黄泉返りの国家転覆   作:倉庫

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 お久しぶりです。
 デュエマに10万使ったり、親の仕事場が倒産したり、ついでに卒業式を終えたり色々ありました。


6話.京の禪院①ー呪い愛ー

 ――あぁどうしてこうなった。

 自分らしくもない、完全に無駄で、どうしようもなく意味不明な行動。それが、伽藍の内心でずっと廻っている。

 彼女が女子会とやらに参加し、歌姫と再会を果たしたあとだ、窓に次の仕事場まで送ってもらおうと車に乗り込んだ。そこまではいい。

 

 そこからだ、そこから彼女の計画が大いに狂った。

 

 己の鍛え上げた直感が、呪力の残り香に反応して「あっちに行け」と騒ぎ出したのだ。

 車を止めさせて降りる、その後それに従い、彼女は向かって歩く、そして見えたのは呪霊の生得領域だった。

 侵入する、呪霊を祓う。そしてすぐに戻るつもりだったのだ。

 

「………………ぁあ?」

 

 呪霊の消失と同時に崩れゆく景色、そうして露わになった瓦礫と、消えゆく華美な内装のその向こうに。

 

 ――子供がいた。

 

 その隣には、恐らく母親であろう女性と、複数の子供()()()()()が地面に散乱していた。

 ありふれた悲劇だ。見えないがために危険を察知できず、知らぬ間に身体を蝕まれる。

 そんな様子を、母が怪異に襲われ朽ちていく様子を眺めて、ただの子供が耐えられるものではない。

 目はうつろで、開いたままの口からは言葉にならない音が漏れ続けていた。

 

「はぁ…」

 

 これは、彼女にとってはただの気まぐれだ。

 

「おい、そこの」

 

 ――きまぐれだった。

 伽藍の言葉に、子供は振り向かない。

 

「壊れたか?それともまだ使えるか?」

 

 相変わらず返事はない。

 

「…………はぁ…」

 

 ――捨て置くか?

 かつてあの時代を生きていた頃、この程度のありふれた悲劇と、被害は腐るほどあった。

 それを今更、子供の一人がそうなったとしても、自分からすれば心底どうでもいい。どうせ置いたとしても、誰も気にしない。

 伽藍はそう判断し、子供を無視して帰ろうとしたが、子供は素早い動きで回り込んで、彼女の足にしがみついた。

 

「……おい」

「…………」

「…………歩きづらいから離れろ」

「………」

「ちっ、餓鬼が…」

 

 その小さな腕を目一杯広げて、今もこうして、彼女の足取りを止めようとする子供。

 壊れそうなほど脆く、小さく輝く瞳が彼女を見上げて、そして互いに見つめあった。

 ()()()()()()()()()()()()、青空のように澄んだ()()()()()

 おそらく()()()()だ。そして生みの親の死体を、ただ茫然と眺めていたこの子供は、何を血迷ったか、彼女を母と呼びだした。

 

「つまらん冗談はやめろ」

「…おかあさん」

「違うと言ってるだろうが」

「…ちがわないもん………」

「チィッ…!」

 

 ――あぁ本当に面倒臭い。

 この子供も、こんなことになった原因である自分自身も。

 嗚呼、羂索のやつが見たら笑いそうだ。そう伽藍はため息を吐いた。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「…………」

「…………」

「おい」

「はっはい!」

「何だ?さっきから?私に聞きたいことでもあるのか?」

「えっ!あ、はいっ、えと…」

「悪いが説明は省く、面倒臭いからな」

「…………はぁ…」

 

 「一体何が…」窓の男の内心はそれだった。

 この青髪の子供が、伽藍の何に触れたかはわからない。だが、伽藍の膝の上に座り、向かい合って見つめあうその光景は、まるで親子のように見える。

 しかし、この短い付き合いでも、男は理解していた。故に安心できなかった。

 知っていたからだ、伽藍という女の精神性というものを。

 その間も、子供は手を伸ばして、玩具のように伽藍の頬を掴んで、弄ぶ。

 

「…ふぉい」

「もちもち」

「しゃわりすぎだ、ひゃやくはなしぇ」

「びよ~ん」

「…糞餓鬼が」

「ぴゃわっ!?」

 

 ビクン!と身体を震わせたあと、子供はケラケラと、楽しそうに笑って伽藍に抱き着いた。

 その間も、伽藍の表情は文字通り、何の変化もなく無表情のままだ。

 

 ――これだ。

 

 任務の途中で何回も見た。一般人が傷ついた姿も、死体も、仲間が血を出して倒れる姿も。

 呪術師はどこか壊れている。それは常に目の前に死が迫り、そして死に触れ続ける弊害と言ってもいい。不幸に慣れてしまう、死を当たり前と思ってしまう。

 人の苦しみに、喜びに、どこか歪な反応を見せるようになる。

 

 だが伽藍は違う。

 

 彼女にとって、これら全てが当たり前なのだ。

 今でも覚えている。この数週間の任務の中で見せた、彼女の表情と言葉を。

 

 

「生き残りはいない。さっさと次に行くぞ、時間の無駄だ」

 

 一般人の死体を一瞥して帰った時の、興味を失った無関心の態度。

 

 

「腕?悪いが他人に反転をかけるつもりはない。その程度自分で治せ」

 

 戦いに巻き込まれ、欠損した術師に向ける、弱者を見つめる軽蔑の視線。

 

 

「早く立て、死にたいなら勝手にすればいいが、私の手を煩わせるなよ」

 

 仲間のはずの人間に向ける、()()()()()()()()瞳。

 

 

 ――怖かった。

 味方だと思えなかった。

 仲間だと信じられなかった。

 今はこうして子供を抱きかかえてはいるが、それがいつまで続くかがわからないと、そう思ってしまう。

 彼女は呪詛師ではない、なのに、今こうして同じ空間にいるだけで、生殺与奪を握られているようで。

 

「おかあさん」

「…なんだ」

「…えへへ」

「…………」

 

 今でこそ「面倒臭い」で済んではいるが、それがいつ豹変するかわからない。

 あの、心を折るような侮蔑の言葉。存在を否定するような冷たい瞳が。

 それが、太陽のように純粋な、今こうして笑っている子供に向けられるかと思うと。

 

 男は怖くて仕方なかった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 面倒な相手だった。

 

 伽藍はそう言って、つい先ほどまでの戦いを思い返す。

 今回の呪霊の生得領域は、どうやらあらゆる効果をそぎ落とす代わりに、領域内の時間を外より早くする能力を持っていたようだった。

 先に迷い込んだであろう呪詛師たち。そして領域の主である呪霊と、その仲間であろう低級呪霊の群れ。そして他ならぬ伽藍。

 

 勝負は丸三日続いた。

 

 呪霊を祓う。呪詛師を殺す。

 呪霊を祓う、呪詛師を殺す。

 呪霊を祓って呪詛師も殺す。

 呪霊を祓いながら呪詛師を殺し。

 殺して殺して、返り血を浴びて飲む。

 

 殺して、殺して、また殺して…

 いつしか笑い声が聞こえなくなり、それが他ならぬ、自分自身のものだと気づいた時には、全てが終わっていた。

 

「ふむ、これで終わりか」

 

 足元でうずくまり、動きを止めた呪詛師の首をはねて、そう呟く。

 その時、また血が顔に飛んで、それを舌で舐めてふき取る。

 そのおかげで、伽藍の口元は綺麗なままだが、それ以外の場所は全て黒、本来赤いはずの血は、時間の経過により黒く変色し、衣服や髪といった、彼女の全身を黒に染めている。

 仕事が始まる前は、真っ白だったはずの仕事着が今や見る影もない。

 そしてフラリと。頭を直接湯煎されたような、嫌な感覚が頭を包み込んだ。

 

「っと…少しばかり飛ばしすぎたか」

 

 たとえ呪霊といえど、生得領域…もとい領域展開時には、時間の概念にさえ手が届くことがある。

 今回の場合もそう、いくら体感時間でといえども三日。その間ずっと、無限に近い数湧いて出る呪霊の大群に、術式の仕掛けを見破るまでずっと、伽藍は刀を振るっていたのだ。

 そうして不眠のまま、三日間ずっと戦いっぱなしというのは、流石に無理が来たようだ。

 

「…さて」

 

 目をつむって意識を脳だけに集中させる。

 脳の血管一つ一つにまで呪力を流し込み、衝突する呪力の割合を調整していく。

 1.3、2.4…3.3――

 

「――――よし」

 

 シュウウ…と白い煙が全身を包み込み、酷使した筋線維たちと、壊れかけの脳細胞が癒され、そして反転術式による治療が完全に終了した。

 

「さて」

 

 ぐちゃり、と。醜い音が伽藍の腕、そして呪霊の死体の両方から発せられる。

 彼女が腕を突っ込み、右へ左へと傾けて、その奥にある目当てのものを掴んで、取り出して笑う。

 

「これか…」

 

 それは、この呪霊の最後のあがき。

 "周囲に害を及ぼさない"という縛りで自己を保管し、破壊と死から免れる悪足搔き。宿儺の指と同じく、呪物と称される忌み物。

 この判断は、きっと本来ならば正しいのだろう。確率は低いものの、いつか受肉を果たし、そして復活を遂げて現世に降臨できるタイムカプセルなのだから。

 しかし今回は。

 

「相手が悪かったな」

 

 伽藍はそう言って、呪物を口に入れ、そのままゴクリと飲み込んだ。

 

 ――ドクン!

 

 一瞬、彼女の全身に現れる紋様と、意識の暗転。

 すぐに自身の生得領域に引きずり込まれて、目の前の呪霊との、第二ラウンドが始まった。

 

「い"い"い"、お"さい"せ"」

「死ね」

 

 ――パァン!

 伸びた刀身が呪霊に突き刺さり、そのまま体内で枝分かれして切り刻む。

 再び意識が暗転し、呪物が完全に分解され、消えた。

 

「ふむ……この程度か」

 

 所詮は呪霊。呪いを糧にできるこの身体でも、得られる恩恵はほんの僅か。

 三日間戦い続けた報酬にしては、かなりしょっぱいそれに、伽藍は眉をひそめた。

 

「…はぁ」

 

 呪霊を祓う、呪詛師を殺す。

 まるで()()のように同じことを繰り返す。

 

 …嗚呼。

 

 ――退屈だ。

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、伽藍さん」

「…なんだ、まだいたのか」

「…?え、えぇ…」

 

 伽藍が帳から出るとすぐ、外で待機していた窓の男に迎えられた。それに適当に返して、そのまま車に乗る。

 

 ――そういえば、外ではそんなに時間は経っていなかったか。

 

 そう考えると男の反応も当たり前かと考える。確かに数十分ほど別れただけで「まだいたのか」は疑問に感じるだろう。

 そしてぐるりと、何かを探すように首を動かした後、聞く。

 

「…………おい」

「は、はい」

「…アイツはどこにいる?」

「あぁ、あの子なら…」

「――えいっ」

 

 男がそれに答える前に、調子の良い声と衝撃が伽藍の胸を襲う。

 気配自体は察知していたし、隠れていたことも理解していた。だが何のためにかが分からない。故に無視していたが…

 

「…なにをやってる?」

「おかあさん、おかえり!」

「おい、コイツは何をやってるんだ?」

「…子供というのはそういうものですよ」

「フン、理解に苦しむな」

 

 そう言って、今も抱き着いたままの少女を見て、首を傾げる伽藍。

 男はそんな彼女の言葉に、何かを言いたそうな顔をした。

 

「何だ?」

「…いえ、何も」

「そうか、で。この後の予定は?」

「きゃっ」

 

 目の前にいられると邪魔だから。

 伽藍はそれだけの理由で、少女を腕に、腰を乗せるように持ち上げて、顔が隣に並ぶようにする。

 すると、少女はしばらくポカンとしたあと、また笑いだす。

 それを見て、より一層困惑を深める。

 

「…わからんな、下ろしてもいいか?」

「もうすぐ着きますから、すみませんがもう少しそのままで、あと…」

「わっ、おかしだ!」

「丁度いい時間ですからね、おやつの時間です」

「ありがと!まどのおにーさん!」

「ちゃんとお礼が言えて()()()()はいい子ですね」

「えへへ…」

 

 車を走らせつつも、器用に会話を続ける男を座席越しに見ながら、伽藍はため息を吐く。

 

「慣れたものだな」

「任務中、あなたの代わりに育ててますから」

「だから、任務中も私が連れていけばいいじゃないか、前からそう言ってるだろう」

「絶対ダメです」

 

 理解できないと、顔で表して男は続けた。

 

「あなたの今の格好、客観的に見てくださいよ、真っ黒じゃないですか」

「血は乾いてるからいいだろう、それに匂いしもない。そういう素材だからな」

「あなたはよくても霞ちゃんは違います、あの子に血の雨を浴びせるつもりですか」

「…?ダメなのか?」

「はい、絶対。もし霞ちゃんが戦いに巻き込まれたら…」

「別に死んだらそこまでだろうに」

「っ」

 

 男の身体が強張る。

 

「…あなたはもし、もしその子が死んでしまったらどう思いますか」

「…?いや別に」

「……私は、あなたが怖いんです」

 

 緊張を解くように、一息吐いて。

 

「呪術師は死に慣れます、しかしあなたは慣れるんじゃなくて、それが当たり前になってるんです」

「ほう?」

「いつかそれが、その子を傷つけるんじゃないかと」

「…それで?」

「あなたは…その子をどうし」

 

 男の言葉を、伽藍は軽い威圧を込めた、呪力を浴びせて黙らせる。

 その凄まじい威圧に、男は冷や汗を垂らしながら、言葉を待つ。

 

「なぁ?」

「…………」

「随分と言ってくれたが、お前は私が敵になるかも…なんてくだらないことに怯えているのか?」

「それは」

「ハッ、誤魔化さなくていい」

 

 馬鹿馬鹿しい、くだらなさすぎて欠伸が出そうだ。伽藍はそう、男に語り掛ける。

 

「お前は私の何が気に喰わないんだ?強さか?態度か?あぁそれとも、この前死んだ術師の弔いでもすればいいのか?」

「……」

「私はな、どうでもいいんだよ」

 

 血が沸き立つ喜びも、痛みも。

 

「どいつもこいつも柔らかくて脆いものばかり、術式だの、呪力だの」

 

 息もできない戦火を、死を。

 

「御三家だの権力だの、伝統だの誰かのためだの…大義だの」

 

 伽藍にとってはそれこそが至上。

 それに以外は知らない、興味ない。どうでもいい、本当にくだらないこと。

 

「私の望むものはそこにない、だからな」

 

 ――私は私の味方なのだからと、そう笑う。

 

「だから…()()()()()()()()

「…………」

 

 鏡越しに見える、男の震えた瞳と視線。

 自分の望む答えじゃなかったことの落胆と、ほんの少しの軽蔑と。それ以上に。

 

 ――彼女を畏れる、恐怖の瞳。

 

「…ケヒッ」

 

 それが、ほんの少しだけ心地よかった。

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

 車を降りて、伽藍は霞を片腕に乗せて、目の前にある豪華な門を潜って足を踏み入れる。

 

 京都、禪院家。

 

 呪術御三家の一つとされ、その中で最も武力に優れた組織。

 伽藍がここに呼ばれたのは、()()()()が理由だった。

 

「わーおっきい」

「懐かしいな、平安の頃に見た外観とそう変わらないじゃないか」

 

 いくら今の呪術界が昔にこだわる嗜好だとしてもだ、ここまで現代からかけ離れた"和"とは思わなかった。

 

「ようこそ、いらっしゃいました」

 

 しばらく観察を続けていると、使用人であろう女が伽藍を迎え、軽くお辞儀をして話し出す。

 

「禪院家当主、禪院直毘人様がお待ちです」

「あぁ」

 

 人形のように、無表情で決められた動きをする女。

 その隣で、霞と同じほどの歳の、小さな少女もお辞儀をした。

 

「ふむ…丁度いいか」

 

 相手の年齢も近い、それに、このまま抱き抱えたままなのも面倒臭い。

 そう判断して、伽藍は腕の力を緩めた。

 

「そこの、コイツの案内を頼めるか?」

「真依、案内を」

「は、はい…」

 

 地面に降ろすと、霞はそのまま走る勢いで、真依と呼ばれた少女に向かう。

 そうして、彼女の両腕を掴んで、指を握って笑いかけた。

 

「わたし、霞です!」

「は、はい」

「三輪霞です!」

「は、はい…」

 

 いくら同年代の子供とはいえ、一応相手は客人だ。

 どう返せば良いのかと、真依の態度は硬いままだ。

 そして。

 

「一緒に遊ぼ!」

「そ、そんな…私などでは…」

「別にいいだろう、構わんな?」

「…有難く、真依。無礼のないように」

「行こっ!真依ちゃん!」

「ひゃっ…!」

 

 二人は手を握って走り出す。

 そのままあっという間に姿が見えなくなって、子供の笑い声が響きだす。

 再び会話が紡がれる。

 

「感謝します、伽藍様」

「かまわんよ、私自身もアレの相手に困っていた」

 

 女の後ろ姿を追いかける形で、伽藍は歩き続ける。

 長い長いその廊下を、歩きながら意識を他に回していく。

 

(…視線が想像より多い)

 

 ひそひそ、じめじめと、伽藍に向ける疑惑の視線と言葉たち。

 友好的ではない、だが露悪的なものでもない。これは…

 

「あれ、お客様ですか」

 

 廊下の角を曲がる瞬間、聞こえてきた若い男の声。

 

「蘭太様、お久しぶりです」

「はい、やっと任務が終わったので帰って来たんです、それで…」

 

 視線が合う。

 

「もしかしてあなたが?」

「平安出身、三輪伽藍だ。蘭太と言ったか?」

「あ、はい」

 

 こほん、と、咳払いをひとつ。

 

「禪院蘭太です、初めまして」

「あぁ」

「平安時代…呪術全盛期を生きた呪術師…本当にこの目で見れるなんて」

「まぁ確かに、滅多なことがないと見れんだろうな」

「両面宿儺のことも、その目で見たと聞きました」

「あぁ、何度かこの目で見たぞ」

「へぇ…女なのに凄いですね」

 

 そう感心して、何か用事を思い出したのか、すぐに会話を切り上げた。

 

「じゃあ、あとは頼みます」

「了解しました」

「それでは、いつか」

「あぁ」

 

 そう言って、蘭太は速足で駆け出した。

 なるほど確かに、御三家の中でも特に、武力に優れているだけはある。

 まだ甘さは感じるが、その立ち振る舞いは間違いなく強者のそれ。これは期待が持てそうだ。

 

「それでは伽藍様」

「あぁ、それじゃあ…」

 

 

「あー、腹減ったわ」

 

 間延びした、男の軽い声が聞こえた瞬間。伽藍の足と息が止まる。

 そして、周りのひそひそ話は鳴りを潜め、その内容の鋭さが一段階上がる。

 

 中庭に、全身を痣と傷だらけにした少女が倒れている。

 

 使用人の女は一瞬だけ、その少女に恨みに似た感情を込めた瞳を向けて、そしてすぐに無表情へと戻した。

 

「最初の数発は問題ないんやけどなぁ、ちょっと本気でやったらこれや」

「っ…!」

「情けないなぁ、妹が見てないからって、こんな惨めな姿見せてええん?」

「足、退けろよ…っ!」

「アハハ、これは笑うわ。まだ痛めつけられたいん?」

「ぐ……」

「あーうざ、どの口でほざいとんねん。ガキ」

 

 ひとしきりケラケラと笑ったあと、男は気分を悪くして、少女の頭を下から思いっきり蹴りあげた。

 唾と血を吐いて身体が仰け反り、少女が再び地面に倒れる。

 

「…直哉様」

「お、丁度ええわ、また真希ちゃん伸びたからなぁ、適当にその辺ほっといてな」

「……はい」

 

 女は当然、この男に文句など言えない。

 ただ言われたように作業を行い、彼の意見を肯定する。

 伽藍は知っていた、この目の前にいる金髪の男が、どのような立ち位置にいる男かを。

 

 禪院直哉。

 

 禪院家が誇る精鋭部隊、その中でも、選ばれた実力を持つものしか入ることが許されない「炳」の筆頭であり、次期当主最候補。

 実力も血筋も文句なし、だが彼が周りに、それを歓迎されない理由はただひとつ。

 それがこの性格。

 

「でや、君は初めて見るわ、誰や?」

「伽藍だ。1級術師をやっている」

「ほー…君が例の?奇遇やなぁ、俺も1級術師やねん。ま、正確には特別1級術師やけどな」

「特別…確か高専に通っていない人間に与えられる階級だったか?」

「流石、物分りが早うて助かるわ」

 

 伽藍の名前を聞いた途端、直哉の笑みの種類が変わった。

 相手を見下す傲慢な視線が、今度は相手を試すようなものへ。

 

「なぁ、パパとの対談ってどれくらいかかるん?」

「さぁ…ただ、それほど時間はかからないかと」

「ま、その時はその時や。それに…こんな機会滅多にないやん?」

「…まさか」

 

 瞬間。直哉の全身を呪力が包み込む。それは既に、臨戦態勢に入ったということであり。

 

 空気が変わる。

 

「直哉様、抑えてください」

「伽藍ちゃん、ええよな」

「愚問」

 

 ――ホォォォオ…!

 伽藍の紅い呪力が、空間を歪ませて熱を生む。

 呪力特性による熱が、木製の廊下に焦げ目をつけて、更に温度は上がっていった。

 そして。

 

「術式解放…」

 

 ――ブチリ

「…マジか」

 

 "それ"は、特別1級術師として数々の修羅場を潜った直哉から見ても、常軌を逸する行動だった。

 伽藍の術式は知っていた。骨と肉を創り出し、そして操作するシンプルで強力な術式だ。

 だが逆に言えば、術式使用時に起こる肉体の損傷、骨が皮膚を突き出したり、肉が剥がれる痛覚というものが、使用者に襲い掛かる毒だ。

 

「君、痛覚ないん?ちょっと引いたわ」

「慣れればそうでもないぞ?」

 

 前腕の、筋線維の一つ一つが意志を持ったように、まるで蛇のようにうねりだし、ワイヤーを形成するかのように編み込まれていく。

 そしてそれを覆う形で、骨が肉を突き破り、鎧のように成形されていった。

 術式と己の血肉で作った、殴り合い専用のグローブ。

 

「いつでもええで」

「そうか」

 

 互いに腰を落として、腕を向けあい姿勢を変える。

 衝突する呪力と戦意に反比例して、周りから音が消えた。

 

 ――ゴッパァ!

 

「チィ…!」

「ッハハハハ!」

 

 互いの()()が互いの頭を蹴り、そして互いに左腕で防御を行う。

 怪我をさせてしまう、してしまうなどという甘い考えは、もはや欠片も頭には残っていない。

 空気を切り裂き、それすらも凶器にしてしまうほどの速度で、首を、胸を、互いに攻め合い殺気をぶつける。

 直哉は右腕を構える。勿論それは伽藍にも見られている。

 幾千、幾万の読みあいの中で、こんな素直な攻撃が当たるなど思ってはいない。

 右腕を振るう、伽藍はしゃがんで避ける。

 直哉はそこで、あえて更に踏み込んで加速を行った。狙いは――

 

(首…!)

 

 見事な一回転を果たし、直哉の右足が鎌のように襲い掛かる。

 一度両手でしゃがんでしまった伽藍に、これを受ける手段はない。そのままクリーンヒットすると思った瞬間。

 

(取った――っ!?)

 

 目の前から伽藍が消えた。

 

(何が…――っ!!??)

 

 そして瞬時に、直哉の顔面に襲い掛かった衝撃。

 意識が混濁しつつも、身体は負けじと反撃を繰り出すが、目の前の伽藍には当たらない。

 

「シャチホコかいな…!」

「一本取ったな」

 

 両腕で身体を支えつつ、先ほどよりも更に低い姿勢で、地面に張り付く伽藍の姿。

 そしてまるでシャチホコのように、足裏で蹴りを放つカウンターを繰り出したのだ。

 

「まだや…!」

「上等」

 

 互いに指を鳴らし、再び臨戦態勢に入ろうと構えた瞬間。

 

 

 

「何をやってるんだお前らは」

 

 乱入者の声で止められた。

 

「直哉、これ以上やるならこっちにも考えがあるぞ」

「わかった、わかったちゅうねん。うるさいパパやでホンマ」

「伽藍、お前もだ。何喧嘩を買ってるんだ」

「ふむ…続きはまた次回だな」

「次回じゃない、お前たちもさっさと持ち場に戻れ」

 

 その言葉で、静観していた周りの使用人たちが、一斉に散っていった。

 たった一言で、辺りの空気を掌握し、そして仕切ってみせた。この男こそ。

 

「さっさと話を終わらせるぞ、来い」

「あぁ、わかったよ」

 

 禪院家26代目当主、禪院直毘人である。




 伽藍
呪術界の腐った文化も、男尊女卑の思想も、全てが「どうでもいい」
基本的に超実力主義者なのであらゆる不幸と被害者は「ふーん」で済ます、死んでも興味なし。
任務中、重症を負った仲間をそのまま無視して、呪霊との戦いを楽しんだことで見殺しにし、軽い騒ぎを起こした。
本人は「弱いのが悪いんだろ」の精神。死んだのがそれなりの実力者だったら「どうせ死ぬならさっき戦えば良かった」とか言う。

 霞ちゃん
勿論あの子、とんでもないやつに拾われた。
他の家族は荼毘に伏しました。


名前  :伽藍(がらん)
性別  :女性
年齢  :82歳(生前)~17歳(現在)
誕生日 :10月31日
身長  :176cm
所属  :京都府立呪術高等専門学校2年
入学方法:推薦
階級  :1級呪術師
特技  :戦
好物  :食べられるもの
苦手  :食べられないもの
ストレス:もっと強い人間と戦いたいのに戦えない
備考  :最近羂索に子守り歌を教えてもらった。
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