黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 滅茶苦茶頑張りました、最後の詠唱はめっちゃ気合い入れました。
 高評価&感想おなしゃす!


18話.懐玉⑦ー挑戦者ー

 目の前で吹き上がる、空高く連なる3本の炎の柱。

 それによる熱波と、辺りに響く他ならぬ、彼女の戦闘を楽しむ笑い声が聞こえてから、羂索は呟いた。

 

「いや宿儺のこと好きすぎでしょ」

 

 相変わらずの執着だ。

 子供のように純粋な憧れと、模倣(コピー)本物(オリジナル)を超えようとするその気概。

 当てつけのつもりだろうか、1000年経っても変わらず執着される、呪いの王のことを考え、羂索はくつくつと笑う。

 

「にしても…」

 

 ――赤。

 あの、黎明を思わせる銀色の髪、それが鮮血を思わせる赤へ。

 紋様もそう、まるで本当に、あの呪いの王に近づき、そして超えようとする彼女らしい、あの変化。

 確かに、あれは正しく――

 

「まさか、君が魔の者になるとはねぇ…天使が見たら発狂しそうだ」

 

 天使。

 かつて自身と同じように、平安の時代に名を轟かせた、腕利きの術師。

 受肉による自我の殺害、そして何より魔の者――宿儺のことを目の敵にし、屠らんと躍起になっていた者。

 驚くだろうし怒るだろう。何せ自身が目の敵にしている存在、それと同一のものが増えたのだから。

 

「ま、()()どうしようもないんだけどね」

 

 そう、伽藍と違い、天使は未だ呪物のまま眠っており。それが解かれるのは、何時になるかはわからない。

 今もこうして、呑気に眠っている間にも、彼女は更に魔に堕ちていく。

 だが契約は契約、いくつか不都合はあるものの、受肉の約束はきちんと果たさなければならない。

 

「でも、近いうちにマーキングは済ませとかないとね」

 

 誰にしようか、その辺の適当な孤児にでも飲ませようか。

 そんなことを考えながら、羂索は再び、フンフンと鼻歌を歌いながら、目の前の景色にのめり込む。

 そしてフッと、こちらにまで届く風が鼻先に当たって。

 

「おっ、耐えた」

 

 炎が消えると同時に飛び出した黒い影、それに目を凝らしてみると、炭を被った男の人影が見えた。

 どうやら、術師殺しもただではやられず、なんとか直撃を避けて防御に成功したようだ。

 しかしそれも、あと数秒しか持たないだろう。

 

「ホント、退屈しないな。君は」

 

 ――彼女なら、宿儺を超えられるだろうか?

 今は無理だ。たとえ若返り、新たな術式をその手にしても、あの最強には届かない。

 だが、あくまでもそれは今の話。宿儺の指を開放し、計画を本格的に始めるのは、まだ十数年後の話だ。

 そして、その時にもし――

 

「面白いのが見れそうだ、思った以上にね」

 

 自分の真の計画。そういえば彼女には、まだ全て話していなかったか。

 いつ教えてあげようか、そしてそれを知った時、どんな顔をするのかな。

 そう、彼女が自分に向けてよく見せる、あの困惑と呆れの混じった顔を思い出して。

 

「さて、これが終わったらマーキング作業を進めるかな」

 

 そう、考えていた時だった。

 

 ――ドクン!

 

 1000年鍛え続けた己の直感が、叫び狂う。

 

「…っ!?なんだ……っ」

 

 なんと荒々しく、それでいて神々しさも感じる存在感。

 ただ呪力を垂れ流し、こちらに向かって歩いてくるだけの姿。

 それが、とてつもなく嫌な予感がして。

 

「……いやいやいやいやいや」

 

 そしてくっきりと見えた、侵入者の正体。

 ――白髪と青い瞳の、その正体を見た瞬間。

 

「…マジでどうなってんだよ君は」

 

 そう、羂索は苦笑いを零した。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 攻撃が止んだ。

 いや、通常ならば良いことである。しかし今の甚爾にとって、その安息は手放しで喜べるものではない。

 そしてそれは伽藍も同じ、今行おうとしていた追撃、術式の使用を一時停止するまでの、異様なプレッシャーがその場を支配した。

 ――青い瞳。

 

「よぉ、久しぶり」

「………マジか」

 

 本日三度目。

 しかし、その声色は今までで一番、どこか哀愁を漂わせたもの。

 喉を貫き、腹から足までを切り裂いて、とどめに脳味噌を貫いたはずの、現代最強の術師。

 五条悟は、死んでいなかった。

 

「反転、術式…!」

「正っ解ッ!」

 

 とんっ、そう軽快な音を立て、頭をこついてケラケラと笑う。

 そしてそのまま数秒、同じ作業を繰り返して。

 

「お前に喉をブチ抜かれた時、反撃は諦めて反転術式に全神経を注いだ」

 

 とんっ、とんっ。

 

「呪力は負の力、肉体の強化はできても再生はできない」

 

 とんとんとん。

 

「だから負の(エネルギー)同士を掛け合わせて、正の(エネルギー)を作る…それが!反転術式!」

 

 とんとんとんとんとんとんとんとんとん。

 

「言うは易し、俺も今までできたことねーよ!だが死に際で掴んだ、呪力の核心ッ!」

 

 ケラケラケラケラ。

 焦点も、情緒不安定に復活のメカニズムの解説、そして自慢。

 三日三晩、徹夜による原子レベルの呪力、術式操作の疲労と、そして襲い掛かった、物理的な脳へのダメージ。

 生まれて初めて成功させた、再生による脳の治癒。その全能感と万能感、そしてこの気配の既視感。

 甚爾はそれを確信する。今の五条は俗にいう――

 

「お前の敗因は、あの時俺を首チョンパしなかったこと…そして頭を刺すのに、あの呪具を使わなかったこと!」

 

 ――ギィイイイイイイ!

 

「…っまさか!」

 

 ()()という状態で。

 

「術式反転…」

 

 その、無下限の収束が膨張し、空間を()()染め上げる

 

「""」

 

 最強。それの目覚め、そして調べが。

 この世界に、産声を上げた。

 

「…おい、五条」

 

 勝負の邪魔をするなとも、後でとも言えずに、伽藍はそれを黙って見ることしかできない。

 無下限による引力と発散による、今始めた空中飛行で、彼は有頂点のまま降りてこない。

 ――だが、その瞳は。

 

「…嗚呼、いい」

 

 まるで、現世のことなど知らないと。

 命も、過去も、贖罪に悔やみも、あらゆる有象無象を切り捨てる、究極の自己。

 世界の中心に自分が立つ、星の枢軸を己の存在に重ね合わせる。どこまでも突き抜けた天上の光。

 嗚呼、やはりと。伽藍が歓喜を抑えられずに、その頬が歪むのを放置していた時。

 再び、辺りに響く鎖の音。

 

「…なるほど」

 

 伽藍は、その音の発生源に目を向けて、そう来なくてはと、頷いて笑う。

 術師殺し。甚爾が再び万里ノ鎖と、先ほど彼を倒した呪具、天逆鉾を振り回し、現れる。

 釈魂刀より身軽、故に強力な貫通力とスピードを纏ったその攻撃が、地面を抉りながら高度を上げて、襲い掛かる。

 それを紙一重で避けながら、五条は。

 

「…ごめん、天内」

 

 一言だけ。たったそれだけを呟いて、彼はすぐに目を向けた。

 疲労と、だが溢れ出す活力と、呪力を抑えずケタケタと笑い。

 そして、"それ"を成す。

 

「あ"ー…今は」

 

 代々伝わる相伝の術式。そのメリットは先人たちの残した、術式の取扱説明書があること。

 

 "九鋼(くこう)"

 

「ただ」

 

 デメリットは、代々受け継がれ、情報として、形として世に残るからこそ。

 

 "偏光(へんこう)"

 

「ただ…」

 

 術式の情報が、漏れやすいこと。

 

 "(からす)声明(しょうみょう)"

 

この世界が心地良い

 

 だが、今五条が放とうとしている"それ"は、五条家の中でも限られた人間しか継承されないもの。

 それ故に、今の甚爾では気づけないもの。

 

 "表裏(ひょうり)狭間(はざま)"

 

「"虚式(きょしき)"」

 

 全てを圧する青の引力。

 全てを均する赤の波動。

 それらが混ざり、作り上げる。

 

「"(むらさき)"」

 

 ――全てを穿つ、紫の閃光。

 

「…嗚呼、本当に、お前は…!」

 

 勝負は、終わった。

 とっさに投げた天逆鉾、しかしそれが間に合わず、術師殺しの肉体を、天賦の身体能力を貫通し、穿った。

 腕は消滅、脇も、腹も抉れた彼の命は、あと数十秒で尽きるだろう。

 しかし、その無常な景色を見ようとも、五条の態度は変わらない。

 右手は上に、左手は下に。

 ――あらゆる道徳を凌辱する、究極の自己愛そのもの。

 

天上天下唯我独尊

 

 そこには確かに、天上の意志が宿っていた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 やっぱり、タダ働きなんてするんじゃなかった。

 大人も、子供も。女男も関係なく、金のために殺して奪った。

 そんな自分には、これが相応しい末路だ。

 

「…最後に言い残すことはあるか」

「ねぇよ」

 

 ――全て。

 

 あの瞳。

 自分が焦がれて、最後の最後まで捨てきれなかった、その存在が向けた、真っ直ぐな視線。

 2回も、それに執着して、自尊心なんて思い出したから、捨てた筈のそれを、再び拾い上げたから。

 

(…自尊心(それ)は捨てたろ)

 

 捨てた筈だ。憧れも、愛も、自分の価値も。

自分も他人も尊ぶことない、そういう生き方を選んだつもりだった。

 ――だが目の前には、文字通り現代最強と成った術師。

 

「…………ァ~、そうだ」

 

 だから、これは軽い意趣返しだ。

 

「2、3年すれば…俺のガキが禪院家に売られる。()()()()()

 

 否定したくなった、自分を認めさせたかった。

 その自尊心のために、普段の自分を曲げてしまった。

 ――その時点で、負けていた。

 

「意味わかんねー…なんで俺がお前のガキを」

「……………」

「…クソ、知るかっての」

 

 甚爾の呟いたその言葉に、五条は少し落ち着きを見せた顔を崩し、困惑を隠さずにそう返す。

 そして一言。言葉を返して目の前で佇む、一度自分を破った男の、その有様を見た。

 

「…じゃあな」

「………フン」

 

 自分を殺した男だ、少女の命を奪った男だ。

 だからだろうか、五条はただの恨みではない、それとは別の哀れみ、戦いを終えた男の感情を覚えた。

 今の自分の目的は少女の在り処だから。

 五条はすぐに、天内の居場所を探すため、甚爾の横を通り抜け、そして駆け出す。

 

「…ハハッ、ザマーミロ」

 

 それを目線で追った後。

 あの、困惑を隠さず声を荒らげた様子。それが、何故かおかしくて、その姿を思い出して、甚爾は笑う。

 抉れた脇腹、そして腕から、血液は今も漏れ続けており、自分の命の終わりを直感する。

 ――その時。

 

「なんだ、お前」

 

 その時。再び甚爾の耳に入ったのは。

 

「やはり術師に成りたかったのか?」

 

 あの、自分が望んだ存在の、納得したような優しい声。

 目の前で相変わらず、あの赤い髪をうならせて、全身に刻まれた紋様をさらけ出す女、

 本来の目と、額で光る第三の目が、淡くその輝きを見せる。

 

「あーわかっている。どうせ呪力が云々、術式が云々の話だろう?さっきも聞いた」

 

 伏黒甚爾、もとい禪院甚爾。

 初めて彼と会った時、そして戦いの中で見せた困惑の表情。伽藍は既に、その内心に秘めた思いに気づいていた。

 彼の生まれを表す苗字と、そしてそこから導き出された答えを知って。

 それでも、なお。

 

「だが、やはりくだらんな」

 

 伽藍は、そう切り捨てた。

 

「お前は、あの家では特異だった。だがそれの何が悪い?お前はあれらより弱かったのか?あれらにいいように使い潰されていたのか?」

 

 その時。伽藍の脳内に映し出されるのは、あの禪院家での一幕。

 皆が興味を持ち、そして見下し恐れる流れ、だがその中で、唯一光っていたもの。

 ――強者である自分を恐怖し、そして畏怖する弱者たち。

 

「獣が獣であることを恨むように、人が人であることを悩むように、矛盾したくだらん心だ。超常に位置するお前が、何故己より下の者に、羨望の眼差しを向ける必要がある?」

 

 禪院直哉は認めていた、そしてその父である、直毘人すらも。

 呪力や術式など、所詮個人を形成する1つの要素にすぎない。それしか見ない有象無象に、何故自分が憧れるのか。

 自分が求めていた特別。既に自分は、その特別から認められていたというのに。

 

「それが嫌なら、全て壊してしまえばよかったのだ。打算も計画もなく、ただ己の快、不快に従ってな」

 

 もしそれを実行すれば、今のような生活は得られなかっただろう。

 常に追われ、そして命を狙われ恨まれる。だがそれでも、自尊心など捨てる必要はなかった。

 だが間違いなく、己のこの感情に掻き回されることもなかった。

 

「お前の手で憧れを潰し、そしてくだらないものと切り捨てればよかったのだ。未来も、全てを捨てて。その思い切りと、何かを掴む己の"飢え"…お前にはそれが足りなかった」

 

 あぁそうだ、結局は逃げるようにあの家を出て、そして今日まで生きていた。

 あの時、気に食わない人間も、家そのものも、全部壊せば、何か変わったのだろうか。

 だが、結局は後の話。

 

「…そうかも、な」

 

 伽藍に挑み、五条に挑まれ、そしてどれも敗北した。

 捨てきれなかった自尊心。それにしがみついた今の自分は、彼女からすれば、それはもう惨めだろう。

 自虐、そして後悔を孕んだため息と同時に、甚爾はそう言葉を返す。

 だが、直哉、直毘人といった者だけでなく――

 

 

 

 

「だがまぁ、お前との闘いは楽しかったぞ」

 

 

 

 

 間違いなく、伽藍も認めていた。

 

「呪霊術師人間…1000年前、私はあらゆる魑魅魍魎と闘い、そして勝利し、名を轟かせた」

 

 ()()()()

 呪力があるから?ないから?だからなんだというのか。

 伽藍にとって、呪力などなくとも、()()の可能性は無限であり、魂を観測する目さえも得られる、才能の宝。

 真の強さ、それは術師も、呪霊といった人外だろうと関係ない。

 

「だがその中でも、お前のような()()は初めてだった」

 

 彼女は、今まで見せた中で一番の、とてもやさしい表情をして。

 

 

 

 

――誇れ、お前は強い

 

 

 

 

 そう、言い切った。

 

「……ハハッ」

 

 呪力のない自分が、術師だと。

 呪術全盛を生きた、正真正銘の術師そのものである彼女が、自分を同じ、呪いを扱う仲間だと。

 術師、そのものであると。

 

「…クク、ッハハハ!」

 

 古臭い風習に囚われ、全盛を呪術を求めた、かつての家。

 そこに住む、自分を蔑んでいたあの男たち。

 それらが、欲しくて止まないだろう言葉を、今。

 

「…ザマァみろ」

 

 嗚呼、本当におかしくって仕方がない。

 血液の流れが乱れ、出血量を更に増やしながらも、その笑いは止まらない。

 そしてついに、正真正銘の終わりが近づいてきたとき――

 

(嗚呼…なんで今更)

 

 捨てた。

 かつての自分を忘れるために、顔も名前も忘れたはずの、我が子の姿。

 本当の終わりが訪れた時、最後に見たのは愛した女ではなく――

 

「…今更」

 

 何故今更、それを思い浮かべたのだろうか。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「…逝ったか、甚爾」

 

 あの、躍動する肉体の気配。

 因果を超えた呪縛による、その存在感が消えたのを最後に、伽藍はそれに近づいた。

 

お、かあさん?

「ほう?これは中々…」

 

 かつて彼の相棒だった。数々の呪具を収納していた格納呪霊。

 それが、主従関係を破棄されたことにより、晴れて自由の身になったからか、甚爾の身体を降りて、這いまわっていた。

 

「お"エっ」

「これはいい、戦利品として貰うか」

 

 呪霊の尻尾を掴み、ぶんぶんと上下に揺さぶって、その体内にあった甚爾の遺品、それらを出す。

 十手に似た刃と、どこまでも伸びる鎖の呪具、それらが地面に乱雑に落ち、そして――

 

「…気に入った。こいつは優先して格納しよう」

 

 鞘のない、柄の部分を茶色の毛で装飾された。先ほど自分を切ろうとしていた呪具。

 伽藍はそれを手に取り、軽く二度振ってその心地を確かめた後、術式を発動した。

 

「さて、あとはどうするか…」

 

 そう呟きながら、自身の背後に発生した黒い光、その渦の中心に刃を差し込み、そして収納する。

 第二の術式、時空間転移理論(ワームホールパラドクス)による、無機物の半永久的な格納空間。

 自身の作り出した空間に、戦利品が完全に収納されたことを確認し、満足そうに笑った後。

 再び、目の前で眠る男の顔を見る。

 

「…今更、か」

 

 最後に彼は、誰を想って呟いたのだろうか。

 

「女か?いやそれとも…そうか、先ほどの五条との会話は…」

 

 自分とは違う、正真正銘血の繋がった実子。

 どれほどなのだろう、今際に思い出してしまうほどの、その呪いは。

 

「今更。そうだ今更か」

 

 しばらく、その言葉を繰り返し呟いて。変わらず、フンと笑って歩き出す。

 ――(宿儺)ならば、知っているだろうか。

 この世の誰よりも、人の心を理解し、そして踏みにじる呪いの王なら――

 

「さぁな」

 

 だが、1つ言えることは。

 宿儺はともかく伽藍は、それの存在を知ってはいるが、あくまでもそれだけということ。

 ――その本質も、真の価値も。

 

「私はそれ()を知らん」

 

 伽藍は未だ、それを知らない。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 こつ、こつ、こつ。

 

「私のこの姿には、見た目以上にある変化があってな」

 

 ――誰に話しかけているのか。

 傍から見れば、伽藍は今、独り言を呟きながら、ただ歩いているだけに見えるだろう。

 しかし、この会話を聞いているのは、伽藍以外に1人いる。

 

「呪力出力も、生前よりも少し上がってな。…待て、これは若返ったからか?まぁいい、とにかくだ」

 

 目の前にそびえ立つ、その巨大な枯れ木。

 その、根元から感じる気配。それに目を向けながら、伽藍は続ける。

 

「複雑な結界術は、単純な呪力や術式では突破は難しい。天使のような、特攻を持った技でもなければな」

 

 ――薨星宮、本殿。

 全てが終わり、無常に散らばる、星漿体の少女の血痕。

 それを踏み越え、そしてこの最奥で見ているであろう、その存在に向かって、笑う。

 

()()から引きずり降ろしてやる」

 

 伽藍は術式を発動。そして地面に向かってそれを向け、ある行動に出た。

 猛り狂う呪力の奔流、そして展開された液状筋肉が、1つに纏まり凝縮され始める。

 

禍津日(マガツヒ)

 

 ――呪術を極めることは、()()()()()()()こと。

 

「"三雀羅(みじゃくら)"」

 

 大地を焦がす灼熱の光、天さえ燃やす紅蓮の嵐。

 捻じれ、混ざり、そして圧縮される膨大なエネルギー。

 それらが集い、伽藍の目の前で、更に炎を練り上げながら、全てを破壊する球体が顕在化する。

 

「"正鵠(せいこく)"」

 

 目の前でうねる、赤く輝く球体が、更に躍動…膨張し、そして無理やり抑え込まれ、その反発力を高めていく。

 呪詞(じゅし)掌印(しょういん)といった、術式を構成…あるいは発動させるまでの手順を、いかに省略できるかで、術師の腕は決まるもの。

 ――だが伽藍は、それら一切を省略しない。

 

「"狭間石(はざまいし)"」

 

 呪詞、掌印の2つをあえて使用。そして儀式として昇華し、呪術の効力をより強く練り上げる。

 伽藍が今放とうとしている"それ"は、通常ならば威力が足りず、目的を達成するには不十分なもの。しかしそれはあくまでも、手順を省略した…簡易的な発動をした時の話。

 儀式による効力の上昇。しかしそれでも、精々得られる向上の恩恵は、110%ほどが限界だろう。

 ――だが、この闘鬼は違う。

 

「"(よい)火祭(ひまつり)"」

 

 儀式だけでなく、伽藍本人の身体強化を、"それ"に注ぎ込むことでの、無理やりな威力の倍化。

 ただでさえ、ギリギリだったその膨張を更に、無理やり上から抑え込み…破壊力を上げる異常な行動。

 本来ならば有り得ない、術式仕様を無視した威力の足し算。並みの術師ならば、まともに威力を増幅できず、呪力が枯渇するその戦法。

 ――しかし伽藍は、自身の膨大な呪力量と、()()()()()でそれをカバーしていた。

 

「"水鏡(すいきょう)残花(ざんか)"」

 

 呪いの王(両面宿儺)に匹敵する、その圧倒的な呪力出力。

 そして呪詞、掌印。昇華された儀式による、底上げされた増加効力。

 ――それらと共に、一切の手順を省略せず放つ。

 

(ごく)()(ばん)

 

 ――2()0()0()%()()

 

(ムクロ)

 

 ――超高密度の、穿通(せんつう)の一撃。

 

 

 

 

 薨星宮の地下に展開されていた、数千もの空性結界。

 それらが突如、外部からの衝撃に反応し、身を守ろうと活動を始める。

 少しでも衝撃を逃がすため、そして結界の崩壊を守るため、それらに付けられた循環機能が暴れだし。

 ――そして一瞬で、数千の結界が全て破壊された。

 

「嗚呼…変わらんな」

 

 カシャアアア…そう硝子の割れたような音と共に、侵入者は笑って身を乗り出す。

 全身に刻まれた紋様と、赤い髪。それらがその存在感を、嫌というほど活性化させる。

 

「ここは相変わらず埃臭い。犠牲と傲慢と…生き汚い、偽善の匂いがするな」

 

 伽藍は、目の前で腕を組み、こちらを見つめるその存在に。

 

「久しいな――天元」

 

 ニタリ。

 そう歪に歪んだ表情と、そして心底馬鹿にしたような声色を隠さずに、そう言った。




 解説
極ノ番 躯(むくろ)

 詠唱
"三雀羅" "正鵠" "狭間石" "宵の火祭" "水鏡の残花"

 術式で作った筋肉をぎゅうぎゅうに圧縮し、その反発力を一方向に集中し放つ極ノ番うずまきのような技。
 しかしあちらと違い、発動には自分の呪力を使わないといけないのと、貯め時間を増やすことである一定まで威力が上昇していく違いがある。
 そして裏技として、あくまでも作る筋肉は自身の身体の一部、つまり自身の強化出力の恩恵をそのまま受けられるということ。
 それにより、本来は決まっている圧縮の限界値を自身の出力が高ければ、それをゴリ押しで無視し圧縮のレベルを上げることができる。
 これにより、術者依存の呪力出力による足し算で、時間さえかければ数十倍にまで威力をあげることができる。
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