黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 貯めの回です、特大の爆弾を仕込んであります。


14話.懐玉③ー予兆ー

「だあああああああッ!!いくらなんでも多すぎだろうが!!」

「驚いたね…いやまさか…流石にこれは正気を疑うよ…」

「あーしんどっ!…いやマジふざけんなよ雑魚が…」

「わかるよその気持ち」

 

 場面は変わり、伽藍とは別行動を行っていた五条と夏油。彼らは目の前に重なって山を作る、数十もの呪詛師たちを見て声を荒げる。

 呪詛師御用達の闇サイト、しかしいくらなんでも襲来する数が多すぎる。

 実際先ほども、伽藍からの連絡で呪詛師がやって来たことは知った、しかしいくら非術師が相手だからと言っても。

 廉直女学院。そう、女学院に大の大人たちが、馬鹿正直に突っ込んで来るとは思わなかったのだ。

 

「…ハァ」

「はぁ」

 

 互いに全く同じタイミングで、心底うんざりした声を出して、視線を交わす。

 

「傑、お前手持ちの呪霊何体減った?」

「今のだけで13…どれもすぐ負けるくせに、皆一丁前に監視用の呪霊は祓うんだから勘弁してほしいよ」

「…その手に持ってるジジイもかよ」

「うん、さっきバッタリ会ったから軽く捻ったんだけど…」

「た、太助…」

「太助って誰だよ」

「いや知らないよ…」

 

 顔を凹ませ、うわ言のように何かを呟く老人を片手に、夏油は「はぁー…」と、再び補給しなければならない呪霊のことを思い、気が滅入る。

 一方五条も、女学院に破壊被害が出ないよう、普段の数倍意識を集中させて、術式を発動して戦った影響か、疲労が溜まっているようだ。

 そして再び。

 

「あーーーーーー…」

「…しんどいね」

 

 口をそろえて愚痴を吐く。

 自分たちが必死に手加減をして戦っている間、あの星漿体の少女はのびのびと学業を楽しんでいるのだろう。

 伽藍もそうだ、あの戦闘狂(バトルジャンキー)のことだ、どうせこのような不利やハンデも受け入れ、楽しむのだろう。

 

「…あ、そういやあのメイドは?」

「ん?あぁ、黒井さんか、確か伽藍のところに行ったよ」

「あぁ?なんで?」

「あの人にも渡したいあるからって。そうそう私たちも」

 

 あぁそういえば。そんな風にふと声に出した五条に、夏油は呪霊を取り出し、その体内に収納していた何かを取り出して、五条に渡す。

 それの正体に気づき、五条はすぐにおっと声を上げて、それの箱を開けた。

 そしてその中身を見て、笑みを深くして上機嫌に言う。

 

「結構美味そうじゃん、伊達にメイドやってないか」

「だね、じゃあ食べようか」

 

 やっと訪れた休憩の時間。それを噛み締めるように、2人はそれを食す。

 ――その休息の時間すらも、"術師殺し"の計画の内だとわからずに。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 襲い掛かる呪詛師を返り討ちにし、天内とたちは無事廉直女学院にたどり着いた。

 今、彼女は教室でクラスメイトと楽しく雑談をしており、後に控える同化のことなど微塵も気にしていない様子で。

 そんな姿を、木の上から窓を覗く形で、伽藍は待機しながらも護衛を続けていた。

 

『どうだい?彼女の様子』

「悪くない。下手に気負ってる様子もないしな、何の心配もいらんだろう」

『ならよかった。私たちも呪詛師たちを狩っていくから…そっちは頼んだよ』

「あぁ」

 

 慣れた操作で携帯電話を操作し、それを片手に伽藍は木の上で待機したまま、通話先の夏油にそう答える。

 天元との同化まであと数十時間、今も絶えず襲い掛かる呪詛師たちを駆逐し、やっと訪れたつかの間の休息。それを貪りながら、彼女は考える。

 

(さて、今のところは順調…この調子なら、()()()()も直に叶う)

 

 伽藍は笑う。そしてそんな彼女の思惑は、"術師殺し"の予想通り、星漿体である天内のことなど、最初からどうでもいいと切り捨てるもの。

 だがそんな男ですら見誤った、彼女の真の目的。

 誰もそれに気づかない。彼女の目的とその理由は、1000年生きた好奇心(羂索)も例外ではなく、未だ彼女以外は知らないもの。

 

(にしても…天元、何を考えている…?怪しい…が、だがそれでも私の目的は変わらん。さて…どうしようか)

 

 伽藍は、この同化の依頼を聞いたとき、ダメもとで上層部に懇願し、この任務に参加できないかと聞いた。

 呪術界…いや日本という国の未来を掛けたこの重大任務に、いくら実力が保証されようとも、不確定要素である自分自身は無理かと、そう思った。

 しかし結果はこう、何を思ったか、何を感じたのかは知らないが…天元は任務への参加を受け入れた。

 伽藍という平安時代を生きた、かつての自分を知る存在を、何故か認めたのだ。

 宿儺に次ぐ、この世界で最も優れた結界術の使い手である天元。それの慢心か、それとも計算か。

 だがどちらにしても変わらない。伽藍が最初に、この任務に参加した()()のためにも、あらゆる障害は取り除く。それだけだ。

 

「あ、あの…」

「あん?」

 

 己の目的を振り返り、口を歪める伽藍に、木の下から話しかける人物、それに怪訝な様子で返す。

 そして木の下にいたのは、星漿体である天内理子の世話係のメイド服の女性、黒井美里。

 彼女は下を覗き込む伽藍の顔を見て、一度ぺこりと頭を下げてから、言った。

 

「お疲れ様です、体調のほうはどうですか?」

「お前は…確か黒井だったか?」

「はい。ところで…お腹は空いてませんか?ずっと付きっ切りでしょう?」

 

 そう言って、黒井は手に持っていた箱を取り出し、木の上に座る伽藍にもよく見えるように、両腕を上げてそれを見せた。

 その箱越しに伝わるいい匂いに、彼女は器用にトッ…と軽快な音を立てて、木の上から飛び降りて、それを受け取る。

 

「遠慮なく貰う…が、そこまでの心配はいらん、反転術式にはそれなりに自信があるからな。飲まず食わずでもしばらくは生きていける」

「いやそういう事ではなく…というか反転術式…使えるんですね」

「その気になれば、心臓なしでも数分は生きていけるかもな。それ以上は流石にきついが」

「ははは…ご冗談を」

 

 さも事実かのように、荒唐無稽な伽藍の自信溢れる言葉に苦笑いを零して、黒井はそう返す。

 器用に弁当を開けて、中の具材を箸でつまんで食べる彼女の姿を、黒井はじっと見つめる。

 

「綺麗な箸使いですね」

「伊達に長生きしていないからな、忘れようとも忘れられんさ」

「…長生き、ですか」

「あぁ、長生きした」

 

 伽藍は自分の右手を、かつて老いたあの肌とは違う、若返り白く光るそれを見つめ、あの魔境の思い出に耽る。

 あの時代。弱者は常に命の危機に侵され、強者は弱者を踏み潰し、嘲笑う闘争の時代。

 そんな時代を生きた者、力を求め、そして手にして、なんの不自由もなくあるがままに生きた選ばれし者。

 そんな、どこか老人に共通する哀愁を漂わせた彼女を見て、黒井はおそるおそる聞く。

 

「あの…どうか不躾でなければ…1つ聞きたいことが」

「…なんだ」

「天元様の…同化のことで、その…」

「…あぁ」

 

 もしかしたら。黒井の心の中では、そんなある1つの推測が立っていた。

 呪術全盛を生きた、呪術に生きて、呪術に死んだ彼女が常に見せる、天元への敬意のなさ。

 そしてそれは妬みのようで、恨みでもあるかのような悪感情。

 ――予感。

 

「1000年前、確かに私は天元を知った。それに同化も…この身をもってそれを知った」

「…やはり、そうでしたか」

 

 天元の老化、そして肉体が限界を迎え、進化を始めるのは約500年周期。

 呪術全盛、平安時代はおよそ1000年前であり、単純計算でも2回はその訪れるはずだ。

 本当に2回だったのか、それとも1000年以上前から、何十回も同化は行われたのかは定かではない。実際に行われた同化の数…しかし今重要なのはそこではない。

 

「同化後…星漿体は」

「例外はない。天元と同化を果たした者は皆共通して、意志の統合された…生きた屍となる」

「…屍、ですか」

 

 ばっさりとそう言い切った伽藍に、黒井は一瞬身体を硬直させて、すぐに息を吞んだ。

 ミシリと、彼女の右手に握る箸が折れて低い音が鳴り、そしてすぐに顔を歪めて、彼女は続ける。

 

「怠惰、無自覚の傲慢とそして偽善…あの自己を曝け出し、血で血を流すあの時代で、あいつはくだらん調停を選び引きこもった」

 

 それは、現代の呪術界に身を置く者ならば、絶対に口にしないこと。

 

「死ぬことなど誰にでもできる。不死の術式を持とうがそんなことは関係ない、死とは生命の終わりであり、それと同時に個が終わることも意味する。…何故力を振るわない、何故自由に生きようとしない?」

 

 それは、まるで吐き捨てるようで。

 

「勿論理解はしているさ。人間誰しもが平等に、命を懸ける勇気を持っているわけではない。だが天元もそうだが他の弱者もそう、何故考えを放棄して行動するのではなく、放棄して行動を起こさない?」

 

 それは、誰かに言い聞かせているかのようで。

 

「呪霊術師人間…どれもそれは変わらない。まずは一歩、自分の理想へ、欲望へと一歩近づく…そうして無駄な建前を捨て、己の欲望のためだけに甚振り、奪い、殺す純粋な闘争…その成長と快感を、実感を知らないまま死んでいく者を…私は嫌悪する」

 

 そうして、伽藍はゆっくりと頭を上げる。

 校舎の向こうに広がる青い空に、まるで語り掛けるかのように。

 

「貴様に言っているんだぞ、天元」

 

 空を睨むその瞳には、隠しきれない侮蔑の色が浮かんでいた。

 呪術界に染まらない、その孤独に輝く思想と在り方に、固く閉ざした思いが零れる。

 

「…理子様には、家族はいません」

「死別か」

「はい。幼いころに、事故で」

「そうか」

 

 つい零れたその言葉。しかしそれへの反応は冷たく無関心なもの。

 護衛対象の過去、普通の人間なら少なくとも一定の興味を引くそれも、伽藍はすぐに詮索するのをやめた。

 唯一、彼女が興味を持ったのは。

 

「お前は天元を、上の言葉そのままを受け入れ認めるつもりか?」

「…なにを」

「お前はどうなんだ、あれが天元と同化することを…本当に心の底からいいと思ってるのか?」

「………私は」

「フン。わかりやすい」

 

 ――嗚呼、この人は危険だ。

 無造作に相手の悩みに踏み入り、そして感情を踏みにじる不遜な態度。

 なんて自由で、それでいて蠱惑的な、ある邪悪さを感じてしまう。

 

「認めたくないのだろう?否定したいのだろう?…誰にも渡したくないんだろう?」

「………」

「それでいい。元より、あんな腑抜けの言う事を聞く方がおかしいのだ。恥じるな、お前は正しい」

 

 ――まるで蛇。

 かつてそれに唆され、禁断の果実を口にしたというアダムとイヴ。

 彼らもこのような感覚だったのだろうか、思考が熱に浮かされ、まるで自分の意思こそが至高のように錯覚する。

 

「助けてやろうか?黒井。お前の望み通り、あれを天元から守ってやろうか?」

 

 かつてあの時代で、自由を求めた藤原の使いが、焦がれて瞳に焼き付かれた、その天上の赤い瞳が。

 今、再び光を強く放った。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

(さて…と)

 

 人気のない、学校の廊下を1人練り歩き、すぐ隣にあった空き教室へ入っていく。

 そして扉を閉めて、一度深呼吸を挟んでから、伽藍はある準備を始めた。

 

「…やるか」

 

 伽藍は目の前に向かって手をかざす、するとカシャア…と、まるで薄い氷が割れるような音が鳴り響き、教室の空間が変化を始めた。

 正六角形の、まるでホログラムが構築されるかのように、その景色が歪み、変えられる。

 そうして、辺り一面が畳で埋め尽くされた、和室のような世界が広がるのを見て、笑う。

 

「久しぶりだったが…どうやら衰えてはいないようだ。ここまでは順調」

 

 空性結界(くうせいけっかい)。それは結界術に長けた者、そしてそれを極めた者が、自在に世界を彩ることができる万能の空間。

 術者の技量、そして知識量によって、それは文字通りあらゆる世界を、文明の建築物…更には無限に広がる平原すらも作り出し、操ることができる。

 だが今回、伽藍がこの結界を作ったのは――

 

「もっとも、ここからは()()だがな」

 

 伽藍は()()を、一度経験したばかり。

 感覚は把握した、完全にそれを成す為のレベルで知覚するまでには至らなかったものの、文字通りの賭けをするには十分すぎるほど。

 彼女が望む目的、そして勝負の集大成。

 

「勝負だ。――天元」

 

 ズズズ…

 空気が淀み、悪寒すら感じるほどのプレッシャーを、構築した空性結界で抑え込みながら。

 

「――フンッ!」

 

 伽藍は()()を実行した。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「おい、天内はいるか?」

「………………………………えっ」

 

 授業が終わった昼食の時間。中等部校舎のクラスには人が溢れ、皆が談笑しながら食事をとっていた。

 そんな中訪れる、生徒ではない謎の存在。クラスにいた全生徒の視線が、それに集中して時間が止まる。

 ぱちくり、数秒の沈黙と硬直が訪れて――

 

「あ?」

「な、な………」

 

 先に、状況をいち早く理解した天内がぷるぷると震えだした。

 

「おい。お前弁当忘れてただろう、早く取れ」

「なんでここにいるの!?」

「いいから早く取れ、私は忙しいんだ」

「勝手に来ないでって言ったじゃん!」

「じゃあ昼飯はどうするんだ」

「それとこれは別!」

 

 気恥ずかしさと混乱で慌てる天内。しかしそれに知ったことかと、伽藍は堂々と教室に侵入してそれを開ける。

 ふと鼻腔を刺激する弁当のいい香りに、動きが止まったのを狙って、伽藍は天内の口にそれを突っ込んだ。

 

「ほら食え」

「んぐっ!」

「これも食え」

「んんっ!?」

 

 箸で掴んだ具材をタイミングよく、次々と口に入れながらも、喉につまらないよう器用にお茶も飲ませる。

 一瞬喉に引っかかった何か、しかし即座にそれを誤魔化す形で、液体が喉を通ったことで違和感が消える。

 そうして俗にいうあーんが終わり、天内はすぐに正気を取り戻して叫ぶ。

 

「ちょっと!?いきなり何するの!?」

「黒井から今日は自信作と聞いてな、すぐに感想を欲しがっていたからこうしたまで」

「意味わかんないって!?」

「だがもういい、()()()()()

 

 何か、本来とは別の意味を含んだその言葉。

 しかしその光景を見て興味が湧いたのか、彼女の近くの席に座っていた数人の女子生徒が騒ぎ出した。

 

「何!理子お姉さんいたの!?」

「ちが…違うって!そんなんじゃないって!」

「おねーさんスタイル凄っ!身長何センチあるの?」

「ちょ…ちょちょ!」

 

 世にも珍しい銀髪の少女。普段見慣れないそれに興味を持つのは必然だろう、だが天内はそうじゃなかった。

 傲慢不遜、暴虐に染まる戦闘狂(バトルジャンキー)。まだ行動を共にして少ししかたっていないが、天内の伽藍に対する評価はこうだ。

 五条や夏油に似た、だがそれとは決定的にベクトルの違うひとでなし。そんな危険人物に触れてほしくない、そんな彼女の心配など知らずに、生徒たちは更に騒ぐ。

 

「おねーさん高校生?」

「あぁそうだ」

「髪綺麗だ…すっごいサラサラしてる」

「おい触るな」

「うわっ!腹筋バキバキじゃん!?ヤッバなにこれ!!」

「触るなと言っている」

「ちょっ…みんな落ち着いてってば!」

 

 わーわーわーわー。

 生徒たちがもみくちゃになり、ひとしきり騒いだ後、異変に気づいた教師が教室に入る。

 数回手を叩いて、生徒たちを静めて騒ぎを終わらせて、すぐに伽藍に気づいて話しかけた。

 

「はいはいそこまで!困りますよ、いくら身内とはいえ」

「あぁ悪い、だがすぐ帰るから安心しろ」

「いや、そういう問題ではなくてですね…」

「えー?おねーさんも一緒に食べよー?」

「こらっ!だからいけませんよ!」

「悪いが遠慮する。じゃあな天内、授業が終わったらな」

「いいから…はよ帰れ!」

 

 伽藍は天内に、そのまま背中を押される形で教室を追い出される。

 その後、ピシャン!と思いっ切り扉が閉められる様子を見て、すぐに切り替えた。

 

「…さて、戻るか」

 

 そもそもの話、伽藍がわざわざこの校舎に無断で侵入し、雑用を引き受けたのには訳がある。

 本来ならば、教師にもある程度顔の利く黒井が行くはずだった、が。伽藍はあえて、彼女の代わりに弁当を届けた。

 彼女と別れ、自分1人で行動するために。

 

 そして、ある目的を遂行するために。

 

「さて…どうなるかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天内理子の懸賞金取り下げまで、残り30時間を切ったころ。

 星漿体護衛チーム、一同は現在。

 

「――めんそーれ!

 

 沖縄に来ていた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「すみません…一瞬とはいえ、やはりあの人と離れるべきでは…」

「いや完全にあいつが悪い、なんで護衛だってのに使用人と別れるんだよ、馬鹿だろお前」

「すまんすまん、だが結果オーライというやつだ。今はこの海を楽しもうじゃないか」

「なぁ傑、こいつ1回殴ろうぜ」

「悟…」

 

 黒井が伽藍と別れ、単独行動になった瞬間を狙われたのか、彼女は不意を突かれる形で呪詛師に捕らわれ、天内との交換材料となった。

 だがただの呪詛師程度が、五条ら理外の外にいる存在に抵抗できるはずもなく、あっという間に勝負はついた、のだが――

 

「本当に気にしなくていいですよ、実際悪いのは伽藍です」

「は、はぁ…」

「あと、1体でも監視用の呪霊を付けなかった私の責任でもある、それに不意打ちだったんでしょう?」

「えぇ…しかしいくら不意打ちとはいえ……護身術にはそれなりに自信があったのですが…」

 

 言葉そのままに、黒井はいつの間にか背後を取られ、そして気絶させられ人質となった。

 しかしいくら非術師の分類に入る黒井といえど、襲われた時の記憶すらないのは違和感が残る。

 相手が呪詛師だったから、という理由でも納得はできるが…

 

「しかしそれより私は、相手がわざわざ沖縄を選んだ理由の方が気になります」

「時間稼ぎじゃないんですか?万が一理子様を殺められなくても、明日の満月に間に合わないようにするために…」

「もし私なら、もっと交通インフラの進んでいない地方を選びますよ」

 

 そう続ける夏油だが、実際内心はある一種の焦りを見せていた。

 あまりにも多すぎる呪詛師の襲来、今は沖縄の空港で、後輩の術師に待機してもらってるとはいえ、まだ油断ができない。

 それに、このチーム最強の男である五条の、ある異変にも気づいていた。

 

(悟は…まだ術式を解いてない。昨日からずっと出しっぱなしか)

 

 不眠不休、いくら呪力ロスを0にできる六眼を持っているとはいえ、その疲労までを無効化できるわけではない。

 今でこそ海を楽しみ、ケラケラと笑ってはいるが、間違いなくそこには疲弊の色が見えた。

 反転術式が使えないため、それを誤魔化しているのは彼の胆力と演技力。

 

「ブハハハハハ!ナマコナマコ!!」

「キモッ!キモなのじゃーっ!!」

「ハハッ!確かにこれは醜悪だなぁ!!」

 

 目の前でナマコをつつき、投げつけあう姿を見て、夏油はやれやれと首を振った。

 あの様子なら、恐らく今日も沖縄に滞在する予定だろう。本来なら今すぐにでも高専に戻り、安全を確保するべきなのだろうが――

 

(仕方ない、それに心配いらないだろう)

 

 私たちは最強だから。その言葉を内心で呟き、夏油は目の前で笑う親友と、その仲間を微笑みながら見守る。

 黒井もそうだ。久しぶりに見た、天内の楽しそうに遊ぶ姿に、薄っすらと涙を浮かべながら、目の前で水をかけあって遊ぶ3人を見る。

 

「ギャハハハ!ほぅらこっちだ!」

「ギャーッ!?やったな貴様!ほれこっちもじゃ!!」

「ククク…ならばこちらも迎え撃つまで!」

 

 バシャバシャと綺麗な音を響かせ、3人は夏の海を楽しんで笑いあう。

 そしてその途中で、五条は伽藍の姿を凝視し、ピタリと動きを止めて。

 

「…おい、伽藍」

「どうした?」

「お前、なんかあったか?」

 

 サングラスをずらして、伽藍のつま先から頭のてっぺんまでを、じーっと見つめてそう問う。

 その様子に、天内は何かがあったのかと首をかしげて、五条と一緒に伽藍を見つめる。

 伽藍はしばらく、その視線を黙って受け入れた後。

 

「特に、何も」

 

 そう、笑って言った。




今日ティアキン買ったので、これから更新遅れるかもしれない。
しかしこれから、壊玉編には6つほど山場があります。お楽しみに。
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