2044 5/7 22:33 パリクパパン沖
次の日には敵の空襲があり、空軍が撃退したものの、昼間出撃は危険ということで日が沈むのを待ち、夜陰に乗じて出発することとなった。ヒューストンは米艦隊を集めると、今後の行動予定を説明した。
「とりあえず我々はスラバヤを経由し、ダーウィンへ向かう」
「ラングレー達は戦艦に遭遇したが、このまま突破してホントに大丈夫なのか?」
ポール・ジョーンズが言った。
「そのための索敵だ。ラングレーは精神的に厳しい状態だが、しっかり働いてもらう。それに、先ほど一時的に回復した無線で日本軍が出航したという情報が入った。そうなればソロモン海からシンガポールへの兵站を敵は失うこととなり、行動限界を迎えてシンガポールへ向かうはずだ」
「なんか楽観的過ぎな気もします」
ポープが言った。
「私もエクセターも、結局のところこれからどうなるかは何もわからない。皆には苦労を掛けることになるだろうが、もう少しの辛抱だ。頑張ってくれ」
ヒューストンはそういうと、最後にラングレーのもとへ向かう。昨日のことがあったにもかかわらず、今朝の彼女はいつも通りの明るさで振る舞い、出撃があると聞くと水上機の整備に向かった。だが、彼女が無理をしていたのは皆憔悴した顔で分かっていた。パリクパパンに残ってもいいとヒューストンは言ったが、艦隊の目として自分が役に立つはずだ、ついていくと健気にも言った。
「君がついてきてくれることを心強く思う。十分に力をふるってくれ」
「大丈夫や。うちが艦隊を守る。今度こそな」
ラングレーの顔には疲労がにじみ出ていたが、その言葉に力強い意志が感じられた。
(今頼れるのは彼女だけだが、やはり心苦しいな)
ヒューストンは心の中で呟いた。
「安心しな、お前等には歴戦のボイジ様とマーブルヘッド嬢がついてるんだ。俺様がいれば戦艦だろうと瞬きする間に皆殺しにできる」
「はい、頑張りますよ」
軽巡組が皆を元気づける。特に火力も経験もとびぬけているボイジは、今回の作戦の要になるだろう。きっとうまくいく。ヒューストンは脳裏にちらつく記憶と不安を押し込め、自分に言い聞かせた。それしかできなかった。
「ジャワ、怖くないかい?」
港から発進して、灯台の明かりを背に、デ・ロイテル言った。月も雲に隠れて、各軍旗艦が発している船尾灯を頼りに後続艦が航行している。その光も、一瞬でも目をそらせば永遠に見失いそうなほど頼りなく、オランダ艦たちは手をつないでいた。
「私はロイテルちゃんがいるから大丈夫よ」
ジャワは握った手の感触を確かめながら答えた。実際震えてるのはロイテルの方だった。
「ロイテルちゃんも無理しなくていいのよ。眠くなったら、代わってあげるから」
「だ、大丈夫だよ。今は目がさえてるから。ジャワこそ、僕の手、離さないでよ」
「分かってるわ。ロイテルちゃんを置いていけないもの」
ジャワはおどけて言った。
「な、僕が迷子になるわけないよ!なんせ、僕が旗艦なんだから、僕がいるのが艦隊なんだからね」
「うふふ、ロイテルちゃんらしいです」
「ねぇ、ジャワ、僕ってダメな子なのかな?」
「え?」
「昔が旗艦だった時は足引っ張ってばっかりだったし、今になっても英語は覚えられない。僕って皆に嫌われてないよね?」
ロイテルの手の力が弱弱しくなる。普段は見栄っ張りな彼女も、やはり責任を感じるようだ。
「ロイテルちゃんは足手まといじゃないよ。ロイテルちゃんには私達にはないかわい・・・かっこよさがあるし、言葉は通じなくてもロイテルちゃんがしっかり考えてることはみんな知ってるから、皆ロイテルちゃんのことが嫌いなわけないよ」
ジャワは必死に言った。ロイテルは確かにエクセターやヒューストンのような火力もなければ、一発逆転の魚雷もない。それでも、ジャワにとってロイテルは自分とは全く異なる雰囲気を持った新鋭艦であり、旗艦として誇らしい存在であった。
「あの時みたいなことには絶対させない。皆必ず脱出してみせる」
「当然ね」
二人は強く手を握り合った。
艦隊先頭を行くエクセターとパースはさらに前方に配下の駆逐艦を展開させ索敵役にしていた。
「ヴァンパイアちゃんからの発行信号です。『所属不明艦発見。高確率で敵空母。随伴艦複数。停船中』だそうです」
「艦隊停止!」
後方のアメリカ・オランダ艦隊に発行信号を出した。偵察艦も戻ってくる。
「どうしたエクセター」
ヒューストンが話しかけた。
「敵空母艦隊だ。昼に空襲してきた奴らだろう」
「無視するか?」
「いや、偵察機を出されると厄介だ。日が開ける前に叩く。駆逐艦は前進して魚雷を発射したら離脱。他は回り込んで砲撃で叩く。いいな?」
「了解」
「パース、駆逐艦を先導しろ」
「はい!ヴァンパイアちゃん、案内よろしく」
「うん!」
パースはオランダのコルテノール、ヴィデ・デ・デヴィット、イギリスのエレクトラ、エンカウンター・ジュピター、そしてヴァンパイアと共に敵艦隊へ接近した。敵は岩礁付近に夜間灯をつけながら停船している。完全に休みに入っていた。
「ヲ級2隻、ヌ級1隻。護衛は駆逐艦6隻ね。魚雷準備」
パースは十分に近づいてから探射灯をつけた。
「槍を放て!」
少々カッコつけた号令で魚雷を発射する。魚雷はヌ級と駆逐艦1隻に命中したが、ヲ級を狙ったものは目前で爆発した。
「防雷ネットが張られているみたいね。みんなは攻撃しつつ離脱。私は射撃誘導を続けるわ。ヴァンパイアは援護して」
「了解!」
パースは距離を取りつつ探射灯を照射し続ける。ヲ級が気付いて発砲してきた。
「うわぁ!?」
誰かが被弾したようだ。パースも数発被弾したが、さしたる損害はない。背後から轟音と風切り音がした。エクセター達が砲撃を始めたようだ。敵空母の1隻が直撃をもらい爆沈した。
「私だって!」
パースの砲撃があたり、敵駆逐艦が爆発をおこした。敵は奇襲で混乱し、潰走を始めた。
「逃がすか!」
パースは健在なほうのヲ級を追っていく。背後で何か聞こえたが、とにかく空母を追おうとした。
「邪魔よ!」
立ちふさがった駆逐艦を主砲の一撃で沈めた。そのままヲ級のマントに掴みかかって、引き倒した。
「このっ!このっ!」
後は散々殴り倒す。ふと背後に気配を感じて銃口を向けた。いたのはヒューストンだった。
「あ、ああ。ヒューストンだったの・・・ごめん」
パースは相手が敵でないと確認すると、ヲ級の頭をぶち抜いて黙らせ、立ち上がった。
「パース。無事だったか」
「ええ、敵は全滅した?」
「おそらく。それより、ヴァンパイアはどうした?駆逐隊はどこに退避させた?」
「え?」
今まで頭に上ってた血の気が、急速に引いていった。
「退避した駆逐艦隊が敵艦隊と遭遇、コルテノールとジュピターが中破、ジョン・D・エドワーズも小破した上に、僚艦のヴァンパイアは見失って行方不明か・・・」
朝日の照らす中、点呼を終えたエクセターは呆れて言う。皆の視線の中、パースは茫然としていた。
「私は・・・わたしは・・・」
パースは気が動転しているのか、何かつぶやくが、自分の責任を認めようとはしなかった。ヒューストンが膝を抱えたままのパースを引き上げて言った。
「パース、落ち着くんだ。我々が今日生き残ってこれたのは、昔の失敗の経験を反省して、繰り返さないようにしてきたからだ。だがお前がしたことは何だ?敵につられて突入、僚艦を失った、これではまるで・・・」
「わかってるよ!・・・もう、置いてって。ロイテルちゃんやエクセターちゃんの代わりのできない私なんて、皆の足手まといよ・・・置いてって!ここで死なせて!お願いだから・・・」
パースはさらに激しく泣いて、座り込んだ。
「時間の無駄だ。置いて行こう」
エクセターが言った。乱戦ではっきりとは戦果確認できなかったので、取り逃がした敵にいつ襲撃されるかもわからない。同じ場所に留まる道理はなかった。一人、また一人と立ち去って行く。最後まで残ったのはデ・ロイテルとジャワ、そしてラングレーだった。
「パース、本当にええんか?」
「ほっといて。私じゃ誰も守れない」
「もう戦えへんわけやないやろ。力さえあれば、誰かを守れる。違うか?」
「私はあんたみたいに器用じゃない。割り切れないのよ」
「・・・せやかて」
ラングレーが言おうとした途中、誰かがしゃべった。デ・ロイテルであった。
「ワタシ・・・怖かったヨ、またアジアに行ケって言われたトキ、同じ失敗するんじゃないかっテ。だから、今日まで努力シタ。英語、覚えられなかったケド。頑張れたト思う。タマニみんなにワタシが嫌われテルと思ったコト、あった。でも、みんな私ガ戦果上げると喜ブ。パース、いっぱい喜ンだ。一回失敗シたら、復習すればイイ。二回目なら、心に誓えばイイ。克服デキタラ、仲間に褒めてもらえばイイ。パースの仲間、ヴァンパイアだけジャない。ワタシも、パースの仲間だから」
ロイテルは静かに手を伸ばした。片言だけれど、それにはちゃんと気持ちがこもっていた。朝日のせいもあってか、ロイテルは本来よりずっと大きく見えた。
「もう、そんなこと言ったら、着いて行かなきゃいけないじゃない」
パースはロイテルの手を取って、そのまま右腕に抱き着いた。
「○×△!?//」
ロイテルは困惑しながらも、パースの頭を撫でた。
「ゴメン、私がいなくなった後、いろいろ押し付けテ」
「もう気にしないで。今はもう大丈夫だから」
「そうよ、今いるロイテルちゃんを守り抜けば、昔を克服できる。ヴァンパイアちゃんもきっと生きてる。だから、私達は目的地を目指しましょう」
ジャワも左腕に抱き着き、ロイテルは顔を真っ赤にしながら、2人に引っ張られていった。
全キャラ出すのって疲れるね