「……で、それを信じてくれって?」
「まぁにわかには信じがたいだろうがな、事実だ。」
俺の置かれていた状況を粗方話し終えた俺は前屈みになっていた姿勢を戻す。色々と端折った説明だが、要点は纏められたつもりだ。
「えっと、つまり君はワープの事故でとても遠い場所から流れ着いてきた、って事で良いのかな。」
「あぁ。俺以外の乗員は全滅、だが機材はいくらか生きてるから持ってきても良い。」
「……確かに、私たちと敵対する意味はないか。」
先生、と呼ばれていた人物は深く考え込んでいる様だ。まぁ無理もない、聞いたところ昨日赴任してきたばかりだという。俺もいくらかここの知識は調べたが、わからん事は多い。
「……その、パイロットに必要なタイタンってのはどうしたんだ?」
「撤退する時に置いてきた、がここにコアはある。適当なスピーカーはないか?」
「えっと……これでいいか。」
と端末を取り出す先生。適当なUSBケーブルを見つけ……たかったが規格が全く合わない。仕方ないので、無線を増幅させて端末へと繋いだ。
『こんにちは、私はDE-1911。バンガード級タイタンのAIです。』
「……本当に意思疎通出来るんだね、人みたいだ。」
『あわわ!いきなり何してるですか!?』
「おや、そちらにも優秀なAIがいらっしゃる様で。」
「あーごめんな、手近なスピーカーが無かったからつい……この子はアロナ。俺の補佐をやってくれてる、優秀な子だよ。」
『よろしくお願いします、DEさん。同類として仲良くしましょうね。』
『了解。よろしくお願いします。プロトコル2を変更…』
「まだ結論は出てねぇぞDE。」
「そうだな。だがさしたる危険は無さそう……かな。データ交換は終わった?」
『終わりました。けど……とんでもない、と言うかすごいデータです。正直、何を言ってるかサッパリです。』
「そこまで言うか?」
『技術力的に不可能なものばかりで……これを今すぐ、とはいきません。』
「そこまでか……」
『我々の見解では、技術力に500年は差があります。無理もない事です。』
「だが、その技術を知ってるのがここに居る。どうだ、俺をシャーレに雇わないか?」
「君をか?確かに雇いたいが……連邦生徒会の返事を待つか。」
『先生、その必要はありません!私たちは超法規的組織、何をするも自由です!』
「んー、なら俺としては君を雇いたいな。だが給料……」
「まぁ身元保証してくれるだけ有難いから、あまり頭悩ませずとも良いさ。」
後は他愛もない話が続くのみ、こうして尋問は穏便、かつ最良の結果にて終了した。
『尋問の結果を確認しました。首席行政官及び生徒会長代理の判断として、スレイヴさんのキヴォトス滞在の許可、及び身元保証を致します。』
「礼を言う。」
『いえ、シャーレの戦力増強として考えれば非常に大きな収穫です。私からも礼を言わせてください。それと、シャーレの銃庫にあなたの銃が保管されています。』
「了解した。済まないな、初日にいきなり面倒事を起こしちまってな。」
「いや、良いよ。男一人で心細かったところだし、軍人の精鋭がついてくれればとても心強い。」
「戦う事が俺の仕事だからな、気にするな。」
『では、私は別の仕事がありますので失礼します。シャーレのご活躍をお祈りしております。』
リンとの通信が切れ、シャーレ部室に静寂が満ちる。その静寂が破られたのは、コッペパンの袋が開かれる音だ。腹でも減ったのだろうか?
「で、俺の銃だな。丁寧に扱ってくれてるとは思うが、整備しないとな。」
「そこまでデリケートな銃なのか?」
「一個はな。まぁ一日だけだったし要らないとは思うが、一応な。」
Lスター、ウィングマン・エリート、チャージライフル、スマートピストルの四つを銃庫から取り出す。
「つか部室に銃庫なんてあるのか……キヴォトスの治安どうなってんだ。」
「今更ってやつだろ。しかしフロンティアほどデカく荒れてるわけじゃないが、事件件数は段違いだな。」
支給されているパソコンでキヴォトスについて色々と調べてみる。やはりというべきか、俺の事について数々の噂話が絶えない。クローキングで行っても良かったが、いきなり現れて瞬時に撃たれるという困った事態にならない為にも仕方のない事ではある。
Lスターのヒューズはオーバーヒートさせなければ大丈夫、チャージライフルは使ってない為問題なし。そしてウィングマン・エリートの弾だが、こちらにも同じ口径の弾があったのでそれで代用できる。だが……
「問題はスマートピストルだな。まぁ使う事はないだろうが、後願の憂いは断っておきたいな……」
「へぇ……凄いな。銃身が展開してリロードする銃なんて見た事ない。」
「実際の所なんで展開するか俺も分からねぇからな。これはこれで格好いいがね。」
「で、そっちのデカいのは……」
「粒子ビームを撃ちだす対装甲兵器だ。あの戦車程度ならチャージハック最低ラインでも貫通出来るかもな。」
「凄い……な。ここまで技術の差がある事が素人目でも分かるって……ヤバいな。」
「あぁ、剣で戦争仕掛けてる地域に弾道ミサイルぶち込む程度には技術に差があるだろうよ。」
実際、そのくらいには差がある。タイタンには従来の歩兵兵器は効かない。それどころかアーチャーロケットと言う旧世代のRPG-7の数倍は破壊効率の良い兵器でも何発も撃ち込まなければならない程、戦力差は大きい。戦闘機の500kg爆弾ならまぁどうにかなるが、その前に探知されて迎撃されるがオチになる。
「まぁ、歩兵相手なら旧世代の銃でも事足りるがな。それもそろそろ覆りそうだが……」
「あー、進化シールドってのか?」
「何で分かる。」
「今アロナに纏めてもらったものを見てたんだが……これ、支給品にしたいな。」
「まだ俺の試作品だけだ、しかも使うにはニューラルリンクが必要。つまり現状俺以外使えない。手っ取り早く改良したいが……設備がなぁ。」
「色々と挨拶が必要そうだな……特に技術系のとは仲良くしたいな。」
「製造してもらう機会、凄く多そうだもんな。タイタンってのも実物で見てみたいしな!」
「そうと決まれば早速連絡だ!」
「……で、こんな出費になったんですか。経費で落とせる分は落とせますが、衝動的に物を買いすぎです。お小遣い貰ってパーっと使う子供じゃないんですから、計画的な出費をしてください!」
「いやぁ、色々やりすぎた。」
先日の戦闘で使用した弾薬の請求書制作の手伝いに来たユウカが、暇つぶしに始めたシャーレの家計簿付けで顔を青褪めさせた。先日、ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部と接触してタイタンを作れないかと相談したところ、目を輝かせて是非やらせてくれと契約したのである。尚経費はヤバい事になる。
「というかこのタイタンって何ですか!?なんで戦車8台分のお金使ってまでオーダーメイドするんですか!?」
「……俺が使うからな。」
「生身であんな真似出来るんだから無くても良いでしょうに……と、とにかく!今度5000円以上の買い物をする時は相談してください!ご飯がコッペパンだけとか、エンゲル係数どんだけ低いんですか!?」
と言うかタイタンを戦車8台分で作れる計算なのが色々とおかしいのである。この街の軍事技術どうなってやがる。
「まぁこれでも相当安くなったんだが……俺の居たとこのバッテリー技術流したら半額にしてくれたしな。」
「はぇ?」
「ここのリチウムイオン電池十倍以上の容量な上に自己発電機能付きだぜ、コストは中々だがな。」
「……それ特許取ればお金一気に入りますよ?」
「あっ。」
すっかり忘れてた、と言うか普通に作れんと思って情報を渡したんだが結構すんなり構造を理解しやがって唖然とした。意外と侮れんな、技術屋は。
「……まぁエンジニア部と相談してみるか。特許でこのバッテリーの利益の3割分けて貰うとかさ。」
「もっと請求しないんですか?シャーレの先生がここまで薄給だとは……」
「材料だってアレ馬鹿にならん費用掛かるからな?」
「……自分から帳簿付けるって言っといてアレだけど、もうゴールしていいよね?頭痛くなってきた……」
「で、だ。もうシャーレにかなりの仕事が舞い込んできている訳だが……軍事支援は俺が行くか。そうだな、先生は……うん、宣伝とか諸々頼む。」
「ま、俺は前線に出る事はないだろうからそうするよ。じゃ、まずアオバ中心区35番街を頼むよ。」
「了解。逐次制圧区域を指定して、DEに送信してくれ。マッピングシステム機能更新は?」
『完了しました。ナビゲーションシステムを開始、直ちに移動してください。』
「よし、じゃ行ってくるぜ。」
「上!噂の変な男!」
「撃つんだよ!撃てばどれか当たる!」
ウォールランを交えながら目的地に到達。HMDを見れば50km/hも出ていたか、かなり長い距離走っていた様だ。暴徒の軍団に向けてLスターを乱射、及び支給品のグレネードを投下して掃討を開始する。
『パイロット、クロークの使用を推奨。』
「打てる手は出来る限り取っておくものさ。クロークはこんな素人に使うのはもったいない。」
『了解、グレネードの残数は2です。敵残存勢力は3体。』
「オッケー、そろそろ終わりだ。」
ウィングマン・エリートをホルスターから出して的確に暴徒の身体へと叩き込んでいく。やっぱりこの街の女の子はおかしい、歩兵でも一発でダウンするはずの威力なのに痛いで済んでるのは納得いかない。まぁLスターへの耐性はないみたいだが。
『戦闘効率評価が上がりました。流石ですパイロット。』
「いや、色々と課題も見えた。フラグの投擲がまだ甘い、もっと引き付けてから空中で炸裂させておけば最後の3人も巻き込めていた。」
『向上心は良いですが、自分を労わらないと精神が摩耗してしまいます。』
「……ま、そうだな。とにかく次の仕事だな。次はD.U.ウェストパークか。直ぐに取り掛かろうか。」