黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 高評価と感想をくださると作者が歓喜します。
 あと作中で一番カッコいい反転術式のシーンってボンバイエでの欠損を治す羂索だと思うんですよ。
 目をつむりながら考察して欠損治すのカッコよすぎ。


10話.姉妹校交流"戦"②ー黄泉と無限ー

「はは、これは驚いた。…まさか夏油君が一撃でやられるとは」

「あぁ、交流会なのが幸を奏したな。これが実戦なら…」

「フフフ…想像するだけでゾッとしますよ」

 

 目の前にある複数のテレビ画面――そこに映る伽藍の姿。

 そして、それを眺めているのは冥冥と夜蛾、そして家入の3人だ。

 本来、呪いはスマホなどの映像機器には映らない。しかし今画面に流れている映像は、会場を飛行している烏が見ているもの。

 冥冥の術式、黒鳥操術で操った烏の視界を共有することで、こうして呪いを可視化し、映像化に成功している。

 

「領域展開は当たり前…流石魔境、平安と言ったところですかね。フフフ、それともただ…彼女が特別なだけなのか」

「必中だけじゃない、恐らくは必殺の要素も組み込んである。気絶で済んだのは…彼女が手加減をしたからだろう」

「ハハッ、マジで一瞬じゃんウケる」

 

 伽藍が先ほど使用し、勝負を決めた技術…領域展開による一撃を見て、愉快そうに笑うのは家入だ。

 普段クズと2人を蔑んではいるものの、これでも本人なりに彼らの実力は認めている。故に驚いたのだ。

 

「呪霊操術で一気に呪霊を出されたら、本体を叩くのに時間がかかる…だから勝負をつけるなら、即領域展開からの一撃鎮圧は理にかなってる…けど」

「そう、領域展開後は術式が焼き切れ、しばらくは術式の使用が困難になる…それに領域展開自体にも、莫大な呪力を消費してしまうからね」

「へー、意外と使い勝手悪いんだ」

「だからこそ余計に、相手はここでは使わないと無意識に決めつけてしまったんだろうね」

 

 家入の言葉に反応し、答えを返す冥冥。

 冥冥も伽藍と同じく、1級術師の地位に付く強者だ。しかしその実力の差は、間違いなくレベルが違うもの。

 より笑みを深くして、冥冥は言う。

 

「領域展開を奥の手でもなく、ああやって手段の一つとして即切ることができるのは…本当に見事という他ないね。夏油君自身も思っていただろうけど…ここで自分を倒しても五条君がいる…その考えを読まれたが故の敗北さ。だから後半失速することも顧みず、初手最大火力で攻められた」

「ふ~~ん…」

「しかし問題はここからだ」

 

 心底感心した風に頷く冥冥の隣で、より視線を険しくして夜蛾は言う。

 

「術式が焼き切れ、呪力を大量に消費した今の彼女に…悟と戦える力は残っているのか?」

「普通なら無理…いや。そもそも並みの術師なら、いくら全開でも五条君には勝てないでしょうね」

 

 五条悟は最強である。

 これは揺るがない事実であり。呪詛師、術師例外なくそう確信していることだ。

 呪術に愛された因果の眼、六眼と最強の無下限呪術。しかしこれすらも、五条悟という人間の付加価値にすぎないのだから。

 

「冥、君は彼女の様子を見たのだろう。どうなると思う」

「…フフフ、そうですね」

 

 冥冥は伽藍のことを知っている。

 それは事前に仕入れた情報でもなく、彼女本人から聞いたということでもない。

 他ならぬ、冥冥自身が得た情報だ。

 

「彼女は珍しい…呪力特性を持っているおかげで、術式なしでもそれなりに戦える。あと接近戦もかなり得意そうでしたね」

「…その情報はいくらで買ったんだ」

「いやいや。これは自分で集めた情報ですよ。彼女のことを知りたがってる人間は大勢いる…あ、これはサービスです」

 

 前代未聞、死して黄泉返り、呪術界に衝撃を与えた存在。

 そんな彼女のことを知りたがる人間は大勢いる、それは術式だけに留まらず――

 故に冥冥は観察したのだ。伽藍が初めて任務をこなしてから、今この瞬間まで。

 

「"術師殺し"すらも平等に…現代術師とは倫理観が随分違うようで」

 

 冥冥は見た。呪術師として本来、守護すべき人間に向ける姿勢とはかけ離れた、その生き方をする存在を。

 呪霊、術師、人間。あらゆる存在を、()()()()()()()()()()()その在り方。

 

「さて…どうなることやら」

 

 心底興味深そうに、冥冥は画面の中で睨みあう、五条と伽藍の姿を見てそう呟いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 空間が捻じれ、空気が割れる。

 それを錯覚してしまうほどの、濃密な殺意と呪力が練り合わせられ、今こうして目の前から放たれている。

 

「……来たか」

 

 伽藍は瞬きを忘れて、目の前にいる"最強"を見る。

 呪力量、出力。術式に因果の寵愛…それを差し引いてもなお、油断をすれば再び震えそうになるほどの――圧倒的存在感。

 その忌々しくも美しい、蒼色の瞳に射られがらも…伽藍は挑発的な笑みを浮かべた。

 

「随分と遅かったじゃないか。お前がぼうっとしてる間に、お前のお友達は一瞬でやれたぞ?」

 

 術式はまだ焼き切れている。未だパフォーマンスは万全ではなく、残りの呪力量も心許ない。

 凌ぐ方法もあるにはある…が、この男を相手に、それが完全に通用するとは思えない。

 "それ"はあくまでもセカンドプランにしておくべき…そう結論付けて、伽藍は続ける。

 

「あいつなら大丈夫。とでも思ったか?だがその油断と傲慢がこのザマだ、どんな気分だ?」

 

 恐れを隠し、挑発を続ける。

 少しでも時間を稼ぐ、相手がまだ、自分の話を聞いているうちに。その1秒も無駄にはしない。

 2秒、3秒…そんな僅かな時間でも、今はそれが命綱だ。

 

「ククク…さてどうする?最強様の力とやらを――」

「お前さ」

 

 ため息。それを一つ零してから言葉を紡ぐ。

 しかしその仕草の一つ一つに、濃密な殺気が込められていた。

 

「何調子乗ってんだよ、そんなにまぐれが決まって嬉しいか?」

「…クク、そのまぐれにやられたのはどこの誰だ」

「あとお前、言葉には気をつけた方がいいぞ?――今際の際だぞ」

 

 来る。

 五条がゆっくりと、腕を引き絞り拳を握る。

 その様子を見て、咄嗟に伽藍は腕、そして腹部と足に呪力強化を施し、防御の構えをとった。

 そして一撃が来る瞬間。伽藍の身体に凄まじい衝撃が走りーー

 

「………は?」

 

 ――伽藍の身体は宙を舞っていた。

 そして瞬時に襲いかかる激痛。腹部はその一撃で肉が抉れ、腕は威力を殺しきれずにちぎれてしまった。

 音が遅れて聞こえるほど、加速したその身体が思い切り、背後の大木に埋められるほどにぶつかった。

 

「~~~ッ!!」

 

 ――威力を殺しきれなかった!

 伽藍はそう内心で叫び、その痛みに顔を歪ませた。

 身体が無意識のうちに、踏み込みの動作を決めていたのが幸いだった。咄嗟に足に回した呪力のおかげで、飛ばされる衝撃をほんの少し緩和できたから。

 

(なんだ…いくらなんでも速すぎる…!予備動作はともかく、空気の揺らぎすら感じなかった…!?)

 

 ブチリと、折れかけた腕が自重に耐えられずに崩壊し、新鮮な血液が溢れ出る。

 抉れた腹、砕けた内臓と肋骨。何処からどう見ても瀕死のそれを、伽藍は他人事のように観察しながら考える。

 

(無下限…距離、無限……届かない、押し返す…なるほど)

 

 ゆっくり、ゆっくりと両腕を脱力させ、目を瞑って意識を集中させる。

 

(無限の距離、攻撃が届かない現象を見るに…無下限とは一種の"押し返す力"…いや、あくまでもそれは結果そのもので、正確には"収束する無限級数"…中央に向かう無限の概念に触れたから、傍から見れば押し返したように見えるだけ…)

 

 両腕の傷跡を上にして、できるだけ血液を失わないように体勢を整える。

 その間にも、思考は加速する。

 

(それの収束出力を限界まで上げ、虚空の球体を作り出す技…または対象を吸い込む力か?となると…あれが"蒼"か…)

 

 術式順転・蒼

 

 それは無下限呪術の基礎にして奥義、あらゆる対象を破壊、引き込むことができる万能の力。

 おそらく先程の攻撃もそれだ。空気の揺らぎ、拳を振るう予備動作の違和感。

 その正体は恐らく。

 

(拳を握り、適当に振るったあとに…そこに引き込む形で、上手く合わせて"蒼"を発生させる…座標の概念すら操るか、全く何処までも巫山戯た能力だ…)

 

 伽藍の折れて千切れた右腕、そして砕けた左指から、白い煙が発生する。

 動画を逆再生したかのように、ゆっくりと指や腕、そして服に隠れた腹が再生し、元に戻っていく。

 

(見てからの反応はほぼ不可能…となると、攻撃の予備動作を読んで回避の先出しをするべきか?……最悪足を犠牲にしてでも腹と頭は守るべきだな)

 

 伽藍は普段、肉体の欠損を再生する場合、術式である程度カバーしている。

 術式で失った肉と骨を補完し、反転術式で残る皮膚のみを再生する。この技術のおかげで、伽藍は呪いの王にも引けを取らない、圧倒的な持続力と再生力を手にしたのだ。

 しかし今、伽藍の術式は焼き切れている。今の再生もそうだが、術式の補助なしでの欠損の回復は少なくない呪力を消費してしまう。

 伽藍だからこそ今はこれで済んではいるが、それでもこれ以上の負傷は避けたい。

 

(術式が回復するにはまだ時間が掛かる…が、出し惜しみはできんな、セカンドプランと並行して闘るべきか。…ん?)

 

 無くした腕が再生し、万全の肉体に戻ったと思った瞬間。伽藍はふと右手に意識を向ける。

 

(チッ…()()()か)

 

 "それ"を見て、伽藍は心底不愉快だと眉をひそめ、違和感を取り払うように右手を振るった。

 

「…待たせたな」

 

 目の前で、黙って再生を見届けた五条へ向けて歩く。

 右拳を握り、獰猛に笑って見て話す。

 

 

 伽藍の右指には、亀裂のようなものが入っていた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「…やっぱ再生できたのかよ」

「なんだ。てっきりそのつもりで攻撃したのかと思ったぞ」

「あー、さっきは血が上ってたからな」

「ククク…すまんすまん、煽りすぎたか」

「まぁいいか…再生できるんなら手加減はいらねぇよな」

 

 一触即発。

 五条の周りに貼られた無下限呪術が、伽藍の腕を受け止めたのが開始の合図だった。

 瞬時に動きが止まり、速度の落ちた身体を捉え、五条が腹部に向けて拳を放つ。

 ゴッ!と鈍く響く音が聞こえたと同時に、伽藍の身体が再び吹っ飛ぶ。

 そして瞬時に、その足を潰そうと放たれる"蒼"伽藍はそれを回避。そして二回、三回と跳躍を繰り返して距離を取る。

 

「チッ…」

「ハッ、どうした逃げ腰になってんぞ?」

 

 挑発を返し、伽藍はそれを聞きながら、忌々しく顔を歪めて舌打ちをした。

 

「術式の方はそれほどでもないが…肉体強化が酷い。ムラはあるが最低で1割…チッ、くたばりぞこないが」

 

 ガリガリと右指を擦って、血管が浮き出るほどに拳を握る。

 五条は伽藍が何を言ったかは聞こえなかったが、それでも彼女に"何か"が起こったことはわかった。

 

 だがそれで手加減するほど甘くはない。

 

 ガンッと、五条の拳がクリーンヒットし、伽藍の顔面に傷を残す。

 瞬時に傷を治し、直ぐに蹴りで反撃をするも、無下限呪術に阻まれ届かない。

 五条は畳みかけて殴る、蹴る、殴る殴る、そして蹴る。

 

 殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 

 伽藍は必死に防御をしながら、それでも確かに、その一撃は骨まで届いた。

 そのうち痛みに耐えられず、体勢が崩れた伽藍の腹を蹴り飛ばし、五条は無情にも呪力を練る。

 

「術式順転…――出力最大」

「――ッ!」

 

 "蒼"

 

 より巨大に、あらゆる物質、空間を抉る無限の質量が襲い掛かる。

 五条がさながら指揮のように、指を振るって操作すると、速度を上げながら伽藍を追いかけた。

 

「チッ…」

 

 防御は不可能。

 もし触れれば最後、その圧倒的な収束反応に巻き込まれ、全身がぐちゃぐちゃに崩壊するだろう。

 伽藍は呪力効率を無視して、全力で呪力強化を施して逃走した。

 しかし無限の概念を内包したその攻撃を、純粋な呪力強化で振りほどくのは容易ではない。

 とっさに動いたが間に合わず、伽藍の足の先端に触れ、その右足が捻じれるように半壊した。

 

「ぐっ…!」

 

 バランスを崩し、そのまま地面に倒れる伽藍。

 その隙を逃さず、五条は瞬時に加速し近づいて、握った拳を顔面へと向けた。

 10cm、5cmと、頭と地面との距離が近づく一瞬の時間。それと同時に、五条の拳が近づく。

 

 そして伽藍はそれを上回る速度で、右手を地面に触れさせ呟く。

 五条の拳が、伽藍の頬に触れた瞬間。威力が発生するその刹那。

 

 

禍津日(マガツヒ)――蜘蛛の糸

 

 

 ――ッガガガガガガガガガ!!!!

 地面から蜘蛛の巣状に隆起し、肉と骨を合わせ、鋭い刃に形成したものが襲い掛かる。

 肩と腕。咄嗟に呪力で強化し受け止めたことから、かすり傷で済んだものの、五条は一瞬あっけにとられた。

 

「テメェ…!?」

 

 ――無下限呪術を突破しやがった!?

 それは、理論としては正しい、いくらあらゆる障害を受け止める無限のバリアといえど、常にそれを貼っているわけではない。

 たとえば食事、常に障害を受け止めてしまうなら、食事用の箸や食事そのものさえ防いでしまう。

 五条の無下限呪術はいわばマニュアル操作だ。あらかじめ受け入れるもの、防ぐ障害をフィルタリングし、適度に合わせて調整を繰り返す。

 ならばその隙を突けばいい。そう考えるまではいい。しかしそれは実質不可能なもの、しかし今こうして、無下限呪術は一瞬突破された。

 

(いや違う…偶然だ。だがコイツ…バリアのフィルタリングを更新した一瞬の無防備に…ふざけんじゃねぇぞ…運が良すぎるだろうが)

 

 しかしそれは偶然の産物。実際この反撃が成功したのは完全なる運。

 もしもう一度同じことをしろと言われても、伽藍はもうできない。それほどまでのラッキーパンチだ。

 そして体力差、いくら反転術式で誤魔化しても、領域展開から始まる様々な呪力消費。それが今になって襲い掛かってきた。

 

「オイオイ、息が荒いぞ?喘息か?」

「はぁ…抜かせ、こんなの散歩のようなものだ」

 

 伽藍の呪力はあと2割。いくら慣れてるとはいえ、度重なる欠損の修復、しかも術式による補助なしは苦しいものがある。

 それに、構築術式とまではいかないが、伽藍の術式はお世辞にも、燃費が良いとは言えないもの。

 未だ軽い切り傷で済んでいる五条と、もはや満身創痍の伽藍。勝負は目に見えている。

 

「…お前の術式、構築術式ほどじゃねぇけど燃費悪いんだろ、無理すんなって」

「…六眼か。チッ…本当に腹立たしいな。それは…!」

「肉と…なんだ、重なっててよく見えねぇけど骨も行けんのか?じゃあ最初のアレはどういう原理だよ」

「言うわけないだろうが…」

 

 フラリ、朦朧とした意識を留まらせ、伽藍は地面から生やした肉に触れる。

 

「…確かに。"禍津日"は燃費も良くない、だが応用性はかなりある。肉を作るだけでなく、作り変えることもな」

「へぇ…さっきから出しっぱにしてたそれも、ちゃんと意味あったのか」

「あと、私の作る骨、肉には共通した原理があってな。…あくまでもそれは、自分の()()()()()に過ぎないこと」

 

 術式の開示をし、右手から触れた肉塊が溶けて混ざり合う。

 そして一つ、二つと液状の繊維へと変貌し、それが伽藍の腰へと纏わりついた。

 まるで鳥のかぎ爪のように、はたまた百足のように多足状に、自由自在に変化するそれを見て、五条は目を輝かせる。

 

「…わお、もしかして()()()()ってやつ?現代の構築術式使い涙目じゃん。すっげ」

「猿真似だ。私が生きていた頃、構築術式で全く同じことをしていた小娘がいてな…参考にさせてもらった」

 

 次第にそれは枝分かれして、変形が終わるころには、腰から伸びる四本の触手が完成した。

 しかしその表面は鮫の肌のように、細かくザラついた形状になっている。

 

(今更だけど、やっぱ術式は回復してんのか…でも)

 

 残りの呪力量的に、領域展開はかなり厳しいだろう。

 それにもし、自分が巻き込まれたとしても、無下限呪術ならば容易に突破できる。

 たとえ展開されても、相手の必中効果が発動する前に、蒼による引き寄せが先に当たるからだ。

 しかし、それでも。

 

(嫌な予感しかしねぇ…なんだ?)

「術式解放…」

 

 漠然とした不安。それの疑問に首をかしげていると。伽藍の行動が始まる。

 瞬時に細かく、半径数cmほどまでに縮小した触手を飛ばし、五条の周りを囲む。

 無下限に触れるギリギリ、そこで停止し、伽藍の合図と共に行動を開始した。

 

「禍津日――"十角水車"」

 

 十角形の形に配置された、いくつもの肉の触手たち、それが膨張し、ギャリギャリと回転を開始する。

 しかし、無下限に触れるギリギリで行われているため、速度は減速せずに加速を続ける。

 次第に甲高い音を立て、その回転が限界にまで達して。

 

(?なんだ…)

 

 そして一瞬。五条が意識を離した瞬間に。"それ"は起きた。

 

 

 

「――領域展延(りょういきてんえん)

 

 ギャリギャリギャリギャリギャリッ!!!

 と凄まじい音を立てて、五条の周りに展開された、無下限のバリアが突破され、その攻撃が届こうとした。

 

「ハァッ!?」

 

 咄嗟に跳躍し、肉の触手の隙間を潜り抜け、五条は何とかそれを回避した。

 

「おま、はぁ!?ちょっと待てよ!?」

「待たんわ!!」

「待てって!!!」

 

 ギュインと音を鳴らし、まるで鞭のようにしならせて放つそれ。

 それを必死に避けながら、五条は思考を続ける。

 

(なんだ…もしかしてアレが領域展延か?前どっかで聞いたような…そりゃ領域展開が使えるんだからこっちも使えて当然…じゃなくて!何であいつ…)

 

 五条は無下限による防御を破られたことによる焦り、そして謎の技術による未知の戦闘法。それらの考察を並列で処理しながら、襲いかかる触手をさばいていく。

 ()()()()()()使()()()()()、領域展延を纏っているように戦う伽藍を見て、更に思考は謎へ落ちる。

 

(条件があるとはいえ…相手の術式の無効化なんて事、余程の欠点か弱点があるはずだ……とりあえず、わかるまで術式さばいて観察するしかねぇか…あいつの身体、どういうわけか六眼でも全部見れねぇし)

 

 更に勢いを増して迫りくる様々な触手たち、それを器用にさばきながら、五条は伽藍の攻撃の種を探る。

 領域展延。それは呪術の極致、領域展開とは斜めに位置する異端の技術。

 本来、領域展開を行う結界内に、己の術式を流し込む行為を省き、領域内に空白を作り身に纏う。

 領域展延を使うためには、既に術者が領域展開を使える状態でなければならない。これは呪術における、結界術の足し算にあたる要素でもある。

 故に伽藍は術式が回復するこの時まで、領域展延を使えなかった。

 そして、五条悟唯一の誤算。

 

 伽藍は術式を使っているのではなく、展延開始時から()()()使()()()()()()

 

 領域展延中、その欠点として術者は術式が使えず、必然と肉弾戦を強いられる。

 しかし、伽藍の術式は構築術式と同様。()()()()()()()()()()()()()()

 己の呪力で操作し、自由自在に形を変える液状筋肉。そしてそれは今も活動を続ける、伽藍の肉体の一部であり。()()()()()領域展延と相性がいい。

 予め肉を作ってさえいれば、領域展延中に術式が使えずとも、単純な呪力操作でカバーができる。

 ただの猿真似では終わらせない。会津の構築術式の使い手を見て、そしてそれを超えて見せた。

 

 どこまでも純粋な、闘争欲が生んだ兵器。

 

「禍津日――」

「ッ!」

「"奇面人形"」

 

 肉の触手が薄く、平らに広がって面積を大きくする。

 まるで命を吹き込まれたかのように、白く染まった仮面を付けた、三頭身ほどの人型の何かが生まれた。

 

「人形と私…合わせて5人だ、卑怯とは言わないよな」

「はぁーっ!!??卑怯だろテメェ!!正々堂々戦えっての!!」

「悪いな、耳が遠くて何も聞こえん」

「やっぱババアか?」

「殺す」

「やっぱ聞こえてんじゃねぇか!!」

 

 無下限による守りはもう意味をなさないと気づいたからか、五条は既に術式による守りを解いている。

 攻撃の際、自身と相手の空間にだけ蒼を発生させ、自分を加速させることで攻撃を繰り返す。

 しかし領域展延中、術者は水を纏って身を守っているようなもの。五条の徒手空拳による打撃は、先ほどまでよりも効果が薄い。

 ――そしてそれは人形も例外ではなく。

 

「~~~ッ!うっぜぇし熱い!さっさと壊れろよ!?」

「そう言うな、もう少し有栖(アリス)とあそんでやれ」

「こいつら名前あんのかよ…」

「ちなみにもう一人の候補は禍斗呂異怒(マーガトロイド)だ」

「厳つすぎんだろ!!」

 

 さながら不死身のゾンビのように、殴られては起き上がり、しつこく纏わりつく人形たち。

 そして一瞬の隙を、伽藍が的確に援護する形で打撃を入れる。

 唯一マシなのは、伽藍の疲労がとうとう、反転術式で隠せないほどまでに溜まってきたことか。

 必要な呪力操作のみ、これ以上の触手は増やせない。そもそも展延を解いた瞬間、伽藍は一撃でやられてしまう。

 

(クソッ…この数の差でもまともな傷を与えられんとは…)

 

 息切れをしながらも、必死で攻撃を続ける伽藍の内心は、目の前の不条理への畏怖と、同時に沸き上がる歓喜。

 

(嗚呼…本当に楽しい)

 

 初めて宿儺を見た時の、あの目と同じだった。

 どこまでも輝く、圧倒的な自己と意志。

 天上の意志。こいつを超えたい、五条悟を倒したい。そしていつかは――

 

(頼んだぞ…歌姫)

 

 沸き上がる歓喜を力に変え、伽藍はまた拳を振るった。




 伽藍
宿儺公式夢女子こと万さんの液体金属をトレース。あと地味に素の反転術式の練度は羂索並み。
術式で作った肉は自分の身体と同じ判定→なら身体に纏う領域展延も行けるっしょ!の理論。
あと今日の朝決まりました、推定主人公の術式名はマガツヒです。
ちなみに技名の元ネタわかりますかね?私の好きな作品なんですが(十角水車.奇面人形)

 五条
反転や領域が使えなくても間違いなく最強。
やっぱ無下限呪術チート過ぎませんかね。

 冥冥
実は伽藍のパパ黒遭遇時を観察してた。

 万
その昔、虫の筋肉を纏う都合上、直ぐに丸裸にされるので互いに素手で殴りあってたらしい。
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