成り代わりルフィは歌姫を殺すことが出来なかった   作:いいね最高だ

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「運命論者は嫌いです」






とある転生者の戯言より


泡沫の夢では終われない

「地球上で最も知名度が高い単語は?」

 

 ココヤシ村を出てコノミ諸島の外へ、アーロンを倒すために強くなろうと僕は外海へと乗り出した。

 その直後、にわかに疑いを持ったのだ。

 

 

『この世界への転生者は果たして僕一人なのか?』

 

 

 そうであるのならば良し、だが違うのならば幾つかの問題がある。

 そこで同じ世界からの転生者を探すために偽名を名乗ることにしたのだ、同郷ならば確実にわかる名前を使って。

 

「『アース』?いやこれじゃただのありふれた名前だ。じゃあ思い切って『オダエイイチロウ』?いや、作者を知らずに漫画を読む層だって多い………ならこの単語は?」

 

 地球からの転生者、その中でもワンピースを読んだことがある人間にだけ伝わればいい。

 僕は最も危惧するのは『原作を既知とするものによって、アーロンパークになんらかの直接的影響が及ぶこと』これのみだ。

 実力不足の思い上がった転生者があろうことかアーロンに挑み、敗北して拷問され原作の情報を奪われてしまうかもしれない。

 そうなればルフィへと憑依した僕への警戒は最大級に高まるだろう、ナミにもなんらかの影響があるかもしれない、それは好ましくない事態だ。

 あくまで悲劇的で露悪的な妄想だが、可能性があるのなら対策はしておいた方がいいだろう、偽名一つで簡単にできる対策なのだから。

 

「人間は世界中に存在しているけど『漫画を変えるレベルのお金が家庭にある』と考えれば知っている単語は急増する。違法サイトで読むという手段もあるけど、そんなことができるずる賢い人間が()()()()を知らないほど貧困に喘いでるとは思えない、どこでもする単語」

 

 正直に言ってナミへと影響が及ばないなら、『転生者』『憑依者』『転移者』彼らが何をして何を成し誰を殺そうが構わない。

 ただ、ナミに干渉するのなら話は別だ。

 ナミへと関わろうとする地球の人間がいたとしたら、殺害はする予定はないが戦闘も辞さない予定だ。

 弱者である僕が不殺を貫こうだなんて、バカらしいが僕にはそうする他ない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「───イエス・キリスト」

 

 それは神のたった一人の子である。

 それはダビデの子である。

 それは幾つもの宗派にとって信仰対象とされている。

 それは………などととにかくありとあらゆる伝承と認知度を兼ね備えた単語だ。

 

「イエスが人名、キリストが救世主の意だっけ?でもイエスの方じゃ伝わりにくいかもしれない、少なくとも日本出身の人間ならキリストの方がわかりやすいかな。世界中を見てみてもワンピースの読者は日本人が一番多い、確率で言うのならキリストを名乗るのが最も有効なはず」

 

 それを名乗るのは無礼だとか信心深くないだとか、そんな事は心によぎることはなかった。

 ただただ思考は先へと進んでいく。

 

「でもそれだけじゃ転生者も単なる偶然だって思ってしまうかも、ならばもう一つ後に付けよう………ユーラシアとか?少なくとも日本にいて義務教育を受けているのなら十分わかる範囲、『トウキョウ・キリスト』でもいいけど……どちらかと言えばユーラシアの方がいい気がする。ただの直感だけれどもね」

 

 小さな船の甲板の上、僕は一人呟いていた。

 足元に転がるのは二人の海賊、気絶はしていないが痛みで動けないらしい。

 

「貴方達も残念でしたね、たまたま襲った小舟に僕がいるなんて。大丈夫です、命はとりません。少々海図と食料を貰うだけ……あぁ、ここ数日は自分の血しか啜ってない。そろそろ何か食べたいな」

 

 そして、僕は名乗る。

 新たなる名前を。

 

「一応自己紹介をすると、僕はキリスト・ユーラシア。不死身の化け物です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・★

 

 

 

 

 

 ネズミ大佐の人生は順風満帆であった。

 裕福とは言えないまでも、不自由がない家庭で育ち海軍へ入隊。

 得意のゴマ擦りで昇進への道を掴み、世渡りの巧さで大佐まで上り詰めた。

 時に悪どい手を使い、時に民を守り、時に賄賂をその手に。

 だが彼の素晴らしき人生構築は只今を持って崩れ去る、たった一人の災厄の手によって。

 

「キミは……なんなのかね?」

 

 ザワザワと騒がしい部下を手で制し、彼は目の前の異物へ問いかける。

 されどその目はキリストの背後へ注がれていた。

 そこにあるのは赤、視界を埋め尽くすほどの赤。

 そして真っ赤に濡れた柱には手錠で繋がれた魚人が大勢、あのアーロンすらも大口開けて気絶していた。

 

「僕?僕ですか?ですから名乗ったでしょう、キリスト・ユーラシア。近頃近海を騒げせてる海賊狩りと言えばわかりますか?」

 

「チチチチチ……『キリスト・ユーラシア』海賊海軍の区別なしに戦闘を挑むも死者は決して出さないことから『無血狂獣』とも呼ばれた少年、幼いとは聞いていたがここまでとはな。歳は11……いや10 か?」

 

 海軍16支部所属ネズミ中佐、彼の背後には未だ現状を理解できていない部下がいる。

 そのため中佐である自らが率先して今現在起こっている状況と目の前の相手について、懇切丁寧に解説をしているのだ。

 

「見てみればアーロンパークは壊滅状態、魚人は全員捕まっている。チチチチチ……しかし血の量が多すぎるな、たったこれだけの魚人からここまでの血が出るわけはない」

 

 ネズミ中佐、彼の父親は医者である、

 そのため人間の体内にどれだけの血液が存在しているかなどとうの昔に知っていたのだ。

 そして地面に染み込み、木を濡らし、柱はテカり床は真っ赤、プールの中は赤黒く染まっていて肝心のしろ紗央里ちゃんの家城すらも真っ赤っか。

 こんな状況を魚人の血液だけで生み出せるわけがないと考えたのだ。

 

「なれば考えられるのは『過剰再生による血液』、つまり全てはキミの血だ。フシフシの実を食べた不死身人間、悪魔の実の能力者だという噂は本当だったというわけか」

 

 アーロンはネズミ中佐にルフィのことを話はしなかった、そんな必要など微塵もないと感じていたのだ。

 そして現状を整理しつつネズミ中佐の演説は続く。

 

「恐らくはたった一人、単独ででアーロンパークを制圧したこと、それ自体は賞賛に値する。だがねぇ、困るんだよ。もう既に賄賂のことは知っているんだろう?私の経歴に傷をつけたくはない、しかも元タイヨウ海賊団のアーロンに与したなんて知れたら監獄行きもあり得るところだ」

 

「……だとしたら、どうしますか?」

 

 ネズミ中佐はアイコンタクトとハンドサインで部下へ指示を出す。

 右手を上げて、ゆっくり振り下す。

 古今東西ありとあらゆるところで使われてきたその合図が指し示すところはただ一つ、()()()()()

 

「足を狙え!再生する前に私が海楼石の手錠をかける!」

 

 成る程それは素晴らしい策だ、足を狙い再生する前に海楼石の手錠をかける。

 その上で眉間をピストルで撃ち抜いて仕舞えばネズミ中佐の悪事を知る者はいなくなる。

 ただ、唯一の誤算があるとすれば、過剰再生についての誤解とアーロン戦の真実だ。

 

「昔父親に習ったことがある。人類が夢見た不死、それを叶えるフシフシの実、だがその再生能力は話になりませんでしたとな。しかしこのアーロンパークを見る限り、キミの再生能力は歴代でも群を……いや過去に例を見ない程のものなのだろうな。実力も高い……アーロンを倒す程には。打ち方、辞め!」

 

 硝煙と煙の中を進み懐から海楼石の手錠を取り出し、キリストの手へとかけようと試みる。

 だが、それに意味はない。

 辺りに血が飛び散り、部下のフードについてしまった時点で勝敗は決まっていたのだ。

 

「うわぁ!なんだお前は⁉︎」

 

「しーっ、騒いでもいいことありませんよ。大人しくしておいて下さい」

 

「いつの間に背後へ⁉︎」

 

 この時点でネズミ中佐は自分の認識の間違いへ気づいた。

 彼はフシフシの実の能力を使って、血液を圧縮して打ち出したのかと思ったのだ。

 ウォーターカッターの要領でキリストがアーロンを倒したのだと思っていたのだ。

 血の海もそれによって生み出されたものだと考えれば納得できる故。

 

「まさか……血液から体全てを再生したというのか⁉︎」

 

「解説ありがとうございます、ですが部下はもう制圧し終わりました」

 

 ネズミ中佐が抜け殻となったキリストに手錠をかけようとしていた間に、彼は部下の全てを気絶させたのだ。

 彼はアーロンも海楼石の手錠を試していたことなど微塵も知らない。

 

「……チチチチチ、絶体絶命といったところかね。では次は取引と行こう」

 

 原作、つまりはあるはずだったストーリーでは大佐という地位に満足していた彼も今は中佐。

 薄汚い野心に溢れ、諦めとは程遠い場所にその精神は存在する。

 

「……随分と厚かましいですね、ですが取り引きというのなら話は聞きましょう。僕の要求はアーロン一派全員を監獄にブチ込むこと。今後一切ココヤシ村含むコノミ諸島に関わらないこと。そして、」

 

 一呼吸置いてキリストは続ける。

 

「現アーロン海賊団のナミ、未だ手配書は発行されていない彼女のやってきたことに目を瞑ること。彼女はアーロン海賊団になんて所属していなかったとすること」

 

 はっきり言ってこれは最善手とは言えない、実際にナミに関する要求を押し通そうというのなら、契約がまとまってきた辺りで「そういえばもう一個さぁ〜」くらいのテンションで伝えれば良かったのだ。

 

「ほぉ……ナミね」

 

 ネズミ中佐もちろんナミを知っている、もちろん彼女の年齢も。

 そしてここから彼の計算高い頭脳は思考を開始する。

 声のトーン、明らかに一つだけ浮いた条件、などなどから彼は『ナミという少女がキリストにとって大切な人物である』という結論に辿り着いたのだ。

 だが気づいたことには気取らせない、淡々と交渉を進めていく。

 

「アーロンの監獄行き、そうすれば自然と私との賄賂関係もバレてしまう。デメリットしかないが……」

 

「けど貴方はこの条件を飲むしかない、現状僕はいつでも貴方を殺せる状況にいるのですから」

 

「無血狂獣であるキミに殺せるのかね?」

 

「この無法極まりない大航海時代に、自分の命を賭けて『会ったばかりの血まみれの少年が人を殺すかどうか』というギャンブルに挑戦するほど、貴方の胆力は高そうには見えませんが」

 

「チチチチチ、その通りとしか言いようがない。だがこのままだと平行線だ」

 

「では、証拠を隠滅してしまいましょう」

 

 ピンと指を立ててキリストは提案する。

 平行となり交わることがなかった落とし所へと向かっていくのだ。

 

 議論は続く。

 あと、ほんの少し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・★

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ゴア王国。

 

「いよいよ船出だ」

 

 とある海賊団が船出を上げようとしていた。

 その船に乗っているのはたった2名、されどその実力は大人顔負け。

 

「ルフィ……あの世から見てるか?」

 

 二人の名は

 

「おれたちは───」

 

 

 

 

 

 

 『エース』と『サボ』であったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回更新は多分明日です。
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