黄泉返りの国家転覆 作:倉庫
デュエマに10万使ったり、親の仕事場が倒産したり、ついでに卒業式を終えたり色々ありました。
――あぁどうしてこうなった。
自分らしくもない、完全に無駄で、どうしようもなく意味不明な行動。それが、伽藍の内心でずっと廻っている。
彼女が女子会とやらに参加し、歌姫と再会を果たしたあとだ、窓に次の仕事場まで送ってもらおうと車に乗り込んだ。そこまではいい。
そこからだ、そこから彼女の計画が大いに狂った。
己の鍛え上げた直感が、呪力の残り香に反応して「あっちに行け」と騒ぎ出したのだ。
車を止めさせて降りる、その後それに従い、彼女は向かって歩く、そして見えたのは呪霊の生得領域だった。
侵入する、呪霊を祓う。そしてすぐに戻るつもりだったのだ。
「………………ぁあ?」
呪霊の消失と同時に崩れゆく景色、そうして露わになった瓦礫と、消えゆく華美な内装のその向こうに。
――子供がいた。
その隣には、恐らく母親であろう女性と、複数の子供
ありふれた悲劇だ。見えないがために危険を察知できず、知らぬ間に身体を蝕まれる。
そんな様子を、母が怪異に襲われ朽ちていく様子を眺めて、ただの子供が耐えられるものではない。
目はうつろで、開いたままの口からは言葉にならない音が漏れ続けていた。
「はぁ…」
これは、彼女にとってはただの気まぐれだ。
「おい、そこの」
――きまぐれだった。
伽藍の言葉に、子供は振り向かない。
「壊れたか?それともまだ使えるか?」
相変わらず返事はない。
「…………はぁ…」
――捨て置くか?
かつてあの時代を生きていた頃、この程度のありふれた悲劇と、被害は腐るほどあった。
それを今更、子供の一人がそうなったとしても、自分からすれば心底どうでもいい。どうせ置いたとしても、誰も気にしない。
伽藍はそう判断し、子供を無視して帰ろうとしたが、子供は素早い動きで回り込んで、彼女の足にしがみついた。
「……おい」
「…………」
「…………歩きづらいから離れろ」
「………」
「ちっ、餓鬼が…」
その小さな腕を目一杯広げて、今もこうして、彼女の足取りを止めようとする子供。
壊れそうなほど脆く、小さく輝く瞳が彼女を見上げて、そして互いに見つめあった。
おそらく
「つまらん冗談はやめろ」
「…おかあさん」
「違うと言ってるだろうが」
「…ちがわないもん………」
「チィッ…!」
――あぁ本当に面倒臭い。
この子供も、こんなことになった原因である自分自身も。
嗚呼、羂索のやつが見たら笑いそうだ。そう伽藍はため息を吐いた。
■■■
「…………」
「…………」
「おい」
「はっはい!」
「何だ?さっきから?私に聞きたいことでもあるのか?」
「えっ!あ、はいっ、えと…」
「悪いが説明は省く、面倒臭いからな」
「…………はぁ…」
「一体何が…」窓の男の内心はそれだった。
この青髪の子供が、伽藍の何に触れたかはわからない。だが、伽藍の膝の上に座り、向かい合って見つめあうその光景は、まるで親子のように見える。
しかし、この短い付き合いでも、男は理解していた。故に安心できなかった。
知っていたからだ、伽藍という女の精神性というものを。
その間も、子供は手を伸ばして、玩具のように伽藍の頬を掴んで、弄ぶ。
「…ふぉい」
「もちもち」
「しゃわりすぎだ、ひゃやくはなしぇ」
「びよ~ん」
「…糞餓鬼が」
「ぴゃわっ!?」
ビクン!と身体を震わせたあと、子供はケラケラと、楽しそうに笑って伽藍に抱き着いた。
その間も、伽藍の表情は文字通り、何の変化もなく無表情のままだ。
――これだ。
任務の途中で何回も見た。一般人が傷ついた姿も、死体も、仲間が血を出して倒れる姿も。
呪術師はどこか壊れている。それは常に目の前に死が迫り、そして死に触れ続ける弊害と言ってもいい。不幸に慣れてしまう、死を当たり前と思ってしまう。
人の苦しみに、喜びに、どこか歪な反応を見せるようになる。
だが伽藍は違う。
彼女にとって、これら全てが当たり前なのだ。
今でも覚えている。この数週間の任務の中で見せた、彼女の表情と言葉を。
「生き残りはいない。さっさと次に行くぞ、時間の無駄だ」
一般人の死体を一瞥して帰った時の、興味を失った無関心の態度。
「腕?悪いが他人に反転をかけるつもりはない。その程度自分で治せ」
戦いに巻き込まれ、欠損した術師に向ける、弱者を見つめる軽蔑の視線。
「早く立て、死にたいなら勝手にすればいいが、私の手を煩わせるなよ」
仲間のはずの人間に向ける、
――怖かった。
味方だと思えなかった。
仲間だと信じられなかった。
今はこうして子供を抱きかかえてはいるが、それがいつまで続くかがわからないと、そう思ってしまう。
彼女は呪詛師ではない、なのに、今こうして同じ空間にいるだけで、生殺与奪を握られているようで。
「おかあさん」
「…なんだ」
「…えへへ」
「…………」
今でこそ「面倒臭い」で済んではいるが、それがいつ豹変するかわからない。
あの、心を折るような侮蔑の言葉。存在を否定するような冷たい瞳が。
それが、太陽のように純粋な、今こうして笑っている子供に向けられるかと思うと。
男は怖くて仕方なかった。
■■■
面倒な相手だった。
伽藍はそう言って、つい先ほどまでの戦いを思い返す。
今回の呪霊の生得領域は、どうやらあらゆる効果をそぎ落とす代わりに、領域内の時間を外より早くする能力を持っていたようだった。
先に迷い込んだであろう呪詛師たち。そして領域の主である呪霊と、その仲間であろう低級呪霊の群れ。そして他ならぬ伽藍。
勝負は丸三日続いた。
呪霊を祓う。呪詛師を殺す。
呪霊を祓う、呪詛師を殺す。
呪霊を祓って呪詛師も殺す。
呪霊を祓いながら呪詛師を殺し。
殺して殺して、返り血を浴びて飲む。
殺して、殺して、また殺して…
いつしか笑い声が聞こえなくなり、それが他ならぬ、自分自身のものだと気づいた時には、全てが終わっていた。
「ふむ、これで終わりか」
足元でうずくまり、動きを止めた呪詛師の首をはねて、そう呟く。
その時、また血が顔に飛んで、それを舌で舐めてふき取る。
そのおかげで、伽藍の口元は綺麗なままだが、それ以外の場所は全て黒、本来赤いはずの血は、時間の経過により黒く変色し、衣服や髪といった、彼女の全身を黒に染めている。
仕事が始まる前は、真っ白だったはずの仕事着が今や見る影もない。
そしてフラリと。頭を直接湯煎されたような、嫌な感覚が頭を包み込んだ。
「っと…少しばかり飛ばしすぎたか」
たとえ呪霊といえど、生得領域…もとい領域展開時には、時間の概念にさえ手が届くことがある。
今回の場合もそう、いくら体感時間でといえども三日。その間ずっと、無限に近い数湧いて出る呪霊の大群に、術式の仕掛けを見破るまでずっと、伽藍は刀を振るっていたのだ。
そうして不眠のまま、三日間ずっと戦いっぱなしというのは、流石に無理が来たようだ。
「…さて」
目をつむって意識を脳だけに集中させる。
脳の血管一つ一つにまで呪力を流し込み、衝突する呪力の割合を調整していく。
1.3、2.4…3.3――
「――――よし」
シュウウ…と白い煙が全身を包み込み、酷使した筋線維たちと、壊れかけの脳細胞が癒され、そして反転術式による治療が完全に終了した。
「さて」
ぐちゃり、と。醜い音が伽藍の腕、そして呪霊の死体の両方から発せられる。
彼女が腕を突っ込み、右へ左へと傾けて、その奥にある目当てのものを掴んで、取り出して笑う。
「これか…」
それは、この呪霊の最後のあがき。
"周囲に害を及ぼさない"という縛りで自己を保管し、破壊と死から免れる悪足搔き。宿儺の指と同じく、呪物と称される忌み物。
この判断は、きっと本来ならば正しいのだろう。確率は低いものの、いつか受肉を果たし、そして復活を遂げて現世に降臨できるタイムカプセルなのだから。
しかし今回は。
「相手が悪かったな」
伽藍はそう言って、呪物を口に入れ、そのままゴクリと飲み込んだ。
――ドクン!
一瞬、彼女の全身に現れる紋様と、意識の暗転。
すぐに自身の生得領域に引きずり込まれて、目の前の呪霊との、第二ラウンドが始まった。
「い"い"い"、お"さい"せ"」
「死ね」
――パァン!
伸びた刀身が呪霊に突き刺さり、そのまま体内で枝分かれして切り刻む。
再び意識が暗転し、呪物が完全に分解され、消えた。
「ふむ……この程度か」
所詮は呪霊。呪いを糧にできるこの身体でも、得られる恩恵はほんの僅か。
三日間戦い続けた報酬にしては、かなりしょっぱいそれに、伽藍は眉をひそめた。
「…はぁ」
呪霊を祓う、呪詛師を殺す。
まるで
…嗚呼。
――退屈だ。
「お疲れ様です、伽藍さん」
「…なんだ、まだいたのか」
「…?え、えぇ…」
伽藍が帳から出るとすぐ、外で待機していた窓の男に迎えられた。それに適当に返して、そのまま車に乗る。
――そういえば、外ではそんなに時間は経っていなかったか。
そう考えると男の反応も当たり前かと考える。確かに数十分ほど別れただけで「まだいたのか」は疑問に感じるだろう。
そしてぐるりと、何かを探すように首を動かした後、聞く。
「…………おい」
「は、はい」
「…アイツはどこにいる?」
「あぁ、あの子なら…」
「――えいっ」
男がそれに答える前に、調子の良い声と衝撃が伽藍の胸を襲う。
気配自体は察知していたし、隠れていたことも理解していた。だが何のためにかが分からない。故に無視していたが…
「…なにをやってる?」
「おかあさん、おかえり!」
「おい、コイツは何をやってるんだ?」
「…子供というのはそういうものですよ」
「フン、理解に苦しむな」
そう言って、今も抱き着いたままの少女を見て、首を傾げる伽藍。
男はそんな彼女の言葉に、何かを言いたそうな顔をした。
「何だ?」
「…いえ、何も」
「そうか、で。この後の予定は?」
「きゃっ」
目の前にいられると邪魔だから。
伽藍はそれだけの理由で、少女を腕に、腰を乗せるように持ち上げて、顔が隣に並ぶようにする。
すると、少女はしばらくポカンとしたあと、また笑いだす。
それを見て、より一層困惑を深める。
「…わからんな、下ろしてもいいか?」
「もうすぐ着きますから、すみませんがもう少しそのままで、あと…」
「わっ、おかしだ!」
「丁度いい時間ですからね、おやつの時間です」
「ありがと!まどのおにーさん!」
「ちゃんとお礼が言えて
「えへへ…」
車を走らせつつも、器用に会話を続ける男を座席越しに見ながら、伽藍はため息を吐く。
「慣れたものだな」
「任務中、あなたの代わりに育ててますから」
「だから、任務中も私が連れていけばいいじゃないか、前からそう言ってるだろう」
「絶対ダメです」
理解できないと、顔で表して男は続けた。
「あなたの今の格好、客観的に見てくださいよ、真っ黒じゃないですか」
「血は乾いてるからいいだろう、それに匂いしもない。そういう素材だからな」
「あなたはよくても霞ちゃんは違います、あの子に血の雨を浴びせるつもりですか」
「…?ダメなのか?」
「はい、絶対。もし霞ちゃんが戦いに巻き込まれたら…」
「別に死んだらそこまでだろうに」
「っ」
男の身体が強張る。
「…あなたはもし、もしその子が死んでしまったらどう思いますか」
「…?いや別に」
「……私は、あなたが怖いんです」
緊張を解くように、一息吐いて。
「呪術師は死に慣れます、しかしあなたは慣れるんじゃなくて、それが当たり前になってるんです」
「ほう?」
「いつかそれが、その子を傷つけるんじゃないかと」
「…それで?」
「あなたは…その子をどうし」
男の言葉を、伽藍は軽い威圧を込めた、呪力を浴びせて黙らせる。
その凄まじい威圧に、男は冷や汗を垂らしながら、言葉を待つ。
「なぁ?」
「…………」
「随分と言ってくれたが、お前は私が敵になるかも…なんてくだらないことに怯えているのか?」
「それは」
「ハッ、誤魔化さなくていい」
馬鹿馬鹿しい、くだらなさすぎて欠伸が出そうだ。伽藍はそう、男に語り掛ける。
「お前は私の何が気に喰わないんだ?強さか?態度か?あぁそれとも、この前死んだ術師の弔いでもすればいいのか?」
「……」
「私はな、どうでもいいんだよ」
血が沸き立つ喜びも、痛みも。
「どいつもこいつも柔らかくて脆いものばかり、術式だの、呪力だの」
息もできない戦火を、死を。
「御三家だの権力だの、伝統だの誰かのためだの…大義だの」
伽藍にとってはそれこそが至上。
それに以外は知らない、興味ない。どうでもいい、本当にくだらないこと。
「私の望むものはそこにない、だからな」
――私は私の味方なのだからと、そう笑う。
「だから…
「…………」
鏡越しに見える、男の震えた瞳と視線。
自分の望む答えじゃなかったことの落胆と、ほんの少しの軽蔑と。それ以上に。
――彼女を畏れる、恐怖の瞳。
「…ケヒッ」
それが、ほんの少しだけ心地よかった。
■■■
車を降りて、伽藍は霞を片腕に乗せて、目の前にある豪華な門を潜って足を踏み入れる。
京都、禪院家。
呪術御三家の一つとされ、その中で最も武力に優れた組織。
伽藍がここに呼ばれたのは、
「わーおっきい」
「懐かしいな、平安の頃に見た外観とそう変わらないじゃないか」
いくら今の呪術界が昔にこだわる嗜好だとしてもだ、ここまで現代からかけ離れた"和"とは思わなかった。
「ようこそ、いらっしゃいました」
しばらく観察を続けていると、使用人であろう女が伽藍を迎え、軽くお辞儀をして話し出す。
「禪院家当主、禪院直毘人様がお待ちです」
「あぁ」
人形のように、無表情で決められた動きをする女。
その隣で、霞と同じほどの歳の、小さな少女もお辞儀をした。
「ふむ…丁度いいか」
相手の年齢も近い、それに、このまま抱き抱えたままなのも面倒臭い。
そう判断して、伽藍は腕の力を緩めた。
「そこの、コイツの案内を頼めるか?」
「真依、案内を」
「は、はい…」
地面に降ろすと、霞はそのまま走る勢いで、真依と呼ばれた少女に向かう。
そうして、彼女の両腕を掴んで、指を握って笑いかけた。
「わたし、霞です!」
「は、はい」
「三輪霞です!」
「は、はい…」
いくら同年代の子供とはいえ、一応相手は客人だ。
どう返せば良いのかと、真依の態度は硬いままだ。
そして。
「一緒に遊ぼ!」
「そ、そんな…私などでは…」
「別にいいだろう、構わんな?」
「…有難く、真依。無礼のないように」
「行こっ!真依ちゃん!」
「ひゃっ…!」
二人は手を握って走り出す。
そのままあっという間に姿が見えなくなって、子供の笑い声が響きだす。
再び会話が紡がれる。
「感謝します、伽藍様」
「かまわんよ、私自身もアレの相手に困っていた」
女の後ろ姿を追いかける形で、伽藍は歩き続ける。
長い長いその廊下を、歩きながら意識を他に回していく。
(…視線が想像より多い)
ひそひそ、じめじめと、伽藍に向ける疑惑の視線と言葉たち。
友好的ではない、だが露悪的なものでもない。これは…
「あれ、お客様ですか」
廊下の角を曲がる瞬間、聞こえてきた若い男の声。
「蘭太様、お久しぶりです」
「はい、やっと任務が終わったので帰って来たんです、それで…」
視線が合う。
「もしかしてあなたが?」
「平安出身、三輪伽藍だ。蘭太と言ったか?」
「あ、はい」
こほん、と、咳払いをひとつ。
「禪院蘭太です、初めまして」
「あぁ」
「平安時代…呪術全盛期を生きた呪術師…本当にこの目で見れるなんて」
「まぁ確かに、滅多なことがないと見れんだろうな」
「両面宿儺のことも、その目で見たと聞きました」
「あぁ、何度かこの目で見たぞ」
「へぇ…女なのに凄いですね」
そう感心して、何か用事を思い出したのか、すぐに会話を切り上げた。
「じゃあ、あとは頼みます」
「了解しました」
「それでは、いつか」
「あぁ」
そう言って、蘭太は速足で駆け出した。
なるほど確かに、御三家の中でも特に、武力に優れているだけはある。
まだ甘さは感じるが、その立ち振る舞いは間違いなく強者のそれ。これは期待が持てそうだ。
「それでは伽藍様」
「あぁ、それじゃあ…」
「あー、腹減ったわ」
間延びした、男の軽い声が聞こえた瞬間。伽藍の足と息が止まる。
そして、周りのひそひそ話は鳴りを潜め、その内容の鋭さが一段階上がる。
中庭に、全身を痣と傷だらけにした少女が倒れている。
使用人の女は一瞬だけ、その少女に恨みに似た感情を込めた瞳を向けて、そしてすぐに無表情へと戻した。
「最初の数発は問題ないんやけどなぁ、ちょっと本気でやったらこれや」
「っ…!」
「情けないなぁ、妹が見てないからって、こんな惨めな姿見せてええん?」
「足、退けろよ…っ!」
「アハハ、これは笑うわ。まだ痛めつけられたいん?」
「ぐ……」
「あーうざ、どの口でほざいとんねん。ガキ」
ひとしきりケラケラと笑ったあと、男は気分を悪くして、少女の頭を下から思いっきり蹴りあげた。
唾と血を吐いて身体が仰け反り、少女が再び地面に倒れる。
「…直哉様」
「お、丁度ええわ、また真希ちゃん伸びたからなぁ、適当にその辺ほっといてな」
「……はい」
女は当然、この男に文句など言えない。
ただ言われたように作業を行い、彼の意見を肯定する。
伽藍は知っていた、この目の前にいる金髪の男が、どのような立ち位置にいる男かを。
禪院直哉。
禪院家が誇る精鋭部隊、その中でも、選ばれた実力を持つものしか入ることが許されない「炳」の筆頭であり、次期当主最候補。
実力も血筋も文句なし、だが彼が周りに、それを歓迎されない理由はただひとつ。
それがこの性格。
「でや、君は初めて見るわ、誰や?」
「伽藍だ。1級術師をやっている」
「ほー…君が例の?奇遇やなぁ、俺も1級術師やねん。ま、正確には特別1級術師やけどな」
「特別…確か高専に通っていない人間に与えられる階級だったか?」
「流石、物分りが早うて助かるわ」
伽藍の名前を聞いた途端、直哉の笑みの種類が変わった。
相手を見下す傲慢な視線が、今度は相手を試すようなものへ。
「なぁ、パパとの対談ってどれくらいかかるん?」
「さぁ…ただ、それほど時間はかからないかと」
「ま、その時はその時や。それに…こんな機会滅多にないやん?」
「…まさか」
瞬間。直哉の全身を呪力が包み込む。それは既に、臨戦態勢に入ったということであり。
空気が変わる。
「直哉様、抑えてください」
「伽藍ちゃん、ええよな」
「愚問」
――ホォォォオ…!
伽藍の紅い呪力が、空間を歪ませて熱を生む。
呪力特性による熱が、木製の廊下に焦げ目をつけて、更に温度は上がっていった。
そして。
「術式解放…」
――ブチリ
「…マジか」
"それ"は、特別1級術師として数々の修羅場を潜った直哉から見ても、常軌を逸する行動だった。
伽藍の術式は知っていた。骨と肉を創り出し、そして操作するシンプルで強力な術式だ。
だが逆に言えば、術式使用時に起こる肉体の損傷、骨が皮膚を突き出したり、肉が剥がれる痛覚というものが、使用者に襲い掛かる毒だ。
「君、痛覚ないん?ちょっと引いたわ」
「慣れればそうでもないぞ?」
前腕の、筋線維の一つ一つが意志を持ったように、まるで蛇のようにうねりだし、ワイヤーを形成するかのように編み込まれていく。
そしてそれを覆う形で、骨が肉を突き破り、鎧のように成形されていった。
術式と己の血肉で作った、殴り合い専用のグローブ。
「いつでもええで」
「そうか」
互いに腰を落として、腕を向けあい姿勢を変える。
衝突する呪力と戦意に反比例して、周りから音が消えた。
――ゴッパァ!
「チィ…!」
「ッハハハハ!」
互いの
怪我をさせてしまう、してしまうなどという甘い考えは、もはや欠片も頭には残っていない。
空気を切り裂き、それすらも凶器にしてしまうほどの速度で、首を、胸を、互いに攻め合い殺気をぶつける。
直哉は右腕を構える。勿論それは伽藍にも見られている。
幾千、幾万の読みあいの中で、こんな素直な攻撃が当たるなど思ってはいない。
右腕を振るう、伽藍はしゃがんで避ける。
直哉はそこで、あえて更に踏み込んで加速を行った。狙いは――
(首…!)
見事な一回転を果たし、直哉の右足が鎌のように襲い掛かる。
一度両手でしゃがんでしまった伽藍に、これを受ける手段はない。そのままクリーンヒットすると思った瞬間。
(取った――っ!?)
目の前から伽藍が消えた。
(何が…――っ!!??)
そして瞬時に、直哉の顔面に襲い掛かった衝撃。
意識が混濁しつつも、身体は負けじと反撃を繰り出すが、目の前の伽藍には当たらない。
「シャチホコかいな…!」
「一本取ったな」
両腕で身体を支えつつ、先ほどよりも更に低い姿勢で、地面に張り付く伽藍の姿。
そしてまるでシャチホコのように、足裏で蹴りを放つカウンターを繰り出したのだ。
「まだや…!」
「上等」
互いに指を鳴らし、再び臨戦態勢に入ろうと構えた瞬間。
「何をやってるんだお前らは」
乱入者の声で止められた。
「直哉、これ以上やるならこっちにも考えがあるぞ」
「わかった、わかったちゅうねん。うるさいパパやでホンマ」
「伽藍、お前もだ。何喧嘩を買ってるんだ」
「ふむ…続きはまた次回だな」
「次回じゃない、お前たちもさっさと持ち場に戻れ」
その言葉で、静観していた周りの使用人たちが、一斉に散っていった。
たった一言で、辺りの空気を掌握し、そして仕切ってみせた。この男こそ。
「さっさと話を終わらせるぞ、来い」
「あぁ、わかったよ」
禪院家26代目当主、禪院直毘人である。
伽藍
呪術界の腐った文化も、男尊女卑の思想も、全てが「どうでもいい」
基本的に超実力主義者なのであらゆる不幸と被害者は「ふーん」で済ます、死んでも興味なし。
任務中、重症を負った仲間をそのまま無視して、呪霊との戦いを楽しんだことで見殺しにし、軽い騒ぎを起こした。
本人は「弱いのが悪いんだろ」の精神。死んだのがそれなりの実力者だったら「どうせ死ぬならさっき戦えば良かった」とか言う。
霞ちゃん
勿論あの子、とんでもないやつに拾われた。
他の家族は荼毘に伏しました。
名前 :伽藍(がらん)
性別 :女性
年齢 :82歳(生前)~17歳(現在)
誕生日 :10月31日
身長 :176cm
所属 :京都府立呪術高等専門学校2年
入学方法:推薦
階級 :1級呪術師
特技 :戦
好物 :食べられるもの
苦手 :食べられないもの
ストレス:もっと強い人間と戦いたいのに戦えない
備考 :最近羂索に子守り歌を教えてもらった。