中で唯一ルルシス語を解さないからである。ハントはとことん頭を使うのが得意ではない。

 

「相変わらず何言ってんのかわかんねえな」

「それはハントだけですよ。私とグレゴリーくんはわかります」

 

 顔をしかめるハントであったが、残念なことにここでは彼が少数派であった。

 ともかく、集めるべき人数は達成し条件を満たすことはできた。グレゴリーはチームメンバーに必要な荷物と集合時間を伝え解散ということにした。

 帰路に就くグレゴリーであったが、心中には一抹の不安がとぐろを巻いているのを感じていた。

 不安、複数の要因で成り立っている。軽薄な男フィスト、異例な対応をとるギルド、不信感がつのる依頼元。どれをとっても、此度(こたび)の依頼が普通でないことを指し示している。

 彼にとって見えない敵というのはドラゴンよりも恐ろしいことであった。

 と、考えながらふと笑う。考えすぎだ、敵はグレーウルフだと言われていたはずである。神経質にならないよう、自分が作ったポーションの中でよく眠れるものをのんで、なるべく早くベットの中に入ることを決めた。

 こうして、夜が過ぎていく。

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