サイバーだけどパンクでなし―211×―ルームランナーズ   作:どくいも

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覚悟を決めれば

阿弗利加組は、十三地区ではそこそこ古い筋者の家である。

名前からもわかるとおり、元は万国通りと古いつながりがあり、万国通と十三地区との橋渡しを務めており、アンダーグラウンドなものからオープンなものまで、さまざまな取引を万国通のいくつかのマフィアと行ってきた。

そんな稼業の家であった。

 

……だからこそ、先のローマ・マフィア一斉検挙は、彼らにとってあまりにも致命的すぎた。

 

『君たちが大丈夫だといったのだろう?それが何だ、このざまは!』

 

『阿弗利加組は十三地区内部でも特に情報通、そう聞いていたのだがねぇ』

 

そう、阿弗利加組は先のローマ・マフィア襲撃の際に、適切に素早く動くことができなかったのだ。

それは、前党首から次党首の引継ぎ期間だったからだったとか、そもそも今回の作戦が宝石の庭をはじめとした、十三地区の表勢力中心の電撃作戦であったからなど、理由はいくつかある。

が、それでも結果だけを見れば彼らは、世界通に住む盟友に対して絶対に伝えなければいけないニュースを、伝えるべき時に伝えられなかったのだ。

 

『どうやら、我らの協力関係はここまでのようだな。

 肝心な時にならない鈴など、つける意味すらない』

 

『君たちが我らと同程度の武力があれば考えんでもなかったが……。

 せめて、前党首程度の武力を備えてから出直したまえ』

 

だからこそ、阿弗利加組はそれまで持っていた信頼やつながりを、一気に失うことになった。

それは万国通のものだけではなく、今まで彼らが搾取してきた金ヅルやただの取引先まで、まるで沈没する船から民衆が逃げ出すかの如く、組の持つ人脈や力はするすると抜けていった。

 

『わ、若!このままでは、我ら阿弗利加家は破滅です!』

 

『ぐ、ぐううぅぅ!そんなもの言われずともわかっている!!

 くっそ!どいつもこいつも、俺達をなめやがって!!』

 

減っていく取引先、目減りしていく収入。

部下からの厳しい目に、絶望の表情を浮かべる配下たち。

 

『……くぅぅ!!いいだろういいだろう!

 なればこそ、俺たちの実力を思い知らせてやる!!

 皆の者、銃を持て!!!』

 

だからこそ、その阿弗利加組の組長は、すぐさまに成果を出す必要があった。

阿弗利加組が落ち目ではないと、自分たちが強大な力を持つ、十三地区の裏世界の支配者の一角であると。

そんな当たり前なことを周囲に知らしめる必要があった。

 

『狙いはここだ。

 このオイルプラントだな。

 土地の所有権は、幸いにもややあいまいだが、今はとあるサイボーグたちがたむろしているらしい。

 一応、とあるチャレンジャーの知り合いが住んでいるらしいが、しょせんはその程度のつながりだ。

 狙うにはちょうどいいだろう』

 

そのために彼は、この十三区内にある、とあるオイルプラントを狙うことにした。

そのオイルプラントさえ占拠することができれば、オイルプラントという名の不動産も、自動機械のための燃料も。

さらには、この十三地区の表社会の武力の中心であるチャレンジャー達への威嚇や牽制、そして、裏社会への権威を示せる。

一石二鳥、いや三鳥にも四鳥にもなる素晴らしい作戦であった。

 

『わ、若!

 でもそこは先代が、行ってはいけないと!

 なぜならそこは、例のチャレンジャーが……』

 

しかし、それでも彼の作戦は、彼の部下から無数の反対を食らうことがあった。

それは、先代当主からの警告や過激な行動への不安、さらにはこのプラントに関わるチャレンジャーへの恐怖などであった。

 

『親父のことは言うなぁ!!!

 それに、俺達がチャレンジャーごときに負けるだとぉ?

 お前らは、俺が失敗していると思っているのか!!』

 

だからこそ、彼はなおさら引くわけにはいかなくなった。

新世代の阿弗利加組当主として、先代からの脱却や自分の力の誇示、さらにはチャレンジャーという表社会のお遊びの戦力ごときに自分たちが負けているなど、そのような勘違いを正さなければならない。

 

『さぁ!行くぞ野郎ども!

 俺たちの、阿弗利加組の真の力を見せてやれぇええ!!!』

 

無論、勝算はあった。

件のチャレンジャーのチームは、先の抗争で武器不足になっているのは知っていたし、今回はあくまで交渉メイン。

いわば地上げの一種なので、全面抗戦になる可能性は低い。

そして、もし仮に本気の殺し合いになったら、こちらには父の代からのプロの殺し屋も多いのでより問題ない。

そのほかにもありとあらゆる打算や策略の果てに、この計画は行われ……。

 

 

 

『よぉ、雑魚ども。

 よく俺たちの前に、のこのこ姿を現せたな。

 それじゃぁ、死のうか』

 

そして、その計画は一瞬で失敗したのであった。

 

 

◆◇◆◇

 

 

「ぐううぅぅぅ!!!」

 

「というわけで、こいつがそんな無謀にも我に喧嘩を売ったダニ……いや、無知なボンボンがコイツだ。

 なんなりと改造してやってくれ」

 

「いやいやいや」

 

そうして、現在に至るというわけだ。

前回、チャレンジャー・ギルド№1ワーグさんが突然こちらに社員の押し付けと追加の装備注文があったわけだが、その結果がこれだ。

目の前には中小程度の改造サイボーグの男児が機械錠で拘束された状態で目の前に転がされていた。

 

「こいつは、阿弗利加組の現組長、いや、組のほうは半壊状態だから、元組長のほうが正しいか?

 ともかく、こいつは半端モンの犯罪者集団の癖に俺のダチを襲おうとしたからな。

 かる~く、わからせることにしたわけだ」

 

聞くところによると、今回ワーグさんに喧嘩を売った阿弗利加組はこの十三地区にちょい古いときから住んでいた、ちょっと厄介目な情報屋の一家だそうだ。

具体的に言えば、不動産屋と情報屋と傭兵を足して4で割ったような集団であり、この地区の情報をほかの地区に売ることで何とか生きてきた、そんなダーティな家業を行ってきた団体だそうな。

 

「もっとも、それでも最低限の社会性というか、戸籍というか。

 まぁ、向こうから手を出してきたとはいえ、殺すのも忍びなくてな。

 かといって、無罪放免にするの違う。

 そんな時にふと、ちょうどいい預け先を思い出してなぁ」

 

「……普通に刑務所や人売りのところに預ければ?」

 

「別に殺すほどでもないし、かといって目を完全に離したくもないといった具合でなぁ」

 

目の前でもごもごとうごめくサイボーグの小僧を見つつ、ワーグがそんな風に声を漏らす。

 

「ならちゃんと、自分で見張れよ」

 

「すまんそれは無理だ。

 絶っっっ対に無理なんだ。」

 

「え~」

 

ワーグは一流のチャレンジャーであり、さらに言えばチャレンジャークランのリーダーでもある。

だからこそ、こんなハングレモドキの小僧の一人や二人くらい、奴隷扱いで使役するのも、なんなら普通に処分することも簡単にできそうだが、どうやらそういうわけにもいかないらしい。

 

「こちらにもいろいろあるのだ。

 でも、そいつを君の方で引き取り、ついでに注文を受けてくれれば前回の貸はすべてチャラになるのだぞ?

 そう考えるとこの提案は悪くないものだと思うが」

 

確かに、こちらとしてもワーグ含めチャレンジャーギルド№1にいつまでも貸しを作っているのは、精神衛生上よろしくはない。

それが簡単に貸しを返せるのならば、うれしいのも間違いない。

しかし、それでも貸を返すためにそれ以上の厄介ごとを追うのは本末転倒というやつである。

 

「……とりあえず、しゃべっていいぞ」

 

「っぷっは!!おまえら、こんなことをして、絶対にぶっ殺してやるからな!」

 

そして、口の部分の拘束を外した瞬間から飛び出す無数の罵声。

威勢だけはいいといっていいのか、それともこんな勢いだけで現実の見えていない半端者が武力と権力を持っていることに嘆くべきか。

 

「そこのくそ鉄トカゲ野郎!

 お前は絶対殺す!何があっても、どうやってもぶっ殺してやる!

 見てろ!!この拘束を外して、必ずお前を、お前の家族も、全員溶鉱炉にぶち込んでやる!!」

 

「そして、そこのお前も、何もんだか知らねぇがそいつと一緒にいる時点で同罪だ!!

 虫牧場の肥料にしてやるから覚悟しやがれ!!」

 

さらにいえば、交渉に優れているこの眼と耳だからわかってしまうが、こいつのこのセリフはかなり本気で言っているという点が非常に厄介なところだ。

一応、怒りや混乱、口からの勢いという部分も感じられはする。

が、それでもコイツの口から放つ無数の暴虐な暴言はかなり本気、すくなくとも口だけの脅迫ではなく、マジものの暴君だということだ。

 

「なぁ、ワーグさん。

 こいつをうちに預けるということは……まぁ、()()()()()()にする可能性が高いが、それでもいいんだな?」

 

「もちろんだ、むしろ、そのためにお主に頼むまであるな」

 

ワーグさんに目配せをして確認するも、返ってきた返事は肯定であった。

 

「おい、おまえ、そこのひょろサイボーグ。

 今のうちに俺様を見逃せば、お前の命だけは助けてやるぞ?

 そうだ、お前はこの俺阿弗利加組を敵に回した時点で本来は一家一族みんな死ぬ運命だが……。

 それでも、今ならその命だけは助かるかもしれんのだ。

 ならば、やることはわかるよな?」

 

そして、目の前にいるこいつは、預かる預からないにしろ、放置するにはあまりにも危険すぎる。

もしこいつを開放すれば、ワーグへ害を及ぼうとするだけではなく、こちらにも害を及ぼそうとするのは確実。

少しだけ、本気で殺そうとも思ったが、それは恐らく捕まえた本人であるワーグが実行していない時点で、行ったらいろいろとまずいのだろう。

 

「おうおう!きさまぁ!!

 何ボッサとしてるんだ!!!さっさと俺の拘束を外し……「だまれ」」

 

ぐぎゃという言葉とともに、目の前にいるその男が再び、拘束状態になる。

うごうごと喚くその姿を見下ろし、そして、宣言する。

 

「つまり、俺は俺自身の平和を守るために、こいつには二度と物理的に俺に逆らうことができないようにしなきゃなんねぇってことだよなぁ?

 俺と俺の周りの平和を守るためにもよぉ?」

 

「いいぜ、ワーグさん。

 今回はあんたの話に乗ってやる。

 ……が、周りとアンタにもきっちりわからせるためにも、徹底的に改造してやるからな。

 覚悟しやがれ」

 

かくして、いい顔のワーグと裏腹に、ようやく現実が分かったのか顔を青ざめるその男をメイドに運ばせつつ、さっそく私は改造を開始するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「はい、私は、旧マナブはマナとして、かわいいメイドサイボーグに生まれ変わりました♪」

 

「組の皆さんは一律メイドに♪お仕事は、お茶くみから介護、買い物からお稽古まで♥なんでもお申し付けください!」

 

「それに伴い、阿弗利加組は、メイドサービスA組へと変わることになりました♪」

 

「みなさん、どんどん私達にお好きなご命令をしてくださいね!」

 

かくして、それから数日後には、メイドカンパニー内に異色の経歴の新しいメイドグループが誕生することになるのは、当然の流れなのでしたとさ。

 

 

 

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