黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 長かった


27話.玉折⑧ーそして0へ至るー

「伏黒恵君…だよね?」

「何その顔」

「いやソックリだなと」

 

 あらゆる情報を集めては捨て、邪魔が入る前に接触して意を問いただす。

 五条悟、天与の暴君の血を引く禪院家の鍵、伏黒恵は邂逅を果たした。

 

「君のパパさぁ、僕がドン引くくらいの筋金入りのクズでねぇ、まぁ君のこともそいつからちょちょーいって聞いて…」

「どうでもいい」

 

 五条にとって禪院、もとい伏黒甚爾は特別な存在であると言える。

 初めて己を殺した者、生まれて初めての緊張、そして純粋無垢な闘争を交わした男。

 だがそれらを知らない、知りようもなかった息子にとっては。

 

「どうせ他の女のとこだろ、もう長いこと顔も見てない」

「……まぁいっか。とりあえずさ、君に聞きたいことがあるんだよね」

 

 伏黒恵は禪院家に売られる。

 そのことを本来知っているのは、売買の契約を持ち掛けた甚爾本人と禪院家の一部の人間。

 

 のはずだった。

 

 だがあの時、甚爾が今際の際に零した心を聞いたのは。

 あの遺言と、そして情報を知ったのはもう一人――

 

「銀色、もしくは赤色の髪をした女が来なかった?」

「来た」

 

 その言葉を聞いて、五条の表情に険しさが生まれる。

 あの時、伏黒恵の存在を知ったのは五条だけでなく、伽藍もだ。

 五条家と禪院家はかつての御前試合の影響で今も仲が悪い、だが伽藍はそうじゃない。

 御三家も何も、彼女が普段から懇意にしている当主、直毘人に直接問いただせば直ぐにその存在の情報を得られたから。

 ――遅かったか。

 

「来たけどすぐに帰った、おかげで津美紀を誤魔化すのに苦労した」

「……………そっか」

 

 情報を確認したかった?それともただ一目見て終わり?

 それともブラフ?本当の目的が存在するのか…?

 目の前で困惑する恵をよそに、五条はサングラスの奥で思案に耽る。

 しかし、この場でいくら考えても答えは出ない、五条は再び視線を合わせて。

 

「それじゃあ聞こう、君は禪院家に売られる…それで本当にいいかい?」

「そこに行けば津美紀は幸せになれるのか?」

「――ない、100%ない」

 

 それは断言できる、そう付け足して五条は立つ。

 禪院家は男尊女卑、それを踏みつぶせる圧倒的な自我と力があればともかく津美紀はそうはいかないだろう。

 先ほどから、ベランダからこちらに向かって手を振る少女を、五条は六眼で観察してそう確信した。

 間違いなく、皆が不幸になる。

 

「…大丈夫、任せなさい」

 

 雑にごしごしと頭を撫で、五条はそう言って笑う。

 戻れなくなった親友、居なくなった親友の言葉が、今も胸を刺したまま――

 

『君は最強だから五条悟なのか?五条悟だから最強なのか?』

「強くなってよ、僕に置いて行かれないくらい」

 

 

 

 


 

 

 

 

「時に天内、私の欠点はなんだと思う」

「………え"」

「地頭は良いくせに脳筋な選択しかしないところだと思うよ、あとはいちいち目先の闘争目当てに合理性、知性、感性全てをドブに捨てる…」

「羂索、お前は後で殴る」

「…(先に言われた……)」

 

 旧■■村のある一室の中。

 村のいたるところに血と呪霊の残穢が残り、腐りかけの肉による腐臭で満ちており、その全てが目の前の池に集中していた。

 伽藍、そして天内と羂索の目の前には、あの真っ赤な血の泉。

 

「私の術式、禍津日(マガツヒ)は万の構築術式に比べれば遥かにマシだ、それでもやはり限界はある、六眼があれば話は別だったのだがな」

「それは以前にも聞いたね、その対策が液状筋肉…予め作り置きすることで生産コストを抑えてるんだろ?」

「あぁ、後はこの肉体のだが…」

 

 後ろで楽しそうに話す二人、話に付いていけない一人。

 天内は最初、伽藍に命じられたままに池の準備を続けながら、背中で不満をアピールしてみる。

 暫く談笑は続いて。

 

「この肉体の術式、それのおかげで液状筋肉の持ち運びもかなり楽になった、受肉様様だな」

「へぇ、最大でどれくらい持ち運びできるの?」

()()()()()()()()()()術式効果と出力、後は燃費か?とにかく使い勝手を上げるため工夫は加えているが…まぁざっと最大出力の躯を連続で…10発くらいは持ち運べる」

「…それって結局どれくらい?」

 

 伽藍の唯一の欠点にして弱点、それが術式による武器の製造。

 最も低コストで量産できる液状筋肉でさえ、実戦で使える触手状に加工する分だけで、自己補完の呪力では釣り合いが取れないほどである。

 どうあがいても実践的ではない、しかし伽藍自身の異常な呪力量と出力、そして本人の格闘センスによってデメリットをカバーしているのが現状。

 

 今の伽藍の目的、それはカバーする弱点そのものを消すことだった。

 

 まず最初に、彼女が思いついたのは作り置き。

 平安の頃、構築術式によって使い捨てることなく呪力操作によって長持ちをさせることができ、それさえあればいつでも戦闘態勢に、そしてわざわざ燃費の悪い術式を発動する必要がない。

 強くなるため、自分よりも遥かに年下の戦闘スタイルを、伽藍は一度見ただけで完全に模倣してみせた。

 そして幸運なことはもう一つ。

 

 伽藍は黄泉返りの受肉を果たした際、()()()()()()()()()()()を無意識のうちに止めていた。

 

 更に愉快なことに、羂索でさえ知り得なかった受肉元の少女の身体…それは現代でも稀に見る、肉体に術式が刻まれているにも関わらず、脳が呪力を生み出す構造をしていない宝の持ち腐れ。

 それを伽藍という悪魔が奪い、己のものとしたことで本来以上の輝きを持って世に放たれた。

 二つ目の術式、時空間転移理論(ワームホールパラドクス)によって作られる異空間という、液状筋肉の保管庫にピッタリの存在だった。

 

「そうだな…今の私が平安にいると仮定して…五虚将(ごくうしょう)日月星進隊(じつげつせいしんたい)、ついでに捏漆鎮撫隊(でっしちんぶたい)と本気で殺し合いを…まぁ7回はできるくらいか、途中で自己補完の呪力で液状筋肉を足していけば…ざっと12回はこれを繰り返せる」

「笑っちゃうよね」

「…(私どれも知らないんだけど)」

 

 わざとらしく吐いた天内のため息が聞こえてないのか、それとも聞く気なんてさらさらないのか。

 今も目の前の血の泉に一つ、二つと夏油の放った呪霊によって食い殺された村人、そして伽藍と羂索がついでに持ってきた呪物などを投げ入れ、わざわざこのためだけに伽藍が作った、液状筋肉の棒を使ってかき混ぜる。

 闇より黒く、暗く、冷や汗が出てくるほどの悪臭と瘴気を感じながら、その作業を続けていた。

 

「で、結局これからどうするの?」

「どうもこうも、最後の仕上げだ」

 

 羂索がそう聞くと、伽藍は右手を時空間転移理論によって生まれた異空間に突っ込み、そこから肉と骨で作られた武器を取り出す。

 それは生前から愛用していた、術式によっていつでも作り、治し、顕現させてきた刀――

 

武振熊(たけふるくま)か、それも久しぶりに見たね」

「餓鬼でもわかる単純なことだ、液状筋肉を満足に使うには自己補完の呪力では足りない。しかしだからといって…外付けの呪力では余計心許ない、ならばどうするか」

「…つまり?」

「簡単なことだ、()()()()()()()()()()

 

 術者は武器に呪力を流し、強化して戦いに身を投じることもある。

 その際込めた呪力量、そして戦いを続けた年月と、術者の術式とが連鎖反応を起こし、時に術式効果を持った特別な道具、呪具が生まれることがある。

 そう、()()()()()が刻まれた呪具――

 伽藍の狙いはそれだった。

 

「嗚呼、浴の用意をするって聞いたから呪具は察してたけど…まさかそれを、とはねぇ」

「浸けるのは…1()0()()だ、10年もあれば充分に呪具としての務めを果たせる」

 

 伽藍は目の前の泉に、武振熊を放り投げる。

 見事に泉の真ん中に矛先を向け、そしてゆっくりと沈んでいく様子を満足そうに眺めてから、羂索に背を向ける。

 再び異空間への扉を開き、その先へ足を踏み込もうとする。

 ああそうだ、その言葉を最初に持ってきて。

 

「天内、お前は暫くここに来て武振熊の様子を観察しろ」

「えー…めんどくさい……」

「じゃあ、私もたまに来てもいいかい?人体を基にした半呪具を本格的に浴に浸ける…しかも君のなんて初めてだからさぁ」

「好きにしろ」

 

 そう言ってから、完全にその身体を異空間に収納して姿を消す。

 呪力の残穢、そして気配が完全に途絶えたと共に、羂索は呟いた。

 

「…ちょっとだけ覗いてもいいかな?」

「いや駄目でしょ、浴って詳しくは知らないけど…私でもそれは良くないってなんとなくわかるし」

「フフフ、確かにそうだ」

 

 じーっ…

 掴みようのないその態度に、天内は視線を冷たくしてため息を吐く。

 ぶっきらぼうで命令以外ロクに喋らない伽藍と違って、こいつ(羂索)のお喋りは面倒臭いのだ。

 

「友達いないでしょ、絶対」

「へぇ、それじゃあ君が友達になってくれるのかな?」

「やめて、ただでさえ教えを乞うてるってだけで寒気がするのに」

「友達に限らない話だけど、人と人の交流は知識の吸収以上に人生を豊かにするんだよ」

「いや知らないってば」

「ちなみに私の友達の条件はね…①私を退屈させてはならないこと ②私と対等であること あとは…」

「…うざ」

 

 お喋りは正午から夕方まで、羂索の一方通行で終わった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「術師の強さは才能で決まる。それは呪霊が見えるか否か、呪力を扱える脳の形をしているのかという前提条件から始まるのも理由だろう」

「術式持ってないのが目の前にいるんだけどな」

 

 刀を握り、姿勢を低くしていつでも走り出せるようにする日下部。

 たとえどれほど優れた術式を持とうとも、脳が、身体が呪力を練ることができないのならば意味がない。

 天与呪縛もある、それがかの天与の暴君と同じ様いい方向へ働くのならともかく、ほとんどの天与呪縛は文字通り術者を縛るものでしかない。

 ――では、最も重要なものは何か?

 

「呪力量、呪力出力、生得術式の有無に結界術の才能…これらを最低限行使できる才能の資格、そしてその純度だ」

 

 人間とは鉄である…伽藍はそう考えている。

 強さに限らず何かを求める、何かを成そうと努力し突き進む意志の強さ、そしてそれが折れた時の人の弱さ。

 呪いの廻るこの世界で、数え切れないほどの挫折と成功を繰り返す人間を見てきた。

 人は、人間は鉄と同じで叩けば叩くだけ強くなる。

 その鉄に勝る覚悟と意志があってこそ、人間は恵まれた者を超えていけるのだと、そう考える。

 

「才能が8割、だからそれに落選したから一生弱いまま…なんてものは欺瞞だ、弱者が己の逃げ道を作るために吹聴したただの戯言、聞く価値もない底辺の考えだ」

「お気遣いどーも…っ!」

 

 日差しが強くなり始めた昼過ぎ。

 校庭では校舎の方にまで響くほどの、鉄同士がぶつかる音が何度も響き渡っていた。

 伽藍は続ける。

 

「術式が無くても戦い方はある、私の知る限りだと…天与呪縛すらない本物の一般人と言うべき存在が、呪具を片手に術師を切ったのを見た事があるからな」

「で…俺もそこに辿り着けるから頑張れと…っ!?」

「知るか、それに答えるのは私じゃない」

 

 伽藍は背後に立つその気配と、同時に首に向かって加速する刀身を鼻で笑う。

 遠慮や配慮などどこにもない、相手を絶命させる勢いの攻撃に目も向けず、ただ右腕だけを動かしてそれを防ぐ。

 ガキンッと再び鈍い音を立てて、伽藍の持つ、その辺で拾える何の変哲もない木の棒が、日下部の真剣による攻撃を完全に抑え込んだ。

 ため息。

 

「さっきよりも良い、やればできるじゃないか」

「いくら呪力強化があるとはいえ…マジで真剣を棒で止められると凹むんですけど…?」

「なに、呪力出力の恩恵だ」

「自慢…かよ!」

 

 首、胸、腰と見せかけての頭…

 それら全ての攻撃が等しく防がれ、届かずに鈍い音を立てて終わる。

 伽藍は一切の反撃も、身体を動かしての回避なども行っていない。

 そこを突こうと日下部が棒を持っていない左手…彼女の左半身に向かって攻撃をするも、それすら読まれて防がれる。

 右へ左へ、左から右へと、まるでお手玉のように棒を入れ替え、日下部が行動する前から持ち替えを成功させているのだ。

 つまりはフェイントすらも読まれているということで――

 

「右、次は右手首…これは左目、あとは…」

「解説しながら避けんな…っ!」

「すまん、あまりにも目が正直なものでな」

 

 夏油傑が離反し、呪詛師として認定されてから数日。

 呪術界はやはりと言うべきか、今まで制御が効きにくかったとはいえ間違いなく優秀な人材であった夏油傑もとい呪霊操術を失ったのがかなり痛いらしい。

 今まで彼が処理していた全国各地の呪霊発生の頼りは、あの五条が自分の分も含めて全て担当しているとも聞く。

 では伽藍はどうか。

 

「…てか、特級術師様がこんなことしてていいんすか…?」

「九十九由基に言え、あいつがあぁなんだ。私も便乗してサボっても罰は当たらん」

「……………」

「それにあれと違ってたまには受けてやるつもりだからな、霞の慣らしにも丁度い…なんだその顔」

「うわぁ…」

 

 日下部篤也はビビりである。

 死にたくないし出来れば危険なことはしたくない、しかしそれでも人は助けたい。

 術師としての最低限の志を未だ忘れていない彼にとって、目の前の女はどう映っていただろうか。

 そんな日下部の視線を向けられている伽藍はといえば、ただ少女のようにこてんと首をかしげるだけ。

 

「あぁ、そういえば五条のやつは教師になるらしいな。私も考えてみるか」

「…え、何の冗談?」

「割と本気だ。そうだな、霞に物を教えるのに私自身が経験を積む意味もあるが…」

 

 現代最強の術師、それの選りすぐりの優れた原石たち。

 一体どんな強さを持っているのだろう、どれほど自分を楽しませてくれるのだろう。

 そして何より、彼が育て上げたその生徒たちを――

 

「自分の育てた生徒が、私の育てた生徒に真っ向から負ければ…あいつはどんな顔をするのだろうな」

「…最低すぎんだろ動機が…」

「おいおい、私たちは術師だぞ?嫌がらせしてなんぼ…じゃないのか?」

「あー、そりゃそうだ」

 

 伽藍の目的は変わらない。

 あの平安の頃から、自身が井の中の蛙であったことを痛感したあの頃、()()()()を奪われた頃からずっと。

 肉は朽ち、骨が脆くなったあの頃に比べれば、今の自分は遥か上の強さを身に着けたと自負している。

 しかし足りないのだ、いくら力を鍛え上げ、そして満足したとしても。

 

「――えいっ」

 

 淡い青の気配がする。

 有害ではないと既に判断していたため、伽藍はその突進を甘んじて受け入れる。

 視線を下にすれば、腰に抱き着く青髪の少女。

 

「…霞」

 

 術式はない。

 結界術もそれほど、出力量ともに一般的で、原石とは程遠いただの石。

 天与の暴君の息子であるあの少年ならば、磨けばダイヤにもルビーにもなれるだろうが、この少女はそうはいかない。

 伽藍はそれでも信じてる、賢者では成し得ない、愚者が貫くからこそたどり着ける境地を。

 かつて老化の道を進み、しかし生き続けた自分だからこそ――

 

「霞」

 

 伽藍は膝を曲げて、視線の高さが合うようにしてから話しかける。

 その珍しい姿に日下部は目を丸くし、霞はこてんと首をかしげて。

 

「お前は刀を握れ」

「…?うん」

「とにかく握ってそれを振るえ、ただただ愚直に馬鹿の一つ覚えのように」

「?わかった!」

 

 右手を取る。

 血に濡れた自分のとは違う、未だ少女特有の柔らかさと美しさを残したままの、その小さな手のひら。

 そこに先ほど持っていた木の棒を置いて、握らせる。

 

「朝起きて数秒と、食事を終えた直後の数秒、それと就寝前の刹那の無意識…それ以外は許さん、それ以外はずっと頭の片隅に、刀を持つ自分をイメージしろ、刀を箸の代わりにするんだ」

 

 それは、ある意味では期待と言える感情だったのかもしれない。

 呪いの王と同じ、圧倒的な自己とそれ故の実力を持った"天上の意志"を持って生まれた者。

 五条悟もそうだった、しかし今の彼にあの時の、禪院甚爾を討ち果たした時の強さはもうない。

 

 ――あいつは腑抜けたのだ、伽藍はそう吐き捨てる。

 

 彼は区切りを作ってしまった、人を愛するために自らに調停という縛りをかけた。

 両面宿儺以外に初めて、この男になら殺されてもいいと思わせた彼は、伽藍のそんな思いに唾を吐いた。

 

「ドアノブを回す時、手ではなく先に刀が出るくらいにのめり込め、それを突き詰め、そして極めて私に届け」

 

 棒を握らせた手を、更に上から包み込んで動かす。

 困惑する霞の前で、伽藍の白く細い首に、その棒が押し付けられる。

 

「いつか、刀を箸にし呪術を混ぜて、縛りすらも使い捨てる時が来た時には…」

 

 それは歪で、歪んだ本望。

 それは真っすぐで、どこまでも汚れた悪の本能。

 それは、愛という言葉ではくくれない悍ましいもの。

 

「お前が、私の首に届くほどになったら」

 

 威圧的でも、自暴自棄というわけでもない。

 ただの常識なのだ、彼女にとって敗北は死、そしてその死は最も価値があるものでありながら、今の彼女が忌み嫌うもの。

 両面宿儺は死後呪物となり、長い時をかけて今も復活を待っている。

 呪いの世界を、あの平安の時代を作ったのは宿儺だ、宿儺がいたから呪術が発達し、宿儺がいたから怨嗟の嵐が生まれた。

 しかしそれは、()()()()()()()()

 

「…霞」

 

 両面宿儺を超え、呪いの王の座を奪う。

 かつて奪われた、同じ言葉でありながら自らの誇りでもあった()()()()を奪還し、初めて自分は"伽藍"となれる。

 超える、彼以上に歴史に残る、王の何かを達成して初めて、本当の意味で宿儺に勝てる。

 呪術全盛の時代は、宿儺が呪物となって居なくなったのを機に衰退していった。

 たとえ人知を超えた災害であろうと、いなくなれば風化して消えてしまう。

 宿儺でも抗えなかった、その自然の理に。

 

「私を台風の目に、そしてお前がその引き金を引け」

 

 自分が死んで、世界が変わればそれでいい。

 負けるつもりは毛頭ない、死も敗北も、今はまだその時ではないから。

 だが絶対はない、絶対がないからこそ呪術全盛の世は終わりを迎え、こうして腑抜けた時代が訪れた。

 安寧を貪る腑抜け、それらが跋扈する世で、自分の死を意味がある物にできたのなら――

 

「……」

 

 日下部も霞も、ただ静かにその言葉を聞いた。

 戦いを求め、勝利を渇望し、そして敗北を忌み嫌っている筈の彼女が見せた「殺してくれ」というその言葉。

 歪んだ願望だ、どこまでも他人のことを考えず、自分の名誉と快楽を求めただけの下種以下の欲望。

 ――ただ、その言葉は間違いなく。

 

「お前が、私を殺して見せろ」

 

 間違いなく、この言葉は呪いそのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――時は流れ、西暦2016年。

 

「来ちゃダメだ――里香ちゃん!」

「リカ?」

 

 記録、11月東京。

 同級生による執拗な嫌がらせが原因となり首謀者含む、4名の男子生徒が重傷を負う。

 

 

 

 

 そして、0の物語が始まった。 




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