黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 友情フォーエバー


24話.玉折⑤ー絶対的な強者、それ故の孤独ー

『お前は何故愛を語る』

 

 血と肉片で溢れかえった大地。

 青く澄み渡る天井の下、勝者は敗者に問いかけた。

 

「あら、逆に貴方にはわからないのかしら」

「知らん」

 

 返り血に染まる老婆、そしてその足元で仰向けになって倒れる女。

 幾千と繰り返した殴り合い、呪い合いのその結果は、相変わらず老婆の必勝で彩られていた。

 

「いいえ、貴方は宿儺と同じ存在。ズレてしまった時間がもしも、彼と同じ場所だったとしたら…」

 

 (よろず)はそう、僅かな嫉妬を含んだ声色でそう呟く。

 

「私なら理解してあげられる、私ならいつか、彼の隣に立つことができるはず。そう思ってたわ」

「それも普段から言う、孤高の侘しさというやつか」

「伽藍、貴方はどうなの」

 

 ――絶対的な強者、それ故の孤独。

 老婆、伽藍がこの女と出会ってから時たまに説かれる概念。

 超常に位置し、人外の域にまで達したことによる孤高、そして抜きん出て並ぶ者のない、それ故の孤独。

 

「貴方も、必ず感じたことがあるはずよ」

 

 寂しく、ただ孤高に輝く瞳を見た瞬間から、万の心は宿儺のものになった。

 あの切り口が愛おしい、あの孤独を独り占めしたい。

 ――あの孤独を、自分だけのものにしたい。

 

「絶対的な強者、それ故の孤独…宿儺に愛を教えるのは…貴方は一人じゃないと教えるのは」

「…万」

 

 熱の入った彼女の言葉を遮って。

 伽藍は一言呟いた――

 

 

 

 


 

 

 

 

「……黒閃(こくせん)

 

 古びた社、丁寧に植えられていた無数の木々。

 それらの原型が完全に失われ、見るも無残な焦土と化した目の前の景色に、七海は呆れた声しか漏らせない。

 

 黒閃。

 

 それは、打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪。

 その威力は平均で約2.5乗であり、その発動確立の低さと難易度の高さから狙って出せる術師は存在しない。

 だがその難易度故に、それを経験した者とそうでない者の差は、壁という言葉では表現しきれないものとなる。

 

「嗚呼クソ…治したというのにまだ頭が痛む…もうしばらく反転をかけ続けるしかないか…」

 

 自分で自分の頭を突き刺し、そして治すという奇行を終えた伽藍は、目の前の土塊に埋もれた目当てのものを探っている。

 脳細胞の破壊、そして再生による一種のハイ、元から持っていた呪術の超越したセンスによって、彼女は黒い火花に微笑まれた。

 だが。

 

「嗚呼、痛い…」

 

 彼女は、相変わらず不機嫌なままだった。

 

(脳細胞…術式の刻まれている部分…ざっと右脳前頭葉辺りの破壊と再生…最初から反転術式を全開にしてから指で直接破壊は…流石に無駄が多すぎる)

 

 領域展開後には術式が焼き切れ、術式の使用が困難になる。

 これは"焼き切れ"という表現が使われているように、機械のオーバーヒートに近い問題と言えるだろう。

 単なる肉体の損傷を正のエネルギーで修復するのとは違い、術式が焼き切れてしまったが最後、機械と同じよう冷却されるのを待つしかない。

 だが、あの術式が焼き切れてしまった直後、伽藍の脳裏にふとよぎったのはある知識。

 朧気にだが覚えていた、もしくは自分でふと考え着いたのかは知らないが、そんなあやふやな知識とイチかバチかの実行だった。

 

(最善は脳そのものを最小限の呪力で破壊し、即反転術式をかけることだが…慣れてない今、それは得策ではないか)

 

 もし呪力で脳を破壊する際、術式の刻まれている右脳…前頭葉付近のみを破壊できなかったら?

 ――呪力は腹、しかし反転術式は頭で回すものだ。

 万が一失敗し、脳に後遺症が残る可能性を考え、伽藍は先に反転術式による正のエネルギーを全開に治癒を施しながら、指で直接破壊してみせた。

 

(しばらくは控えた方がいいな…)

 

 脳というのは人体のブラックボックスだ。

 たとえ伽藍が高度な反転術式、それも欠損や脳の修復まで行える人間だったとしても例外ではない。

 治そうと思って治せるほど単純ではなく、現にこうして倦怠感は拭えず、更に反転術式の出力すらも落ち始めている。

 脳が完治するまでには、もうしばらく時間がかかるだろう。

 

「…これか」

 

 頭痛に顔を顰めながら、伽藍が起き上がる。

 右手に目当てのものを握り、痛みを誤魔化すように額を指で擦りながら、七海たちの方へ向かった。

 

「宿儺の指、それも二本ですか…」

 

 存在するだけで呪霊を誘い、そして不幸をまき散らす真の呪物。

 それを仮封印もせず、なんてことないように持つ伽藍に対し、七海はそう呟いた。

 黒閃と、同時に辺り一帯に充満する彼女の残穢。

 おそらく最低でも一か月は、呪霊はここを訪れようとは思わないだろう。

 

「もし私たちだけだったなら今頃、最低でも片方。最悪二人とも死んでいたでしょう」

「ん、あぁ…」

 

 全開の反転術式と後遺症によるものだろうか、眠気を感じた伽藍が、気だるそうに言葉を吐く。

 七海への返事は適当。まるで幼子のように、うとうととまばたきの感覚を早めていき。

 

「大丈夫ですか?」

「ん、さっさと帰るぞ…私はもう寝る…」

「…………(嫌な予感しかしない)」

 

 ふと、一瞬だけ完全に意識を落としたかのような静寂が訪れ、しかしすぐに目覚める。

 じぃーっと、突然目を見開いて目の前の空間を凝視する。

 そうして数十秒。

 

「…フン、やっと来たか…お前たちもついでに送ってやる」

「…?いえ、その状態だと心配しか…」

 

 

 

 

「伽藍、お待たせ」

 

 

 

 

 ――目の前の空間に歪が生じた。

 水が湧き出るように、黒い液体が溢れ出して巨大化していく。

 

「遅い、早く転送しろ」

「羂…師匠に用事を頼まれてた時に呼ばないでよ」

「アーアー、聞こえんな」

 

 すらりとした足と、美しい三つ編みの黒髪。

 背と声の抑揚から、少女の年齢は中学生ぐらいだろうか。

 とにかく、目の前で会話をする伽藍、そして新たに参加した謎の()()()()()()少女に、七海は話しかけることにした。

 

「あなたは?」

「あっ、初めまして天な…ン"ン"ッ!……お、桜蘭…です」

「天な桜蘭だ」

「伽藍殴るよ?」

 

 …どうやら仲睦まじいようだ。

 顔を隠す能面に似た形の仮面も気になる…が。

 やはり、一番気になるのは――

 

「仲いいんですね!」

「あ?あぁそうだな」

「妹とか?俺も妹がいてですね…」

「あ、そうだな」

「…(返事が適当すぎる…)」

 

 灰原のキラキラとした笑顔、そして相変わらず動じない唯我独尊っぷり。

 そんな彼女が隣に立つことを許し、何よりこうして気にかけた視線を向けている。

 桜蘭と呼ばれていた少女の謎は深まるばかりで。

 そんな内心を察したのか、伽藍は少女の肩を掴み、そして得意げに笑って言う。

 

「私の側近だ、これからも上手く使ってやるつもりのな」

「…じゃあ送るけど、()()()先は高専でいい?」

「あぁそれでいい」

 

 ぱしっと腕を振り払い、少女は七海、灰原の背後に立つ形へ。

 

「…?」

「見てろ」

 

 困惑する七海に対し、伽藍はそう言って少女を見つめる。

 息を吸って、ゆっくりと吐いてから、少女は"それ"を行った。

 

「…"時空間転移理論(ワームホールパラドクス)"起動」

 

 練り上げられる呪力、()()()()()()の使用。

 そして七海の目に映る"呪力の起こり"そして――

 

「"七曜(しちよう)"」

 

 術式効果を上げる呪詞。

 

「"相違(そうい)"」

 

 掌印が。

 

「"冬極(とうきょく)船橋(ふなばし)"」

 

 伽藍は勿論、七海や灰原を包み込む、領域に近い黒の外殻が構築される。

 灰原は突然の異変に驚きの声を、七海は声こそ出さなかったが同じように驚き。

 伽藍は最後、外殻の向こうに透けて見える少女に微笑んで。

 

「悪くない」

 

 そう満足そうに言った。

 

 

 

 


 

 

 

 

 その夏は蛆のように呪霊が湧いた。

 蛆のように沸いた呪霊を、ただただ取り込み奔走する日々。

 

 あの日から。

 

 あの日からずっと、自分に言い聞かせてきた。

 

(ブレるな…ブレては…)

 

 あの星漿体の任務から一年しか経っていないというのに、この校舎は少し変わったように感じる。

 また背が伸びたからだろうか、それとも長い間任務に身を入れていたせいで、自分の通う学校すら忘れかけていたのか。

 夏油傑の心は、まだあの一年前に取り残されている。

 

「よっしゃぶん殴ってやりなさい伽藍ッ!全てはアンタにかかってるのよ!」

「死ななきゃ私が治してやるからさ、死ぬ気で五条の顔凹ませてやりな」

「待て待てな~んにも事前情報がねぇじゃん、頼むぜ野次馬共」

「フフフ…反転術式に目覚め、真に最強へ目覚めた五条君と、相手をするのは黄泉返りの()()()()か…ドキドキするね」

「おかーさん頑張れー!」

 

 夜蛾は任務で高専におらず、今校舎にいるのは彼らのみ。

 故にこうして、ある祭りごとが始まっていた。

 

「どっちも応援したいけど…七海はどっちが勝つと思う?」

「ノーコメントでお願いします。"やってらんねー"二人の勝敗なんて、考えるだけ惨めになるだけです」

「伽藍ッ本気で殴るのよッ!」

 

 あくまでも純粋に勝敗が気になる灰原と、予想をかなぐり捨てた七海。

 誰よりも声を張り上げ、応援の声を飛ばす歌姫と、その隣で面白そうに観察を続ける家入。

 無理やり連れてこられた日下部。その膝元に座る霞と、ついでに冥冥と夏油の観客に囲まれて、数十m先の彼らは言葉を交わす。

 

「ルールはどうする?」

「ふむ…そうだな、途中までは互いに徒手空拳以外での術式使用は禁止…お前は蒼による引力と打撃、私は液状筋肉を身体に纏う以外は禁じよう」

「いいね、じゃあ()()()()は」

「領域展開だけは例外としよう。私も、本気でお前を領域で殺す――」

 

 ボルテージの上がる観客、そしてそれとは反対に冷静に、あくまでも勝負の決め事を話し合う五条と伽藍。

 だがそれを見ている者たちは騙されない、その瞳の奥に、両者とも隠し切れない闘争心と殺意が滲み出ていることを。

 

「それじゃあ用意…」

 

 予め用意していた競技用のピストル。

 それを灰原が空に向けて、声を発すると同時にシン…と静寂が訪れる。

 

「――ドンッ!」

 

 それと同時に、天にも届く勢いで、砂埃が飛び散った。

 

 

 

 

 

「で、君はどう考えてるのかな?日下部」

「何で俺に聞くんだよ」

 

 目の前で残像しか残らない、常識外れな格闘技術の応戦を繰り広げる五条と伽藍。

 最初の方はなんとか必死に追っていたが、しばらくして完全に疲れたのか、ほぼ全ての人間がぼーっと観戦を続けていた。

 

「君の正直な考察を聞きたいね、五条悟と伽藍…どのような戦いになるのかを」

「…俺も別に、アイツのことを詳しく知ってるわけじゃねぇ」

 

 いいか。と視線を周りに向けてから、皆が日下部の言葉の続きを待つ。

 そして「はぁ」とため息を吐いてから、言った。

 

「六眼がある時点で呪力効率、それも消費呪力のロスはほぼ0なんてイカレ仕様だ。伽藍の呪力効率も馬鹿げた次元のものだが…やっぱそれでも限界がある」

「ほう…」

 

 だが。

 

「だが唯一、伽藍が五条に勝ってる要素がある。それが呪力出力だ」

「でもちょっと待って、確か伽藍の術式は…」

 

 日下部の言葉に待ったをかけたのは歌姫だ。

 

「伽藍の術式は肉と骨を作る…創造系の、それこそ構築術式に近いものじゃない」

「…あぁ、出力が高いおかげで、一度の消費で作れる量は多くなるだろうな…言いたいことはわかる。五条と違って、()()()()()()()()()()()んだろ?」

 

 五条の術式、無下限呪術ならば誤差だろうが、このハンデは見て見ぬフリはできないものだ。

 あくまでも殺傷能力はおまけで、その本質は物を作ることであり、攻撃用の術式ではない伽藍では、いくら呪力出力の優位性があろうとも分が悪い。

 

「しかし、彼女はそんな弱点をそのままにする人じゃない」

 

 今まで静観を続けていた七海。彼が突如語りだしたことに周りが驚く中、その空気に少し機嫌を悪くしながら続けた。

 

「それはあくまでも順転、それも彼女にとっての小技にすぎない…術式反転に極ノ番、彼女は術式の弱点を既に克服している」

「…あー、つまりだ」

 

 ――音が止む。

 

「そういや、アイツ肉弾戦では使わないって言ってたが…」

「彼女の領域の必中効果は術式反転…最初からこの勝負を狙っていたのでしょう」

 

 目の前でうねる呪力の嵐。

 砂埃のその向こう、砂越しに見える青い瞳と、三つの赤い瞳。

 

「さぁて、ここからがある意味本番だな」

 

 片手で結ばれる帝釈天の印。

 両手で結ばれる毘沙門天の印。

 

「――くるぞ」

 

 

 

 

『領域展開』

 

 

 

 

無量空処(むりょうくうしょ)

黄泉天蓋(よもつてんがい)

 

 彼らの身体が領域の外殻に閉じ込められた。

 

 

 

 

 

 ――互角。

 五条の領域は、会得してからさほど時間が経っていない。

 まだ甘さの残る結界の構築、そして呪力の循環と細かな設定。

 しかしそれらのハンデがあっても、伽藍は自身の持つ領域の必中命令の押し合いを"互角"にしか持ち込めなかった。

 

(わかっていた…)

 

 知っていた。

 五条悟に"予想"は当てにならない。

 並みの術師が領域を会得したとしても、伽藍ならば圧倒的な技量と経験値によってすぐに塗り替えられる。

 少し手こずる相手だったとしても、宿儺と同じよう、自分には()()もあったのだ。

 

「ッ…!そう来るか」

 

 放たれる伽藍の拳、それを()()()()()五条は笑う。

 以前とは比べ物にならない出力、そして切り替えによって纏う領域展延によって、五条の周りに展開された無下限を中和していた。

 領域展延で使えないのは生得術式のみ、一度領域を展開し、結界に術式を付与さえしてしまえば展延と元の領域の同時使用が可能となる。

 

「っ!」

「…!」

 

 ――領域がせめぎ合う。

 ギャリギャリガリガリと音を響かせ、いつ互いの領域が壊れてもおかしくない状態だ。

 殴り、殴られ、そして互いに反転術式によって傷を癒す。

 本気だ。試合とは別に、彼らは本気で相手を殺そうと(必中効果)戦っている。

 

 ――足りない。

 

「殴り合いってのもさ、悪くないんじゃない?」

「同意だ」

 

 ――足りない。

 

「足りねぇよな、伽藍」

 

 ――絶対的な強者、それ故の孤独。

 

「…何がだ」

「強者の孤高ってやつ、お前も感じたことあるだろ」

 

 幾千、数万発もの殴り合いの後、静かに崩壊する二人の領域。

 互いに術式は焼き切れ、肉弾戦のみが許された状態へ。

 

「お前は、私の知り合いと似たようなことを言うんだな」

「ソイツは知らね、でもさ。あながち的外れってわけじゃないっしょ」

 

 勝負はもう終わった。

 勝敗なんて決まっていない、引き分けというのもおこがましい、ただの試合放棄だ。

 普段ならそんなもの、すぐに切り捨て戦いを再開するはずだった。

 だが、今はこうして語りたいと、ふとそう思ったのだ。

 

『宿儺に愛を教えるのは…貴方は一人じゃないと教えるのは…』

「嗚呼、そうか」

 

 強すぎる力は自己を歪ませる。

 孤独と孤高は侘しさと虚しさをその身に刻む。

 伽藍は全て察した。この五条悟という人間も、同じように愛を求めている。

 自分が独り占めをしたいと、自分だけがわかってあげられるのだと、そう心のどこかで思っていたのか。

 だが。

 

「しかし悪いな、私は…」

 

 唯一、彼女が求めるのはただ一つ。

 たった一つの勝利と栄光。

 

そんなもの(強者の孤独)に興味はない――()()()()なら一人でやれ」

 

 ただただ、それ以外はどうでもいい。

 強者の孤独も、侘しさも。

 愛を与えたいという戯言も。

 

 ただ、心底どうでもいい。




 伽藍は孤独を感じてません。
理由としてはそもそも強いっちゃ強いけど別に宿儺五条ほど圧倒的じゃなかったが一つ。
もう一つは羂索や万裏梅といった強さ関係ない知り合いがたくさんいたから。
あと万が一宿儺が孤独を感じてたとしても「知らね〜!勝手に孤独感じて私に倒されろ!!」ってなる。
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