ダンジョンにおじさんがいるのは間違っている!? 作:リーグロード
「えぇ! グランバハマルとは違う異世界!?」
「ああ、そうなんだよ! なんかすっごい怪獣とかドラゴンをエルフさんと一緒に倒して前に神化魔炎竜との戦いで…………」
「ああ! ネタバレ禁止、家帰ってから私も最初から見るから黙ってろ!」
「あっ、そうだよね。ごめんごめん」
ごく自然な流れでネタバレするたかふみに怒る藤宮。
今日は冬が近づいて寒くなるので暖房器具を買いに行く約束を藤宮としていたのだ。
本来ならおじさんも一緒についてくる筈だったのだが……。
「ええぇぇ! ソ……ソニックの新作!? マジっすか! えっ、ちょっ、まぁぁぁぁ!!!」
街中の広告用テレビジョンでソニックの新作発表を目にしてしまったのがきっかけとなり、別の異世界の存在を知った藤宮の10倍くらいのリアクションで驚き、そのまま暖房器具の購入を俺と藤宮に任せて家に帰り、ネットで情報収集に専念しているのだろう。
「それにしても助かったよ藤宮。おかげでいい商品が安く買えた」
「別に……、前にお母さんと一緒に買い物してクーポン券貰ったけど使う機会が無そうだからあげただけだし、そんな感謝しなくても構わないし///」
だぁ~、私のバカ! なにが構わないよ!! こんなんじゃツンデレエルフさんのことどうこう言えないじゃない!!
「どうした藤宮? なんか顔赤いけど?」
「い、いや別に! ほら最近寒くなってきたからそのせいじゃねぇ?」
「ああ確かにね、暖房器具を買いにきたのもそれが理由だしね」
「そうそう。こう寒かったらね~」
ふぅ~、誤魔化せたぁ~。やっぱりたかふみお前おじさんの血入ってるわ……。
あんな雑な言い訳で即納得するのお前とおじさんくらいしかいねぇよ……。
そうこうしているうちにたかふみが暮らしているアパートが見えてきた。
「ただいま。おじさんいる?」
返事が返ってこないことに訝しんだが、部屋の中に入ってみると、そこにはパソコンの前で光悦した表情で気絶しているおじさんがいた。
「お、おじさん!?」
「ちょっ、どうしたの、たかふみ? って、ええ!!! お、おじさん!? これ大丈夫なの……!?」
「た、多分大丈夫だと思う。前にメイベルさんにゲーセンの曲唄って貰って気絶した時と同じ顔だし、それに……」
慌てて救急車を呼ぼうとした藤宮を安心させ、おじさんが見ていたパソコンの画面を覗いてみる。
そこには新作ゲームのPV動画が一時停止状態で放置されていた。
「恐らくおじさんは、ソニックの新作情報に感極まって気絶しただけだと思う……」
「マジか……。いくらおじさんがセガ好きとはいえそれだけの理由で……?」
「甘い! おじさんが異世界で生き残れたのはセガサターンソフト読者レースの最終結果を見るまで死ねなかったからだと言うほどの生粋のセガ好きなんだ。ましてや、おじさんの中でのゲームはセガサターンで止まってるんだぞ!! そんな状態で現代の最新作のPVを見てしまったらもう……っく!!」
「いや、たかだかゲームだぞ?」
おじさんの生態とそれを理解して受け入れているたかふみにドン引きしつつも、藤宮は一応は納得しておじさんの介抱をたかふみに任せ、自分は買ってきた暖房器具の設置をおこなった。
その後、起きたおじさんが再び気絶しないようにと、たかふみが念の為にパソコンの電源を切ったと同時におじさんは目を覚ました。
「いや~、2人共悪いな。買い物途中で家に帰ってしまって。まさかソニックの新作が出るとは驚いちゃってな。知ってるか? 今度のソニックは今までと違って……」
「ああ、大丈夫大丈夫。俺も藤宮もそれ見たから……」
「あっ、それと暖房器具買ってきましたよ。多分おじさんも気に入ると思います」
「おお、それはいいな。じゃあ、お詫びがわりと言っちゃ悪いが外も寒かっただろうし、俺がコーヒーでも淹れるよ……」
「あっ! だったら、私コーヒー飲むついでに別の異世界っての観たいんですけど」
「ん? 藤宮さんにその話したっけか……? ああ、たかふみから聞いたんだな! どうする、一応たかふみが観たのは別の異世界へ行くきっかけまでだけど、最初から観ようか?」
「ああ、いやいいです。ここに来る前にそれたかふみから一部ネタバレされちゃったから……」
「ええ! ダメじゃないかたかふみ……」
「いや、マジ本当にごめん!」
手を合わせて謝るたかふみにうりうり♪ と指で突っつく藤宮さんを横目におじさんはコーヒーを用意して席に着く。
それを見てたかふみと藤宮も同じく席に着いてワクワクしながら続きを待つ。
「イキュラス エルラン」
映し出された映像の中には天にも届かん程の巨大な塔とその周りに栄える街が見えた。
その街の中にも武装した人間やエルフに獣人と、まんまファンタジーな光景が目に見える。
「おお! ここが例の別の異世界なのおじさん?」
「そうだぞ。俺とエルフは時空の歪みに吞み込まれて気が付いたら草原の上でな。偶然、そこを通りかかった商人の人に拾ってもらって、ここ迷宮都市オラリオにきたんだ」
「へぇ、ここってオラリオて名前の街なんですか……」
「ああ、どうやらこの世界で一番大きい街らしくてな。神様も住んでるんだぞ」
「神様!? それっておじさんをグランバハマルに転移させた……!?」
「いやいや、全くの別人……いや、別神だよ。なんでもこの世界で冒険者になるには神様に恩恵ってのを刻んでもらう必要があるらしくてな。まあ、そこら辺はおいおい話すとしようか」
映像を早送りして重要な場面に切り替える。
「おおおぉぉ、見ろエルフ! あれ! アレェ!!」
「ちょ、どうしたのよ、オーク顔? ん、あれって獣人かしら、確かに珍しいけど……って、どこ行くのよ、オーク顔!?」
「あ、あの、その耳って本物かい?」
「ああぁ!?」
街中を歩いていた顔に刺青をした狼の獣人にいきなり声をかけるおじさん。
どう見てもチンピラとしか形容できない人物で、その顔からは険悪感がありありと浮かんでいた。
「おい、俺を舐めてんのか? 雑魚が俺に関わってくんじゃねぇ!!」
「む、気を悪くさせてしまったか? それはすまなかった……」
鋭い眼つきで睨まれるも、おじさんは特に意に介さずに素直に謝罪の言葉を送る。
そのことに一瞬呆気に囚われた顔を見せた狼人だったが、すぐにハッと鼻で笑うように頭を下げたおじさんを「所詮は雑魚だな……」と見下して去って行こうとする。
「ちょっ! なんですかこの人は!? いくら急に声を掛けてきたからって少し言い過ぎなんじゃないですか!!?」
「そうだよ、おじさん! ここは言い返さなきゃ!!」
「いやいや、この程度の事で腹を立ててたら異世界なんてとてもじゃないがやっていけないぞ。それに、まだあっちも俺のことをちゃんと人として認識してくれたからな」
「「おじさん……」」
異世界での処遇の悪さにおじさんの価値観が大分悪い方にいってる。
前々から薄っすらと気づいていたけど、おじさんは自身を魔物扱いさえされなければ割と寛容なのだ。
そんなおじさんの異世界で狂ってしまった価値観に藤宮と一緒に落ち込んでいると、画面の中でいつの間にか狼人とエルフさんが口論していた。
ギャー! ギャー!!
「いい加減にしなさい! あんたもあんたよオーク顔!! あんな風に言われたい放題でいいわけ!?」
「いや、別に俺は……」
「はっ、女に守ってもらえなきゃ喋れもしねぇ雑魚は引っ込んでろよ!」
「えっ、だから俺は……」
口論で熱くなる狼人とエルフさんの熱量に圧し負けて何も言えなくなっているおじさんはオロオロとしながら、あの最強変幻魔法を唱える。
「ザックトーラキャトルフ」
「「なっ──―!?」」
いきなり街中にも関わらず魔法を使用したことに驚いた2人はおじさんに警戒して意識を向けた。
カッ! とおじさんを中心に眩い光が発生し、閃光が消えて目を開くと、そこにはでっぷりとした体系のメガネをかけたおっさんが立っていた。
これには先程まで狼人の言動に怒っていたたかふみと藤宮も困惑する。
え……、これ前に変身した田淵先生じゃん。なんで急にこの人に変身を……??
まさか、まともに喋れないからって変身したの……!?
「オーク顔……なの……?」
「マジなんなんだよテメェは……? 急に話しかけてきやがったと思えば、今度は姿を変えやがってよ、ああぁん!!?」
困惑するエルフさんと、メンチきって恫喝する狼人におじさんがとった行動は、まず最初に狼人にビンタをかますことだった。
パァン!
「〇×△□~~~っ!!? 」
「……っ!!?」
「ちょ、オーク顔!? いきなり攻撃するのは──―」
パァン!
「×△〇□~~~っ!!? 」
「……っへ?」
まさかの助けに入った筈のエルフさんにも問答無用のビンタを決めるおじさんに、周囲で見守っていた人も啞然として言葉が出ないでいた。
「ちょっ……ちょっと、おじさん!? なんでエルフさんにもビンタしちゃったの!?」
「えっ、いや~、2人の討論についていけなかったから思わず
ついじゃないよ、おじさん……。周りで見ている人達も滅茶苦茶引いてるよ。
ほら、あそこの親子なんて子供に見せられずに手で目を隠してるじゃん……。
「ッッ!! テメェ俺に喧嘩売って……」
パァン!
「オーク顔! あんたねぇ!!」
パァン!
「ぶっ殺……」
パァン!
「もう怒った……」
パァン!
「〇×△□~~~っ!!? 」
「「…………はい……」」
数発のビンタとけたたましい怒鳴り声に、反抗する意思を奪われた狼人とエルフさんは顔を下に向けたまま大人しくおじさんの言うことを聞いた。
やっぱり、
90年代教師の教育マジでパネェな……。
「いや~、困った時につい頼り過ぎちゃうのは良くないって分かるんだけどもな。どうしても討論じゃ敵わないからなおじさん……」
「いや、これ討論じゃなくって一方的な脅迫の類だよおじさん……」
「うん、私もそう思う……」
インパクトの強すぎる田淵先生の登場に度肝を抜かれたたかふみと藤宮の脳内では既に狼人の暴言は忘れ去っていた。
それからクドクドと聞き取れるかどうかレベルの滑舌で怒鳴ってくる田淵先生に「……はい……」としか返事を返せないでいる狼人とエルフさん。
このまま田淵先生の独壇場で終わるかと思いきや、俯いたまま頷いていた狼人が憤怒に顔を染めて叫び出す。
「って! なんで俺がテメェなんぞに怒られなきゃいけねぇんだ!!!」
「──―ッ!!」
「ッ、オーク顔!?」
唐突に正気に戻った狼人が怒っておじさんに蹴りを打ち込んだ。
だが、直前で攻撃に気づいたおじさんは変身を解いて腕をクロスして防御に成功させていた。
「……テメェ、本当に何者だ? 俺の蹴りを見て防げる奴なんざオラリオでも数える程度しかいねぇ……。さっきのビンタにしてもそうだ。俺が反応すら出来ねえなんざ、ありえねぇんだよ!?」
そう自信満々に言い切る態度からこの狼人はこの街でも指折りの実力者なのだろう。
確かに、無名の実力者が急に現れたら警戒するのは当然だろう。狼人はグルルルッ! と威嚇しながらおじさんを問い詰める。
「そうだな。俺は別に怪しい者でもオークでもない。ただの冒険者だ……」
「……っち! もういいや、だがな! 次に出会った時は覚えてやがれ……!!」
「はぁ!? あんたの方こそ、覚えてなさいよね!?」
捨て台詞を吐いて去っていく狼人におじさんは慌ててその背中を追いかけて1つものを訊ねる。
「ちょ、待ってくれ! この街にハリネズミの獣人はいないのか!? 具体的には青髪で足の速い、そんな獣人を知らないだろうか!?」
「はぁ……?」
ここで映像を一時停止してたかふみと藤宮がおじさんにツッコミを入れる。
「なっ、まさか、おじさん。急にあの狼人の人に話しかけたのってソニックを探す為だったの……!?」
「おかしいと思ったんですよ! あのおじさんがいきなり見知らぬ人に声を掛けにいったから、なんでだろうって思ったら、こういう理由ですか!?」
まさかの理由にビックリした2人は怒涛の勢いでおじさんを責め立てる。
「いや、グランバハマルでは獣人って見かけなかったから、つい……」
「そういえば、確かに今までおじさんの記憶の中で獣人って出てなかったね」
「ああ、なんでもあっちじゃ獣人って隠れ里に住んでるらしいから滅多に見れないそうだ」
「へぇ~、だから獣人って今まで見なかったんだ……」
おじさんの説明に納得した藤宮はカップに残ったコーヒーを飲み干して心を落ち着かせる。
おじさんがセガ好きのソニック大好き人間なのは知っていたことだし、もうツッコミを入れるのはよそうと判断した。
「それで、おじさん。結局この後は目的の獣人には出会えたの……?」
「いや、聞いてみたところ、オラリオでは見かけたことは無いそうだ。いるのは大抵このベートっていう人と同じ狼人や猫人が多数で、他にはオラリオ最強の冒険者の猪人とかしかいないらしい……」
「この人ベートって名前なんだ。ところで、この人の蹴り全く見えなかったけども、やっぱりこの人って強いの?」
「ん、ああ強いぞ。この街の2大ファミリアの幹部だったようでな。特に蹴り技に関してはトップクラスの実力者だぞ!」
「そんな人に顔をいきなり覚えられるって、相当だよおじさん……」
そんな大物な人物とは思っていなかったたかふみはおじさんの悪運に呆れたようなため息をつく。
ヴーン、ヴーン
藤宮のスマホのアラームが鳴り響く。
「あっ、もうこんな時間……」
「そういや、今日藤宮さんは家族で外食の予定だったっけ?」
「うん。だからごめんだけど、今日はここまでってことで……」
「別に気にしなくていいよ。続きはまた後日改めて観ようか。今日は買い物に付き合ってもらってありがとう」
こうして別の異世界でもおじさんは相変わらずゲームが関係すると感覚が色々とガバになることが判明した。
こっちの世界で暴走しないように見張っておかないければという想いを藤宮と共通させて今日は終わった。
俺結構田淵先生の回が好きなんだけど、みんなもあのシーンで笑った?