黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 呪術本誌面白すぎたんで急遽書きました、平安アミーゴです。


じゅじゅさんぽ.裏梅

「………………おい羂索」

「どうした裏梅」

「…なんで、なんで…コイツが、いるんだ…?」

「………面白そうだったから?」

「貴様、そういうところだぞ…!」

 

 8月、まだ夏の日差しが肌を刺す、そんな季節の昼下がりに、ある3人が集まっていた。

 透き通るように穢れのない空気、他に人の気配を感じないほどの山奥の一軒家、そこの庭。

 3人は円形のテーブルに、三つ巴になる形で座っていた。

 

 1人は、額に傷を残し、全身を住職を思わせる、黒い袈裟を着た男、羂索。

 1人は黒の和服を着た、赤の混じった、男か女かわからない、白髪のおかっぱの子供、裏梅。

 そして、リネン僧を彷彿とさせる、動きやすく改造された、真っ白な服に身を包む銀髪の女、伽藍。

 

 腕をついて、不遜の態度を崩さない伽藍を、歯軋りをしながら睨みつける裏梅と、それを愉快そうに笑って見つめる羂索。

 奇妙なこの集まりの最初の話題は、時間の経過で熱を上げる夏の日差しとは反対に、裏梅の周りの気配が冷たく研ぎ澄まされていく様子から始まった。

 羂索は目線の先にある、真っ黒に染まる謎の球体に餡蜜をまぶし、そしてそれを器用にスプーンですくって飲み込んで、話した。

 

「ん…まぁ落ち着きなよ、それに君が危惧してることは起きないさ、理由はどうあれ、彼女も宿儺の復活を望んでるからね」

 

 どの口が。裏梅はそう吐き捨てるのを堪え、目の前の伽藍に続きを促す。

 

「…そうなのか?」

「あぁ」

 

 伽藍の目的は、呪術全盛の時代を生きた者ならば全員が知っている。

 だからこそ、裏梅はこの女が信用できない、この女が嫌いで仕方ない。

 己が敬愛する、偉大な王に牙を剥くこの女が。

 

 どうしようもなく、裏梅は嫌いだった。

 

「私も本音を言うと、宿儺には早く自由になって欲しい」

「ほらね?」

「あと早くブッ殺してやりたい」

「…ほらね?」

「どこがだっ!」

 

 バァン!と、机が割れそうになるほどの力を手に込めて、裏梅は立ち上がった。

 

「そもそもだ!羂索、お前が私以外の術師を蘇らせるのは『死滅回游(しめつかいゆう)』を始める時にだろう!?」

「あー、アレだよ、伽藍も君と同じく特別ってわけ」

「何故今なんだ!それにコイツは確実に宿儺様の邪魔をする!今すぐに殺してやってもいいんだぞ!?」

「なぁ羂索、死滅回游とはなんだ?」

「…あ、そういえば説明するの忘れてた」

「ふざけるな!」

 

 キッと、目を鋭くして裏梅は、伽藍へ更に敵意を剥きだしにして、聞く。

 

「伽藍、貴様…羂索の計画はどれくらい知っている?」

「五条を封印するつもりなのは聞いた」

「それ以外は?」

「知らん」

 

 より一層険しくなる裏梅の殺気、並みの人間ならば失禁し、気絶してもおかしくないそれを、羂索は勿論、伽藍も笑って受け流した。

 

「何度でも言うが、私は呪霊が仲良しこよしで集って革命ごっこをしようが、五条が封印されて日本が滅茶苦茶になろうが…心底どうでもいい」

「うわっ冷た~…君一応同級生だったんだろ?」

「知るか、だが……"成った"直後の、あの天上天下の状態は好きだったな」

「あー…アレかぁ、アレは確かに凄かった」

「腑抜けて調停を選んだ今のアイツに、あの頃の魅力はもうない…くたばるなら勝手にくたばれ。これだけだ」

 

 伽藍は呪術師だ、だがあくまでもそれは、受肉直後に結んだ縛りによってのみ。

 彼女の本質は、どこまでいっても闘争心しかなく、調停や弱者の庇護など眼中にない。

 たったそれだけ、裏梅が懸念していた最悪の事態、あの頃と違って若返った、この闘鬼が敵ではないことが唯一の安堵。

 

「にしてもだ…羂索、計画の大前提である天元の、術式対象化のための同化失敗に、六眼(五条)への対策の獄門彊、そしてそれを成功させるためのガワ(夏油)に、更にそれがたまたま、天元を吸収するために必須な呪霊操術持ち!運がいいなんてものじゃないだろう!?」

「だよね?私も滅茶苦茶びっくりしたもん」

「1000年コソコソ意地汚く生きてきただけあるんじゃないか?本当に偶然か?運が良すぎないか?面白すぎるだろう!?」

「だよね~!」

「今まで散々六眼の因果に苦しめられたからな、これくらいの仕返しは許されるだろう?それに、今のお前を見た五条の顔が楽しみだ…ハッ!天元め、いい気味だ!」

「そうそう、やっと肩の荷が下りるよ…な~んて!」

 

 アッハッハッハ、ガッハッハッハ。

 

 1人、怒りで震える裏梅を前に、2人は息の合った笑いを見せた。

 裏梅とて理解はしている、目の前の男がどれほど、己の計画の為に因果と戦ってきたか。

 それがようやく晩成の時を迎えるかもしれない、その喜びを共有できる相手が、今こうして目の前にいる。

 羂索の喜びも、仕方がないものかもしれない。

 

 しかし、それでも。

 

「まぁとにかく、伽藍は私たちの邪魔はしないよ、呪術上層部との縛りで、術師としてしばらくは仕事続けるけど」

「仕事中の私に会うなよ?私はオンオフ切り替えるタイプの人間だからな」

「えっ?君って元から殺すと倒すしか選択肢ない人間じゃん」

「失礼な、最近は手加減を覚えた」

「あはは、絶対嘘だ」

 

 どこまでも幼稚で、そのくせ誰よりも徹底的に、その欲望を叶えるために生きる男。

 羂索が何故、伽藍という女に目を付けたのかは詳しく知らない。

 だが、こうして本当に楽しそうに、顔を崩して笑うその顔には、確かに――

 

「安心しろ裏梅、宿儺が完全に自由になるまで、私はお前たちの邪魔はしないと誓おう」

「…フン、その言葉、忘れるな」

 

 裏梅と伽藍、2人の間にある感情は、1000年の時を経ても変わらない。

 いや、正確に言えば、伽藍は裏梅に対して、どちらかというと良い感情を向けている。

 だが裏梅は別だ。

 

「君ホント伽藍のこと嫌いなんだね」

「羂索、お前の許可さえあれば今すぐにでも…」

「あー駄目駄目駄目!全く漏瑚といい君といい…カッとなるのは似てるんだから」

 

 嫌でも思い出す、1000年前のあの日々を。

 毎日のようにしつこく、うるさく、どこまでも追いかけて奇声をあげて、自分たちを追いかけたこの女。

 裏梅が今日こそ殺そうと戦闘になれば、期を見計らい引き分けに持ち込み。そしてまた翌日訪れる。

 そして何より、偉大な主である宿儺が直接顔を見せれば、一目散に逃げ出すのだ。

 

 その時の、主の呆けた顔は今でも忘れられない。

 

 毎日毎日、宿儺を出せと叫びながら刀を振るい、いざ宿儺に殺されそうになれば、恥を投げ捨て即座に逃げる。

 毎日毎日毎日、毎日毎日毎日…

 そして時たま、同じく宿儺へ執着心を向ける、会津の術師と仲間割れ(…?)を起こして殺しあう。

 

 裏梅は、伽藍が死ぬほど嫌いだった。

 

「……………………チッ」

「めっちゃ溜めたね今」

「気が進まんが…本ッ当に気が進まんが…!」

「なぁ羂索、私は裏梅に何かしただろうか」

「えっ自覚なし?マジ?」

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「お前は相変わらずだな」

「そっちこそ」

「狂ったように戦いを求める、その身の程知らずは治らんのか」

「治そうとも治したいとも思ったことはないな」

 

 ――気に喰わない。

 

「宿儺様の手を煩わせる前に、私が今ここで殺してやってもいいんだぞ」

「やめておけ、昔はともかく、今の私に勝てるのか?」

「試してやろうか?」

 

 ――気に喰わない。

 

 息が詰まりそうになるほどの熱気、伽藍の呪力によって生まれたその炎。

 肺が凍り、壊死しそうになるほどの冷気、裏梅の呪力によって成される氷。

 互いの、刃物のように鋭い視線が交差して、気の抜けた、伽藍の声で霧散した。

 

「興が乗らん」

「ほう、なら私から行くぞ?」

「それに、他ならぬお前が私と闘る利点がない。本気じゃないことくらいわかるさ」

「…………」

 

 ――本当に気に喰わない。

 

 まるで敵なんていないように、1人ベランダでくつろぐこの女が。

 あの、平安の頃から変わらない、どこまでも無関心に達観した、それでいて好奇に突き進む、矛盾した生き方。

 そして何より、その自己を中心とした在り方が、敬愛する主のそれと、どこまでも似ていることも。

 

 気に喰わない。

 

「…気に喰わない」

「気に喰わん、か」

「あぁ、気に喰わん」

「そうか」

 

 苛立つ。

 こちらを挑発しているつもりも、悪意をもって接しているわけでもなく、これが平常。

 その、どうしようもなく自由な在り方が、どこまでも気に喰わない。

 こうして殺気を向けてる間も、意に介さずにいるその姿も。

 

 ――殺せるだろうか?

 

 一瞬、裏梅の脳裏に走る、そんな疑問。

 互いの肉体は最盛期、たとえ若返ったとはいえ、よほどのことがない限り、伽藍に不覚を取ることはないだろう。

 一瞬旧知の仲の、胡散臭い男の顔が思い浮かんだが、しかしそれでも――

 

「闘るか?」

「……興が乗らないのではなかったか」

「今は違う、少なくともお前が、私と闘る意を見せた」

「…………」

「理由はこれでいいだろう?」

 

 ――あぁこれだから。

 

 この好奇を見つけた時の、この顔が。

 どこまでも、呪いの王にそっくりで。

 

「断る」

「…そうか、残念だ」

「ここで騒ぎを起こすと、羂索に小言を言われるからな」

「なるほど、確かにアイツの小言は面倒臭いな」

 

 なら仕方ないと、目を伏せて静かに笑うその姿。

 肌はきめ細かく、輝く髪はあの頃の、老婆として自身と渡り合ってきた姿と似ても似つかない。

 それでも、唯一変わらぬその瞳。

 

「宿儺との戦は、何処で闘るのが一番だと思う?やはり京か」

「知るか、それにお前の骨を埋めるの間違いだろう」

「あとは会津か?いや確かあそこは…」

「やめろ」

「あぁそうだ、(よろず)だ!アイツも羂索と契約したのか?」

「やめろ」

「クク…そうだそうだ、アイツの宿儺への恋慕は中々だったな」

 

 なんてことのない、夏の昼下がり。

 山奥の美しい山荘で、どこまでも笑いは続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2ヶ月後。やはりあの時の直感は。

 

「ッヒッハハハハハハ!!裏梅ェエエエッ!!!!」

「この…気狂いがァアアア!!!!」

 

 ――やはりコイツは殺しておくべきだった。

 

 10月、ハロウィンの渋谷にて、やはりあの時の直感は間違っていなかったと。

 横で爆笑している羂索を後目に、裏梅はそう実感した。




 伽藍
宿儺を出せ→あっ宿儺来た!やべっ次殺されるかも…よっしゃ逃げよ→宿儺を出せぇええ!!
これを続けて死ぬほど嫌われた。


 万
宿儺を取り合い殺し合い、女って怖いね。


 宿儺
勝手に争え。


 裏梅
頼むから死んでくれ。


 羂索
草。
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