黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

29 / 42
 超急いで書いたのでかなり雑です、これから加筆修正していきます。
 そしてお待たせしました…これで過去編は終了、次回にじゅじゅさんぽを挟んだ後に本編投下します。
 めっちゃ気合いいれます、滅茶苦茶盛り上げるつもりなので、楽しみに待っていて下さい。


想起.星の失格者③ー日と月ー

 ジジジ…

 

 耳鳴りはまだ止まない。止んだと思っても、それがただの勘違いだったかのように、再び頭が割れそうになる。

 音。

 

 ジジジ…

 

 今日はずっとこうだった?いや多分、少しだけ止んだ時間があったかもしれない。

 わからない、もうこの頭に響く、不快な音が当たり前になったからかもしれない。

 あったはずの安息も、本来の自分も思い出せない。

 

 ジジジ…

 

 いや、確かこれが止んだのは…

 

 ジジジ…

 

 水、そこに落ちて――

 

 

 ジジジ…

 

 

 沈んだ時。

 

 

 

 ジジジ…

 

 

 

 ――意外と温かい。

 

 

 

 ●に沈んだ時。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「魂って何なんだろうな」

「…どうしたの、いきなり」

 

 背中が痛い。

 それはそうだ。まともな敷き布もなく、衣服越しとはいえ、砂に寝転ぶのは楽ではない。

 痛いのかくすぐったいのか、どちらともいえない不快感。それに顔を顰めながら、少女は聞き返す。

 

「なんだっけ、あいつらがいつか言ってた…魂を清める?とかそういうの」

「…あぁ、あの寒くてつまらない作業ね」

「あー、あれホント嫌いなんだよな、私もやったけど」

「…なにそれ初耳なんだけど」

 

 ()()()()

 それを神聖なる泉と祈りで浄化し、その身を"あの御方"――天元に捧げる儀式。

 星漿体という時点で、既にその身は天元と同一、適合者としては何も問題はなく、儀式をする理由がわからない。

 それなのに、何故自分はあの儀式で――

 

「肉体と魂…その関係性はよくわからない…が、無関係ということもないだろうな」

「…どうして」

「私がそうだから」

 

 何が"そう"なのだろう。

 少女は何も変わらない、彼女の様子に疑問を抱いて、その横顔を見た。

 その表情はいつものとは違う、どこか達観したかような、薄い笑み。

 彼女は自分の髪を持ち上げ、月に照らしながら、輝くそれを少女に見せて、言った。

 

「私は、最初からこんな髪じゃなかった」

「…待って、じゃあなんで」

「お前とは逆だった」

 

 ジジジ…

 

 美しい、そう感じて今まで、ずっと彼女の存在そのものを証明していた髪。

 それが偽りだと知ったから?違う、この耳鳴りの正体は――

 

「人攫いにあったのは」

「それは偶然。前に銀髪の子供が攫われた事件があっただろ?あれとは別だ」

「…そう」

 

 ジジジ…

 

「祈り?が原因かは知らん。だがあいつらの言う、魂がどうのこうの儀式をやってから、私はこんな髪になった」

「…なん、で」

「だから、私はずっと聞きたかったんだ」

 

 あの、耳鳴りが鳴った場面。

 祈りの儀式、水に浸かる時、ある限られた時にだけ、それが一回り激しくなった。

 

「お前…」

 

 あの、違和感の正体は。

 直感。しかしそれを、少女に教えてくれたのは。

 

「元の髪は何だったんだ?」

 

 魔に染まった、他ならぬ自分の魂。

 

 

 

 

 思い出す。

 

 

 

 

 ――意外と温かい

 

 

 

 

 血に沈んだ時。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「魂は肉体に付随するものです」

 

 肉体は所詮部品。

 その本質は、個人がそれぞれ持ちうる魂、そしてその情報のみなのだと。

 目の前で、そう喋る召使い、その顏を隠す布が、ゆらゆらと揺れる。

 

「あの御方に捧げる肉体…そう、肉体は所詮肉体ですが、あの御方なら別なのです」

「……そう」

「だから私たちは最初、あなたを見つけてとても興奮しました。…最初だけは」

 

 あの、美しい銀髪も、少女たちの世界を照らした月もない。

 逆戻り。またあの、息苦しくて退屈な、木造と悪意に満ちた屋敷。

 銀髪の彼女は、もういない。

 

「魔に染まったあなたの魂…必死に削ぎ落しました。その影響でしょうね、記憶も髪も変わったのは」

「…あぁ」

「しかしもう用済みです」

 

 一転。今まで随分よくしていたくせに、まるで汚らわしいものを見るかのように、顔を顰めて見下す彼女。

 布で顔は見えないが、その顔がどのように変形しているかは、その声の抑揚で分かる。

 

「その点、彼女は素晴らしかったですね。何せ私たちが必死で育てたあなたより…資格をお持ちでした」

「…資格、か」

「えぇ、とても光栄なことに。あなたと違って」

「…くだらん」

「あなたと違って」

 

 二度、まるで親が子に言い聞かせるように、まるで戒めるように。

 

「同化は果たされました…あとは好きなようにしてくださいな、失格者さん」

「…そう、か」

 

 少女の約束。

 結局それは果たされなかった。いやむしろ、勝負が成立していない。

 同化をさせず自分を守る、確かにそれは守られたが、少女はそんなことを願ってはいない。

 

「私の勝負はどうなる」

「はぁ?なにを…」

「答えろ。私は天元と同化する予定だった、それを防ぐのが私の――」

「あははははははは!!!」

 

 笑う。

 

「勝負?何を言ってるんですか?まさか本気で、同化を断れるとでも?」

 

 哂う。

 

「全くこれだから…頭の方も魔にやられたのですか?いい機会なので教えてあげましょう…」

 

 嗤う。

 

「天元様は偉大な御方…自身の危機を防ぐため、その程度の不都合はねじ伏せられます」

「………」

「あの御方は…作ったのですよ、運命を。因果を!」

 

 誰が、どのように生きようと関係ない。

 それを嫌がろうと、それを静かに受け入れようと、そこに対した差は存在しない。

 己の勝負は、天元の手によって意味の無いものへ成り下がられた。

 

「己と星漿体…そして六眼に結び付く因果。あなたたちが愚かにも、結んだ約束や勝負など知ったことではありません」

「…」

「勝負なんて、成立していなかったのですよ」

 

 ――私を助けてくれる?

 "それ"を言った時、まだ少女の魂は戻らず、少女とは言えない別の何かだった時。

 あの時、それを言った時の心境はどうだったか、何を望んで、何を求めてそれを言ったのか?

 ――嗚呼、そうだ勝負だ。

 

「…くだらん」

 

 あの、子供だから成立した約束。

 子供だからこそ、真実に気付けず結んだ誓約。

 だがその実態は、所詮定められた因果の下で作られたもの、故に何の意味もない。

 

「お前も…」

 

 相変わらずの、顔も見えないこの召使い。

 気配はまだある。どうやら同化が果たされご機嫌なのか、屋敷内に全員が集まっているらしい。

 

「私も…」

 

 いいように扱われ、危うく本来の自分を殺されるところだった。

 なんて情けない、そしてなんと哀れで醜い、弱者に成り下がった自分。

 ――そんな自分を愚かにも、助けようとした。

 

「お前も」

 

 あの、月のように笑う彼女。

 だがもういない。彼女はもう天元の、天元そのものと成り、個人としての我は消えた。

 ――腹が立つ。

 

「私の勝負を、お前たちは…」

 

 彼女のことなど、もはや今はどうでもいい。

 今、少女の心に会った感情は、悲しみでも憎しみでもない。

 たった1つ、確固とした感情。

 

「…不愉快だ」

 

 そして彼女は"それ"を使う。

 削れた魂が復元され、そして元に戻ったが故に、再び使えるようになったそれ。

 彼女の身体に刻まれた、呪いの力が名を持って、再臨する。

 

 

 

 

禍津日(マガツヒ)

 

 

 

 

 魔の者は、こうして再び黄泉返る。

 

 

 

 

 記録 ■■■■年書記

  ■■■■■属地 ■■村(現・■■■町)

 

 事件概要

  星漿体の同化、それを邪魔しようと企む呪詛師の排除。

  呪詛師は逃亡。無事同化は成功し、進化は無事止められた。

 

 

 

 

  それと同時に起こった、ある事件。

  都も北家の息もかからない、ある山奥に隠された、小さな屋敷で起こった大量殺戮。

  その屋敷内は、天井から縁側の裏側にいたるまでが、臓物が染み込む地獄絵図となっていた。

  あまりにも荒唐無稽。しかし何故そうなったのか、何故「荒唐無稽」と呼ばれ、忌まわしいものとして扱われているのか。

 

  そこにいた使用人たち、そしてそこで生きていたとされる、星の資格を持った少女たち。

 

  彼女たちはどこに行ったのか。

 

  彼女たちはどのように生きていたのか。

 

  これらの記録は、一切が破棄されている。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「………クソ」

「おはよう伽藍、随分嫌そうな顔してたけど」

 

 ――日。

 目を開ければ、あの頃見た満月とは違う、肌を焼くような明るい太陽。

 そしてそれを覆うように、寝ている自分を覗き込む、特徴的な前髪と、五条袈裟。

 その、胡散臭い顔に安心感を覚えながら、伽藍は話しかける。

 

「…()()、その恰好はどうした」

「ちょっと野暮用でね、今ちょうど帰ってきたところさ」

「…熱くないのか?」

「あぁ、以外と平気」

 

 ()()()

 一瞬、男の名を呟くときに、その額に残る縫い目を見た後、周りをぐるっと見渡して、そう返す。

 あくまでも皮。この旧知の男の名は、今手を組んでいる彼らにはまだ教えない。

 あくまでも計画のため、信頼関係など、どこにも無い名前のやり取りだが、例外なのは今いない、白髪の術師を含めた3人のみ。

 

「真人は?」

「散歩だ、あいつは気分屋だからな」

「なるほど、じゃあまだ時間かかりそうかな」

「羂…夏油、お前漏瑚は?」

 

 この名前は慣れないな。そう心で零しながら、伽藍はこの男に焚き付けられ、無謀に戦いを挑んだ呪霊のことを思い、ニヤニヤと笑う。

 どうせ手も足も出せず、仲間に助けられて来るのだろうと予想し、目の前に泳いでやって来た、その仲間の呪霊の頭を撫でながら、言う。

 

「ぶぅー?」

「…こんな見てくれでなぁ…呪いというのは本当に面白い」

「あ、それ漏瑚の前で言っちゃ駄目だよ、うるさいから」

「はー…面倒臭いなアイツ」

「"真の人間"らしいからねぇ」

 

 目の前の海で、ぷかぷかと漂う赤い呪霊。

 蛸のような見た目だが、そのサイズはかなり大きく、愛くるしい見た目とは別の、威圧感を与えてくる。

 たとえ呪胎とはいえ、間違いなく特級に区分されるその存在。

 

「ハッ。よく言うな、呪霊の分際で」

「ぶぅー!ぶぅーーっ!」

「あらら、陀艮怒っちゃった」

 

 陀艮と呼ばれた呪霊が、伽藍の言葉に反応し、声を荒らげて反抗する。

 その様子を見ても、2人は何も怖がらず、むしろ面白がってケラケラと笑う。

 そして、そんな愛くるしい見た目をしている呪霊が作る、この広々とした空間を、もう一度見渡して。

 伽藍は、先程の夢を思い出して。

 

「…嫌な夢を見た」

 

 そう、不快そうに呟いた様子に。

 夏油と呼ばれた男は、目をぱちくりとして。

 

「珍しい…一体どんな夢を?負けた夢でも見た?」

「それの方がまだマシだ…最初の同化と言えばわかるか?」

「あ、そういう…」

 

 その言葉を聞いて、夏油は顔を歪めて「げぇーっ」と言いそうに、顔と腕の両方で表現して。

 その後、どこか彼女らしくない、彼女の気配を察知して。

 

「…伽藍?」

 

 伽藍は、目の前で変わらずに、ぷかぷか漂う呪霊を見つめ。

 その後、彼以外に誰もいない、今のこの状況を把握して、陀艮にも聞こえない、静かな声量で、続けた。

 

()()。お前の話を聞かせてくれ」

「…いいけど、結構長いよ?」

「あぁ、構わん」

「何の話にしようか、契約した術師の話でもする?」

「いいや」

 

 伽藍は、もう一度顔を合わせて。

 今までの、あの不快感から目を背けるように、腕を組み直してから。

 あの、耐え難い屈辱を忘れるかのように。

 

「…今は、お前の話が聞きたい」

 

 まるで日のように、輝いた顔を見せて、そう笑って言った。




 選ばれたのは月だった。
 そして皆様、お待たせしました…次から本編軸に入ります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。