黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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12話.懐玉①ー沈ー

 盤星教(ばんせいきょう)

 それは、遥か昔から日本を守護する偉大な結界術師、天元を崇拝する非術師の宗教団体。

 彼ら信者は天元こそを主神とし、それ以外のもの…"適合者"である星漿体は不純物、穢れと見なしている。

 そんな彼らにとって、天元の進化を止める"同化"は耐えられないこと。

 だからこそ、こうして闇サイトで依頼を出したのだ。

 

「盤星教に術師と戦う力はない…ま、信者のほとんどがというより、全員が非術師だからな」

『へェ、それで?』

「向こうもヤケクソか、馬鹿みたいな報酬金を出して来た。しかも必要経費も向こうが持ってくれるとさ」

 

 目の前で定期的に、気泡の発生するおぞましい血の池を見ながら、時雨は電話で会話を続けた。

 

「どうだ禪院、星漿体暗殺…一枚噛まないか?」

『ア~…そうだな。いいぜ、その話受けてやる』

 

 電話越しに聞こえる、男の答えに時雨はニヤリと笑う。

 呪術界において、天元とその適合者である星漿体は、何にも代えられない重要なもの。

 それの護衛となれば、今呪術界を騒がせているあの男…最強の術師、五条悟もやってくるだろう。

 ――だがこの男ならそれすらも…

 

『あ、後もう俺は禪院じゃねぇ、婿に入ったんでな』

「…またか?飽きねぇなお前も」

『言ってろ、今は伏黒だ』

「そうか、じゃあ終わったらそっち行く、詳しい話はまた後でだ」

『アァ?今日他に仕事入れてたのか?』

「あぁ、例の平安術師様からの依頼だ」

『…へェ?』

 

 時雨の通話先の男、"術師殺し"と呼ばれ、裏の世界で暗躍する、かつて御三家の一員だった男。

 禪院――もとい伏黒甚爾は興味深そうに聞いた。

 

『呪術全盛の呪いの知識…興味深いな、何やってんだ?』

「"浴"だ、お前も聞いたことくらいはあるだろ」

『アァ?そりゃまた随分古臭…あぁそうか、平安だからな』

「俺も思った。だが流石平安出身だ、中々に頭がイカれてやがるぜ」

『…へェ?依頼は確か呪詛師の死体だろ、その血で呪具でも作るのか?』

「それでも充分すぎるくらいだが…おっと、今終わるとこだ」

 

 ブクブクと、突如目の前の池から、先ほどよりも凄まじい勢いで気泡が発生したのを見た。

 時雨は電話を耳に当てたまま、目の前の光景に魅入られ、じっと視線を向け続けた。

 そして。

 

 ――ドパッ

 

 目の前の血が瞬時に舞い上がり、まるで噴水のように宙に舞う。

 その液体の一つ一つに、限界まで濃縮された人間の怨嗟が込められていることを考えると、時雨はそれに浸かる目の前の女に、畏怖の感情を覚える。

 そうして血が再び落ちて、時雨は目の前に立つ、女の姿、こちらを射抜く瞳を見た。

 

 呪いを宿した、真っ赤に染まる理外の瞳。

 

「呪具じゃねぇ、あの血の池に浸かるのは、他ならぬアイツ自身だ」

『…マジで言ってんのか?』

「マジだ。今目の前で、全身真っ黒のアイツがいる」

『俺でもしねぇぞ?汚れるってレベルじゃねぇだろうが』

「ハハッ、言えてる」

 

 ひたり。血のしみ込んだ髪から、余分な血を滴らせながら、伽藍は歩き出す。

 シュウウ…と右指から白い煙が発生し、みるみるうちに亀裂が元通りに戻っていく。

 拳を閉じて、開いての作業を数回繰り返し、伽藍は満足そうに微笑み。

 

「終わったのか?」

「ふむ。急ごしらえでロクに濾すこともできんかったが…この程度でも"コイツ"には毒のようだ」

「なるほど、俺にはさっぱりだ」

「そういえば、結局最後まで見てたのか」

「まぁな」

 

 ポチッと電話の通話画面を閉じて、時雨は目の前の羞恥心の欠片もない伽藍にタオルを渡す。

 それを受け取り、軽く身体を拭きながら、目線を逸らしたままの時雨に伽藍は言う。

 

「まぁいい、だがこれでようやく不愉快な存在は消えた」

「で、これからどうするつもりだ?」

「あぁ?そうだな…」

 

 血に濡れた髪を拭き、言葉を濁しながら呪力を身に纏う。

 呪力特性による熱が、ほんの少し残った血液を残さず蒸発させて、独特な異臭が立ち込めた。

 身体の余分な水分を飛ばして、下に散乱する下着を拾いながら続ける。

 

「何もない、餓鬼()は知り合いに預けているからな、適当な荒事に首でも突っ込むか」

「オイオイ、突っ込まれる側が不憫すぎねぇか?」

「知らん。私の好奇に当たったのが悪い」

 

 下着を付けて、ワイシャツに腕を通しながらそう言ってのける伽藍に、時雨は心底同情するような視線を虚空に向けた。

 だが無理もない、呪術界に身を置く存在ならば、目の前にいる女がどれほど制御不能で恐ろしい存在かは、身に染みて知っている。

 この女の退屈しのぎで、潰される組織や任務のことを考えると、時雨は乾いた笑いが出てきた。

 

「今のところは何をする気だ?どうせなら仲介役やってもいいぞ」

「それは魅力的だが…悪いが先約がある、後の機会に頼んだ」

「へぇ?どんな内容だ?」

 

 そう聞くと、伽藍はフン。とまるで可笑しいと言わんばかりに楽しそうに笑った。

 そして、残る上着を羽織りながら口にする。

 

()漿()()()()()だ。これまた面白そうなのがやってきた」

「へぇ~………………………………。は?」

 

 その予想外の答えに、時雨はビジネススマイルを忘れて素で驚いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 2006年 8月

 

『続いて昨日、静岡県浜松市で起きた爆発事故、原因はガス管の――』

 

 夏、まだ日差しの強さが最高潮に達したままの正午過ぎ。

 伽藍が数日前、自分に連絡を送った男…夜蛾に会うため、東京校にやって来た…のだが。

 

「ゲッ!お前なんでここにいんだよ!?」

「夜蛾についでに頼まれてな。お、サングラスは外したのか?それも似合うな」

「…それはどうも」

「それにしても…ククク、なんだ五条!その様は!?ッハハハ!!」

「テメェもう一度泣かす…!」

「悟、正座」

「…ハーイ」

「クハハハハハ!!」

「~~ッ!!!」

 

 伽藍が扉を開いて目にしたのは、目の前で正座をしながら、夜蛾の放つ怒りのオーラに委縮している五条の姿。

 事の発端はこうだ。二日もの間、消息不明となっていた歌姫、冥冥の2人を救出するために派遣された東京都1年。

 そして2人を救うため、五条は本気の"蒼"を発動、しかも"帳"を降ろすのを忘れていたという始末。

 隣で爆笑を続ける伽藍を睨みつけながらも、律義に正座を続けたままの五条を見て、夜蛾は「全く…」とため息を吐きながら言う。

 

「今回彼女を呼んだ理由だが…悟に傑。お前たちの任務にも関係する」

「…あ?硝子は行かねぇのかよ?」

「硝子は留守だ。それに今回の任務は、お前たちだからこそできるものだ…少し待ってろ」

 

 そう言って、何か用事を思い出したかのように、教室を出る夜蛾。

 その姿が、窓越しに見えなくなったのを確認して「あーーー」と長いため息を吐く五条。

 

「そもそもさぁ、"帳"ってそこまで必要?」

 

 本来術式含む、あらゆる呪いに関連する現象は、特異なものでなければ一般人には見えない。

 故に五条は疑問に感じたのだ、わざわざ元から見えない一般人相手に、過剰に見えないように細工するその工程に。

 その問いに、手を組みなおして説き伏せるのは夏油。

 

「呪霊の発生を抑制するのは何より、人々の心の平穏だ。そのためにも、目に見えない脅威は極力秘匿しなければならないのさ、それだけじゃない――」

「ア"ーわかったわかった。…ったく、弱い奴等に気を遣うのは疲れるよホント」

 

 五条があからさまに顔を歪め、その言葉に嫌悪感を示しながら、やれやれとばかりに、サングラスを弄ってぼやく。

 そのありふれた日常の光景。

 

「それは同感だな」

 

 そして先ほどの五条の言葉に、同意するように頷くのは伽藍。

 その意外な言葉に夏油は一瞬、ピクリと反応して問う。

 

「…それ、とは?」

「五条の言うことは心底同意する。無駄に数の多く、質も悪い弱者の加護ほど無駄でくだらんものはない、だろう?有象無象の命など、私からすれば心底どうでもいい」

 

 ハッ!と両手を上にして、馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるその姿に、どこか悪寒を感じた夏油。

 そして家入は言わずもがな、五条もバッと起き上がって反応した。

 

「おっ!わかる?」

「あぁわかるとも、呪術(ちから)を振るうのに理由などいらん。暴力は所詮暴力、それに意味を付けるのは、それによる不条理から目を背けようとする弱者の理論だ。私たち強者がわざわざ、なぜそんな愚図どもに歩み寄らねばならん?」

「へぇ~?ちょっとはわかる奴じゃんお前」

「フン。お前こそ、そこだけは仲良くやれそうだ」

 

 言い切った。

 伽藍のその、どこまでも傲慢で悪辣。そして残酷なまでに実力主義な偏った思想。

 それを晒した伽藍の顔は、優越感でも疑問でもなく、「何を当たり前のことを」と言わんばかりの無表情。

 夏油は、そのあまりの温度差に言葉を失う。家入でさえ、手に取ったタバコを落としたほどだ。

 

「…ちょっと夏油、あいつらの思想危険すぎない?」

「あ、あぁ…流石の私もちょっと引いたよ…」

 

 ヒソヒソ、2人で隅っこに集まり、目の前の危険人物たちを指さして言う。

 そうしている間に、再び教室の扉が開き、戻ってきた夜蛾が言葉を放つ。

 

「…お前ら何をしてるんだ?」

「せんせー、この問題児2人をどうにかしてくださーい」

「くださーい」

「…悟、伽藍。とりあえず席につけ」

 

 本来、問題児として家入に摘発されるはずの夏油すらも、こうして夜蛾に助けを求めた時点で全てを察した。

 はーい。と、特に反発することもなく、機嫌よく座る五条を見て、夜蛾は背筋に冷たいものが走った。

 

「…お前たち、さっき何を話してた?」

「弱者どうでもよくね?って話」

「天下無双の糧の話だ」

「もういい、黙れ」

 

 一蹴。

 もはやこれ以上反応するのはやめた方がいい。そう確信して話を切り出す。

 

「さて、今回の任務は悟と傑…そして急遽参加することになった伽藍。お前たち3人で行ってもらう」

「アァ?なんで3人?ぶっちゃけ俺だけでもよくね?」

「それは…――天元様からのご指名だからだ」

 

 ピクリ。

 天元の名を聞いた瞬間に、どこか不穏な気配を保ったまま、眉をひそめて反応した伽藍には、誰も気づかない。

 

「依頼は2つ…"星漿体"、天元様との適合者。その少女の護衛と――()()だ」

「……はぁ?」

 

 五条の呆けた声と同時に、この事件は始まった。

 

 ――全てが壊れた夏の思い出、それの序曲。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 今回、天元との同化という重大な行事は、何重にも隠蔽された情報工作のもと、誰にも邪魔されずにひっそりと終わる。

 しかし今回、何故か星漿体の…少女の所在が漏れ、これを機に大きく動き出した存在が3つ。

 

 天元の暴走による、呪術界の転覆を狙う呪詛師集団「Q」

 天元を崇拝し、星漿体を良しとしない過激派団体、盤星教「時の器の会」

 そして、星漿体とその護衛の二つを沈めようとする、漁夫の利狙いの一般呪詛師たち。

 

 これらの脅威を跳ね除け、星漿体を天元の元まで送り届ける、それが今回の任務だ。

 

「てかさ~」

「うん?」

 

 予め伝えられていたビルへ…星漿体のいる場所へ向かいながら、自販機で購入したコーラを飲みながら五条は問う。

 

「呪詛師集団の"Q"はわかるけど…盤星教の方は何でガキンチョ殺したいわけ?」

「盤星教が崇拝しているのは天元様だ、あくまでも純粋な…ね。だから星漿体…つまりは不純物が混ざるのが許せないのさ」

「ほ~」

 

 天元との同化、それを行う理由の一つが、天元自身の術式によるもの。

 天元の持つ術式は「不死」だ。だがあくまでも死なないだけで不老ではないため、たとえ死ななくても無限に老化を繰り返す。

 ただ老化を重ねるだけなら問題はない…が、問題が一つ。

 

「簡単に言えば、ある一定までの老化を終えると、術式が身体を創り変えようとするんだ、それを防がないといけない」

「ふ~ん?盤星教ってもしかしてバカ?下手すりゃ日本終わるじゃん」

「さぁ、私に宗教関連の内容はよくわからないし…それに盤星教は非術師の集まりだ、特に気にしなくていいだろう」

「ま、そうだな」

「それに何故か、()()()()()()()()()()()。君を狙う無謀な奴等も大勢来るだろう」

「…ハッ、問題ねぇよ。俺達最強だし」

 

 自信。光って輝いて見えるほどの、傲慢で信頼の積み重なったその言葉。

 それを見て、どこか満足そうに一瞬笑って夏油は言う。

 

「…悟、前から言おうと思ってたんだが、一人称"俺"はやめた方がいい」

「あ"?」

「伽藍のように"私"か…最低でも"僕"にしな」

「はぁ嫌なこっ…」

 

 ――ゴゴゴゴゴゴ…

 

「…何の音?」

 

 ふと耳に入る謎の轟音。

 五条と夏油はしばらく無言で見つめあい「まさか…」と2人同時に目をビルに戻した。

 

 ――ゴゴゴゴゴゴ…!

 

 よくよく聞いてみると、何やら人の悲鳴やら、建築物が破壊される様子やら。

 すると一瞬で、ビルの上部が木端微塵に吹き飛んで、2人で一緒にあー…と言葉を濁して。

 

「……これでガキンチョ死んでたら俺らのせい?違うよな?」

「…とりあえず救助を…」

 

 ――ドゴォン!!!

 

 空を舞う2つの人影、ただしその片方が、すぐに自分たちの知る存在だと気づくと、すぐに笑いを取り戻す。

 すぐに臨戦態勢に入り、夏油は呪霊を、五条は術式をより強く展開して駆け出す。

 

「俺達も行くぞ」

「あぁ」

 

 "それ"は、上空からでもよく聞こえた。

 まるでそれは、かつての王による蹂躙を、再び再現したかのようなもの。

 

――ハハハ

 

 笑う。

 

ッヒ、ヒヒヒヒ…!

 

 嗤う。

 

ッハハハハハハハ!!!!

 

 哂う。

 白い制服、そして口を覆う形の黒いマスクを身に着けた男――"Q"の戦闘員は空を飛ぶ。

 殴られ、蹴られ、その内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、まるで子供が遊ぶかのように一方的に弄ばれる。

 呪霊術師…呪詛師人間これらすべて。皆、彼女の前では等しく倒されるべきものに過ぎない。

 

そんなものか!?呪詛師!!!

 

 黄泉返し闘鬼、伽藍の熱は、未だ冷めぬまま。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「…あ?なんだもう死んだのか?くだらん」

 

 ボウッ。一瞬で手に掴んだ男の死体を、伽藍は呪力による加熱で燃やし尽くし、そのまま地面に落ちた灰を踏みにじる。

 

「終わった?」

「問題ない、脆すぎて話にならんな」

 

 背中から聞こえる声に、伽藍は退屈だと言わんばかりに顔を歪ませて呟く。

 一足先に、星漿体の所在地に着いたはいいが、こうしてやってきた呪詛師はどれも弱い。

 

「つまらん、心底不愉快だ…こんなもので本当に、五条をどうにかできるとでも思ったのか?」

「弱いと実力差がわからない、だからこうして数に任せた無駄なことをするんじゃないかな?」

「…理解に苦しむな」

 

 未だビルに残るQの残党の気配を探りながら、伽藍、そして夏油は話す。

 事前情報よりも遥かに多い、呪詛師たちの軍団。伽藍だけでなく、夏油も最初は期待し、胸を膨らませたものだが…

 そしてトンッと、背後から鳴る着地の音を聞いて、伽藍は身体を向ける。

 

「…ほう?ソイツがか?」

「そ、なんとか回収はできたよ」

「ふーん…」

 

 まるでエイのような形の、浮遊する能力を持った呪霊。それを操る夏油と、その上で眠る三つ編みのセーラー服を着た少女、伽藍の視線にはそれがあった。

 落下の恐怖で気絶したのだろう。今も眠る少女のその姿を見て、伽藍は呟く。

 

「…まぁいい、とにかくこいつを安全な場所に置いてからだ」

「うわ…めっちゃまともなこと言ってる…」

「は?」

 

 装飾は完全に半壊、コンクリートやその中の鉄筋までもが、熱で燃やされドロドロになったこの惨状。

 その景色と伽藍の交互に視線を向けて、夏油は乾いた笑いを零しながら言った。

 

「もう一人、付き人らしい女性がいてね、その人も回収してくる」

「そうか、コイツは任せろ」

「頼んだ」

 

 星漿体の少女、それを抱きかかえる形で持つ伽藍。

 今も眠り続けるその顔を見て――

 

「…星漿体か」

 

 どこか、懐かしさを感じるような表情を見せ、独り言を漏らした。

 しばらくすると「ううん…」と少女が動きを見せて。

 

「…っ!」

「起きたか、小娘」

 

 べちぃ!と、柔らかい頬が潰れる快音が響き渡り、ギャーギャーと身動ぎを始めて暴れだす。

 落ちそうになる少女の身体を、伽藍は器用に姫様抱っこの形で抑え込み、その間も少女は話す。

 

「下衆め!妾を殺したくば、まずは貴様から死んでみせよ!」

「騒ぐな、それとも…喋れないように黙らせてやろうか?」

「…ギャーッ!黒井ー!助けてーっ!!」

「騒ぐな」

 

 ジタバタ、ジタバタと暴れだす少女を器用にあやしながら、抱きかかえる姿勢を崩さない。

 そんなやり取りをしばらく続けている時――背中に刺さる鋭い殺気。

 伽藍が何かと振り向いた瞬間、目の前に襲い来る、爆発の熱気が皮膚を焼いた。

 

 ――ボンッ!

 

 再びビルの上層を、焼け野原にする勢いで放たれた数多の爆発。

 辺りが呪力による残穢、熱による息苦しさで満たされると同時に、男は喋る。

 

「…ったく、話が違うぞ。何故こいつがいるんだ…」

 

 白いスーツに身を包み、黒のマスクで口を隠す――"Q"戦闘員、コークン。

 事前に仕入れた情報と違い、イレギュラーが参戦している状況に愚痴を吐きながら、服についた埃を掃う。

 

「だが悪く思うなよ、恨むなら天元を恨むんだな」

 

 近距離での爆発、それは熱により膨張された空気が肌を焼く、人体に最も損傷を与える攻撃。

 いくら本人が呪力で防いだとしても、呼吸器を熱でやられてはひとたまりもない。

 それに護衛の星漿体には、敵と戦う力もなく、呪力による防御で守ることもできない。

 ならば――

 

「悪くない攻撃だった。痣になるかもな」

 

 ――術式で防ぐまで。

 コークンが目を見開き、視線を向けた先には球体の何かがあった。

 そしてそれは、瞬時に細かく分離され、その中にいた無傷の星漿体、そして伽藍の姿を晒しだす。

 

「…っ化け物が!」

「?クク…私程度が化け物だと?随分甘く見られたものだ」

「っ。ちょ、近…」

 

 ひらり。より顔が近づく形で少女を抱きかかえたまま、華麗に伽藍は飛んで宙に浮く。

 純粋な肉体強化、それの常軌を逸した出力により、飛行をしているように錯覚するほどに、上空へと跳んで見せた。

 そのあまりの高さに、警戒心を忘れ、必死に伽藍の首元に抱き着く少女。そして、同時にQへ放たれる弾幕の群れ。

 その一つ一つが、肌を焼き肉を溶かす灼熱の攻撃。

 

「ちょ!ちょちょちょちょちょちょ!!!!」

禍津日(マガツヒ)…」

「ギャアアアッ!!!???」

 

 少女の悲痛な叫びが、空気を裂く轟音によって埋もれ、加速は止まらない。

 身に纏っていた液状筋肉を、少女の肉体を庇う形で展開され、身体を壊しかねない風圧から身を守る。

 そして自然落下に任せ、伽藍は笑う。

 

「嗚呼…確か"こう"だったな…!」

 

 歳をとって、肉が衰え動きが鈍った。

 呪力が上手く、以前のように滑らかに動かなくなった。

 "眼"が、感覚が。自分のすべてが劣化した。

 

 だが今は違う。

 あの呪いの王のように、――自由に。

 圧倒的に!

 

 ――ギュンッ!!

 

 空気の破裂、そして空間を割る勢いの伽藍の脚力が、より強い轟音を鳴らす。

 空間に線を刻み、その()()()()()凄まじい勢いでビルに突っ込むことで、更に一階部分が抉れ、木端微塵に吹き飛んだ。

 血も肉もない、正真正銘惨状そのものに、液状筋肉の繭から解かれ、腕の中でしっかりと捕まっていた少女はぷるぷると震えだした。

 

「あ、あわわわわ…」

「ハハッ、少しはしゃぎすぎたか」

「タ、タスケテーッ!」

「お、お嬢様!?」

「あん?」

 

 まるで小動物のように縮こまり、涙目で震える少女を抱きかかえたまま、伽藍は後ろに視線を向ける。

 トンッと、軽い着地音が2つ鳴って、先ほど別れたばかりの夏油と、メイド服に身を包んだ女性が走り出す。

 その女性を見て、少女はパアッと顔を輝かせた。

 

「く、黒井ーっ!」

「そ、そちらの女性も、こちらの方と同じ味方です…多分」

「嘘じゃ!絶対嘘じゃ!修羅の顔じゃ!悪党の気配じゃった!!」

「夏油、その女は誰だ?」

「あ、あぁ…星漿体の世話係をやってる人だけど…その…」

「はーなーせー!」

「…いつまでそうしてるんだい?」

 

 ぐぐぐ…と胸元を思いっ切り押す形で、どうにか伽藍の腕から逃れようと足掻く少女。

 しかし悲しいかな、そもそもの素の身体能力、そして伽藍本人の呪力強化により、もはや石像のそれと変わらぬほどにうんともすんとも言わない。

 そして、しばらくそれを繰り返した後、もう諦めたのかその体勢のままゴホン!と咳を一つこぼして。

 

「フン!その実力、妾の護衛に充分すぎるくらいじゃ、褒めてつかわすぞ!」

「そうか」

「その体勢だと締まらないね」

「理子様、流石にそのままというのは…」

「う…うるさいっ!うるさいったらうるさい!!」

 

 伽藍、夏油、黒井の順で冷静に放たれる指摘。

 それに顔を真っ赤にして叫ぶ少女――"星漿体"天内理子。

 彼女こそ、日本の未来を守るための贄であり、日本を守る守護者そのものでもある存在だ。

 

「…あっ!学校!そういえば今何時じゃ!?」

「ま、まだ昼前ですが…その……」

「行く!行くったら行くのじゃ!」

「……………」

 

 随分元気なものだ。

 伽藍は勿論、傍で見ていた夏油もそう感じるほど、その様子は年相応の"少女"そのもの。

 それを見て、伽藍は聞いた。

 

「小娘、一つ聞きたいことがある」

「むっ?」

「お前は、()()のが怖くないのか」

 

 息を吞む音が聞こえた。

 いくら日本の未来のためとはいえ、今からこの少女に訪れるのは人身御供そのもの。

 内心ではそう思っていたのだろう、黒井の持つ気配が、ほんの少し冷たくなったのを感じた。

 そしてそれに、純粋な笑顔と言葉で天内は返す。

 

「フン!いいか?天元様は妾で、妾は天元様なのだ!同化を死と混同するでない!」

「自我が消えるわけじゃないから、死ぬわけじゃないとでも?」

「勿論!」

 

 その時、夏油だけはそれを見た。

 普段の、あのどこか遠い何かを見つめる視線でも、戦いの愉悦に浸る視線でもない。

 

「…天元め」

 

 どこか、妬ましさを含んだ視線を。




 伽藍
「残酷なほど実力主義」これが彼女の全てです。
 若返ったので空気蹴りができます、でも宿儺ほど自由には動けません。(宿儺が舞空術みたいに自由自在に突っ込むなら、伽藍は霹靂一閃のようにカックンカックン動いて突っ込む)
 どうやら天元、天内理子に何やら思うところがあるようだが…

孔時雨
 めっちゃビビった。マジかどうしよ…とはなったけどすぐに対策を思いつく。

伏黒甚爾
 対策は既に思いついた。

五条
 画面外でバイエルと戦ってた。
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