黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 投稿ミスすまない、まずは山場1個目。


15話.懐玉④ー成道ー

『で、私としても、これは予想外だったんだけど?』

「なんだ嫌か?久しぶりに、知人との会話を楽しみたい欲くらい、私にもあるぞ」

『全く嬉しいこと言ってくれるね。ま、どうせそれだけじゃないんでしょ?要件はなに?』

「あぁ、わかってるならそれでいい。…あと1つ。それさえ揃えば、私の目的は達成される」

『へぇ…聞こうか』

 

 午前2時。草木も眠る丑三つ時に、部屋に響く誰かの声。

 沖縄のあるリゾートホテル。天元との同化を控え、今もなお徹夜で、ホテルの外で警備を続ける五条とは別に、月明かりに照らされたその一室。

 窓から見える月を見ながら、会話を続ける伽藍。彼女は自分の話す声が、他の誰かに聞こえてしまう心配など一切せず、平常のままでいた。

 携帯越しの相手…羂索へ、今も隣で寝ている最中の星漿体の少女、天内を見つめながら、話し続ける。

 

「その前に聞いておくが…お前もこの餓鬼を狙ってるのはわかってる。そしてやけに呪詛師の集まりがいいと思ったんだ、それもお前だろう?いくら甚爾でも、ここまでの数は用意できんはずだからな」

『こっちも必死なんだって、やっと500年経ったっていうのに、折角のリベンジチャンスをこのまま見守るだけなんてさ』

「待て、忘れたとは言わせんぞ。天元と六眼はともかく、星漿体すら因果で守られているだろう?…天元は最も、星漿体の排除すらも意味がないとなると、無意味だ」

『いや、そうとは限らないよ?』

「…なんだと?」

 

 その自信に溢れた様子に、伽藍は待てと反応した。

 羂索は2回、天元を手中に収めようと六眼に挑み、敗れた。その話は過去に、伽藍が羂索本人から聞いたこと。一度目は真正面から挑み…敗れ。その反省からか、2回目の羂索は徹底していた。

 今度は同化が始まる十数年前から根を回した。六眼も星漿体も全て、生後一月に抹殺した。

 それでも彼らは現れた、まるで無意味だと嘲笑うように、星漿体は同化を果たし、六眼はそれを守護した。

 彼らは因果で繋がっている。たとえどれだけ足掻こうと、彼らはそれを嘲笑う。

 

『呪いの因果を絶つ為には、呪いに囚われたままじゃ駄目なんだ。宿儺ならもしかしたら…だけど、それも希望的観測でしかない』

「ならば余計どうするんだ、お前はこっちに強く顔は出せないのだろう?」

『だから彼を利用したのさ、呪いの因果から外れた…呪力が0の彼にね』

「…甚爾か」

 

 その言葉を聞いて、伽藍はようやく羂索の言っていることが理解できた。

 天元の作った因果のシステム、それはこの世に存在するあらゆる人間、呪霊に干渉する運命操作だ。

 呪力を持ったものは皆、この籠に閉じ込められ、不変永久の安穏を貪るようになる。

 だが逆に、呪力がない強者ならば――

 しかしそれはあまりにも勝算の少ない博打だ。いくら甚爾がイレギュラーとはいえ、運命に守られた六眼に届くかなど、誰にもわからないのだから。

 

「全く…相変わらずの博打だな、なんというか…お前らしい」

『言ったろ?1000年生き続けてきたけど、完全に呪力から脱却して、しかも星漿体を狙ってるんだなんて、こんなの必死になるしかない』

「フン。成功したらどうする?どっちにしろ、天元の同化を防いだ後、あいつをどうにかするのは骨が折れそうだ」

『うーん、まぁなんとかなるでしょ。今のところは呪霊操術を考えてるんだけどね』

「おいおい、お前天元を呪霊扱いするつもりか?」

『駄目だった?』

「呪霊の方がマシだ」

『あっははは!それちょっとわかるかも』

 

 同化まであと十数時間。そして現れるのは甚爾、羂索の用意した刺客たち。

 その果てに訪れる結末、運命に抗い、そして結果を掴もうとしたその末路がどうなるか。

 気になる…が、今の伽藍はそれ以上に、心のどこかに、まるで杭を打ち込まれたような衝撃を感じた。

 

「そうか、お前はずっと昔から…因果に抗っていたのか」

『え、信じてなかったの?』

「いや、そうじゃない。ただ…そうだな、改めていいと感じたまで」

 

 ある種の諦めがあったことは認める。いくら殺そうと、邪魔しようと、因果はそれを嘲笑って無視をする。

 ()()()、伽藍が見た同化による光景は、今も忌々しく残っていた。

 だが羂索は1000年、自分が生得領域で呆けていた間も、ずっと抗っていたのだ。500年ごとに備え、何度も、何度も。

 

「…さて、話を戻そう。私がお前に頼みたいことだが」

『"頼み"…ねぇ?ぶっちゃけ君が何したいかとか全然わからないんだよね、実際護衛に参加したって聞いた時は本当に驚いたもん』

「それはそれでだ、私には目的がある。その種は撒き終えた…あと残るのは…」

『なんだい?』

()()()()()()()()()()?」

『――っ!』

 

 呪霊ではない、人間が呪物へと成るのは実質不可能。

 そもそも受肉という過程を挟むとはいえ、実質的な不老不死を可能とするこの技術は、あの平安の頃でさえ浸透していなかった。

 何故なら誰も、生物に宿る"魂"を知覚することができなかったからからだ。だからこそ伽藍含む、呪物となった術師たちは皆、羂索と契約した。

 そして伽藍も、宿儺と同じように、己の魂を指に凝縮し――

 

「私が求めるのはあの身体。宿儺は魂を20分割したが、私はそうじゃない」

『…だね』

「魂の格が違う、と言ったらそこまでだ。だが違う、私のかつての身体には…あるはずだ、魂の搾りかす…いいや、もう1人の私自身が」

『宿儺が特別なだけで、君の魂はちゃんと凝縮してるって言ったら?』

「抜かせ、私がその程度で終わるものか」

『…ハハッ、よっぽど自信があるみたいだね、自分に』

 

 どこか愉快そうな抑揚、しかしその反応で確かに、羂索は伽藍の問いに是と答えた。

 かつての身体、そこに宿る自分の魂。それを何故、今になって求めたのかはわからない、が。

 必ず面白いことが起こる。そう羂索は確信した、だからこそ言う。

 

『じゃあ聞かせて。それで、面白いものは見れる?』

「あぁ、面白いのを見せてやる」

『言質取ったよ』

「あぁ、縛りだ」

 

 伽藍のその言葉に、羂索はやれやれと返した。

 あの時代、平安で出会ったこの存在。どこまでも愚直で、けれどどこか愉快な存在。

 何十年も変わらなかった、その在り方。彼女が死んで、それから1000年経って、そして復活したとき、何を見せてくれるのか。

 あぁでも、きっと。

 

『期待してるよ』

「…ハハッ、任せろ」

 

 この予兆は、きっと正しいだろう。

 羂索はそう確信した。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 ビーーーッ!

 

「さて、ここが高専結界内だ。高専関係者以外が入ると警報が鳴って…」

「お、おおう…」

 

 ビーーーッ!

 

「あとは高専内の地下…薨星宮(こうせいぐう)にエレベーターで…」

「傑」

「本殿に着いたらあとは門を潜って、その後は天元様が…」

 

 ビーーーッ!

 

「…傑、これもしかしてだけど」

「言うな、私も本気で驚いてるんだって…」

「…羂索、お前マジか?」

 

 pm.14:57

 天内理子の懸賞金取り下げまで、()()3()()

 目の前に連なる鳥居を見ながら、辺りに響く大音量に、皆は全く同じ反応を見せて、そして心底呆れた。

 五条と夏油はともかく、この状況に一番驚いたのは伽藍だろう。いくら事前に刺客の数を増していたのを知っていたとはいえ、まさかこのレベルだとは思わなかった。

 鳴り響くブザーに動じることなく続々と到着、3000万の報酬を目当てに、ギラついた殺意と欲望を隠さず、残された刺客が目の前にやって来た。

 

「…悟、本当に大丈夫か?」

「問題ないって、傑達は天内優先で、真っすぐ天元様のとこに向かってくれ」

「…油断するなよ」

「誰に言ってんだよ」

 

 いくら高専内とはいえ、全力での無下限術式は避けたい事態だ。

 それはあくまでも最終手段、しかし相手は高専内に馬鹿正直に侵入する愚か者たち。引き際を弁えられない中途半端な実力者こそ、ある意味では恐ろしいものだ。

 そしてもう誤魔化しの効かなくなってきた疲労。更に求められる術式の精密操作、ハッキリ言って面倒臭い。

 が、それでも五条悟が苦戦することなどない。それは客観的な事実であり、変えられない真実だからだ。

 

「で、どうすんの?誰から先にやる?」

 

 夏油達を先に行かせて、五条はサングラスを外してそう言う。

 普段なら問答無用、すぐに"蒼"でも発動して、すぐに相手を潰せばいい話だ。だが今回は制限時間がある、この無駄な会話すらも、今の自分にとっては戦略の1つだ。

 目の前の、懸賞金目当てにやってきた呪詛師、およそ10名のリーダー格であろう、一回り身体の大きい男は腕につけた時計を見て、それに返した。

 

「今のだけで30秒…確かにこのままでは間に合わない…が、簡単なこと」

 

 1人、2人と男が並列で並び、そして先ほど後ろに控えていた、残りの男全員が前へと出た。

 ピタリと静止し、肩を並べてこちらを眺める、その息の合った行動に、五条はピクリと眉をひそめて反応した。

 

「…へぇ、流石にそこまで馬鹿じゃなかったか」

 

 懸賞金の取り下げまであと2分。

 このまま律義に潰しあいの、血みどろの混戦を繰り広げ、結局ターゲットの殺害が果たせないのならば、今となりにいる商売敵と手を取り合うことも選ぶ柔軟さ。

 ただ金が欲しいだけ、たったそれだけの為に、ここまでできるのは流石というべきか。

 その薄汚い生き方に、ある種の関心を示すものの、やはり馬鹿らしいと五条は切り捨てる。

 

「やっぱ馬鹿だろ、そのやる気をもうちょい別のとこで生かせよ」

「確かに報酬を独り占めできないのは認める…が、それでも1人あたり300万にはなる」

「知っている、お前はずっと術式を解いていない…溜まっているのだろう?疲労が」

「それに貴様は先ほど、別の人間と戦い体力を削られている…今なら確実に倒せるぜ」

「聞いてる?」

 

 五条の呆れた声を無視し、男たちは準備を終えて力を込めた。

 品行方正とは無縁のオーラを放ちながら、次々と構えだす男たち。武術のぶもない構えだが、確かに裏付けされた実力は見える。

 そして、男たちは一斉に走り出して、叫んだ。

 

多勢に無勢だいっけぇ

 

 ちなみに、勝負は一瞬でついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傑、そっちはどうだ?」

『今から本殿に向かうところだ、悟もすぐに来てくれ』

「あぁ、了解」

 

 pm.14:59

 軽い運動を終えた五条の背後で、山のように積まれた男たち。

 何の問題もなく、拍子抜けするほど圧倒的に終わったこの戦いは、ある意味では良かったと言えるものだ。

 天内理子の懸賞金も、もう取り下げられ、それに本人ももう、既に薨星宮へと向かっている。

 

「チッ…二度とゴメンだ、ガキのお守は」

 

 pm.15:00

 懸賞金が完全に取り下げられ、やっと終わった仕事にため息を吐いて。

 五条が術式を解いて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――トスッ

 

「………あ?」

 

 五条の背中を、誰かが刀で貫いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 薨星宮・本殿

 

「では、私はここまでだ」

「………なんだって?」

「もう私の勝負は終わった、後は好きにしろ」

 

 目の前にそびえ立つ、巨大な樹木に見とれたのも束の間、突如そう言って立ち去ろうとする伽藍に、夏油は話しかける。

 確かに護衛は終わった、後は天内が目の前の門を潜り、天元に会うだけだ。

 しかし何故このタイミングなのか、その疑問に答えるように、伽藍は肩を竦める。

 

「待て、勝負?いやそんなことよりも…」

「悪いが予定がある。この後のことは任せたぞ?お前たちが何をしたがっているのかは、もう知ってるからな」

「……」

「どこへでも逃げるがいいさ、私は賛成だからな。天内を同化させるつもりなど、最初からなかったんだろう?」

「――えっ」

 

 同化をさせるつもりはない。その言葉を聞いて、どこか顔を暗くしていた天内は、突然のことに驚き反応する。

 そう、五条と夏油は決めていた。最初から、夜蛾の言った「護衛と抹消」…その言葉に含まれた意味と理由を察して。

 ――もし星漿体が同化を拒否したら、その時は同化はなしにすると。

 

「じゃあな、後は勝手にしろ」

 

 自分たちの決意、そして天内を守る意思を固める夏油に背を向け、伽藍はそのまま歩いて去った。

 その相変わらずのマイペースさに、やれやれと首を振って、夏油は続けた。

 

「彼女の言った通りだ。私たちは君が、同化しなくてもいいと思ってる」

「…なん、で」

「うちの担任は脳筋でね、こんな風になっちゃったけど、きっとあの人もそうしろと言うさ」

「…でも」

「君の未来は私たちが保証する、どんな選択をしようともね」

 

 ――いつからそう決心したのだろう。

 両親はいない、それももう悲しいとも思わない。

 自分は特別だと、いつかのためだと大切に扱われて、ろくに外にも出られなかった。

だから、せめて最後までは行きたかった。学校へ、友達に会いに。

 

「…私ね、昔からあまり外出できなかったんだ」

「うん」

「だから学校が楽しかった、友達と一緒に話せて、嬉しかった」

 

 でも、いつかは終わる。

 何故なら自分は星漿体(特別)だから、日本のため、国中の人間のために、身を捧げないといけないから。

 でも自分は大丈夫、両親もいない、だから1人でも大丈夫だと。

 そう思っていた、思っていたのに。

 

「でも…でもね」

「…うん」

「私、やっぱり…っ」

 

 初めてだった。

 目に焼き付く白髪、特徴的な黒髪と、傲慢不遜な灰色の髪。

 特別だった自分なんて知らないと、"普通"に接してくれるこの3人。

 そんな彼らと一緒に、自分を守ってくれた家族。

 

『――理子様』

 

 大好きだった。

 

『理子様…どうか…!』

 

 あわよくば、もう1人の家族(黒井)と。

 

「私…もっとみんなと一緒にいたい…っ!」

 

 沖縄の海、澄んだ青。

 初めて食べた料理、それを共有して、一緒に笑いあった1日。

 水族館で見た、巨大な生き物の放つ、神秘の美しさ。

 今でも忘れられない。記憶の中で、今も青が澄んでいる。

 

「色んな所に行って…色んなものを見て、もっと…もっと…!」

「大丈夫だよ、理子ちゃん」

 

 その心を聞いて、夏油はより決心を固めて手を差し出した。

 前代未聞だ。星漿体と同化を果たせなかったら、天元は進化し日本が終わるかもしれない。

 だが、それでも。

 

「――私たちは、最強なんだ」

 

 そう、自分たち(最強)なら大丈夫だから。

 何も怖くない、何も心配ない。

 

「君の未来は私たちが保証する。だからね」

 

 もう一度、差し出した手を前に突き出して、続ける。

 

「…帰ろう、理子ちゃん」

 

 その差し出された手を見て、涙で濡れた顔を袖で拭って、天内はそれを握る。

 そして優しく、微笑んで頷いた夏油を見て、自分も同じように、笑って頷いて。

 

「…うん!」

 

 ――タンッ

 それと同時に、天内の頭を無情にも、弾丸が貫いた。

 

 

 

 

「………理子ちゃん?」

「ハイお疲れ、解散解散」

 

 ドクドクと血を流し、冷たく倒れる彼女の様子を。

 夏油、そして他ならぬ彼女を殺した男…"術師殺し"伏黒甚爾は眺めて、そしてやっと仕事が終わったと言わんばかりに、そう呟いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「で、結局あてはあるの?」

「問題ない、私のことは私が一番理解している。それに天元の結界は変なところで甘い、この程度なら潜り抜けられるさ」

「頼もしいね、じゃあ細かい指示は頼んだよ」

「あぁ」

 

 ギギギ…と、目の前の重厚な鉄製の扉が開かれ、その中にある真っ白な空間が露になる。

 その純白の世界に足を踏み入れた2人は、その後一列に並んで歩き出す。1番前を歩くのは、十字の縫い目を頭に残し、魅惑的な雰囲気を醸し出す黒髪の女性。

 虎杖香織…もとい、その正体である羂索は、一歩後ろを着いてくる形で歩く女に、やれやれと首を振って話しかける。

 

「にしても、君に身体のことは言ってなかったし、話題にも出してなかったから驚いたよ、なんでわかったのさ」

「フン。受肉を果たした後、妙な気配をここから感じてな、最初は気のせいかと思ったが…」

「なるほど、センサーみたいなものか」

 

 灰色の髪を片手で弄り、境界のない純白の世界を見渡す女――伽藍はそう言って、目線をある場所で止めて指を差す。

 

「ここだ」

「了解」

 

 羂索がその壁の前に立ち、そのまま片手をかざして呪力を込める。

 そして一瞬。空間に亀裂が走った後に、目の前の壁が、正六角の形で膜が剥がれるように変化する。

 カシャア…と、ガラスの砕けるような音が鳴り響き、目の前にある景色が一変した。

 

「木を隠すなら森の中…宿儺ほどじゃなかったけど、間違いなく君も天元に警戒されていたからね」

「…だからあえてここに置いたのか?」

「そ、宿儺の方はまだ特定できてないけど…君のは無事さ、ほら」

 

 高専内・忌庫(きこ)

 宿儺の指、そしてそれに匹敵する危険な呪物を保管する、高専が管理している保管庫。

 本来、忌庫そのものの場所やそれに連なる通路は、天元の結界術により高頻度でシャッフルされ場所が特定できない。

 しかし今回は()()がある。自分の別れた魂、そして肉体を創り出し、操る術式による副次的効果によるセンサー。

 伽藍の感覚を頼りにすれば、隠された近道の扉を見つけることはそう難しいことではない。

 

「………………」

「どうした?」

 

 そして立ち止まり、目の前に立ち尽くす伽藍に、羂索は首をかしげて話しかける。

 2人の目の前には、座禅を組んだ体勢のまま死蝋(しろう)となったかつての身体。

 何か思う所でもあるのか、そう推測する羂索に、伽藍は話す。

 

「………随分と」

「なんだい?」

「綺麗なままだな、服もあの頃のままだ」

「軽い呪具になってるからね、うん。それにしても本当に懐かしい」

 

 白を基本とした、リネン僧侶を彷彿とさせる独自の服装に、右腕だけ袖を通さない、片肌脱ぎと呼ばれるかつての着こなし。

 あれから1000年経ってるというのに、未だ純白のままの、その着物とさらし。

 変わっていない、最後に己が死んだあの瞬間から、時が止まったままかのようだ。

 

「さて、じゃあこれからどうするの?」

「ん?あぁ…こうするつもりだ」

 

 一体かつての身体で何をするのか、疑問に感じる羂索にすぐ答える形で、伽藍は喋りながら腕を振るった。

 ゴリッ!と、死蝋の肉体が引きちぎられる鈍い音が響き、伽藍はかつての自分の頭部を口に持ってきて――

 

「………んあ」

 

 ――ガブリ

 ズチュ、凝固した血液と肉が割れ、それが啜られ血肉となる音。

 バリッ、ガリッと更に何かが削れる音も聞こえ、それが頭蓋骨をかじる音だと気づいた途端、羂索は眉をひそめた。

 

「………………君さぁ」

「なんだ」

「もう少し戸惑いとかないわけ?てか美味しいの?」

「さぁ…ただビーフジャーキーに似た感じだな、だがあれに千切れ紙を混ぜたような、そして妙にザラザラとした舌ざわりが…」

「あーはいはいそこまで。…君ホント宿儺に似てるよね、そういうとこ」

 

 頭蓋骨、かつての脳味噌を平らげた後は、残る四肢に目標を移す。

 右腕を千切り、そして千切り終えた右腕に視線を集中させて、そこにかつて人差し指があったであろう、歪に欠損した右手を眺めたあと、その端から小指を齧って、引っ張る形でそれを食す。

 

「機会があればとは思っていた、だが別に絶対というほど、これを求めていたわけじゃなかったんだがな」

「ん?じゃあなんで今更?」

「ふむ…魂の補給が丁度良かったからな」

「………ふーん」

 

 ガリッ、ゴリッ、ベキキッ、ズチュッ。

 背中を向けて、片指を耳に突っ込む形で問う羂索に、伽藍は身体を食しながら答える。

 魂の補給、それが意味することが何なのか、推測を立てながら、平行でパソコンでの作業を続け、そして声を荒げた。

 

「………あっ!マジか!」

「どうしたいきなり」

「いやさっき連絡来たんだけど、盤星教がやたら大騒ぎしててさ、どうやら成功したみたいだよ?星漿体の暗殺」

「………ほう?」

 

 ごくんっ、残る身体を齧りながらも、器用に会話をして笑う伽藍。

 羂索の言った、暗殺の成功。それ即ち、彼の賭け、そして"術師殺し"が因果を破壊したことの証明でもある。

 本当に、本当にあのイレギュラーが運命を破壊したのかと、ただただ歓喜に満ちて笑いが止まらない。

 

「ッハハハ!そうか!ついにとうとう…ざまぁないな天元!」

「で、どうする?君のことだからどうせ…」

「あ?決まってるだろう」

 

 ペロリと、口周りに残った肉片を舐めとって、伽藍は残ったかつての服を手にして、笑いながら言う。

 

「次の相手はあいつだ、行くぞ」

 

 ()()()状に輝きを放つ赤い目が、更に強く光り輝いた。




 伽藍の正装はティアキンガノンをイメージしてくれれば。
 そしてやっと次回…やっと書きたかったところが書ける…!
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