成り代わりルフィは歌姫を殺すことが出来なかった   作:いいね最高だ

2 / 3
 「なぁ、俺はあいつをガキとして見れねぇよ。ただの化け物だろ?」

 

 ココヤシ村のとある住人より


『無知は罪なり』されど彼女を責めることが誰にできる?

 

「どうせ、また負ける」

 

 少女は部屋の隅でただうずくまっていた。

 ルフィがアーロンに挑むにはいつぶりだろう。

 何度挑んでも結果は同じ、切られ潰され撃たれて苦しむだけ。

 アーロンにベルメールさんが殺された時も一番長く抵抗したのはルフィだった。

 何度蹴られても何度刺されても何度噛まれても立ち向かった、意味なんてないのに。

 

『絶対貴方を倒す、この村を解放する』

 

 そう言って彼がこの村を去ってからどれほどの時が経っただろう、アーロンもルフィのことを追いかけなかったしルフィを止められなかった村のみんなに罰を与えることはなかった。

 反抗的な不死は扱いにくくて邪魔なだけだと、あのクソガキ一人のために金づるを多く殺すのはデメリットの方が大きすぎると、アーロンが酒を飲みながら私に教えたのも昔のことのように思える。

 あのまま逃げて仕舞えばよかったのに、あのままどこかで平和に暮らしていれば良かったのに、何故だかルフィは戻ってきた。

 勝てるわけがないのに、また苦しむだけなのに。

 

「私が一億ベリー貯めるって言ったのに」

 

 そんなことをナミという少女は考えていた。

 当然のことながら転生者である少年は一億ベリー貯めても無駄だということを知っている、それを他者に伝えることは世界の理が許さなかったが。

  話せないのだ、書けないのだ。

 本来この世界が辿る筈だった運命の道筋、俗な言い方をするとするならば『原作知識』という言葉がもっとも妥当だろう。

 その知識を()()()()他者に伝えることができないのだ、紙に書こうとしても何かがその腕の動きを止める、理由はルフィ自身にもわかっていない。

 本人すら気づかないうちにその知識を漏らしてしまうことはある、それを拒むことはナニカにもできない。

 あくまでも誰かに伝えようとする目的を持ってルフィが行動した場合だけナニカがそれを阻むのだ。

 そんな事実ルフィは知るよしもないが。

 

「今度は村のみんなにも・・・・・・」

 

 アーロンという独裁者、ココヤシ村の住民は皆彼を恐れている。

 金が払えなければ殺しにくる暴君を、反抗的であれば殺してしまう魚人を恐れている。

 故にナミが心配しているのは『昔は一度見逃してもらえたけど、今度は村のみんなにも罰が与えられるのではないか』というところ。

 

 

 いや、心配どころの話ではない。

 ベルメールが撃ち殺される記憶は今も少女の脳裏に焼き付いて離れない。

 忘れたと思っても、あの弾け飛ぶ頭部が夢にすら出てくる。

 そんな少女が再び村の住民が死ぬかも知れないと思った時に湧き出す感情、それは恐怖そのものでしかあり得ない。

 

 様々な思いを胸に、親友のことを考える少女の顔を涙が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものくせだ、考え事してると独り言を言ってしまうのは。

 

「海楼石の手錠を用意してくれたのは助かったよ、魚人の腕力でもそうそう千切ることはできないのがあの手錠だ」

 

 アーロンの一味の構成員は多い、もしもその中の一人でも意識を取り戻したらどうなるだろうか。

 ボスを倒した僕には決して敵いはしないと理解はしていても、ただただ逃げることはないだろう。

 僕に向かってくるだけなら全然いいが、ココヤシ村の住人に八つ当たりされてはたまらない。

 そのため彼らを海軍に引き渡すために拘束しておくナニカが必要だったのだ。

 何もなければ全員の口の中に血をつけて海軍でも来るまで見張っておくとこだったのだが、幸いここには手錠がある。

 

「・・・・・・やっぱり念のため僕の血を口内につけておこうかな」

 

 相手の生殺与奪の権を握るというのは、それだけで大きなアドバンゲージになり得るはずだ。

 

「でも、インペルダウンの環境はあまりに過酷。そこに行くくらいなら最後に好き勝手やって死んだほうがいいって思う人・・・・・・じゃなくて魚人もいるかもしれない」

 

 だが、奪われる可能性があるのが自分一人の命ではないとしたらどうだろう。

 海賊なんて物仲間意識がなければ到底やっていけるものではない。

 多少の友情はあるとみて然るべきだろう、一人が逃げればその他全ての魚人の命が奪われるかもしれない。

 仲間の命を危険に晒してまでココヤシ村に八つ当たりをしにいくだろうか。

 その答えはおそらくノーだ、完全に可能性が消え去ったわけではないが、十分抑止力にはないだろう。

 というのが僕の考え、浅はかだけれども即興にしてはなかなかいいんじゃないかと思う。

 

「日本だったら過剰防衛になるかな」

 

 実際に実行する気がないとはいえ、犯罪者を殺すなんて現代日本なら過剰防衛として刑務所に入れられてしまう所業だ。

 まあ、そんなことは今どうでもいいんだけど。

 ワンピースの知識以外なら前世のことだろうと幾らでも発することができる口に、少しだけ怒りを覚えながら全員に手錠をつけて柱に固定しておく。

 

「本当に、本当に勝てて良かったよ」

 

 勝てたという実感がわいてくると、途端にドっと疲れが押し寄せてくる。

 それでも安堵の微笑みを浮かべながら手錠かけを続行していく。

 負ければ今度こそ見せしめに村のみんなが殺されるかもしれない、そしたらナミが悲しんでしまう。

 

 

 勿論確実に勝てるであろうラインに自分の実力を高めてから僕は挑んだ。

 アーロンが僕のことを『鬱陶しい小蝿』と評した通り、何度も僕は遠くから彼らを眺めていた。

 前世では絶対にできなかったこと、『見ただけで大雑把な力量を測る』ということができるからこその荒技だ。

 

「ねぇアーロン、貴方もわかってたんじゃないですか?これ以上の殺害を村に対して行えば、保たれていた歪な秩序が崩壊するって。このコノミ諸島がかつてない大混乱に陥るって」

 

 恐らくアーロンは僕が諦めるのを待っていたのだと思う、だからこそ村のみんなには手を出さなかった。

 僕が虎視眈々と解放の機会を窺いながらも、決してアーロンは見せしめを行おうとは思わなかった。

 

「まあ、そうならない可能性もあったけれども。僕は別に人の心理に詳しいわけでも歴史に詳しいわけでもない、村人の反逆なんて僕の妄想かもしれない」

 

  無論僕にだって考えはあった。

 

 『ココヤシ村がアーロンの金づるであること』

 『これ以上の犠牲を出したら流石に村の住民が一挙として叛逆してしまう恐れがあること』

 『村のみんなを処分するのはあまりにリスキーでありナミの協力も得られなくなること』

 『ココヤシ村以外にもゴザなどの金づる村があるとはいえ、現時点では原作ほど多いわけではないため滅ぼすデメリットの方が大きいこと』

 

 などなどの幾つかの考えがあった故、遠目でとはいえアーロンに気取られながらも敵戦力を観察できたわけだ。

 その結果、自分が後どれだけ強くなれば届くか理解できたんだ。

 

「たしかに・・・・・・あまりに僕がウザったらしくてアーロンが村を壊してしまう恐れはあったよ」

 

 でも、でも、どんなに錯乱しても怒っても()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 あれだけ優秀な測量士を殺すなんて愚策は絶対に行わない、今回の作戦で僕が確信していたのはそれだけ。

 村のみんなの安全も何もかも机上の空論、ことごとく予想が外れる恐れはあった。

 

 村に流れ着いた僕を最初に見つけてくれた人、僕のことを友達だって言ってくれた人、不死身の僕のあるがままを受け入れてくれた人。

 行き場所のない少年を可哀想だと思って接するのではなく、打算を持つわけでもなく、ただただ自然体で接してくれたナミは僕の心を救ってくれた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 村の人間が全員が全員僕の親友というわけでも大事な人というわけでもない。

 人殺しはできないけれども見捨てることができる自分に嫌気がする。

 エレジアの時もそうだった、いつも僕は臆病で愚かで独善的。

 わかってるさ、そんなのわかってるんだよ。

 

「ノジコさんの死と比べれば、村の人間数人死んでもナミ心の傷は浅くて済む・・・・・・ははっ、そんな確証どこにもないのに僕は何を」

 

 例え僕の行動の結果村の人間に被害が出て僕がナミには嫌われようと、最終的にナミがアーロンから解放されて自分の人生を歩むことができれば僕は満足なんだ。

 

 

 

 

 

 ────本当に?

 

 

 

 

 違う、そうじゃない。

 

「ナミに嫌われたくない」

 

 僕は最善策を尽くした、僕は少年漫画の主人公じゃないんだ。

 策を考え出来るだけ犠牲者を最小限に抑えられるように努力した。

 何度も死にかけて強くなった。

 

「麦わらの彼なら誰も死なせなかった?」

 

 きっとそうだろうな。

 

「もっと僕が強ければよかった?」

 

 そうだね。

 

「アーロンの実力を測る行為なんてせずにもっと時間をかけて仲間を集めて強くなればよかった?」

 

 これ以上の時間ナミに苦しめと?

 

「人が死ぬよりは・・・・・・マシなはず」

 

 そんなこと思ってないのに、何よりナミが大事なのに。

 

「違う、僕はちゃんと村のみんなのことも考えて」

 

 少しはね、でもなんで村に被害が出るリスクのある行動をとった?

 

「・・・・・・結局ウタの時と同じ」

 

 結局、僕はウタが好きだった。恋愛とかそうじゃなくて友達として。

 エレジアの人よりウタをとった。

 

「はははっ、なんで僕みたいなバカで無能なクズが成り代わったんだ?」

 

 さぁ。

 

「違う、違う、僕は──────」

 

 

 『プルルルル』

 

 

 「・・・・・・電伝虫?」

 

 自問自答を繰り返しておかしくなりそうだったその時、海軍に連絡するために探そうとしていた電伝虫が鳴り始めた。

 音の発信源の元へ行くと、そこには海軍御用達のタイプの電伝虫が置かれていた。

 アーロンが賄賂を渡している海軍からの連絡かと思い、魚人を装う。

 

「はい、こちらアーロンパーク」

 

『チチチチチ・・・・・・いつまで経っても迎えが来ないがどうした?約束の時間を二十分も過ぎている』

 

 海軍16支部ネズミ大佐か、原作ではアーロンが賄賂を渡していた海軍。

 いや、今は大佐じゃないかもしれない。

 なんにせよ言葉使いが特徴的すぎて一発で分かった。

 

「ああ、本当に申し訳ないんですがいつも送り迎えを担当してるウチの幹部が酔い潰れちゃってまして。できれば徒歩でお願いしたんですが・・・・・・」

 

『構わんよ、道はわかっている』

 

「本当にすいませんね、昨日散々宴をしてしまったもんで」

 

 電話が切れた。

 

「ネズミ大佐に引き渡せばいいかな、汚職の証拠を持ち出せば従わざるを得ないでしょ」

 

 そうでもしなければネズミ大佐がアーロンを解放してしまうかもしれない。

 せっかく倒したのにまたアーロンパークが再興されるなんて悲劇はあってはならない。

 

「海軍ね、ガープ中将を頼れればよかったんだけど」

 

 もしも英雄の力を借りれたらアーロン程度の独裁は一瞬で終わるだろう。

 何もかもを吹き飛ばしてハッピーエンドにしてくれただろう

 

「この海の海軍ではアーロンを倒せる可能性は低い、かと言って本部の人間がわざわざアーロン如きのために最弱の海に来る理由もない」

 

 世知辛い世の中だ。

 

「カームベルトを渡ってくるには金も食料も軍艦も人員も何もかもがいる。いくらガープ中将とはいえ・・・・・・あの人なら独断で出来そうだけども」

 

 実は前に一度ガープ中将に連絡を取った、僕とナミを助けてくれるかもしれない唯一の人に。

 

「『二度と海軍と連絡をとるな、五老星の決定でお前を捕らえなければいけない。今回は見逃すけど絶対海軍に捕まるな』なんて感じのこと言われちゃってさ、ホント何でだろうね」

 

 思い当たる可能性はただ一つ『フシフシの実』だ。あれがゴムゴム並みに世界政府が危険視している悪魔の実であれば五老星の決定にも理由がつく。

 

 だからこそアーロンを倒す今までは大変だった、海軍に頼ることもできず偽名を名乗って戦った。

 戦い続けて強くなった。

 ガープ中将が僕を見逃してくれたのはラッキーだった、僕にそこそこの情はあるのだろうか。

 当然麦わらの彼ほど愛されているわけではないだろうが。

 

「・・・・・・そりゃフシフシは厄介で強い力だけどさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 不穏な気配を感じながらネズミ大佐を待つ、ナミに遭うのは全て終わった後でいい。

 

 

「顔、隠さなきゃな。名前も偽らないと」

 

 偽名には意味が込められている、それは可能性を炙り出すための策。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

「チチチチチ、全くこれだから魚人は」

 

 ネズミ大佐は部下を引き連れアーロンパークに向かっていた。

 いつものように蛸壺移動は出来なかったが、酒に酔い潰れたのならば仕方がない、

 なんと堕落した生活なのだと心底軽蔑しているのだが、金のためなら愛想良く行こう。

 

「さてと、着いたぞ」

 

 アーロンパークの門、それを開けた彼の目に飛び込んできたのは「赤」だった。

 地面も、海も、柱さえも真っ赤に染まった地獄。

 

「ようこそアーロンパークの残骸へ。僕は『キリスト・ユーラシア』貴方の汚職の証拠は掴んである」

 

 唖然、声も出ないその惨状。

 

「さて、取り引きといきましょう」

 

 

 




オリ主はココヤシ村では避けられていました。
食べ物がないので自分の腕を切り落として鍋にして食べていたからです。
怖い。
ナミがそれを知ったのはルフィと仲良くなった後です。
ノジコさんとゲンゾウさんは知っていても気にもしなかったですね、普通にオリ主と接していました。



それとこれは読まなくても問題がない原作乖離点なんですけど、アーロンは転生者である彼の行動によって少々の反乱の意思が蔓延っていたのを知っていたんですね。
何度も何度もアーロンに立ち向かう幼い少年を見て心を動かされたというわけです。
または噂は又聞きで。
そのためこれ以上の粛清を行えば膨れ上がった不満と反乱の意思のダムが決壊し、大反乱が起こるだろうとの予想を立てていました。
人間をなんとも思っていない(諸説あり)彼ですが、損得計算については冷静だったということです。

ヤンデレタグつけるべきでしょうか、オリ主が病んでるだけですが。
今回のオリ主の独白はだいぶ錯乱入ってるので信用度は低め。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。