新米C級冒険者は最善を尽くす   作:我らに幸あらんことを

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冒険者一行とガウント村

 ガウント村はさびれていた。家に使用されている木材暗く、所々が剥げてささくれ立っている。一部の家は壁が壊れているのに直さずにいるし、窓の奥から人々が監視をするような目でこちらを見ている。彼らの疑り深い性格は、異様な状況だからかもしれないが、辺境の土地なれではの新しいものへの敵視かもしれなかった。どうやら歓迎はされていないようである。

 民家と民家の間が十分に離されていて、それが逆に住民同士のコミュニティを分断しているように見えた。もちろん、木製の住宅であることから、火災が広まらないようにと、先人の知恵が含まれた対策ではあるが。民家の隣には小屋や畑などがあるが、今はすべてが荒れ果てている。特に小屋の方ではもともと鶏を飼っていただろうが、無残に羽が散っているだけで鶏は一匹もいなかった。

 

「これは……」

 

 思っていたよりもひどい。皆が同様に思っていたことだが、誰も続けることができなかった。ただ一つ分かっていることは、俺たちの相手はグレーウルフではない、ということだ。思わぬ未知の敵に皆が震える。この状況で冒険者は大きく二つのものに分かれた。より冷静になるものと、恐怖にとらわれてしまうもの。グレゴリー、ハント、ジェット、フィストが前者であった。

 震えるルルシスを見たグレゴリーは、他の冒険者よりも一歩、大股で歩き前に出た。C級は冒険者の手本として扱われることが多いし、チームの頭の一人として、けん引していくのも役割の一つである。

 グレゴリーの行動に影響されたのか、心なしか皆の表情も明るくなる。ただ一人フィストだけが最後尾についている。むろん、少しでも生存率を上げるためである。

 一応、今回の依頼主はガウント村全体である。依頼が複数人のグループから出ている場合、対応や詳細に代表がつくことになっている。今回はおそらくガウントの村長だろう。通常であれば、案内人がいて村長宅まで連れて行ってくれるが、いないものはしょうがない。

 村の中で一番大きな建物を探す。たいていのしょうもない権力者は自身の威厳を示そうと、何でもかんでも大きくしたがる癖がある。家も例にもれない。

 村の入り口からまっすぐ道に沿っていくと、村の中心ぐらいだろうか、面長の平屋が見えた。大きさはもちろん、周囲にある飾り、いわゆる盆栽やつぼなどからも格が高いのがわかる。もちろん冒険者一同は芸術のげの字もわからないため『生活に無駄なものが多い家』を権力者の家であると認識している。

 

「すみません。ワイズから来た冒険者です。村長さんはいらっしゃいますか」

 

 グレゴリーの呼び声に反応したのか、玄関が開き中から若者が出てきた。頬がふっくらとしているが、それは健康というより食生活の乱れを表しており、おびえるような目をしながらも、くだらない自尊心と、相手が自分より格上か格下かを見定めようとする姿勢がうかがえた。中肉中背の村人は最初グレゴリーを見てバカにしたような顔をしたが、隣にいるハントに気づくとすぐに猫なで声をあげた。

 

「へへっ、村長に話は聞いてます。内でまってらっしゃいます」

 

 自分のものでもない権力をかさに着て、いざとなると相手にこびる姿勢はフィストと腰ぎんちゃくたちを思い浮かべるが、当の本人たちは軽蔑をした顔を村人に向けているので本人たちは気づいてないらしい。

 この村にしては豪華な玄関をくぐり、通された場所は道場を思わせるほど広い、仕切りのない部屋であった。おそらく、村の集会などの会場になっているのだろう。奥には十人ほどの男たちが座っており、真ん中には村長らしい五十代ほどの初老の男性がいた。

 

「ようこそおいで下さった。そちらの頭はあなたですかな」

「俺じゃねえ」

「僕です」

 

 案の定、ハントとリーダーを見間違えられ、少しだけグレゴリーは傷ついた。が、これも仕方ないことだろう。年功序列がはびこる世の中において、ほぼ完全に実力主義である冒険者はかなり珍しいのである。なお、フィストはリーダーの一人だと名乗り出なかった。責任をグレゴリーに押し付けるためである。

 村長は自らをガウントと名乗った。代々自身の一族が村の名前を冠するガウントを背負っていくと、鼻高々と自慢されたが、興味なかったし、村の名前と被るので冒険者一行は村長と呼ぶことにした。グレゴリーも自己紹介を終え、さっそく本題に入った。

 

「それで、僕たちは村の惨状を見ました。どう見てもグレーウルフの仕業ではありません。このままですと噓の報告をした、と捉えざるを得ません」

「そうじゃなあ。確かに相手はグレーウルフではないの」

 

 あっけからん、と村長が言った。しゃがれた声にかかわらず、子供じみた開き直りに薄気味悪さを感じる。表情はむしろ楽しげでさえあった。

 

「てめえっ!?」

「落ち着いてくださいハントさん。理由はもちろんあるんですよね」

 

 ハントの暴走を収め、グレゴリーが続きを促す。冒険者側はハントと同意見であり、敵意をにじませている。それに対して村人側も各々の武器に手をやり、こちらをにらみつける。剣呑な空気が漂う。

 村長の顔色が先ほどまでと違って真っ赤に染まる。「理由じゃと?」と、当たり前のことを聞かれたように、あるいはこちらに非があるように、大声でがなり始めた。

 

「そちらが悪いんじゃろうがッ!この俗物どもめッ。Cランク一人雇うのにどれほどの金がかかると思っておる?貴様らがわしら田舎者の足元を見て、法外な費用をかすめ取ろうとするからじゃろうて!」

 

 まったくの詭弁であった。当然だがギルドは相手に対して値段を変えることはない。都会であろうと田舎であろと平等に接している。そも、田舎者に対してのあざけりなどは、冒険者にとってそれほどあるわけでない。冒険者はすべての物事を馬鹿にするが、「強いものが強い」の精神は出身や人種によって区別することの愚かしさを承知している。

 村長の発狂に冒険者一同は何も言えなかった。無言を肯定と受け取ったのか、村長は話を続ける。

 

「そも、(くだん)の原因はすでに対処済みじゃ。貴様らに来てもらったのは、こやつを引き取ってもらうためじゃよ」

 

 合図とともに、奥にある扉から村人がある()()を持ってきた。グレゴリーは最初それが何なのかわからなかった。この清潔に保たれた、広く無駄の多い空間に似合わない()()()()のように見えた。

 だから、それの正体が分かったとき、グレゴリーに限らず隣にいたルルシス、あるいはハントでさえ絶句をした。()()である。全身が薄汚れ、口は切れ、所々に打撲の跡がある十代に届くか届かないほどの少女であった。

 

「ぅぁ」

「っ!?」

 

 少女の苦しみの声に思わず、ジェットが飛び出そうとする。無理もない。少女の年齢は彼の娘と同じぐらいであった。いや、ジェットに限らず他の、少しでも善意の心があるものは手を震わせ、ルルシスはすでに涙さえ流している。

 しかし、グレゴリーはその誰をも、あるいは自分の心さえも制し、黙って座った。状況を理解するために、あるいは少女を救うために、いまするべきなのは対立ではなく話し合いであることを強く理解していたからだ。ただ一人、フィストは何でもないように座っている。

 

「見ればわかるじゃろうて、この邪悪なる()を。この()()めが魔物を操り、ガウント村を襲わせたのじゃ」

 

 少女には確かに、見慣れない部位があった。それは頭部に生えた耳であり、犬の、あるいはオオカミの尻尾であった。獣人である。いたいけな少女は人間と狼二つの性質をあわせもつ、狼の獣人であった。ワイズや王都などでは見慣れたものではあるが、田舎では確かに物珍しくもあった。

 しかし――

 

「村長さん、この人は人狼ではありませんよ。人狼と獣人は全く異なるものです」

 

 人狼はあくまでアンデットである。生きてる人間に取り憑き、夜間だけ表にでてきて暴力をふるう。だが、昼間は人間のままであるし、月が出ているときも完全に二足歩行の獣になるため、少女のように耳やしっぽだけ獣になることはない。また、獣人、および人狼は魔物を操ることは決してない。

 そのことをグレゴリーは村人全員に説明した。残念なことに少女を殺しても現状が良くなることは決してない。今すべきことは、魔物の情報を共有し、必要とあれば外部に助けを求めることである。にもかかわず、愚かな老人は聞き入れず、一方的にこちらをなじった。

 

「わしを愚弄(ぐろう)するのも大概にしてもらおう!原因はこやつじゃ、わしらを田舎者だと、世界を知らぬ愚か者だと見下し、さらなる金を求めるかっ。これは差別じゃあっ!!でてゆけ、でてゆけええっっ」

 

 老人の哀れな妄言に、もはや誰も耳を貸すことはなかった。これ以上ひどいならば、話を聞く筋合いもない。グレゴリーが腰を浮かした瞬間、村長の後ろにいたひときわ背の高い青年が一歩前に出ていった。

 

「もうやめにしましょうガウントさん。あなたは長い間この村を支えてきましたが、今のあなたは村を危険にさらしかねません」

「な、なにを」

 

 青年のほか、村人たちはあきれたように村長の腕をつかみ、この場から退場させようとした。すべての人が村長に対しての尊敬を失っていた。もともと、村長の言い分は半信半疑だったのだろう。それが今や、対策という対策はすべて無駄であったと分かった。誰かが責任を負わなくてはならない。そのための権力者であって、そのための村長なのである。()村長は最後まで何かをわめきながら、若者たちに引っ張られて消えてしまった。

 

「これからは俺の時代だ」

 

 一番最初に前へ出た青年が新しいかしらとなったのは、おそらく決められていたことだったのだろう。先ほどまで村長が座っていた場所にどかっと座りながら、こちらを向いた。

 

「見苦しいものを見せた、申し訳ない。しかし、これからは大丈夫だ。頭の固い老人は去り、今から俺がガウント村のトップだからだ」

 

 名前をナンドというらしい。新しい支配者の登場に、しかしグレゴリーは一切の期待をしていなかった。なぜなら、謝罪をしていた顔は新しい権力に酔い、あくどい、先ほどの村長と同じ顔をしている。今彼は、村の危険よりも自身の権力をいかに盤石(ばんじゃく)にするかしか考えていない。グレゴリーの目には村の権威が愚か者から愚か者に移っただけに見えた。

 

「結局、僕たちの相手は誰なんですか?魔物というのは」

「ミネシスウルフだと思われる」

 

 何でもないようにナンドは言った。冒険者は恐れおののく。やはり、最悪の事態になってしまった。グレーウルフを狩るつもりがとんでもない依頼である。何より、村人たちが危険性について一切把握していない。たった今、ミネシスウルフの気分によって攻められてしまえば、それだけでこの村は全滅してしまうだろう。

 

「村には緊急時に他の地域と通話ができる魔法具が配置されているはずです。今から助けを呼ぶので案内していただけますか」

 

 ナンドは顔をしかめた。おそらく、ここまで大ごとになるとは思わなかったのだろう。事態を最小限に抑えられなければ次に退場するのは彼である。しかし、ナンドは魔法具を渡すことができなかった。村長が昔売ってしまったらしい。現状は打つ手なしに思えた。

 一度、少女の手当の時間を含め休憩することになった。むろん、その間に何か対策を打たなければならない。ジェットとルルシスは傷の手当、ハントとフィストの巾着たちは、警戒および地理の把握として村人に案内をしてもらいながら村を見てまわる。

 ミネシスウルフの対処法についてグレゴリーが考えていると、今まで沈黙していたフィストがこちらに近づき、話しかけてきた。この状況にいってさえ、にやっけつらをやめない。

 

「グレゴリーさんよお、もういいんじゃねえかァ?」

「いいって何がですか」

「だからよお、こんな村見捨ててさっさと出ちまおうぜエ。先に約束を破ったのはあっちだ、帰っても文句は言えねえだろオ」

 

 確かに、最初はそういう計画であった。さらに言えば彼の二つ名は『生存(サヴァイブ)』。自らの生存にしか目がない彼にとって、この提案は当たり前のことなのだろう。しかし、グレゴリーは彼の意見に賛成するわけにいかなかった。

 少女を一生懸命に治療するルルシスを見つつ、グレゴリーは自身の原点を思い出していた。それは少しでも犠牲を減らすこと。世界を救うことのできない彼にとって、弱者が大勢すむガウント村を見捨てることはできなかった。

 

「はっきり言って、死ぬぞてめエ」

 

 フィストの半ば殺意のこもった眼に、それでもグレゴリーは意見を変えることがなかった。すると、意外なことにフィストの方が空気を緩め、いつもの笑みに戻り、黄色い歯をさらしながらこう言った。

 

「なら一つ作戦があるぜぇ」

 

 ガウント村に入ってから多くのクズを見てきたが、哀れな弱者がいないとも限らない。少なくとも少女がいたし、また、彼女を必死に守ろうとするルルシスの、ジェットやハント、自身のうちにある大切な何かを失うわけにいかない、グレゴリーはフィストの作戦を受け入れることにした。

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