黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 それぞれの視点による番外編


じゅじゅさんぽ.羂索

 もっと知りたい、もっと修めたい、もっと、もっと。

 

 子供のように純粋な指針で、老人のように狡猾な手段でそれを成す。呪術を極め、尊厳を凌辱して生きる。

 人を陥れて殺し、辱め、己の目的のためにあらゆる手段を使う、そんな呪術師が羂索である。

 羂索はこれからも。そうして生きて、生きていく。途方もない年月を、この国を。

 

 

 そんな呪術師が出会ったのは、ある破天荒な老婆だった。

 

 

「こんにちは、ちょっといい?」

「殺す」

「あっぶな!」

 

 

 目が合った瞬間にノータイムで殴り掛かられるなんて、アレが初めてだったかもしれない。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 最初にそれを見たのは本当に偶然だった。だがあれから数百年経った今では、この偶然さえも酒の肴にできるというもの。

 普段ならいつものように、ただ己の好奇心に従って実験を、呪術の研究を進めていたのだろう。だけどその日だけは違った。

 その日は珍しく、特に目的もなく、本当に無心のままで足を動かし散歩を続けていた。

 別に人を殺すのが好きなわけではない、あの災厄が擬人化したかのような暴君とは違う。花を慈しむ心もあるし、それはそれとして邪魔者は殺す。メリハリの問題だ。

 

「おや、もうそろそろ冬の時期か」

 

 布一枚では少し肌寒く感じる、些細な気温の変化を感じて腕を摩る。

 羂索とて一人の人間、肌を焼くような夏の日差しは気が滅入るし冬もそうだ。

 そんな中である、ふと、冬近くだとはいえ明らかにおかしい、違和感のある冷気を感じた。

 

「ふむ…これは…」

 

 先ほどまでと違うのは、冷気もそうだが呪力である。つまり今回の冷気は一人の人間によって引き起こされた人工的なものということ。

 羂索は肌から感じる冷気の発生元を一目見るため、前方遠くの景色に意識を向けた。

 

 そしてそれを見た。

 

「宿儺ァアアア!!どこだァアアアア!!!!」

 

 ――嗚呼、花が綺麗だなぁ、なんて。柄にもなく平穏な思考をつい働かせてしまうほどの、なんというかアレな絶叫。

 

「宿儺ァアアアア!!!!宿儺ァアアアア!!!!」

 

 更によく目を凝らすと、そこで誰かが争っているのが見えた。

 辺り一面が氷で覆われ、あらゆる建造物が、文化が崩壊した村の跡地。そこに二人。

 覚えのある呪力に氷。老婆が戦っている相手の正体にすぐ気づいた羂索だが、勿論あの争いに割り込むつもりなど毛頭ない、傍観するに限る。

 そうしている間にも老婆は絶叫し、相手の術師、裏梅は怒りで震えながらも術式によって氷を生み出し攻撃を続けていた。

 

「宿儺ァアアア!!!!宿儺ァアアアア!!!!」

「この気狂いめ…!分を弁えろ貴様ァアアア!!!!!」

「裏梅ェ…!今日こそは宿儺に会わせろォオオ!!!」

「今日こそ貴様を殺してやる…っ!」

「私が死ぬのは宿儺を殺してからだ愚か者がァアアア!!!!」

 

 息をするだけで肺が凍りそうなほどの圧倒的な冷気。それを孕んだ氷柱が宙を舞い、そして老婆のまき散らす血によって蒸発する。

 辺り一面が蒸気で満たされ、その戦闘の熾烈さは秒が過ぎるたびに更に活性化していく。

 

「死ねェェエエエ!!!!」

「貴様が死ねェエエエエエ!!!!」

 

 

 

 

 ……………

 

 

「……おもしろ」

 

 

 

 今思えば結構運命的な出会いだったのかもしれない、なんて。

 本当に柄にもないことを考えた。

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 

「なんで君は宿儺を倒したいの」

「なんだいきなり」

「今更だけど私君の事なんにも知らないし、なんであそこまで固執するのさ?親でも殺された?」

「…………」

 

 あの物騒な出会いから数年が経った。

 

 羂索の身体はあの後春が来るまでに二度変えた。一人はある権力者の男でもう一人は齢十にも満たない生娘。

 その間も老婆はずっとあれを繰り返していた。呪力の残滓を追い、走って追いついて喧嘩を売る。これをあと数十も。

 ずっとずっと、何度負けようとも何度引き分けになろうとも。

 だから気になったのだ。

 

「親は生まれた時からいない」

「なんだ捨て子か」

「なんだとはなんだ」

「だってありきたりだし、あの『気狂い老骨伽藍』にしては普通過ぎる」

「お前という奴は…いや待てなんだその呼び名は?」

「裏梅が言ってた」

「いつか殺す」

「だから無理だって」

 

 なんてことのない昼下がりの雑談。

 思えば、昼夜実験に明け暮れた羂索の人生で、この老婆と話す時だけ、穏やかな時間だったのかもしれない。

 

「じゃあやっぱり復讐とか?宿儺恨んでたりする?」

「たわけが、そんなものは一切ない」

「あやっぱり」

 

 違う、断じて違う。と。

 復讐でもなく大義でもない。誰かのためなどもってのほか。

 

「強いて言うなら"呪いの王"が宿儺だから、だ。人間だれしも思うだろう?『誰かに勝ちたい』『誰かを超えたい』『一番になりたい』と。私がそう感じたのがこの呪術であり、その頂点に立つ男があの両面宿儺だから、だから私はあいつを殺したい」

「つまり名誉が欲しいってわけ?」

「全然違う、権力や名誉などどうせいつか無くなる。私は目的ではなく、過程を求めるんだよ。言い換えれば、勝利による結果そのものが目的。戦いは過程ですなわち目的でもある。そこらの戦馬鹿と一緒にするな、一番強くなりたいからあいつを殺す、戦いたいからあいつを殺す。これだけだ」

「難儀だねぇ」

 

 ぶっちゃけて言うと無理である。

 あの災いの擬人化そのものである宿儺に勝てる者などいない。それは彼をずっと前から見てきた羂索だからこそわかる。その熱量は見事だがそれだけだ。

 そんな羂索の考えを察したのか、伽藍は笑って。

 

「あんな風貌をしているが、宿儺とてただの人間。あいつも寿命には勝てん」

「その前に君がぽっくり逝きそうだよね」

「殺す」

「あっぶなぁ」

 

 瞬時に生成された骨の刀を躱して、軽口を叩く。

 

「それまでには決着を付けたいが…流石に苦しい戦いになりそうだ」

「おっ、じゃあこの前の話受けてくれる?」

「それはまだ保留だ。あまりにも突拍子すぎる」

「まぁでも、楽しみにしてるよ、もし成功したら…そうだね」

 

 伽藍の剣術と呪術は平安でも上澄みにあたる。だけどそれでは足りない。

 その程度であの宿儺を殺せるなら、とっくに呪いの王は他の者の称号になっているからだ。

 だけど。

 

 だけど本当に万が一、億が一兆が一にでも"それ"が起きたら。

 

「きっと私は心の底から大笑いすると思うよ」

「楽しみに待っていろ、お前の顎を笑いの力で外してやる」

 

 きっと本当の意味でド肝を抜かれるのだろう。そう感じた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「なんてこともあったねぇ」

「今となっては英断だった、こうして現代を楽しめるからな」

「いや受肉させたの私だし」

「……はっ」

「鼻で笑った?今」

 

 あれから1000年経ったある昼下がり。

 周りには様々な家族、恋人を連れた一般人たちが席に座って食事を取る賑やかな光景があった。そしてこの二人も例外ではない。

 二人だけにしては余分すぎるほどの四人テーブルに、食事に手を付けず肘をついてニヤニヤ笑う羂索と、忙しく両手を動かし食事を流し込む伽藍。

 伽藍は未だ食べようとしない羂索を見て不思議そうに聞く。

 

「なんだ食わんのか?」

「いやいや、今回は結構大事な話なんだよ?」

「お前まさかとは思うが、ファミレスに来たくせに何も頼まず…このまま雑談をするつもりだったのか?」

「あ~…」

「お前マナーがなってないぞ、周りからどう見られると思う?客観的に自分を見ろ」

「まさかよりによって、君に常識を説かれる日が来るとはね…昔の私が見たらきっとショックで寝込むよ」

「お前それどういう意味だ?」

 

 ピザを掴んでかぶりつく、そして器用にチーズを引っ張りながら、水も一緒に流し込む。

 そんな風に器用な食べ方をしながら、会話を続けた。

 

「まぁいい…お前も折角だから何か頼め」

「いや、ぶっちゃけお腹空いてないし」

「お前本当に常識ないな」

「君が言う?」

 

 今の羂索の肉体は若く高身長だ、対する伽藍の肉体は受肉したあの時から成長しておらず子供のまま。

 だがそれは見た目だけで、その内側には数十年分の鍛錬による武術の結晶が眠っているのだが、周りからすれば知ったことないだろう。

 傍からすれば、この二人は年齢の近い親子か恋人のように見えるかもしれない。実際はそんなことないのだが。

 

「せめてドリンクバーだけでも使ってこい、何も入らないということはあるまい」

「うーん…ぶっちゃけさぁ、ここのファミレスそんな好きじゃないんだよね」

「今、こうして食事をしている私の前でよく言えたな?」

「ま、ここを選んだのは安いのもそうだけど…もう一つは…」

「いい、じゃあ私だけで食う。丁度次で最後の注文だからな」

 

 ――すみません店長、俺辞めます。

 ――えっはぁ!?

 

「デザート?何頼んだの?」

「期間限定特大いちごホイップマシマシ特盛パフェ」

「あーうん、その名前でどういうやつかもうわかったよ」

「先ほどメニューを見た時にビビっときてな」

 

 ――おい!ちょっと待てよ!!

 ――次私が行きましょうか?注文。

 ――いや…俺が行くよ。

 

 二人がそんな雑談をしている間に、注文したデザートを作り終えたのだろう。一人の男がその手に巨大なパフェを乗せてやってきた。

 

「おっ来たか」

「うん来たね」

「お客様、お待たせしましたこちら…」

 

 そして。

 

「期間限定特大いち…」

 

 ――ボウッ。と()()()()()

 

「ッきゃあああああああああああああ!!!!!!!!!!」

「――話が長いぞ」

 

 くいっ、と。隣から声が聞こえると同時に、それは指を振るって。瞬く間に店内が炎に包まれ、周りの人間すべてが灰となった。

 子供も、大人も、老人であっても平等に、その命が文字通り燃え尽きて。

 

「…あまり騒ぎを起こさないで欲しいんだけど」

「騒ぐ奴らはもうおらん…なぁ()()、儂は宿儺の指何本分だ?」

「まぁ甘く見積もって8,9本分かなぁ」

「十分!」

 

 まるで火山のような風貌を持つ人型呪霊、顔から枝の生えた呪霊、蛸のように丸い風貌の呪霊。

 そしてそれらと会話をする、()()()()()()袈裟の男。

 

「獄門彊を儂にくれ!その代わり…――五条悟は儂が殺す」

「まぁ頑張ってね」

 

 ある現代の昼下がり、そのお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パフェが燃えた」

「あっはは」

「羂索、お前こうなることをわかってたのか」

「そんなことないって」

「だったらニヤニヤするなこの馬鹿が!…クソッ、あの火山許さん」

「あ、祓うのはやめて、せめて取り込みたい」

「ふんっ断る」

 

 そんなお話。




 なんだかんだで仲良し…?なのかな…?
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