黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 伽藍の領域はめちゃくちゃ考えて作ったので効果とかバシバシ考察してください。
 ちなみに作者の好きなキャラは上から順に羂索、パパ黒、大道、理子ちゃんです。


3話.黄泉返り

 呪霊を祓ったことを認めた途端、伽藍は車に閉じ込められた。

 抵抗はしない、ここで事を荒立てるよりもこの男に着いていった方が面白そうだと直感したからだ。

 しかし彼女は未だ"車"を知らない、今この瞬間も「牛車の一種か?」と勘違いをしたままである。

 

「で、まさかとは思うが、このまま私を牛なし牛車ごと荼毘に付すつもりか?」

「牛なし…?なんのことだ」

「とぼけるな、今こうやって私を運んでいるこれだ、随分便利なものだな」

「………もしかして車のことか?」

「くるま…ほう、これは車と呼ぶのか!呪力を使わずに動く絡繰り…どういう原理だ?」

「車を知らない…?いやまさか…」

 

 呪霊を祓ったことを認めた瞬間、「着いてきてほしい」の一言で、自身を動かしたこの男。

 伽藍は男を見つめ、先ほど死んだ男とはレベルが違うことを歓喜した。身体も出来上がってるし、何より目がいい。何より今も、こうして警戒心を解いていない。

 確かに、正体不明の誰かが呪霊を祓ったからと言って、それが味方とは限らない…賢明な判断だ。

 

「私はこれからどこに連れていかれる?お前が頭ではないのだろう?他の、今の呪術師の集まりか?」

「…君は」

 

 まず、最初は疑問だった。

 

「今までどのように生活をしていた」

()()()のは最近だ、その前なら…そうだな、殺した相手の身ぐるみを剥いで過ごしてた」

「起きた、とは」

「受肉だよ、呪物が人体と融合して…わかるだろ」

「…君が呪霊とは思えないが」

「別に呪霊だけが受肉をするとは限らない、私がそうであるようにな」

「そうか」

 

 男は、それ以上伽藍に何かを聞いてこなかった。

 そして、少しばかりの沈黙。それを破ったのも男からだ。

 

「私たちが今向かっているのは、呪術高等専門学校」

「こう、とう…なんだ何の場所だ」

「君に合わせて言うなら…そうだな、寺子屋だ」

「…寺子屋とはなんだ?*1

「………は?寺子屋を知らない…?」

 

 その答えがよほど衝撃的だったのか、男はサングラス越しでもわかるほどに、顔を驚愕で染めて言葉を失う。

 そして問う。

 

「君はいつの時代から来た」

「…?あの時代だが」

「そうではなく…寺子屋がない時代…呪術師……まさか…!」

 

 ()()()。男が目を見開いて伽藍を見た時、伽藍もまた、ニヤリと笑ってそれに答えた。

 

「君が生きていたころ、一番有名だった人間の名は」

「両面宿儺一択だ、あいつは強いぞ」

 

 

 

 

 

 今の伽藍は、呪力で編みこまれた縄で完全拘束された状態だ。

 そして目の前には数々の障子と、うっとおしいほどの視線。

 

 そして、彼女の内心は、1つで染まっていた。

 ――おのれ羂索、絶対殴る。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 ただでさえ、薄布一枚だけで移動を重ね、その結果際どい恰好になっているというのに、更にその上から雑に縄で拘束…そういう趣味嗜好を疑ってしまう。

 しかし伽藍の精神年齢はあの頃のまま、毛ほども動揺せず、今もつまらなそうに虚空を見つめていた。

 

「すまない、出会ったばかりの少女にすることではないのは理解している」

「気にするな、私はもうそんな歳ではない」

「いやそれは…なんでもない」

 

 どこか「それは違う」とでも言いたげに言葉を濁すのは他ならぬ、伽藍をここまで送ったサングラスを付けた男、夜蛾正道(やがまさみち)

 そんな彼に、彼女は好奇の目を向ける。

 

「…ほう?お前はいい目をしているな、機会があれば是非相手を願いたいものだ。勿論本気(殺し合い)で」

「勘弁してくれ」

「おや?淑女の誘いを断るのか?」

「推定特級呪霊を難なく祓える腕に…あの呪術全盛期から蘇った存在。一級の俺では身に余る」

「ククク…いやなに、冗談さ」

「心臓に悪いな」

 

 ――勿論、本気なわけないだろう?

 いちいち殺し合いをするのに「今からやろう」なんて萎えることはしない。伽藍はそう内心で笑い、夜蛾を見て呪力を滾らせる。

 ――嗚呼。どうせ殺すなら、真正面から首を落とすさ。

 

「…呪力を抑えてくれ、上層部からの印象が悪くなる」

「いやすまんな、若い身体だと我慢が効かん、その気にさせたお前が悪い」

「誤解を招く言い方はやめてくれ」

「つれないな」

 

 カッハッハと心底楽しそうに、伽藍はこの待ち時間を楽しむ

 そんなこんなで、更に拘束されたまま時間が過ぎて、おしゃべりの時間は終わった。

 次第に1つ、2つと連続して目の前に障子が現れ、そこから声が聞こえる。

 

『お前が受肉した術師か』

「口の利き方に気を付けろよ小僧、先人は敬うものだ」

 

 障子の向こうから聞こえる、ほんの少し警戒の混じった老人の声。

 ――なるほどこいつらが今の"頭"か。伽藍はそう、程度の知れた相手を見下して笑う。

 

 

 

 

『呪霊でもないのに何故受肉できた』

「知らん、もし知ってたとして、お前に教えると思うか?」

 

 嘘である。そもそも伽藍は羂索との「縛り」で、このことを誰かには話せない。

 

『いつの時代の呪術師だ』

「知らん、私は私の生きた時代の名などどうでもいい」

 

 これは本当である。伽藍本人が知っているのは"あの時代"であることのみ。

 だが「あぁそうだ」と、彼女が口にしたことで事態が変わる。

 

「いや、嗚呼…――宿儺だ。私は宿儺と同じ時代を生きていた」

 

 空気が凍る。「まさか…」「本当に…」と、障子からの声がうるさく顔を顰める。

 だがそうだ、宿儺は今でも、1000年経とうとも変わらず言い伝えられている。その事実に歓喜し、それと同時に再び決心する。

 

 ――だが、いつか必ず超えてやる。

 

「あいつの従者ともやりあったこともあるぞ?中々強かったな」

『宿儺は…宿儺のことはどれだけ知っている!』

 

 伽藍の言葉に興奮を抑えきれない様子で聞く老人。しかしこの様子を見て、伽藍は、はてと思う。

 もしや、言い伝えられてる宿儺の情報はそれほどなのか?と。

 

「それに答える前にいいか?この時代では、宿儺はどれだけ知られている?」

「俺が話そう」

 

 そう言って、出てきたのは夜蛾。

 あまりに自然な流れからか、伽藍はクスっと笑いながら言う。

 

「いいぞ、聞かせろ」

「1000年前…君が生きていた時代。平安時代にいたとされる()()、それが仮想の鬼神と同じ名を持つ術師…両面宿儺」

「フン、人間ねぇ…」

 

 まぁ、あんなでも人間だというのだから、不思議なものである。

 目は4つ、腕も4つに腹にも口があるときた。あんな悍ましい姿でも、自分と同じ人間、不思議なものだと伽藍は笑う。

 

「平安…そうか平安か……で?」

「呪術師が総力を上げ挑み、そして負けた…呪いの王」

「ふむ、これも合ってるな。それで?」

「…これだけだ」

 

 ………………ん?

 伽藍はピタリと身体を硬直させて、問う。

 

「ん?それだけ?」

「これだけだ」

「術式は」

「わからない」

「本気か?」

「本気だ」

御厨子(みずし)もか?」

「みず…?」

 

 会津の構築術師でさえ知っていた、宿儺の御厨子も何も知らない。

 その予想外の答えに、伽藍は今までで一番驚き、動揺した。

 

「…誰も見てないのか?書き残してないのか?あいつの力を?」

「呪術全盛期の術師たちが全員で挑んで負けたんだ。そんな化け物に後から立ち向かえる者がいると思うか?」

「私はよく会いに行ったぞ」

「………………」

「なんだその顔は?さては信じてないな?」

 

 確かに少し語弊がある。確かに会いには行った…が、あくまでもそれだけ。

 

「流石に老体では分が悪い。私が相手したのはその従者だ」

「…先ほども言っていたな、あの両面宿儺に従者がいたのか?」

「あいつもそれなりに強かったぞ?あの宿儺が傍にいることを許した存在だ、弱いわけはないが」

 

 裏梅。あれもまた、羂索と手を組んで受肉でもしているのだろうか。

 かつてよく血をぶつけ合ったその存在を思い、伽藍は目を細める。

 

「いつか、この身体で相手したいものだ」

「何か言ったか?」

「いいや何も」

 

 しかし困った。伽藍は内心の焦りを表に出さず、そう思う。

 ここで宿儺の従者という、裏梅の情報という手札を切ったのは痛い。彼女はこれ以上、彼らの喜びそうな情報を知らないのだ。

 というより、宿儺の能力に関する情報は、他ならぬ彼女自身も欲しがっていたことなのだが…

 

「でだ。私はこれからどうなる?殺すか?それとも生かすか?」

『ふむ…そうだな』

 

 障子の向こうの声が、更に騒がしくなった。

 平安から蘇った呪術師…それも受肉だ。本来呪霊に起こりうるはずのそれにどう対処したものか…そういう雰囲気を隠さない。

 そして、結構な時間が過ぎて。

 

『考えがある』

「ほう?言ってみろ」

『私たちとある「縛り」を結ぶならば釈放する』

「いいぞ、では聞こうか」

 

 「縛り」それは呪術における一種の誓約。

 呪術師呪霊関係なく、「呪い」の因果にある者たちに発生する命の鎖。

 縛りを破れば罰を受ける。それは天が定めた世の法則であり、それは()()()()()()()()行為だからだ。

 

『まず大前提として「我々に危害を加えない」だ』

「危害とはどこからだ?お前の首を落としに行く場合か?お前たちの悪意に抵抗する場合も含まれるのか?」

『それは…』

「ゆっくりでいい、互いに確認していこうか」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 縛りを結んだ。内容は3つ。

 

 1.上層部含む、あらゆる呪術師を直接殺してはならない。(ただし呪詛師は例外)

 2.対象が呪詛師かどうかは、呪術規定内の「どれか一つにでも該当した場合」で判断する。

 3.この縛りの期間は、上層部によって定められた呪術規定条約が次に更新されるまでとする。

 

「一応のため監視は付けるが、これで君は自由だ」

「夜蛾、お前は今の私が本当に自由だと思うか?」

「…いや」

 

 監視なら好きにすればいい。人の視線程度が、伽藍という人間の生き方を変えるほどの力があるわけでもない。

 それじゃない、そうじゃない。監視程度が、彼女の自由を妨げるものなはずがない。

 

「監視ではないのなら…縛りか」

「半分正解、と言ったところか」

「上層部の人間は、もう条約を変えるつもりはない、つまり君の縛りは…」

「知ってるさ」

 

 伽藍の縛りは半永久。呪術規定条約は、最後に更新をしたのが数十年前、そう簡単に規則を変えて、下の者が上に付いていくはずもない。

 彼女と縛りを結び戦力にする、そして条約を一生変えずに、彼女という戦力を飼ったままに…それは別にいい。

 

「渡された呪術規定の…この…マニュアル…といったか、これを今から暗記しなければならない」

「呪詛師か」

「そうだ、縛りの関係で、私は相手を瞬時に呪詛師として当てはまるかどうかを認定する必要がある」

「それは…」

 

 夜蛾も途中で気が付いたのだろう、彼女が言っている言葉の意味が。

 呪術師としての仕事で一番優先されるのは呪霊だ。呪霊を祓い被害者を救う。

 呪詛師の討伐も仕事には入っているが優先度は低い。だが伽藍という人間にとっては。

 

「私は殺し合いが好きだ」

「……そうか」

「反応が薄いな、てっきり何故だの理由を根掘り葉掘り聞いてくると思ったが」

「君は呪術全盛の人間だ、現代の常識は通用しない」

「そうだ、私は適度に殺し合いができればそれでいい、この縛りも我慢するさ」

 

 ――まぁどうせいつか、この縛りも()()()()()()()()

 伽藍にはある確信があった、故にそれまでの辛抱だ。

 

「最後に一つだけいいか」

「いいぞ、聞こう」

 

 伽藍はそう言って、振り返って夜蛾を見る。その声や表情からして、きっとそれは彼にとって重要なこと。

 

「君はなぜ呪術師になった、そして今も続けている?そのモチベーションは」

「もちべーしょん?」

「やる気だ、続ける意味だ、なぜ呪いを扱う」

「そんなの決まっているだろう?」

 

 伽藍の目的は、たった1つ。

 

「呪いの王を殺したい。たったこれだけだ」

 

 

 

 

 

「あとこれはどうでもいいことだが」

「なんだ」

「そのサングラスとやらはやめたほうがいいな、少し硬い」

「…そうか……」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「あとは頼みます楽巌寺(がくがんじ)()()

「あぁわかった」

「ふむ…呪詛師の認定とはかなりややこしいようだな…書かれている内容は比較的わかりやすい文体のはずだが…代わりに文章量が多い…本末転倒だろうが」

「…あいつがか?」

「えぇそうです。平安時代…宿儺と同じ、呪術全盛の時代を過ごした呪術師…その黄泉がえりです」

「方法は?」

「呪物となって受肉したと、ただ方法は自分でもわからないとのことです」

「そうか」

 

 車に乗り、後部座席で1人、分厚いマニュアルに見入り、その中身を必死に暗記中の伽藍。

 そしてそれをミラー越しに観察するのは、車を運転する夜蛾と…助手席に座るもう1人の男。

 

「大体"非術師に危害を加えた場合"とあるが、どこまでが危害だ?殺しは論外として呪いは?強さによっては不問になるのか?例えば相手の肌を痒くするとかだ、どう思う?このような子供の悪戯みたいな呪いは"呪詛師"として認定されるに値するのか?」

「…あいつは何を読んでいる?」

「呪術規定第9条…呪詛師認定の条件を確認しているようです、…縛りの関係ですぐに殺しても罰を受けないようにと」

「野蛮だな」

「宿儺のいた時代ですから」

「おい」

 

 マニュアルを閉じ、目の前で話し合う2人に、伽藍は話しかける。

 

「ところで私はどこに行くんだ?あと隣の男は?」

楽巌寺嘉伸(がくがんじよしのぶ)、君がこれから向かう場所の頭だ」

「ん?夜蛾、お前じゃないのか?」

「俺は東京だ、そして君が今から向かうのは、京都の姉妹校だ」

「しまいこう…とやらはわからんが…京都…京か!まだ生きていたのか!」

「ついたぞ」

 

 扉を開けられ、伽藍はそのまま外へ出る。

 そして目の前にある、巨大な校舎をその目で見た。

 

「ここが、呪術高等専門学校か」

「そうだ、楽巌寺先生あとは頼みます」

「わかった」

 

 伽藍が目の前の校舎に夢中になっている間に、夜蛾は車に乗って帰ってしまった。

 彼女からしても、彼の車はとても乗り心地が良かった故に、少し残念だ。

 そして、隣に立つもう一人の男に話しかけられて。

 

「楽巌寺嘉伸。ここで教師をやっている」

「私は伽藍、知っての通り平安から来た」

「ついてこい」

 

 そう言って、歩き始めた楽巌寺の背中を追って、伽藍は歩き出す。

 木目模様の美しい、壁や天井の景観に目を奪われて、問う。

 

「何故ここはこんなに広い?術師がそんなにいるのか?」

「逆だ、呪術界隈は毎日人手不足だ」

「じゃあなぜ」

「この学校は元々非術師が使っていた施設だった、呪術師と非術師、どちらの方が数が上だと思う」

「なるほど」

 

 なるほど、それならこの大きさも頷ける。

 

「呪術全盛を生きた私はここで何を学ぶ」

「呪術だけを学ぶならば学校の意味がない。現代の知識を、常識を、学ばなければならないことは無限にある」

「なるほど」

 

 そうしてしばらく歩いて、扉の前で2人は止まった。

 

「お前は今日から、ここで一人の生徒として授業を受ける。生徒は今のところ…全員で3人だ」

「つまり、この向こうに2人先輩がいるわけだ」

「いや1人は任務でいない、向こうにいるのは1人だけだ、今はわけあって京都に来ている」

 

 扉が開いて、中にある教室の全貌が見える。

 伽藍が今までに見たことのない形の、木製の机と硝子で出来た壁。

 そして。

 

「…………………」

「お前がえー…なんだ?」

「クラスメイトだ」

「そうそれだ、くらすめいと、というやつか?」

 

 夜蛾が車の中で言っていたなと、伽藍は納得して目の前の少女を見る。

 しかし何故か、少女は目の前で先ほどからずっと固まって…わなわなと震えているのだろうか。

 そう疑問を感じると。

 

「な…」

「な?」

「な、な…っ!なんて格好してるのよアンタ!!!」

 

 ………………

 

「あ、まだ布一枚だけだったな」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「うん!やっぱアンタはスーツの方が似合うわね、カッコいいわよ」

「これが現代の衣類…動きやすいな、蹴り技も問題ない」

「ちょっ!いきなりそんな足上げたら…」

「む、破れたな。前言撤回する」

「この馬鹿ッ!!!」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 あの後、瞬時に伽藍の身体をかばう形で上着を被せた後、凄まじい勢いで更衣室に入ってからは早かった。

 そのあまりの速度に、生前の老いた状態の自分なら余裕で追いつけるんじゃないか?と思ったほどだ。

 

(いおり)…そろそろ時間じゃ、…な、いですか?」

「歌姫でいいってば、あと敬語も、じゃ行きましょうか」

「あぁ」

 

 庵歌姫。伽藍が生徒としてくる少し前から、入学が決定していたらしい彼女。

 「つまり先輩ってわけよ」なんて言いながら、きらきらした瞳をした彼女のあとを、伽藍は着いていく。

 星々だったり、譜面が空中に浮かんでるようにも見える。よほど気分がいいらしい。

 

「お待ちしていました。運転も私がさせていただきます、では後ろへ」

「ほう…」

 

 さしずめ移動係といったところだろうか、伽藍は目の前にいる、スーツに身を包んだ女を見てそう推測する。

 先ほどのように、車の後部座席に座って、"窓"の女性の声を聴く。

 

「任務の内容は…参…あぁいや、3級呪霊の群れを討伐だったか」

「そ、ビルの中に6か7はいるって"窓"の人が言ってたわね」

「まど?」

「あーそっか、窓って言うのはね…」

 

 "窓"、それは呪霊は見えるが祓う方法を知らない者、もしくは戦いを恐れて前線に出れなくなった者たち。

 今もなお命を消費する呪術師のために、命を懸けて戦う以外の作業を行い、非術師から存在を隠すために"帳"を下ろしたりする者。

 歌姫のその説明を聞き終えた後に、伽藍は問う。

 

「つまり、窓の仕事は帳を下ろすことか?」

「うーんまぁ簡単に言えばそうなるわね」

「そう…か……歌姫は帳を下ろせないのか?」

「私?うーん…完璧にできるって訳じゃないけど…一応ね、というか完璧に結界術を使える人なんてなかなか居ないし」

「ほう…」

 

 結界術は術式と同じく、本人の才能に依存する技術だ。なるほど確かに、そう考えると帳も下ろせて、なおかつ呪霊を祓えるという存在はかなり珍しいのだろう。

 ただし中には、ただでさえ高い技術を持っているのにも関わらず、努力でそれを神業に昇格させた、ある物好き(羂索)もいるが…あれは別の意味で論外だろう。

 

「着きました」

 

 伽藍が旧知の人間を思い返しているうちに、どうやらもう目的地に着いたようだ。

 車から降りると、目の前から感じる、違和感と吐き気のする気配。これは…

 

「ここに呪霊が…」

「人が死んでるな」

「…えっ?」

「めんどくさい、さっさと終わらせるか」

「ちょ…」

 

 帳を降ろすのを待たず、我先にと駆け出す伽藍。

 慌てて着いてくる歌姫を無視して、彼女は先に建物の中に入る。

 

「ちょっと待ちなさいってば!」

 

 伽藍が立ち止まると同時に、今度は腕を引っ張られる。

 鍛えた体幹でバランスが崩れるのをなんとか抑え、顔を向ける。

 

「どうした」

「どうしたじゃなくて…帳もまだ下ろしてないのに」

「大丈夫だ、早く終わらせよう」

「…その前に!」

 

 びしっ!と目の前に指を立て、更に近づき一歩距離を詰める。

 

「まずは生存者の確認!さっき窓の人から聞いたんだけどここに一般人が…」

「いや、もう死んでるだろう」

 

 酷く静かなこの空間に、彼女の言葉がよく響く。

 互いの無音が、とても居心地が悪い。

 

「…理由を聞いてもいい?」

「匂いだ、あの時代で腐るほど見てきた、聞いて嗅いできた死の気配」

 

 まるで鼻が腐り落ちそうな、今や慣れてしまったあの匂い。

 それが、建物の外からでもわかるほどに強くなっている、それ即ち。

 それを伝える、教える。それでもなお

 

「…それでも」

 

 力強く手を握ってなお、歌姫は伽藍を見つめ返した。

 

私たち(呪術師)は最後まで信じてあげないと…でしょ」

「…あぁそうだな」

 

 強い意志だ。まるで、踏まれる前の花かと思っていたこの少女は。

 踏んだ者の足を切り裂く、鋼の造花であったらしい。そう実感した。

 

「じゃあ行こうか先輩、最後まで信じてやろうか」

「えぇ」

 

 だがしかし

 

『あアア…』

「えっ」

「あ」

 

 少し喋りすぎたようだ、しかも呑気に一塊になって立ち止まって。

 ふと前を見ると、彼女たちと同じくらいの大きさの、人型呪霊が。

 

『アアア!イカナイデ!イカナイデェエエエエ!!!』

「…っあぶ」

「――殺す」

 

 瞬間。術式を発動、今回は骨の強化と増長のみ。骨が右手首から刃物のように露出して血をまき散らす。

 加速して走り出し、そして通りすがりに呪霊の目に、手首から露出した骨をそのまま突き刺す。

 

『エ、エ"エ"エ"…ッ!?』

「さて」

 

 腕力に任せて腕を叩き切る、右を切った後に今度は足を、左も切ってその次に胴を。

 そして首だけを残してから。

 

「去ね」

 

 そのまま足を限界まで上に伸ばし、地面に向かって振り落とす。

 

 ――バゴン

 

 まるで果物を高所から落としたかのように、呪霊の血液が綺麗な円状になって地面に染みを作った。

 そんな彼女の一連の動作を見て歌姫は固まり。そして震えた。

 

「少し油を売りすぎたか…さぁ行こうか歌ひ…」

「………………」

「歌姫?」

「…刃〇のかかと落とし…?」

「〇牙?」

 

 残念だが、平安出身にそれは通じなかった。

*1
寺子屋の起源は室町時代、つまり平安より後




 伽藍
際どい服装のまま3話出演した主人公。
え、エロくないですか?薄布一枚で戦う三輪ちゃんボディエロくないですか?私はエロいと思います。
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