黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 お待たせしました…今回のじゅじゅさんぽを挟み、ようやく本編に戻ります。
 てなわけで明日の7時…めっっっちゃ超気合い入れたシーン出します…期待していてください。


じゅじゅさんぽ.九十九由基

 ――"声"が聞こえた。

 あの大嫌いな、そして同時に憐憫を感じる、同族の声。

 なんと奇遇で、なんて腹の立つことだろうか。

 たとえ1000年前だろうと、その呪縛からは逃れられない。

 

「初めまして、お嬢さん」

「…!初めまして!」

 

 まだ年端もいかない、元気溢れる青髪と笑顔。

 自分が目的とする、最近話題になっている、ある術師。それが拾ったという少女、それが目の前に。

 呪術に身を置く者の、その風習がまだ染み込まず、星のように輝くこの子供の仕草が。

 どうしようもなく、尊いものだと思った。

 

「初めまして、私は九十九由基だ」

 

 そう言って、九十九は目の前の少女と目線を合わせる。

 相手の顔と同じ高さになるまで、腰を下ろしてそう聞くと、少女はニコッと笑って、それに返した。

 

「初めまして!」

「アッハッハ!元気な子は好きだよ。…さて、綺麗なお嬢さん、伽藍…って人は知ってるかい?」

「…?あそこにいるよ?」

「…お母さん。かい?」

「うん!」

 

 話によれば、例の平安術師がこの子供を拾ったのは、偶然なのだという。

 そのことを含め、彼女の周りの話はよく耳に入るものだ。裏の世界でも、常に彼女は注目の的。

 その雄姿も、畏怖されるが故の横暴も、全てが共有されていた。

 ――故に、九十九にはある不安があった。

 

「お母さんね、さっきお兄さんと話してたよ」

「ん?お兄さん?」

「金色で、耳がキラキラしてる人」

「…あ~~~」

 

 少女の言った人物の特徴。それに心当たりがあるのか、九十九は「ゲェ~ッ」と顔を歪ませて、不快さを露わにした。

 禪院家、そして金髪といえば、当てはまるのは1人だけだ。――禪院直哉。あのどうしようもない人でなし、そして反吐が出るほど、男尊女卑の思想に固まった男。

 そんな男が、一体何の用で彼女と話しているのか、そしてどのような会話をしているのか…今の自分には、わからない。

 

「………」

「どうしたの?」

 

 そう、少しだけ舌足らずに言う少女。

 そしてやはり、その瞳はとても美しく、呪いの世界に身を置く自分とは、違うものだと実感する。

 自分が最後に、この目をしていたのはいつだったか。いつか、彼女の言う"母"という存在も、この目の輝きを奪うのだろうか。

 そんなことを、考えていた時だった。

 

「わっ…!?」

「あっ!おいコラ!」

 

 突如。自分の背後で宙に浮かび、待機していたはずの式神が動き出し、目の前の少女に向かって飛行した。

 そして器用に身体をしならせ、シュルル…と、少女の身体に巻き付いて、その柔らかい頬に頭を擦る。

 自身の持つ術式のこともあり、そのいきなりの行動は、九十九にとってはかなり心臓に悪い。

 

「かわい~」

「…いや、マジでどうしたよ君?」

 

 呪具化するまでに生涯を共にし、そして相棒となった式神に、そう困惑の目を向ける。

 しかしその目線にお構いなく、今も少女と戯れる相棒の姿。

 

「この子、名前は何ですか?」

「あー、凰輪(ガルダ)だよ、ナカヨクネ」

「はーい」

 

 恐れ知らずというか、何というか。

 好奇心旺盛で、本来の子供というのは皆こうなのかと、呆れながら、ため息を吐いた時だった。

 

「あっ!お母さん!」

 

 ――"声"が聞こえる。

 あの、忌々しい風習と、そして犠牲に囚われた者の声。

 だが今の自分は、そんな哀れみの感情の、一切を忘れて彼女を見た。

 

「…やぁ、君が伽藍かい?」

 

 ――似ている。

 かつて一目見た時の、現代最強とされる術師、五条悟に似た気配。

 圧倒的。しかしそれを見せびらかすような態度でもなく、あくまでも自然体のまま、その不遜な姿を見せている。

 しかしどこか、浮世へ興味の薄れた、あの瞳。

 ――呪いに染まる、理外の瞳。

 

「ところで…どんな男が好み(タイプ)かな?」

「あ?」

 

 その、心底不快だと言わんばかりの表情までも。

 ――本当に、彼に似ていた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「久しぶりだね、伽藍」

「…またお前か」

 

 あれから1年経った。呪霊の繁殖期に入りかけた、ある夏の頃。

 蒸し暑い、更には風も吹かない負の循環。しかし彼女は相変わらず、その表情を変えていない。

 退屈そうに虚空を見る、強者故の孤独な瞳。

 最後に会った時から、変わらない。

 

「1年ぶりかな、また会えてうれしいよ」

「そうか、何の用だ」

「つれないねぇ」

 

 こちらが話しかけても、相変わらずの塩対応だ。

 九十九が彼女に、自身の望む世界の形…そのプロトタイプである思想を語ったきり、関係は途絶えたままだった。

 呪霊の生まれない世界、単純明快な世界平和の実現。それの反応も、やはりあの時と変わらず、冷たいもので。

 

「お前はまだ、あの退屈でつまらん思想を掲げているのか」

「…マジで変わらんね君は、もうちょい甘くなってもいいんじゃない?」

「論外だ」

 

 唯我独尊。術師らしからぬ、弱者の救済など頭にないこの存在。

 その暴悪な態度。しかし皆が認めるその実力と、彼女と繋がる実力者の関係者たちが、彼女の全てを許している。

 ある意味で、伽藍という術師は五条と同じ、全てを思うがままにする権力を持つ者だ。

 

「上層部はもうてんやわんやさ。理由は知ってるだろう?」

「…?わからんな、何故私にそれを問う」

「おいおいそりゃナシだろ、未来の()()()()様」

 

 特級術師。その言葉を聞いた瞬間、その表情をぴくりと変えて、すぐに元に戻す。

 だがその一瞬にだけ見えた。どこか純粋に名誉を喜ぶ伽藍の表情を見て、九十九はニヤリと笑って。

 

「へぇ~~?随分可愛いところがあるじゃないか?うりうり」

「やめろ離せ不愉快だ」

「アッハイ」

 

 つんつんと頬を突いた指を掴まれ、すぐに声色を低くした様子を見て、すぐに引いた。

 「相変わらず冗談が通じないな」そう、やれやれと言わんばかりに首を振って。

 

「五条くんは元より…夏油くんも君も、これから同じ立場というわけだね」

「あー…まぁそうだな」

「あれ?嬉しくないの?さっきとテンション違うけど」

「…別に」

 

 また、だ。

 あの瞳。五条と似た気配でありながら、決定的に彼と違う、その瞳。

 彼より暗く、彼より禍々しい気配を纏いながらも、孤独に満ちたその瞳。

 

「やっと、やっと宿儺と同じ位になれただけ。この程度ではまだ足りん」

「へー、前から聞きたかったんだけどさ」

「…なんだ」

「君、友達とかいないの?」

 

 ――友達。

 だが、九十九はそれを言い終えたと同時に「しまった」という感情に襲われた。

 孤独な瞳、先ほど見たその光に集中して、彼女の生きた年代を、忘れてしまっていたから。

 そう、彼女は平安出身、故に彼女の知人は――

 

「…友達、か」

 

 だが、その顔は過去を憂うようでも、回想に耽るようでもなく。

 

「さぁな?」

 

 どこか、満足した笑みだった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「初めまして。禪院の子、道真の血、呪胎九相図(じゅたいくそうず)()()()、そして」

 

 ――宿儺の器。

 薨星宮、その最奥。

 辺り一面が白に染まる空間、本殿へ繋がる筈の通路はそこになく、本来侵入者を拒絶する隔離空間。

 しかし、そこにいるのは全知の術師、天元。

 

「…私には挨拶なしかい?天元」

 

 本来の人とはかけ離れた姿。円柱状の頭部、そして彼の男(宿儺)を彷彿とさせる、二対の目。

 その、この国を守る術師…守護者とは無縁の容姿に、九十九以外の人間は困惑しながら、そして彼女たちの会話のいきさつを見守る。

 

「君は初対面じゃないだろう、九十九由基」

「………」

 

 九十九と天元、両者の溝は深く、そして他の者は理解できないもの。

 星の資格を持ち、かつては身を捧げることが至上とされてきた、その立場故の対立。

 故に、その空気は硬く険しく。

 

「…何故、薨星宮を閉じた」

「…羂索に君が同調していることを警戒した、私には人の心までは分からないのでね」

 

 目的も、理由も、その過去も。

 両者の間で繰り広げられる、その不信さを隠さない言葉のやり取り。

 しかしそれでも、九十九は私情を捨て、今必要な情報のみを聞きだす。

 

「羂索?」

「かつて加茂憲倫、今は夏油傑の肉体に宿っている術師だ」

「…慈悲の羂、救済の索か。皮肉にもなっていないね」

「……」

「だが、それだけじゃないんだろう?」

 

 そう言って、九十九は自身の背中に隠れる、もう1人の少女に目を向ける。

 特徴的な前髪、その青のカーテンの向こうで、揺れるように輝く、最初に出会った頃と変わらない、美しい瞳の光。

 その瞳が、怯えたように光が濁るのを見て、それでも天元は続ける。

 

「羂索だけではない。君たちが…伽藍と同調していることも、警戒していた」

「おいおいおい。()()()はともかく、私まで言われる筋合いはないと思うんだが?」

 

 天元は木のようなもの、日本全土に超高度の結界――浄界を貼っているからか、それとは別か。

 この全知の存在は、日本国内で起こったことの大体を把握、理解することができる。

 だがそれでもなお、九十九という存在に警戒をしたのだ。

 

「言ったろう、私は人の心までは理解できない。それに君たちこそ、()()は予想できなかったはずだ」

「……っ」

「ハイそこまで、さっさと理由を話してもらおうか」

 

 青髪の少女が、身体を震えさせたのを知覚し、パンッと、手を叩いて会話を止めさせ、九十九は再び天元を見る。

 その顔には、先ほど以上に露わになった不快感と、「早く話せ」という催促が含まれており。

 

「…では、伽藍について語ろうか」

 

 そう、天元が切り出したことで、話は始まった。

 

「彼女の目的は、皆も嫌というほど知っているはずだが…」

「…両面宿儺の殺害、だろう」

「だが、それだけではない」

 

 九十九の答えに、天元は訂正を加えながら、続けた。

 

「伽藍が望む世界は、血と闘争で満ちた秩序のない世界。しかしそれでは、羂索の目的とは利害が一致しない。あの子の目的は人類と私の同化…同化するための人員が極度に減るのは、あの子からすれば困りものだろう」

「……羂索の目的はなんとなくわかった。だが余計にわからん、それが何故、私たちを拒絶する理由に繋がる」

「利害が一致しないのに、だよ」

 

 羂索と伽藍、両者の利害を超えた関係。

 そう、利害を超えた関係が、天元の違和感と、警戒心を刺激した。

 故に、自分たちもそうなのではないか、と。

 

「死滅回游のことは知っているね、あの子は真人から抽出した術式…無為転変(むいてんぺん)で過去に契約した…大人数の術師を黄泉返らせた」

「…無為転変による、呪物の器を人為的に作る行為。それが?」

「しかしあの子は、それより前から、伽藍をこの世に黄泉返らせた」

 

 ――君、友達とかいないの?

 不意に、九十九の脳裏に浮かび上がる、あの頃の会話。

 

「これだけは、私が予想できなかった行動だ。宿儺の従者だった裏梅はともかく、彼女を優先して黄泉返らせた理由がわからない」

「……」

 

 ――…友達、か。

 

 人の心まではわからない。そう最初に言った天元とは別に、九十九は内心で、全てが線で繋がった。

 

(ひとでなしの癖に…)

 

 利害を超えた関係。

 1000年経とうと、超えようと、決して変わらず今も続く、その答え。

 

 ――さぁな?

 

 あの、どこか満足そうに笑った彼女の姿を思い出し。

 九十九は軽く、舌打ちを零した。




 明日…7時(大事なこと)に出します。
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