黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 作者「ボケーッ。繋ぎの場面、書いとけ言うたやろうが」
 作者A「おいっ。コーヒー買ってきてくれ」
 作者「なんじゃあ、この汚い描写は」
 作者B「あのう、戦闘シーン見せましょうか?」
 作者C「新しい設定はりますか?」
 作者「そんな余裕あるかあ」
 作者B「あのう、戦闘シーン見せましょうか?」

 予約投稿数時間前の、自分達との壮絶な会話である。


19話.懐玉⑧ー呪胎戴天ー

「久しいな、天元」

 

 未だ修復の間に合わない、崩壊した結界の縁に腰かけて、赤い侵入者はそう言葉を投げかける。

 笑い。見下し、そして侮蔑の入り混じる視線と声色を混ぜながら、しばらく見つめてから、そこから飛び降りて。

 その、同心円状の3つの目を、ギロリと向けて、侵入者は――伽藍は言う。

 

「相変わらずのようだな、弱者の庇護と調停に甘えた…その醜く無様な生き方は」

 

 一斉に破壊された空性結界、それらが時間を掛け、瞬く間に修復されていく様子を、一瞬目線を向けて認知する。

 数個ならともかく、数百もの複雑な、それも結界術の頂点の1つでもある空性結界を、マニュアル操作で並列に行う存在。

 その、相変わらずの化け物ぶりと、同時に"甘えた"その行動に、伽藍は顔を顰めた。

 ――自分への警戒など、まるでしていないかのような態度。

 

「だが…嗚呼そうだ」

 

 そうだ、今はそれより、もっと優先することがある。

 目の前で腕を組み、こちらを見つめる全知の術師、天元。

 ――その、人間からかけ離れた御形を見て、伽藍は。

 

「クッ…クヒッ!クヒヒヒ…!」

 

 一瞬、その姿を見た時の硬直、そして次第に興奮が落ち着き。

 今一度冷静に、目の前の存在がどんな姿をしているのかを理解して、伽藍は笑う。

 

「クハハハハハ!なんだ天元、その間抜けな面は!?」

 

 灰色に染まる、円柱状に伸びる頭部。

 本来ある筈の黒目は存在せず、その純白に染まる二対の目が、こちらを見つめる。

 ――この気配、そして4つの目。

 

()()は、お前が望んで成った姿か?いいや違うか、だとすれば皮肉なものだ」

 

 嗚呼、実に惨めなことだ。

 1000年以上己を犠牲に、この国と人間の為に身を投げ出して守ってきた存在。

 それの終わり、術式による肉体の進化が辿り着く先は――

 

「…まるで宿儺のようだな」

 

 魔に染まり、あの平安の世を地獄にした鬼神。

 結界術の究極、浄界を数多に展開し、呪霊の発生と弱体化に勤しむ守護者。

 相反する立ち位置にいるはずの存在、だがその終着は、結局同じということか。

 ――嗚呼、なんて愉快なことだろう。

 

「そういう君こそ、あの頃と比べて随分変わったじゃないか」

 

 伽藍の挑発、しかしそれに対して、天元は特に反応を見せずに返す。

 姿形が変わろうと、やはり変わらないなと、伽藍は舌打ちを零し。

 

「話題を逸らすな、相変わらず説法を垂れ流すのが好きみたいだな、お前は」

「…君がここに来た理由は知らないが、まさかこのまま帰るわけでもないだろう」

「あぁ、今は気分がいい…そうだな付き合ってやろう」

 

 ――カシャアアア…

 伽藍、そして天元の2人が同時に腕を振るい、純白の壁と、崩壊した瓦礫のアンバランスな空間が捻じれ、変化する。

 無機質な廃墟は、たちまちモダンな雰囲気を纏った、灰色のソファーと木目調のタイルで彩られた、現代の部屋へと。

 空性結界、結界術の応用の1つで、2人はそれぞれ衣装も変えて、そして続けた。

 

「飲むかい」

「遠慮なく」

 

 最初に着ていた、白の礼装ではなく、灰色のシャツと黒いズボンを、そしてそれらを引き立たせるように調整された、更に深く、光を吸い込む黒のコート。

 天元はそれを身に着けて、モダンなこの部屋に合った空気を作り出して、伽藍に問う。

 

「君は…」

「舐めるな」

 

 対する伽藍も、それに抵抗する形で衣服を調整。重厚さのあった着物を捨て去り、すらりとした足が露出する、視線を集める黒のミニスカートへ。

 そして首元を隠すように襟を伸ばし、少し手首が隠れるよう袖の調整された白のシャツ。それらを身に纏って、天元からグラスを受け取った。

 

「受肉…いや、これはあの子の入れ知恵かな」

「現代の服装も悪くはない。まさか、引きこもりのお前もするとは思わなかったが」

「これでも、色々見てきたからね」

「…フン」

 

 ゆらゆら。グラスの中で揺れる、青く光る美しい液体。

 空性結界によって作られた、所詮は呪力と、結界による演算コードが生み出した、実体のある幻、偽りのものだ。

 ミニスカートが揺れる。伽藍は天元から受けとったそれを手に、足を組み直しながら、この偽りの世界に意識を溶け込ませる。

 全ては結界術による偽物。だがそれでも、そこには至高の美があった。

 

「所詮お前(天元)が作ったもの、と…切り捨てるのは簡単だ」

「安心するといい、毒を君に盛る度胸もないしね」

「ほざけ、そもそも反転術式が使えるから意味ないだろうが」

 

 別に、今更この腑抜けに、自分を害する力がないことは見るまでもない。

 伽藍はそう確信している。守護に徹した天元に対して、直接的な戦闘力による妨害など、警戒するだけ馬鹿馬鹿しいものだからだ。

 実際今もこうして、元気に自分の隣に座って、グラスを呷る天元の姿さえ、本物ではない。

 本来ならば天元は、薨星宮本殿のあの大木の中で、死体のように丸まって()()()いる。

 

「呑気なものだ。私に殺されるのが怖くないのか?」

 

 伽藍が先ほど行ったことは、呪術界に敵対しうる行為だ。

 上層部と結んだ縛りのこともある。もし天元がその気になれば、上層部に口出しをする形で、伽藍の行動を縛りの罰に当て嵌めることもできる。

 だが天元はそれをしない。どういう理屈か、現世に強く干渉しないこともそうだ、どういう線引きがあるのかは知らないが、天元には天元の考えがある。

 そして何より、今こうして自分自身が、同じ空間と席にいるというのだから。

 一息。

 

「君は、相変わらず乱暴だね」

 

 向けられた殺意、呪力と熱といった圧力をその身に受けながらも、天元はあくまでも軽くそう返す。

 自身の防衛も、身動ぎの1つも見せず、あくまで諭すように、やれやれといった態度で。

 何も恐れず、あくまでも自然体で。

 

「君が黄泉返ったことは見ていた、あの子と縛りを結んだのだろう」

「…あぁ」

「君の目的は、あの頃から変わらないのかな」

「おい」

 

 待てと。伽藍はより強く眉間に皴を寄せて、歯軋りをしながら会話を止める。

 ずっと昔から、相変わらず変わらないこの仕草。この達観した態度と、自分の全てを知っているかのように諭すような口の利き方。

 伽藍は、これが大嫌いだった。

 

「ふざけているのか?」

「ふざけてないさ」

 

 ――ギヂリ

 一般人ならば秒も持たず、即失神と失禁をしてしまうほどの、濃密な死の匂い。

 血管が浮き上がり、その表情から"不快"以外の感情が消え失せ、そしてスン…と無表情に戻る。

 伽藍は、ゆっくりと手のひらを向けて

 

「"(ユウ)"」

 

 右手の人差し指、そして中指を拳銃のように見立て、天元に向かってそれを向け、そう呟くと同時に、術式を発動する。

 禍津日(マガツヒ)による筋線維の生成、それが瞬きする間に広範囲に根を伸ばし、そしてワイヤーのように、硬く張り巡らされた肉の触手が、辺りを覆いつくす。

 だが、それら全ての触手には、伽藍の莫大な呪力出力による、絶命の一撃が込められている。

 

「…前より強力になっているのか」

「狸が、お前の目的に気づいていないとでも?」

 

 空中で連結し、天元の首を狩るかのように配置された肉の触手。

 それらが呪力特性による熱で、更に熱く輝くと同時に、伽藍はそれを更に、天元の首に向かって近づける。

 

「お前が。私を星漿体の護衛への参加を認めたのは、私に対する当てつけか?」

「………」

「私にも、同化を止めさせようとでも?」

 

 ――くだらない。

 実にくだらないことだと、伽藍は呆れを込めた息を吐いて、両手を上に向けた。

 その目には、先ほどの敵意が少し薄れ、失望の色がより強く写っていた。

 

「馬鹿馬鹿しい、そしてどこまでもお前は愚かだ。私の何を見てそう思う」

「1000年前の、あの同化ぶりだね。私()()がこうして会うのは」

「あ?」

 

 同化とは文字通りの合体。星の資格を持った者と、天元が同一の存在となり、肉体と記憶が合成される。

 つまり、今の天元の中には、薄れてはしまったものの、確かにあの頃の――

 

「気色の悪いことを言うな、私の知り合いに、勝負を捨てた腑抜け者はいない」

「腑抜け…か」

「あぁ、お前は腑抜けだ」

 

 ――あの、勝負の約束を結んだ少女。

 

「そして天元、お前は…」

 

 そして、再び変化する空性結界。

 モダンな空気を醸し出すリビングが、瞬く間に純黒の空間に変化し、その天井を赤い炎で埋め尽くす。

 肌を焼かれそうになるその温度と、自身の記憶を刺激する光景に、天元は身体を強ばらせる。

 この熱は、天井にある炎のものか、それとも――

 

「…この子()も、申し訳ないとは思ってる」

「なぁ、天元」

 

 ――ズシンと、空気が更に重くなる。

 その、禍々しく光る目が、暗闇の中で、赤く輝く呪いの目が、天元の全身を鋭く貫く。

 そこには、純粋なある疑問。

 

「あの日、全てを忘れて削られた日々」

 

 自身の記憶、歴史を忘れ、いいように飼い慣らされていたあの時代。

 ――だがそれでも忘れなかった。"勝負"という自身のオリジン。

 伽藍という人間を彩る、その背景。

 

「…いや、それはいいか。しかしもういい加減、お前の的外れな懺悔は充分だ」

 

 ――天元はわかっていなかった。

 何故、伽藍は自身を憎むのか、何故これほどまでに怒っているのか。

 そして何より。

 

「お前は私を、どれだけ侮辱すれば気が済むんだ」

 

 ――伽藍という人間の、歪んだ価値観を理解できていなかった。

 

「君のことはよくわからないな」

「当たり前だ。私のことを知るのは私だけ、私を理解するのは私だけ」

「…あの子もかい」

「羂索…は、むしろ近いか?いやどうだろうな」

 

 誰にも語ることはなかった、伽藍という人間の価値観の全て。

 彼女を敬い、恐れる者、彼女を憎み、怒る者。

 そしてかの呪いの王と、唯一隣に立つ友でさえ、伽藍という存在を知らない。

 ――まだ、その口から漏れていない。

 

「"勝負"というのは、人間に限らず。生命が持ち、そして自ら忌避するものだ」

 

 再び、空性結界にヒビが入り、その空間が新たに染め上げられる。

 その景色は、先ほどの熱く燃える、あの禍々しい世界とは違う。

 それは、辺り一面凪の水面。

 

(よろず)が言っていた…"戒律と、それから来る憎悪では愛を超えられない"…それは確かに、ある意味では正しい。だが私は違う」

 

 そうして紡がれる、伽藍という人間の本音。

 一歩、足を踏み入れる度に、モダン風の衣類が黒く光り、そして別の姿へ変化する。

 

「戒律も、人の善意も。全ては"原初の闘争"から始まったものだ」

 

 純白に輝く白のベールが、伽藍の身体に纏わりつき、そして修道女を思わせる形へ。

 全身に刻まれた紋様が、赤く光を放つ長髪が、全てが変化し、元の姿へと戻る。

 

「"何かを食べたい"…"何かが欲しい"…"何かを何処か遠くにやりたい"……その"何か"に対する、物欲や色欲、食欲…悪意といった個人の求める願望がぶつかり、そして"闘争"は生まれる」

 

 月。辺り一面に広がる凪の景色が、空に浮かぶ月を映し出す。

 天元は未だ静かに、目の前の、かつて星の資格に踊らされていた少女の、今を見る。

 しかし、その姿には。

 

「約束、ルール…戒律に法律。それはいい、だが私が許せないのはただ1つ…"闘争"だ!嗚呼くだらない!闘争を封じた世界など、大人数の善意によって成り立つただの歯車!そんな人生、何が楽しいというのだ?」

 

 足を踏み入れ、水面に波が生じて月が歪む。

 ばしゃっ、そんな耳を癒すような音も、この演説の前では何の役にも立たない。

 どこまでも自分勝手で、強者に位置する自分しか興味のない、そんな思想。

 

「闘争こそ、この世で最も厳守されなければならない権利だ。逆恨み、私怨の復讐。そしてそれらが生み出す第二の、第三の悪意と報復の歴史…人はそれに適応し、再び闘争の意を取り戻す」

 

 水飛沫が舞う、伽藍は踊る。

 赤から戻り、その美しい銀髪が、水と共に宙で踊る、幻想的な風景。

 だがその美しさとは裏腹に、彼女の目はあまりにも、おどろおどろしい赤で染まっていた。

 

「闘争…勝負こそ人間の華。そして私の人生は勝負であり、勝負のもとに、全てが決まる」

 

 魔の者の証明である、その全身に刻まれた紋様を消して、完全に元の姿へと戻る。

 そして伽藍はその右手を前に、そして握って続ける。

 

「両面宿儺を超えるため、私に真の意味での敗北は許されない。故にだ、私はお前の因果が憎い」

 

 ギリィ…骨が軋んで音が鳴るほど、その右手が硬く握られる。

 そしてその握力以上に、伽藍は全身から呪力を放出し、呟く。

 

「私の望んだ勝負を、決着をお前は侮辱した。勝つことは勿論、敗北による不利益の許容も、私は飲み込んでやるつもりだった」

 

 ――だが、実態は違った。

 

「何が因果だ、何が六眼だ。私の望んだ勝負の行く末は、最初からお前の手で決まっていただと?」

 

 因果の介入。それこそが、伽藍という人間が唯一、認められずに怒りを向けた理由。

 勝負を誰よりも尊重し、重要視する彼女という人間が、自分で決めたはずの勝負に、天元という第三者の介入があったことに気づいた。

 

 ――その怒りは、何事にも変えられないものだった。

 

 もしもあの時、伽藍が盤星教の人間に負け、天元と同化することになったとしても、伽藍は全てを受け入れた。

 敗者として、あらゆる要求や辱めを受け入れ、そして黙って死んでいただろう。

 天元が唯一、伽藍を誤解していたのは――

 

お前(天元)も、お前(星漿体)のことも…」

 

 伽藍は最初から。

 

()()()()()()()()

 

 彼女(星漿体)のことなど、最初からどうでもよかったこと。

 

「…君の闘争についての思想はわかった。だがそれはあくまで、闘争についてだけ」

「あ?」

「君は、何故戦う」

 

 ぴちゃん、舞った水によって濡れた髪と、純白の布が重みを増して、水面に再び波を作る。

 その、濡れて額にくっつく前髪の向こうで、呪いに染まる赤い目は、疑問の光で輝いた。

 

「…?わからん、戦うのが楽しいから?」

 

 あの、王に通ずる巨大な気配。

 見た者を恐怖させる、呪いの暴悪。

 ――それら一切が消えた、呆けた顔と気配。

 

「うーん…まぁ切るのは悪くない…殴るのもそうだし、手段は違うな」

「……」

「となると…あ~そうだ、そうだそうだ!やっと言語化できそうだ」

「…」

「なぁ天元」

 

 まるで、善悪を知らぬ幼子ように。

 

「力に溺れるのはいけないことか?」

 

 二コリと、不気味なほど柔らかい笑顔でそう言った。

 

「あの時代。私は切って、切り伏せ、殺し、生きて…そして常に勝ち続けた」

 

 戦闘狂、バトルジャンキー。

 呪術に魅入られ、王に魅入られ、そして彼を目指して生き続ける闘鬼。

 伽藍の価値観、それらを築き上げた原初の欲求、そして目標。

 

「その度に、私の名は広がっていった。京は勿論…私はそうして、己の存在を証明した」

 

 弱者の守護も、救済も。

 強者の特権も、それに付随する社会の構築も。

 ――伽藍の求める欲に、それらは入っていない。

 

「気に喰わぬ者を殺した、暇つぶしとして殺した、殺したいから殺した。…だが、皆が私を敬った」

 

 自身の武力を求め、飼い慣らそうと接触してきた者もいた。

 純粋なる殺し合い。それを求めてやって来た者もいた。

 ――それらも切り伏せ、そして更に信仰される。

 

「鍛え上げた技術。それらを披露するのは楽しい、そしてそれの餌食となり、死んだ者を見て…更に私を恐れる視線…それが、私はとてもたまらんのだ」

 

 細胞が震えだす恐怖、存在するだけで、周りを不幸にするその呪いの気配。

 伽藍はそれが好きだった。何十年、常に勝ち続け、そして死をまき散らした自分に酔い、そして天下無双を証明する。

 ――しかし。

 

「だがそれでも、あの呪いの王には敵わなかった」

 

 今でも覚えている、あの新嘗祭(にいなめさい)に招かれた、宿儺の姿を。

 神々に祈り、そして五穀豊穣を願う神聖な儀式。それにあの災いの化身を、悪王そのものを呼び出した。

 そして彼を恐れ、畏れ、信仰する滑稽な姿。

 

「力を振るえば皆が魅入る。強大な力は火と同じ、恐怖し、求め…そしてどうしようもなく人という命を、1つに集めて燃やし尽くす」

 

 ギラッと、その瞳の輝きが加速する。

 ――その瞳に、あの呪いの王の御形が幻視される。

 

私も、ああなりたいのだ!

 

 水面の上で、もう一度足を力いっぱい踏み込んで、大量の水を舞わせて笑う。

 両腕を、顔を、頭上に見える月に向けて、そして再び告白する。

 

「力を振るって証明したい!もっと恐れろ!畏れろ!そうして私が王なのだと、この大地に刻み込め!」

 

 大義も理由も、力を抑圧する理もいらない。

 伽藍が力を振るうのは、気に入らないから、何かが欲しいからというだけ。

 どこまでも自分勝手に、この力を振るって弄ぶ。

 

「私が宿儺を殺し…呪いの王を継承すれば、今度は立場が逆になるかもな」

 

 ――だがそれもいい。

 いや、それこそが真の目的。そして自身の望む循環そのものだ。

 伽藍は、そう語る。

 

「私が焦がれ、そして追いついた呪いの王という称号…今度は私から、それを奪おうとする者たちが現れる」

 

 負けたらそれまで。伽藍の自分に付けた価値というのは、何処までも自分中心でありながら、武人の誇りを感じられるもの。

 しかし力を振るう理由は違う。伽藍が力を振るうのは、誰かを殺し、そして命のやり取りに魅入られたのは。

 ――たった1つ、好き放題したいという汚れた欲望。

 

「嗚呼いい…今度はどのような者が来るのだろうな、どのような闘い方を見せてくれるのだろうか…!」

 

 殺意、欲望。それらが呪力と共に練られ、炎となって顕在化する。

 その恍惚とした顔、そしてドス黒い圧倒的な気配と強さ。

 伽藍という人間も、間違いなく。

 

――どのように殺させてくれるのか!

 

 両面宿儺に次ぐ、暴悪なる王の資格を持つ者だった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「君はあの時、間違いなく星漿体の彼女と仲が良かった筈だけど」

「あ?もうどうでもいい。正直、顔も特徴も思い出せん」

「…やれやれ、やっぱ似た者同士だね」

 

 ――薨星宮本殿。

 そこに集まり、羂索は伽藍の会話を聞き終えた後、首を振って笑う。

 伽藍が先ほど、極ノ番によって破壊し、そして滅茶苦茶にした地面、空性結界は完全に修復されており、先ほどまであった、地下まで繋がる巨大な穴は、見る影もなかった。

 その仕事の速さに、伽藍は顔を顰める。

 

「相変わらず引き籠るのが上手い。やはり浄界を複数張る奴は違うな」

「そんな人間の空性結界をぐっちゃぐちゃにしたのは誰さ?流石にあれはびっくりしたよ」

「だが面白かったろう?あの天元が、この私によって面食らったのだからな」

「やっぱ君最高」

 

 ――日が落ちる。

 天元は同化に失敗し、術式によって身体を創り変えられ、そして進化した。

 伽藍はそれを見るつもりだった。目の前で変化し、人から離れていく天元を、鼻で笑ってやるつもりだった。

 だからこそ、伽藍はこうして薨星宮にやって来た、だというのに。

 

「…あいつ、全然自我を失ってなかったぞ」

「うーん、これはちょっと予想外。まぁ大丈夫だよ、どっちにしろ、私たちの計画は揺るがない」

「…結界術というのはやはり面白いな。己の精神さえも留められるのか」

 

 天元は、自身の結界術によって、本来進化する肉体に引っ張られ、消失する筈だった自我を留まらせ、そして耐えた。

 これによって、天元は肉体組織が呪霊に近い存在になりながらも、同化の必要がない、大地と一体化した存在となった。

 ――ここから、全ては始まった。

 

「羂索。面白いものを見せてやると言ったろう」

「…なるほど、ここから本番というわけか」

「あぁ全く…」

 

 因果は壊され、運命は歪む。

 天元は受け入れた。それによって、どれほど危険な未来が訪れるかも知らないで。

 ――いや、知っていて受け入れた。

 

「…つくづく」

 

 笑う。

 

つくづく!

 

 嗤う。

 

つくづく愚かだなぁ!――天元ッ!!!

 

 哂う。

 ゲラゲラと、楽しそうに伽藍は笑う。

 ――やっと、やっと()()()()()のだ。

 

「お前のことだ!どうせ全て見通していた、見通すつもりだったんだろう!」

 

 閉じられ、誰の干渉も受けない薨星宮。

 その奥で、今も眠るようにこちらを見ているであろう天元に、伽藍は声を荒げる。

 

「天内理子の要望は全て受け入れろ?罪滅ぼしのつもりかは知らんが、それがお前の弱さだ!」

 

 天元の、現世の観察条件。

 それは誰にもわからない。わからないからこそ、伽藍の胸の内に残る、この屈辱を晴らすには、これしかなかった。

 

「犠牲に目を背けたいのか?それとも彼らの善意に甘え、己の思考から目を逸らしたか!?だがその結果がこれだ、お前は今回!()()()()()!」

 

 ――そして、答えは。

 

「触れていないだけ?それがどうした!?お前が先ほど、私に対して()()()()を切り出さなかった時点で、お前の負けだ!」

 

 ニヤリと、その顔が更に歪み、瞼と意識が落ちると同時に、呟いた。

 

「私の――勝ちだ」

 

 

 

 

「あぁ、()()()の勝ちだ」

 

 

 

 

 ――こつんと、石畳をローファーが叩く音。

 関係者以外は入れない、この空間に入ってきた謎の存在。

 その、黒髪を靡かせて、新たな侵入者は不敵に笑う。

 

「なるほど、肉体の所有権が変わると片方の意識は消えるのか」

「…………」

「まぁ良い、最悪意識のみを片方に逃がすことができると考えれば上々か」

「…おいおいおいおいおいおい」

 

 何事もないように会話を始めた侵入者を見て、羂索は顔を驚愕で染める。

 面白いものとは言った、そして彼女の出鱈目ぶりも見た。

 ――しかしこれは。

 

「言ったろう?羂索」

 

 ――三つ編みにした黒髪が揺れる。

 その、血の染み込んだ女学院の制服と、そしてヘアーバンドが、彼女の正体を証明していた。

 だがその気配、そして何より、呪力と声と、魔の者の証明である、全身に刻まれた紋様が、もう1つの答えを導く。

 羂索の目の前に立ち、胸に手を当て、誇らしく笑う少女の――

 

「面白いものを見せてやると」

 

 ()()()()のその額には、第三の目が輝いていた。




 敗北=死の武人的な考えは持ってるけど、それはそれとして力振るうのが楽しい!な野蛮人。
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