黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 我ら、平安アミーゴ。


8話.日と星

「お姉ちゃんっ!」

 

 禪院家、その中庭の中央で、禪院真依は声を上げる。

 彼女は双子だ、呪術界では凶兆とされている、一卵性双生児の妹。

 そして、毎日のように行われる、禪院直哉による訓練を称した虐待は、今もこうして彼女に牙を剥いていた。

 

「ってて……心配すんなっての、この程度かすり傷だ」

 

 直哉によって顔面を蹴られたものの、その生まれついての頑丈さにより、軽い出血で済んだのは幸運だろう。

 だがその特異性は、呪術を至高とする禪院家では忌み嫌われるものだった。

 

 禪院真希。禪院真依の双子の姉にして、呪力を犠牲とした天与呪縛を持って生まれた者。

 

 術式はおろか、呪力すら持てず、更に女として生まれてきた真希の、禪院家での扱いは最悪に位置するものだ。

 今こうしてる間も、傷だらけの少女を助けようとする者も、心配するような者もいない。

 そんな彼女を蔑み、甚振る当主候補の直哉の顔、それは、一種の侮蔑と――

 

「…クソッ」

 

 全身に走る鈍い痛みが、真希の思考を鈍らせる。

 胃液がこみ上げてくるほどの焦燥と、その様子を見て、更に焦る妹の姿。

 震える身体を誤魔化すように、指に力を入れて、地面を更に強く握りしめる。

 

 そんな時だった。

 

「――おい」

 

 どこまでも無機質な、誰かの声が聞こえてきたのは。

 

「…あ?」

「お前の名前は、何だ」

 

 知らない。少なくとも禪院家では聞いたことのない、誰かの声。

 嘲笑の気配も、落胆の声でもなく、そこにあるのはただの疑問の感情。

 心の底まで見透かされたような、よく耳まで通る覇気のある声。

 

「…お前こそ誰だよ」

 

 常に虐げられてきた影響か、反射的に真希は顔を上げ、声のする方を睨み返す。

 そこにあるのは憐みか、嘲笑か、とにかくどんな瞳だろうと、それを潰す勢いで睨み返そうと力を込める。

 そうしてそこにいたのは、白く輝く銀髪をなびかせた、自分と同じ女の人で。

 ほんの少しあっけにとられて、そして目の前の女が、面白そうにハッと、頬を吊り上げ笑ったことで意識が戻る。

 

「よく吠えるな、その反骨ぶりは見事だと言ってやる」

「…ハッ、んだよ…お願いすれば助けてくれんのか?」

「ほう?私に助けて欲しいのか?なら今助けてやろうか?」

「っ…いらねぇよ…!」

「フン。ならいい、元より助ける気など微塵もなかったから安心しろ」

 

 そう言って、真希が手をついて立ち上がる間も、彼女は真希を見つめるだけで、何も干渉をしてこなかった。

 どうやら、彼女は本当に助ける気などなかったようだ。

 真希としても、そんな憐みや情けで、助けられるつもりなどなかったためそれはいい。

 だが、落ちこぼれの烙印を押された真希へ、じっと向けるその瞳が不気味だった。

 ほう…と、まじまじと、隣で肩をビクリと震えさせる真依を見つめて。

 

「お前が、妹か?」

「っ…はい」

「あんまりだな、これは酷い。呪縛もない…肉体は普通、しかし生まれついての呪力量がそれか?しかも双子か…術式は……」

「ッおい…!」

「となるとお前が姉か。そっちは呪力が…か、これも酷いな。基礎的な呪力を練ることすらできん、呪力強化などもってのほかだ、しかも肉体の強化幅が…」

「黙れよ…!」

 

 一人推察を始める姿を睨み、真希は声を荒げる。

 自分はいい、どれだけ見下されようが、どれだけ踏みつけにされようとも耐えてやる。

 必ずいつか見返してやる、そしていつか、この世で一番大切な妹のためにこの場所を、禪院家を変えてやると。

 だから。

 

「その目で、真依を見るな…!」

 

 品定めするかのような視線、禪院家で毎日のように向けられるそれを、妹に向けるなと。

 遥か格上の相手に、無謀に睨みつけ、吠えた。

 

「…いい。実力、立場両方が不相応だが、故に気に入った」

 

 そして、女はそう言って、満足そうに目を細めて、自分を睨む真希を見つめ返す。

 その顔には更に、隠しきれない期待と好奇が浮かんでいた。

 だが先ほどと違い、そこには確かに、一種の敬意が含まれていた。

 

「私は伽藍。呪術全盛、平安の世を生きてきた生き残り。改めて聞く、お前の名前は?」

「……真希」

()()。そうか、覚えておこう」

 

 苗字は聞かない、対する真希も、答えるつもりはない。

 高貴な血、生まれつきのハンデ(天与呪縛)。それらは全て価値に値せず。

 伽藍が求めるのは、欲望への"飢え"と、それを望み続ける個人の"我"。

 

「お前は何故強くなりたい」

「私が、禪院家当主になる。そうしてこの腐った家を変えてやる」

「できるのか?お前に」

「やってやる。出来損ないが当主になって、アイツらの悔しがる顔を笑ってやる」

「悪くない、熟した時が楽しみだ」

 

 そう言って、隣に立つ青髪の少女を抱きかかえた伽藍は、もう用はないとでも言うように、背中を向けて歩き出した。

 その足取りはどこまでも、力強くて堂々としたもの。禪院家では見られない、美しい女性の仕草。

 真希が最後に見て、聞いたのはその姿と、伽藍がふと零した独り言だった。

 

 

「お前が、()()()()()()が楽しみだ」

 

 

 それが妙に、耳に残って仕方なかった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 こうして思い返してみると、やはりここに来て正解だったと、伽藍はそう実感する。

 たとえ衰え退化しようとも、それを受け入れられない者がいたのだとしても。

 確かにいたのだ、かつての自分と同じ、目指す者がこうして。

 

 己の我を突き通す者(禪院直毘人)、望みの果てを目指す(禪院真希)者。

 

「おかあさん…?」

「…気にするな、少し考えていただけだ。もう一人で歩けるか?」

「うん!」

「降ろすぞ」

 

 ふむ、やはり子供は元気なものだ。

 自分がどうだったかはよく覚えていない、が。しかしここまで、活気溢れる程では無かったはずだが…

 

「あまり遠くに行くなよ」

「はーい!」

 

 そう返事しながら、霞は全速力で、伽藍から離れて行った。

 

「……………」

 

 ――あの餓鬼…!

 

「ッハハハ!平安術師様も、子育てに苦労するもんなんやなぁ」

「…やはり居たのか、直哉」

「おっ気づいてた?真希ちゃんと話してる時から、実はこっそり後ろで見てたんやけど」

「通りで、視線を感じたわけだ」

 

 気づかなかったわけではない。凪いではいるが、確かにそこには呪力の気配を感じた。

 なにより視線、体温。その他の人間の残す残穢が、こちらを射抜いていたから。

 

「にしても、なんであんな出来損ないに目掛けたん?」

「アイツか?あー……まぁ、あれだ。期待半分…そんな感じだ」

「やめといた方がええで?俺の方が見所あると思うんやけどなぁ」

「ハッ。最低でも、直毘人程の男になってから言うんだな」

「うげぇ…それ反則やって」

 

 まるで勘弁だと言うように、直哉は顔を顰めた。

 しかし口ではそう言いつつも、実父の実力は認めているようで、それ以上は言わなかった。

 

「お前もいい目をしている、次会った時が楽しみだ」

「なんや、もう行くんか?」

「あぁ、世話になったな」

「もう少しいてもええんやで?パパも伽藍ちゃんのこと気に入ってるみたいやしな」

「知ってる。それに、近いうちにまた来るさ。ここは居心地がいい」

「ハハハ、それはよかったわ」

 

 伽藍と同じ、(呪い)の極致を目指す者。

 彼女が禪院家を出ようと歩き出した時、直哉はいつの間にか、彼女の隣に立って、話しかける。

 

「にしても、全く派手なことするなぁ。女なんやからもっとお淑やかな方がええんちゃう?」

「フン、くだらんことを」

「いやいや。女は普通、男の後ろ歩いて付いてくるべきやと思わん?」

「どうでもいいな。もし私にそうしろと言うなら、今ここでお前の背中を蹴り上げてやる」

「うわ、こわ~」

 

 どこまでも澄んだ、強さへの渇望。

 歳をとり、衰えていく日々の中でも、伽藍が忘れなかったそれを、直哉は今持っている。

 彼はふと足を止めて、吐き捨てるように言った。

 

「どいつもこいつも、得物ぶら下げて偉そうにしてるくせに、誰もその強さを信じひん」

「…………」

「多分俺だけやった。いや、もしかしたらパパはわかってたかもしれへんな」

「……それは」

「誰も、甚爾くんの強さを、"あっち側"の存在を見いひんかった。馬鹿な奴らやで」

「……」

「術師殺し…って言われてる殺し屋や、会ったんやろ?」

「ああ」

 

 ――なるほど、この男が求める強さの先は"これ"か。

 天賦の肉体、この世で最も縛られた者でありながら、呪いから脱却した自由な男。それを伽藍は思い返す。

 

「残念ながら闘ることは無かったが…それでもわかる。アイツは強い」

「当たり前やろ、甚爾くんなんやから」

「ククク…そうだな。あれほどの逸材を捨て置くとは、あまりにも勿体ない」

「自分の方が弱いくせに、それを自覚してる癖にや。呪術も使えん猿やって、隠れて笑うんやで?ウチのおっさん共は」

「つまらんな」

「あぁ、しょうもないわ」

 

 本当にくだらないと、2人で笑う。

 

「今のあんたは、あの時見た…あの目と同じやった」

「…思い出話か?」

「あぁ、もっと聞きたい?」

「いや遠慮する。"それ"は、自分のためだけに取っておけ」

「…そうやな、そうさせてもらうわ」

 

 どうやら、直哉の言う"あっち側"とやらに、伽藍は既に含まれているらしい。

 呪力、身体能力……それらを明確に区別するものじゃない、純粋な"力"。

 いつか彼が見たそれは、きっと彼女も望む、強さの象徴と一緒なのだろう。

 

「また会おう、直哉」

「あぁ、ほなまた」

 

 ――嗚呼、本当にいい目をする男だ。

 その瞳を見て、より一層そう思う。強さへの渇望だけなら、もしかしたら真希を超えるかもしれないと。

 まるで、昔の自分を見ているような気分だった。

 

 

 

 

 

「あ、お母さん!」

「やぁ、君が伽藍かい?」

「は?」

 

 目の前には、浮遊する蛇のような形をした式神。

 それとじゃれ合う霞の姿と、それを見守る金髪の女。

 

「ところで…どんな男が好み(タイプ)かな?」

「あ?」

 

 とても、面倒くさそうな予感がした。

 

 

 

 

 

「……お前は誰だ、いきなりなんだ」

「アッハッハ。すまない、自己紹介がまだだったね?特級術師、九十九由基(つくもゆき)……って言えばわかるかな?」

「…………………………あぁ、そうだな」

「え、もしかして知らない?」

「知らん」

「マジが~!?…あ、ここ座る?」

「…あぁ」

 

 すぐに切り替え、九十九は一緒に、公園にあるベンチに伽藍と同時に座る。

 そしてその反応を見るに、どうやら自惚れではなく、本当に自分を知っているはずと思い込んでいたらしい。

 見た感じ敵意はなく、だからといって無防備という訳でもない。

 その全身からは、一定の出力を保ちつつ、呪力が溢れその身を保護している。

 間違いなく、強者のそれ。

 

「う~ん…自分で言うのもアレだけどさぁ、私結構な有名人だよ?」

「あ~?………んんん…」

「ほら、思い出した?思い出しただろ!?」

「あー、確か……」

「おっ!なんだい?」

「よく任務をほっぽり出して、海外に遊びに行くろくでな…」

「はいストップストップゥ!それ以上はメッ!!」

 

 ワタシ、コウセンキラーイ。と、棒読みで目を背ける九十九。

 その、一気に威厳だったり、強者特有の威圧感が消えた様子を見て、伽藍は勘違いだったか?と疑問を浮かべた。

 

「でも、今は君の話題で持ち切りさ。なんてったってあの平安、呪術全盛期から黄泉返ったんだってね?」

「お前も話を聞きたいのか?」

「うーん…それも魅力的なんだけど……今回は逆かな」

「なに?」

 

 九十九のその言葉に、伽藍は少なくとも一種の驚愕を覚えた。

 呪術全盛期。現代の呪術を修めた者なら、皆が欲しがる様々な知識。

 実際彼女も、軽い結界術や術式の取り扱いなどの、呪術の知識を聞かせてくれと頼まれたことがある。

 しかし今回は。

 

「今回は私。他ならぬ、私の話を君に聞いて欲しくてね…平安術師様?」

「……聞かせてみろ」

「いいね、話が早くて助かるよ」

 

 さて…と。手を組みなおして、九十九は話す。

 

「私には目的があってね、何だと思う?」

「頭を殺して王になるのか?」

「物騒!?違う違う!…私の目的は平和だよ、平和」

「……はぁ?」

「うわなにその顔」

 

 どんな考えが出るかと身構えたら、出てきたのはある意味確かに、突拍子もない愚かな考えだ。

 

「呪霊をなくしたい、呪霊の生まれない世界を作りたい…といったところかな」

「…呪霊をなくす?」

「そ、なくすの」

 

 そもそも呪霊とは、(おり)のように積み重なってできた負の感情。

 その他の動物ではなく、人間の生み出す負の力、呪力が呪霊を作り出す。

 呪霊をなくすことは、それすなわち呪力をなくすことで。

 

「まさか、全人類から呪力をなくすとでも言うつもりか?」

「おっ?まさにそれを今から言うつもりだったんだよ。あ、もしかして…」

「禪院甚爾だろう、私も会った」

「イイネ!話がどんどん進展していく」

「あぁ、そ――」

 

 そして、ふと遠くで、霞の嬉しそうな声がする。

 ふと目線を向けると、凰輪(ガルダ)と呼ばれた九十九の式神と、楽しそうに遊んでいる霞の姿が見えた。

 …もう少し警戒しろ。そんな戒めの目線を彼女に向ける。

 

「あれは君のお子さん?」

「一応、血は繋がってない養子だがな」

「いやいや超そっくり…と、話を戻すけどね…」

 

 そうして、九十九が語ったのは本命の手段。

 

「術師から呪霊は生まれない…あ、これは流石に知ってるか」

「当たり前だ、死後呪いに転ずるのは含めないよな?」

「勿論」

 

 術師は非術師と比べて、周りにまき散らす呪力が少ない。

 勿論、術式や本人の呪力量、そして呪力出力によっても変わるものだが。

 つまり。

 

「極論だけどね。全人類が術師になれば、呪いは生まれない。ってことだよ」

「…………………フッ」

「え、なにその反応」

「冗談はいい、早く聞かせろ」

「え、結構本気だったんだけど?」

「…………………………はぁ?」

 

 二回目だ。

 どんな答えを聞かせてくれるかと思ったら、出てきたのは荒唐無稽な理想話。

 それに伽藍は、より冷めた表情で言う。

 

「くだらん、まさか本気で術師が呪いを生まないと?何の冗談だ」

「まぁそうだよねぇ~…流石に考えが甘かったかなぁ」

「術師がその気になれば、呪霊など簡単に作れるだろうが。実際今も残っている、簡単な式神術もそう。馬鹿馬鹿しいな」

「じゃあ逆にだ、非術師を一斉に粛清するとかは?」

「余計ありえんな」

 

 個体差はあれ、皆呪いを宿して生きている。

 死後呪いに転じたり、人の怨嗟が地に焼き付くのもそう、たとえ非術師だろうが変わらない。

 人を殺す力に目覚めるきっかけが、皆平等に与えられる。

 それが、それこそが――

 

「それが"死"だ、死ほど最も身近で、最も恐れられる起爆剤はない」

「術師だけの世界だと、量より質の呪いが廻る。非術師を間引けば、大量の怨嗟が土地を汚す…か」

「くだらんな」

「あーわかる、本当につまんなそうな世界だよねぇ~!」

 

 ――なんだ、コイツは何をしたい?何を望んで生きている?

 伽藍は今も尚掴めない、九十九という女の本性が理解できない。

 どれが本当なのか、それとも全てが本音なのか?わからない、わからないが、何より。

 ――何故、私は()()()()()()()()()()()()()()

 

「う~ん、となるとやっぱあれかなぁ…」

「…………前振りが長い、話すならさっさと話せ」

「あ、ごめんごめん。じゃあ言うね?私が真に望む世界、それは――」

 

 そして、九十九はその顔を、より深い笑みで染めて、言った。

 

 ――呪力からの"脱却"だよ。

 

「…脱却だと?」

「そ、この世界から、完全に呪いを消す」

「…禪院甚爾のようにか?」

「あーちょっと違うかな」

 

 そう言って、うーんとこめかみを指で押さえて、九十九は唸る。

 

「世界中で一人だけ、禪院甚爾だけがサンプルだから断言はできない、けどね。簡単に言うと、全人類を彼のようにするんじゃなくて、彼も含めた全人類を一般人化させる…って感じ?だからね」

「…理解した。天与呪縛の仕組みからして、甚爾には本来、宿()()()()()()()がどこかにあったはずなのだろう?」

「…その通り、天与呪縛は足し引きだ、何かを捨てて何かを得る。何かを得るために、やむなく何かを捨てないといけない。禪院甚爾はそれだった」

 

 呪力がない存在、呪いに縛られることによって、逆に呪いのしがらみから解き放たれるという、矛盾した恩恵。

 しかし結局は、その天賦の肉体を得るためにも、本来自分が持つはずだった呪力を犠牲にしている。

 非術師でも呪力を持っているからこそ、持っていないことによる恩恵の足し算が成立するのだ。

 

「全人類のデフォルトが彼になるなら…希少性という天秤は崩壊し、フィジカルギフテッドの足し引きは成立しなくなる。つまりは超平和!世界から呪霊がいなくなる素晴らしい世界ってわけ」

「…………………………」

「こんなの上層部には言えないしね、自分の呪術を捨てて、これから一般人になろうなんてさ」

「………………………………」

「伽藍くん、君はどう思う?」

 

 九十九はそう言って、伽藍の顔を覗き込む。

 呪霊のいない、呪術の使えない。それでも確かな、平和の訪れる世界。

 呪いのない、平和な世界を解き、その答えをしろうと距離を縮める。

 

「…それは…………」

 

 呪いのない…呪いも……………

 

 

 

 

 

つまらん世界だ

 

 ――闘いもない世界を想像して、伽藍は吐き気がした。

 

「…君は反対なのかい?」

「あぁ、ふざけるな。そんな世界の何が楽しい、何が面白い?想像しただけで反吐が出る」

「……理由を聞かせて貰ってもいいかな」

「愚問だな。大体私は、私以外どうでもいい、人の不幸せをどうにかしたいなんて思ったこともない」

 

 血肉沸き踊る闘い、己の自己と技術を高めるための、純粋無垢な殺し合い。

 その果てに得られる、成長の実感。それがない、必要の世界など。

 伽藍はいらないと、そんなものは必要ないと切り捨てる。

 

「そもそも、呪霊がいなくなるのも考え物だな。呪術師と違って、呪霊は鍛錬の必要もなく、高頻度で素晴らしい実力を持ったやつが沸いてくる。それを賞味できなくなるのもな」

「ハハ…まるで呪詛師みたいだ」

「それが何だ、そもそも目的が違うんだ。私は呪霊のいない世界も、牧歌的な平和も望んではいない」

 

 呪霊、術師、人間。これらは――

 

「これらは皆、平等に価値のある"可能性"なんだ。真の強さの先、ただ武術を修めただけでは到達できない、真の強さへの挑戦権を持つもの」

「……」

「わかるか九十九、術式や天与呪縛など、所詮は個性。肌の色が違うようなものだ」

 

 あの、呪い廻る平安の世。確かに宿儺は世界の中心だった。

 全てが彼を畏れ、崇め、命を散らして大地に焼き付かれた。

 圧倒的な、自己の王。

 

「これらは可能性、強さの果てに到達する者たち。それを左右するのは個人の我…"天上の意志"に他ならない」

「天上の意志…君はそれに入ってるのかな?」

「さぁ、知らん。だが強いて言えば…お前は違うとだけ言っておこうか」

 

 ――お前じゃない、私でいい。あの呪いの玉座と、天上の位を奪うのは。

 

「霞、帰るぞ」

「はーい」

 

 特級術師。一級と違い、並外れた実力と「国家転覆が可能であること」が加味され認定される真の強者。

 伽藍はそれと会ってみてどんな刺激が貰えるかと期待した。が、とんだ期待外れだった。

 "国家転覆が可能"それすなわち国と闘い勝利することのできる、選ばれた強者だというのに。

 

「……違う」

 

 なぜそこで止まる?なぜもっと我を突き通さない?

 なぜ、自分を中心に考えようとしない。

 

「…違う」

 

 ――いないのか、宿儺と同じような…いや私のような者でもいい。

 嗚呼、どうか、私の前に、私と同じ意志を持つ者を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏、青い空。

 

「…あ?誰だよオマエ、歌姫の知り合い?」

 

 目を焼いてしまいそうなほどに、輝く白髪と。

 

「口の利き方には気を付けろ、餓鬼」

「アァ?」

 

 宝石のような青い瞳,

 

 

 

 そこには確かに、天上の意志が宿っていた。




 伽藍
双子ギミックは初見で見抜いた。妹の犠牲なしでどこまで行けるかワクワクしてる。
呪霊術師人間、強いやつはどんとこいスタイル、脱却は反対、だってつまんなそうだもん。
天上の意志を目指してる。歯車メンタルは大っ嫌い、もっと自己出そうぜ?


 九十九
平安時代の人ならいい意見聞けるかな、と思ったら相手が悪かった。
宿儺と羂索を野薔薇で割って三輪のコップに入れたみたいなのが相手だもん、仕方ない。

 直哉
伽藍の目が、初めて会った時の甚爾と一緒だった。
フィジギフの価値をちゃんとわかってる伽藍は嫌いじゃない。


 五条
何だコイツ
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