黄泉返りの国家転覆 作:倉庫
羂索「いいね採用」
的なことを書こうかと思ってたんですけど、本誌で羂索がマジで深海に捨ててたのでびっくりしました。多分書きます。
「クッソ…うざってぇな…」
目の前に迫りくる人形たちの群れ、そこに紛れる形で襲い掛かる伽藍自身の攻撃。
四方八方に散らばり、細かく分離した触手を操る人形と伽藍、五条はそれらを回避し、それが無理なら腕で防御をしてダメージを防ぐ。
そして同時にやってくる、両腕に走る違和感。それに五条は腹を立てる。
「アッチィなこの…火傷したらどうすんだよ」
"これ"だ。
五条は微かに煙の発生した両腕を振って、この厄介な攻撃に眉をひそめる。
呪力特性。それは術式や天与呪縛によるものとは違う、戦闘における優位性の一つ。
術式効果はともかく、シンプルな呪力強化による攻撃であれば、誤差はあれど、こちら側も呪力で迎え撃つことで防ぐことができる。
しかし呪力特性による影響は、術式効果と同じく単純な呪力強化では防ぎづらい。それすら無視できるほどの、圧倒的な呪力量と呪力出力があれば話は別だが…
(しかもどういうわけか…こいつの熱が
原子レベルの呪力の精密動作を可能とする、全てを見抜く祝福の眼。それが六眼だ。
六眼の前ではあらゆる術式、呪力。呪いにまつわるものの原理を見抜くことができる…はずだった。
しかし最初に、五条が伽藍を見た時に感じたのはある違和感。
ありえないことだ。本来術師の持つ呪力の流れ、そこから逆算する形で輪郭を成す生得術式。
しかし伽藍のそれは、さながらアニメーションを作る際の、背後から光を差し込む形のように違和感の残るもの。
それの影響か、本来呪力の流れから逆算し推測できるはずの領域の仕様、それの解析に時間がかかってしまうのだ。
(それのせいで、領域展延の弱点を見抜くのも一苦労だ…クソが、めんどくせぇことしやがって)
しかしこうしている間にも、伽藍の呪力特性による熱の温度は上がっていく。
今でさえ火傷ギリギリの熱量だというのに、これ以上時間を掛けて本当に火傷をするのは避けたいところだ。
領域展延の原理に、呪力特性の持つ仕様の解明。これらの問題に五条は、心底嫌だとばかりにため息を吐いて。
「とりあえず… ――全部ぶっ潰す」
自分の身体が巻き込まれる範囲、その限界に近い距離に術式を発動させる。
下手をすれば足…最悪頭までが粉々になる行為。しかし原子レベルの精密動作により、五条は見事それをやり遂げた。
「術式順転…"蒼"」
ズズズ…と、文字通り目の前に虚空の球体を発生させ、一斉に襲いかかろうとした人形たちに牙を剥いた。
「――ッ!」
伽藍はとっさに反応し、それを避ける。
しかし反応が遅れ、巻き込まれた人形三体は、そのまま無防備に引き寄せられ、一か所に纏められた。
そして。
「フンッ…!」
一閃。
熱をやせ我慢で耐え、"蒼"による吸引力を利用した五条渾身の一撃。
それが人形を纏めて粉砕し、伽藍の制御を離れ、形を失った液状筋肉はそのまま地面に落ちる。
「ッ!クソ…」
すぐに再び"蒼"を発生させることで、伽藍の身体を引き寄せ、防御の構えを取らせる暇もなく、再びその腹部に拳をねじ込もうとする。
無限級数の引力による絶大な衝突力が、伽藍の内臓を傷つけ、その身体を壊しかけたその時。
ガツンッと、まるで金属板が抉れたかのような音がした。
五条が音の発生源に目を向けると、自分の拳が板状の何かに阻まれていることに気づいた。
先程の"蒼"の際、伽藍は咄嗟に残る一体の人形を分解、再構築することで作ったプレートを挟むことで、瞬時に防御してみせたのだ。
それを見て、五条はニヤリと笑う。
「へぇ?咄嗟に分解する判断力もだけど、まぁまぁやるじゃん」
「…それはどうも、お褒めに与り光栄だな」
「
ピクリと、伽藍の眉が揺れ動いたのを五条は見逃さなかった。
そしてこれにより、五条の推測は確信へと至る。
「最初。俺はお前が術式を使って戦ってると思ってた、でもそれだと違和感がある」
「…なんだ」
「"ストック"だよ。いくらお前の術式の燃費が悪いとはいえ、液状筋肉なら話は別だ。内部構造に空白を作るだけで、触手の表面積を増やして攻撃することだってできるはず」
五条が最初に違和感を覚えたのは、伽藍の扱う肉の触手が消耗するばかりで、一向に補填や修復などの動作を見せなかったこと。
抉れた触手の部分を、他の部位から持ってくる形で補うその姿が、まるで
そして極めつけは先ほどの現象。人形たちを破壊した時、液状筋肉は抵抗すらせず形を失った。
伽藍の触手の動力源が術式そのものであるならば、現在進行形で肉を作り、
「予め肉を作る…そして出来た液状筋肉は、呪力を通し続ける限り自在に操れる。そして領域展延の弱点…お前は展延中、術式を使えない」
「……」
「つまりお前は術式を使わないまま、領域展延のデメリットを踏み倒して…呪力オンリーで戦い続けてたわけだ。当たりだろ?」
五条の得意げに歪んだ顔。それを見て伽藍は心底悔しそうに顔を歪めた。
「当たりだ」と、五条の言葉を肯定して伽藍は、はぁー…と疲労の混じった息を吐いて。
「いくら六眼があるとはいえ…予想よりも早い、単純な呪力操作と結界術にはそれなりに自信があったのだが」
「今までの六眼持ちと一緒にすんなよ――
「…ふふ、ふふふ…」
五条のどこまでも自信に溢れた瞳、態度を見て、伽藍は身体を震えさせた。
忌々しい因果。そのはずだった青い瞳を見て、クスクスと笑う。
そして、どこか吹っ切れたような、その表情。
「ククク…ッハハハハハ!!そうか!そうだなお前は!――最強か!!」
――あぁ、間違いなくこいつは宿儺と同じだ。
どこまでも自由で、自己の在り方とその存在感。あの
伽藍の持っていた嫌悪感は、既に消え失せた。
「いい、いいぞ…ならば私は命を燃やしてお前を超える…いや、超えて見せる…!」
残り僅かの液状筋肉、それが伽藍の手、足にだけ集中して纏わりつく。
そしてそれが意味するのは腹部や関節部分の防御を捨てた。正真正銘殴り合いの真っ向勝負。
「"貴様は"後で殺す。…今だけは大人しくしてろ」
ギリギリと音の鳴る程に、拳を握る。
亀裂の入った右指を、ガリガリと引っ掻いて、五条以外の誰かに話しかけるように呟いた。
ふう。と息を吐いたあと、軽く目を瞑って意識を集中させる。
「…領域展延」
なけなしの呪力を振り絞り、その身を新しく作り直した結界で覆いつくす。
肉の触手は作らずに、正真正銘己の肉体のみに纏わせた、それは本来の領域展延そのもの。
しかしもって数十秒。だがその衰えぬ闘争心と殺意は、目の前の最強に負けないほどに輝いていた。
「…しゃあねぇ、付き合ってやるよ」
その意図を汲み、五条は腰を落として構えを取った。
目の前にいる女を一つの脅威と見なし、全力で相手をすることにしたから。
しかしそれでもその態度は、どこまでも傲慢さがにじみ出たもの。
「嗚呼…いい、
しかし伽藍はそれを見て笑う。
いい、それでいい。と、残りの呪力、疲労を無視して叫ぶ。
文字通り、その身を焼き尽くすほどの、戦いへの執着心と勝利への渇望。
それが音となり、声となって空気を震わす。
「魅せてみろ!!五条悟!!!」
再び、戦いの音が鳴り響く。
■■■
ガンッ。
五条の放つ"蒼"による収束。伽藍の常軌を逸した、呪力強化による走りの音が。
ヂヂ…。
音速に匹敵するその豪速。それによる、空間が裂ける大音量が。
ヂリッ…。
無下限呪術による最強の概念防御と、それを打ち破らんとする、伽藍の呪力強化と領域展延が。
「――ッ!」
「ハハッ!いいぞ!」
空間が歪むほどの鍔迫り合い、互いの拳、足技が残像を焼き付ける。
拳が空間に線を作り、それを防ぐ形で別の線が刻まれる。無限の概念を纏った拳と、それに食らいつく純粋な呪いの強化。
無下限による一瞬の減速、それがなければ今頃、並みの術師ならば瞬時に肉塊となっていただろう。
咄嗟に放たれる伽藍の拳、それを"蒼"による収束反応で真上にずらし、無防備な腹に拳を打ち込み吹っ飛ばす。
しかし瞬時に、道連れ覚悟で放たれた伽藍の蹴り上げ。それをなんとか腕で防ぐ。
遥か遠くに飛ぶ伽藍を見ながら、五条は未だ痙攣の止まらない腕を摩って舌打ちを零す。
(こいつ…肉体強化の出力がイカれてやがる…"蒼"の加速がなかったら危なかったな…)
術式はそれほど、しかしそれでも、並みの術師すら上回る伽藍の呪力出力。
だがそれすら霞んで見えるほどの、常軌を逸している出力が肉体強化。――そのフィジカルだ。
唯一の安堵は、残りの呪力量的にも、そう全力の連発ができるほどではないのが幸いか。
(しかも…)
ヒリヒリと、より違和感の強くなった腕を摩って、五条は顔を顰める。
(さっきとは比べ物にならねぇくらい熱い…これ以上は勘弁だな)
体術も恐ろしいが、それ以上にこの熱が厄介だ。
五条の呪力量、出力がいかに優れたものといえど、これ以上は身体が持たないだろう。
不快感の残る腕を後に目線を向けると、更に温度を上げて、全身から激しく煙を放出する、伽藍の姿があった。
一歩、二歩と、伽藍がこちらへ向かって歩くたびに、地面の草が燃えて、水が蒸発していく。
「いい、体術も見事…私の知り合いにも、それなりに武術を嗜んでいた奴がいるが…あいつとは比べ物にならん」
「ハッ、この俺を同じに見るなっての」
「そうだな…――お前は特別だ」
もはや傷を治すことすらやめ、獰猛に笑って血を拭う伽藍。
口からは血液が逆流し、溢れた新鮮な血液で、はだけた胸元を赤く染める。
対する五条は軽い火傷と切り傷。それ以外の傷や疲労もなく、完全に勝負はついたようなものだ。六眼による、極限まで減らした呪力ロスにより、五条に呪力切れの概念はない。
いくら伽藍の方が、純粋な体術の練度が上だろうと、残る呪力量や既にボロボロの身体での速度の低下により、これ以上の殴り合いは分が悪い。
そして若返りの影響で、身体が頑丈になった伽藍といえど。
「っ"…ォェエ"エ"エ"ッ"…!」
――ついに限界が訪れる。
ビチャビチャと、粘性の高い血液が口、そして裂けた腹からドプリと漏れて、片膝をつく形で倒れ込む。
そして大量の失血により、伽藍の目は落ち着きを失い、今にも気絶しそうな程に消耗した。
「っ…おい、お前…!」
「う…ぐ…っ、ハハッ…まさか?やめろと言うつもりじゃないだろうな?」
ジュウウ…と、肉の焦げる音が辺りに響く。
それと同時に、目の前からタンパク質が溶けた時の、あの不快感の強い異臭が立ち上った。
五条がまさかと、伽藍の腹部を見て顔を歪める。
「お前マジかよ…死ぬぞ」
呪力特性。あれから更に時間が過ぎて、今や五条でさえ重症を負いかねないほどに熱されたそれ。
伽藍はそれを自ら傷口に、手のひらを練り込む形で当てて傷跡を焼いていた。
血液が沸騰し、肉が溶けて液体になるほどにまで、伽藍は熱の籠った手で傷跡を摩りながら笑う。
「…舐めるな、この程度で死ぬほど耄碌していない」
ズシン。と、まるで肩に重しを乗せられたかのような重圧がその場を支配する。
「…これで、最後だ」
正真正銘、残る全ての呪力が、伽藍の全身を包み込んだのを、五条は見た。
それが偽りでないことは、六眼、そして他ならぬ五条自身が信頼した、彼女という人間性が証明する。
「…来いよ」
「言われなくとも」
拳を引いて、伽藍の左腕が突きの構えを取る。
勝負を決める、最後の音が鳴り響く瞬間――
「…"
伽藍は
「はっ」
硬直。目の前で起こった事態を、脳が一瞬理解するのに遅れが生じる。
五条が硬直しているその刹那、秒数にして約0.5秒のうちに、伽藍の引きちぎられた腕が、みるみるうちに剣へと変化を遂げた。
そして、残った呪力全てで、肉体強化を施し、それを投げて叫ぶ。
「――歌姫ッ!」
――今回の交流会は二対二のチーム戦。
――最初に傑がやられた、そしてすぐにこいつと戦った。
――じゃあその間、もう一人はずっと…!
「っまさか!!」
五条がハッと視線を後ろに向けた先、今まで意識すらしなかった、もう一人の敵。
戦力にならないと思ってた。だからずっと控えてたと思ってた。
ずっと、ずっとこいつと戦って、それで…
――
「――待ってたわよ!伽藍!!」
必死に"何か"を惹きつけるかのように、後ろに視線を向けながら、全力で走るその姿。
それに向かって、豪速で放たれる伽藍の投擲された肉の剣。
六眼が把握する。五条の推測が確信へ至る。
伽藍の真の狙いは――
『いイいいぜんざ…』
「
瞬時に倒れ込むように、姿勢を低く剣を避ける歌姫の後ろ、そこにいたのは呪霊。
この交流会における、最も階級の高い準1級。そしてこれが最初で、最後の――
「――"蜘蛛の糸"」
剣が刺さった瞬間、枝分かれするように展開された肉の刃。
それが呪霊の肉体を分解し、呪霊の消失反応が起こると同時に、会場のスピーカーから声が響いた。
「――そこまで!時間切れだ!」
時間制限、それを知らせる夜蛾の声が響いて、交流会は終了した。
目の前で、消えていく呪霊の死体を見て、五条は問う。
「…お前、最初からこれを狙ってたのか」
「……ハッ、悪いな。だが言ったろ、お前に勝つと」
再び鮮血の溢れる、失った左腕をかばう形で手を当てるその姿。
痛々しい。しかしその表情は、してやったりと、まるで子供が悪戯に成功したかのような笑顔だった。
――完全に騙された。
四方八方から襲い掛かる触手、視界だけでなく、呪力反応に神経を注ぎ、それに集中させられた。
伽藍の呪力のみに強く反応し、それ以外の呪力を、完全に意識の外に追いやってしまった。
味方のことなんて、完全に考えていなかった。
目の前の戦いに必死で、本来の勝利条件を忘れてしまった。
「ッヒ、ヒヒヒヒ…!嗚呼、その顔が見たかった!」
呆気にとられる顔、五条のその表情を見て、血が噴き出すのもお構いなしに伽藍は笑った。
ゴポッと気泡が発生するほどに、喉に血液が溜まるほどの重症でも、笑う。
「ざまぁないなぁ五条!まんまと出し抜かれた気分はどうだ!?」
「ふっざけんじゃねぇぞ!こんなのノーカンだノーカン!」
「ハッ!敗者の戯言など耳に入らんなぁ!」
「お前はボロボロ、俺はほとんど無傷!はい俺の勝ち!俺の大勝利!」
「はぁーっ!?最初から全力を出していればお前のような餓鬼、余裕だ余裕!私の勝利だ大勝利!」
「テメェ泣かすぞ!!」
「こっちこそ泣かしてやるわ!!舐めるな糞餓鬼!!!」
「ちょ、あんたら落ち着き…ギャーッ!!伽藍アンタ身体大丈夫なの!?」
「う、ううん…」
「あ、おい傑さっさと起きろ!今からこいつボコる!」
「いいだろう…お前ら全員もう一度負かす!」
重症なのを無視して、ギャーギャーと髪を引っ張られ、引っ張りの喧嘩をする伽藍と五条の2人。
それをあわあわと止めようとする歌姫と、未だ昏睡状態の夏油。
夜蛾が走って止めに入るまで、このカオスはずっと続いた。
■■■
その情報は、ある意味でこれまで以上に呪術界を沸き立たせた。
"最強"の存在、五条悟を出し抜いた、その事実に。
勿論、本人からすれば真っ向勝負で勝ったというわけではない。万が一互いに全開の状態で勝負したとしても、勝っていたのは五条だろう。
それほどまでに、五条悟とは圧倒的な存在。故に誰もが彼を畏れ、恐怖し認めていた…が。
それの均衡が崩れた。
「アンタのせいで、裏の仕事が余計に増えて困ってるんだがなぁ…」
「なんだ、仕事が増えて良かったじゃないか」
「それ嫌味か?それのほとんどが五条悟関連なのが疲れたんだよ」
「ハッ、私が作戦勝ちできたから自分も…なんてクチか」
「正解」
山奥、呪術上層部の手も届かない廃墟。
その崩れた鉄筋を潜り抜け、会話をする2人。
「にしても、よくこんな場所を見つけたな。上層部にも把握されてないだって?」
「以前はな。ここはかつて崩壊した呪詛師たちのたまり場でな、その古くなった記録を
「……上層部のデータベースに介入できる存在…か、知りすぎたら消される奴だな」
「賢明な判断だ」
おーこわ。とわざとらしくおちゃらけて、タバコを片手に笑う髭の生えたスーツの男。
名は
そして、そんな男と気楽に会話し、歩を進める女こそ――
「しかし最初は驚いたんだぞ?まさかあの平安術師様が、直々に俺に依頼してくるなんてな」
「お前は裏でも有名だった、それに仕事ができる男は嫌いじゃない」
「ありがたいね」
その言葉に、フン。と満足そうに笑う、黒の混じった銀髪の女――伽藍は「それに」と続けた。
「"これ"を成すには、今の術師に依頼するわけにいかん」
「…それは同感だ、一応できるだけコネを使って集めたんだが…」
ガチャリ。と、古く開きにくくなった扉を捻って、廃墟の中心へと向かう。
そして、目の前に広がる景色を見て固まる伽藍に、時雨は説明を続けた。
「依頼通り、老若男女問わず…呪詛師たちをできるだけ集めてきた」
「最低でも50はいればいいかと思ったが…これは」
「これが新規のお客様ならそうしたさ。だが今回は他でもない…アンタからの依頼だからな。張りきったさ」
「やるな、やはり私の勘は当たっていた」
呪詛師。一般人を悪意のままに呪い、殺す呪術界の敵。
それらが、伽藍の目の前にはおよそ120ほど…――死体となった状態で転がっていた。
「これだけの数、仕留めるのに苦労したろう」
「古い付き合いのやつがいてな、そいつにかかれば、術師はお茶の子さいさいだ」
「甚爾か。ククク…やはり勿体ないな」
「まぁ『できるだけ血を出すなってのは死ぬほど面倒臭い』って愚痴ってたが」
「それは譲れん、今から行うことには血が必要だ」
シュルルと、伽藍の術式による触手が、目の前の死体を一つ、一つと絡めとり、上空へ運んでいく。
そして一つ一つ丁寧に、上空に広がる麻布に置かれていく様子を、時雨は眺めながら言う。
「しかし一体何をするつもりだ?血で何かの儀式でもするつもりか?」
「あながち間違ってはいない、今から行うのは確かに、儀式の一つではあるからな」
そして全ての死体を積み上げて、伽藍は再び触手を再展開した。
バキバキと、形を変えて硬質化し、巨大な石のような形にして――
それを一気に麻布に向かって落とす。
グチャグチャ、ベキベキと雑音をまき散らし、麻布から血が漏れて、その下にある穴へ落ちていく。
黒く、赤く、どこまでもおぞましく輝くその液体を見て、伽藍は満足そうに微笑んだ。
「"浴"は知ってるだろう?家宝を外敵から守るため、蟲毒で厳選した血液を使い、呪具化させる儀式だ」
「……知ってはいるが、まさか人間で再現したのか?」
「たかがムシケラの生き血より、こっちの方が効果は強いだろう?」
「……確かに。こりゃ周りにバレたら大変だわな」
伽藍はそう言いながら上着を脱いで、白くハリのあるワイシャツ姿を晒し出す。
ワイシャツすらも脱ぎ去り、ベルトを外してズボンを下ろす、そして順番に足をズボンから引き抜いて、完全な下着姿へ。
そのまま上から順に、最後に残った黒い下着すら外して、全裸になって歩き出し、目の前の池に片足を浸ける。
そしてそのまま血の池の中央まで歩くその行動を、どこか気まずく目線を迷わせながら時雨は問う。
「あー…そんなのに浸かってなにするつもりだ?」
「"魔"に近づくのだ。この
伽藍が忌々しく、右手に向ける視線の先。そこには以前よりも大きくなった、亀裂の走った指があった。
何の偶然か、伽藍が最も得意とする肉体強化の出力。それを偶然にも受肉元の少女は妨害した。
そしてそれが交流会という戦いの場で、成功してしまったのが運の尽き。
「しばらく浸かる、見たければ勝手にしろ」
「あ、じゃあ遠慮なく」
両腕を広げ、重力に任せて背中から倒れる伽藍の姿を、時雨は最後まで見届けた。
そして同時に、あの平安の頃と同じように、伽藍の魂は穢れ、堕ちていく。
その身が、魂が"魔"へと近づくと同時に。
――この世から、一人の少女の魂が消えた。
■■■
「……よく考えたらここからじゃ見えねーな」
"浴"を開始し、現在進行形で浸かる伽藍を、水面越しに見て、はぁー…と時雨はため息を吐いた。
「さて、次の仕事はどうしようか」
タバコを咥え、専用のパソコンで裏の仕事を探る時雨。
裏の依頼にも様々な種類がある、単純な暗殺、危険な器物の輸送など…
しかしどれもパッとしない、無心で画面をスクロールする作業を繰り返し、目を顰める。
それをしばらく続けていると、ふと目に留まる依頼があった。
「へぇ…?これは中々……」
時雨の目の前に映ったのは、ある教団が裏に依頼した案件。
――
伽藍
作戦勝ち、そもそも交流会の勝利条件は「祓った呪霊の数」なので、限界まで時間稼ぎをして勝利。
肉体強化だけなら出力は宿儺と同レベルです、ステゴロババアです。ビルをぶち抜くパンチができます。
だからこそそれを邪魔されてムカついた、浴で受肉元の少女の魂は沈みました。かわいそ。
孔時雨
マジでカッコいい、アニメ楽しみですね。
星漿体
逃げろ理子ちゃん。
そしてハーメルン史上初、主人公に浴をさせた称号は私のものです!いぇい!
……だよね?