黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 筆が進みまくる、次は本編描きます。


じゅじゅさんぽ.万

「見つけたわ…私の恋の宿敵!」

「………はぁ?」

 

 雲ひとつ無い晴天。しかしその青い空とは裏腹に、その大地は真っ赤に染まり、異臭を放っている。

 そんな臓物で作られた絨毯の上で、退屈そうにため息を吐いた、全身を返り血で真っ赤にした老人――伽藍に言葉を投げかけた女。

 白の和服に身を包んだ、黒の美しい長髪と、麻呂眉を携えたその姿に、伽藍は一瞬既視感を感じて、その後女が続けた言葉に首を傾げた。

 

「裏梅から話は聞いたわ…貴方も私と同じ…あの人に愛を与える人間…!」

「はぁ?」

「でもダメよ!妾なんて許さない…あの人に愛を与えるのは私!私以外は許さないわ!」

「……はぁ」

「つまり貴方も敵…恋の宿敵であり排除する対象なのよ…っ」

「……………」

 

 ――こいつもイかれてる奴か。

 伽藍は自分のことを棚に上げ、頬を赤に染めて、麻呂眉を指で整えながらそう続ける女に、そう思った。

 くねくねと身体を揺らして、夢見心地に呪いの王を語るその姿を見て、背中に冷や汗をかきながら、それに返す。

 

「……まぁ、頑張ればいいんじゃないか」

「手を引くなら今のうちよ…たとえ許されないとはいえ、貴方も私と同じ…彼に"愛"を与えようとした人間…」

「話を聞け」

「同じ女同士、1人の男を求めたなら…その後起こることもわかってるでしょう?」

「こんな老いぼれに何を言ってるんだお前は」

「愛に歳は関係ないわ!そう、だからこそ許せない…禁断の愛、私よりも背徳感に満ちたその関係!」

「…………」

 

 くるくる。手を胸に当てながら、まるで舞でも踊っているかのような動きを続けながら、女は伽藍に話し続ける。

 正直、伽藍は最初の言いがかりの時点で、無視をして帰ることも考えていた…が。

 伽藍は目の前の女の正体を知っていた、故に無視をせずに、こうして会話に付き合っていた。

 

「わからないなら仕方ないわ…宿儺に愛を教え、そして彼を殺すのは私よ」

「愛など知らんしどうでも良い…が、殺すというのは論外だ」

「…なんですって?」

「宿儺を殺すのは私だ、私こそが次の――呪いの王に相応しい」

 

 ピクリと、伽藍の言い放った言葉に反応し、その顔を不機嫌に染めあげる。

 そして瞬時にその身体を、黒い液状の金属と、筋繊維が包み込み、姿を変える。

 女性らしい柔らかな身体が、たちまち見上げるほどの背丈と、平均男性を超える筋肉量を纏って、そして動き出した。

 

「寝言は寝て死になさい――伽藍ッ!」

「遊んでやろう、来い――(よろず)

 

 数多の生体機能を流用、特化させた肉の鎧。

 それによる膂力、そして俊足と生成した金属による中距離戦闘。これこそが平安最強の構築術式使い――それが彼女の、万の戦闘スタイルだ。

 構築術式による燃費の悪さ…それを少量の筋肉量でも海を渡れるほどの、昆虫のエネルギー効率を当てはめることでカバーした。

 そしてこれらが合わさることで放たれる一撃。半自律制御によって形を変える液体金属と、昆虫の筋力が組み合わされた剛力。

 

「…面倒な」

 

 次々と放たれる即死級の一撃。全盛期ならまだしも、今の老いた身体では、躱す受けるで精一杯。

 あくまでも視線は万本人に、しかし残る死角からの一撃を、歴戦の経験で磨いた勘で、身体を捻って避ける…が、それも限界が来るだろう。

 その間も万の剛腕による2本の拳撃、そして物理法則を無視し、自在に形を変える液体金属が、伽藍の身体を貫かんと暴れだす。

 この連携で何人がやられたのか、伽藍は彼女によって滅ぼされた、藤氏(とうし)直属精鋭部隊――五虚将(ごくうしょう)のことを思い、苦笑いを零した。

 ――だが。

 

「だが少々…」

 

 ――()()()()()

 伽藍が相手の懐に入り込み、瞬時に手のひらを当てて、動きを止めたことで"それ"が始まる。

 その異質な行動、そして他ならぬ自身の身体に発生した異変に気づいた万が、それを防ごうと拳を振るった瞬間。

 

 ――トンッ

 

「……えっ」

「相性が悪すぎたな、小娘」

 

 パシャッ。水が零れた時のような、そんな音が周りに響き、万の纏った肉の鎧が、一瞬で分解されて消えてしまった。

 先程までの、まるで丸太を彷彿とさせる剛腕も、いつのまにか万本人の生身の腕に変化しており、それが伽藍の手のひらにぽすんと抑え込まれる。

 

「私の術式は肉と骨を作り、操るもの…簡単な話だ。お前の作った肉は、私の術式反転で一瞬で消せる」

「ちょ、ちょっとちょっと!?」

「勝負は終わりだ、さっさとお前も帰れ、私は宿儺を追う」

「待ちなさいってば!」

 

 老いて脆くなった身体に力を込めて、呪力による強化を施して走り出す。

 万の呪力出力も、他の術師と比べても遜色ないレベルだったが、肉体強化というくくりの中では、伽藍には勝てない。

 たちまち遠く、その後ろ姿が完全に見えなくなってから、万はぷるぷると震えて。

 

「ふ、ふふふふ…いいわ。貴方がそうするなら、こっちにも…いい考えがあるわ…っ!」

 

 新たに昆虫の生体機能を、その背中に巨大な羽を作り出し、すぐに跳躍して宙に浮かぶ。

 そして一気に空気を蹴るように、身体を前項姿勢にしてから、叫んだ。

 

「次は勝つわよ!…恋の盟友ッ!」

 

 こうして、ある老人と小娘との関係は始まった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「宿儺に会えないわ」

「奇遇だな、私もだ」

 

 ちりんちりん。と、鳴り響く音。

 

「貴方も?奇遇ねぇ私もなのよ」

「何故だろうな」

「なんでかしらねぇ」

「…万、お前少しやりすぎたのではないか?」

「伽藍こそ、もう少し喧嘩売る頻度少なくしたらどうなのよ」

「………裏梅が見たら発狂しそうだねぇ、この集まり」

 

 ちりんちりん、夏の日差しと共に耳に届く、その清涼感と、どこか重厚感を感じる青銅の音。

 ある山奥の屋敷の中、その縁側に集まるこの3人。そのうちの、()()()()()()()()()()は、目の前で団扇を仰ぐ伽藍たちに、そうため息を吐きながら言う。

 まだ珍しい、世に完全に浸透していないこの貴重品を眺めながら、万はふーんと首を傾げて。

 

「ただの青銅の塊が…悪くないわね、私も作ってみようかしら」

「ちょっと?それ買うのに結構苦労したんだよ?そう簡単に贋作を作られたらさ…私の苦労が……」

「いいじゃない羂索。せっかくの構築術式なんだから、これくらい許されるわよ」

「……私が許したくないんだけど?」

「ッハハハ!これからは、お前が万の贋作元を買えばいいんじゃないか?」

「勘弁してってば…」

「でだ、宿儺の場所だが…羂索、お前も知らんのか?」

「うーん…さぁ?あんなのでも私たちと同じ人間だし、北の方にでも涼みに行ったんじゃない?」

「ふーん…」

 

 実の所、羂索は既に宿儺たちの所在を把握済みである。

 だが今は、それを伽藍に、勿論万にも言うつもりはなく、しばらくはこうして涼を取るつもりだ。

 その理由は他ならない、宿儺の従者である裏梅から、凄まじい形相で釘を刺されたのだ。

 

『おい羂索…頼むから…頼むから頼んだぞ…ッ!』

『…言葉使いがおかしくなってるよ?』

『いいかッ!?貴様は数日だけでいい!あの気狂い婆と!糞眉女を抑えていればいい!いいんだッ!!』

『あーー…あ、うん』

『気狂い婆と糞眉だ!気狂い婆と糞眉!気狂い婆と気狂い婆だッ!』

『………水飲む?』

『わかったな!!!???』

『………』

 

「どうした羂索」

「あー…ちょっと裏梅が可哀想に思えてきてね」

「…ふーん」

 

 嘘はつかない。

 だがあえて核心に触れることは言わず、あくまでも本題に掠るくらいのことは言う。

 伽藍は妙に勘が鋭い、ここでもし「何も考えてないよ」なんて言ったら、すぐに真実を言い当ててきただろう。

 羂索に残された時間はあと数日、だがその数日が、どうしようも長く感じた。

 

「あーーー…退屈だ。万、闘るか?」

「嫌よこんな暑いのに。あーー…水浴びたいわ」

「近くに川があるんだけど、水浴びでもするかい?」

「何よ羂索気が利くじゃない!じゃあ早速行くわよ!」

「よし、川の中で闘るか」

「馬鹿じゃないの貴方」

(相変わらずだなぁ…)

 

 だがこれで更に数時間、時間を稼ぐことには成功した。

 どうせ途中でヒートアップして、彼女たちは互いにぶっ倒れるまで戦い続けるだろう。

 その後はどうしようか…と、羂索がぐーっと背伸びをしながら考えてる時だった。

 

「あぁそうだ羂索」

「なんだい伽藍」

「もしや"南"か?」

「………はい?」

「あとでだ、宿儺の正確な居場所を教えろ」

「……」

「どうせ知ってるんだろ」

 

 ――ごめん裏梅。

 羂索は心の中でそう謝罪して、すぐに気持ちを切り替えて、「まぁ仕方ないか」と呟いて、歩き出した。

 

 

 

 

 そして数日後、羂索は裏梅に凄まじい勢いで追い回され、久しぶりに身体を取り換えることになったという。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 11月16日

 pm.16:00

 

「……器から情報は得たから知っていたけど…本当に貴方なのね」

「あぁ、千歳振りか?万」

 

 東京、第1結界(コロニー)

 その積み重ねられた人間の死体、その山で座っていた、かつての構築術式使い――万。

 彼女は再びこの世に黄泉返り、そして1000年ぶりの戦闘を楽しんで、生を実感していた。

 そしてそこに現れたのは、同じく平安の時代を過ごした仲間、伽藍。

 

「面影も…いいえ、あるわね。その…彼に似た目と、暴力的な気配は変わらない」

「羂索も同じようなことを言っていたな。そんなにか?」

「なに?やっぱり今もあいつと仲いいの?相変わらずね」

「……フン」

 

 ドサッと、同じように死体の上に腰を下ろして、その隣に座る伽藍。

 万はその横顔をじっと観察して、そして続ける。

 

「知っているでしょう?受肉体は、その受肉元から記憶を得られる」

「らしいな、私は何故か有耶無耶だったが」

「貴方のことも見たわ、随分よくしてたみたいじゃない?この"器"と」

「あ?」

 

 万は胸に手を当てて、伽藍の顔を下から覗き込むように、鼻と鼻がぶつかる距離まで接近して、その顔を見た。

 かつて同じ時を過ごした少女、その魂が沈み、肉体を奪われた様子を見ても、彼女の顔は変わらない。

 その様子に、万は満足そうに微笑んで。

 

「もしかして腑抜けちゃったのか…なーんて思ってたけど…無駄な心配だったわね、貴方はそういえば、絶対に変わらないタイプの人間だったわ」

「わかっているならそれでいい。で?この雑魚どもでは満足いかんだろう?」

「…何よ、貴方こそわかってるじゃない」

 

 互いに同じタイミングで、死体の山から飛び降りて、そして互いに向き合う。

 呪力が迸り、互いの殺気が空間を断裂させるほどに濃密になって、緊張感が高まる。

 しかしすぐに、万は身体を震わせて。

 

「でもね…私1つだけ許せないの」

「あ?何が」

「私てっきり、貴方が復活するときは老人のままだと思ってた。だって貴方は、見てくれとかに興味なかったじゃない?」

「いやそれは変わらんが」

「嘘よ!!!」

 

 ビシッ!そう勢いよく指を差して、万は今も首を傾げたままの伽藍に、怒りを滲ませて叫ぶ。

 

「何よその身体!何よその顔!!若返っただけじゃなくて…更にリニューアルですって!?」

 

 水すら弾きそうなほど、きめの細かい肌と、卵のように丸く小さな顔。

 見た者を引き込ませる、その赤い瞳は健在のままで、生前より更に若さと美しさによる輝きを醸し出している。

 片肌脱ぎによって、露出度の高くなった戦闘服と、さらしを巻いた腹と胸が纏う、その色気。

 そう、万の女としての勘が、彼女が敵だと叫んだのだ。

 

「許せなかった…恋の相談役として慕っていた相手が…その実一番の強敵だなんて…!」

「何にキレてるんだお前は」

 

 1000年の時を経て、恋する女の嫉妬と戦闘欲が、爆発した。

 だがそのモチベーションは、今までとは少々違うものだったらしい。




 いい加減本編書かないと…
 運が良ければ7日にまた出せるかな…
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