ABDA逃亡記!   作:創生路ハイローラー

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 ちょっと長め


第3話

2044年5/6 12:00  バリ島西方 フローレス海

 

 水上機母艦ラングレー、給油艦ペコス、駆逐艦エドサル、ホイップルは必死に北を目指していた。2日にフィリピンが襲撃されたとの報が入り、直後に東南アジア全体で大規模な通信障害が発生したことを受けて、シドニーのオーストラリア海軍司令部はラングレーに東南アジア各基地に散らばった妖精軍の地上機を回収してフィリピンに輸送することを命令した。

 命令を受けたラングレーは単艦フリーマントルを出航し、ダーウィンやクリスマス島、ジャカルタ、スラバヤなどを回り、可能な限り地上機を回収しようとしていた。ところが、ジャカルタに着いた時点でシンガポールを守っている筈のプリンスオブウェールズとレパルスを発見し、衝撃の事実を知った。それは敵の攻勢がフィリピンだけでなく東南アジア全土で行われており、すでにシンガポール市が陥落して自分たちは命からがら脱出したということ。敵の大規模機動部隊が広範囲に展開して、いつ空襲されるかわからず、ここも安全ではないということであった。

 ABDA司令部は一足先に空路でダーウィンに向かい、彼女達もそこへ向かうとのことで、一緒に来ないかと誘われたが、フィリピンの友軍を見捨てられないとラングレーは断り、護衛にエドサルとホイップル、そして給油艦ペコスをつけてもらって再び出航した。

 それからスラバヤへと向かいながら各基地を回っていたが、すでに深海棲艦の襲撃を受けて壊滅した基地も多く、スラバヤで最後の機体と物資を積み込んで、急いで北へ向かっていた。

「はぁ、もう少しでうちも退役して、2代目の顔も見に行けるとこやったのに・・・」

 日焼けした肌に麦わら帽子、使い古してよれよれになったカーキ色のアパッチスタイルの衣装を着た幼い容姿のラングレーは、見た目に反した年季を感じさせるため息をついた。アメリカは41年に戦争が始まるとビンソン計画を立案し、当面は防衛に徹しつつ戦中建造型の艦娘を十分に教育、一斉に投入する方針を取った。そのため戦前建造の艦娘達は圧倒的少数の艦隊規模で3年間戦わねばならなかった。

 空母であったラングレーもその一人だ。すでに戦争が始まった時には空母としての運用に限界が来ていたが、危急存亡のときに自分が引退するわけにはいかないという彼女の意志で、本来ならば屈辱であろう水上機母艦への格下げ改造を受け、はるばるアジアに赴任したのだ。

 彼女にとって、いや、アメリカ艦娘達にとって幸運だったことは、かつて自分たちを屠った相手である日本の艦娘が敵ではないことであった。かといって味方でもないので、明確な連携行動はとらなかったが、日本軍が敵の主力を相手にしている間、自分たちはシーレーン防衛を行って各国に資源供給を滞りなく行えるようにする。時には代金をもらって日本の商船団の護衛の一部を代行するようなこともした。それはある種の持ちつ持たれつの関係であり、今でもやはり気まずい両国の艦娘達の棲み分けにもなった。

 そんな任務も3年が過ぎてビンソン計画が完了し、大量の駆逐艦と護衛空母が先月に訓練学校を卒業して戦線に加わることとなった。炭給艦ジュピターに始まったラングレーの艦歴も来週には終わり、新しい護衛空母と交代して晴れて「あがり」を迎えようとしていた矢先に、この大攻勢が起きたのだ。

「うちって仕事に使い潰される運命なんやろか?あー引退して楽に過ごしたかったのに、どうしてこうもままならんのやろう・・・」

「そりゃワーカーホリック気味なところがあるから、自然と仕事が寄って来るんじゃないの?」

 ラングレーに比べて大人びた(実際はラングレーの方が年上)見た目の黒人ペコスが言う。

「そんなに仕事好きってわけでもないんよ、ただなんかしてへんと落ち着かんだけや」

「それをワーカーホリックっていうんじゃないのかな?僕も同じようなものだけど」

 ラングレーと同じぐらいの背格好、落ち着きのある黒髪の少女、エドサルが言った。

「引継ぎが終わったら僕も引退するけど、ラングレーはどうするつもりなの?僕は素体の意識と相談して、素体の実家の稼業を手伝うって決めたんだけど」

「もちろんうちは・・・えーと、うーんと・・・なんやったかな?」

「なんにも決まってないじゃない」

「余計なお世話や!」

「でも、ちょっと心配かな。今まで忙しかったのに、急に仕事辞めて、鬱になる人って結構いるし・・・ラングレーの素体って身寄りもなかったでしょ、僕が母さんを説得するから、うちに来ない?」

「そんな、迷惑かけられるかい!うちには海軍仕込みの仕事力と実績がある。貯金もしとるから、それで一山当て足るわ!」

「全然駄目ね・・・」

 ペコスは呆れて言う。さらにサングラスをかけた陽気なホイップルが言った。

「結婚する当てもないのに、生き急いでやめることもないぜ。ボクと一緒に、軍に残っていればよかったんだよ!」

「ここにいたら余計婚期が伸びるやろ!」

「だったらボクが貰ってやんよ!」

「叩きのめすぞ!」

 ホイップルとラングレーの漫才で空気が和んだのもつかの間、上空に黒い影を見つけ、一気に全員の表情が厳しくなる。

「全艦散開!各個回避で持ちこたえるんや!」

 敵は艦載機型だ。西から飛来してきた。少数艦隊では陣形を取るより各個回避する方がたやすい。

「うおおおおおおおおおお!給油艦舐めんな!」

 敵は輸送艦のペコスに集中攻撃する。しかし、ペコスも果敢に反撃し、敵機を撃墜した。

「ラングレーはやらせないよ」

「それ!当たって!」

 エドサルとホイップルも敵を回避しつつラングレーを守るように弾幕を張る。

「んなもんが当たるかいな!」

 ラングレーもうまく回避する。敵は艦載機を喪失・損傷して帰って行った。

「よっしゃあ!次が来る前にパリクパパンまで逃げ切るで!」

 

 

 ラングレーたちは東へ進路を取り、急いで海域を離れようとした。途中で潜水艦を見つけたエドサルが爆雷を投下する。

「うわ!?」

「どないしたん?」

「軽く自爆した。航行には問題ないはず。急ごう」

「ならええけど」

 

 

 艦隊は東へ進み、マカッサル (スラバヤの北の海の向こう)沖に着いた。

「後は北上するだけや。敵はもう追ってけぇへんはず・・・?・・・んなアホな!」

 ラングレーは偵察機から衝撃の情報を受けた。戦艦2隻、重巡2隻の艦隊が東から接近しているというのだ。

「こっちは足の遅いペコスがおるから、このまま逃げても追いつかれる。かといって背後からは敵の機動部隊・・・」

 逃げ道はなく、戦うのは論外だ。少しでも戦力をフィリピンまで届けるには・・・。

「エドサル、ホイップル。うちを置いて逃げるんや」

「なんだって!」

 この艦隊で一番遅いのはほかでもないラングレーで、その次がペコスだ。どちらも20ktも出ない上に、物資を満載してさらに速力が落ちている。一番遅いラングレーを置いていけば、逃げ切れる可能性も少しは上がるはずだ。

「できるわけないよ!そんな・・・」

 エドサルもホイップルも納得がいかない。

「なら私も一緒に・・・」

「ペコスはアカン。艦隊には給油艦がおらんと話にならんやろ。うちももう十分に生きた。国に帰っても行くとこもあらへん。なんも失うもんはない」

「でも!」

「やれ言うとんねん!簡単なことやろ!あん時みたいにうちの乗員乗りうつさせて、さっさと逃げるんや!」

 これを聞くとエドサルはラングレーに掴みかかり、思いっきり殴り飛ばした。

「!?・・・何すんねん!うわ!?」

 エドサルはさらにラングレーの服の襟首を掴んで持ち上げる。いつもの彼女らしくない行動にペコスとホイップルは止めに入ることができなかった。

「僕の前でそんなこと言うな!・・・残されるほうの気にもなってよ・・・護衛するはずなのに、誰も守れずに僕だけ生き残って、一人で・・・ラングレーは僕のかけがえのない仲間なんだ。今度こそ守り抜かなきゃ・・・僕は僕に・・・」

 エドサルは手を放すと、敵のいる方へ舵を切った。

「どこへ行くんや!」

「敵を誘導する。ギリギリまで近づいて、南に誘導して、船団から引き離す」

「無茶や!戦艦相手に」

「言ってなかったけ?僕、回避には自信があるんだ」

 エドサルはそういうと、速力を最大にして去って行った。ラングレーは追いかけようとしたが、ペコス達はラングレーを押さえた。

「離せ薄情者!うちも、うちも行くんや!」

「今エドサルの心意気を無駄にする方が、ボクはよっぽど薄情だと思うよ!」

「あんたが生き残らないで誰が仲間を救うの?早くいくわよ」

「うぅ・・・エドサル・・・絶対、帰ってきてなぁ・・・」

 

 

 

 エドサルはラングレーたちのもとを離れると、心の奥深くにいる彼女の身体の主に話しかけた。

「ごめん、体は返せないかもしれない。でも、僕は僕のけじめをつけなければ死んでも死にきれない。もう後悔はしたくないから・・・だから、付き合って」

 エドサルは十分に敵に近づくと、敵に主砲を撃った。当たらないが敵はエドサルに気付いたようだ。

(よし!ここからだ・・・)

 エドサルは主砲を向けようとする敵に煙幕を張って攪乱し、その間に少し距離を取る。

(距離を確認、煙幕を解除・・・もう一発主砲を発射!)

 エドサルが主砲を撃つ。今度は命中したが被害は与えられない。敵も応射する。

(発砲を確認、距離から弾着まで3秒、右旋回3、2、1、弾着)

 先ほどまでエドサルのいたところに砲弾が降り注いだが、回避したエドサルには当たらない。

(機関停止・・・敵が照準を終えた。出力最大、砲撃を確認。当たらない)

 またもエドサルは敵の砲撃を回避する。

(敵接近、煙幕を張りつつ機関出力を下げて反転、再反転)

 敵はエドサルが煙幕に入って反転したと思い煙幕に向けて砲撃したが、エドサルは反対方向にいてかすりもしない。

(敵の砲撃、続けて左旋回)

 ここにきて敵の砲弾がたまたま回避したほうに落ちて被弾した。

(被弾、第2主砲損壊。航行には問題なし、次の砲撃は・・・)

 被弾でエドサルの集中力は落ちるどころか、むしろ鋭くなっていく。逆に敵は焦りだし、照準は荒くなっていった。エドサルに敵艦隊が引っ張られる形で、戦場は東へと移って行く。

(開始から30分、ここまでくればラングレーたちには手は出せない)

 エドサルは時計を確認すると、回避を続けつつ脱出する方法を考え始めた。その時、不吉な風切り音がして、エドサルに250kg爆弾が命中した。

「いてっ、いったいどこから!?」

 空を見ると敵の飛行機が空を覆っていた。東にいた敵機動部隊だ。敵はさらに爆撃を加えてくる。エドサルは何とか回避を続けてみる。

「これぐらいじゃ、僕は捉えられない!」

 エドサルは帰還出力を最大にして逃れようとする。しかし速力が上がらない。

「浸水!どうして!?まさか」

 潜水艦を撃沈したときに船体が損傷して、続けて無理な機動を行ったことで浸水が始まったようだ。

「うわあああああああああああああ」

 敵の500kg爆弾が直撃する。艤装を貫通して、服が破れた。

「もう、恥ずかしいよ。だけど、逃げ切ってみせる・・・」

 服の破れを押さえながら、エドサルは必死に逃げ続けた。だが、機関が浸水して速力が落ち、敵は爆弾がなくなると機銃でいたぶってくる。背後から戦艦が迫り、ついに包囲されてしまった。

「・・・もう、だめ・・・なのかな?・・・今度はちゃんと、守れた・・・よね?」

 

 

 

 ラングレーたち救援艦隊は夕方にはパリクパパンに到着した。パリクパパンには臨時徴用された客船や多数の輸送機、民間機が並び、そこから出てくる兵士たちは皆弊していた。

 港にはABDAのメンバーもいた。皆傷ついて、一様に暗い顔だ。

「お、おい、フィリピンの戦況はどうなってるんだ・・・」

 嫌な予感を感じ取りつつも、ペコスは恐る恐る話しかけた。エクセターは機嫌が悪く黙ったまま、ロイテルやパースも何やら話しづらそうだ。ヒューストンが申し訳なさそうに口を開いた。

「残念だがマッカーサー司令が撤退を決断した。私達はシブヤン海を突破しつつ孤立した兵を救助して、スリガオでエクセターと合流、船をかき集めてゼネラルサントスに集まった陸軍と脱出してきたところだ」

「そんな・・・そんなアホなことがあるか!うちらの努力は?エドサルは何のために・・・」

「エドサル・・・そんな!」

 ヒューストンはエドサルがいないことに気付き、状況を察した。他の米軍駆逐艦達も騒ぎ始める。ラングレーはついに泣き始めた。

「うわぁぁぁぁあん・・・うちが、うちが情けないばっかりにいぃぃ。エドサルがぁあ、えどさるがぁぁあああああああああああ」

 ラングレーは泣き崩れる。駆逐艦達も涙を流さない者はいなかった。ヒューストンはラングレーを抱きしめて慰めようとするが、自分も涙を抑えられない。

「すまない・・・本当に・・・すまなかった」

「・・・水母やなかったら、改造断っといたらこんなことにはならへんかったのに・・・今のうちにはなんもできへん・・・なんも守られへん・・・」

「そんなことはない。エドサルは・・・君がいれば多くの人が守れると思ったから、命をささげたんだ。だから、自分を責めないで」

 ラングレーはマーブルヘッドに肩を貸され、そのまま寝室へ向かった。駆逐艦達も眠らせ、部屋にはエクセターとヒューストン、デ・ロイテル、ジャワ、パース、ペコスが残る。

 エクセターは艤装の中からやかんとカップを取り出し、お茶を沸かした。

「ヒューストン、泣くのはもう飽きたか?ハーブティーだ、落ち着くぞ」

 エクセターが言う。ヒューストンは涙を拭いて気を落ち着かせる。

「ありがとう、もう大丈夫だ」

「ならいい、状況を整理しよう。フィリピンは陥落、シンガポールも落ちた。我々は疲弊して、敵はいつ来てもおかしくない。ペコス、運び込んだ物資は?」

「P-40が10機、バッファローが15機、ハリケーンが10機、ボーファイターが5機、整備兵と航空燃料、予備パーツ。艦娘用の燃料もです」

「首はつながったな。エドサルの犠牲も無駄にはならなかった。とりあえず航空隊はパクリパパン防衛にあたらせる。フィリピンから脱出した航空兵力もある。ここが落ちる心配はない」

「じゃあ、私達はどうするの?ここにこもって増援を待つ?」

 パースが言った。防衛力がある以上、ここに留まっても問題ないはずだ。

「○○×、□□▽」

「いや、ここに留まっても整備ができない。港を包囲されてじりじりとすり潰されるだけだ。我々の活路は、突破にのみある。と言っています」

 デ・ロイテルの意見をジャワが翻訳する。エクセターはうなずいていった。

「うむ。私も同じ意見だ。陸軍はここに置いて我々は南下し、スラバヤを通ってダーウィンに向かう。危険な賭けだが、これしかない」

 




エドサル「砲弾を避ける方法?まず敵との距離を測って、発砲から弾着までの時間を瞬時に計算して、状況に応じて速度を変える。ね、簡単だよね?」

キャラ紹介

ラングレー「給炭艦を改造したアメリカ初の空母、それがうち、ラングレーや。着艦試験やカタパルトの運用、パイロットの訓練などなど、うちの経験があってアメリカ機動部隊が生まれたんや。んで、パイロットたちはレキシントンたちに預けて、うちは水上機母艦として第三の人生をアジアで過ごしたで」

エドサル「僕はクレムソン級駆逐艦のエドサル。戦争が始まって、僕はマレーの後始末や潜水艦狩り、ラングレーの護衛をやってたけど、どれもうまくいかなくって、肝心のスラバヤ海戦には参加できなかった。仲間がみんな沈んだ後、僕は一人でクリスマス島を守ることにいなって、比叡や霧島、利根や筑摩の雨あられの如く降り注ぐ砲弾から必死に逃げ回ったんだ。流石に最後は航空機を出されて沈められちゃったよ。何発避けたって?1000発から先は数えてないよ。自慢にもならないけどね」

重要関係艦 ()はエドサルを沈めるために消費した弾薬量
 比叡(主砲210発 副砲70発 ヒエー)
 霧島(主砲78発 副砲62発 艦隊の頭脳(笑))
 利根(主砲497発 高射砲8発 エドサルをマーブルヘッドと誤認。艦隊の目とはなんだったのだろう・・・)
 筑摩(主砲374発 高角砲54発)

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