サイバーだけどパンクでなし―211×―ルームランナーズ   作:どくいも

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怪しい契約にはご注意ください

 

「だから、どうしてコイツを受け取ってくれないんだ!!」

 

「ですので、この娘はアンドロイドだからですよ。

 マーカー、電脳ナンバー、全てが彼女がアンドロイドであることを証明しています」

 

さて、現在私がいるのは、サイサカのNNM地区の屯所、通称【有罪ポスト】。そこの迷い人案内所にて、担当者と口論をしていた。屯所やポストとは簡単に言えば、市役所と複合してもらったものを想像してもらうとわかりやすいか。おおよそ、市民として困ったときに行って役に立ったり立たなかったりする場所だと考えてもらうとわかりやすいだろう。もっとも、この復興都市サイサカにおいてはいろんな企業や事業が自分勝手に復興開発したせいで、地区ごとにそのルールや決まり、何なら市民の扱いが全然違うのだが。

なお、このNNM地区は基本屯所としての仕事は、……まぁ、地区内の治安は最低であり、自分はこの地区に絶対に住みたくないといえばどんなものだかわかりやすいか。

 

「でもここは、情報屋としては一流だし、戸籍確認に関してはきっちりしているんだろ!

 だからいい加減あのサイボーグもどきを、元の場所に返せって言ってんだ!」

 

「だから、あの機体はアンドロイドだといってるでしょう?

 見間違えるほど精巧なのはわかりますが、そういう事態はよくあることなのです。

 それにもう、あの機体はあなたがマスター登録されています。

 ゆえに、迷い機体返却をすると、それはあなた自身が受け取るだけです。それにアンドロイドのマスター登録以前のデータの習得は、登録後は基本的にどの地区でも、禁止となっております。

 そのくらい貴方も知っているでしょう」

 

珍しく生身の人間である受付嬢が溜息を吐きながら、こちらにそう告げる。

彼女の言いたいことはわかる、おそらく彼女は自分があの見た目だけは人間っぽいアンドロイド風サイボーグに騙されてアンドロイドのマスター契約をしたと勘違いしているのだろう。しかし、それは違うのだ。

 

「……たしか、野良アンドロイドのマスター認証には、口頭認証であっても、少なくとも四度の双方の合意が必要だよな?

 しかも、事前に契約内容を確認したうえでの、アンドロイドのマーカーを双方認証したうえで」

 

「そうですね。もっとも最近の質の悪い野良アンドロイドは、酒やら電子ドラッグなんかで、相手が殿酔状態のところに無理やり契約を迫るなんて言う悪質な事件が発生しているらしいですが」

 

そうだ。アンドロイドのマスター契約は通常かなり重いものなのだ。それは先のアンドロイド戦争のせいとか、アンダーネットによるウィルス被害のせいだとかいろいろ言われているが、ともかくこの世界のアンドロイドのマスター認証はそれなりには大事でめんどくさい契約であることは間違いない。

 

「ま~、わかりますよ?確かに彼女はすご~く美人ですからねぇ。

 思わず養うこともできないのに、声をかけてしまう気持ちはわかりますよ?

 それでも、いくら胸や尻に惹かれたからといって、ここまできれいに騙されるなんて…本当に愚かな人のなんと多いことか」

 

「……おまえは、何か勘違いをしていないか?」

 

「それ、あちらを見ても同じことが言えますか?」

 

その受付嬢の指の刺す先には、無数のアンドロイド契約総合案内所なる場所があった。そこでは多くの老若男女様々な人間サイボーグアンドロイドがおり、あるものは口から唾を飛ばし、あるものは絶望し、またあるものは大きく笑いながらそこにたむろしていた。聞きに勝る地獄の光景が、そこでは繰り広げられていた。

 

「一応、悪質すぎる野良アンドロイドからの契約は、第三者からの証拠媒体があれば問題ありませんし、その場合はある程度証明書なども発行いたしますが……どうでしょうか?」

 

「残念ながら、あいつに絡まれた場所は万国通の裏路地だったから……」

 

「それは無理ですね。

 ご愁傷様」

 

その受付嬢が、あきれながらそうつぶやく。

どうやら、外野から見ると私は【かわいいアンドロイドに騙されて路地裏に連れ込まれ、口八丁で悪徳契約してしまったしょうもない男】であるようだ。しかし、口頭契約すらしてない押しかけというかと飛びつき契約でそのあつかいは、いろいろとひどくないか?

 

「……で、どうします?あれを処分までしたいのなら、そのための窓口までご案内しますが。

 もちろん、それなりの額と、万が一失敗してもこちらは責任を取らないという、念書を書かせてもらったうえでです。

 それに、彼女が真にアンドロイドでないのなら、案外普通に処分しても、問題ないかもしれませんしね」

 

「それはそれで問題だろ馬鹿野郎」

 

この都市において、基本的にアンドロイドの処分は、それなり以上にめんどくさい手順が必要なのは確かだ。それこそ、無数の自治体や団体が今なおその処分と刑罰に対して、決め切れていない程度には。幸い、このNNM地区の屯所やその担当は、契約アンドロイドの1体や2体の破壊程度でグダグダいうほど立派な自治体ではないが……。

 

「万が一、あれの処分を任せ、失敗した時。

 こちらを襲ってくるであろう、ドロイド軍残党から俺を守ってくれたりはするのか?」

 

「まさかぁ。

 そもそもあなたは、この地区の正式な住人でもないので、そんな義務もありませんよ」

 

別に地区住人が襲われたとしても、助けないだろ。そんな言葉を喉の奥でぐっと抑える。かくして自分は、色々といいたいことこそあるが、一旦は件のアンドロイドもどき兼サイボーグを引き取ることにしたのであった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「と、言うわけで非常に不本意ながら、これからしばらくはお前を預かることになった。あまり長くない付き合いだろうが、まぁよろしく」

 

「は~~い!」

 

「もっとも、あくまで契約(仮)だからな?

 お前の引き取り先が現れたり、契約が切れたらさっさと手放すからな。

 ……それにもし、お前自身が今すぐ契約を取りやめたいと思ったら、すぐにでもやめてくれていいんだぞ?」

 

「あはは、ご主人様はご冗談がうまいですね!」

 

かくして、私はいろいろと観念して、改めて、その顔と体だけはいい高品質アンドロイドにしか見えない、面の良すぎるサイボーグと話し合うことにした。個人的には拾った場所も状況も何もかもが怪しすぎるため、すぐにでも放り出したいところだが、それでも話し合いぐらいはする余地はあるだろう。いや、話し合わなきゃ解決に進まないだけだが。

 

「……というかさ、お前自身もどうやって俺と契約したんだ?口頭同意も、生体同意も、電子同意もしてないだろ」

 

「わかりません!」

 

「おまえは、あの時なぜ俺を追いかけてきた?

 明らかに、お前はあの時俺のことを追ってきていただろ。

 目的はなんだ?」

 

「え、えっと、思わずこう……ビビビッと来て?

 あんまり覚えてませんけど」

 

「そもそもお前は、どう考えてもアンドロイドじゃなくてサイボーグだよな?

 そこのところどうなんだ?この契約にどこまで意味があるか怪しいし、何がしたいんだ?」

 

「わ、わたしは、サイボーグ、チガウ。

 スーパー、ハイテク、アンドロイデス、ピピ―!」

 

「……お前それ、俺だから許しているけどな?

 まともなアンドロイドやアンドロイド人権活動家の前でやったら、袋叩きにされるからな。

 もう少し考えて行動しろ」

 

「ひえっ!え、あの、ごめんなさい」

 

いくらかの会話をするも、残念ながら分かったことは、彼女の存在がなんかもう怪しさしかなく、その上、とんでもなくポンコツだということだ。それに、常識があるのかないのかすらあやしく、今だって殺されるかもわからない状況なのに、この娘の発言の軽いこと軽いこと。一瞬のみの会合であったはずの、こいつを追いかけていたアインドロイド女性陣の気苦労の一端がよくわかった。あ、そういえば、あいつらにとられたクレジットの盗難届だしてないわ。

 

「はいは~い!そういえば、ご主人様って何者ですか?

 というかここはどこですか?さきほど、おいしそうなカフェがありましたけど、あとで入ってみてもいいですか?」

 

「……それすら知らずに、ついてきたお前の頭はどうなってんだ?

 とりあえず、ここはチャレンジャー・ギルド。いわゆる社会のドロップアウトが集まる職業斡旋所みたいな場所だ。

 俺自身も当然チャレンジャー。いわゆる無職のプータロー。

 そして、あの売店はチャレンジャー・ギルドお抱えのカフェだ。

 地区から寄付金が出ている癖に、あんまり安くないということで評判だな」

 

「チャレンジャー、たしか全地区公認の自由職ですよね?

 たしか、肝魂が小さい方の自由職だって、聞き覚えがあります!

 それにしても、お店もかなり立派ですね!!おいしそうなパフェやらケーキも売っていたみたいですし!

 他にもどんなおいしいものが売っているのか、私、気になります!」

 

「店に入るのは自由だが、お前、金持ってるのか?」

 

「あ……そういえば、そうでした」

 

しょんぼりしているこのポンコツサイボーグもどきをみつつ、こちらは準備を整える。それにしたって、こいつはやけに顔や見た目がいいのに、発言が危うく軽すぎる。おそらくは事前の発言などから、どこかやばい裏組織お抱えのアンドロイド娼婦やサイボーグ娼婦もどきであったのだろう。だが、こいつを追っていた集団やコイツ自身のお粗末さ、そして、頭部についているサイボーグ用のアタッチメントパーツなどのちぐはぐさから、まぁ、コイツ自身の黒さをそこまで感じさせるものでもないのは真実だ。……それでもまぁ、全然引き取る理由にもならないし、できるだけ捨てたいのには変わりないがな!こっちだって、生活に余裕があるわけじゃないんだよぉ!

 

「と、ところであのぉ。

 さっきから何をしてらっしゃるんですか?

 というか、そのコードは……」

 

「ん?どこかの誰かさんが、勝手に俺と契約したとか抜かしているからな。

 改めてその契約内容を、確認する必要があるからな。

 そのための準備だ」

 

かくして、チャレンジャー・ギルドの貸タブレットを起動させ、そこから借りてきた汎用電脳接続コードを準備する。幸いこのアンドロイド風サイボーグは、この部分もきちんとアンドロイド基準のようだ。うなじの部分にきちんと電脳接続用のコネクターを確認することができた。これで、ようやく表面上とはいえ、彼女が本当にアンドロイドかどうか、そしてもし本当にアンドロイドなら、コイツと自分の間に交わされた契約がどんなものかがわかるはずだ。

 

「……え?それは、本気、なんですか?」

 

そして、ここにきてまさか、出会ってから初めて彼女から嫌悪的な表情を向けられる。これはもしや、本当に何か悪いことを企んでいたのか、はたまたは、邪悪なたくらみをその胸の内に秘めて……。

 

「そ、そんな、ばちぃです!

 そんな誰が使ったとも知らない、貸コードを私に接続するって正気ですか!?

 しかも、そのコードはどう見ても正規の品ではない、誰かの手製のコードじゃないですかぁ!!!!」

 

訂正、どうやら、わりかし、しょうもない理由だったようだ。

 

「ジオラ製とは言いませんが、せめて、新品の市販のにしてくださいよ!!

 そ、そんな雑菌まみれのコードに接続なんてされたら、病気になっちゃうじゃないですか」

 

「チャレンジャー・ギルドはどこも予算不足だから、カバーがついているだけありがたいだろ。

 それにほら、アルコール消毒はしたぞ。ほれ、しゅっしゅっと」

 

「あああぁぁ!プラグに直接アルコールをかけるとか、うそですよね!!

 というか、私をチェックするのは構いませんが、それをこういう場所の貸タブレットでやるとか正気ですか!?

 詳しくはないですけど、共有タブレットなんて、どういうウィルスに侵されているのかわかりませんし、履歴的にも大変なことになっちゃうのは常識ですよね!?

 私、おかしなこと言ってませんよね!?」

 

「大丈夫大丈夫、このチャレンジャー・ギルドのタブレットやらコードの管理体制はそれなり以上だから。

 むしろ、定期チェックしている分、ご家庭のタブレットよりも安全だって噂もあるくらいだから」

 

「でも、そんなこと言って、タブレットのカバーやコードが一部変色してるじゃないですか!!」

 

彼女の言うことももっともである。

しかし、それでもさすがに、どんな契約をしているかもわからんサイボーグ兼アンドロイドもどきを、自分の私物のタブレットで調べるほうが100倍不用心だろうと。

 

「おら、動くな。

 べつに、ウィルスの1つや2つで死にゃしねぇよ。

 この借り物のコードが壊れたらどうする。

 ギルドや他のご利用者様にご迷惑がかかるだろう」

 

「ウィルスは一つ二つじゃないですよ!

 あおおぉぉ!やめ、やめ、やめろぉ!

 鬼、悪魔、鬼畜……にゃああぁぁああああ!!」

 

万が一を考えて、ギルドで個室を借りていたおかげで、無事挿入に成功。

かくして、このアンドロイドと自分の間で行われた契約及び、彼女がアンドロイドであるという一旦の確証を得ることに成功したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

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