黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 初期案としてあった主人公に持たせる二つ目の術式が十種だったら?のサルベージです
 御三家の術式なので血縁関係云々と、当時はまだ貫牛に円鹿といった式神の情報がなかったこと
 当時はそこまで魔虚羅が好きじゃなかった…などの理由でお蔵入りになってたやつですね
 それではどうぞ


IF
十種影法術IF―交流会―


 ある昼上がりの禪院家にて。

 使用人すら寄せ付けない、当主にしか許されていないその部屋。

 呑気にかりんとうを頬張る少女に対し、唖然とする老人二人。

 少女、伽藍は寝転びながら、対する老人…直毘人は動きを止めて問う。

 

「………マジか」

「大マジだ、御三家?の十種影法術が、今の私の身体に刻まれているらしいぞ」

「…なるほど、酒を持ってくるべきだったか」

「ふぅん、じゃあ今手に持ってるそれは何だ?」

「水だ」

 

 伽藍のじとー…なんて音が出そうな視線に対して、ただ酒気を帯びた笑い声を返す。

 直毘人は禪院家の当主であり、今目の前で告げられた言葉の意味の重大さを良く知っている。

 数年前、家を飛び出したあの男の子供もそうだったが…まさかよりにもよって受肉元が、と…懸念することは無数ある。

 誰の子か、一体いつどこで漏れ出した血なのか…気になることは山ほどあるし上層部からの小言も面倒臭い。

 が、それよりも重大なのは――

 

「調伏は?」

「流石にまだだ、今は玉犬だけだな」

「ならいい、下手に試行錯誤して"あれ"を呼び出されでもしたらかなわん」

「あぁ…この物騒な気配を醸し出してるあれか」

 

 禪院家の相伝、十種影法術にはその名の通り十種の式神が備わっている。

 しかし最初からそれが使えるわけではなく、最初に与えられる犬の式神、玉犬から術者の人生は始まる。

 式神を呼び出し、従えた式神と己の肉体だけで調伏の儀を行い、討ち果たすことで支配下に置く。

 そうして最終的に、十種類の忠実な配下が手に入る――のだが。

 ある一つの式神、それだけが例外であった。

 

「それは禪院家でも限られた者しか知らん、だが生半可な覚悟で呼び出すなよ、最悪辺り一帯更地になる」

「そうか、気を付けるとしよう」

「………お前だからとはいえ…まぁいいか」

 

 そう言って、伽藍は直毘人が差し出した巻物のようなものに手を伸ばす。

 紙の隅から装飾に至るまで、全てに呪力が込められた見事な品だ、勿論そこに記された内容は言うまでもない。

 それは禪院家の歴史そのものであり、歴代十種影法術の使い手が残した手記。

 

「ほう、なるほど」

 

 紙をめくり、その記された情報全てに目を通す。

 ふむふむ…まるで子供のように目を輝かせる伽藍を、直毘人は面白そうに見つめていた。

 

「わかってるのは九体だけ、だがそれでも充分だろう」

「蝦蟇に貫牛…鵺に、なるほど虎葬ときたか…」

「お前の実力なら特に問題はないだろう?」

「そうだな、どれからかかるべきか…」

 

 むむむと唸りながら、伽藍はしばらく迷い続けていた。

 直毘人は、中身が半分を切った酒壺を揺らしながら言う。

 

「しかし…折角の初儀式だからな」

「む?」

「初めてに相応しい何か…気に入ったやつをやればいいだろう」

 

 伽藍は、その言葉にピクリと眉を動かして。

 

「そうか、そうだな…初めての儀式だ」

 

 そう零してから、何かを思いついたのかニヤリと笑う。

 

「そうだ、最初に調伏させるのだから…うん、決まりだ」

「誰からやる?大蛇か?個人的な意見だが脱兎はやめておけ、あれは本体を見つけるのが面倒だ」

「わかってる、庭借りるぞ」

 

 そう言って、伽藍は庭に向かって歩き出した。

 未だ二日酔いが覚めない直毘人は、その背中を静かに見つめる。

 同時に内心で思い描く未来、それは契約で後に迎え入れることになったあの男の息子。

 伽藍もだ、奇遇にも両者が同じ術式を、同じ血を引き継いでいる、これほど安泰なことはない。

 反対意見は勿論出る、特に伽藍はぽっと出の相伝継承者、それまでの術師としての積み重ねがあるとはいえ、一同を納得させるのは厳しくなるだろう。

 そんなことを考えていた時、だった。

 

「さて…」

 

 伽藍は、そうして庭の中央に立ち、膝をついて何かの構えを取って――

 

「………ん?」

 

 両拳を握り、左腕を剣に見立て、右拳をその内側に置く構え。

 バチン、まるでブレーカーが落ちたかのような幻聴が聞こえ、同時にあふれ出す未知の呪力。

 同時に、響き渡る犬の遠吠えのようなもの。

 ――嫌な予感がする、とても嫌な予感が。

 

「………いやまさか」

 

 いやまさか、それはないだろう。

 わざわざ釘も刺したし、何よりここは禪院家の所有する庭。

 いくら当主自ら許しが出たとはいえ、そこで調伏するのは精々小さな蝦蟇あたりと考えるのが普通だ。

 考えすぎ、ただの杞憂だろうきっ――

 

布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)

 

 直毘人は吐いた。

 その一瞬で、胃の中の全てを吹きだした。

 しかし、儀式は既に始まっている。

 

八握剣(やつかのつるぎ)…」

 

 伽藍の背後に現れたのは、純白に輝く蛹のような巨体。

 それが、口を開いて産声を上げる。

 

異戒神将(いかいしんしょう)魔虚羅(まこら)

 

 布瑠の言、剣に見立てた式神の掌印による調伏の儀が始まった。

 両腕を解き、ただ自然体に構えるその間、背後に立つ魔虚羅は完全な顕現を果たし、右腕から剣を生やす。

 そして、目の前の障害を消し飛ばそうと右腕を振り上げた瞬間――

 

「領域展開」

 

 伽藍が、それよりも早く掌印を結ぶ。

 

『――ッ!!!』

「黄泉天蓋」

 

 その刹那、魔虚羅を含む半径数mが赤と黒の別世界に引き込まれる。

 辺りに広がる人骨の海、そして禍々しく、そして神聖さすらある骨の社。

 極限にまで小さく、そして地上のみに絞った必中範囲と、持続時間を犠牲とした縛りによる瞬間的な高火力。

 最初に、魔虚羅の腕が消し飛んだ。

 

『~~~ッッッ!!!』

「極ノ番」

 

 魔虚羅の足が、胴が裂かれてバランスを崩す。

 残る左腕、切り離された足も念入りに切り裂き、破片一つも残さない徹底した蹂躙が始まった。

 襲い掛かる敗北、そして死の予兆に方陣が揺れ、最初の適応が始まるその寸前。

 油断も慢心も存在しない、極限まで圧縮された液状筋肉が、追撃として放たれる。

 

「――(ムクロ)

 

 前代未聞。

 歴代初の十種影法術奥義、魔虚羅の調伏は僅か十数秒で果たされたのだった。

 

 

 

 

「…伽藍」

「ん?」

 

 しかしその代償に、禪院家の歴史ある庭が一つ消え去ってしまったのだが。

 関係者によると、直毘人はその日普段の倍は酒を飲んでいたらしい。

 

 

 

 


 

 

 

 

 それから数週間後の、姉妹校交流会。

 東京側の五条、そして京都側の伽藍による最終的な一騎打ち…と時間稼ぎによる作戦勝ち。

 それが本来の歴史、しかしここでは史実とは異なる、理不尽の押し付け合いが始まっていた――

 

「…これは、刀?」

「傑!」

 

 ある世界では、伽藍は開戦直後に投擲した刀を媒体として、時空間転移理論(ワームホールパラドクス)による空間ごとの転送を行い、五条と夏油の分断に成功した。

 そして初手領域展開を披露し、その後は徹底的に時間稼ぎに呈したことによる作戦勝ち…それが史実。

 だが、この世界では――

 

「悪いが、落とさせてもらう」

 

 刀ではなく、その下にできた影。

 そこから伸びる、陶磁器のように白く美しい腕が、それに見合わぬ剛力で夏油の首を絞める。

 生物が無意識に刻む呼吸のリズム、それを読んだ完璧な絞め技が成功し、その意識を刈り取らんとする。

 六眼ですら見抜けない、影からの完全な奇襲である。

 

「――っぁ」

「"蒼"…!」

 

 首を圧迫し、抜かりなく喉仏を掴むことで呼吸を止める。

 瞬時に五条の炸裂した蒼による引力、それに伽藍が身体を引っ張れると同時に夏油の意識が落ちる。

 それを支え、五条は目の前の標的をただ静かに見つめていた。

 仄かに漂う血の匂い。そしてぐちゃりと鈍い音が響く。

 

「…なるほど」

 

 頭上に浮かぶ方陣、そして反転術式によって修復される右腕。

 寸前で脱出できたとはいえ、蒼による引力を受けてもあの程度で済むのかと、五条は考察を続ける。

 伽藍の術式はある程度知っている、だが今目の前で起こっている現象は、その情報どれもが当てはまらない。

 そして何よりも――

 

「糧にさせてもらおうか」

 

 頭上の方陣が黒くなると同時に、伽藍は飛び出す。

 右腕を振るい、無下限によるバリアに触れた途端ヂリヂリと、音を立ててそれを突き破らんと速度を上げた。

 不可侵を破られる寸前、反撃で咄嗟に繰り出した五条の右手が、伽藍の顔面に突き刺さる。

 

「…ハハッいいぞ」

 

 伽藍は笑う、五条が動き出す。

 そして同時に、伽藍の足元に広がる影の中から、赤く鋭い肉の触手が無数展開された。

 それらが鎌首をもたげ、同時に五条の首に向かって放たれる。

 が、それら全てが動きを止める。

 

「アホが、効かねぇっての」

 

 無下限による不可侵を破れず、触手たちは五条の手によって無常に散っていく。

 今の一瞬でわかったのは、伽藍は術者の術式効果を中和する領域展延、それを使えることと方陣がその目印になっていることだ。

 先ほど、方陣が黒くなったときは展延を纏い、無下限による不可侵のバリアを破ったというのに、今は違った。

 伽藍は徒手空拳を避け、液状筋肉によって作り出した無数の触手によるヒット&アウェイに徹しており、しかもそのどれもが無下限を中和できていない。

 わかりやすい弱点だ、しかしそれなのに――

 

「どうした?」

 

 ――ガゴンッ!

 方陣が、一回転して音を鳴らす。

 

「来ないのか?」

 

 ――猛烈に今、嫌な予感がするということ。

 

「上等」

 

 気づかれないよう、こっそりと目配せを終えた後、五条はただ笑う。

 目の前の、すまし顔の気に食わない婆をぶん殴り、そして自分たちの最強を見せつける、それだけだ。

 五条は動く。

 

「"位相" "黄昏" "智慧の瞳"」

 

 術式効果を上げるため、本来は短縮する呪詞を解放。

 同時に駆け出し、必中の技へと昇華させるための選択を、五条は行う。

 ――互いに、右腕を振り上げ。

 

「ッラァアアアアアアッッ!!!!」

「ハァアアアアアアアッッ!!!!

 

 芸術的なクロスカウンターが炸裂した。

 それによる硬直、そしてその隙を逃さんと襲い掛かる蒼の球体を目前に。

 伽藍は仰向けに倒れ込み――

 

「残念」

 

 ドプン…

 まるで水に飛び込むかのような、そんな姿勢と共に影に沈み、蒼が不発に終わる。

 六眼による呪力探知すら届かない漆黒の海、そこを優雅に泳ぎながら、伽藍は再び浮上する。

 ――五条の背後へ。

 

「っそこ――」

「布瑠部…」

 

 五条が咄嗟に振り向く、伽藍が両腕で掌印を形作る。

 そして五条よりも先に、一歩速く伽藍が祓詞を唱えようとする。

 伽藍の表情が、喜色に染まる。

 

「由良由…」

 

 瞬間、伽藍の掌印が解かれた。

 何故。それを感じるよりも早くやってくるのは痛み、そして呪霊特有の濁った呪力反応。

 腕を治癒しながら、伽藍は地上に視線を向ける。

 

「チッ、もう起きたのか」

 

 伽藍は忌々しいという表情を隠さずに言う。

 先ほど、彼女の身体に噛みついていた龍は既に姿を消しており、報復の的を失ったことが更に伽藍を苛立たせる。

 その視線の先で、夏油は構える。

 

「すまない、油断した」

「いいからさっさと終わらせるぞ、嫌な予感がする」

 

 覚醒し、戦線に復帰した夏油に並び、五条は木の頂上で着地した伽藍を見る。

 五条はいつでも蒼を出せるよう、夏油は先ほど戻した虹龍をいつでも呼び出せるように準備を終えており、その立ち姿に隙は無い。

 

「チッ、影に沈めるべきだったか…?」

 

 そう呟く伽藍に対し、夏油は冷や汗を流しながら息を吐く。

 咄嗟に虹龍を出したはいいが、もし一瞬でも戻す判断が間に合わなかったらと考えると恐ろしい。

 肉弾戦は互角、もしくは向こうに分がある現状、数の利はできるだけ失いたくないからだ。

 ――ガゴンッ!

 

「悟、あれは?」

「知らね、でもどうせロクなモンじゃねぇだろ」

 

 再び回転する方陣。

 未知の存在と未知の力、両者の警戒心は臨界点に達し、夏油はもう一体の切り札を呼び出すことを決める。

 

『おおおおおおっ!』

『………』

 

 巨大な一つ目の入道、そして簡易領域を持つ口裂け女。

 先ほど温存した虹龍も含めれば、数の勝負で負けることはないだろう。

 ――そう、相手が伽藍でなければ。

 

「勘違いするなよ」

 

 再び、伽藍が掌印を結ぶことで影が躍動する。

 夏油は再び、その動きを止めるため呪霊に命令を下し、入道呪霊は術式を発動。

 伽藍の立っていた場所が、青の波動に包まれて崩壊した。

 

「的がデカいな」

 

 伽藍は空中に飛び、その両手を重ねて入道呪霊に向ける。

 その矛先は、その巨大な目そのものであり――

 

「まずは目潰し」

 

 バチュウッ!とレーザーのような高音と共に、伽藍の両手から放たれた高圧の水鉄砲。

 入道呪霊がそれに気づき、術式で水を叩き落そうとした時――

 

「満象」

 

 刹那、轟音。

 影、そして水に目の前の式神の姿を見て、五条は伽藍の持つ力の正体にたどり着く。

 しかしたどり着いたところで全てが遅く、何より未だ封じられたままのある情報を、()()()()()()知らなかった。

 目の前では、五条の知る姿とは似ても似つかない、元の数十倍は大きく、そして禍々しい見た目をした満象の姿があった。

 それが入道呪霊を抑え込み、今にも押しつぶさんとする瞬間。

 

「貫牛・渾」

 

 ――バゴンッ!

 それよりも早く、そして一撃で入道呪霊が消し飛び、消失反応が始まった。

 あまりにも素早く、そして一瞬で影に戻ったことで姿は見えなかったものの、その脅威だけはしっかりと感じ取れる。

 強さの格だけならば、あの満象よりも上だ。

 

「なっ…!?」

「よそ見」

 

 木から飛び降りると同時に、伽藍は右手のみで掌印を結び影を動かす。

 人差し指を中指を伸ばし、それ以外を畳んだ犬のような影絵。

 それが伽藍の右半身を包み込み、()()()()()()躍動を続ける。

 

「玉犬」

 

 いつの間にか地面を覆いつくしていた百足の大群。

 それらを、まるで刃物のように鋭く、黒く輝く爪と肉食獣顔負けの筋肉を持った腕が蹂躙する。

 まるで舞を踊るかのように、一回転して死骸すらも残さずに。

 再び襲い掛かる青色の赤子、それらが大量に波のように襲い掛かり、伽藍の身体を飲み込もうとする。

 しかし再び、伽藍は先ほど見せたのと同じ、式神の能力だけを顕現させることで()()()()を右腕から放出。

 それをワイヤーのように木に引っ掛け、再び上空に舞い上がると同時に先ほどと同じ攻撃で一掃する。

 

「――玉犬」

 

 身に纏う影を解除して、伽藍は首を傾げながら言う。

 その表情は、やはりその美しい少女には見合わない凶悪なもので。

 

「これで四対一…とでも思ったか?」

 

 再び、伽藍が結ぶ掌印の数々。

 最初に結んだのは、先ほどのあの掌印。

 それを簡略化させず、本来の手順によって再現する。

 

「玉犬・渾」

 

 両手を合わせ、犬のような形にすることで生まれ落ちる影。

 そこから現れた式神は、五条の持つ知識のどれにも属さない見た目だった。

 その巨体は鬼の如く、枝分かれした宝石のように輝く角と、狼に似た狂暴な顔と剥き出しの牙。

 両腕、両足を彩る巨大で禍々しい爪と、背中から生える真っ黒な翼。

 

「嵌合獣・蓋吞(がいどん)

 

 間髪入れず、再び結ぶ掌印と呪力の起こり。

 左手を軽く握り、右手で角を形作って牛の影絵を媒体に。

 そうして呼び起こす、もう一体の式神。

 

「貫牛・渾」

 

 地面を割るほどの膂力、それが目の前の式神から放たれる。

 緑と灰の巨大な両腕が地面を叩きながら、その顔を五条たちに向け、戦いを喜ぶかのように凶悪に笑う。

 尾から生える蛇、そして正に牛鬼と呼ぶに相応しい巨体と相貌は、式神の中でも上位の存在なのだと、理解した。

 

「嵌合獣・砕仙(さいせん)

 

 並の術師ならば容易に屠れる、圧倒的な力と存在を放つその式神。

 それらが忠誠を誓い、この黄泉返った闘鬼に全てを捧げている。

 その姿を満足そうに眺めた後、両腕を上げて伽藍は言う。

 

「三対四だ。すぐに終わるがな」

 

 まるで新しい玩具を手に入れたかのような顔で

 影の式神たちによる、第二ラウンドが始まった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「虹龍!」

 

 最初に動き出したのは夏油だ。

 式神の召喚が終わり次第、一気に勝負を決める勢いで虹龍は空中を駆け抜ける。

 上空に向かい、そこから更に速度を足して一撃で仕留めるつもりだったのだが。

 

『――』

 

 砕仙と呼ばれた式神が、その両腕を上空に向ける。

 虹龍が一定の高度にたどり着いた時、砕仙は近くにある木々に向かって両腕を伸ばし、握ることで力を貯める。

 まるでスリングショットのように、ギリギリと木々がしなる。

 そして、両者が駆け出した。

 

『~~~ッ!』

『――』

 

 ゴシャア…その音を表すならばそれが最も相応しいだろう。

 上空から速度を上げて降下する虹龍と、それに向かって全力の体当たりを決めた砕仙。

 互いにノーガードでぶつかり合い、両者等しくダメージを受けると思っていた…のだが。

 

「――馬鹿な!」

 

 ()()()()()()()()()()()()

 夏油の持つ呪霊の中でも、最高硬度を誇る鱗と肉体、しかしこの式神はそれらを合わせた防御力を、純粋な火力で突破したのだ。

 頭が半分潰れ、今にも消えそうな虹龍の身体を、再び砕仙が両腕を伸ばして拘束する。

 ――そしてもう一度。

 

『――!』

 

 ゴシャッ!

 至近距離で放たれた頭突き、それによってとうとう限界を超え、虹龍の消失反応が始まった。

 そして同刻。

 

「っ、そっちも来るのか」

『――』

 

 ガンッと鈍い音を立てながら、蓋呑と呼ばれた式神が夏油の前に立ち塞がる。

 五条はその間も、逃げに徹する伽藍を攻め切ることができずに、今も時間を稼がれている。

 その間に、唯一の援軍を呼べる夏油を始末するつもりなのだろう。

 なんとか距離を取って戦おうとする夏油を、五条は歯がゆい思いで見る。

 

(チッ、あっちも潰したいがコイツ(伽藍)が面倒すぎる)

 

 再び、伽藍の頭上でガゴンッと回転する方陣。

 十数年後の彼ならばともかく、()()()()はそれを知らない。

 それ故の致命的な悪手を繰り返していることも、まだ気づけていない。

 しかし無常に、それの解析は進んでいる。

 そんな中、五条は冷静に考察を続けていた。

 

(あの式神…蓋呑はさっき言ってた通り玉犬だな、それに鵺と円鹿を混ぜてある…いや、多分虎葬も混ぜてあるか)

 

 低級の呪霊を使い捨てる勢いで、夏油は防戦一方ではあるがなんとか式神の攻撃をいなしている。

 しかし一対一ではなく、今の夏油は二対一を強いられている、それもいつまで続くかは分からない。

 

(砕仙は貫牛、それに大蛇と…色と残りの推測からして蝦蟇か?クソ面倒臭い戦い方*1しやがる…)

 

 蒼による引力を駆使し、五条は伽藍の防御を突き破ろうと何度も拳を振るう。

 しかしそのどれもが伽藍自身の防御、そして液状筋肉による簡易的な盾によって防がれ、どれも本来の威力を発揮できていない。

 何より伽藍の戦い方が面倒だ、攻めると思いきや、追撃は無下限を破れない肉の触手による無駄な行動。

 展延を使うこともなく、ただただ液状筋肉を使い捨てる勢いの防御と攻撃にあきれ果てた時だった。

 

「…あぁ」

 

 ――ガゴンッ!

 方陣が、四回目の回転を刻む。

 

「そろそろ終わらせよう」

 

 頭上に浮かぶ方陣を掴み、右手で強く握りしめそう告げる伽藍。

 同時に、五条は片手で掌印を結び、呪詞と共に最大火力を放とうと。

 

「"位相" "黄昏" "智慧の瞳"」

 

 出力最大の蒼が炸裂しようとした瞬間。

 

「出番だぞ?」

 

 伽藍が、右手に握る方陣を捨てる。

 同時に広がる巨大な影、それと入れ替わるように、仰向けに倒れながら――

 笑顔で、その言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)

 

 

 

 

 瞬間。

 最大出力の蒼が、()()()()()

 

「は?」

 

 影から出でるは、最強の式神。

 十種影法術の矛にして盾、この数百年、主を持たずに影に封印されてきた忌むべき剣。

 それが数百年ぶりの解放と、新たな主の誕生を祝い、その姿を顕現させた。

 禪院家の虎の子、その式神の名は――

 

「八握剣…異戒神将魔虚羅」

 

 魔虚羅は蒼を容易く切り捨て、ただ静かに主の隣に立つ。

 指示をくれと、今までの者と違い有効活用してみせろと、その自由を噛み締めているかのように。

 その自律した精神を察したのか、伽藍は優しくその右手に触れる。

 同時に、時間稼ぎを終えた蓋呑と砕仙もまた、主の元へ駆けつけた。

 

「言っただろう、五条」

 

 魔虚羅の手に触れながら、今も呆気に取られた五条に対して、伽藍はしてやったりと愉快に笑う。

 剣を構える魔虚羅、角と牙を光らせる蓋呑と、その力強い肉体を見せつけるように威嚇する砕仙。

 それらを背後に置き、伽藍は笑顔で言う。

 

「四対三だ」

 

 再び、式神たちは躍動する――

*1
蝦蟇で拘束して貫牛アタックを絶対当てるクソ合成




(没にしたもう一つの理由)
 伽藍の液状筋肉(一度作れば術式使わずに操作できる&自分の身体の一部判定)と方陣で術者が適応を肩代わりが合わさり、実質十種と別の術式使いながら、しかも安全に適応クソゲーを仕掛けられるという滅茶苦茶相性良い組み合わせのせいで物語が展開できないから

嵌合獣・蓋呑(玉犬+虎葬+鵺+円鹿)
嵌合獣・砕仙(貫牛+蝦蟇+大蛇)
残り(満象.脱兎.魔虚羅)
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