黄泉返りの国家転覆 作:倉庫
それは、遥か昔から日本を守護する偉大な結界術師、天元を崇拝する非術師の宗教団体。
彼ら信者は天元こそを主神とし、それ以外のもの…"適合者"である星漿体は不純物、穢れと見なしている。
そんな彼らにとって、天元の進化を止める"同化"は耐えられないこと。
だからこそ、こうして闇サイトで依頼を出したのだ。
「盤星教に術師と戦う力はない…ま、信者のほとんどがというより、全員が非術師だからな」
『へェ、それで?』
「向こうもヤケクソか、馬鹿みたいな報酬金を出して来た。しかも必要経費も向こうが持ってくれるとさ」
目の前で定期的に、気泡の発生するおぞましい血の池を見ながら、時雨は電話で会話を続けた。
「どうだ禪院、星漿体暗殺…一枚噛まないか?」
『ア~…そうだな。いいぜ、その話受けてやる』
電話越しに聞こえる、男の答えに時雨はニヤリと笑う。
呪術界において、天元とその適合者である星漿体は、何にも代えられない重要なもの。
それの護衛となれば、今呪術界を騒がせているあの男…最強の術師、五条悟もやってくるだろう。
――だがこの男ならそれすらも…
『あ、後もう俺は禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな』
「…またか?飽きねぇなお前も」
『言ってろ、今は伏黒だ』
「そうか、じゃあ終わったらそっち行く、詳しい話はまた後でだ」
『アァ?今日他に仕事入れてたのか?』
「あぁ、例の平安術師様からの依頼だ」
『…へェ?』
時雨の通話先の男、"術師殺し"と呼ばれ、裏の世界で暗躍する、かつて御三家の一員だった男。
禪院――もとい伏黒甚爾は興味深そうに聞いた。
『呪術全盛の呪いの知識…興味深いな、何やってんだ?』
「"浴"だ、お前も聞いたことくらいはあるだろ」
『アァ?そりゃまた随分古臭…あぁそうか、平安だからな』
「俺も思った。だが流石平安出身だ、中々に頭がイカれてやがるぜ」
『…へェ?依頼は確か呪詛師の死体だろ、その血で呪具でも作るのか?』
「それでも充分すぎるくらいだが…おっと、今終わるとこだ」
ブクブクと、突如目の前の池から、先ほどよりも凄まじい勢いで気泡が発生したのを見た。
時雨は電話を耳に当てたまま、目の前の光景に魅入られ、じっと視線を向け続けた。
そして。
――ドパッ
目の前の血が瞬時に舞い上がり、まるで噴水のように宙に舞う。
その液体の一つ一つに、限界まで濃縮された人間の怨嗟が込められていることを考えると、時雨はそれに浸かる目の前の女に、畏怖の感情を覚える。
そうして血が再び落ちて、時雨は目の前に立つ、女の姿、こちらを射抜く瞳を見た。
呪いを宿した、真っ赤に染まる理外の瞳。
「呪具じゃねぇ、あの血の池に浸かるのは、他ならぬアイツ自身だ」
『…マジで言ってんのか?』
「マジだ。今目の前で、全身真っ黒のアイツがいる」
『俺でもしねぇぞ?汚れるってレベルじゃねぇだろうが』
「ハハッ、言えてる」
ひたり。血のしみ込んだ髪から、余分な血を滴らせながら、伽藍は歩き出す。
シュウウ…と右指から白い煙が発生し、みるみるうちに亀裂が元通りに戻っていく。
拳を閉じて、開いての作業を数回繰り返し、伽藍は満足そうに微笑み。
「終わったのか?」
「ふむ。急ごしらえでロクに濾すこともできんかったが…この程度でも"コイツ"には毒のようだ」
「なるほど、俺にはさっぱりだ」
「そういえば、結局最後まで見てたのか」
「まぁな」
ポチッと電話の通話画面を閉じて、時雨は目の前の羞恥心の欠片もない伽藍にタオルを渡す。
それを受け取り、軽く身体を拭きながら、目線を逸らしたままの時雨に伽藍は言う。
「まぁいい、だがこれでようやく不愉快な存在は消えた」
「で、これからどうするつもりだ?」
「あぁ?そうだな…」
血に濡れた髪を拭き、言葉を濁しながら呪力を身に纏う。
呪力特性による熱が、ほんの少し残った血液を残さず蒸発させて、独特な異臭が立ち込めた。
身体の余分な水分を飛ばして、下に散乱する下着を拾いながら続ける。
「何もない、
「オイオイ、突っ込まれる側が不憫すぎねぇか?」
「知らん。私の好奇に当たったのが悪い」
下着を付けて、ワイシャツに腕を通しながらそう言ってのける伽藍に、時雨は心底同情するような視線を虚空に向けた。
だが無理もない、呪術界に身を置く存在ならば、目の前にいる女がどれほど制御不能で恐ろしい存在かは、身に染みて知っている。
この女の退屈しのぎで、潰される組織や任務のことを考えると、時雨は乾いた笑いが出てきた。
「今のところは何をする気だ?どうせなら仲介役やってもいいぞ」
「それは魅力的だが…悪いが先約がある、後の機会に頼んだ」
「へぇ?どんな内容だ?」
そう聞くと、伽藍はフン。とまるで可笑しいと言わんばかりに楽しそうに笑った。
そして、残る上着を羽織りながら口にする。
「
「へぇ~………………………………。は?」
その予想外の答えに、時雨はビジネススマイルを忘れて素で驚いた。
■■■
2006年 8月
『続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故、原因はガス管の――』
夏、まだ日差しの強さが最高潮に達したままの正午過ぎ。
伽藍が数日前、自分に連絡を送った男…夜蛾に会うため、東京校にやって来た…のだが。
「ゲッ!お前なんでここにいんだよ!?」
「夜蛾についでに頼まれてな。お、サングラスは外したのか?それも似合うな」
「…それはどうも」
「それにしても…ククク、なんだ五条!その様は!?ッハハハ!!」
「テメェもう一度泣かす…!」
「悟、正座」
「…ハーイ」
「クハハハハハ!!」
「~~ッ!!!」
伽藍が扉を開いて目にしたのは、目の前で正座をしながら、夜蛾の放つ怒りのオーラに委縮している五条の姿。
事の発端はこうだ。二日もの間、消息不明となっていた歌姫、冥冥の2人を救出するために派遣された東京都1年。
そして2人を救うため、五条は本気の"蒼"を発動、しかも"帳"を降ろすのを忘れていたという始末。
隣で爆笑を続ける伽藍を睨みつけながらも、律義に正座を続けたままの五条を見て、夜蛾は「全く…」とため息を吐きながら言う。
「今回彼女を呼んだ理由だが…悟に傑。お前たちの任務にも関係する」
「…あ?硝子は行かねぇのかよ?」
「硝子は留守だ。それに今回の任務は、お前たちだからこそできるものだ…少し待ってろ」
そう言って、何か用事を思い出したかのように、教室を出る夜蛾。
その姿が、窓越しに見えなくなったのを確認して「あーーー」と長いため息を吐く五条。
「そもそもさぁ、"帳"ってそこまで必要?」
本来術式含む、あらゆる呪いに関連する現象は、特異なものでなければ一般人には見えない。
故に五条は疑問に感じたのだ、わざわざ元から見えない一般人相手に、過剰に見えないように細工するその工程に。
その問いに、手を組みなおして説き伏せるのは夏油。
「呪霊の発生を抑制するのは何より、人々の心の平穏だ。そのためにも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ、それだけじゃない――」
「ア"ーわかったわかった。…ったく、弱い奴等に気を遣うのは疲れるよホント」
五条があからさまに顔を歪め、その言葉に嫌悪感を示しながら、やれやれとばかりに、サングラスを弄ってぼやく。
そのありふれた日常の光景。
「それは同感だな」
そして先ほどの五条の言葉に、同意するように頷くのは伽藍。
その意外な言葉に夏油は一瞬、ピクリと反応して問う。
「…それ、とは?」
「五条の言うことは心底同意する。無駄に数の多く、質も悪い弱者の加護ほど無駄でくだらんものはない、だろう?有象無象の命など、私からすれば心底どうでもいい」
ハッ!と両手を上にして、馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるその姿に、どこか悪寒を感じた夏油。
そして家入は言わずもがな、五条もバッと起き上がって反応した。
「おっ!わかる?」
「あぁわかるとも、
「へぇ~?ちょっとはわかる奴じゃんお前」
「フン。お前こそ、そこだけは仲良くやれそうだ」
言い切った。
伽藍のその、どこまでも傲慢で悪辣。そして残酷なまでに実力主義な偏った思想。
それを晒した伽藍の顔は、優越感でも疑問でもなく、「何を当たり前のことを」と言わんばかりの無表情。
夏油は、そのあまりの温度差に言葉を失う。家入でさえ、手に取ったタバコを落としたほどだ。
「…ちょっと夏油、あいつらの思想危険すぎない?」
「あ、あぁ…流石の私もちょっと引いたよ…」
ヒソヒソ、2人で隅っこに集まり、目の前の危険人物たちを指さして言う。
そうしている間に、再び教室の扉が開き、戻ってきた夜蛾が言葉を放つ。
「…お前ら何をしてるんだ?」
「せんせー、この問題児2人をどうにかしてくださーい」
「くださーい」
「…悟、伽藍。とりあえず席につけ」
本来、問題児として家入に摘発されるはずの夏油すらも、こうして夜蛾に助けを求めた時点で全てを察した。
はーい。と、特に反発することもなく、機嫌よく座る五条を見て、夜蛾は背筋に冷たいものが走った。
「…お前たち、さっき何を話してた?」
「弱者どうでもよくね?って話」
「天下無双の糧の話だ」
「もういい、黙れ」
一蹴。
もはやこれ以上反応するのはやめた方がいい。そう確信して話を切り出す。
「さて、今回の任務は悟と傑…そして急遽参加することになった伽藍。お前たち3人で行ってもらう」
「アァ?なんで3人?ぶっちゃけ俺だけでもよくね?」
「それは…――天元様からのご指名だからだ」
ピクリ。
天元の名を聞いた瞬間に、どこか不穏な気配を保ったまま、眉をひそめて反応した伽藍には、誰も気づかない。
「依頼は2つ…"星漿体"、天元様との適合者。その少女の護衛と――
「……はぁ?」
五条の呆けた声と同時に、この事件は始まった。
――全てが壊れた夏の思い出、それの序曲。
■■■
今回、天元との同化という重大な行事は、何重にも隠蔽された情報工作のもと、誰にも邪魔されずにひっそりと終わる。
しかし今回、何故か星漿体の…少女の所在が漏れ、これを機に大きく動き出した存在が3つ。
天元の暴走による、呪術界の転覆を狙う呪詛師集団「Q」
天元を崇拝し、星漿体を良しとしない過激派団体、盤星教「時の器の会」
そして、星漿体とその護衛の二つを沈めようとする、漁夫の利狙いの一般呪詛師たち。
これらの脅威を跳ね除け、星漿体を天元の元まで送り届ける、それが今回の任務だ。
「てかさ~」
「うん?」
予め伝えられていたビルへ…星漿体のいる場所へ向かいながら、自販機で購入したコーラを飲みながら五条は問う。
「呪詛師集団の"Q"はわかるけど…盤星教の方は何でガキンチョ殺したいわけ?」
「盤星教が崇拝しているのは天元様だ、あくまでも純粋な…ね。だから星漿体…つまりは不純物が混ざるのが許せないのさ」
「ほ~」
天元との同化、それを行う理由の一つが、天元自身の術式によるもの。
天元の持つ術式は「不死」だ。だがあくまでも死なないだけで不老ではないため、たとえ死ななくても無限に老化を繰り返す。
ただ老化を重ねるだけなら問題はない…が、問題が一つ。
「簡単に言えば、ある一定までの老化を終えると、術式が身体を創り変えようとするんだ、それを防がないといけない」
「ふ~ん?盤星教ってもしかしてバカ?下手すりゃ日本終わるじゃん」
「さぁ、私に宗教関連の内容はよくわからないし…それに盤星教は非術師の集まりだ、特に気にしなくていいだろう」
「ま、そうだな」
「それに何故か、
「…ハッ、問題ねぇよ。俺達最強だし」
自信。光って輝いて見えるほどの、傲慢で信頼の積み重なったその言葉。
それを見て、どこか満足そうに一瞬笑って夏油は言う。
「…悟、前から言おうと思ってたんだが、一人称"俺"はやめた方がいい」
「あ"?」
「伽藍のように"私"か…最低でも"僕"にしな」
「はぁ嫌なこっ…」
――ゴゴゴゴゴゴ…
「…何の音?」
ふと耳に入る謎の轟音。
五条と夏油はしばらく無言で見つめあい「まさか…」と2人同時に目をビルに戻した。
――ゴゴゴゴゴゴ…!
よくよく聞いてみると、何やら人の悲鳴やら、建築物が破壊される様子やら。
すると一瞬で、ビルの上部が木端微塵に吹き飛んで、2人で一緒にあー…と言葉を濁して。
「……これでガキンチョ死んでたら俺らのせい?違うよな?」
「…とりあえず救助を…」
――ドゴォン!!!
空を舞う2つの人影、ただしその片方が、すぐに自分たちの知る存在だと気づくと、すぐに笑いを取り戻す。
すぐに臨戦態勢に入り、夏油は呪霊を、五条は術式をより強く展開して駆け出す。
「俺達も行くぞ」
「あぁ」
"それ"は、上空からでもよく聞こえた。
まるでそれは、かつての王による蹂躙を、再び再現したかのようなもの。
「――ハハハ」
笑う。
「ッヒ、ヒヒヒヒ…!」
嗤う。
「ッハハハハハハハ!!!!」
哂う。
白い制服、そして口を覆う形の黒いマスクを身に着けた男――"Q"の戦闘員は空を飛ぶ。
殴られ、蹴られ、その内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、まるで子供が遊ぶかのように一方的に弄ばれる。
呪霊術師…呪詛師人間これらすべて。皆、彼女の前では等しく倒されるべきものに過ぎない。
「そんなものか!?呪詛師!!!」
黄泉返し闘鬼、伽藍の熱は、未だ冷めぬまま。
■■■
「…あ?なんだもう死んだのか?くだらん」
ボウッ。一瞬で手に掴んだ男の死体を、伽藍は呪力による加熱で燃やし尽くし、そのまま地面に落ちた灰を踏みにじる。
「終わった?」
「問題ない、脆すぎて話にならんな」
背中から聞こえる声に、伽藍は退屈だと言わんばかりに顔を歪ませて呟く。
一足先に、星漿体の所在地に着いたはいいが、こうしてやってきた呪詛師はどれも弱い。
「つまらん、心底不愉快だ…こんなもので本当に、五条をどうにかできるとでも思ったのか?」
「弱いと実力差がわからない、だからこうして数に任せた無駄なことをするんじゃないかな?」
「…理解に苦しむな」
未だビルに残るQの残党の気配を探りながら、伽藍、そして夏油は話す。
事前情報よりも遥かに多い、呪詛師たちの軍団。伽藍だけでなく、夏油も最初は期待し、胸を膨らませたものだが…
そしてトンッと、背後から鳴る着地の音を聞いて、伽藍は身体を向ける。
「…ほう?ソイツがか?」
「そ、なんとか回収はできたよ」
「ふーん…」
まるでエイのような形の、浮遊する能力を持った呪霊。それを操る夏油と、その上で眠る三つ編みのセーラー服を着た少女、伽藍の視線にはそれがあった。
落下の恐怖で気絶したのだろう。今も眠る少女のその姿を見て、伽藍は呟く。
「…まぁいい、とにかくこいつを安全な場所に置いてからだ」
「うわ…めっちゃまともなこと言ってる…」
「は?」
装飾は完全に半壊、コンクリートやその中の鉄筋までもが、熱で燃やされドロドロになったこの惨状。
その景色と伽藍の交互に視線を向けて、夏油は乾いた笑いを零しながら言った。
「もう一人、付き人らしい女性がいてね、その人も回収してくる」
「そうか、コイツは任せろ」
「頼んだ」
星漿体の少女、それを抱きかかえる形で持つ伽藍。
今も眠り続けるその顔を見て――
「…星漿体か」
どこか、懐かしさを感じるような表情を見せ、独り言を漏らした。
しばらくすると「ううん…」と少女が動きを見せて。
「…っ!」
「起きたか、小娘」
べちぃ!と、柔らかい頬が潰れる快音が響き渡り、ギャーギャーと身動ぎを始めて暴れだす。
落ちそうになる少女の身体を、伽藍は器用に姫様抱っこの形で抑え込み、その間も少女は話す。
「下衆め!妾を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!」
「騒ぐな、それとも…喋れないように黙らせてやろうか?」
「…ギャーッ!黒井ー!助けてーっ!!」
「騒ぐな」
ジタバタ、ジタバタと暴れだす少女を器用にあやしながら、抱きかかえる姿勢を崩さない。
そんなやり取りをしばらく続けている時――背中に刺さる鋭い殺気。
伽藍が何かと振り向いた瞬間、目の前に襲い来る、爆発の熱気が皮膚を焼いた。
――ボンッ!
再びビルの上層を、焼け野原にする勢いで放たれた数多の爆発。
辺りが呪力による残穢、熱による息苦しさで満たされると同時に、男は喋る。
「…ったく、話が違うぞ。何故こいつがいるんだ…」
白いスーツに身を包み、黒のマスクで口を隠す――"Q"戦闘員、コークン。
事前に仕入れた情報と違い、イレギュラーが参戦している状況に愚痴を吐きながら、服についた埃を掃う。
「だが悪く思うなよ、恨むなら天元を恨むんだな」
近距離での爆発、それは熱により膨張された空気が肌を焼く、人体に最も損傷を与える攻撃。
いくら本人が呪力で防いだとしても、呼吸器を熱でやられてはひとたまりもない。
それに護衛の星漿体には、敵と戦う力もなく、呪力による防御で守ることもできない。
ならば――
「悪くない攻撃だった。痣になるかもな」
――術式で防ぐまで。
コークンが目を見開き、視線を向けた先には球体の何かがあった。
そしてそれは、瞬時に細かく分離され、その中にいた無傷の星漿体、そして伽藍の姿を晒しだす。
「…っ化け物が!」
「?クク…私程度が化け物だと?随分甘く見られたものだ」
「っ。ちょ、近…」
ひらり。より顔が近づく形で少女を抱きかかえたまま、華麗に伽藍は飛んで宙に浮く。
純粋な肉体強化、それの常軌を逸した出力により、飛行をしているように錯覚するほどに、上空へと跳んで見せた。
そのあまりの高さに、警戒心を忘れ、必死に伽藍の首元に抱き着く少女。そして、同時にQへ放たれる弾幕の群れ。
その一つ一つが、肌を焼き肉を溶かす灼熱の攻撃。
「ちょ!ちょちょちょちょちょちょ!!!!」
「
「ギャアアアッ!!!???」
少女の悲痛な叫びが、空気を裂く轟音によって埋もれ、加速は止まらない。
身に纏っていた液状筋肉を、少女の肉体を庇う形で展開され、身体を壊しかねない風圧から身を守る。
そして自然落下に任せ、伽藍は笑う。
「嗚呼…確か"こう"だったな…!」
歳をとって、肉が衰え動きが鈍った。
呪力が上手く、以前のように滑らかに動かなくなった。
"眼"が、感覚が。自分のすべてが劣化した。
だが今は違う。
あの呪いの王のように、――自由に。
圧倒的に!
――ギュンッ!!
空気の破裂、そして空間を割る勢いの伽藍の脚力が、より強い轟音を鳴らす。
空間に線を刻み、その
血も肉もない、正真正銘惨状そのものに、液状筋肉の繭から解かれ、腕の中でしっかりと捕まっていた少女はぷるぷると震えだした。
「あ、あわわわわ…」
「ハハッ、少しはしゃぎすぎたか」
「タ、タスケテーッ!」
「お、お嬢様!?」
「あん?」
まるで小動物のように縮こまり、涙目で震える少女を抱きかかえたまま、伽藍は後ろに視線を向ける。
トンッと、軽い着地音が2つ鳴って、先ほど別れたばかりの夏油と、メイド服に身を包んだ女性が走り出す。
その女性を見て、少女はパアッと顔を輝かせた。
「く、黒井ーっ!」
「そ、そちらの女性も、こちらの方と同じ味方です…多分」
「嘘じゃ!絶対嘘じゃ!修羅の顔じゃ!悪党の気配じゃった!!」
「夏油、その女は誰だ?」
「あ、あぁ…星漿体の世話係をやってる人だけど…その…」
「はーなーせー!」
「…いつまでそうしてるんだい?」
ぐぐぐ…と胸元を思いっ切り押す形で、どうにか伽藍の腕から逃れようと足掻く少女。
しかし悲しいかな、そもそもの素の身体能力、そして伽藍本人の呪力強化により、もはや石像のそれと変わらぬほどにうんともすんとも言わない。
そして、しばらくそれを繰り返した後、もう諦めたのかその体勢のままゴホン!と咳を一つこぼして。
「フン!その実力、妾の護衛に充分すぎるくらいじゃ、褒めてつかわすぞ!」
「そうか」
「その体勢だと締まらないね」
「理子様、流石にそのままというのは…」
「う…うるさいっ!うるさいったらうるさい!!」
伽藍、夏油、黒井の順で冷静に放たれる指摘。
それに顔を真っ赤にして叫ぶ少女――"星漿体"天内理子。
彼女こそ、日本の未来を守るための贄であり、日本を守る守護者そのものでもある存在だ。
「…あっ!学校!そういえば今何時じゃ!?」
「ま、まだ昼前ですが…その……」
「行く!行くったら行くのじゃ!」
「……………」
随分元気なものだ。
伽藍は勿論、傍で見ていた夏油もそう感じるほど、その様子は年相応の"少女"そのもの。
それを見て、伽藍は聞いた。
「小娘、一つ聞きたいことがある」
「むっ?」
「お前は、
息を吞む音が聞こえた。
いくら日本の未来のためとはいえ、今からこの少女に訪れるのは人身御供そのもの。
内心ではそう思っていたのだろう、黒井の持つ気配が、ほんの少し冷たくなったのを感じた。
そしてそれに、純粋な笑顔と言葉で天内は返す。
「フン!いいか?天元様は妾で、妾は天元様なのだ!同化を死と混同するでない!」
「自我が消えるわけじゃないから、死ぬわけじゃないとでも?」
「勿論!」
その時、夏油だけはそれを見た。
普段の、あのどこか遠い何かを見つめる視線でも、戦いの愉悦に浸る視線でもない。
「…天元め」
どこか、妬ましさを含んだ視線を。
伽藍
「残酷なほど実力主義」これが彼女の全てです。
若返ったので空気蹴りができます、でも宿儺ほど自由には動けません。(宿儺が舞空術みたいに自由自在に突っ込むなら、伽藍は霹靂一閃のようにカックンカックン動いて突っ込む)
どうやら天元、天内理子に何やら思うところがあるようだが…
孔時雨
めっちゃビビった。マジかどうしよ…とはなったけどすぐに対策を思いつく。
伏黒甚爾
対策は既に思いついた。
五条
画面外でバイエルと戦ってた。