黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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伽藍「獄門彊を持ったままだと?縁起でもない海にでも捨てとけ」
羂索「いいね採用」

 的なことを書こうかと思ってたんですけど、本誌で羂索がマジで深海に捨ててたのでびっくりしました。多分書きます。


11話.姉妹校交流"戦"③ー"浴"ー

「クッソ…うざってぇな…」

 

 目の前に迫りくる人形たちの群れ、そこに紛れる形で襲い掛かる伽藍自身の攻撃。

 四方八方に散らばり、細かく分離した触手を操る人形と伽藍、五条はそれらを回避し、それが無理なら腕で防御をしてダメージを防ぐ。

 そして同時にやってくる、両腕に走る違和感。それに五条は腹を立てる。

 

「アッチィなこの…火傷したらどうすんだよ」

 

 "これ"だ。

 五条は微かに煙の発生した両腕を振って、この厄介な攻撃に眉をひそめる。

 呪力特性。それは術式や天与呪縛によるものとは違う、戦闘における優位性の一つ。

 術式効果はともかく、シンプルな呪力強化による攻撃であれば、誤差はあれど、こちら側も呪力で迎え撃つことで防ぐことができる。

 しかし呪力特性による影響は、術式効果と同じく単純な呪力強化では防ぎづらい。それすら無視できるほどの、圧倒的な呪力量と呪力出力があれば話は別だが…

 

(しかもどういうわけか…こいつの熱が()()()()()()()()()()()…早く無下限を破った原理を見抜かねぇと…)

 

 原子レベルの呪力の精密動作を可能とする、全てを見抜く祝福の眼。それが六眼だ。

 六眼の前ではあらゆる術式、呪力。呪いにまつわるものの原理を見抜くことができる…はずだった。

 しかし最初に、五条が伽藍を見た時に感じたのはある違和感。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 ありえないことだ。本来術師の持つ呪力の流れ、そこから逆算する形で輪郭を成す生得術式。

 しかし伽藍のそれは、さながらアニメーションを作る際の、背後から光を差し込む形のように違和感の残るもの。

 それの影響か、本来呪力の流れから逆算し推測できるはずの領域の仕様、それの解析に時間がかかってしまうのだ。

 

(それのせいで、領域展延の弱点を見抜くのも一苦労だ…クソが、めんどくせぇことしやがって)

 

 しかしこうしている間にも、伽藍の呪力特性による熱の温度は上がっていく。

 今でさえ火傷ギリギリの熱量だというのに、これ以上時間を掛けて本当に火傷をするのは避けたいところだ。

 領域展延の原理に、呪力特性の持つ仕様の解明。これらの問題に五条は、心底嫌だとばかりにため息を吐いて。

 

「とりあえず… ――全部ぶっ潰す」

 

 自分の身体が巻き込まれる範囲、その限界に近い距離に術式を発動させる。

 下手をすれば足…最悪頭までが粉々になる行為。しかし原子レベルの精密動作により、五条は見事それをやり遂げた。

 

「術式順転…"蒼"」

 

 ズズズ…と、文字通り目の前に虚空の球体を発生させ、一斉に襲いかかろうとした人形たちに牙を剥いた。

 

「――ッ!」

 

 伽藍はとっさに反応し、それを避ける。

 しかし反応が遅れ、巻き込まれた人形三体は、そのまま無防備に引き寄せられ、一か所に纏められた。

 そして。

 

「フンッ…!」

 

 一閃。

 熱をやせ我慢で耐え、"蒼"による吸引力を利用した五条渾身の一撃。

 それが人形を纏めて粉砕し、伽藍の制御を離れ、形を失った液状筋肉はそのまま地面に落ちる。

 

「ッ!クソ…」

 

 すぐに再び"蒼"を発生させることで、伽藍の身体を引き寄せ、防御の構えを取らせる暇もなく、再びその腹部に拳をねじ込もうとする。

 無限級数の引力による絶大な衝突力が、伽藍の内臓を傷つけ、その身体を壊しかけたその時。

 

 ガツンッと、まるで金属板が抉れたかのような音がした。

 

 五条が音の発生源に目を向けると、自分の拳が板状の何かに阻まれていることに気づいた。

 先程の"蒼"の際、伽藍は咄嗟に残る一体の人形を分解、再構築することで作ったプレートを挟むことで、瞬時に防御してみせたのだ。

 それを見て、五条はニヤリと笑う。

 

「へぇ?咄嗟に分解する判断力もだけど、まぁまぁやるじゃん」

「…それはどうも、お褒めに与り光栄だな」

()()使()()()()()()()よくやるよホント」

 

 ピクリと、伽藍の眉が揺れ動いたのを五条は見逃さなかった。

 そしてこれにより、五条の推測は確信へと至る。

 

「最初。俺はお前が術式を使って戦ってると思ってた、でもそれだと違和感がある」

「…なんだ」

「"ストック"だよ。いくらお前の術式の燃費が悪いとはいえ、液状筋肉なら話は別だ。内部構造に空白を作るだけで、触手の表面積を増やして攻撃することだってできるはず」

 

 五条が最初に違和感を覚えたのは、伽藍の扱う肉の触手が消耗するばかりで、一向に補填や修復などの動作を見せなかったこと。

 抉れた触手の部分を、他の部位から持ってくる形で補うその姿が、まるで()()()()()()()()()()()だったのだ。

 そして極めつけは先ほどの現象。人形たちを破壊した時、液状筋肉は抵抗すらせず形を失った。

 伽藍の触手の動力源が術式そのものであるならば、現在進行形で肉を作り、()()()()()はずなのに、それが失われた時の慣性、()()()すら、六眼には映らなかった。

 

「予め肉を作る…そして出来た液状筋肉は、呪力を通し続ける限り自在に操れる。そして領域展延の弱点…お前は展延中、術式を使えない」

「……」

「つまりお前は術式を使わないまま、領域展延のデメリットを踏み倒して…呪力オンリーで戦い続けてたわけだ。当たりだろ?」

 

 五条の得意げに歪んだ顔。それを見て伽藍は心底悔しそうに顔を歪めた。

 「当たりだ」と、五条の言葉を肯定して伽藍は、はぁー…と疲労の混じった息を吐いて。

 

「いくら六眼があるとはいえ…予想よりも早い、単純な呪力操作と結界術にはそれなりに自信があったのだが」

「今までの六眼持ちと一緒にすんなよ――()()最強だから」

「…ふふ、ふふふ…」

 

 五条のどこまでも自信に溢れた瞳、態度を見て、伽藍は身体を震えさせた。

 忌々しい因果。そのはずだった青い瞳を見て、クスクスと笑う。

 そして、どこか吹っ切れたような、その表情。

 

「ククク…ッハハハハハ!!そうか!そうだなお前は!――最強か!!」

 

 ――あぁ、間違いなくこいつは宿儺と同じだ。

 どこまでも自由で、自己の在り方とその存在感。あの呪いの世界(平安時代)と同じように。こいつは世界を掌握する存在だ。そう伽藍は確信した。

 伽藍の持っていた嫌悪感は、既に消え失せた。

 

「いい、いいぞ…ならば私は命を燃やしてお前を超える…いや、超えて見せる…!」

 

 残り僅かの液状筋肉、それが伽藍の手、足にだけ集中して纏わりつく。

 そしてそれが意味するのは腹部や関節部分の防御を捨てた。正真正銘殴り合いの真っ向勝負。

 

「"貴様は"後で殺す。…今だけは大人しくしてろ」

 

 ギリギリと音の鳴る程に、拳を握る。

 亀裂の入った右指を、ガリガリと引っ掻いて、五条以外の誰かに話しかけるように呟いた。

 ふう。と息を吐いたあと、軽く目を瞑って意識を集中させる。

 

「…領域展延」

 

 なけなしの呪力を振り絞り、その身を新しく作り直した結界で覆いつくす。

 肉の触手は作らずに、正真正銘己の肉体のみに纏わせた、それは本来の領域展延そのもの。

 しかしもって数十秒。だがその衰えぬ闘争心と殺意は、目の前の最強に負けないほどに輝いていた。

 

「…しゃあねぇ、付き合ってやるよ」

 

 その意図を汲み、五条は腰を落として構えを取った。

 目の前にいる女を一つの脅威と見なし、全力で相手をすることにしたから。

 しかしそれでもその態度は、どこまでも傲慢さがにじみ出たもの。

 

「嗚呼…いい、()()()と再び相まみえるとは!」

 

 しかし伽藍はそれを見て笑う。

 いい、それでいい。と、残りの呪力、疲労を無視して叫ぶ。

 文字通り、その身を焼き尽くすほどの、戦いへの執着心と勝利への渇望。

 それが音となり、声となって空気を震わす。

 

魅せてみろ!!五条悟!!!

 

 再び、戦いの音が鳴り響く。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 ガンッ。

 五条の放つ"蒼"による収束。伽藍の常軌を逸した、呪力強化による走りの音が。

 

 ヂヂ…

 音速に匹敵するその豪速。それによる、空間が裂ける大音量が。

 

 

 ヂリッ…

 無下限呪術による最強の概念防御と、それを打ち破らんとする、伽藍の呪力強化と領域展延が。

 

「――ッ!」

「ハハッ!いいぞ!」

 

 空間が歪むほどの鍔迫り合い、互いの拳、足技が残像を焼き付ける。

 拳が空間に線を作り、それを防ぐ形で別の線が刻まれる。無限の概念を纏った拳と、それに食らいつく純粋な呪いの強化。

 無下限による一瞬の減速、それがなければ今頃、並みの術師ならば瞬時に肉塊となっていただろう。

 咄嗟に放たれる伽藍の拳、それを"蒼"による収束反応で真上にずらし、無防備な腹に拳を打ち込み吹っ飛ばす。

 しかし瞬時に、道連れ覚悟で放たれた伽藍の蹴り上げ。それをなんとか腕で防ぐ。

 遥か遠くに飛ぶ伽藍を見ながら、五条は未だ痙攣の止まらない腕を摩って舌打ちを零す。

 

(こいつ…肉体強化の出力がイカれてやがる…"蒼"の加速がなかったら危なかったな…)

 

 術式はそれほど、しかしそれでも、並みの術師すら上回る伽藍の呪力出力。

 だがそれすら霞んで見えるほどの、常軌を逸している出力が肉体強化。――そのフィジカルだ。

 唯一の安堵は、残りの呪力量的にも、そう全力の連発ができるほどではないのが幸いか。

 

(しかも…)

 

 ヒリヒリと、より違和感の強くなった腕を摩って、五条は顔を顰める。

 

(さっきとは比べ物にならねぇくらい熱い…これ以上は勘弁だな)

 

 体術も恐ろしいが、それ以上にこの熱が厄介だ。

 五条の呪力量、出力がいかに優れたものといえど、これ以上は身体が持たないだろう。

 不快感の残る腕を後に目線を向けると、更に温度を上げて、全身から激しく煙を放出する、伽藍の姿があった。

 一歩、二歩と、伽藍がこちらへ向かって歩くたびに、地面の草が燃えて、水が蒸発していく。

 

「いい、体術も見事…私の知り合いにも、それなりに武術を嗜んでいた奴がいるが…あいつとは比べ物にならん」

「ハッ、この俺を同じに見るなっての」

「そうだな…――お前は特別だ」

 

 もはや傷を治すことすらやめ、獰猛に笑って血を拭う伽藍。

 口からは血液が逆流し、溢れた新鮮な血液で、はだけた胸元を赤く染める。

 対する五条は軽い火傷と切り傷。それ以外の傷や疲労もなく、完全に勝負はついたようなものだ。六眼による、極限まで減らした呪力ロスにより、五条に呪力切れの概念はない。

 いくら伽藍の方が、純粋な体術の練度が上だろうと、残る呪力量や既にボロボロの身体での速度の低下により、これ以上の殴り合いは分が悪い。

 そして若返りの影響で、身体が頑丈になった伽藍といえど。

 

「っ"…ォェエ"エ"エ"ッ"…!」

 

 ――ついに限界が訪れる。

 ビチャビチャと、粘性の高い血液が口、そして裂けた腹からドプリと漏れて、片膝をつく形で倒れ込む。

 そして大量の失血により、伽藍の目は落ち着きを失い、今にも気絶しそうな程に消耗した。

 

「っ…おい、お前…!」

「う…ぐ…っ、ハハッ…まさか?やめろと言うつもりじゃないだろうな?」

 

 ジュウウ…と、肉の焦げる音が辺りに響く。

 それと同時に、目の前からタンパク質が溶けた時の、あの不快感の強い異臭が立ち上った。

 五条がまさかと、伽藍の腹部を見て顔を歪める。

 

「お前マジかよ…死ぬぞ」

 

 呪力特性。あれから更に時間が過ぎて、今や五条でさえ重症を負いかねないほどに熱されたそれ。

 伽藍はそれを自ら傷口に、手のひらを練り込む形で当てて傷跡を焼いていた。

 血液が沸騰し、肉が溶けて液体になるほどにまで、伽藍は熱の籠った手で傷跡を摩りながら笑う。

 

「…舐めるな、この程度で死ぬほど耄碌していない」

 

 ズシン。と、まるで肩に重しを乗せられたかのような重圧がその場を支配する。

 

「…これで、最後だ」

 

 正真正銘、残る全ての呪力が、伽藍の全身を包み込んだのを、五条は見た。

 それが偽りでないことは、六眼、そして他ならぬ五条自身が信頼した、彼女という人間性が証明する。

 

「…来いよ」

「言われなくとも」

 

 拳を引いて、伽藍の左腕が突きの構えを取る。

 勝負を決める、最後の音が鳴り響く瞬間――

 

 

 

「…"武振熊(たけふるくま)"」

 

 伽藍は()()()()()()()()()

 

「はっ」

 

 硬直。目の前で起こった事態を、脳が一瞬理解するのに遅れが生じる。

 五条が硬直しているその刹那、秒数にして約0.5秒のうちに、伽藍の引きちぎられた腕が、みるみるうちに剣へと変化を遂げた。

 そして、残った呪力全てで、肉体強化を施し、それを投げて叫ぶ。

 

 

「――歌姫ッ!

 

 

 ――今回の交流会は二対二のチーム戦。

 

 ――最初に傑がやられた、そしてすぐにこいつと戦った。

 

 

 ――じゃあその間、もう一人はずっと…!

 

「っまさか!!」

 

 五条がハッと視線を後ろに向けた先、今まで意識すらしなかった、もう一人の敵。

 戦力にならないと思ってた。だからずっと控えてたと思ってた。

 ずっと、ずっとこいつと戦って、それで…

 

 ――()()()()()()()()()()()

 

「――待ってたわよ!伽藍!!」

 

 必死に"何か"を惹きつけるかのように、後ろに視線を向けながら、全力で走るその姿。

 それに向かって、豪速で放たれる伽藍の投擲された肉の剣。

 

 六眼が把握する。五条の推測が確信へ至る。

 

 伽藍の真の狙いは――

 

『いイいいぜんざ…』

禍津日(マガツヒ)…!」

 

 瞬時に倒れ込むように、姿勢を低く剣を避ける歌姫の後ろ、そこにいたのは呪霊。

 この交流会における、最も階級の高い準1級。そしてこれが最初で、最後の――

 

「――"蜘蛛の糸"」

 

 剣が刺さった瞬間、枝分かれするように展開された肉の刃。

 それが呪霊の肉体を分解し、呪霊の消失反応が起こると同時に、会場のスピーカーから声が響いた。

 

「――そこまで!時間切れだ!

 

 時間制限、それを知らせる夜蛾の声が響いて、交流会は終了した。

 目の前で、消えていく呪霊の死体を見て、五条は問う。

 

「…お前、最初からこれを狙ってたのか」

「……ハッ、悪いな。だが言ったろ、お前に勝つと」

 

 再び鮮血の溢れる、失った左腕をかばう形で手を当てるその姿。

 痛々しい。しかしその表情は、してやったりと、まるで子供が悪戯に成功したかのような笑顔だった。

 

 ――完全に騙された。

 

 四方八方から襲い掛かる触手、視界だけでなく、呪力反応に神経を注ぎ、それに集中させられた。

 伽藍の呪力のみに強く反応し、それ以外の呪力を、完全に意識の外に追いやってしまった。

 味方のことなんて、完全に考えていなかった。

 

 目の前の戦いに必死で、本来の勝利条件を忘れてしまった。

 

 ()()()()()()()で、負けてしまった。

 

「ッヒ、ヒヒヒヒ…!嗚呼、その顔が見たかった!」

 

 呆気にとられる顔、五条のその表情を見て、血が噴き出すのもお構いなしに伽藍は笑った。

 ゴポッと気泡が発生するほどに、喉に血液が溜まるほどの重症でも、笑う。

 

「ざまぁないなぁ五条!まんまと出し抜かれた気分はどうだ!?」

「ふっざけんじゃねぇぞ!こんなのノーカンだノーカン!」

「ハッ!敗者の戯言など耳に入らんなぁ!」

「お前はボロボロ、俺はほとんど無傷!はい俺の勝ち!俺の大勝利!」

「はぁーっ!?最初から全力を出していればお前のような餓鬼、余裕だ余裕!私の勝利だ大勝利!」

「テメェ泣かすぞ!!」

「こっちこそ泣かしてやるわ!!舐めるな糞餓鬼!!!」

「ちょ、あんたら落ち着き…ギャーッ!!伽藍アンタ身体大丈夫なの!?」

「う、ううん…」

「あ、おい傑さっさと起きろ!今からこいつボコる!」

「いいだろう…お前ら全員もう一度負かす!」

 

 重症なのを無視して、ギャーギャーと髪を引っ張られ、引っ張りの喧嘩をする伽藍と五条の2人。

 それをあわあわと止めようとする歌姫と、未だ昏睡状態の夏油。

 

 夜蛾が走って止めに入るまで、このカオスはずっと続いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 その情報は、ある意味でこれまで以上に呪術界を沸き立たせた。

 "最強"の存在、五条悟を出し抜いた、その事実に。

 勿論、本人からすれば真っ向勝負で勝ったというわけではない。万が一互いに全開の状態で勝負したとしても、勝っていたのは五条だろう。

 それほどまでに、五条悟とは圧倒的な存在。故に誰もが彼を畏れ、恐怖し認めていた…が。

 それの均衡が崩れた。

 

「アンタのせいで、裏の仕事が余計に増えて困ってるんだがなぁ…」

「なんだ、仕事が増えて良かったじゃないか」

「それ嫌味か?それのほとんどが五条悟関連なのが疲れたんだよ」

「ハッ、私が作戦勝ちできたから自分も…なんてクチか」

「正解」

 

 山奥、呪術上層部の手も届かない廃墟。

 その崩れた鉄筋を潜り抜け、会話をする2人。

 

「にしても、よくこんな場所を見つけたな。上層部にも把握されてないだって?」

「以前はな。ここはかつて崩壊した呪詛師たちのたまり場でな、その古くなった記録を知り合い(羂索)に消してもらった、だからここは誰にも知られていない」

「……上層部のデータベースに介入できる存在…か、知りすぎたら消される奴だな」

「賢明な判断だ」

 

 おーこわ。とわざとらしくおちゃらけて、タバコを片手に笑う髭の生えたスーツの男。

 名は(コン)時雨(シウ)。呪詛師含む、いわゆる裏の世界の仲介役だ。

 そして、そんな男と気楽に会話し、歩を進める女こそ――

 

「しかし最初は驚いたんだぞ?まさかあの平安術師様が、直々に俺に依頼してくるなんてな」

「お前は裏でも有名だった、それに仕事ができる男は嫌いじゃない」

「ありがたいね」

 

 その言葉に、フン。と満足そうに笑う、黒の混じった銀髪の女――伽藍は「それに」と続けた。

 

「"これ"を成すには、今の術師に依頼するわけにいかん」

「…それは同感だ、一応できるだけコネを使って集めたんだが…」

 

 ガチャリ。と、古く開きにくくなった扉を捻って、廃墟の中心へと向かう。

 そして、目の前に広がる景色を見て固まる伽藍に、時雨は説明を続けた。

 

「依頼通り、老若男女問わず…呪詛師たちをできるだけ集めてきた」

「最低でも50はいればいいかと思ったが…これは」

「これが新規のお客様ならそうしたさ。だが今回は他でもない…アンタからの依頼だからな。張りきったさ」

「やるな、やはり私の勘は当たっていた」

 

 呪詛師。一般人を悪意のままに呪い、殺す呪術界の敵。

 それらが、伽藍の目の前にはおよそ120ほど…――死体となった状態で転がっていた。

 

「これだけの数、仕留めるのに苦労したろう」

「古い付き合いのやつがいてな、そいつにかかれば、術師はお茶の子さいさいだ」

「甚爾か。ククク…やはり勿体ないな」

「まぁ『できるだけ血を出すなってのは死ぬほど面倒臭い』って愚痴ってたが」

「それは譲れん、今から行うことには血が必要だ」

 

 シュルルと、伽藍の術式による触手が、目の前の死体を一つ、一つと絡めとり、上空へ運んでいく。

 そして一つ一つ丁寧に、上空に広がる麻布に置かれていく様子を、時雨は眺めながら言う。

 

「しかし一体何をするつもりだ?血で何かの儀式でもするつもりか?」

「あながち間違ってはいない、今から行うのは確かに、儀式の一つではあるからな」

 

 そして全ての死体を積み上げて、伽藍は再び触手を再展開した。

 バキバキと、形を変えて硬質化し、巨大な石のような形にして――

 

 それを一気に麻布に向かって落とす。

 

 グチャグチャ、ベキベキと雑音をまき散らし、麻布から血が漏れて、その下にある穴へ落ちていく。

 黒く、赤く、どこまでもおぞましく輝くその液体を見て、伽藍は満足そうに微笑んだ。

 

「"浴"は知ってるだろう?家宝を外敵から守るため、蟲毒で厳選した血液を使い、呪具化させる儀式だ」

「……知ってはいるが、まさか人間で再現したのか?」

「たかがムシケラの生き血より、こっちの方が効果は強いだろう?」

「……確かに。こりゃ周りにバレたら大変だわな」

 

 伽藍はそう言いながら上着を脱いで、白くハリのあるワイシャツ姿を晒し出す。

 ワイシャツすらも脱ぎ去り、ベルトを外してズボンを下ろす、そして順番に足をズボンから引き抜いて、完全な下着姿へ。

 そのまま上から順に、最後に残った黒い下着すら外して、全裸になって歩き出し、目の前の池に片足を浸ける。

 そしてそのまま血の池の中央まで歩くその行動を、どこか気まずく目線を迷わせながら時雨は問う。

 

「あー…そんなのに浸かってなにするつもりだ?」

「"魔"に近づくのだ。この()()()宿()()…くたばりぞこないの小娘の魂を殺すために」

 

 伽藍が忌々しく、右手に向ける視線の先。そこには以前よりも大きくなった、亀裂の走った指があった。

 何の偶然か、伽藍が最も得意とする肉体強化の出力。それを偶然にも受肉元の少女は妨害した。

 そしてそれが交流会という戦いの場で、成功してしまったのが運の尽き。

 

「しばらく浸かる、見たければ勝手にしろ」

「あ、じゃあ遠慮なく」

 

 両腕を広げ、重力に任せて背中から倒れる伽藍の姿を、時雨は最後まで見届けた。

 そして同時に、あの平安の頃と同じように、伽藍の魂は穢れ、堕ちていく。

 その身が、魂が"魔"へと近づくと同時に。

 

 ――この世から、一人の少女の魂が消えた。

 

 

 

■■■

 

 

 

「……よく考えたらここからじゃ見えねーな」

 

 "浴"を開始し、現在進行形で浸かる伽藍を、水面越しに見て、はぁー…と時雨はため息を吐いた。

 

「さて、次の仕事はどうしようか」

 

 タバコを咥え、専用のパソコンで裏の仕事を探る時雨。

 裏の依頼にも様々な種類がある、単純な暗殺、危険な器物の輸送など…

 しかしどれもパッとしない、無心で画面をスクロールする作業を繰り返し、目を顰める。

 それをしばらく続けていると、ふと目に留まる依頼があった。

 

「へぇ…?これは中々……」

 

 時雨の目の前に映ったのは、ある教団が裏に依頼した案件。

 

 

 ――星漿体(せいしょうたい)の暗殺。その一つの依頼が、時雨の興味を引いたのだ。




 伽藍
作戦勝ち、そもそも交流会の勝利条件は「祓った呪霊の数」なので、限界まで時間稼ぎをして勝利。
肉体強化だけなら出力は宿儺と同レベルです、ステゴロババアです。ビルをぶち抜くパンチができます。
だからこそそれを邪魔されてムカついた、浴で受肉元の少女の魂は沈みました。かわいそ。

 孔時雨
マジでカッコいい、アニメ楽しみですね。

 星漿体
逃げろ理子ちゃん。

そしてハーメルン史上初、主人公に浴をさせた称号は私のものです!いぇい!
……だよね?
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