サイバーだけどパンクでなし―211×―ルームランナーズ   作:どくいも

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スッパイしたスパイ

十三地区はサイサカの内部でもそれなりに古臭い建物が多い地区である。

それゆえに長いことこの地区に住んでいると自分がまるで元の世界からそこまで離反していない世界で過ごしているのではないかと、勘違いしそうになることが多々ある。

だからこそ、時折こうして私は十三地区だけではなく、サイサカだけではない。

さらに別の景色を見に行くことがあるのだ。

 

「は~、相変わらずのくそ荒野だな。

 やっぱり、あの話は嘘だったか」

 

「……えっと」

 

「ああ、この話は別に君は関係ないよ。

 ただ少し、サイサカ速報でサイサカ都市外部に緑化団を出したって話を聞いてたからねぇ。

 ……これを見る限り、微塵も成果が出てないみたいだな、と」

 

場所は未来開拓都市サイサカの外。

無数の建物溢れるサイサカとは違い、見渡す限りの岩と荒野、そして無数の廃墟だ。

時々、野良の自動機械やアンドロイド、超能力者として認められなかったミュータントがぽつぽつ見えたりもする。

が、それでも幸か不幸かこちらを攻撃してくる奴がいないのは、互いにとって幸運だったといえるだろう。

 

「まぁ、内心ちょっと残念だけどな。

 せっかく作ったこのヘリの武装を試してみたかったんだけどな」

 

「そうですね。

 私としても、少し残念です。

 その方が、有用性が示せるので」

 

そう、今の私たちはサイサカ外部の上空にいた。

そして現在乗っているのは武装ヘリ。

もっとも、これは工場で量産するものではなく、あくまで個人的な暇つぶしで作ったものであったりする。

一応武装は機関銃にロケット弾もつけた本格派だし、装甲や操縦性もそれなり以上のものにできたつもりである。

が、それでもハンドメイドの暇つぶし作品故、対人対アンドロイドなら問題ないと思うが、それ以上ではどうなるか未知数というのが本音だ。

 

「有用性ねぇ、このヘリにそこまでのものを求められても困るよ。

 このヘリ以上の戦力なら、サイサカ内部だけではなく、この荒野にもいっぱいいるだろうし。

 それこそ、このヘリ程度だと、うちの戦闘メイドでもちょいと厳しいかもしれないからね」

 

「……つまりは、今の私程度の強さだと」

 

コメントしづらい反応するなぁ、おい。

そして現在、このヘリを操縦しているのは先日スパイと判明した元養子候補だったりする。

もっとも、赤い髪の子のほうは精神的にグロッキーなため、青い髪の子に操縦してもらっているが。

 

「まぁ、でも君のほうは少なくとも、こちらの言う事を聞いてくれる娘だというのはわかったよ。

 それに今なら君が操縦桿を握ってるから、やろうと思えば私を殺せるだろう?

 それなのに、こちらを殺そうとしてない程度の理性はあるとわかったから」

 

「それに関しては、どうせ保険をかけているとおもってますので」

 

ばれたか。

 

「あと、先の尋問の際にも答えましたが、私達が送られた目的は、あなたをすぐに殺すことではないですから」

 

まぁだろうな。

 

「でもま、こういうのは何度も聞くのが大事だからね。

 だからまぁ、改めて聞かせてくれ。

 何で君たちが送られてきたかとか、件の新機教の目的とか、ね」

 

「……」

 

「それと、このヘリはわざわざ私が一から作ったものだからね。

 サイサカの外、しかも上空だから、盗聴の心配もない。

 だから、今度こそ正直に話してくれると助かるよ」

 

「お気遣い感謝します。

 それでも、あまりいうことは変わらないですけどね」

 

かくして、その青い髪の娘は、苦笑しながらこちらに改めて彼女たちの状況とその送られた目的について話してくれたのであった。

 

 

 

さて、改めて紹介すると、彼女の名前はAOー101、いわゆるデザインベイビー。

しかも、超能力者のクローンの一種である。

生まれは新機教のデザインベビー工場。

一応は、表の大会社として、新機教のフロント企業が合法的な受精業を行っているが彼女たちはそうではない非合法なデザインベビー。

生まれついて、新機教のとある目的のために生み出された子供であるそうだ。

 

「で、その目的は?」

 

「別にそこまで特別でもありません。

 ただ、大企業や有力な地主の家に養子として送り込まれ、そこの正統な後継者になることです」

 

「なんだ意外と普通だな」

 

「……ただし、その先代党首が死んだ後、その組織や会社を乗っ取り。

 さらには、その会社や組織を、新機教の傘下に置くのです」

 

彼女が言うには、彼女たちを初めとする新機教の養子は、はじめは無垢で可愛く有能な子供として過ごし、成長すれば見た目麗しく賢いまさにその家や組織を継ぐにふさわしい後継者として精力的に活動あるいは成長するそうだ。

しかし、それはあくまで彼女たちの親が死ぬまでの間の話。

もし、彼女たちの親であり、正式な後継者である親が死んだ場合、その養子はとある記憶、そう、新機教からの手先であったという記憶を取り戻すらしい。

 

「なんというか、ずいぶんと気が長く危うい作戦だな、おい」

 

「私もそう思いますよ」

 

「でもまぁ、新機教は基本気が長い組織だからな。

 宗派的には、そういう作戦を実行してそうではあるな」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんですよ」

 

青髪の娘は不思議そうに首をかしげる。

いや、お前はその組織の一員だろと突っ込みたくもなる。

が、ある意味では彼女は使い捨てスパイに過ぎないのだろう。

なら、組織の実態を知らないのも当然ではあるか。

 

「でも、はじめは記憶を消してスパイとして入れられても、先代がなくなった後、養子としての記憶を失うわけではないんだよな?

 なら、もし自分が新機教のスパイであったという記憶を取り戻しても、そう簡単に育ての親を裏切るかとはならんと思うんだが」

 

「それに関しては、電脳にも体にも仕掛けがしてありますので」

 

「……一応、それは記憶処理とともに解除しておいたぞ」

 

「ありがとうございます」

 

ほんとうにいやらしい作戦である。

そう、彼女たちは生まれた時点でその体と脳に新機教からの記憶操作のため暗示と自殺コードともいえる制御機能がつけられていたのだ。

もし彼女たちが、養子となり大成した場合、新規教のスパイとしての自覚が強いままなら、そのまま新機教のために働くことになる。

そして、もし新機教ではなく育て親や組織の事を愛していたとしても、その命と暗示を通して、心が操作されてしまい、結局は新機教のために働くことになるというわけだ。

 

「君たちに関しては少なくとも今はもういろんな意味で新機教の呪縛は解けている。

 だから、もう君たちはこのメイドカンパニーとは関わらずとも、平和に生きていけるはずだ」

 

「……本当に、本気でそう思っていますか?」

 

「……」

 

「明らかに新機教からの元スパイが、養子として失敗して解放されて……平和に生きていけると思いますか?

 おそらく、この地区にまだほかに、新機教のスパイがいるとわかっているのに」

 

青髪の娘はわずかに声を震わせながら、こちらにそうつぶやく。

 

「わかっています!

 私の言ってることは厚かましいって、私達は元敵でスパイで、危険因子です。

 でも、でも本当に何も知らなかった!

 こんなことになるだなんて、もし、今ここで放り出されても、どうすればいいかもわからないんです!」

 

「……チャレンジャーギルドや、他の仕事場も色々あると思うけど?」

 

「その中にもし新機教のスパイがいたら?

 新機教のスパイとそうでない人の見分け方は?

 ……そして、その人たちが、スパイのはずなのに『首輪』を外された私達を見たら?」

 

まぁ、この青髪の娘の言う事ももっともだ。

彼女たち自身がスパイであったから、そして記憶操作をされていた本人だからこそ、なおさら新機教の恐ろしさと得体の知れなさを感じているのだろう。

それこそ奴らの悪事はこの十三地区でも無数にあり、これから先もしこの十三地区で彼女たちが生きていくのなら、おそらくはこの先新機教に関わることはほぼほぼ既定路線であるだろう。

 

「でも、ここなら、ここならば、少なくともご主人様が、新機教かどうかをわかってくれます。

 私達が元新機教のスパイだって言う事も、その首輪が外れているのもわかってくれています。

 ……私はこのように、ヘリの操縦も勉学も、一通りのことができます。

 人を殺せといえば、やります。

 脱げといえば脱ぎますし、やれと言われた事はすべてやります。

 だから、だからどうか、私達を、せめてお姉ちゃんだけでも、守ってくれませんか?」

 

その青髪の娘は真剣な表情でそう訴えかける。

どうやら、スパイでありクローンでもあるが、彼女の姉役である赤髪の娘を大事に思っているのは紛れもない本心のようだ。

 

「……でもまぁ、君ができる程度の事は、うちにいるメイドなら大抵できる。

 だから、君の有用性や必然性という点では、わが社には君たちを所属させる必然性は全然ないんだけどね」

 

「……っ~~~!!」

 

「でも、ま。

 君たちの首輪を外してすぐに捨てるほど、私も薄情ではないからね。

 しばらくは保留、働き次第で……ってかんじだね」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

安心と不安が入り混じった、何とも言えない声色だ。

でもこちらとしても、ここではっきりと公言するには怖いのが本音だからね。

ちかたないね。

 

「じゃ、真面目な話はここまで!

 ここからは、遊覧の時間だからね。

 ここで私を楽しませたら、ワンちゃんあるかもしれないぞ?」

 

「え、え、えええええ!

 つ、つまり、私がこのヘリを操縦しながら、そ、そういうことをしろと!?」

 

「そんなわけあるか、あほが」

 

かくして私は、ヘリを操縦しながら服を脱ごうとするあほの娘を止めつつ、改めて空の旅を満喫するのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

なお、その空の旅の後。

 

「で、もう一人の娘はどう?

 そろそろ話せるようになった?」

 

「それに関しては、ダメそうですね。

 食器ですら渡されないと悟ると、とうとう素手で自分の目玉をつぶしかけましたからね。

 また治療室送りですよ。

 そろそろ、費用や本人の精神性も考えて、無治療で放置してあげたほうがいいのでは?」

 

「ええええぇぇえええええ!!!」

 

さもあらん。

 

 

 

 

 

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